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国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

意見交換

ディスカッション
「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

司会の山内氏の写真

山内 繁/Shigeru Yamauch
早稲田大学人間科学部特任教授

山内:山内でございます。パネルディスカッションを始めたいと思います。最初に、今日4人のお話をお伺いしたわけですが、講師の先生がたの中で、質問あるいは言い足りなかったことがありましたら、追加発言をお願いしたいのですが、どなたかいらっしゃいますか。パービスさん、どうぞ。

パネリストのバービス氏の写真

フィリーダ・パービス
リンクス・ジャパン会長

パービス:ここで申し上げていいのかどうか分かりませんが、我々は、お互い話す機会がございました。ドイツ、イタリアの例を比較しますと、イギリスには、いろいろなソーシャル・エンタープライズがあるります。しかし、ドイツの例、モデルを見て、ソーシャル・ファームを作った方がいいという話になりました。そこで、イギリス政府はさまざまな支援のための、ソーシャル・ファームのためのメカニズム、仕組みを作りました。人々が、そういうことをやりたいという前から制度を作ってしまい順番が逆でした。

イギリスの場合、もっと広いソーシャル・エンタープライズを確立し、一部障害者、一部フリーな立場にある人たちを雇った方がよかったのではないかと思います。障害者だけに特化すべきではなかったと思います。それぞれの国によってやるべきことは違うと思います。以上です。

山内:他にどなたかいらっしゃいますか。それでは、寺島先生の方から一言二言追加発言をお願いしたいのですが。

パネリストの寺島氏の写真

寺島 彰/Akira Terashima
浦和大学総合福祉学部教授

寺島:寺島です。講演しない、お話もしないではまずいですので、何か話をさせていただきます。

近年欧州を中心にソーシャル・ファームが普及しつつあります。本日の講演から分かりましたように、それぞれの国で特徴がございます。たとえば英国では、補助金というような形で、企業に対して、ソーシャル・エンタープライズに対して支援をするようなシステムはあります。お金を直接あげるというシステムは、ドイツ、フィンランド等、政府の補助金が充実している国と比べますと少し異なっている。そんな違いがあります。

先ほど炭谷先生からお話しがありましたように、ソーシャル・ファームは、その名前が物語りますように2つの性格を持っております。一つは「ソーシャルなこと」であります。ソーシャルな存在であるということは、社会福祉を目的としております。ですから、障害者など、就職に不利な人々を雇用するということなどを目的にしております。

二つ目が「ファーム」すなわち、企業であります。ソーシャル・ファームは利潤を上げることができなければならないということであります。ただし、その利潤は株主、企業のオーナーといった所には分配されず、多くは再投資されるという、そういう特徴がございます。イタリアなどでは「ソーシャル・コーポラティブ(協同組合)」というような形をとっておりますが、目的と手法は同じになります。違いは、協同組合なので組合員が出資金を出すというような形が違っております。

パンフレットのゲロルド先生の紹介の中にもありますように、ヨーロッパでは、CEFECという組織があり、ソーシャル・ファームの協議会のようなもので、毎年セミナーが開催されています。我が国で障害者の働く場として類似の施設としましては、障害者自立支援法により枠組みが異なってしまいましたが、かつての福祉工場というものが、そうであったのではないかと思います。それから、特例子会社。これは、福祉施設ではありませんが、やはりソーシャル・ワークに近いものであると思われます。福祉工場は、もともと授産施設という福祉施設であって、それが企業的な性格を持つようになったと思われます。特例子会社は、一般企業が社会貢献の目的で福祉的な性格を持たせた企業だと思われます。

福祉工場は、基本的に従業員が全員障害者で、それに施設長や従業員などがおられるという形態で、一方、特例子会社は、法的には従業員の20%以上が障害者で、そのうちの30%以上が重度障害者であると決められております。また、それ以外に生協でも障害者を多く雇用していただいている生協もたくさんあります。

我が国でソーシャル・ファームが、2000か所必要だと、炭谷先生が言われましたけれども、もしそのソーシャル・ファームを作っていくとすれば、いくつかの方法が考えられるのではないか。たとえば特例子会社を拡大していただくとか、福祉工場などの福祉施設の事業を拡大していただくとか、生協の事業を拡大していただくとか、あるいはこれらの組織が連携しながら、ボランティアなどを活用して新たな形態として組織化することなど、いろいろ考えられると思います。

先日、ヤマト福祉財団、ここにも来ていただいています伊野先生の財団を訪問させていただきまして、最近メール便の配達に精神障害のあるかたを雇用されていて、NPO法人に委託されており、協力をしているということをお伺いしました。

同じく一昨日の話ですが、沖電気の子会社であります沖ワークウェルを訪問させていただいたときには、東京コロニーとの協力で重度の肢体不自由者のかたのテレワークを実現されているのだと。そういった試みも行われております。

このような連携により、わが国独自のソーシャル・ファームができる可能性があるのではないかと思いました。本日は会場に各分野でご活躍の皆様が多数ご参加いただいております。このようなことについて具体的なお話を皆様にお聞かせいただければと思いました。以上です。どうもありがとうございます。

山内:ありがとうございました。わが国の状況に照らして非常に分かりやすく解説いただきまして、ありがとうございました。それでは、フロアの中から発言を求めたいと思います。もし、簡単な質問があれば最初に済ませてしまいたいのですが、簡単な質問とか、先にやってほしいというかた、いらっしゃいましたらお願いいたします。おられますか。では、後ろのかたからどうぞ。

ヨシカワ:筑波大学のヨシカワといいます。私自身も視覚障害と肢体不自由があります。3人の講師の先生にお伺いしたいのですが、それぞれの国で視覚障害者の人たちをどれぐらい、今日お話しいただいたソーシャル・ファームで雇用しておられるのか、そして、視覚障害者を集めたソーシャル・ファームということについて何かお考えがあったらお教えいただければと思います。以上です。

フロアからの質問者の写真

山内:非常にスペシフィックな質問が出たのですが、どなたからお願いしましょうか。

パネリストのシュワルツ氏の写真

ゲーロルド・シュワルツ/Gerold Schwarz
国連コソヴォ・ミッションEU能力開発プロジェクト・マネージャー 前ソーシャル・エンタープライズ・パートナーシップ所長

シュワルツ:ドイツにおいて視覚障害者を集めたソーシャル・ホームは、あまり多くはないと思います。ですので、視覚障害者のためのトレーニングセンター(ソーシャル・ファーム)をシュトゥットガルトに立ち上げました。ドイツでは、視覚障害者の人たちは、普通の労働市場で、比較的簡単に就職ができるようになっていると思います。ドイツには、多くの視覚障害者がいます。私の母も全盲でしたが、銀行に勤めていました。その職場には、いろいろな補助機器が導入されていました。たとえば、特殊なタイプライターとかです。ドイツでは、民間企業が視覚障害者を雇っています。非常に寛容な手当てを政府が提供し、何か追加の技術が必要な場合には、企業が買えるようになっているわけです。だからこそ、ソーシャル・ファームもあまりないのではないかと思います。おそらく現在、ニーズがそれほど高くないのだと思います。失業中の視覚障害者が多いということであれば、多分ソーシャル・ファームが作られ、役に立つと思います。

パネリストのマランザーナ氏の写真

ジョヴァンナ・マランザーナ
(ヴィッラ・ペルラ・セルヴィス副会長)

マランザーナ:イタリアでは、視覚障害者協会というのがあります。もう随分前から活動しています。社会的インクルージョンの活動をしているわけです。多くの人たちは、普通に民間企業に勤めています。1968年に法律ができ、すべての民間企業と、15人以上の会社は、少なくとも一人の障害者を雇わなければいけないということになりました。視覚障害者は非常に強い協会を持っていましたので、雇われやすかったのでははないかと思います。また、視覚障害者の人たちは、ソーシャル・ファームにも、社会的協同組合にも参加しています。数字がどうなっているのかはよく分かりませんけれども、私が住んでいるジェノヴァでは、大きな機関がこういう障害者を雇っていますし、子どもたちのためのサービスを行っています。社会的協同組合の中では、視覚障害者だけで構成されているような所もあります。彼らは、インターネット、ウェブサイトを使って仕事をしています。数年前に立ち上がったのですけれども、インターネット関連の活動に特化しており、いろいろな情報サービスを提供しています。たとえば、政府・省庁、その他の企業に対しての情報サービスを行っています。他にも社会的協同組合があります。ソフトウェアの会社で、視覚障害者のためのソフトウェアサービスを行っている所があります。私が、知っているのはこれぐらいですけれども、イタリアでは、たくさんの社会的協同組合が活動をし、こういう問題にも対処していると思います。

バービス:補完しますけれども、イギリスの場合は、ドイツと同じだと思います。視覚障害者はこういったアクセス性を高めるための福祉機器などについて企業と一緒にやっている所が多いと思います。特別にこういったニーズがあるということではないと思います。お名刺を後でいただければ、イギリスに戻ってさらに詳細情報を提供したいと思います。

山内:今の話でよろしいですか。では次、何かありませんか。では、そちらのかたどうぞ。

鈴木:日本労働者協同組合連合会の鈴木と申します。2点お伺いいたします。
共同労働のための協同組合をやっているのですが、やはり障害者の問題で社会的協同組合を作っていることが必要なのではないかと、仕事の拡大と、これから制度を作っていくということを考えているのですアドバイスを頂ければと思います。それからもう一つは、事業として、先ほど炭谷さんから環境関係の仕事が非常にいいのではないかという話があったのですが、今、家電リサイクルの問題が環境省、経済産業省で検討されているのですが、それらは、メーカーが全部処理をするというような形になっています。そうではなく、やはり社会的な貢献を企業がするためにも、そういうものを障害者にやってもらうということが、大事なのではないかと思っています。ドイツでそういうことが具体的にやられていたり、あるいは、ここの教材の中にもフィンランドでやられているというのがあるので、その具体的な内容がもし分かれば教えていただきたいというのが一つ。それから、炭谷さんに伺えればと思います。もちろん、社会的協同組合を作っていく上で、まだ、なかなかそういうものが現実になっていない中では難しいと思うのですが、法制化を進めていく上で、何かサジェッションをいただけるようなことがあれば、お聞かせいただきたいと思います。

山内:ありがとうございました。ではまず、ドイツで機器・家電製品のリサイクルなどの場に、障害者のかたが参加されているという事例がありましたら、教えていただきたいのですが。

シュワルツ:リサイクルでありますけれども、これは、ソーシャル・ファンドの市場としては大変興味深いと思います。ソーシャル・ファームはこういったリサイクルを手がけた最初の団体であったと思います。80年代の初頭から手がけておりまして、他よりも先にやっております。当時何があったかと言いますと、今現在ドイツにおいては、リサイクルは非常に法規制が整備され組織化されておりますし、いろいろな法律があり、それによって企業はリサイクルを義務づけられております。自分たちの製品は、最後に必ずリサイクルするようにという義務が課せられております。リサイクル産業は、非常に大きな産業であり、専門化が進んでおりますので、今日、大手企業だけしかこういった仕事をしておりません。ソーシャル・ファームは逆に消えてしまいました。というのは、リサイクルの市場が発展する中、かなりの投資をしないことにはこれだけの作業ができないような状況になってしまいました。企業として利益を生み出すのに必要なお金を得るためには、それだけの投資をしなければいけないということで、こういったソーシャル・ファームは競争できなくなってしまいました。

それから、炭谷さんもおっしゃっていたことだと思いますけれども、たとえば、公園の清掃、整備、道路の清掃、公共の場の清掃といったようなこと。オーストリアは、もっと大きなソーシャル・ファームがそういった契約を取っているようです。小さな都市こういった作業をでは、ソーシャル・ファームが、手がけていますけれども、ドイツにおいては、あまりこういった作業は手がけておりません。というのは、こういった仕事は主に、非常に基本的な仕事を長期失業者に訓練、提供するような組織、政府が資金を出し、長期的に失業している人たちのために作業を提供するというような仕組みになっていますので、そこにソーシャル・ファームが参入するということは難しいと言えるでしょう。政府が100%資金を出しているような所にソーシャル・ファームは参入できません。ソーシャル・ファームは、早い段階でリサイクルが大変興味深い市場であると注目をしました。コンピュータ、いろいろな電子製品のリサイクルを手がけましたが、非常に魅力的な市場となり、急速に市場が発展してしまったため、大手に取って代わられてしまい、ソーシャル・ファームが競争することは、できなくなってしまいました。これは、決して成功例ではありませんけれども、教訓を残す経験ではないかと思います。

イギリスの場合、ここでもソーシャル・ファームという位置づけに関してはいろいろな見方があり、なかなかエンタープライズとファームの違いがはっきりしません、ソーシャル・エンタープライズの中で、こういった不利な立場に立たされている人たちを雇おうという動きが非常に強いと思います。これは障害者に限定されません。その中には、リサイクルを手がけている所もありますし、成功をおさめている所もかなりあります。私が、よく知っているソーシャル・エンタープライズの中には、家具のリサイクルを手がけている所があります。大きなOAの家具といったリサイクルを手がけております。また、古い家具となりますと、企業はあまり魅力を感じません。あまりにもコストがかかるということで、リサイクルをしようとしません。また、電子製品においても、リサイクルとなると、魅力を感じない企業が多いでしょう。ですから、ソーシャル・エンタープライズは、リサイクルをすると同時に、若い人たちの訓練の場になるでしょう。コンピュータを修理するとか、洗濯機を修理するといった、機器を手がけることによって訓練になるでしょう。家具のリサイクルについても同じで、彼らは、いろいろなものを積み上げ、輸送し、作業をしなくてはなりません。そういった中で、たとえば倉庫での保管、物を移動させるためのスキル・技能を身につけることができるでしょう。小型トラックなどを使うスキルを身につけることも、あわせてリサイクルと同時にできるでしょう。また、時には自治体と契約を結んでスキルの訓練をしつつリサイクルをするというケースもあります。ですから、いろいろな活動をまとめて総合的にやろうとしております。こういった訓練を行うための教室もありますので、そこで他の技能の訓練もしております。今イギリスでは、クラブの守衛になるための資格制度が設けられました。若い人たちを相手に、こういった資格を取得するための訓練などを提供しております。また、こういった資格制度を提供している当局とも協力しております。このような形でいろいろな活動があります。リサイクルは、そのうちの一つであります。ただし、ソーシャル・ファームに限定されていることではありませんけれども…。

山内:次に、炭谷さんにお話しいただきますが、実は、このパネルディスカッションをどうしようということを少し相談したときに、去年、質問の答えだけで終わってしまったのは、ある意味で言うと非常に惜しかった。むしろ、この場を、日本でこれからどうすべきかという討論の場にしたいと考えました。ちょうどいい問題提起をしていただいたので、今から、これからの日本でどうすべきかということを主な課題として、議論の場に移していきたいと思います。寺島先生のお話も、そういうことを想定しながら日本の状況をお話いただきました。外国の3人の先生方も含めて、これからの日本は、どうしていくべきかということを議論したいと思います。そういう意味でちょうどいい質問を炭谷さんにされましたので、炭谷さん、お願いします。

パネリストの炭谷氏の写真

炭谷 茂/Shigeru Sumitani
日英高齢者・障害者ケア開発協力機構副委員長
(財)休暇村協会理事長前環境事務次官

炭谷:はい。ありがとうございます。大変示唆に富んだご質問だったと思います。質問の一つは、どういう仕事をしたらいいだろうか。これは非常に大きなポイントだろうと思います。環境産業は、大変有望な分野だと思うのです。一方、だれが考えてもソーシャル・ファームは、大変厳しい道だろうと想像できます。その場合何らかの、いろいろな行政的、または、社会的な支援が必要だと思います。そのためには、今日お話しがあったイタリア、ドイツ、フィンランドでは法律ができているということで支援しているわけです。

ただ、私自身、日本において法律というのはすぐにできるのかなということを考えてみると、それはある程度の、日本におけるソーシャル・ファームの実態というものができないと、法制化の動きというのは、日本の政治風土の中では期待できないだろうと思います。それでは、どういうふうにして、こういう実体的なもの、私が言っている2000社のようなものを作るのかということですけれども、実は、ここ半年ばかり、いろいろな所でお話し、意見交換をさせていただきました。その中で私自身、一つ非常に参考になったのは、今日も会場に来ていただいていますけれども、名古屋の「わっぱの会」という会があるのです。これは、名古屋でやっていらっしゃる試みですけれども、もう既に10年以上の実績があり、実際聞いてみると、「あ、私の考えているソーシャル・ファームと同じことをやっていらっしゃるな」と思いました。障害者のかたがたが集まって物を売ろうということで、市民が総ぐるみでいろいろとやっている。それに名古屋市もある程度支援をしているという試みなのです。ですから、今日、もし、差し支えなければ「わっぱの会」からもちょっとご発言いただければ参考になるのではないかと思います。

山内:分かりました。では、「わっぱの会」の斎藤様からご発言、お願いできますか? 今の炭谷さんの発言を受けて。どうぞ。

斎藤:ご指名をいただきまして、ありがとうございます。名古屋から来ました斎藤と申します。
炭谷さんには、昨年お会いして名古屋で講演をしていただきました。私たち不勉強で、以前は、存じ上げなくて、ああ、こんなことを言っておられるのだ、こういうセミナーがあるのだということを知って、本当に大変うれしくなりまして、今日も初めてですが参加をさせていただきました。炭谷さんとまだあまり深く話し合いをしたことがないので、今紹介で「名古屋で10年」と言われてしまったのですけれども、実は名古屋で1970年代の初めから35年やっておりまして、取り組んでいます。作業所というのが始まったのは、70年代ですけれども、私どもは、作業所というのはおかしいのではないかと、障害者を集めて訓練するような場というのは違うのではないか、どんな障害を持った人でも、その人のあるがままで社会の中で働いて生きられる、そんな場所でなければならないのではないかということで、作業所や授産所はやめようと思ってずっと取り組んできました。1985年「共働連」というグループを作り、共働事業所作りというのを掲げてずっとやってきました。「共働」というのは「共に働く」、事業所は、作業所ではなくて経済的に成り立つ場所なのだと。それでやってきたのですが、やはり非常に広がりが持てない、力もない、資金もないということで、今の所100ぐらいの、そういう事業所が集まっているという状況です。優れた実践をやっている所は1億円、2億円の売り上げも上げていますし、全員に最低賃金を保障もしていますし、それなりの実践はしてきたと思っています。

でも、炭谷さんのおっしゃるように2000社というのは、私たちにしてみれば、遠い遠い夢のような話だったのですが、ここに来てみると、これは夢ではないのではないか、ひょっとしたら明日にもそれはもう見えてくるのではないか、今日はすごく勇気づけられました。実は、私どもも2000年ごろに、イタリアに社会的協同組合というものがあるということを知りまして、イタリアに行ってまいりました。そして、イタリアからもそこの関係者をお呼びして交流をしております。それまでソーシャル・ファームとか、ソーシャル・エコノミーとか、そういったことは私ども、知らなかったのですけれども、自分たちがやってきたことはまさにそれだと実感をしました。そして、イタリアで10~20か所ぐらいの社会的協同組合を見学しました。やっている仕事はまったく同じだと思います。ある意味私どもの方が、しっかり障害者参加しているのではないかと、少々図々しいですが、そんなことも思いました。しかし、何が決定的に違うかというと、私たちは、本当に小規模な活動であるのに対して、イタリアでは、国および自治体、さらにはEUといった、大きな支援の中でどんどん成長発展している。そこが全然違うと実感しまして、何とか日本でもそういうふうにならないかと、ずっと思ってきました。しかし、なかなか伸びない。そんな中、障害者自立支援法という法律ができてくることがあり、厚労省のかたに、ぜひとも、今までの事業所とか、また一般雇用とは違う第3の道を考えてほしいということを、この間要望しました。しかし、2年間の結果は、結局、福祉的なものしか自立支援法の中には組み込まれず、大して変わりばえのない政策になってしまったのかなと思っています。

そんなことで、がっかりしていたんですけれども、この集まりに参加させていただいたら、いや、そうじゃないと、いや、本当の希望はここから始まるんだ。そんな思いでいます。ぜひ2000社の中に我々を加えていただいて、一緒に広がっていきたい、そんな思いでおります。本日は、本当にどうもありがとうございます。

山内:どうもありがとうございました。がっかりしないでやるにはどうするか、ぜひご意見を出していただきたいと思っています。どなたか、がっかりしないためにはこうしようよ、というご提案、ありませんか。では炭谷さん、どうぞ。

炭谷:35年もやっていらっしゃるとは知らなくてすみませんでした。大変実績の深い所があるということに、大変感銘を受けました。実は私自身、この秋からいろいろと回りました。割合、福祉のサイドから、こういうソーシャル・ファームなり、福祉の就労というものを考えてきた人が多いのです。その中にあって、実は企業のサイドから、いわば大企業を経営されていた人が、今度は福祉の仕事を見ると、これでいいのかなと感じておられるようです。クロネコヤマトのオーナーさんが、そのお一人だろうと思うのですけれども、それと同じように企業経営から見て、福祉の現在の就労というものについて取り組んでいらっしゃるかたがいらっしゃいます。「緑の風」の武田さんです。今日来ていただいておりますので、できれば武田さんにちょっとお話しいただければありがたいと思います。武田さんは、ある製薬メーカーの経営に長く携わっていらっしゃいまして、今現在福祉の関係の仕事をされているかたです。もしよろしければお願いいたしたいのですが。

山内:では「緑の風」の武田さん、お願いします。

武田:ただいま炭谷さんからご紹介をいただきました、「緑の風」の武田でございます。炭谷さんとは、1年前にお会いさせていただいて、我々の施設を見学していただきました。今日は、ぜひ炭谷先生のお話を聞きながら、欧州のソーシャル・ファームの活動の実態、そして支援状況を聞かせていただこうと思って参加させていただきました。大変感動し、感銘いたしました。30年前なのですが、私もハンブルクに駐在した経験があります。そこで、北欧や欧州の福祉活動、障害者中心の活動を目の当たりに見て感動したことがございます。それが、最終的には、障害者に働く場所を提供しようというところに到達し、そして、ソーシャル・ファームというものが設立されてきている、大変素晴らしいことだと思っております。

私自身も、先ほど炭谷さんからお話ししていただきましたように、八ヶ岳南麓で農業と福祉をテーマにして花を作り、小麦を製粉してパン作りをしております。障害者の働く場を提供しようとして立ち上げた社会福祉法人、知的障害者の施設でございます。小さな所帯でございますけれども、そこに心豊かに働ける職場環境、生活環境、そういうものを作っていこうとして設立した社会福祉法人でございます。その横に農業生産法人を作りました。これは将来、障害者の働く場の受け皿として農業生産法人を作っておこうということで作った、花作りの農場でございます。今、ガーデニング用の花苗と、ランを作っております。そこに将来は、障害者を数名受け入れて働く場を提供しようというように思っております。奇しくも去年の4月に障害者自立支援法ができました。私は、ある意味では大変画期的な、日本で初めての、障害者を社会に出そうじゃないか、障害者に就労の場を与えようではないかという理念の元で作られた法律ではないかと思っておりまして、それをやってあげなければ、これからの障害者は社会には出られないのではないかと思っております。日本の障害者は5%だなどと言われておりますけれども、統計上でありまして、本当ならば10%以上いるというようにも言われております。そして、フリーター、ニート、そういう人たちにどのようにして職場を与えるか、これが我々の課題ではないかと思っております。私は、このソーシャル・ファーム、これを日本で根付き定着させていかなければならないと思っております。しかし、残念ながら日本ではまだ法の整備ができておりません。これをどのようにしていくかというのが、これからの日本の課題ではないかと思っております。先ほど炭谷さんが経済的自立と、もう一つは心身の健康、これを一つの課題として取り上げられました。私は、このへんがどういうふうに欧州でなされているか、そのへんももう少し詳しく聞いてみたいと思っております。

それともう一つ、社会基金。社会基金をどう活用しておられるのか。そのへんも含めて具体的な方法を教えていただければと思っております。本日は、どうもありがとうございました。

山内:今のご質問、お分かりですか。

シュワルツ:最初のご質問ですけれども、社会的に責任のある投資というものを、ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズという分野でいかに活用しているのかというご質問であったと思います。ドイツの場合には、まだ社会基金というものに投資できない状況です。こういったお金に投資をするという点では、実は大きな問題があります。これは、社会的に責任のある活動をしている企業に投資をするファンドであるわけです。しかし、投資をするからにはリターンを求めるわけです。ドイツでは、長期的に見ると1年間に6~7%ぐらいの投資リターンを要求するというのが通常です。ドイツのソーシャル・ファームは、99%が利益を求めて活動しているわけではありません。これは、ドイツのユニークなシステムであるかもしれませんけれども、ドイツのソーシャル・ファームというのは有限会社形態を取っています。通常の企業は、そういう形態を取ることが少なくありません。ソーシャル・ファームは非営利ということで、非営利企業としての取扱いを受けるべく、当局に登録をしなければなりません。つまり、お金儲けが目的ではなく、障害を持っている人などに雇用を提供するということが、目的になるわけです。承認を受けなければならないわけで、承認を受けることによって、たとえば利益に課税されないというような便益を受けることができます。収益を再投資したとしても、そういう取扱いを受けられるわけです。また、消費税も低い税率が適用されます。こういった企業の収益は、投資家、株主に配分することはできません。非常に社会的な目的を持った企業であると見られているわけであります。したがって、なかなか投資を募るということは難しいという問題があります。しかし、私どもでは独自のファンドを作っております。ドイツ・ソーシャル・ファーム・アソシエーションという協会がありますけれども、昨年小さい規模ではありますけれども、第一歩として資金を調達しています。ソーシャル・ファームに対する投資を行う、たとえば新規のソーシャル・ファームを立ち上げるというような目的でこのお金は使われるようになっておりますし、また「消防団ファンド」とも呼ばれているのですけれども、緊急事態が発生したときに使われるお金になるということです。たとえば、ソーシャル・ファームの顧客が、倒産したためにお金を払ってもらえないなどということが発生してしまった場合に、お金がすぐ入ってこなくなるという状況が発生するわけですから、そういうときに、このファンドのお金を使ってソーシャル・ファームを支援するということが行われています。今の段階では非常に少ない資金ですけれども、これから拡大していくことが期待されると思います。

もう一つの質問は、ソーシャル・ファームで活動することによって、人の健康にどんなインパクトがあるかということについての質問だったと思います。ドイツの場合には、まず、ソーシャル・ファームを辞めた人を追跡してみました。これは、200ぐらいのソーシャル・ファームに関する調査が行われて分かったことですけれども、ソーシャル・ファームを辞める人たちの30%は、一般労働市場で雇用を見つけているということが分かりました。30%は健康上の理由で失業しています。その他20~30%ぐらいの人たちは、別の職業訓練を受けているということが分かりました。辞めるということは、その仕事が自分に合っていなかったということもあるのですが、そういう人は割合に少ないということが分かってきたのです。これは大きな調査ではなかったのですが、健康に及ぼす一般的な影響をソーシャル・ファームの経営者、バーバリア地方の経営者にインタビューを行いました。たとえば、精神障害を持っている人で、ソーシャル・ファームで働いている人たちの場合、精神的、健康的な面で影響があるかどうか、たとえば、ソーシャル・ファームで働き始める前に、どのぐらい頻繁に病院のお世話にならなければならなかったか、それと比べてソーシャル・ファームで働き始めてからは、何回ぐらいそういう病院のお世話になったかというようなことを聞いてみました。それで分かったことですけれども、実際に病院の世話にならなければならない頻度は下がっているということが分かりました。これは、もちろん暫定的なインタビューの調査であって、はっきりとした、きちんとした調査ではありませんでしたけれども、ある程度ソーシャル・ファームで働く人の健康にいい影響が出ているということが言えると思います。

もう一つ、一般的に受け入れられていることだと思いますけれども、だれであっても失業しているときと仕事があるときと、随分精神衛生に及ぼす影響は違うと思います。失業をしていれば、家にいて何もすることがないという状況ですから、やはり、精神的に滅入るということが多くなると思います。しかし、ソーシャル・ファームの場合、特に精神障害を持っている人は、ソーシャル・ファームの中では精神障害を持っている人の問題もオープンに話し合うことができるわけです。もちろん仕事はしてもらわなければいけないわけですけれども、普通の企業だったら、精神障害を持っているということを隠してしまうとか、あるいは、それについて話すことはできないという場合が多いと思います。そして、自分が精神障害を持っているということが分からないようにする、または、そうしなければならないという状況があると思います。しかし、ソーシャル・ファームの場合にはそういうことはありません。精神障害を持っていても、たとえば、1~2週間病院に入院しなければならないような状況が発生した場合にも、マネジャーと話をすることができるし、自分の同僚にもオープンに話をすることができる。そして、その問題に対応することができるという状況にありますから、やはり精神衛生にも非常にいいと思います。ただ、この分野におけるリサーチを、もっと私はやってみたいと思います。本当に科学的なデータを収集するためにやりたいと思っています。

(発言者不明):私の方からも追加発言したいと思います。いわゆる精神障害者がソーシャル・ファームに参加したらどうなるかということです。本当に今おっしゃった通りだと思います。精神障害者にとりましては、やはり職場に出るということはとてもいいと思います。他の人たちと接触することができるし、人間関係も保つことができる。そして、経済的にも自立できるということがありますので、とても重要なことだと思います。そこに加えて、民間企業とソーシャル・ファームに差があると思います。それはインクルージョン・プロセスというのがあるという点です。スピーチでも申し上げましたけれども、私たちは職場に参加していただけるように工夫をしています。そして非常に長く時間のかかる難しいプロセスでありますけれども、職場での人々の統合を実現するためには法律が必要であります。しかし、法律があっても、その人に合わせたプロジェクトを作っていかなければ実現することはできないのです。ですから、やはり法律があっても、創意工夫がなければ、本当の意味で社会に参加していただくことはできないと思います。教育訓練も必要ですし、また、その人の資質を見極め、適した仕事を見つける、ないしは、仕事を組み立ててあげる必要があると思います。特に精神障害者の場合には、とても難しいと思います。なかなか適した仕事が見つからないので、時間がかかります。また、努力も必要です。時には、その仕事に参加して、最初はよかったのだけれども、何かちょっとしたことが起こって、そのために気分を害してしまって、もう、嫌だというような場合もあります。精神障害者が、気分を害するというようなことは、結局また精神病院に舞い戻るという可能性にもつながるわけです。ですから、やはり、精神障害者をソーシャル・ファームに参加させるということには一つの責任が伴います。ソーシャル・ファームではきちんと職業上の技能が身につけるようにし、かつまた働きたいというような意欲を育てるということが必要であると思います。しかし、民間企業ではなかなかそのための時間も取れないし、また、それほど面倒を見ているような余裕がないわけです。やはり民間企業ということになると、営利が目的でありますので、そういう人たちのニーズあるいは問題をずっと見ているというわけにもいかないわけです。

まとめですけれども、良いプロジェクトを作る、ソーシャル・インクルージョンの良いプロジェクトを作るためには、きちんとした雇用を開発しなければいけないし、また職場環境・雰囲気を良くしなければならないと思います。つまり精神障害者でも長いこと働いてもらえるような雰囲気を作っていかなければいけないと思います。職場の雰囲気が良ければきっとだれにとっても良い、働きやすい職場であると思います。ですからやはり良い職場の雰囲気を作るということ、それこそがソーシャル・ファームの目的にかなうことだと思います。

山内:関連している話を、最初に寺島先生がちょっと紹介されましたが、今の件について、伊野さん、何かコメントお願いできますか。すみません、突然で。

伊野:ご紹介いただきました、ヤマト福祉財団の伊野でございます。武田さんは、一度私どもの前の理事長の小倉理事長が存命中に、訪ねて来られて、いろいろお話しされた記憶がありました。大変素晴らしいことをなさっておられ、今改めてお元気なお声、お姿を拝見でき、これからもいろいろと、交流を深めていけたらいいなと思っているところです。

さて、本題に戻りまして、実は私どもの仕事は財団でございまして、実際どうしたらいろいろなお手伝いができるかということで悩んでいるわけです。昨年、一昨年と2回、このセミナーのパネラーとして出させていただきましてお話しをしたのですけれども、私どものヤマト運輸がやっておりますメール便の仕事というのは、非常に精神障害を持ったかたに適しているということが分かってまいりまして、全体で現在670名ほどのかたが従事しています。そのうちの58%が精神障害のかたなんです。と言いますのは、メール便の仕事というのは時間に制約されずに、1日の間に気の向いた時間に配達をすればいいということですから、非常に精神障害者に向いているということなのです。そんなことが分かりまして、何とかこれを伸ばす方法というか増やす方法はないだろうかと思って、いろいろ考えているわけです。ソーシャル・ファームとはちょっと形が違うのですけれども、先日、東京新宿区のある精神障害者のかたの家族の会に招かれていろいろな話をしたのですけれども、在宅の障害者のかたが圧倒的に多いのです。この現状を、どうすれば変えていけるかをいろいろ考えました。考えた中でいちばんいいと思えるのは、障害者のかたがたが、何人か単位になってNPO法人を作り、私どもの会社で定年退職をされた人たち(彼らは、仕事には熟達しています)に、お手伝いしてもらって、配達とか仕分けなどをやっていけば、非常に能率も上がり、収入の増加にもつながるのではないかと思いました。このことは、このセミナーの趣旨に合致すると思います。ただ、これが、ソーシャル・ファームにつながるかどうかという論理的なことは、私にはよく分かりません。しかし、いわゆる中高年と障害者が一体となって、新しい仕事を開発し、広げていくといことは、身近にある仕事としては、いちばん手近にあり、手の届く仕事だと思っております。このセミナーを拝聴しながら、私どもは自分たちの仕事として、今申し上げたようなことを広げていくことに、一つの使命感のようなものを感じているところでございます。いきなりソーシャル・ファームというような形にいかなくても、今申し上げたような方法で、特に在宅の障害者のかたにもっと雇用の場を、あるいは、社会参加を進めていくということも大事だと思っています。

山内:どうもありがとうございました。それでは、またちょっと別の観点から、京都太陽の園の徳川様、いらっしゃると思うのですが、何か今のコンテクストの中でご発言をお願いしたいと思います。

徳川:急なことでびっくりしました。まず、私は、障害者の福祉に携わって40年余りたちます。日本では、まだ障害者の福祉が未完のときに、私は、しばらくヨーロッパで研究もさせていただきました。そのころから考えると、確かに日本の制度、または、ハードの面では充実したと思います。しかし、先ほど、向こうのかたのお話しにあったように、福祉の考え方というか、国全体の考え方が、やはりまだまだ十分ではないと感じています。そういった中で、ヨーロッパの皆さんは、福祉の哲学のようなところが非常に進んでいらして、そういう意味から、今日は、就労または雇用についてお話しを聞かせていただけたことは、とてもありがたかったと思います。心から講師の皆さんに感謝いたしております。

一つ私が感じていることがあるので、それだけ申し上げたいのですが、今の日本の国の障害者自立支援法は、雇用ということを非常に強く出しております。これは、非常に結構なことだし、そうあっていただきたいと思っておりますが、どちらかというと、一般雇用が中心であり、比較的障害の軽いかたが中心になっています。そうなると、重い障害を持ったかたたちが取り残されていくという危険があるのではないかと感じております。私も施設を始めたときに、重い障害を持ったかたたちに何かをしていただきたい、特に自分で物を作って利益を上げていただきたいということを考えて、相当重い障害者のかたにも内職程度のことでありましたが、やっていただきました。そのとき一人の知的にも障害があり、体もほとんど寝たきりの障害者のかたが、ひと月、不良コイルの導線を解き戻すという内職なのですが、それを必死でやって10円儲けたのです。ひと月で10円というのは、一般の雇用から考えたらほとんど儲けにもならないかもしれませんが、そのかたは生まれて初めて自分の力で10円を儲けたということに感動しまして、それを握りしめておりました。そのとき、年取ったお母さんが、そのことを聞いて、自分の息子が自分で初めて10円玉を儲けたということに感動して、その場で泣き崩れてしまいました。私は、それを見てからずっと、労働の意味が何かということを考えていました。労働は、物を作ってお金を儲けるということも大きなことでありますが、やはり、自己実現というところに大きな意味がある。そう考えますと、重度の障害者から労働権を外すということは、あり得ないことです。しかし、今の日本の一般雇用は、重度のかたの労働権というものは、あまり考えられていません。そのへん、ヨーロッパのソーシャル・ファームで重度の障害者のかたたちの労働権についてどういうふうに考え、どう取り組んでいらっしゃるのか。もちろん企業に近いソーシャル・ファームでありますので、そこには限界があると思います。できないことはできないと思いますけれども、今後どういうふうにソーシャル・ファームとして、重度の障害者のことを考え取り組んでいらっしゃるかということを教えていただきたいと思っております。

もう一つは、私が20年ほど前でありますが、京都で作業連というものを作りました。これは子どもでも年寄りでも、どんな障害があってもなくても、働くということは同じ土俵なのだということで、みんなが取り組んで、それぞれの力を生かして、組み合わせた製品を作りました。ちょうどそのときに、オランダのロッテルダムの市長さんが京都においでになってお話しをする中で、オランダと日本の貿易は、非常に古い歴史があって、当時350年の貿易の歴史があって、それを記念するためにロッテルダムの駅前で日本展を開きたいということでありました。市長さんは、ぜひそこに障害者のかたの作った作品を出してほしいということで、私が当時代表でありましたので、4000点、日本の工芸品を作ってお送りしました。そのときには、フジカワという運輸会社がボランティアで送ってくれて、それだけではなくて、私たちも参加するということで、ボランティア・障害者20名が参加して非常にいい交流を持ちました。これから私たちは、こういう場も非常に大事なんですけれども、実際働いている障害者のかたたち同士の国際交流ということがどれほど大きな力をもたらすか。わずか20人だったのですけれども、非常にそれを通して喜び、自立をして発展していきました。残念ながら、今私はそこから退いておりますけれども、そういった障害当事者の国際交流ということも視野に置いていただけたらいいと思っております。

2点、重度の対策の問題と、当事者の交流の問題、皆さんのお考えを伺いたいと思います。以上でございます。ありがとうございました。

山内:ありがとうございました。どなたからお願いしましょうか。

バービス:ありがとうございます。イギリスの場合には、慈善団体が重度障害者のために活動していますが、とても心配しています。というのは、あまりにも政府がソーシャル・ファームを作ろうと一生懸命になりすぎていて、それは、ビジネス・モデルだと言っていることに懸念を持っています。そうすると取り残される人がいるのではないかという懸念です。昨年、地方自治体の責任、つまり授産所に対して助成金を出すという制度がなくなってしまいました。つまり地方自治体は授産所に対してお金を出す必要がなくなったわけです。ですからイギリスの障害者団体は、今一生懸命このバランスを取ろうとしています。つまり、機会を与えるのはいいけれども、しかし重度の人たちに対して差別が行われるようなことがあってはいけないということで運動しています。

ですので、今おっしゃっていることは、おっしゃる通りだと思います。そこにはバランスが必要であると思います。彼らには機会を提供すべきでありますが、しかし彼らがすべてのことをできなかったとしても、そこで差別があってはならないと思います。

もう一つ申し上げたいのは、障害者同士の国際交流は大変重要であると思います。私自身も数年前ロンドンでの展示会を開催するにあたってお手伝いをさせていただきました。その際には日本の障害者の作品を展示しました。藍染めの木綿の作品でした。その際にはこの作品を作られたかたがたも紹介しました。世田谷区の「藍工房」という所があるんですけれども、ここのかたがたが海外に自分たちの作品を紹介したいとおっしゃり、アメリカ、パリ、ロンドンに行き、自分たちの作品の展示をしました。自分たちにもこういう作品ができるんだということを示し、自分たちの藍染めの木綿の作品をアメリカで販売するという企画もありました。2年前、このセミナーにおいて、イギリスの知的障害者のグループを作り、日本に来るのを手伝ってほしいという要請を受けました。来月そのようなツアーを実現することとなりました。ぜひ日本における活動、実情、同じような状況に立たされているかたがたの実情を見てほしいと思います。おっしゃる通り国際交流は障害者にとっても、他のかたにとっても重要であると思います。ありがとうございます。

シュワルツ:私からも少しお答えをしたいと思います。障害の重度ということに関して。これもまた医学、医療の改善に伴って状況が変わってくると思います。ドイツのソーシャル・ファームという観点から考えますと、これは大変重要な問題であります。しかし、我々が解決できる問題ではないと思います。一部の問題はもちろん解決できます。そして、我々の全力をもって、時間をかけてできることをし、できるだけ多くのかたがたが参加できるようにしたいと思っております。ただ、ドイツの場合、多くのソーシャル・ファームは、プレゼンテーションで申しましたけれども、NGOによって所有され、立ち上げられます。そして、いろいろなサービスを提供しております。たとえばベルリンにおいては、大手のNGOがあり、そこには40の住宅施設があり、特に重度の障害を持った人たちのための施設を設け、そこで日常生活のいろいろな支援をしております。この組織は、同時に他の事業も展開しております。ソーシャル・ファーム以外のこともやっております。ですから、ソーシャル・ファームというのはいろいろなものをカバーしています。この組織の中においても、こういったソーシャル・ファームを経営している人たちが、ソーシャル・ファームに十分な時間がかけられるかどうかという問題があると思います。それから、ネットワークを作ることの重要性も認識すべきでしょう。いろいろな分野を手がけ、いろいろな団体がネットワークを通じて交流することができますし、フレキシビリティを持つこともできます。時として予想できないことが起きることもあります。たとえば、今申し上げたベルリンのNGO、ここは、住宅を運営しておりましたので、そういった中で非常に才能がある芸術家がいることが分かりました。この人がリーダーとなって作品を作り、ある時点で、この人物は、プロとして作品の展示会を開催するまでに至りました。商業的な意味を持たせることができました。ですので、いろいろな領域からビジネスが生まれることが可能であると思います。

ただソーシャル・ファームという観点から見ますと、すべての問題を解決することはできません。もし、すべてを解決しようとしますと、すべてがうまくいかないでしょう。ですから、我々としては、できるだけ特化をし、そこで最大限努力をしたいと思っています。

マランザーナ:ゲロルドさんのおっしゃる通りだと思います。ソーシャル・ファームは一部の問題は解決できますが、すべての問題を解決することはできません。それからまた、いろんな人たちを関与させることはできるにせよ、すべての人たちを関与させることはできません。イタリアにおいて社会的協同組合のスタート時、私たちはすべての人が働くべきであるという考えを持ちました。しかし30年たった今、我々の考え方は変わりました。すべての人たちが働ける、働かなくてはいけないということはないと考えるようになりました。ですからインクルージョンといっても、それに合った人たちのインクルージョンであるべきであると考えるようになりました。外に行って、たとえば授産施設、デイケアセンターに行って、何か非常に軽い活動をすることができる、そういうことに向いている人たちもいるでしょう。一方で障害者のための雇用を生み出すことも可能であります。重要なのは、ソーシャル・ファームはすべての人たちを対象にしたものを作るべきではない。すべての障害、すべての身体障害を持っている人たちを対象にするようなものを作ろうとしてはならないと思います。私が働いているような社会的協同組合においては、いろいろな障害を持った人たちがいます。一人の人ができることが他の人にはできないといった、いろいろな人たちがいますので、お互い仕事を共有し、そしてお互いできるものをやる。できない人たちをカバーするというやり方をとっています。そのような形でお互い助け合い、集団として自分たちで何かを成し遂げようという、そういった組織になっております。

私も国際交流が重要であるとは思います。直接相手の所に行って、他の国で何をやっているか、他の国の組織、企業が何をしているかを見るということは重要であります。そしてお互い、非常に重要な教訓を学ぶことができると思います。

山内:だんだん時間が迫ってまいったのですが、これからどうやっていこうかという観点を含めてご発言をされたいかたがいらっしゃいましたら、手を挙げていただけますか。ではどうぞ。

カンノ:労働者協同組合のカンノと申します。先ほども申しましたように、もう25年以上ワーカーズ・コープということでやってきたのですが、当初は、失業者の仕事興しということでやってまいりました。失業して働いている人自身が出資して経営して、人と地域に役立つ労働を興していくということでやってまいりました。現在働く人が1万人という状況に、ようやく到達することができました。大事なことは、今日のソーシャル・ファームでも、障害のある人が障害のない人とともに働く、剰余金を社会的な目的、つまり、障害のある人が働き続けられるようにする、拡大していくということのために使い続けるというのも、共通していることだと思います。もう一つ、私が言いたいのは、障害のある人自身がどういうふうに主体者になっていくのか、障害のない人とともに働き、意思決定し、どういうに事業を興していくのか、どうやって成功させるのかということについても主体になるということが大変大事ではないかと思いました。

社会連帯ということで言いますと、これも原則があると思いますが、私たちは、この剰余金を多くの人が働けるような就労機会を作り出し、職業訓練、地域福祉、助け合いということのために使い続けるということが、社会目的かなと思い、実践をしてまいりました。そんな協同組合ですが、自然な形で障害のある人を包み込んで働くということで、群馬県では缶・ビン・ペットボトルのリサイクルを、20年以上やってまいりました。障害のある人とない人が共に働いて、少ないかもしれないけれども、月7万円という収入を上げているということで続いてまいりました。これをどう発展させるかというので、さっき隣の鈴木さんがお聞きしたような、千葉で、家電リサイクルで7か所だったと思いますが、80人以上の障害のある人が働いていて、いちばん多い人では月15万円の収入を得ていると。そして何よりも手分解で。さっきドイツのゲーロルドさんから、リサイクルが巨大化していくことで、ソーシャル・ファームが敗退していってしまったというお話があったのですが、日本では逆で、手分解で徹底することによって障害のある人が90%以上のリサイクル率を上げているのです。家電系をやっている方は、50~60%というリサイクルにとどまっているわけです。私はその意味で、徹底した手分解というのは、むしろ社会的な効率性を高めるのに障害のある人が貢献しているのではないかと、また、こういう領域を障害のある人に開放していくということが、とても大事ではないかと思っております。

それと、労働者協同組合ということでやってきていいないと思うのは、自分たち自身が労働を興しているわけです。仕事を興しているわけです。それは、清掃でもありますし公園のリサイクルでもあるし、最近では、完全にコミュニティ・ケアの領域に登場してきています。また、自治体や労働省関係から、障害のある人の職業訓練講座、障害のある人がどうやって仕事を興すかという講座を、各都道府県でどんどん受託し、実績を積んでまいりました。そういう意味で仕事興し講座をやってみると、ただ仕事興し講座を受ければいいというのではなくて、その後にどうやって地域の人々とともに仕事を興すのかということが大事だと感じます。今、仕事興しのグループが立ち上がって、それをどうやって進めていくかということで取り組んでいるところです。

それがさっきの斎藤縣三さん、共働連もそうなのですけれども、実は日本の中にソーシャル・ファームのようなもの、つまり、障害のある人とない人が共に働いて経済的にも、自立性を高めながら社会連帯目的にその剰余を使い続けているという集団は、いっぱいあったわけです。その人たちと出会いまして、昨年共同集会というのを神戸でやったのですが、そこで最も熱気を帯びて、人を集めたのが障害のある人の就労興しの分科会でした。その中で確認されたのは、まさに今日のこのテーマである、ソーシャル・ファーム、社会的協同組合というような方向を、自分たちの組織はどういう組織なのかということを明確にし、実体を形成し、広げながら、新しい法律、共同労働の協同組合法というようなものでそれを認めてもらおうと意見が一致いたしました。ことは障害のある人だけではなく、「ワーキングプア」、あるいは「引きこもり」と言われますように、ほとんどすべての人が仕事の問題で悩んでいるということになると、それを統合していく視点と言いますか、人々自身が仕事を興していく、その中に障害のある人も包み込んでいくというあり方が、望ましいのではないかと、お互いに一致をいたしました。そういう方向でぜひ進めていきたいと思っております。その点で、イタリアは非常に明確です。従業員が同時に組合員である、意思決定の主体であると。ドイツ、イギリスではどうなのでしょうか。いちばん組織設計のときに大事なことは主体だと思います。その主体がだれなのか。障害のある人は、その主体であるのかということについてお聞きしたいわけです。

もう一つは、大変今日は答えづらいかもしれません。賃金労働条件の平等ということをゲーロルドさんが、おっしゃっていました。市場相場で障害のある人もない人も対等に扱うということをおっしゃいました。政府がそう言い、労働組合も関与しているということだったと思います。ただ、これは現実には、それをやろうと思うと、大変難しい問題があるのではないか。つまり、生産性・効率性の問題、あるいは労働日数の問題、労働時間の問題ということで差異があると思います。そのときに、どういうふうにこれを補填していくのか、各国でどういうふうに取り組まれているのかということについてお聞きしたいと思います。以上です。

山内:ありがとうございました。まずは、経営主体の問題。それから同一賃金と生産性の問題。その2つのことについてシュワルツさん、いかがでしょうか。

シュワルツ:企業構造ということですけれども、いわゆる有限会社という形をとっておりますので、取締役会があって経営者がいる、そして所有者に対して取締役会が報告をすると。それはドイツのやり方ですけれども、ソーシャル・ファームの場合には、そのやり方といいますか、目的は人々に力を与えるということです。エンパワーメントです。ビジネスの中で、協同組合という形はとっていませんけれども、いろいろな積極的な議論が行われています。さまざまな形で、その企業で働いている人たちが、たとえば意思決定に加わる、積極的にそれに加わるという支援をしているわけです。しかし、制約はあります。ドイツにおいては、ちょっと他の国に比べると厳しい規制がここにはあると思います。所有形態といいますか、オーナーシップ、主体性ということですけれども、多くのソーシャル・ファームはNPOが所有しています。したがって、ドイツの場合にも多くの場合、NPOあるいは非営利の協会がソーシャル・ファームを所有しています。その中には、もちろん、障害を持っている人たち、障害を持っている人たちの親、あるいは普通の民間人など、いろいろな人が参加をしているわけです。法律的な形態としては「アソシエーション」というものがソーシャル・ファームの所有者になっているわけです。障害を持っている人が参加していれば、アソシエーションのメンバーになっているということも多いわけです。そして、問題があったならば、それを議論して、その問題を解決する、たとえば権利の平等あるいは従業員の処遇について問題が発生したというような場合であれば、話し合いをして解決するという形になっています。したがって、やり方は違うかもしれませんけれども、やはり民主的なやり方が行われるようにしています。そして、障害を持った人たちも意思決定に加わるような努力がなされています。

ドイツの場合には、いろいろな企業に関する法律を守らなければなりません。そうでなければ、やってはいけないということになってしまいます。ドイツにおける労働法というのは、従業員に大変な権利を与えています。また、機会の平等に関する権利、不利な条件に対してはどのように対応するか、それから生産性と企業活動との関係、それも法律によって規定があるわけです。そして、政府と労働組合との間で話し合いをして、いろいろなことが決めることができるようになっています。これは、ソーシャル・ファームだけではなく、もちろん民間の企業の場合も同じわけであります。そういうメカニズムがあることによって、ドイツにおいては、ソーシャル・ファームであっても不当なことが、従業員に対して行われないように、あるいは、不当な処遇がなされないように担保されているわけです。

バービス:イギリスの場合も、ソーシャル・ファームに関しては同じことが言えると思います。障害のあるなしに関わらずソーシャル・ファームの所有権、すなわち、主体であるということが、特に強調されているわけです。協同組合ではないという点は、ドイツと同じです。もちろん、NPOが、所有していないことが多いわけですけれども、ソーシャル・ファームの中でも、機会の平等、権利の平等というのは強調されています。そして、法律によってそれは担保されているわけであります。

それから、イギリスのソーシャル・ファームは、多くの場合、障害を持っている人のケアのエレメントが問題になります。彼らのニーズに対するケアというものはソーシャル・ファームによって提供されているわけではありません。慈善団体で、ソーシャル・ファームとつながりを持っているところによってケアが提供されるという形になっています。したがって、そういう意味においては、障害を持っている人がソーシャル・ファームで働く上で、問題を抱えるあるいは雇用主が問題を抱えるということになれば、それに対する対応がなされるという道が開かれています。

山内:かなり重要な問題提起がされたと思います。これからどうするべきかという問題提起がされて、非常にいいディスカッションができたと思います。最後に炭谷さん、ひと言、コメントをいただけるとありがたいのですが。

炭谷:どうもありがとうございます。大変有益な意見交換ができたと思います。私自身、ソーシャル・ファームは、閉塞的な日本の社会の諸問題に対して解決できる、非常に有力な方法の一つだと思っています。それによって、障害者の人だけではなくて、高齢者、ニート、いろいろな問題で仕事に就けない人、そういう人たちに対する仕事を提供する一つの選択の、一つだろうと思います。今日もお話しがありましたように、すべてこれが解決できるわけではないと思っておりますので、このような意見交換によって出てきた知恵、そういうものを生かしていきたいと思います。特に今日感じたのは、何かソーシャル・ファームについては、独自の経営の仕方、経営論というものを早急に打ち立てる必要があるのかなと思いました。どういうふうに経営したらいいのかなど、その経営論の大きな要素というのは、やはりどういう仕事をやるのがいいのか。たとえば、今日、イタリアもドイツも、結構公的なサービスの受け手になっているとお話しがありましたが、それは、確かに非常に安定的な仕事になるだろうとも思いますし、またニッチな部門がいいのだと、私はある所で話したら、ソーシャル・ファームというのは、ずっと社会的な農場だというふうに取っていた人がいて、最後まで分からず、農業もいいのかなというふうに思って聞いていた人がいたということもありました。いろいろな仕事探しですね。今日出た環境の分野とか農業の分野、また、公的なサービス、たくさんあると思います。

2番目には、やはり、社会的にみんなで助け合わないと、これは、うまくいかないということです。ソーシャル・ファームというのは、ソーシャル・インクルージョンを進めるための一つの手法ですから、イタリアでは、コンソーシアムを組んでやっているということは、私が、今現在やっていることと同じなので、大変意を強くしたわけでございます。そういう、いろいろな知恵を借りながら、さらに日本におけるソーシャル・ファーム作りを進めてみたいと思います。それから、既に実績のあるヨーロッパとも十分に連携をしながら進めていきたいと思います。今日、日曜日にもかかわりませず、200人を超える方々が最後まで参加していただきまして、本当にありがとうございます。このような熱気をソーシャル・ファーム作りにつなげていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

野村:ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終了させていただきます。コメンテーター、パネリストの皆様に、今一度盛大な拍手をお願いしたいと思います。

熱心に話を行なうパネリストの写真