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国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

来賓挨拶

エドワード・ライト博士
英国大使館科学技術担当一等書記官

挨拶を行なうライト氏の写真

こんにちは。ご紹介ありがとうございます。私は、エドワード・ライトです。今日は、イギリス大使館を代表してこちらに参りました。皆様に一言ご挨拶申し上げる機会をいただき、また、招待してくださいました日本の主催者の皆様、特に鴨下博士には感謝しております。そして、本日は、イギリス、イタリア、ドイツから参加してくださった皆様の来日を心から歓迎いたします。

さて、私は、イギリス政府の見解について少々お話する予定ですが、今日ここにイタリアとドイツから、志を同じくする方がたが参加されているのを見て、とても嬉しく思っております。イギリスのソーシャル・ファーム運動は、比較的最近の動きで、もともとは、ドイツやイタリアで展開されていた活動に刺激を受けて始まりました。ドイツやイタリアでは、ソーシャル・ファーム・ビジネスの開発と支援を通じて、かなり高レベルな障害者雇用水準が、達成されていました。当初、イギリスのソーシャル・ファーム部門を代表する重要な組織であるソーシャル・ファームUKは、欧州基金によるプロジェクトとして設立されました。その後、1997年、ドイツおよびイタリアの提携機関の支援を得、イギリスでも認められるようになってきました。

イギリス政府は、社会参加と機会平等を基本的人権と見なしています。これを可能にするためには、政府各省(保健省、雇用省、通商産業省など)の協力が必要なのは明らかです。しかし、これは、私自身公務員としてお話しすることなのですが、日本と同様、イギリスでも政府のさまざまな省が、円滑に協力活動を進めるには、時に困難が伴うものです。そのため、現在ソーシャル・ファーム政策を促進する責任を先頭に立って果たしているのは、内閣府の「第三セクター・オフィス」となっています。(日本で)「第三セクター」という言葉が、どの程度広い範囲で使われているのかは分かりませんが、イギリス政府では「第三セクター」を、価値観に基づいて活動し、余剰金を主として更なる社会的目的、環境保護、あるいは文化的目的のために、再投資する非政府組織と定義しています。第三セクターには、ボランティア団体やコミュニティー団体、慈善団体が含まれますが、最も成長が著しい分野は、本日のテーマであるソーシャル・ファームが含まれる、ソーシャル・エンタープライズの分野です。

多くの人々は、ビジネスに関して、政府はできる限り関わらず、市場が失敗したときにのみ介入するべきだと考えています。ですが、ソーシャル・ファーム、およびソーシャル・エンタープライズの分野が、全般にわたって活動を推進していく際には、政府が有用な役割を果たすことができると、本日の講演者の皆さんの賛同を得られるものと信じております。

つい2、3ヶ月前のことですが、ソーシャル・エンタープライズの成長を阻む障害を克服し、ソーシャル・エンタープライズの成功を可能にするため、今後数年間1800万ポンドを超える資金を利用できるようにする計画を、イギリスの大蔵大臣が発表しました。

この行動計画は、ソーシャル・エンタープライズが、達成できることの認識を高め、これまでより多くの人々の参加、もしくは、状況の改善を奨励するために資金を投入することによって、更に何千ものソーシャル・エンタープライズに門戸を開くことを目的としています。この計画では、次のような方策を採ることになっています。

  • ソーシャル・エンタープライズに関する教材を提供し、またビジネス・スタディ・コースで必ずソーシャル・エンタープライズについて学ぶようにする。そうすることで、学校教育においてソーシャル・エンタープライズの宣伝をする。
  • ソーシャル・エンタープライズの市場を改善する方法について、財政部門およびソーシャル・エンタープライズ部門と協議し、1000万ポンドを上限として、ソーシャル・エンタープライズに民間企業と共同投資できるようにする。
  • 地域開発局(RDA)およびソーシャル・エンタープライズ部門と協力し、発展しつつあるソーシャル・エンタープライズの財政に関する意識向上をはかる研修を展開する。
  • 20人を上限として、イギリス全土にわたる新たな起業家の役割モデルとなるようなソーシャル・エンタープライズ大使を任命する。
  • 今後3年間に渡り、全国的なレベルでソーシャル・エンタープライズを代表する組織への注目度を高め、この組織による政府への提言を支援するため、240万ポンドを使用できるようにする。

これらの方策は、現在ソーシャル・エンタープライズの成長を阻む障壁として存在する市場の失敗という問題に取り組み、イギリスでビジネスを始めようとしているすべての人にとって、ソーシャル・エンタープライズが、主流の選択肢となることを保証するために考案されました。

イギリスのビジネス界に対するソーシャル・エンタープライズの影響は、非常に強力になってきており、現在ソーシャル・ファームは約50万人を雇用し、イギリス経済に毎年、約200億ポンドの貢献をしています。ソーシャル・エンタープライズには、有名なものもいくつかあります。たとえば、ホームレスの人々のエンパワメントをはかる「ビッグ・イシュー」は、2003年に大阪のホームレスのコミュニティーと事業を始めました。この事例は、イギリスのソーシャル・エンタープライズへの注目度を高めるのに大きく役立ち、「ビッグ・イシュー」は、非常に強力なブランドとなり、また、このようなビジネスモデルが、どのようにして社会的なエンパワメントを進めていくのかを、一般市民が理解するのに役立ちました。

私は、イギリスの政策といくつかの成功事例についてお話しましたが、まだ、やらなければならないことは多く残されています。イギリスが、イタリアやドイツからどれほど多くの刺激を受けてきたかについてお話しました。今日の意見交換や交流が、すべての参加者に新たな洞察と展望を提供し、それぞれの国での実践に役立ち、変化をもたらすために、うまく利用されることを願っています。

ライト氏の話を熱心に聞く大勢の聴講者の写真