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国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

ソーシャルファームの実例

◆Stadthaus*** ハンブルクにあるホテル◆

取材報告:野村美佐子(日本障害者リハビリテーション協会)

ホテルの概観の写真

1993年の9月より知的障害者の親たちが、彼らの養護学校を卒業後、働く場所としてホテルを開業した。ハンブルクには多くの観光客が訪れるのでその特色を利用してホテル業を選んだ。それが3つ星の「シュタットハウス・ホテル」だ。親たちの授産施設ではなく、一般市場の雇用という思いと努力の結果であった。最初は国から運営するために3年間、助成を受けた。3年以降は、働く障害者の給料の40パーセントを国に負担して貰うことで経営が成り立ってきたが、現在は、青年支援協会に統合され、様々な経営手法が導入されて運営が行なわれている。社会的な意義を持つこのホテルに、ソーシャルファームのより良い事例として学ぶことはとても多い。

最初は7つの部屋しかなかったが、車椅子の人たちにとって利用しやすく、障害者が最初は利用してくれたそうだ、それが6年後には13室になり、お客は障害者だけでなく、口コミで広がり、一般の観光客も泊まるようになった。月に600人が宿泊する。70パーセントが一般の観光客であり、10パーセントが障害者である。宿泊と朝食のサービスだけを行なっているホテルである。宿泊代は、特別の免税処置があり、他のホテルと比べると安くすることで宿泊者獲得の競争にも勝てる状況にある。
スタッフは11人、そのうち障害者は8人である。6人は働くことができるが、2人は、かなりの重度障害者で24時間のケアを受けている。

障害を持つ従業員がホテルで働いている写真

6人は、障害に配慮して、1日に6時間程度働く。重度の障害を持った2人は、ホテルの業務に直接携わることができないが、陶器などの作品を制作し(あまりにすばらしいので筆者も購入した)、ホテルで販売をしてもらうことでホテルの運営に関わっている。

創設当時から働き始めたダウン症の「グロリア」と呼ばれる女性は、すでに34歳になっている。彼女は朝食時には、ゲストに気を配り、より良いサービス提供を行なっている。とても愛想の良い女性であった。スタッフは、分担の形でホテルの様々な仕事をこなしている。たとえば、お部屋のお掃除、洗濯、そしてアイロンがけ等のランドリーサービスを行い、健常のスタッフに支えられながら、仕事を効率よく行なっている。

彼らの住まいは、ホテルの上の階にあり、親から独立した生活を送っていることも、同じようなことを考えている親たちのグループのモデルとなっている。

重度の障害を持つスタッフが制作した陶器の写真

ビジネススクールでホテル業を学び、このホテルにマネージャとして勤務するワーグナー氏にインタビューをすることができた。シュタットハウス・ホテルで、2000年から積極的に取り組んできた、多くの改革について、話を伺うことができた。

上述の青年支援協会が、ホテルの隣に新館を建設したことをきっかけに、シュタットハウス・ホテルは、そことパートナーシップを組み、いくつかのプロジェクトに共同で関わるようになった。ホテルの隣に建てた協会のビル内に青年支援協会が、レストランを開業した。また最終的にパートナーシップから青年支援協会の傘下におさまることで経営が安定してきた。具体的には、以下のような改革が行なわれた。

  1. 支援団体には多くのマーケッティングや運営について専門家がおり、シュタットハウス・ホテルの運営に関わるようになった。障害関係ではなく、ビジネス業界からワーグナー氏がこのホテルに来てから6年になる。
  2. ホテルの裏にガーデンを作り、宿泊者の憩いの場所を生み出す。
  3. 精神障害者の雇用を行い、雇用の創出を行う。
  4. レストランでケータリングサービスも行う。
  5. 2000年以降に13室になる。

上記の3に関して2年前から17歳から27歳ぐらいを対象にした障害者のホテルの学校を経営するようになった。3年間のコースでADHDの子、精神障害者などの子を福祉事務所の紹介で引き受け、ホテルでの仕事について学んでもらい、コースが終了すると資格を習得することができる。実習先はこのシュタットハウス・ホテルになる。

「このホテルは経営的に成り立っているのか。」という筆者の質問に対して、ワーグナー氏は、このホテルとレストランの経営により、運営はうまくいっていると述べた。

今後のプロジェクトとして、ハンブルグ市が土地と資金を提供してくれるということで、60の部屋を持つ第2のシュタットハウス・ホテルを開設する計画があるという。そこでは、シュタットハウス・ホテルでの経験を生かして、多くの精神に障害を持つ若者や知的障害者を教育し、雇用することが期待されている。