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フォーラム 浅利 義弘

全日本ろうあ連盟 理事

 

私たち聴覚障害者は外見からは障害が分かりにくいため、社会の理解とその対策が遅れている情報・コミュニケーション障害者です。

一般的に、「聴覚障害者には文字での情報提供で十分」と考える人が多いですが、それが困難な場合が多くあります。特に先天性の聴覚障害がある高齢者は、長い間手話を禁止され聴覚口話法を受けた聾教育の影響で、文章の読解力が不十分な人が多く、新聞等の文字情報やテレビの字幕による情報を得る事が難しい現状があります。

一方で、手話の分からない聴覚障害者も多数いるので、手話通訳等や字幕は、聴覚障害者にとって生きていく上であらゆる場面に必須です。

視覚障害者の制度は昭和24年に法整備され、社会の理解や社会資源も進んでいます。聴覚障害者の制度は平成2年に情報提供施設整備の法ができましたので、41年間の差があり、非常に遅れている状況です。

さて、国連で採択された障害者権利条約では、言語の定義の中に手話が明記され、手話の承認とアクセスの保障、手話の普及促進、「ろうコミュニティ」の尊重がうたわれています。

このことは聴覚障害者が社会のあらゆる分野に平等に参加できるよう、国の責務として手話通訳等のコミュニケーション支援を保障し、法整備するべきことを意味します。

厚生労働大臣より障害者自立支援法の廃止が表明され、新法の審議がスタートした今こそ、障害者権利条約批准に向けて条約に基づいた国内法整備の一貫として、障害者のための総合的な法整備を求めなければなりません。新法の聴覚障害者のための検討事項は、関係団体とともに協議していますが、特に情報保障の観点からは、「放送、公共機関、交通機関、ホテル・旅館、教育、職場等、社会のあらゆる分野で手話、文字、光、振動等の聴覚以外の方法によりできるようにすること。」を基本理念としています。

以下、関係団体の取り組みの紹介と要望についてです。

手話放送について(紹介)

聴覚障害者のための手話と字幕の放送局「目で聴くテレビ」は、全日ろう連と聴覚障害関係団体が中心となり98年にCS放送(通信)をスタートしています。著作権法改正により、今年1月1日から政令で認められた事業者が、自由に視聴覚障害者のための手話や字幕、解説音声等を作成することができるようになりました。この新著作権法に基づき、「目で聴くテレビ」では、バンクーバーオリンピック開会式の放送番組に、手話・字幕を入れて複製し再放送(通信)しました。これは、日本で初めての複製再送信となる画期的なものです。

また、障害者が構成員となり、障害者にかかわる法律や新法制定を考える内閣府の「障がい者制度改革推進会議」が(第2回:2月2日、第3回:2月15日)に東京で行なわれた際にも、手話・字幕付きで衛星放送により生中継しました。

同時に、連盟加盟団体及び関係団体で『目で聴くテレビ「制度改革推進会議を傍聴する会」』を実施し、聴覚障害者情報提供施設25カ所を含む公的施設等全国60数カ所で放映・多くの聴覚障害者及び関係者が視聴しました。

一方で、テレビでの総放送時間に占める手話放送の割合は、NHKでは約2%、民放ではわずか0.1%です。全日本ろうあ連盟では字幕だけでなく手話放送の拡充を、総務省、NHK、民放連に対し、(また放送協議会を通じて放送局へ)要望してきました。

テレビ政見放送について

基本的人権の「参政権」は選挙権を有する国民全てに平等に保障されるべきだと考えます。選挙権があっても聴覚障害者にとって、政治や選挙に関する情報保障が不十分です。政見放送で言えば、2009.3.31に衆議院議員・比例区代表に手話通訳導入が認められた事は画期的なことではありますが、未だ全ての政見放送に手話通訳や字幕が認められていません。

先ずは、全ての政見放送に手話通訳や字幕の導入が必要です。

さらに、政見放送だけの各政党の政策や立候補者の演説だけに情報保障が実現したとしても、候補者の判断材料としては薄い情報だと思います。特に国政選挙においては、選挙前の各政党の政策方針や各立候補者の政策、党首討論などを各メディアが取り上げます。民放ワイドショーなど番組で取上げる時間が多く、政治評論家などのコメントなどは国民にとって非常に興味深いものですが、そのような番組に手話通訳や字幕がないために情報を得ることが出来ないからです。

やはり、政見放送の情報保障は勿論であるが、政見放送以外のテレビ等放送で様々な情報が自宅で得られる社会になって欲しいものです。

CM字幕放送について

テレビ放送のニュースやドラマは、最近、字幕(スーパー等)が付くようになりましたが、手話や字幕のついたCMを見たことがありません。

CMに手話や字幕が付くと商品の知識が分かり、購入の選択ができるようになります。また、CMから流行語が生まれるなど文化の享受においてもその情報は大切だと思います。商品情報等をきちんと得るためにも、全てのCMに字幕を導入するよう義務付けていただきたいです。

緊急災害時放送について

緊急災害時には、被災地における住民、そして被災地を見守る国民にとってテレビ放送による迅速にして正確な情報提供はもっとも大切な情報源になります。

被災地周辺の地域に暮らしている聴覚障害者にとってはローカル番組も重要な情報です。字幕放送の地域格差による情報格差を作らないよう、国民が平等にアクセスができるよう、緊急災害の場合はローカル番組においても「手話・字幕」を付けるようにしてください。

なお、緊急災害時には、手話・字幕放送の実績のある特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構に対し、ローカル番組を含むニュース、その他の必要な情報を速やかに提供してください。

最後に「障がい者制度改革推進会議」のように、障害者権利条約の理念に基づき、放送・通信に関わる政策立案、検討の場にも必ず聴覚障害者を含む障害当事者の参画が必要です。

情報・コミュニケーション障害と呼ばれる聴覚障害者も、聞こえる人と同じ様に普段の生活の中で自由な時間に自由な手段で情報が得られるよう、手話と字幕がついた放送番組の拡充を。また、手話と字幕の付いた放送番組が当然!と思える社会になって欲しいものです。