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特別講演 平林 正吉

総務省情報流通行政局情報通信利用促進課長

はじめに

本日はありがとうございます。「放送通信の今後について」というお題をいただき、現在のバリアフリーに対する総務省の取組を紹介します。

総務省では、デジタル・デバイドのないICT社会の実現に向けて取り組んできたところです。

本日は2点にわたり、お話しします。1つは放送におけるバリアフリー。もう1つは、放送以外のバリアフリーについてです。

なお配布資料には「チャレンジド」という言葉を書きましたが、総務大臣の意向もあり、総務省内では障害者を「チャレンジド」と呼ぶようにしています。ただ用語としてなじんでいないことも事実ですので、今日の説明、資料では、「チャレンジド」と「障害者」という言葉が混在することをお許しください。なお、法令における障害の表記については、現在、政府内でも検討中です。それらも踏まえた対応をしていくことになります。

放送における取組

まずは、放送に関する私どもの取組についてです。放送というのは、現在の社会生活に重要です。報道、教育、さらには娯楽、生活関連情報など、様々な情報を恒常的に入手する手段として欠かすことができないメディアです。これはチャレンジド、障害者にとっても同じことです。厚生労働省の調査では、障害者の方が情報を入手する方法のうち、一番多いのはテレビで8割となっています。その意味でも、テレビにおけるバリアフリーを推進することは大事です。総務省では、そのために現在、3つの取組をしています。

1つめは、視聴覚障害者向け番組の放送を努力義務化しています。

2つめは、放送事業者の目標として「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を1997年に作りました。それがどれだけ達成されているかの進捗状況についても公表しています。現行の行政指針ですが、これは2007年に策定され、2017年までの間で、字幕、解説放送の目標を定めています。その前には、1997年から2007年まで、字幕放送の普及のための指針で普及を進めてきました。

3つめとして字幕番組、解説番組等の制作費を助成しています。これら3本柱の施策を行い、放送事業者の自主的な取組を促しています。さらに、NHKや民放キー局等では、自ら字幕・解説放送の拡充計画も策定しています。

字幕放送、解説放送、手話放送の現状

まず現状を話します。NHKと民放キー5局の字幕・解説・手話放送について、それぞれ総放送時間に占める割合と、年次的な推移を資料にお示しています。

字幕については、政府も計画的に取り組んできたこともあり、年々確実に拡大しています。直近の2008年度のデータでは、NHKで約5割、民放においては4割ちょっとです。

解説放送については微増です。NHK総合2008年度は4%。教育放送では9%となっています。民放は0.3%となっています。

手話放送についてはさらに数字は低くなっており、ほぼ横ばいです。2008年はNHKで2.5%、民放では0.1%です。字幕はある程度進んでいると思いますが、解説は水をあけられており、手話はさらに下回っています。

字幕番組、解説番組、手話番組等の制作促進

また、総務省では、字幕・解説・手話番組の制作費に対する助成を行っています。制作者に対して、制作費の2分の1を上限として、独立行政法人情報通信研究機構を通じて助成をしています。なお、NHKは助成対象に含まれていません。

1993年にこの助成制度を開始し、その時には法律策定もしました。1999年には助成対象として手話番組も追加しました。予算額の推移は資料にございます。近年は4億円を超えた金額で、ほぼ横ばいです。

先ほど、手話放送が進んでいない現状をお示ししましたが、技術的な課題もあると言われています。しかしながら、冒頭の基調報告でもありました「障害者権利条約」も発効し、また皆さんもご存じだろうと思いますが、著作権法の改正など、障害者の情報利用の機会を増やすような法改正も行われています。

来年(2010年)度予算は現在審議中ですが、その中には、助成対象として新たに手話翻訳映像も含まれています。放送番組に合成して表示される手話翻訳映像の制作に対する費用です。「目で聴くテレビ」も想定してのことです。その助成を行おうと考えています。

つい先日、先ほど申しあげた情報通信研究機構において公募を開始したところです。

視聴覚障害者向け放送普及行政の指針

行政指針についてもう少しお話しします。2007年に、2008年度から2017年度までを期間とする「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定しました。それ以前にも10年間の指針がありましたが、それは字幕放送だけを対象としていました。現行の新しい行政指針は、以前の指針との比較で言うと、まず字幕放送の対象となる放送番組の範囲が、どうしても技術的に付与できないものを除き、拡大されました。以前の指針においては、生番組は対象外でしたが、今日の会議でも行われているような、リアルタイムの字幕の技術も進みましたので、複数人が討論するものを除き、生番組も対象にしました。また、再放送番組も新たに対象とするなど、ベースとなる対象番組を拡大するというのが大きな改正の1つです。

2つめの改正事項としては、解説放送についても新たに行政指針を策定したことです。先ほどの実績では、まだまだ解説放送の割合は決して高くはないという状況ですが、地デジで解説放送を入れるチャンネルが確保できることもありましたので、新たに解説放送についても指針を策定しました。対象の放送番組は、NHK総合、民放キー5局については、10%を目標にしていただく。NHKの教育放送では15%の目標値であります。

なお、指針の策定につきましては、関係者の参加・協力を得て研究会を設立し、議論を行いました。研究会の報告や行政指針につきましては、総務省のホームページにありますので、ぜひご覧ください。資料には、行政指針の内容について、字幕放送と解説放送それぞれの目標が載せてありますので、ご参照ください。

電気通信機器・サービスのアクセシビリティの確保

続きまして、アクセシビリティの確保についてお話しします。

情報通信技術の進展は、携帯電話のような電気通信機器、あるいはサービスのバリアフリー化によって、障害者、高齢者を含むすべての人にとってコミュニケーションの拡大につながっています。一方、電気通信機器が小型化していることなどから、逆に新たなバリアを生むという可能性もあります。そういった問題意識から、固定電話やFAX、携帯電話といった電気通信機器について、障害者・高齢者が使いやすい機器やサービスの開発を促すため、ガイドラインの策定とJIS化が行われています。

例えば、障害に関わらず入力を可能にする、出力結果の利用を可能にする、操作を可能にする等の配慮事項を、これらの機器の企画・開発に当たって、配慮していただく要件としてまとめています。1998年、旧郵政省時代に告示が出され、それを受け、電気通信事業者団体、また利用者側である障害者団体、有識者などの関係者からなる「電気通信アクセス協議会(現・情報通信アクセス協議会)」ができ、どのような配慮要件が必要かのガイドラインを2000年に作りました。2004年には改定版を策定しました。それらは技術的なガイドラインですが、2005年、機器についてJIS化されました。

さらには、国連の専門機関である「ITU-T(国際電気通信連合)」という標準化部門に、我が国からJISにおける指針の内容を提案し、それが採用され、勧告という形で国際標準化されました。そのような流れで取組が行われています。

私どもとしては、ガイドラインやJIS規格に則った通信機器や通信サービスの開発普及の拡充を図っていきたいと思っています。

なお、JIS規格については5年後の見直しが法律で求められています。現在情報通信アクセス協議会で見直し作業を進めています。

ウェブコンテンツのアクセシビリティの確保

続いてウェブのアクセシビリティについてです。ホームページなどは、皆さん方にとって重要な情報源になっていると思います。特に、障害者の方にとっては、情報アクセスを確保するために重要だと思っています。携帯電話等の電気通信機器の場合は、個別の機種としてアクセシビリティに配慮することがありますが、ウェブは万人が利用するものとして、アクセシビリティを確保することが必要です。特に、地方公共団体のホームページは、高齢者や障害者にとって重要な情報源と言えます。誰もが利用できるように、アクセシビリティを率先して高めることが求められています。

ウェブコンテンツの中身に関する配慮事項については、2004年にJIS化されています。例えば、目の不自由な方には画像が分からないので内容を説明する代替テキストを入れるとか、文字のサイズを拡大出来るなどの事項です。それらをJIS化してあります。このJIS規格は、非常に技術的な内容です。ただちに自治体で活用するには悩みがあるだろうと考え、総務省では、公共分野におけるアクセシビリティ確保に関する研究会を設けまして、そこで議論し、運用モデルを作っています。システム調達というピンポイントの対応だけでなく、運用を含めて継続的に改善を図るという観点から議論されました。そこで各種の手順書、ワークシートを示し、自治体で取り組みやすくするとともに、セミナー等を開催して、運用モデルの普及促進を図っています。これらの運営を通じて、ホームページ等のアクセシビリティ確保に寄与できればと思っています。

こちらのJIS規格についても、現在、改正作業が行われています。公共サイト運用モデルについても、来年度改定しようと考えております。運用モデルは、地方公共団体だけを想定しているわけではなく、他にも、独立行政法人や民間のホームページのアクセシビリティの向上にも役立つと思っています。これらの普及を図っていきたいと思っています。

通信・放送役務の提供、開発の推進

それから、いくつかの施策についても紹介いたします。障害者の放送・通信サービスの利用促進を図るため、サービス提供や研究開発への助成があります。まずサービス提供に対する助成ですが、情報通信研究機構を通じて補助金として助成しています。上限は2分の1です。その例として、電話リレーサービスを挙げました。聴覚障害者が手話を使ってオペレーターに話し、オペレーターが音声で仲介するといったことに、助成を行っています。もうひとつは、研究開発に対する助成です。こちらも情報通信研究機構が実施しているものですが、やはり助成率は上限2分の1です。例としてあげましたのが、ワークウェルコミュニケータというものです。障害者が在宅勤務をするときに、関係者の間でコミュニケーションを図ったり勤務管理を行うものとして開発されたシステムです。いくつか実際に運用されています。

情報バリアフリーに関する周知・広報

情報通信研究機構では、情報バリアフリーのための各種情報を収集して調査研究をしています。成果についてはホームページで提供しています。資料にあるように、アクセシビリティの話など、いくつかの項目に整理して情報提供しています。古いものもありますが、ぜひご利用いただきたいと思います。

最後に

最後に政権交代が昨年行われましたが、ICT政策の基本施策は出されていません。原口総務大臣は昨年12月にビジョンを発表して、そこでICTのビジョンを示しているところです。それ以外に、総務省では、昨年10月に新たなICT政策を検討しようということで、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」という会議を発足させ、今後1年間議論するという形になりました。その下に部会が設けられて、ICTの利活用については第4部会で議論されています。障害者によるICTの利用促進も検討事項になっています。まだまだフリーディスカッションの段階ですが、ご注目いただければと思います。障害者施策については、昨年12月に「障がい者制度改革推進本部」が、首相を本部長として設置され、さらに本部の下に「障がい者制度改革推進会議」が設けられました。そこで障害者制度に関わる取組について審議しています。かなり精力的に議論が行われていますので、見守っていきたいと考えております。以上です。ありがとうございました。

 

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