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「オランダとベルギーのソーシャル・ファームの動向」

バーナード・ジェイコブ氏
ベルギー保健省メンタルヘルスケア改革プロジェクトマネージャー兼全国コーディネーター

 皆さんとご一緒できますこと、非常に嬉しく思います。先ほどのオランダというお話が出たようにありましたけれども私自身は実はベルギーに住んでおります。ただベルギーとオランダは隣接しており、両方とも小さな国ですが、今日はそのふたつの国についてお話をします。

 まず最初にCEFECという団体についてお伝えしたいと思います。ソーシャル・ファーム・ヨーロッパCEFECというのは非政府機関で、ソーシャル・ファームのネットワークをヨーロッパで結成しようということになりました。ソーシャル・ファームの動きが活発であったイギリス、ドイツ、イタリア、ギリシャなどで共通の問題点などいろいろと話し合おうというようなことから生まれました。

CEFECによるソーシャル・ファームの定義

 CEFECによるソーシャル・ファームの定義とは、障害のある人々、あるいは労働市場で不利な立場にある人々を雇用するために作られたビジネスであるということです。

 つまりソーシャル・ファームというのは一つの社会的な使命を持って市場指向の商品の製造や提供を行うビジネスです。
さらに、ソーシャル・ファームの従業員の最低30%は障害のある人々、あるいは労働市場においてその他の不利な条件を持っている人々であるというふうに定義しました。

CEFECによるソーシャル・ファームの定義

そして、労働者はそれぞれの生産能力にはかかわらず仕事内容に応じて市場の相場に応じた賃金または給料を支給されます。
 労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場にはない従業員とに、平等に与えられなければならず、すべての従業員は、雇用に関して同等の権利と義務を持つという定義です。

 私の国ベルギーそれから隣国のオランダでの状況をお話します。皆さんもご存じのように現在、欧州は財政的な危機の状態にはありますけれども、両国ともにソーシャル・ファームは一応維持され運営されています。 この二つの国オランダとベルギーですが、イギリスやイタリアなどのようにソーシャル・ファームの定義はあまり持っていないんです。むしろ、ソーシャル・エコノミー・システム―社会的経済システムというような言葉を使っています。

定義

 この二つの国ではまずソーシャル・ファームあるいはソーシャル・エコノミーは何かというと、営利的な目標とそれから社会的な目標を両方とも持っている企業で、さらに働いている従業員の少なくとも35パーセントは障害を持っている方あるいはそのほか何か不利な立場にある人たちだというふうに定義づけています。ですから、オランダやベルギーのソーシャル・ファームは経済的にまず自立した職種です。
 つまり従業員の中では障害がある人もいればない人もいるということでインクルーシブであるということです。

現状

 現在オランダではもうすでに270社を越えるソーシャル・ファーム企業が生まれております。

2つの利益を追求

 このような企業は、経済的目標だけではなく社会的目標も持っています。従業員は障害のある人々、あるいはこれまで長期にわたって失業していた人、あるいはホームレスの人々などを対象にしています。

経済的な利益と社会的な利益は実際に両立可能

 これらの企業を見てみますと、経済的な利益と社会的な利益は実際に両立可能だということが分かります。

ソーシャル・エンタープライズが掲げる2つの目標

 もちろん会社企業ですから利益を上げ、リスクを下げるためにきちんと運営する。また持続性と収益を追求する必要性をきちんと感じています。一方で、社会的な企業というのは労働市場で不利な立場にある従業員の方たちとも一緒に活動してそして社会的な目標の実現に焦点をしぼらなければなりません。

ソーシャル・エンタープライズへの支援

 私たちは、ソーシャル・エンタープライズという言葉を使っているんですが、これに関して支援したり促進したりする政策というのはまだありませんが、現在開発中というところです。今のところは地方自治体が個々にこういったソーシャル・エンタープライズを促進あるいは支援していこうとしています。
 例えばヘンチェルという町では、2006年から2010年にかけてあるスローガンを掲げました。オランダ語ですが、英語に直すと”Together We are more visible”(一緒であれば私たちはもっと見てもらえる。)というようなスローガンを掲げました。

課題

 しかし、ソーシャル・エンタープライズにも課題があります。例えば適切な場所に自分たちの企業を設立できるか。それから起業するわけですからそのスキルはあるのかとか、どうやったらスキルを開発できるのか。それから政府とのやりとりも必要です。これをどうしていけば法律がいいのか。それからもちろん法律や規制がありますから、それらに自分たちの企業がどういうふうに合わせていけるのか。またやはり資金調達。これは企業も直面している問題です。

全国農業ケア支援局

 全国農業ケア支援局というのがありまして、農業とケアを結びつけてビジネスとして成り立たせています。これも一つ政府とそれからソーシャル・セクターがどのように協力していけるのか、ソーシャル・ファームの活動の発展のための一つのいい例であるということがいえると思います。

 福祉農園で売上税を免除されていますし、障害のある人たちや労働市場で不利にある人たち、精神的疾患の人たち、ホームレスの方々が従事することができるということで、オランダにはこのような農園が100以上あります。

 次に、ベルギーにおけるソーシャル・エコノミーについてお話ししたいと思います。こちらは多段階的なアプローチであるということであります。
ベルギーというのは本当に小さい国で1000万人ほどの人口です。大きく三つの地域に分かれておりまして、それが非常に特異な政治性があるということがいえます。言語もベルギーでは三つの異なった言語が使われております。

 各地域のソーシャル・エコノミーをご紹介いたします。ブリュッセルのような地域と南のほうのワロン地域ではかなり違いが出てまいります。南のワロン地域ではフランス語というのは話せるということもありまして人口は約350万人ほどでございます。ワロン地域におけるソーシャル・エコノミーの定義というのはこちらでございます。

ワロン地域におけるソーシャルエコノミーの定義

「ソーシャル・エコノミーとは、主として協同組合及び/または社会的目的を掲げている企業、非営利団体、共済組合、財団などが営む、商品の製造やサービスの提供を行う経済活動と理解されている。」

 倫理的価値観は次の4つです。
1. 利益の追求よりも、地域社会と地域の人々へのサービスの提供を最終目標とすること
2.自立した経営
3.民主的かつ参加型の経営
4.収入の分配において、資本よりも人と労働を優先 すること

 この定義というのはバロン地域のソーシャル・エコノミーに関する法令に記されております。このようにして法令として記載するという点が非常に重要です。

事業者について

 そしてこれに関係してくる事業者はいろいろありますが、ここの一番最初の統合事業者というところに本日は焦点をしぼってお話ししたいと思います。

 ソーシャル・エコノミーやソーシャル・ファームといった場合には広い視点からとられておりまして、最終的には障害者あるいは労働市場で不利益な立場にある人を社会的に統合することを目指しています。法令といたしまして「社会職業的訓練機関及び企業内訓練支援会社の契約と助成に関する法令」というのがあります。 その一般的な目的は、受益者の社会職業的統合への準備。そして、職業訓練及び雇用へのアクセスにおける、受益者の機会均等化促進の支援。さらに、各受益者が労働市場で直面する困難を踏まえた、訓練事業者との連携に基づく統合的アプローチによる就労経路の最適化です。

 2010年12月31日現在でわれわれの地域には89の社会職業的統合機関があり、約12,300名の研修生を受け入れています。そしてさらにワロン地域には72の企業内訓練支援会社というのがあります。ここでも一般社員の100名の研修生を受け入れております。 作業所というのは日本にもあると思いますけれども、こういったようなところも政府の助成の対象になっていたわけですけれども、だんだんと助成金が減らされる傾向にありまして、今統合事業者が企業として関わっています。

 そして適応労働企業というものもございます。この主な目的は、障害のある人々の能力の最大限発揮、継続的な職業訓練、職場環境の改善、適応労働企業内での昇進を可能にする評価プロセス、あるいは通常の職場環境における統合を確保することです。
ですからいわゆる社会的な企業と一般的な企業とのちょうど中間に位置するような存在であります。適応労働企業は約58社ほど存在しておりまして7,000名の障害のある労働者を雇用しております。そしてこれは1社が平均120名障害のある労働者を雇用しているということになります。

 それからもう一つ統合事業者という考え方がございます。統合企業の契約と助成条件に関する法令も2003年に制定されました。統合企業というのは社会的目的を宣言していますがほかの企業と同様な義務あるいは困難をかかえている企業で、統合と経済という二つの領域の境界に位置しているものであります。ここにおけます雇用というのは単なる職業訓練の域を超えて営利企業における見習い制度の域に達しており収益の追求という制約を行っております。
現在統合企業としては約170社がございます。これは2010年12月末の現在の数字ですが、170社が約2,500名の正社員を雇用しています。

まとめ

 こちらに数字をまとめてみました。まず社会職業的な統合機関というのは今89機関ございます。そこで非常に多くの研究生が働くためのスキルを学んでいます。それから企業内訓練支援会社。これが約70社。ここでも大勢の研修生が学びます。それから適応労働企業。これが先ほど申し上げたように58社。そして統合企業が170社ございます。ここでの正社員が2,500人です。ということで、すでに障害のある方たちに提供できるようなさまざまな場があるということになります。

グッドプラクティス

 ここでもう一つ皆さんにご紹介したい例がございます。やはり障害のある方がソーシャル・エコノミーの一員として仕事をしている例です。 家事代行サービスというものです。日本でもあるかもしれませんけどもバウチャーシステム、割引券を使うシステムです。障害のある方が家事代行しますよということで雇用創出の促進を目的に行われています。どういう仕組みかというと個人のユーザーさんが割引券を利用して申し込んで、自分ができないから例えばお掃除やお買い物を依頼します。価格は21ユーロで、これがサービスを提供する人に対する額です。ただし個人の負担額は7.5ユーロです。差額は連邦政府が払ってくれるという仕組みになっています。

 ここで目標としているのは、やはり全体的に雇用を創出することです。その前段階として、障害がある方のスキルをアップさせるためのトレーニングを行い、その次に仕事が見つけられるように、そしてお金がもらえるようにという一連の流れをきちんとつくりたいと考えています。

 ちなみに私が所属しているあるNGOでは、3社のソーシャル・エンタープライズを運営していますが、この3社で合計約150人ほどの障害のある方たちがフルタイムで仕事をしています。多くは例えば清掃の仕事とか、公園の管理・維持、庭園の運営です。7割ぐらいの人たちはトレーニングを受けて仕事をしています。仕事として受けるわけですから当然パフォーマンスやそれなりの成績を残さなくてはいけないので、継続したトレーニングがやはり大切です。だから訓練と仕事は常につながっているのです。

 さらにさっきゲーロルドさんがこれからEUと日本がどうやって提携や協力をしていけるだろうかということをお話されていました。私も一つアイデアがございます。実はビールを製造しているソーシャル・ファームもあります。これを日本の皆さんと組んで何かできないかなというふうなことも考えています。日本人の方皆さんビールをお好きなようなので。ベルギーというのはビールで有名な国です。今すでに900種類くらいのビールが製造されています。ソーシャル・ファームが製造しているビールもあるので、今後はこれを一つのビジネスとして日本の皆さんと組めたらいいなと思っています。私の話は以上になります。どうもありがとうございました。