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「欧州のソーシャル・ファームの概要と傾向」

ゲーロルド・シュワルツ氏
(前国際移住機関経済開発局プログラムマネージャー)

寺島:今日初めてセミナーに来ていただいておられる方々に少しだけ説明させていただきますと、ソーシャル・ファームはソーシャル・エンタープライズという社会的な企業の一つというふうにいわれておりまして、社会貢献を目的とする企業です。その中でソーシャル・ファームはいろいろ定義がありますが、イギリスの定義でいえば福祉に近い社会的な企業だということで、チャリティ団体がソーシャル・ファームに移行するというようなことが行われていたりします。 各国においていろいろソーシャル・ファームの定義が違いますが、もともとイタリアの精神障害者の病院が廃止になるということで、入院患者さんたちをどんなふうに支援するかということで病院の職員が自分たちで働く場所を作ったことから始まって、それがヨーロッパに普及して、今イギリスなどでは制度的に作っています。昨年ですけども北欧にもそういうものがあるということが分かり、ヨーロッパで普及しているということが分かっています。今日は、シュワルツさんは以前ソーシャル・ファームのヨーロッパで事務局長をされていた方でより興味深い話を聞きたいと思っております。それではゲーロルド・シュワルツさんどうぞよろしくお願いいたします。

シュワルツ:ご紹介ありがとうございます。今日は皆さまからもいろいろお話を聞かせていただけることを楽しみにしています。もう何年か日本に参り、その間に日本のソーシャル・ファームがどのような進展を遂げているのか私はいつも非常に気にかけております。

 このスライドは明日の国際セミナーに向けてのプレゼンテーションですが、今日はその中からいくつか焦点を絞ってお話をさせていただこうと思っております。おそらく今日いらっしゃっている皆さま方の関心は、最近の新しいデータではないかと思います。そして最終的にはヨーロッパと日本のソーシャル・ファームが一緒になってできることとして具体的にはどんなことがあるのかということも後半のほうでお話しさせていただきたいと思います。

 まず概要及び最新データですが、ヨーロッパにおきまして昨年行われた調査を元にしたデータです。ヨーロッパ全体にわたり、各国の調査報告書あるいは論文をもとにいたしました。また実際にソーシャル・ファームを運営している皆さまにインタビューをした結果や、政府や支援団体の皆さま方からのデータもまとめました。

ソーシャル・ファームに関するデータ

 こちらのスライドは、ソーシャル・ファームに関するデータで、実際に市場で運営しているソーシャル・ファームの活動です。自分たちの収益の半分を製品やサービスの販売から得ている会社です。障害者もしくは労働市場において不利益な立場に置かれている人たちを雇用していて、これが中核となるソーシャル・ファームのグループで、このまわりにはもう少しハイブリット的に、例えば訓練施設などの団体も存在しており、ヨーロッパだけで見ますとソーシャル・ファームの数は約4,000ということが言えると思います。

 残念ながら障害のある人々の仕事の数のデータとして使える数字が出てるいのは3カ国くらいです。いずれにしましても現在、4,000近いソーシャル・ファームがヨーロッパにはあり、10万近い仕事を創出しているということが分かります。ここでの仕事というのはお給料を支払われている仕事であります。この仕事のうち約半分近くの42,000以上の仕事の数が障害のある方々によって行われているということが分かっています。

 ソーシャル・ファームの業界は様々です。先ほど炭谷先生がおっしゃったような分野でビジネスを展開しているところもあります。観光に携わっている団体もあります。それから製造業やケータリングなどの分野もあります。だいたいはあまり大規模な設備投資が必要なものではない分野です。大きな工場やハイテクも実は数社はありますけれどもごく少数派で、あまり大規模な設備投資をしないでスタートできたソーシャル・ファームが多いです。

法的枠組み

 ここでは詳細にふれることは避けますけれども、大切なポイントとしてEUではすでに7カ国がソーシャル・ファームに関する法律を導入しております。
ヨーロッパのソーシャル・ファームが比較的良く成長している理由を考えてみました。成功の背景には3つのことがいえると思います。1つ目は法律などの公的支援、2つめは立ち上げの状況、そしてどんなサポートの体制があるかという支援機構。ヨーロッパの場合、ソーシャル・ファームを立ち上げるのに独特の環境というか独特の体制がしかれています。普通の会社を立ち上げるのとはまた違う仕組みがあるんです。

公的支援

 この3つを1つずつもう少し詳しくお話していきます。1つ目は公的支援です。どんな公的支援があるか。先ほどEU7カ国でソーシャル・ファームを対象としたいろんな法律ができていると言いました。そもそもEUの場合、ソーシャル・ファームに例えば予算がちゃんとあるというわけではなく、公的支援というのはもっと広範に資金があり、例えば、職業訓練、これは障害を持った方に対する職業訓練のための資金ですが、ソーシャル・ファーム用のお金ではないけれども職業訓練に使うお金をあてているとか、そういうことが行われています。またこれはソーシャル・ファームだけじゃなくて民間の企業で働く障害者の方にも使われています。

 それからもう1つ重要なポイントとして、ソーシャル・ファームを立ち上げようとする人たちは創造性を活用し、ファンドがないのであれば他に何が使えるのかということを考えながらソーシャル・ファームを立ち上げています。それから最近非常に有効な支援として考えられているのが減税です。ソーシャル・ファームに対する減税策がとられている国が多く、これは以前に比べますと大きな違いを生むようになっています。
例えば、ソーシャル・ファームに対してはVAT(付加価値税)が引き下げられています。それからあとは以前からそうですけどチャリティで得たお金に対する減税策などもとられています。それから国によってはソーシャル・ファームの立ち上げの際、税法上のインセンティブあるいは克服できるような策をとっているところもあります。それから最近ドイツでは、プロのコンサルティングを使えるように助成金が出るようになりました。

 それからもう1つ、ソーシャル・ファームの生まれたイタリアで非常におもしろい試みもされています。例えば政府で公共のサービスや建物を造るという案が出たときに入札があります。そのときにソーシャル・ファームのような社会的なミッションを持った団体に対して多少有利に図るというような工夫もされているようです。
 1つの例ですが、イタリアのけっこう大きな町でジェノバという町があります。ここでは学校給食のケータリングをソーシャル・ファームに依頼しています。それからある博物館でもカスタマーサービスをソーシャル・ファームが請け負う。あるいは公共の駐車場のメンテナンスをソーシャル・ファームが請け負う、というようなことを行っています。これらにより多くの雇用が生まれています。また特に障害を持つ方たちが非常に多く雇用されています。地方自治体にとっては別に追加コストは必要ないわけですからこれは非常に有効な策です。

立ち上げ状況

 さて次に立ち上げ状況についてお話をしたいと思います。ソーシャル・ファームを立ち上げるにしても、一般の人たちが自分の中小企業を立ち上げようと小さな会社を立ち上げようというのでもたぶん直面する問題点は共通すると思います。どういう製品を出せばいいのか、どんなマーケティングをすればいいのか、適材適所にどんな人材を確保したらいいのか。おもしろいことにソーシャル・ファームの場合失敗率というんですか、5年後にそのソーシャル・ファームが存在しているかという維持率ですが、立ち上げ5年後に駄目になってしまうのは10パーセント未満という数字が出ています。通常の営利企業の約半分ぐらいは5年以内に駄目になってしまうというデータが出ていますのでそういう意味ではソーシャル・ファームは非常に維持できるということが言えます。

 なぜでしょうか。もちろん理由はさまざまあるかと思います。でも1つ端的に言えることとして多くのソーシャル・ファームが実は比較的大きな組織、既に人材もインフラも整っているところから派生して進歩してするというケースがかなり多いようです。そのためにまったく何もないところからスタートするよりは比較的立ち上げの状況としてはいいのかもしれません。このことはおそらく今後ソーシャル・ファームを立ち上げてみたいあるいは興味があるという方たちにぜひお伝えしたいところです。ソーシャル・ファームを立ち上げるときに、もちろんリサーチは必要ですけれども営利企業を作るよりもリスクは低いということはお伝えできると思います。

支援機構

 そしてもう1つソーシャル・ファームを成功させるための要因としては支援機構が必要だということを申し上げたいと思います。何年にもわたっていろいろなソーシャル・ファームが生まれてきました。多くは大規模の組織の中からできあがった小さなグループだったかもしれません。ソーシャル・ファームを立ち上げ、他の機関とネットワークをつくって意見やアイデアを交換する場が必要だということも学びました。それからトレーニングも大切で、そのための支援も必要だということがわかりました。
 自分たちはこういうビジネスモデルを持っているというのを理解してもらうことも必要です。政府に対して話をして理解を求める。さらに今後協力をしてくださるような方たちに対して理解を求める。ですからいろいろな側面からの支援の仕組みが必要だということが分かりました。
 現在では三段階の支援の仕組みができていると思います。1つ目は、直接的なビジネス支援です。今では幸いソーシャル・ファームを支援するのに広い支援機構ができています。ソーシャル・ファームに対して具体的なアドバイスなどを提供するような人たちやグループができてきているということです。ソーシャル・ファームがビジネスプランを開発する際に投資家のニーズを計算したり。このような作業には時間もかかりますし、本当に1対1のきめ細かなサポートが必要ですが、そのような体制が整っているのでソーシャル・ファームにとってもアドバイスを求める場所ができているわけです。
 ソーシャル・ファームはイタリアでは30年、ドイツでは20年という歴史があります。最初は小さな組織でしたが、だんだんと発展してきて効率のよいシステムができあがってきました。ですから誰かがトップダウン方式でこういうふうにやったらどうか、ということで成り立ってきたわけではなく、内部の人たちが立ち上げ、そして発展してきた形であります。

最近の動向

 次に最近の動向をご覧ください。

最近の動向

 まず最近の動向の1点目ですが、欧州委員会で初めてソーシャル・ビジネス・イニシアチブが採用されたということであります。これは予算的にはそれほどそんなに大きな額ではないですけれども、とにかく欧州委員会で初めてイニシアチブが出たというところが非常に重要かと思います。これはソーシャル・ビジネスとしてあるいはソーシャル・エンタープライズという枠組に対してのイニシアチブでございます。
このイニシアチブとは、EUにおいてソーシャル・ビジネスに関してもっと協調していきましょう、ということです。各国間で補完的な作業ができないか、また例えば法律的な部分や資金へのアクセスというところでも協調ができないかということを探っていくということであります。また、ソーシャル・エンタープライズそのものはヨーロッパにおきましても公的に大きく取り上げられている議題にはなっておりますけれどもまだまだ認知度という意味では改良できる点があるんじゃないかということで認知度向上プログラムなども行われています。

 それから3つの主要な分野のうちの1つに資金へのアクセスというのがあります。これはソーシャル・エンタープライズに直接的に投資をするということではないんですけれども、資金繰りのためのファンドなどにソーシャル・ファームがアクセスできるようにするということがイニシアチブに含まれています。
そしてもう1つイニシアチブのプロジェクトといたしましては法的なものとか公共調達に関するものこれを1つの国だけではなくてもっと大きな範囲において広めていこうとかということです。あるいはソーシャル・エンタープライズの支援機構もそうであります。それを欧州委員会の位置付けのもとで強化してさらに今後の発展をサポートしていこうということです。
 そして3点目ですが、ソーシャル・フランチャイズ方式です。これももしかしたら皆さまもご関心があるところかなと思います。 数週間前ワルシャワでは会議がございまして、そこに招待されたわけですけども、この会議の中でいくつかソーシャル・フランチャイズの研究結果というのが発表されました。成功したソーシャル・エンタープライズやソーシャル・ファームのモデルを複製していくということであります。それをソーシャル・フランチャイジングというふうにいっています。

ソーシャル・フランチャイジングの例

 ドイツの例では、最初は大変小さい規模で障害者を雇用している中規模のスーパーがあり、最初は10店舗ほどでしたが、フランチャイジング化していくことによって現在500ほどの店舗になったという事例の紹介がありました。

 それから昨年、ソーシャル・エンタープライズの観光分野での報告がありました。このエリアでは日本とヨーロッパがおもしろい形で協力ができるのではと思っております。ネットワークの発展や迅速な展開というようなことが協力することにより可能ではないかと思っております。ツーリズムサービスを手がけるソーシャル・エンタープライズがあり、最初に最低標準を設定しています。また、いろいろな情報交換をしています。ですから観光に関して日本のことをヨーロッパに人々を送る、あるいはヨーロッパでオファーがないかということを探しておりますし、アクセシブルツーリズムということで日本と観光分野での協力が成り立つのではないかと思います。

 最後にEUと日本の連携に話を持っていきたいと思います。今回で来日は6回目になります。毎回日本でどういった進展があるのか大変興味深く拝見させていただいております。ソーシャル・ファームジャパン設立の時も注意をはらって見させていただいております。今回は少しいつもより時間をもう少し設けましてこのEUと日本の協力連携といったようなところで具体的にどんなことが今後可能なのかということをもう少し考えていたいなというふうにも思っております。

EC-日本の連携についてのアイデア

 まず当初はあまりお金をかけずにどんなことができるのかアイデアを出してみたいと思っています。研修に関する情報交換とか、実際にどうやって人々をサポートしていったらいいのだろうか。あるいは技術的な支援としてはどんなことができるのかということをインターネットで情報交換できると思います。
 それから様々なデータが交換できると思っております。例えばドイツではベンチマークのシステムというのがあります。ソーシャル・ファームがどれぐらい進展しているのか、どういった形で成功しているのか、政府が興味を持つようなデータがあります。これらの情報は保護されていたり秘密ではありませんのでヨーロッパや他の国々でも共有できる情報です。

 そうしてもう1つの分野は新しい製品とサービスの共同開発です。社会的イノベーションという観点から現在ヨーロッパでは非常に幅広く行われております。ソーシャル・ファームとしての革新性というものを追求していった場合に具体的にどのような商品やサービスが考えられるのか、これによって実際に収益を得て雇用を増やすということが可能になります。
 先ほどヨーロッパには4,000ほどのソーシャル・ファームがありますと申し上げましたけれども、やはりその中で新しい商品やアイデアをどんどん出してこれるところというのはそんなに多くはないです。ですからこのような点がソーシャル・ファームが今後どのように発展していけるかの基礎になると思います。そういった意味では日本は製品開発や製品設計が非常に素晴らしいと思いますので、このようなところでも何か連携ができればなと願っております。 皆さんからのご質問などもお受けしたいと思います。ありがとうございました。

(拍手)

寺島:どうもありがとうございました。意見交換の時間が最後にありますのでそこで質問あるいはご意見をいただこうと思います。今お話いただきましたようにソーシャル・ファームは社会的な企業であるということです。実は私たちどうも施設のイメージからなかなか抜け出せないところがあるんですけれども、基本的には企業などで要するに自分で稼いでいなければならないということなので補助金をもらうというのは前提になってないんです。その補助金がある場合でも国によって、例えばドイツなどは1年目はいくら、2年目いくらとどんどん減って3年ぐらいでゼロになる、そういうシステムを持っているところもあれば、イギリスのようにまったくそういう補助はないところもある。ただ税金の控除はあります。あるいはロゴみたいなのがあって、そのマークがついている製品を優先的に買うとか、そんなことをやっているようです。基本的に企業であるというところを抑えておかないといけません。では日本はどんな形にするか我々は考えてきていて、ソーシャル・ファームジャパンのマークがあります。このあとの意見交換のときにそういったことを具体的にお話していただきたいなと思っております。
 次はオランダとベルギーのソーシャル・ファームです。オランダはご存じのように奇跡の経済復興をした国で日本でもいろいろ有名です。1970年代、一時期社会補償制度が危機に陥ったときのことを聞き、それが今逆に発展していったということもあります。そういったことも何か背景にあるかもしれません。それではバーナード・ジェイコブさんよろしくお願いいたします。