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国際セミナー報告書
インクルーシブな障害者雇用の現在-ソーシャル・ファームの新しい流れ

【報告2】

中崎ひとみ
 社会福祉法人共生シンフォニー 常務理事

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スライド0 (スライド0の内容)

皆さん、こんにちは。滋賀県大津市から来ました中崎と申します。よろしくお願いします。大津市は皆さんご存じのとおり京都の横にあります。約33万人の中核になったばかりの地方都市です。その中で私たち設立から26年たつんですが、26年かかってきた活動の紹介を15分でやってしまいたいと思います。

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スライド1 (スライド1の内容)

これが最初に立ち上げた作業所の様子です。左側の丸の中にあります車いすの男性、彼が門脇謙治と言います。作業所の設立者です。彼は自ら重度の脳性マヒの障害がありましたが、自分も親から経済的な自立をするんだと。自立というのは経済的な自立であって、親に扶養してもらうということではないと言って立ち上がった作業所です。そのような理由でしたので、私たちも障害者の経済的な自立ができる働く場所を作るというのが第一義の目的でありました。

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スライド2 (スライド2の内容)

その当時から販売事業を行っていましたが、事業はそんなにうまいこといきませんでした。収益が上がらず改革や工夫を重ねて、やっと1995年に理念どおりに障害者全員と雇用計画を締結しました。そのときに利用していた福祉制度は障害者の認可作業所の補助金です。

左側に見えますのが以前の作業所で、このような20坪くらいの小さなプレハブで障害のある人10人くらいでやっておりました。調子に乗りまして1996年に雇用契約を締結して翌年に新事業としてクッキー工房を作りました。クッキー工房を作って、今まで販売事業だけでしたので、販売事業の他の製造という事業を増やしますと、障害のある人たちだけでなくいろんなハンディを持った職員の方々が働きたいとやってきたわけです。そういう方々というのは、母子家庭であったり、ずっと引きこもっていた人たちでした。障害者ではなく職員としてやってきたわけです。そのときに私たちは、障害者が働きやすい場所というのは誰にとっても働きやすい場所であるということに気がつきました。これは街のインフラと同じように、駅でも障害者が使いやすいところはみんなが使いやすくなっているということだと思います。

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スライド3 (スライド3の内容)

私たちの目的は障害者の働く場所づくりだったのですが、他の作業所と同じように低い生産性と競争の市場の中で非常に資金繰りに悩み続ける毎日を送っていました。当たり前ですが身体と知的の人の比率が多いため、障害のある人のできる作業が少ない。数はできない。介護に健常者の手がとられる。全く市場の中で私たちは戦えないというのを再認識させられる毎日でした。

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スライド4 (スライド4の内容)

そんな中でもう一回、障害というのは何だろうということを考え直しました。そしたらイタリアの社会的協同組合があるよと。イタリアでは精神病院もないし、重度の障害者や精神障害者が働く場所があるんだよというのを聞いて、見学に行ったわけです。スライド3の写真、これはもう倒産したらしいんですけど、ソーシャル・ファームというのはリスクを負うので倒産することもあるようです。電子機器の会社です。中間支援を3団体見学いたしまして、コインとタンデムとレーガ、こちらに団体のマークが書いてあるんですが、こちらの方に見学に行き、現場と支援の仕方を勉強させていただきました。

余談なんですが、重度障害者というふうにヨーロッパの方はおっしゃるので、授産施設にいる私たち障害者福祉に関わる者が思う重度障害者を想像して行きましたら、結構皆さん障害が軽くて。向こうの方々が言う重度障害者は、職業的重度障害者を言うのかなとちょっと思ったりもしています。

その中で、職業的なハンディというのは機能的な障害のハンディだけではなく、環境とか職業のマッチングによって障害やハンディが起きるのではないかと思ったわけです。

私はイタリアの方に影響されておりまして、イギリスのソーシャル・ファームの方はあまり勉強をしておりませんが、イタリアではA型とB型というふうに社会的協同組合があります。A型というのはサービス提供型と言いまして、見学に行った先では、いつも私たちが目にする光景の授産施設や、保育園など福祉サービスの施設が多かったです。それとB型というのは労働統合型でしたので、障害を持った人たちやいろんな環境的なハンディを持った人たちが働いておられました。

そのときはイタリアの社会的協同組合という言葉しか知りませんでしたが、炭谷さんの講演をお聞きしてヨーロッパにもいっぱいそういうふうに考えている国はあるということで、ソーシャル・ファームというのと初めて出会いました。私たちがやろうと思っていたのは、もしかしてソーシャル・ファームじゃないかと。障害者福祉ではなくソーシャル・ファームというのをやりたかったのではないかというふうに思いまして、ソーシャル・ファームの制度を探したんですが、日本ではそういう制度はもちろんありませんでした。今ある制度を使ってソーシャル・ファームを運営するしかないのではないかということで、そのときに使えるものをいろいろ頑張って探しまして、今このような形でやっています。

障害者自立支援法の給付金制度と高齢・障害者の雇用支援機構による補助金をいただいています。それと下の方で、一時的な時限措置、6ヶ月から1年ぐらいでありますが、こちらでは高齢者と母子家庭と障害者が労働助成として下りてくる。このような助成金を利用しながらやっています。

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スライド5 (スライド5の内容)

時間経過とともに全員が働く場にするのに資金的に、あるいは生産能力的に、あるいは障害を持った人たちのニーズ的に苦しいこととなりました。ですので自然発生的に二つのタイプの施設に分かれてきました。

左の方が「稼得労働ではなくサービス提供型」と書いてありますが、障害を持った人たちがサービスを受けるところです。こちらの方の職員の中には、環境的にハンディキャップを持った人であるとか、あるいは高齢者のデイサービスセンターでは知的障害の人が職員として働いています。右側の方はA型ですので、もちろん障害を持った人たちも従業員として働いております。

法人全体の人数は全部で107人です。そのうち障害者雇用はA型としては54人、その他、他の施設の職員として1名。母子家庭と書いてありますが、これも難しくて母子家庭だった人まで入れるともうちょっと人数は増えます。最初は母子家庭なんですけど結婚したら母子家庭でなくなるし。高齢者も、一体何歳から高齢者なのかといつも思うんですが、とりあえず65歳以上は6人です。定年退職者は(公務員は60歳までなので)、定年退職された方を入れるとさらに増えます。ニートだった人とか、ホームレスだった人も入ります。ホームレスだったのですが、うちで就職して住宅を斡旋したらホームレスではなくなるので、一体どこまでカウントするのかなと思います。

刑余者も実は3人おられまして、薬物中毒であった方とか執行猶予がついた方というので、混ぜると3人ですが、精神障害者の手帳をもらってもらうと障害者の方にカウントされましたので1人となっています。

その他、生活保護受給者というのがかつて何人もいらっしゃいまして、その方々がうちで働くことによって賃金を得て生活保護からの自立、あるいは減額というふうになっております。

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スライド6 (スライド6の内容)

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スライド7 (スライド7の内容)

A型としてがんばカンパニーを紹介しろと言われたので。概要を説明します。平均賃金9万3,000円。これは障害者手帳を持っている障害のある人の賃金です。労働時間は一日4~8時間。これは障害のある人が働きやすいように徐々に増やしていくようにしています。

うちは製菓の製造販売をしておりますが、事業費は2億円の売り上げがあります。ちなみにA型の給付金は年間4,000万円ぐらいです。

最近は大企業と競争すると非常に負けることが多いので、プライベートブランドの営業を頑張っておりまして、これもニッチな事業の取り組みだと思っています。そういう製菓の隙間部分の事業を一生懸命しているということです。

障害を持ちながらでも親御さんを扶養していたり、あるいは障害を持っているシングルマザーもいらっしゃいますので、社会保険加入は半分くらいの人が入っています。

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スライド8 (スライド8の内容)

私たちは26年間、障害がある人の働くということに取り組んで苦しんできました。わかったのは、資本主義の中で競争市場の中で生産性にハンディがある重度障害者ばかり集めても、やはり賃金は払えない。それならばどうするのか。能力的なハンディではなく環境的にハンディがある、就労困難な、社会的排除を受ける人たちと一緒に働くことによって、それぞれの生産性を補完して協働して働く、労働に参加できる機会を作ることによって、それぞれが経済的な自立をできるんじゃないかというふうに思っております。

これで終わらせていただきます。