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国際セミナー報告書
インクルーシブな障害者雇用の現在-ソーシャル・ファームの新しい流れ

【基調講演】「日本におけるソーシャルファームの動向」

炭谷 茂
 ソーシャルファームジャパン理事長
 恩賜財団済生会理事長
 大正大学客員教授

講演要旨

1 日本において解決されない多くの社会問題の増加

(1)古くからある問題は、むしろ深刻化
①ホームレス
  人数は減少したけれど、実質的なホームレスの増大、若者のホームレス
②障害者の社会参加
  障害者の就業率、不況時に真っ先に解雇される
  そのほか高齢者の社会参加、刑余者の社会復帰など
(2)次々に新しい問題が発生
①孤立死、孤独死、無縁死
  さいたま市、立川市、札幌市など各地で孤立死の発見
②住環境の悪化
  昨年11月 東京都東新宿の5名の高齢者の焼死
  都市部の老朽化した高齢者住宅、空き家
  限界集落

2 これらに背景にある要素に着目

(1)社会との関係
家族・親族、地域社会、企業の絆の脆弱化 → 社会的孤立・排除
(2)貧困
貧困層が沈殿・増加
高齢者、母子家庭、リストラされた50代、ニート、子への承継
(3)他人との濃密な関係を避ける傾向

3 ソーシャルインクルージョンの理念の重要性

(1)国際的潮流
若年失業者、貧困者 障害者 外国人 薬物依存 ホームレスなど
(2)20年3月9日東京、14日大阪でソーシャルインクルージョンの重要性を訴える
(3)最近、日本でもソーシャルインクルージョン政策が推進

4 ソーシャルインクルージョンを具体化させるには

(1)具体的な事業が必要
仕事、教育、余暇活動の機会の喪失 ⇔ 社会的排除・孤立
(2)仕事が重要
①仕事の意義
  人間としての尊厳、経済的自立、心身の健康、人間としての成長
  なによりも人とのつながり
②今日の働く場の状況
③第3の職場の必要性
  公的職場、一般企業
  第3の職場として → 社会的企業
  社会的な使命、ビジネス的な手法、生きがいのある仕事
  住民参加

5 その一つとしてソーシャルファームの有効性

(1)日本に2千社の設置を
対象者は2千万人以上
障害者、高齢者、難病患者、ニート、引きこもり等の若者、刑余者など通常の労働市場では仕事が見つからない者
(2)ソーシャルファームの位置づけ
生涯の働く場として
次の職場への中間施設として
ベンチャービジネスへの発展

6 日本におけるソーシャルファームの展開

(1)未来の日本を担う分野に進出
今後の成長産業 他との競争に勝てる、社会的意義が大きい
①環境
  3R …  秦野市の弘済学園の古本販売
        江東区のエコミラ江東の廃プラリサイクル
        西尾市の「くるみ会」の食品廃棄物のコンポスト化
    回りの物すべてが3Rの対象になる
  地球温暖化対策につながる
    玉野市の「のぞみ園」の竹を伐採し、竹炭作り
  生物多様性にも
    北海道のエゾシカの皮の活用
②農業、酪農
  北海道新得町の共働学舎のチーズ作り
  飯能市のたんぽぽによる自然農法等による野菜栽培
③福祉
  豊島区の豊芯会による高齢者向け宅配弁当
④サービス業
  特産物の販売、芸術作品販売、ホテル、コンビニも
(2)発展していくためのポイント
平成20年 ソーシャルファームジャパンを設立
①商品・サービスの開発
  皆で考える(サロンの効用)
  需要がある、ニッチなもの、独自性、労働集約的、デザイン力
②販売力の強化
  ソーシャルファームのネットワークの形成
  アンテナショップ、商品カタログの作成
  ソーシャルファームブランドの確立、ロゴマーク
③経営資金の確保
  国、地方自治体の助成、民間助成団体
  探せば必ず見つかる
  ソーシャルファームのスピリットは、税に依存せず、自主独立が基本
④支援者の確保
  資金、ボランテイア、消費者として
⑤健常者とのコラボレーション
  それぞれの特徴を発揮

7 結びとして

(1)まちづくりとして
活気のあるまちに 中心市街地の空洞化対策も
(2)国際的な連携で

講演

ただいまご紹介いただきました恩賜財団済生会理事長、またソーシャルファームジャパンの理事長を務めております炭谷と申します。今日は、現在のソーシャルファームとは何なのか、日本においてどのような動向になっているか、そのようなことについてお話しさせていただきたいと思っております。皆さま方の手元に私のレジュメを置いておりますので、それをなぞりながら聞いていただければありがたいと思います。

1 日本において解決されない多くの社会問題の増加

多分、皆さま方と思いは同じだと思いますが、どうも最近の日本、どこかおかしいんじゃないかと思います。古くからあるような問題はなかなか解決していない。例えばホームレスの問題を取り上げましょう。ホームレスはこの大阪でもそうですけれども、確かに少なくなりました。今年の1月、厚生労働省の発表したホームレスの数は8,933人。私が国家公務員の仕事をしていたときには3万人でしたから、はるかに少なくなりました。街の中で、路上や公園で寝ているホームレスも確かに大幅に減りました。しかし本当にホームレス問題が解決したのかということになると、一般の人は解決したと思っているかもしれませんけれども、ホームレスに対する支援活動をしている人たちは、いや違うんだよ、と言います。野外で起居をする人は確かに少なくなりました。しかしちょっと見れば実質的にホームレスと同じ状態の人は減ってはいない。むしろ増えている。問題は深刻化していると思います。というのは、日本では少なかった20代のホームレスが逆に増えている。そしてそのホームレスの人に会うと、彼らは自分がホームレスであることを認識していない。決まった住居を持っていないが、ホームレスだと認識していないホームレスがここ2~3年、日本の社会に現れている。ですから、問題はむしろ深刻化しているととらえなければいけないのではないかと思います。

また、今日のメインの我々の考える対象である障害者問題。これも決して解決はしていないのではないでしょうか。障害者の就業率は、精神障害者は17%しか就業していない。知的障害者の方は52%です。半分以上が就職、就業していますが、福祉的な施設の就業が多くなっています。リーマン・ショックのときもそうでした。また今回の東日本大震災のときでも真っ先に解雇されたのは障害者の人でした。この他、昔からある高齢者の社会施設、刑務所から出てきた人の社会参加、なかなか進みません。

古い問題が残っているにもかかわらず、さらに新しい問題が次々に発生します。阪神・淡路大震災のときに、「孤独死」という問題が起こりました。今では孤独死と言わなくなりました。代わって「孤立死」という言葉を使わざるを得なくなってきました。複数の人が亡くなる。亡くなった後、発見されるまで1ヶ月、1年後に発見される。札幌市では妹さんが知的障害者で、お姉さんが亡くなった後、妹さんも亡くなってしまった。2人以上が亡くなっている。東京では国立市、埼玉県ではさいたま市、横浜市、続々とこのような事件が起きました。かつては考えられなかったことだと思います。

また、住環境の悪化。昔は大きなスラム街というのが日本の社会に出現していました。しかし今はだんだん小さなスラム街というものが大都市を中心に現れている。ここに注目しなければいけないんじゃないかと思います。かつて大きな面積のスラム街が日本の社会にありました。現在もあります。それに加え、小さな、1個、2個、3個と住環境の悪いところが生じ始めている。昨年の11月、東京の東新宿で老朽化したアパートが焼けました。そのとき5名の高齢者が焼死しました。いずれも生活保護の受給者でした。その住居状況を見てみると大変劣悪である。周辺の人も、そこに住んでいた人の顔も見たことがない。いやその周辺の人だけじゃなくて、同じアパートにいた人も、どんな人だったかお互いに知らなかったと言っているわけです。大都市だけではなくて地方都市にも、また山間部の限界集落にも同じような問題が生じ始めているわけであります。

2 これらに背景にある要素に着目

これらの問題を考える場合に気をつけなければいけないのは、単に表面的な問題を考えるのではなく、日本社会の背景に横たわる経済と社会の問題に注目をしなければ問題の解決に至ることはできません。

まず何なのか。三つあると私は思っております。第1は社会的な問題。これは皆さま方も同感されるでしょう。家族、親族、地域社会、企業のつながりがなくなってしまった。脆弱化してしまった。そのために一人ひとりの人間が孤立をし、場合によっては弱い人間が社会的に排除されている。これが日本の社会の構造的な変革をきたしている。

第二番目は、日本社会は中流社会と言われてきました。しかし日本の経済の状況はだんだんと貧困層を増やしてきました。高齢者、母子家庭の人、障害者、また20代、30代前半までたまったニート世代。このような人たちが日本の貧困層を形成し始めて、そしてその数が多くなってきているという経済の構造変化に注目をしなければ問題はわかりません。

第三番目は、社会心理的な問題です。徐々に、人と人との濃密なつながりを拒否するという日本社会の状況があるのではないでしょうか。情報化が影響を与え、人と人とのつながりを拒んできている。このようなことが今、日本社会に起きている。

この三つ、経済、社会、人間の心理、このようなものが背景にあって、古くからある問題はますます深刻化し、新しい問題が発生し始めている。このように私は思っております。

3 ソーシャルインクルージョンの理念の重要性

日本の大きな構造的な変化、問題、それに着目をしないと、なかなか問題の解決にはいたりません。そのためにどうしたらいいのか。問題の指摘だけをしても仕方がないわけであります。そのヒントになるのは今日ゲストで来ていただいているヨーロッパの動きであります。世界の流れは、日本もヨーロッパも同じです。日本で起こっている問題、またはその背景にある問題は、ヨーロッパも全く同様であります。例えば若者の失業者が増加しています。また貧困者、高齢者、外国人、薬物依存症の人、また、ホームレスの人。そのような人たちが社会的に排除し始められている。これがヨーロッパの国々に大きな問題を起こしているわけです。

そのためにとられている政策がソーシャルインクルージョン。社会の一員として迎えよう。日本語に直せば社会的包摂という言葉になろうかと思います。このようなソーシャルインクルージョンという政策がヨーロッパの中で一番重要な政策理念として1990年代、20年前くらいから登場し、今ではこれがヨーロッパの政治の理念の大きな柱になっています。日本ではまだ批准されていませんけれども、障害者権利条約の基本理念もソーシャルインクルージョンを基本にしていることはご案内のとおりです。

でもなかなか日本でこのソーシャルインクルージョンの考え方が定着しません。私はこれに対して、ある苛立ちを持って2年前の3月に東京で、また同じ月の3月に大阪で、日本でもソーシャルインクルージョンが必要だということで集会を開かせていただきました。この中でも参加していただいた方がいらっしゃるでしょう。300人くらいの方が熱心に参加をしていただきました。徐々にではありますけれども、現在では日本の中央の政治の世界でも、やはりソーシャルインクルージョンが必要なんだということになりつつあるのではないかなと。現在の日本の政治の中にヨーロッパと同じようにソーシャルインクルージョンの考え方が導入され始めました。

4 ソーシャルインクルージョンを具体化させるには

では、このソーシャルインクルージョンとは何なのか。ここが重要だと思います。これが国家政策という以上、何をしたらいいのか。これが大変重要なテーマになります。このソーシャルインクルージョン、日本の場合は、私はいつも言うんですけれども、日本の政治や行政の中で、このような理念が出てきた場合に行われる社会的な啓発、社会的な教育運動、このようなことが必ず起こります。例えば若者の失業者、ニートたち、ホームレス、障害者、その人たちを差別しないでできるだけ地域社会の中に温かく迎え入れて、みんなで一緒に助け合って生活しようというキャンペーンが行われます。場合によっては小学生の作文コンクール、ポスターを募集する。そのようなことが行われます。「これがソーシャルインクルージョンの政策だ」と言われるんです。

本当にそのようなことがどの程度効果があるのか。全く効果がないとは私は言いません。しかし、そのようなことは決め手にはなりません。決め手になるのは、私は本日の話題である働くということ、教育ということ。この2つがこのような問題を解決する要だと思います。就労と教育、その機会がないために社会的な孤立や社会的な排除、いわばソーシャルインクルージョンの目的である社会的な孤立や社会的な排除が起こっている。また社会的な孤立や社会的な排除があるために働く場所がない、教育の機会がない。その両者の関係に注目をしなければいけないんです。ここが重要なんです。単なる社会的な教育や啓発で済む話ではないんです。就労、働くということ、教育ということ。これと今日の社会の背景にある社会的な孤立や排除という問題が相互に大変密接な関係があるわけです。仕事がなければ、教育の機会がなければ社会的に孤立をしてしまう、排除をしてしまう。そういうことだと思います。

皆さま方も経験的におわかりでしょう。人と人とのつながりというのは、一緒に仕事をすることによってつながります。また、一緒に学ぶことによってお互いに知り合う。まさに社会的なつながりができるわけです。仮に社会的に孤立をしている、社会的に排除されていると、働く機会もない、一緒に学び合う機会もないということです。

この関係を断ち切らなければいけない。そのために仕事、教育という機会をいかに用意するか。これが重要なポイントであります。

今日は仕事という面に注目をしたいと思っています。

仕事の意義は言うまでもありません。仕事をすることによって経済的な基盤が得られる。また規則的に正しい生活をすることによる心身の健康、また、人間としての成長、いろいろとあります。また、人間としてのプライド、尊厳性も確保されます。

でも、仕事というものの最も重要な点は、人と人とのつながりができる。これが重要な点だと思います。仕事をするということが重要なことは誰でもわかっているんですけれども、問題はその働く場所があるかどうか。ここが問題であります。

先ほど申し上げましたように、障害者を例にとると精神障害者で働いている人は17%しかいない。このような状態がまだまだ日本の社会にあるわけです。それではそのような人たちに対して働く場所をどのようにして用意したらいいか。現在日本の社会の仕組みの中には2種類あると考えられると思います。通常は一般的な企業です。大半の人は一般的な企業で働いています。しかし、何らかのハンディキャップのある人はなかなか一般的な企業で働くことができない。そのために法律で障害者の雇用率が定められています。現在は従業員の1.8%を雇用しなければいけないとなっていますけれども、残念ながら日本の平均は1.7%しかいきません。私が理事長を務めています済生会は日本最大の医療福祉団体、多分、世界最大の医療福祉団体ですけれども、5万人の職員を雇用しています。かろうじて以前は1.8%をクリアしていますけれども、今は努力をしまして2%を超えることができました。しかし残念ながら日本の企業全体の平均は1.8%に到達していない。

第二の職場として公的な職場があります。昔の言葉で言えば授産施設、小規模作業所、福祉工場のようなものです。まだまだ充実させなくてはいけないと思います。しかし予算の関係でなかなか増えない。残念ながら働いても1ヶ月1万円いくかいかないかという水準にとどまっている。

そこで、私どもが必要なのは、第三の職場づくりではないかと考えているわけであります。第三の職場づくりとは何なのか。これは、現在の一般企業と公的な職場とのハイブリッド型、両者の要素をもってきたものであります。つまり一般企業のようにビジネス的な手法で行う。しかし公的な職場と同じように社会的な目的を有している。例えば障害者の働く場所を作ろう、刑務所からの出所者の仕事場所を作ろう、ニートたちの若者のための仕事場を作ろう。このような社会的な目的を有している。そしてできれば、最近の言葉でいえばディーセントワーク、生き甲斐のある職場にしたい。

そして何よりも重要なのは住民参加。これがないとソーシャルインクルージョンは果たせない。一般企業に対して住民が参加するというのは原則ないと思います。住民が一緒になって働く。これが社会的企業の一つの重要な要素だと思います。

5 その一つとしてソーシャルファームの有効性

その一つとして今日のメインの話題であるソーシャルファームというものがあるわけであります。ソーシャルファームは、後ほどヨーロッパの人からもお話があると思います。イタリアで起こりました。ヨーロッパでどんどん発展していきました。日本ではまだまだ進んでいません。私は、日本の状況を考えると、ソーシャルファームの手法は大変役に立つのではないかなと思っております。

そこで、今から4年前に日本に2,000社作ろうと呼びかけました。なぜ2,000社か。ちょうど平成の大合併、市町村の合併で日本では1,800の市町村になりました。大体、1市町村に最低1つくらいは必要だと思ったからです。

それとともに、2,000社、そんなに作れるかという言葉が投げかけられましたけれども、私は2,000社でもまだまだ少ないと思っております。というのは、対象者の方が日本に少なくとも2,000万人以上。ソーシャルファームで働くのにふさわしい人が2,000万人以上いらっしゃると思っています。いやそんなにたくさんいないだろうと、あるところから言われたことがあります。そんなことはない。日本の統計はやや狭すぎます。障害者だけでも現在、1,000万人以上はいらっしゃると思います。高齢者、65歳以上の人も2,900万人。難病患者の人は日本では数百万人。またニートたちは現在、毎年6万人から7万人出現している。引きこもりの若者は政府の統計ですと70万人ですけれども、私はNGOが推計しているとおり200万人以上はいらっしゃると思っています。このような数を重複計算を除いても最低でも2,000万人以上いらっしゃるのが日本の社会ではないのか。そのような人が、働いていてもどうも自分に合わないなと。もっと自分の生き甲斐を感じる仕事を見つけられないのかなという人がいらっしゃると思います。また、全く働けないという人も多いと思います。そのような人たちに対して最低でも1市町村1カ所、2,000のソーシャルファームを作る必要があるのではないかなと思っています。

そこで、今お話をしたソーシャルファームの位置づけということについて触れてみたいと思います。

ソーシャルファームの位置づけは、私は三つに分けて考えています。

一つは今申した2,000万人以上の人が、そこを生涯の仕事として働いていただく。それでももちろん結構だと思うんです。それからそこは単なる訓練だと、社会に出るのに慣れる、もしくはある一定の職業訓練をした後、一般企業に移りたいというときに中間的な位置づけ、それも結構だと思うんです。三番目には、ソーシャルファームはビジネス的な手法でやりますから、どんどん発展して一般企業に発展していく。夢の夢かもしれませんけれども、日本の株式市場の第一部に上場される、そうなれば理想的ですけれども。

このような三つのパターンがあると思います。一つのソーシャルファームが三つの特色を持ってもかまいませんし、二つだけ持ってもかまわない。また一つだけに限定されてもかまわない。三つのやり方があるだろうと考えています。その柔軟性がソーシャルファームの持ち味です。

6 日本におけるソーシャルファームの展開

それでは日本における現在のソーシャルファームの展開はどのようになっているのでしょうか。私は4年前にソーシャルファームを2000社作ろうと言って呼びかけました。平成20年12月にこれに関心を持つ人たちと一緒にソーシャルファームジャパンを立ち上げました。予想以上にたくさんの人の賛同を得ました。やはり同じような問題を抱えている、悩んでいる人がたくさん周りにいらっしゃるからだと思います。

そしてソーシャルファームの分野としては、これからの日本の成長産業、そういうものを担う。また、社会的な意義の大きいものを担う。これがソーシャル・ファームの特色です。

つまりソーシャルファームはなぜ生じてきたか。最初にお話したことの復習になりますけれども、社会的な問題がある、このような大きな問題を抱えている。その背景には日本社会の経済と社会と社会心理という大きな変革がある。そこからソーシャルファームの必要性が生じてきているわけですけれども、そのソーシャルファームが活躍する分野自身が、日本の発展する産業そのものなんです。つまりソーシャルファームを仮に福祉ととらえれば、その福祉と経済と社会とが見事融合していく、そのような関係であります。福祉だけがポツンと孤立しているものではなくて、これからの社会は福祉は経済や社会と互いに融合していく、その観点を持たなければいけないんじゃないかなと考えております。

どんな分野なのか。まさに日本の発展する分野です。

第一は環境の分野です。3Rの分野が大変有望です。私はいつも何とかソーシャルファームを発展させたいと思っていますので、どんな仕事があるのか、汽車の中やちょっと暇なときは常に考えます。その場合、3Rというのが大変役に立ちます。例えばソーシャルファームとして起こっている鉄道弘済会の保護者の方々は中古本の販売を始められました。障害者の方々が寄付で集めた本を丁寧にオイルやサンドペーパーや消しゴムできれいにする。ハトロン紙でそれを包装する。そしてアマゾンのインターネットで売る。そういうビジネスモデルです。そしてできるだけゆっくりゆっくり仕事をしよう。これが障害者の特性です。慌てない。そして売れなくてもかまわない。ゆっくりゆっくり、早くでなくてもかまわない。そのようなビジネスモデルでやっています。

ある中小企業のコンサルタントから笑われました。このようなビジネスモデルは必ず1年後にはつぶれているだろうとご託宣を受けました。結果はどうだったでしょうか。日本で著名な中小企業コンサルタントの敗北です。我々が勝ちました。現在ますます発展をしています。必ずビジネスとしてうまくいく方法はあるのだと思っています。

また、次に書きました東京の江東区にエコミラ江東という施設が2年前の4月に発足しました。ここは廃プラスチックのリサイクルをやっています。江東区の9,000ヶ所のゴミステーションから集められた廃プラスチックを分別し、ペレット化し、それをプラスチック業者に販売するというものです。ゴミがどんどん集まってきますから、たまると悪臭の問題がありますから、確実に処理をしなければいけない。ということで最初のうちは10名の大学生をアルバイトとして雇用しました。それと10名の知的障害者が一緒に働きました。最初は確かに10名の大学生の方がうまくやりました。しかしだんだん仕事に習熟してくると、知的障害者の人の方が熱心に能率よくやります。大学生の方は飽きてきて手を抜き始めました。1年後には大学生の人にはすべて辞めてもらいました。現在は1名増えて11名の知的障害者が働く。月給は月12万円になっています。医療保険は協会けんぽです。去年の10月、そこで働いているある方が、お母さんは国民健康保険だと。何とかして自分の協会けんぽの被扶養者にできないかという相談がありました。月給12万。そのほか障害年金が出ます。そこで協会けんぽに相談をしたところ、何の問題もないですよと。当然被扶養者にできますよと。そのお母さんは、障害を抱えているお子さんの将来が心配だ、このままじゃなかなか死ねないと心配をしてらした。それが現在では立場が逆転をし、エコミラ江東で働いている知的障害者の人が、お母さんを被扶養者にして頑張っていらっしゃいます。今では江東区に対して税金を払う立場になりました。

このほか地球温暖化で竹を伐採してそれを利用する。また、北海道ではエゾシカが大変多くなっています。そのエゾシカの皮をうまくハンドバッグやジャンパーなどの衣類に使えないか。そのようなことも、このようなソーシャルファームの対象に十分なり得る。このようなことを現在、工夫して考えているところであります。

第二の分野は農業や酪農です。今日も会場に来ていただいていますけれども、北海道の新得町の共働学舎、70名の何らかの社会的な問題を抱えている。障害者の方もいらっしゃいます。サリドマイドの薬害のために手の不自由な人も入っている。引きこもりをしていた若者も入っている。それらの方々70名がチーズ作りをやっている。大変おいしいチーズです。パリのチーズコンクールではグランプリをとられた。その中心になっているのは、今日会場に来ていらっしゃる宮嶋望さんが中心になって進められました。先月の日経新聞の日本のチーズベストテンを見ると、第7位になっていました。7位じゃないだろう、本来はトップじゃないかと私は考えましたけれども、日本の代表的なチーズとして既に定着をするまでに至っています。

また、埼玉県の飯能市のたんぽぽでは、長期の失業をしていた若者、精神障害者の方が自然農法を野菜作りを始める。またそこの野菜で飯能市の駅前に「旬菜カフェたんぽぽ」というイタリアンレストランを開業し、現在では順調な営業を進めております。

第三の分野として福祉も有望でしょう。

また、第四の分野、サービス業も有望な分野としてソーシャルファームの活動が行われつつあるわけであります。

私は、今ご説明した四つの分野、これがソーシャルファームの発展してくる分野だと思います。この他、最近は労働集約的にできる手工業、手細工の仕事、このような分野も有効だと考えております。

それでは、発展していくためのポイントはどんなことがあるでしょう。皆さん方の中には、それではソーシャルファームをやってみようかなという気持ちになっていただいている方も多いのではないか。でも反面、そんなにうまくいくわけないだろう、と考える人も多いと思います。確かに道は難しいです。でも、ヨーロッパの失敗事例は普通の企業よりも少ないというふうに昨日伺いました。

成功するためのポイントは何なのか、これまでの経験を踏まえてお話ししていきたいと思います。

第一番目、何よりもビジネスですから、商品やサービスの開発というものが重要です。一般の企業の製品と勝っていかなければいけない。これは、関心のある人が何人か集まる。私はサロンということでいいと思うんですけも、5人、10人と集まって、何かやることはないかな、私はこういうことだったらいいと思う、それだったら私はこういう技術を持っている、私はある人を知っている、自分の家にはこういう施設、機械がある、ということでとんとんと話が進んでいく。どうも1人だけでやっているとなかなか話は進みません。いろいろな人と話し合ってくる。そしてそれは一定のデザインをよくしていくとか、他の一般商品に勝てるための工夫が必要だと思います。

第二番目、販売力の強化。これはどうも福祉をやっている人間の弱点ですけれども、作ったはいいが売るところまで考えていない。売ることも大変重要です。そのためにソーシャルファームのネットワーク、例えば今日来ていらっしゃるヨーロッパの方々と一緒に売ることも考えられるでしょう。またソーシャルファームジャパンのロゴマークを作りました。そのロゴマークをソーシャルファームの製品に貼っていく。こういうものもソーシャルファームの製品の販売力を高めることでしょう。

第三番目、経営資源。誰でも悩みます。こういう規模をやりたいけれども先立つものがない。金は誰もが持っていません。でも日本社会というのは大変よいところがあります。必ず探せば、ソーシャルファームと名付けている補助金はあまりありません。しかし探せば国や地方自治体の方でこのようなものに使える補助金は必ずあります。幸い、今日も会場に来ていただきましたけれども、熊本県の方ではソーシャルファームの助成制度を作っていただきました。奈良県にも作られました。このようなものをうまく利用していく。しかし、ソーシャルファームのスピリットはこのような公の財源に依存をしない。そこの基本ということも大切だと思います。

第四番目、支援者の確保。できればいろいろな人が一緒になって働く。ボランティアとして働く。できればいろんな資金援助をしてもらいたい。ほとんどの人は金も暇もないというのが通常です。であるならば、消費者として応援をしていただく。これだけで結構だと思います。

第五番目、これも重要だと思います。ソーシャルファームは健常者の人と当事者の人が一緒になって働く。後ほどお話がありますけれども、ヨーロッパの場合は健常者の人の方が多いんです。そうしなければなかなかソーシャルファームとしての経営が成り立たないわけです。

7 結びとして

最後に、先ほど来言っているように、ソーシャルファームというのは小さな福祉の世界にとどまりません。日本の経済・社会と大きなつながりがあります。それゆえにこれが必要になってきた。ソーシャルファームによって日本の経済や日本の社会を豊かにすることができるわけであります。

まちづくりにもつながります。飯能市のたんぽぽでは、イタリアンレストランをつくることによって、空洞化した飯能の駅前の人通りが復活し始めました。まちづくりとして使えるわけであります。

また、日本国内にとどまらず国際的な連携をとりながら進めていきたい。今日はこのような機会になればよろしいなと思っています。

ちょうど時間がまいりました。ご清聴ありがとうございました。