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報告書 英国ソーシャルファームの実地調査報告会

質疑応答

司会/少ない時間ですが、これから質疑応答の時間がありますので、ぜひ質問をしたいという方、最初に手を挙げていただいてよろしいでしょうか。時間が限られていますので、最初に何名か把握させていただきたいと思います。

5人ですね。そうしましたら、廊下側から順でもよろしいでしょうか。

会場/炭谷先生、寺島先生、上野先生のお話を非常に興味深く聞かせていただきました。

制度的なお話だけではなくて、それよりもう一つ踏み込んだところに、何か英国が今、行き詰まっているところとか、日本がこれから向かわなければいけない部分があるようなことを感じ取っているのですよね。それが何であるか確認したくて、手を挙げました。僕が思うには、制度的にはいろいろ工夫されているけど、障害を持っている方、もしくはサポートを必要としている人自身の可能性を引っ張り出す仕組みはどこにあるのだろうかということが疑問に残りました。制度的なものを超えたところに何かあるはずですが、それが欠けていると、助成金やファイナンスに頼らざるをえなくなるのですが、どう感じたかをお聞きしたいと思います。

炭谷/ご質問ありがとうございました。実は、今のご質問は大変重要なことだと思いますし、私も大変関心がありました。私自身の感想になってしまうのですが、なぜ英国が混乱しているのか、問題に突き当たっているかは、私は障害者の働く場というのは、いかに障害者が自分の人生において働く場所を見つけるか、また地域で生き生きと働くことを可能にするかということだと思います。そういう手法も英国では壁にぶちあたっているのではないかなと思います。我々と変わらない、悩んでいるところではないかと思っています。どこの国でもそうですが、一方的に国が制度を作り、施設を作ったり作業種目を作ったり、お金を出すだけという、そういうので間に合った時代が過ぎようとしていると思います。それで新しい時代のやり方は、英国でもまだわからないところにいるのではないかと思います。

あまり回答にはなっておりませんが、結局、ヨーロッパも今、問題に直面しているのだということで回答にかえさせていただきます。

上野/私が今感じているのは、ソーシャルインクルージョン、制度的にもインクルージョンしていく視点が必要だと思っています。私は精神障害者の地域生活支援の一環で就労支援に携わってきたのですが、福祉は福祉の領域だけで固まってそこしか見ていないということではなく、今日はソーシャルファームジャパンの事務局の菊池さんがいらしていますが、いろいろな一般市民にも理解していただけるような事業の進め方と同時に、あと、行政の縦割りはもう少し是正していくソーシャルアクションを私たちも起こしていきつつ、その制度を横断的に使えることも考えていく必要があると思います。あれをくださいとかこうしてほしいというだけではなく、私たちも今ある制度をもっと活用することができるのではないか、それを具体的に提示していくことも、とても大事だと思っています。

寺島/一番大切なのは、起業家精神、アントレプルナーシップだと思います。

英国は起業家精神が豊かであるにもかかわらず、なぜうまくいかないのかについては良く分らないのですが、個人的な意見としては、英国は、ドラスティックに改革し過ぎなのではないかと思います。英国は大きな国であるにも関わらず、制度をどんどん変えてきており、ついていくのが大変なくらいです。移行のための程よい形があると思うのですが、政権が変わるたびにコロッと変えてしまうために継続性がなくなって、起業家精神が豊かで、しかも寄付の文化をもった国であるのに、ちっとも成功しないのは、政策の継続性というのが必要なのかなと思います。

司会/次の方お願い致します。

会場/今日は、広い意味で英国の障害者の労働の状況の中でのソーシャルファーム、もしくはソーシャルエンタープライズの位置づけをお伺いしたいのですが、その前に、英国全体の障害者の労働状況、たとえば全体を100とすると一般雇用に何%くらいいて、ソーシャルファームあるいはソーシャルエンタープライズに何%いて、今、レンプロイのような雇用系のところにはどれくらいいるのか。最初の学習事項として、おわかりになれば教えていただきたいのが1点。

2点目は、今日も何人かお見えだと思いますが、私も障害者の就労に関わってきたので、レンプロイの変遷というのはすごく大きなことだと思っています。私も個人的に、その閉鎖に至るプロセスをみていたのですが、10月31日に完全閉鎖、保護雇用部分だと思うのですが、そうなると、多くのレンプロイで働いていた障害者が解雇を余儀なくされたとも聞いています。私も、その受け皿として有力なのがソーシャルファームなのかと思っていたら、寺島さんでしたか、受け皿にはなっていないと。すると、解雇された障害を持っている人たちはどうなったのか。おわかりでしたら教えてほしいです。例えば、その人たち全体がすんなりと明日になれば一般雇用にいくことはあり得ないと思います。そうなると、レンプロイなどで働いていた人たちには一般企業での就職は困難な人もいます。でも、働きたい。働くことを通してソーシャルインクルージョンを目指す。そういう人たちの、英国での受け皿的なものは何になるのですか?個人的なご意見でもいいですが、お聞きしたいと思います。

寺島/統計は調べれば分かりますが、今すぐはよくわからないのであとでお答えすることでよろしいでしょうか。データは英国政府が出しています。

※ソーシャルファームの数

ソーシャルファーム数:200か所 障害のある従業員数:2000人(2012年6月時点)

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/seminar20120617/koen3.html

障害者数 約1200万人(人口の24%)

労働年齢の障害者 800万人(労働年齢人口の20%)

430万人(54%)が就労している。(障害のない者は76.4%)2011年

http://www.efds.co.uk/assets/0000/6997/OO204.pdf

http://odi.dwp.gov.uk/disability-statisticsand-research/disability-facts-and-figures.php#gd

レンプロイの受け皿ですが、1つは、レンプロイ工場自体を、レンプロイの工場を働いていた人たちが買い取って働く場にしているということもあります。しかし、それですべて吸収できてはいなくて、他に、Access to Workなどの事業で、ソーシャルエンタープライズがかなり吸収しているらしいですが、まだ失業したままの人がたくさんいるというのが新聞でも話題になっています。具体的に何人というのも新聞に出ていましたので、後でメールか何かで送ります。

※レンプロイ工場の閉鎖で失業した障害者数1528人、600人くらいが再就職した。残りは失業。

会場/ソーシャルファームではどれくらいの人が働いていたのですか?

寺島/我々のこれまでのセミナーの資料の中に書いてあります。DINFを見ればわかります。DINFというのは、リハ協がやっている情報システムの中に過去のセミナーのデータがあるので、それを見ればわかります。ちょっと調べて見ます。

※2011年の調査では、ソーシャルファームの数は181、そこで、2,600人が働いている。そのうち障害者は1,064人。

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/seminar20120617/koen1.html

司会/次の列の方にお願いします。

会場/今日、3名の先生のお話、貴重なもので勉強になりました。どうもありがとうございました。私自身もソーシャルファームについては、以前から灘尾ホールでシンポジウムにも出席させていただきまして、非常に関心を持っていましたので、今日、ソーシャルファームは少し下降気味だという話を聞いて、とても意外でした。

お伺いしたい点は2点あります。

先ほどの寺島先生と上野先生のご回答にも関連しますが、うまくいっていないという感じだったことはよくわかりましたが、上野先生のおっしゃる助成制度さえあれば、うまくいくのかというところをお聞きしたいと思います。というのは、助成制度が足りないからうまくいかないという部分はあると私自身も思いますが、プラス、どの点でうまくいっていないのかをもうちょっと詳しく見ていく必要があるのかなと思いました。例えば、各ソーシャルファームの事業のやり方がどうなのかとか、経営の仕方がどうなのか。そういう点でもし先生方お感じのところがあれば教えていただきたいなと思いました。

あと、それに関連して特に日本の今後のあり方を考えたときに、日本の場合、雇用率制度の助成金以外はないわけですよね。その点で寺島先生がおっしゃったように、日本独自のモデルをつくることもあり得るのではないかというご意見、そのとおりだと思いました。その点から、英国の場合、雇用率制度は廃止されたので、その点の影響はあるのかなということをお聞きしたい。それが2つ目です。

ソーシャルファームはソーシャルインクルージョンを目指しているので、障害のある方と障害のない方のつながりが、ソーシャルファームができてからどのように変わってきたのか、どのように進んでいるのかも、ぜひお伺いしたいと思います。

司会/3つご質問があったかと思います。

炭谷/答えられる質問だけ私が答えて他の質問は他の先生に頼みましょう。

まず1つ申し上げたいのは、私どもソーシャルファームが英国で、私が強調しすぎたのかもしれませんが、ソーシャルファームUKが混乱しているだけであって、ソーシャルファームがダメになっているわけではありません。

それと、クリアにしておきたいのは、どうも英国の場合、ソーシャルファームがソーシャルエンタープライズという社会的企業の大きな動きに埋没しているのではないかということです。ビジネス的手法が強くなりすぎて、これはちょっとソーシャルファームの本来の目的からおかしいのではないかというのが私の個人的な感想です。これからどうなるか、私自身は、ソーシャルファームはこれから日本でも十分やれるところがたくさんあると思っていますが、質問がまだたくさんあったような、あとお二人にお願いします。

司会/ソーシャルファームが下降気味という点については、回答済みということでよろしいでしょうか。時間がないので次、お願いします。

会場/はい、大丈夫です。

炭谷/ソーシャルインクルージョンとの関係は、確かに一部、純粋なソーシャルファームをいろいろと見学しましたが、ある程度の効果は上げているだろうと思います。ただ残念なことに、例えば本来私自身、障害を持っている方も経営に参画する、そういうものがもっとあってもいいのではないかと思いますが、今回見たソーシャルファームはそういうところは比較的少なかったので、本当のソーシャルインクルージョンまで至っているかどうかは、もうちょっと英国も頑張ってほしいなという印象を持ちました。

寺島/語弊があったかもしれませんが、ソーシャルファームはソーシャルエンタープライズの1つとして機能しているというのは確かに機能していますが、ソーシャルエンタープライズというのは社会的な目的を持っている企業で、環境問題なども含みます。しかし、ソーシャルファームは、目的が特定されていて、一般市場で働きにくい方を雇用するという目的を持っている社会的企業です。ソーシャルファームがソーシャルエンタープライズに埋没してしまうと、ソーシャルエンタープライズの中であるけれども障害のある人を虐待しているという場合もあり得るわけです。

例えば、雇用に際して、障害のある方の人権などを守ることなくただ社会的なことを目的に事業を展開している場合等は、障害のある方の人権を守るとか、そういうことがどんどん薄まっていく気がします。だから、私としては社会的企業とソーシャルファームは分けて、きちんと制度化すべきではないかと思っております。

それからDDA(英国の障害者差別禁止法)が廃止されて、平等法になっていますがDDAが廃止され、雇用率がなくなったことがこれに影響しているのかどうかは、わかりません。

司会/日本がモデルをつくれるかと言うことについてです。

寺島/先ほど申し上げましたように、社会的企業とかソーシャルファームは、あまり行政からの縛りがないといいますか、助成金含めてあまり行政に頼らないのが基本です。しかし、行政からの資金的援助を全くゼロにしてしまっていいのかということです。例えば、ドイツにありますように、起業してから3年間は補助するとか、そういうパターンもあるのではないかと私は思います。刑余者やホームレスの方たちの能力を活かしてソーシャルファームの枠組を作るというのもソーシャルファームジャパンで言っていて、そういうのも1つあるのかなと思います。それは世界的にあまりやられていないと思います。

障害のある方は生産性だけを取り上げるとどうしても企業の維持は難しい。福祉機器が必要だったりしますので、そういうものは支援するべきだと思います。行政は、障害を補う部分を支援すべきで、それにプラスして、いろんな人たちを組み合わせることで生産性を上げるということもあるのかなと思います。それをやられていないので、ひょっとしたら日本がモデルになれるということです。

上野/時間がないから簡単にお話しします。全国、モデルができてきているのですが、もっとソーシャルファームに挑戦してモデルがたくさん出てきてくださるとすごくいいなと思っています。そのモデルを学びながらどんな制度が、ソーシャルファームを発展させていけるのかなと考えていけたらいいのかなと思っています。

だから、ソーシャルファームに3年間で税金を少しずつ減らすという助成制度を設けたのですが、全体的な金額が少し少なかったということもあるのかもしれませんが、どこも手を挙げなかったそうです。私は電話をする機会があって奈良にお電話したら、24年度でその制度はなしになりましたと。要するに、手を挙げるところがなかったのでなしになりましたと言われました。少し残念だなと思いました。いろいろな制度を組み合わせて、なおかつそれも受けられるというような、制度を活用する際に、「柔軟に考えられません」や「この制度を使ったらこの制度は使えません」というようになってしまいます。こういう目的のために、こういうふうにしたい、そのためにこの制度も使わせてもらいたいし、この制度も使えるのではないでしょうかというような、そういう議論がもう少しできないかなと思います。日本の場合はそのへんが非常に硬直していると思います。

それからやはり、企業の協力です。例えば広報宣伝も大事ですが、私たちは経営的には素人なので試行錯誤しながら、ここまで何とかやってきています。そういうときに経営コンサル的な支援を企業さんから受けられるとか、お金だけではないサポートがあるのではないかと思っています。そういったものも充実していけるようにできたらいいかなと思っています。

また、これからソーシャルファームジャパンの総会が開かれますが、炭谷先生をはじめ私も世話人にならせていただいていますが、ソーシャルファームジャパンの役割も大きいと思います。これからどのように活動を展開していったらいいのかも、逡巡しているところです。

司会/ありがとうございました。それでは次の方、お願いします。

会場/本日は貴重な報告、どうもありがとうございました。私も灘尾ホールのセミナーに参加したこともありますし、先般は学会にも参加しました。

質問は3点ございます。

1点目は、訓練という言葉を聞いて度肝を抜かれました。ソーシャルファームは、ソーシャルインクルージョンと障害者の権利が基盤にあると思うのですが、雇用をしているけれど訓練もしていると考えていいのでしょうか?

その場合、障害のある方は従業員なのか利用者なのかという点です。

それから2点目、もし雇用されている場合、本人の給与はどうなっているのか知りたいと思いました。上野先生がおっしゃった、刑余者の方のソーシャルファームの話ではいいようなのですが、ほかではさほど稼ぎのいい仕事には私には見えなかったので、本人への給与はどうなっているのか気になりました。

3点目。ソーシャルファームで働く人が一般労働市場で働かなければいけないように押し出す力があるのか、ないのかという点です。多様な働き方が大事になってくると思うので、訓練の場所か、あるいは保護された場所か、一般の場所か、多様な働き方が大事だと思っています。もし補助が出ると、補助がないところに押し出す力があるような気がしてならないので、そのあたり、あるのかないのか、お聞かせいただければと思います。

司会/回答をお願いします。まずはトレーニングのところについて、お願いします。

寺島/トレーニングは、職安の委託でトレーニングするということであって、ソーシャルファームで働く障害のある方たちは基本的に従業員です。英国の定義はもっと厳しく、同じ条件で働いていないとソーシャルファームの定義からはずれます。賃金の保障もきちんとされています。同等の発言権を持っているとか、そういうことがソーシャルファームとしての条件ですので、訓練生ではないです。

訓練と先ほど言っていたのは、職安、いわゆるジョブセンタープラスの委託で訓練をしているということです。

司会/賃金の部分もお願いします。

寺島/賃金の部分も同じでないといけないです。ソーシャルファームの定義でいえば、もちろん最低賃金を保障しつつ、仕事に応じた賃金の支払いをするというのがソーシャルファームUKの定義の中にあります。

司会/一般雇用に押し出す力というのはあるのでしょうか。

寺島/そもそも英国の福祉改革自体が圧力だと思います。予算削減のあおりを受けています。レンプロイ工場を廃止すること自体そうです。英国国内で、レンプロイは金食い虫だと批判がありました。お金をあれだけ使って、効率が悪いというのが社会的に問題となり、そのためにレンプロイを廃止したというところがあります。英国人に会うと、そう言う人が多くいます。

日本はそういうことは今のところないのですが、英国は結構ドライな国ですのであると思います。

司会/最後の1人の方お願いします。

会場/貴重なご報告、どうもありがとうございました。

僕が伺いたいのは、寺島先生がお話されたバイクワークス等の話の中で、広報戦略が成否の鍵を握っていたということですが、ソーシャルエンタープライズUKとソーシャルファームUK、ソーシャルファームの方は広報戦略がうまくいかなかなかったというお話がありました。逆に、ソーシャルエンタープライズUKは、予算の3分の1を広報戦略に使われているということでした。広報戦略の予算、3分の1を何にかけたのかを教えていただきたいです。例えばスポンサーの確保に注力したのか、広報戦略に費用をかけることで、宣伝広告等で販売力が向上したのか、そのどちらかだと思うのですが、そのへんを教えていただきたいです。あと、3分の1の予算が、総収入に対してなのか、総支出の3分の1なのか。そのへんが分かるとありがたいので、教えていただきたいです。

寺島/あまり詳しいことはわからないのですが、そのとき聞いただけなのですが、マスコミ対策だと言っていました。新聞やテレビ、インターネットだと、我々は思いました。

支出の3分の1ぐらいをマスコミ対策に使っているとのことでした。寄付などをもらうと、その3分の1をマスコミ対策に費やしていたら、どんどん成長していったということです。

ソーシャルファームも同じことをすればそうなったのかどうかということには疑問はあります。そもそもソーシャルファームを世の中が必要としてなかったかもしれないです。だから何とも言い難いです。

司会/よろしいでしょうか。一応、質疑応答をここで終わらせていただきます。