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報告書 ドイツソーシャルファームの実地調査報告会

質疑応答

会場●今日はありがとうございました。かなり勉強になりました。炭谷先生に質問したいと思います。

日本型ソーシャルファームの話が出ていましたが、今回の話を聞いていて、運営費のところで継続的な補助が出る部分に関しては、重度障害者である場合の月205ユーロというお金が継続的に出るのかなと判断しているんですけれども、その後の寺島先生の話を聞きますと、モザイクとエルコテック以外の場合、人件費が何パーセントと出ていますが、計算がおかしくなってくるんです。州独自に運営的なものが出ているのか、それとも社会福祉法人を母体としているために、その補助の分も合わせて人件費の補助率が上がっているのか。そこが少し疑問だったのと、それからもし市町村から月205ユーロというお金以外の補助が出ているとすれば、これから日本がソーシャルファームを展開していく上で継続的な補助というのが、今のA型の運営費のような形で必要なのかどうか。それは国がやるべきなのか、地方公共団体がやるべきものなのか。今の炭谷先生のお考えを聞きたいと思って質問させていただきました。

炭谷先生●質問ありがとうございます。このあたりは理論的に緻密な寺島先生にお願いします。

寺島先生●最初のご質問は、個人に出ているのとソーシャルファームに出ているのと両方あります。そのため、単純計算は今できません。また、それから自治体によっても出る額が違います。計算上、変だと言われるのは、多分、それぞれの個人とソーシャルファームごとに額が違うので、あまりきちんとした計算はできていないです。

炭谷先生●私も今の点は非常に気になって、特にこの部分はしつこく聞きました。そうすると向こうは嫌がって、我々は算数の教師ではないという感じで。日本人らしくどれだけ聞いても理解できない点は確かにありました。我々としてもどういう補助体系になっているのか、間をとってくれたゲロルド・シュバルツさんがまた詳しく調べてくれますので、明らかにしたいと思います。

2番目の質問、継続的な補助金が必要なのかどうか。実はこれが一番悩ましいところだと思います。理想論からすれば、ソーシャルファームというのは通常の経済主体と同じようなところを、将来的には理想的には目指していくべきだと思います。イギリスもそういう方向を目指しているのですけれども、ドイツの場合は消費税の部分で下駄を履かせたり、今の質問のように205ユーロ出していたり、下駄を履かせて競争を有利にしているです。それは永続的に出しているのですけれども、その分はやはり現実論として当面はしないとうまくいかない面があるのではないかというところがあります。特に重度の障害者の就労の場を設けるためには、何らかのものがあった方がいいだろうと。これがあることが前提だということになるとソーシャルファームの精神に反しますので、それはしないで。理想論としてはあくまで求めたいと思いますけれども、少なくとも最初の立ち上がりの部分は、何らかの特別な配慮がないとうまくいかない。1つの私どもの研究課題だと思います。なかなか明解な回答が得られないところでございます。

会場●ありがとうございました。

会場●私は仕事と別に地域で、お母様方やお子さんたちに勉強を教えています。お母さんたちは事情のある方たちです。お子さんが不登校とか障害の方含め事情がある子どもたちです。

今回聞きたいのは炭谷先生に、最初のご説明でドイツでは地域の方々が日本と違って理解が深いとおっしゃいました。そこが具体的に見えてこなかったのです。

実際、今、日本でいろいろなところへ行って、障害者の方を見てきました。接しています。特例子会社なんかも見てみました。そのときに重度障害者と言われる方々が働いていらっしゃるのを見たのですが、障害児を持ったお母さんたち何十人か一緒と行ったのですが。見ていると、確かに働いてらっしゃるのですが、本人が満足して働いているかというと、必ずしもそういうふうには見えなかった。やはりご覧になっていたお母さんたちもそのように感じたみたいです。それを含めて、障害を持った子どもたちが将来、働ける場を持てるように作ろうということで今、計画をしています。ドイツの方では、具体的に周りがどういう理解を示しているかを一つお聞きしたいなと思います。

炭谷先生●ご質問ありがとうございました。今回のドイツの実地調査で、少なくとも私自身が一番強く感銘を受けたところが、今、ご指摘になったところだと思います。

日本の、例えば今日は特例子会社にお勤めの方もいるので、すべてがそうだとは言いませんが、特例子会社の中には、会社として障害者雇用率を守るためにあえてそういうものを作っている。働いている仕事の内容は、本当に障害者が生き甲斐を持って、もしくは自分の人生の一部分として働くことに意義を感じてやってらっしゃるかということに疑問がある働き方も、例外ではなくかなり多いというのが今の日本の実情だと思います。ですから今、ご指摘されたこと、訪問時にそういう感じを受けたというのは、正しい見方というか例外的な見方ではないと私自身は思います。

例えば昨年10月にイギリスのレンプロイという工場が廃止されました。レンプロイというのは戦後1946年にできたイギリスでの障害者雇用をやっていた会社です。世界のモデル的な障害者の働く場だということで、最盛期には100社程度の事業所があって、1万人近くの障害者がここ勤務をしていました。しかし、今の日本のように、言い方が適切じゃないかもしれませんが、働かせてあげているとか、生活費のために働かせてあげているというような色彩のある保護工場だったと思います。最終的には障害者から見放されて、昨年の10月、世界のモデルとして障害者の働く工場と言われていながら、撤退せざるを得なくなり、現在は存在しないということになりました。

ですからこれからは障害者も含めて、刑務所から出所した人も難病患者も一人の人間として生き甲斐を持って生きられるような、そういう仕事場を作らなくてはいけない。これがソーシャルファームの究極の目標だと思うのです。給料、生活費というのはもちろんだろうけれど、人間としての生きることを目標にしているだろうと思います。

それを今回、感じたのは、例えば我々の泊まったホテル自身も、宿泊する人も別に特別なホテルだと思って泊まっているわけではない。普通のホテルだと。従業員に対する接し方もごく普通のホテルと同じような感じで接していますし、先ほど寺島さんが紹介したベルリンのコンサートホール。ここはベルリンのフィルハーモニーをやるコンサートホールではないのですが、それと相当する、対抗するような立派なコンサートホールの中心に喫茶店を構えています。ここに来る人は、そこのウェイターやウェイトレスがほとんど障害者に見えましたが、障害者だからといって利用しているのではなく、ごく普通のカフェとして利用している。そして働いている人も誇りを持っていらっしゃる。それが非常に自然に思えました。

私は現在日本の障害者、ノーマライゼーションがソーシャルインクルージョンにということも、ソーシャルインクルージョンの段階は終わって、一人の社会の一員として今、動き始めているじゃないか。これがドイツの実情だと私は思いました。

しかしそれは、黙っていたら、ドイツ人が優しいから、人権意識があるからそうなったわけではなくて、やはり戦後、努力してきた結果、そういう段階に到達している。そう考えると日本はまだまだ、怒られるかもしれませんが、怒られてばかりですが、30年くらいは遅れているのではないか。役人をやっていて、お前のせいじゃないかと怒られるのではないかと。ずいぶんと差が、もっと開き始めたとさえ思うわけです。

会場●貴重なご報告をありがとうございました。寺島先生に2点、質問させていだたきたいと思います。

1つは、報告いただいたソーシャルファームの数々というのは、日本でいうとかなりA型に近いような色彩かと思います。この中では、指導員の立場のような方はいらっしゃるのでしょうか?

2つ目の質問は、働いている方々が障害のある方々ですので、そうした場合の採用方法で特に何か工夫されている点があるのでしょうか。ちょっと考えましたのが、普通の一般社員と同じように、一般的な採用条件を提示して採用されているのかどうかに興味がありましたので、その点を教えていただければと思います。

寺島先生●最初の質問ですが、基本的にA型とは全く違います。A型も一応、雇用契約を結んでいる点では同じですけれども、ソーシャルファームは企業ですので、収益を上げることも目的の一つになっています。普通の会社のイメージです。ですから指導員という人は基本的にはいません。でも一般の企業でも、例えば障害者を雇用している企業では、人事担当の人がまるで指導員のような役割を果たす場合もあるかもしれませんが、それは決して指導員という名前でもないし、指導員というものに対する賃金が支払われるわけではない。そんなイメージです。ですからソーシャルファームは本当に企業です。福祉施設とは全く違うということです。

2番目のご質問については、どういう形でリクルートされるかことですが、それは日本で言いますと、職安を通して就職するという近い形です。ドイツはリハビリテーションの国ですので、リハビリテーションしないと福祉的な手当は支給されない、そういう国です。リハビリテーションを進めるための機関がありまして、そこを経由して、リクルートがされるという形です。以上です。

会場●私は大学入試センターに勤務しています。講演者のお二方、大変刺激的で、ある意味ポジティブなお話をありがとうございました。この質問はどちらにお答えいただくのか私にはわからないので、お二方の間で調整していただいてお答えいただければありがたいです。

お二方のお話の中でどちらにも、職業学校卒業というのがソーシャルファームでの障害者の就労の一つの条件としているという話がありました。ソーシャルファームは多様な障害を有する従業員を抱えているというお話だったと思うのですが、障害種別ごとに得手不得手が異なり、また、そういった人たちにソーシャルファームの場で就労のための指導をするのは難しいように感じる。むしろドイツなんかでは職業学校のレベルで就労について整えられていて、その上で、ソーシャルファームで働ける人が育成されているのではないかという印象でした。もしそうだとすると、こういったドイツにおける職業学校に相当するようなものは日本で十分なのか。あるいはその役割はどういう主体が果たすべきなのかということについて何かご意見があったらお話をいただけると勉強になります。

炭谷先生●ありがとうございます。久しぶりですね、彼は私の学習院大学の教え子です。今しっかりと社会人として活躍されていて、うれしく思います。

質問の件ですが、大変重要なポイントです。実は今回のドイツ、僕はこんなにすごい職業教育をやっているなんて、正直言って恥ずかしながら知りませんでした。でも寺島先生は、そんなの常識だよと言われましたが。ドイツを勉強されている方には常識らしいですね。

本当に何百という資格があって、それを職業訓練校で徹底的にやって、そしてかつ、国家試験といっても国が行うのではなく、ギルド社会ですからそれぞれの職人の団体と言いますか、そういうところが資格試験をし、それにパスして仕事に就くというやり方をとっている。

ですから障害者といえども、この職業訓練を経てなければいけない。大変ハードルが高い。私は逆にそれが、ソーシャルインクルージョン、市民社会の一員になれる基礎がそこで得られているのではないかと思います。そこさえ経れば、そこで試験さえ受かれば、一人の社会人、一人の労働者として十分通用する。またそれだけの技能を持っているというようになるのがドイツの社会だと思いました。これを聞いていて、すべて、ビルの清掃も、町の清掃も、全てに資格があると。へぇとびっくりしました。息苦しいなと思いましたが、ふと考えてみると、そういう面で効果があると思いました。

我々日本型ソーシャルファームはどうすべきか。これもうまく日本的に工夫をすれば、いい方法かなと思いました。だからソーシャルファームに向く仕事、例えば環境の分野とか、サービス業とか、農業とかいろいろ考えて挑戦していますけれども、そういう分野において職業訓練の場をセットして。それは別に直接作る必要はないのですが、既にできているものを活用して、場合によっては技能を認定して、それがソーシャルファームに勤務するようになれば、ソーシャルファームが競争力を持つ。また評価をされるという点もあるのかなということで、今回ドイツで学んだことの一つです。これから日本型のソーシャルファームを進めるための一つの手がかりを得たのではないかなと思っています。