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報告書 フィンランドソーシャルファーム実態調査報告会

質疑応答

寺島●突然、調査に行けなくなってしまい非常にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。非常に楽しいお話をしていただきまして、私が行くよりずっと良かったと思っています。私の感想を先に述べさせていただきます。フィンランドでは、どうしてソーシャルファームがあまり増えていかないのかなと少し疑問に思いました。例えば以前お聞きしたところでは、ソーシャルファームを立ち上げるとき、最大75%ぐらいの費用が政府から出るとか、一般企業は立ち上げから2年間従業員の賃金が出るけれども、ソーシャルファームの場合は3年間出て更新もできる。額も一般企業よりも高いというメリットがあるにもかかわらず、ソーシャルファームを選択する企業が少ないそうで、どうしてかなと感じました。
それでは会場の皆様から何かご質問やコメント等ございましたらお願い致します。後ろの方が最初に手を上げられました。女性の方、お願いします。

会場●貴重なご報告どうもありがとうございました。これまで何回か報告会で勉強させて頂いているのですが、今回初めて日本型ソーシャルファームへの提示も含めてお示ししてくださっていて、かなり踏み込んだ議論になっていると思います。どうもありがとうございます。お伺いしたいことは2点ございます。1点目は、一般労働市場とソーシャルファームとの関係です。今の伺ったお話ですとフィンランドの場合、一般労働市場とそうでないところの中間的な位置づけになっているように見受けられたのですけれども、そういう理解でよかったかどうか。そして昨年度お話を伺ったドイツでは、むしろソーシャルファームで働くこと自体が労働を通じた社会統合だと聞こえたのですが、私の理解はそれでよかったのか、というのをお聞きしたいのと、あわせて、もし炭谷先生の方で、日本型ソーシャルファームを考える上で、一般労働市場への移行とソーシャルファームの関係について何か見解があればお聞かせ頂きたいです。2点目ですが、財政的なバックアップの部分です。今日のお話ですとフィンランドでは予算の制約はありながらも、割と恒常的に予算の補助がつくという形のように聞こえました。そういう理解でよかったのかどうか。あわせて、昨年度伺ったドイツでは、3年間限定で補助なしでも、自立的に経済活動がやっていけるようなバックアップをするという位置づけだったと思いますが、そういう理解でよかったかどうか。合わせて、炭谷先生の方で、日本型ソーシャルファームへの示唆があればあわせてお聞かせ頂ければと思います。よろしくお願いします。

炭谷●ご質問どうもありがとうございました。非常にたくさんの重要なポイントですね。今ご指摘いただいた点は、大変重要なところで、実はご質問について、まずクリアにお答えすることが困難だということを前提にお話したいと思います。なぜならば、フィンランドの位置づけですが、私がお話しましたようにフィンランド自身が、ソーシャルファームというものをどういうふうに位置づけているか、どうも腰が定まっていない。だから我々がどれだけ聞いても、ソーシャルファームというものが一般労働市場なのか、それとも被保護下に基づく労働なのか、それとも訓練なのか。どこに位置づけるかというと、3つとも要素をもっているという回答です。結局、どの目的にソーシャルファームを使おうとしているのか、フィンランド自身もしっかりと位置づけていないのではないかと。多様な目的を持たせている。ですから、先ほど桑山さんが詳しく説明して頂いたタンペレの例。金属加工をやっていて障害者をたくさん雇っていて8割近くがほとんど障害者。でも製品はほとんど輸出している一般労働市場でやっている。それは位置づけとすれば、一般企業だと私は思いました。やっている内容も一般企業です。しかし、中にはソーシャルファームと言いながら訓練をやっているものもありました。そういうところは、日本では職業訓練に近いのかなという位置づけで、ソーシャルファームに非常に多様な役割を担わせているのが、フィンランドの状況だと思いました。

では、ドイツはどうだったか。ドイツははっきりと、目的は一般企業と同じところを狙っていると思います。ソーシャルファームといっても特別な組織ではなくて、一般企業と同等のものを指向していく。でも、ハンディキャップがあるので、障害者は労働生産性が落ちるので特に3年間は手厚くして、寺島先生にも少し補充して頂きたいと思いますが、4年目以降もある程度日本も障害者雇用に援助しますが、それをしているのだと思います。しかし、あくまで一般企業と同等のものに実際にそういう形になりつつあるのではないかと。ですから、私がお話をしましたけれども、一般企業も危機感を持っています。ソーシャルファームはあなどれないと。日本で2年前にハート購入法ができましたが、ドイツではむしろハート購入法には否定的な方向に移っていると。だから、州によってはもうやらないという方向に来ているというのも、そのためなんだろうと印象を持っています。

それからフィンランドの場合の援助の問題です。法律では財政的に補助をすると書いてあるのですが、残念ながらフィンランドでは景気がよくないので、法律に書いてあるのにそれを出さないという状況もあります。役所の事情で、予算がないから出しませんということも起こると言っていました。それゆえ、これもソーシャルファームになりたがらない理由、なっても意味がないと言われる原因だろうと思います。大体カバーしたつもりですが、抜けているところがあれば、ご指摘頂きたいと思います。ドイツの4年目以降はどうですか?

寺島●州によって違うみたいです。

炭谷●その点、補充して頂きます。

寺島●原則は3年ということなんですが、州によっては継続しているところもあって、それほど厳密にやってないみたいです。障害を補う部分が必要だろうという認識をもっているみたいで、州によって補助金を継続して出していたりするようです。ハンブルク州は継続して出していました。

炭谷●2番目の質問。日本型はどうかという、大変重要な質問でした。ソーシャルファームといっても究極的には一般企業と同等のものを目指すべきだろうと思って、それを理想にして進んでいきたいと思います。私自身も、現在は社会的に排除されたり孤立している人も、1人の人間として経済社会の中で生きていくと考えれば、普通の労働者と同じような地位になっていく。賃金の面でも働く内容にしても、そうなっていくのが理想だろうと思います。日本型ソーシャルファームの目標としては通常の企業に負けない、理想としては東京株式市場の第一部に上場する企業も出てきてもいいのではと思っています。

寺島●もう1人おられますか。

会場●東京の国立市で福祉作業所を経営しています。今まで、ソーシャルファームの報告会に何度か出させていただきました。私どもの作業所も、今の企業の自助努力で障害者にとっていい経営をしていきたいと思っていますので、この会に多数参加させていただいています。今までのドイツやイギリスの事例よりも、フィンランドの場合は訓練という形でのイメージが強く出てきました。日本の障害者総合支援法に、ある意味似た形が出てきたのではないかと思うのですが、炭谷先生の日本型ソーシャルファームの構成要素の中の従事者のところでご説明いただきました、難病患者、母子家庭等々あるなかで、ある程度訓練の成果が見られる場合は、ソーシャルファームの意義が非常に大きくなるのですが、私ども、就労継続支援B型ということで、就労支援や継続支援のA型がソーシャルファームにある意味、近いと思うんですが、A型にも引っかからない、「引っかからない」という表現自体も好きではないですが、Aとか就労支援に届かない重度の障害を持った方々が毎日楽しく生きがいを持って仕事をしていくためには、どんなことが必要なのか。その辺のヒントがもしありましたら、教えていただきたいと思います。

炭谷●大変重要なご指摘ありがとうございます。まず誤解のないように言えば、ソーシャルファームは万能だとは思っていません。障害の多様性もありますし、社会的に排除された人は障害者をはじめ、刑務所出所者など、いろんなカテゴリーの人がいらっしゃいます。それに対する支援の方法は、できるだけ多様なものを用意しとかないと、日本の場合うまくいかないと思っています。そこで、今おっしゃったような、重度の障害者の場合はどうするか。重度の障害者の場合は、日常生活訓練が重要なウェイトを占めるだろうと思います。今でいえば、就労継続のB型が主たる役割を果たしていくのだろうと思います。私は、それはそれで重要な役割を果たさなければならないだろうし、これからも充実していかなければいけないと思います。その前提に立って、しかし、重度の障害者といっても、その人の状況に応じて、できるだけ生きがいのある仕事の仕方、その人の能力に応じてないだろうかと、常に模索する努力が重要ではないかと思っています。これは理想論だとおしかりいただくかもしれませんが、あるのではないだろうかと。昨日たまたま昼飯を「五体不満足」で有名な乙武さんと一緒にしたんですね。ご存知の通り、彼は手足が不自由です。しかし、彼が僕に言うには、五体が不満足だけど、自分には優れた表現能力がある。それに基づいてこういう活動をしているのであって、決してマイナスには着目しないで、プラスによって仕事をしている。昨日僕に言ったのは、幼い時からノートがとれなかった。しかし、覚えようとしたのが今の力になったと。これは理想的な姿だろうと思います。重度の障害者でも、ここで満足しているのではなく常に上の段階にいくような努力をしてみたいなというのが私の気持ちでございます。なかなかそこに到達する道は難しいと思いますけれども、あきらめてはいけないと、常に考えています。

会場●はい、ありがとうございます。今、先生から言って頂いた通り、まさに私もあきらめないでどうやったらいいかと、答えを求めてここに来ています。今までの炭谷先生、寺島先生のご見識の中でこんな事例があったよ、という良いものがありましたら、ぜひご紹介いただければと思うのですが。

炭谷●かなり人によって違うと思いますが、重度の取り方だろうと思います。去年、ドイツのグレンツファールホテルに行き、そこはソーシャルファームが経営しているホテルで、そこでは37名の従業員がいて31名が重度の障害者なんですね。しかし、十分競争に勝てるホテル経営をして、31名の重度障害者が補い合って、例えば耳の不自由な人はレストランで働き、精神障害の人は受付でゆっくり仕事をしたり、それぞれの得意分野によって分担をしながら助け合っている、ドイツの例です。そういうことをやって成功している例です。ここは、社会的統合企業、いわゆるソーシャルファームとはほとんど訴えていない。私どもは普通のホテルですという立場で成功している理想的な例です。私はそのホテルに5泊しました。日本はドイツとは30年ぐらい差があると実感をしたわけです。それからイギリスのバイクワークスという、自転車の修理をやっている会社。これは障害者の人たちが自転車の修理をやって売り出していて、補助金はいっさい入っていないで十分採算をとっている。うまく経営してみんな生きがいをもってやっている姿を見ると、きっと可能性があるのではないかと思っています。

会場●どうもありがとうございました。

寺島●次の方どうぞ。

会場●皆さん専門家の方ばかりで、私は今の方と反対で学習障害の息子を持っております。息子は現在、郵便局でパートで半年契約なんですが、仕事をさせていただいています。今のところは親と同居しておりまして生活は何も不自由はありません。計算は苦手ですがある程度、読み書きもできますし、自分のことは自分でできるのでいいんですが、障害者枠で働いておりまして、お給料は8万円くらいで、一番軽いところにいるので障害者年金も貰えない。この先、この子がどのように生活していけばいいのか悩んでいます。今年初めてソーシャルファームという考え方を名古屋でお聞きして、どうしてもお話を聞きたくて来ました。うちの子のような境界線にいる子どもたちが将来どうやって生活していくのか、ソーシャルファームのようなところで働かせていただけて、安定した生活ができるような所がないかと思って探しているんです。私は今、名古屋にいますが、できれば東海地方で、お役所の関係で、相談にいけるところは何かありますでしょうか。レベルの低い質問ですみません。

炭谷●どうもご質問ありがとうございます。確かにご事情、よく理解できます。私どもは、今、ご質問していただいた方々のような、経済的にも安定して本人の人生にとっても生きがいがあるような職場を作りたいというのがまさにソーシャルファームの狙いなんです。ただ残念なことにまだまだ日本ではそういうところが少ないのではないかと思います。名古屋でソーシャルファームを作って実績を上げている人は、まだまだ少ない。ないとは思いませんが、少ないのではないかと思います。きっとお子さんに合うソーシャルファームがきっと見つかるし、また、できるんだろうと思います。もう少し気長に見つけて、あるいは自ら作っていただいてもいいんじゃないかなと思います。ずばり名古屋で、ここのソーシャルファームが良いというのを残念ながら今の段階ではご提示できませんけれども、私自身は2,000社つくろうと、各市町村1カ所ずつ作っていければと努力をしています。できるだけ努力はしたいと思いますけれども今のところは、ずばりこことご提示できないのが残念ですが、努力はしていきたいと思います。

寺島●後お二人で最後にさせていただきます。

会場●高齢者の支援技術を研究しているデザインエンジニアの者です。9年前にフィンランドに行きましたので、その補足と最近の状況をお伝えたいと思います。2006年に仙台市がフィンランド市と提携する関係で、高齢者の支援施設を見ました。フィンランドが日本の北海道ぐらいの人口で、面積が日本ぐらい。彼らは輸出するしか外資を稼ぐ方法がなく、彼らのマインドとして輸出が当たり前で、尚且つ自立心が高い国なんです。高齢者が寒いところで1人で暮らしているのが平気であるところです。そういう意味では、ソーシャルファームとか就労の支援をするお金が変動するのを今回聞いてびっくりしたんですが、ある意味自立心が高いところから、その制度を利用しないというのは国民性として表れているのかなと思いました。それと最近、数日前にニュースで知ったんですが、フィンランドが統一最低所得制度を真剣に考えているということで、福祉の制度を減らして働いても働かなくても所得を得るようにすることを検討しているということで、これもびっくりだったんですが。今の社会制度がどういう風になっていくのかなと着目したらいいのではないかと思います。

寺島●どうも情報ありがとうございました。最後に前の方、お願いします。

会場●確認の意味で質問をさせていただきます。2つあります。1つ目は日本型ソーシャルファームのお話を今日いただきましたけれども、社会保障審議会の中で社会雇用制度が必要という意見が出されております。それにつきまして、障害者を雇用して労働問題として今後考える場合に、一般企業と日本型ソーシャルファームと社会法制の3つの大きな柱を考えていくという方向でいいのでしょうか、とお尋ねしたいのが1つ。2つ目は、プログラム6ページの中にソーシャルファームの登録の中で、障害者も労働契約に基づいて一般的な給料を支払うという文言が載っています。それについて、「通常の」ということですが、必ずしも健常者とは同額ではないという話もあったと思います。つまり、最低賃金は同じであっても、実際の実質賃金はバラバラという理解でよろしいでしょうか。それが2つ目の質問です。

炭谷●ご質問ありがとうございます。まず、最後の質問から。通常の給与ということですが、当然、労働関係の法律を守るという大前提がありますから、最低賃金はクリアしていることは当然の前提でございますし、他の労働関係法令を守っているということが大前提でございます。その場合、賃金はどうかというと、微妙なことで、その人の労働の成果に応じて払う。ですから、一般の労働者が働いている成果と障害者の人の成果が同じであれば当然賃金は同じですし、労働生産性が少し落ちれば同じ時間を働いていても賃金が落ちるということもあり得るということであったように思います。ですから、同じ8時間働いて同じ賃金、というものではないという説明でした。これが「通常の」という意味で同じではないと理解をしていただければと思います。

それから最初の質問、大変重要な質問でございます。私自身も非常に悩んでいるところです。私は基本的には、現在、障害者もいろいろ幅広い層があります。多様な仕事の形態を用意する方が望ましいのではないかと思います。ですから、日本の場合、ともすれば公的な職場か一般企業の通常の就労か、どうも2つの大きなしばりになっているように思います。そして、今は、社会的就労という中間的なものを作ろうという動きだろうと思います。それはそれでいいのだろうと思います。私の言っている日本型ソーシャルファームというのはどちらかといえば、一般就労に限りなく近くなっていく。その中に属しているけれども、民間企業ではなかなかやれない、なかなか達成できないものをソーシャルファームとして組織体でやっていこうと考えています。ですからどちらかといえば、一般就労の部類に入るだろうと考えていただければと思います。こういう仕事の仕方もあってもいいだろうと考えていただければと思います。

寺島●どうもありがとうございました。最後に、司会者の特権で、少し感想を述べさせてください。炭谷先生、桑山先生のご報告を聞かせていただきまして、北欧の国はやはり違うなと思いました。3つ目が現れたのかなと。1つ目はイギリスのようにほとんど公的な補助がないソーシャルファーム。2つ目は、ドイツのように障害の部分を行政が補うパターン。3つ目は、あまり障害のことを気にしないでおおらかに障害のある方も含めて、企業でやっている。そういう意味ではかなりインクルージョンに近い形なのかもしれないという印象を受けました。

それでは質疑応答の時間を終わらせて頂きます。どうもありがとうございました。