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日本型ソーシャルファームの推進に向けて

基調講演 「日本型ソーシャルファーム」構想の課題と現状

炭谷茂(ソーシャルファームジャパン 理事長、社会福祉法人 恩賜財団済生会 理事長
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 会長)

日本障害者リハビリテーション協会会長の炭谷でございます。今日は「日本型ソーシャルファーム推進に向けて- 2016年国際セミナー」にお集まりいただきまして本当にありがとうございます。

今回のセミナーは、これまで我々がいろいろと外国で勉強してきたこと、また、日本で検討がされたことの総括的な意味がございます。このようなことで今回、できれば、日本におけるソーシャルファームはどうあるべきか、一言で言えば日本型ソーシャルファームはどのように作っていったらいいのか、そういうことについて皆さま方と総括的に、ひとつの締めくくりをつけるという機会にしたいと思っております。

今日、ご出席の方々は大半が既にソーシャルファームは何なのかということをご存じの人が多いと思います。また、実際にソーシャルファームを実施されている方もいらっしゃるわけでございます。しかし、中には、関心はあるけれどもあまりわからないという人も、かなりいらっしゃるだろうとも思います。そこで、ソーシャルファームは何なのか。ある人にとっては重複になりますけれども、ここで全体像、アウトラインを知って、皆さんと確認をすると、そういうことは大変重要だと思いますので、そういうものも兼ねまして、まずソーシャルファームとはどんなものなのかこういうものについて、説明をまずしていきたいと思っております。

まずレジメの1ですけれども、ソーシャルファームの必要性ということについてお話をしたいと思います。

日本にはたくさんの自分の特性に合った仕事に就けない人たち、そういう人たちがたくさんいらっしゃるわけでございます。例えば障害者の方が一番代表的だと思います。日本の統計では700万人あまりの障害者がいらっしゃるということになっておりますけれども、国際的な標準から言えば人口の10%が障害者ですから、本当は日本には1,000万人以上障害者がいらっしゃるというふうに考えるべきでしょう。

しかし、例えば精神障害者、厚生労働省の調査では27%しか働いていないわけでございます。

また、高齢者の方々、まだまだ元気だけれども働く場所がない。日本には3,000万人以上の65歳以上の人が存在するようになりました。また、一度例えばガンになった場合、次の職場が見つからない。そういう人たちもたくさんいらっしゃいます。

私は一昨日、大阪の釜ヶ崎に行っておりました。釜ヶ崎の中でもかなりの人は仕事に就けるようにはなりましたけれども、まだまだ自分の適性に合った仕事に就けない。仕事に就いているけれども、どうも自分に向かない、そういう人たちがたくさんいらっしゃるのが日本の実情でございます。

私は、現在は仕事に就いているけれども、自分の適性に合わない、そういう人も含めまして、日本社会の中には2,000万人以上の方々がこれに該当するのではないのかな、というふうに思っております。過大な見積もりだという批判も受けますけれども、私はむしろ最近はこの数字が増えているのではないかな、と、いやもう3,000万人近くにまでなっているのではないかな、とも思うことがあります。この人たちに何とかしなければいけない。これが第1の理由であります。

2番目には、それではそれらの人たちに対する現在の日本社会における仕事を用意する体制はどうなっているんだろうかということであります。

大きく言って、日本には2種類の職場が用意されております。

第1の職場は、税金が投入された公的な職場であります。これは大変重要な職場で、十分機能しているわけであります。しかし、ここで生産されるものは商品の競争力が乏しく、給料が低いというものがかなり多いわけであります。したがって、作っても給料が少ない。また、やりがいを感じないという人もいらっしゃるわけでございます。このような職場が地域によって偏在しております。地方都市に行くと、このような公的職場で働きたくても働く場所がない、そういうところもありますし、全体の数はまだまだ不足をしている現状にあります。

しかし、障害者の方々については、このような公的職場は日本の場合、比較的充実をしていると言えます。しかし、先ほど言った日本社会の中には、例えば高齢者の方々、刑務所からの出所者の方々、ホームレスの人、また、引きこもりやニートたちの若者、このような人たちに対する公的な職場は、現在、日本には一般的にはありません。

第2の職場としては、一般企業があります。私は、一般企業の中でこのような2,000万人にも上る人たちが、一般企業の中で勤務できれば大変幸せなことだと思います。しかし現状は、日本では一般企業は従業員の2%障害者を雇用しなければいけないというふうになっていますが、いまだ1.8%しか達成してない。40%の企業が達成するだけであります。しかし、実際にこのような企業で働いても、本当にその企業の本来の仕事に従事できるのであれば生きがいも感じ、高い給料も得られると思います。しかし、ともすれば本来の仕事に関係のない仕事、障害者雇用をしなければいけないからという理由で障害者を雇用している、どうもその仕事がやりがいを感じない仕事になっているケースも残念ながらかなりあるわけであります。

その点、例えばオムロンのような会社では障害者を雇用して、障害者が作ったものが海外への輸出品に使われている。そのような企業もありますから、すべての企業がそのようなことではありません。しかし、残念ながらそうでない企業も日本にはかなりあるというのも事実だと思います。

しかし、障害者の場合はそのような法定雇用率がありますけれども、他の問題のある人については、一般的には存在しません。中には地方自治体によっては、例えば栃木県のように、刑務所出所者の人を何パーセント入れたところは県の発注について有利にしようということで推奨しているところもありますけれども、一般的にはこれを進める制度がないというのが現状だと思います。

このような日本の経済構造において、公的な職場、民間企業だけに委ねていると、どうしても、先ほど言った2,000万人の人、いろいろな多様性のある人たちに対してうまくこれが対応できない、これが日本の問題だと思います。

その空白を埋めるのが社会的企業の役割だと思います。社会的企業は、いわば第1の職場と第2の職場の、それぞれの要素を持ち合っているわけであります。つまり、第1の職場のように公的な目的を有している。しかし税金に依存することなく、ビジネス的な手法で第2の職場と同じようなスピリットで経営をする。そういうものが社会的企業であります。日本にも徐々に社会的企業は育ってきたと思います。しかし、ヨーロッパやアメリカに比べれば、この社会的企業のシェアはまだまだ小さいのが現状だろうと思います。

社会的企業はいろいろな種類があります。例えば一番代表的なのは、この中でもやってらっしゃる人がいらっしゃるでしょう、コミュニティビジネス。家庭の主婦が何かしらビジネスを起こす、そういうものもあるでしょう。また、先日私はそこでお話をしましたけれども、ワーカーズコープという、まさに労働者の人たちが集まってお金を出し合って作る一種の協同組合方式、ワーカーズコープもいわばこの第3の職場に属するものだろうと思います。

今回テーマにしているソーシャルファームは、この第3の職場の中のあくまで1つであります。すべてではないんですね。だから、ソーシャルファームがいわば先ほど言った2,000万人の人に対してすべて対応できるかといえば、それは無理な話で、必ずしもすべてではないけれども、その有力な役割はソーシャルファームが果たすことができるのだろうというふうに考えております。

そこで2ですけれども、ソーシャルファームの沿革について、簡単に触れてみたいと思います。

まずソーシャルファームは1970年代、北イタリアのトリエステで生まれたというふうに言われております。精神病院の入院患者を外来治療に移すことが、イタリアの精神医療の基本的な方策でございました。そのために、地域で生活をするために働く場所を作らなければいけない。当時のイタリアの状況から、やはり精神障害者についての偏見差別は根強くあった、一般企業ではなかなか働けなかった。そのためにこの病院のスタッフと患者さんが一緒になって作ったのがソーシャルファームの始まりだというふうに考えられております。

このソーシャルファームが精神障害者だけではなくて、問題のある障害者すべてに拡大され、さらに、DVの被害者、刑務所からの出所者など、一般労働市場では仕事を見つけることが困難な人すべてに対して対象にしようということで対象の拡大が図られたわけであります。

イタリアで起こったこの運動はヨーロッパ全体に広がっていきます。本日来ていただいておりますドイツ、フィンランド、イギリスもそうです。さらに、例えばオランダやルクセンブルク、フランス、さらにギリシャ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーといった北欧諸国、さらにはポーランドやリトアニアのような東欧諸国、非常に広がっていったわけであります。最近はお隣の韓国にもソーシャルファームを進めるための法律が数年前に既にできております。また、オセアニアオーストラリアにもソーシャルファームができたという情報を得ているわけであります。

こんにちでは、ヨーロッパの状況を考えると、また韓国やオーストラリアなどの状況を見ると、今、障害者をはじめ、何らかの労働市場では仕事が見つけにくい方々に対して仕事を用意する場として、このソーシャルファームが、経済・社会構造において一定の地位を占めるに至っているというふうに考えられるわけであります。

ここで重要なのは、ソーシャルファームは単に就労する場を提供するということだけではないのです。ここが大変重要なことであります。単に仕事を用意するだけであれば、これまでの第1の職場や第2の職場などとあまり差はないわけですけれども、重要なのは次の2点だというふうに私は思っております。すなわち、①の方に書きました、ビジネス的手法による市場で競争できる優れた製品・サービスを生産する。ここが重要なんですね。つまり、ソーシャルファームでできたものは、現在の日本の経済の中で、一般の商品市場の中で十分通用する商品やサービスでなければいけないわけであります。ともすれば、例えば第1の職場で作った商品は、やはり他の一般市場の中ではなかなか商品として扱ってもらえない。わかりやすく言えば、日本のデパートでそれを売ってくれるかといえば、ほとんどが売ってくれないわけであります。

第2の重要な点は、ここで働く人たちが給料、労働時間等の労働条件が一般の労働者と、一緒であると、同じ労働条件が適用されるということであります。つまり、生産されるものも一般の経済の構造の中で同じ。また、働く人も労働経済の中で同じ扱い。ここは非常に重要なのです。つまり、これから2,000万人に上るという人が保護された存在ではなくて、1人の市民として、1人の労働者として働ける、生活できるようにする。これがソーシャルファームの一番重要なことであります。もし、その目的が果たせないならば、それはソーシャルファームとも言えないし、ソーシャルファームをつくる意味は、まったくないわけであります。

このことによって、障害者などの方々の個人の尊厳が確保できる。働きがいがある生き方ができる、また、自尊心が得られる、というようなそれぞれの方々のまず人権がしっかりと確保できる。これが第1の目的であります。

第2は、それによって社会との結びつき、いわばソーシャルインクルージョン、働くことによって地域社会の一員になる、このようなものが果たせる、ここにソーシャルファームの最大の理念、目的があるわけであります。これを忘れてはいけないわけであると思います。

そこで、以上申したことをソーシャルファームの要点として整理してみたいと思います。3のところですね。

まず、第1は、ソーシャルファームとは何なのかと言われれば、第1には障害者と労働市場で就労の機会を得ることが困難な人や不利な立場に置かれている人に働く場を創設するものであります。

対象者は障害者、難病患者、高齢者、長期失業者、ひきこもりやニートの若者、母子家庭の母、DVの被害者、刑務所の出所者、薬物依存症の人、ホームレスなど、多種多数に及ぶだろうと思います。これは別に制約はないんだと思うんですね。これから新しい問題が次々に出てきます。この人たちも除くわけではない。

第2は、ここが重要なのですが、障害者と当事者と一般の人が対等の関係で働く。決して当事者だけが働く職場ではないのです。むしろ一般の人が入らないことにはソーシャルファームの目的が果たせない。先ほど非常に重要なソーシャルファームの崇高な理念として1つ挙げたのは、ソーシャルインクルージョン、社会とのつながりということです。もし、あるところにソーシャルファームと称して、そこに例えば刑務所からの出所者だけが集まった働く場があったとする。これは社会から隔離された職場なのです。それでは意味がない。一般の人がそこに入ることによって、社会との結びつきができるわけであります。

第1の職場、公的な税金の入っている職場は、職場にも障害者以外に健常者がいらっしゃいます。しかし、その方々がなぜいらっしゃるかといえば、保護する立場、指導する立場、そういう立場でいらっしゃるわけであります。それに対してソーシャルファームの一般の人の存在は、そのような役割ではなくて、1人の対等の労働者として存在する。その役割が重要なのです。対等の同じ仲間として一般の人がいる。これがソーシャルファームの重要なポイントであります。

なぜ一般の人がいるのか。ソーシャルインクルージョンを果たすためという崇高な理念とともに、一般の人の入った方が仕事がうまくいく、効率的にいくという場合があります。その場合が多いです。例えば、既に活動しているソーシャルファームである、東京・八王子の「いちょう企画」の場合を見てみると、これは古本の販売をやっております。古本のいろいろな手入れは障害者が行います。しかし、価格付け、価格をどのように設定するか、これは一般の専門家がやります。うまく組み合わせることによって、一般の人もその部分に入ることによってうまくいくんですね。そうしなければ、まさに市場で売れる商品は作れないわけであります。

実際、ヨーロッパの例を見ますと、むしろ当事者よりも一般の人の方が割合が多くなっている例が多いわけであります。ソーシャルファーム・ヨーロッパ=CEFECの基準では30%以上、当事者がおればいい、ということになっていますから、逆に一般の人の方が多いんですね。ドイツでは、最低で25%、上限が50%。イギリスでは25%以上。フィンランドでは30%以上。このあたりの数字はまた最新の数字に入れ替えられればいいと思いますけれども、このように、必ずしもすべてが、また過半数が当事者ではない。これを理解をすることが重要だと思います。

3番目。給与、労働時間等の労働条件は原則として一般の労働者と同一の基準が適用される。これが行われるから、まさに障害者等の方々はまさに一人の労働者として働ける。それによって個人の尊厳が確保できるわけであります。

4番目。一般企業と同様のビジネス手法を基本とする。この部分が第1の職場との大きな違いだと思います。福祉の職場は、ともすればこのような感覚はあまりないわけであります。一般市場で販売できる、また競争力のある優れた商品・サービスを生産・提供する。そして、当然利潤を上げます。福祉の仕事であれば利潤を上げなくてもいいということではいけないわけであります。利潤を上げ、これを再投資に回していく。しかし、すべてをビジネス的な手法でやる、つまり公的な資金は入らないかといえば、例えば障害者の場合、やはり労働能力でハンディキャップがあるわけですから、その部分についての公的な支援というものが、ヨーロッパの場合でも、日本の場合でも、ありますけれども、このような一般的なもので支援をされるわけであります。

5番目。そして、障害者等のための生活適応訓練機能、それから職業訓練機能、こういうものも持つ。これはやはり望ましいわけです。何らかの形で一般の労働市場に入れなかった、それは、それなりの理由があるんですね。そしてそれらに対して適用できるような機能を持つ。これがソーシャルファームの1つの重要な要素だろうと思います。

したがって、ソーシャルファームは、ある人にとってはそこで生涯働いてもらってもいいのだと思います。ある人は、いや、自分は職業訓練、生活適応訓練さえ受ければいいんだと、あとは本当の自分の足で一般企業で働きたい、それも私は結構だと思います。ソーシャルファームを踏み台にして次のステップに進んでもらう。これも結構だと思うんですね。

そして夢は、ソーシャルファームがビジネスとして成功し、いわば日本の株式市場の第1部、東京証券市場の1部に載せられるようなベンチャービジネス的な発展をしていく。そのようなことがやはり次の夢として考えられるのではないかと思っております。

以上5つの要素を述べましたけれども、ここで大変くどいようですけれども、あえて繰り返して述べますと、ソーシャルファームというのは、やはり目的を忘れてはいけない。理念を忘れてはいけないわけであります。結局、当事者の方々の働きがい、生きがいを感じさせる。個人の尊厳、それぞれの方の人権を尊重する。そのようなものが究極的な目的になっている。これが第1。

第2には、ソーシャルファームによって社会とのつながり、ソーシャルインクルージョンというものが果たせる。これがやはりソーシャルファームの理念として、しっかりと据えられなければいけない。もしそれがなければ,ソーシャルファームづくり運動なんていうのはやめたほうがいいんだろうというふうに思っております。

次に(6)として、業種について書いてみました。これは、たくさんあります。ヨーロッパを訪れ、また日本で起きているものがたくさんございます。リサイクル、リユース、レンタル、農業、清掃業、住宅修理、コンビニ、レストラン、ケータリング、ホテル業、観光事業。これらはすべて現在あるものであります。もうほとんどの仕事が考えられるわけであります。しかし、ソーシャルファームはビジネスとして成功しなければいけない。福祉の職場でよくあるのは、どこかが成功した、または国から補助金が出るといったようなものだけ、ほとんどのものが同じものを作っている。そして売れない。そのようなものであってはいけないわけであります。したがってソーシャルファームの業種としてはこれから伸びていく、経済の中で伸びていくもの、発展していくものを選んでみる。

例えば、その点ですね、私は最後は環境事務次官をしていましたので、環境の仕事に随分、最後はのめり込みましたけれども、これから環境産業はどんどんどんどん伸びていきます。市場は日本だけではなくて、中国や東南アジアにも市場がありますから、環境産業は伸びる一方で、ここ1世紀は環境産業は完全なる右肩上がりであります。ですからソーシャルファームも、このような環境産業にたくさん挑戦されているというのは正解だと思います。

また、他の一般企業と競争しなければいけないので、競争力のあるもの。そういう業種を選ばなければいけない。他がやっている、隣の事業所が、ソーシャルファームがやっているから、自分のところに取り入れる、これは100%失敗すると思います。やはり自分たちの中で競争力の持つもの、それを選ばなければいけない。

3番目に、付加価値性が高いもの。やった以上、やはり利潤が高いもの。こういうものを選んでいく必要があるんだろうというふうに思います。

(7)国の関与はどうなのか。これは大変難しく、今回の議論の1つでございます。国によって相当差がございます。ソーシャルファームに関する法律を既に制定している国、もしくは単独法ではなくて他の法律の一部分に入れられているというものも含めまして、いろいろな国でこのような法律を制定しております。私どもが訪れたドイツやフィンランドもそうでございます。イタリア、ギリシャ、ポーランド、リトアニアなどもこのような法律を持っているというふうに聞いております。

設置主体はどうなのか。これもさまざまあります。というのは、ソーシャルファームという設置主体というより、他の法人格でなっていると、それをソーシャルファームとしての指定を受けたり、ソーシャルファーム的な経営をしているというようなことに由来するわけであって、ソーシャルファームという法人格、例えば株式会社と同等の位置でソーシャルファームがあるケースの方がむしろ少ないだろうというふうに思います。

イタリア、ポーランド、ギリシャの場合は、これは専らソーシャルファームを経営するための社会的協同組合を設立してやっている。それから、ドイツ、フィンランド、リトアニアなどは企業がソーシャルファームの要件に該当していれば国に申請をして、認定もしくは指定を受けるという形でソーシャルファームの資格を得るというやり方があります。

2番目、支援制度。これが重要なところだと思います。助成制度。やはり立ち上がりの部分が必要ですので、設備費等の設立に要する費用を何らかの支援を用意しているところもございます。さらに、アマチュアが、ソーシャルファームを設立する場合、それのコンサルタントに要する費用を支援する。また、障害者と、何らかのハンディキャップを持っている、通常の労働の労働者と同じような仕事をするには能力差がある人にはその部分を埋めていく。このような助成制度もあるわけであります。

税制優遇措置。これは、法人税を非課税にする、減免をする。それからこれはドイツの場合ですれけども、消費税を減免している。つまりドイツは、私どもが調査をした時には消費税が19%でございました。日本の8%に比べればはるかに高いんですね。しかしソーシャルファームのものは、確かこれは7%程度だった、非常に低く抑えられているのですね、数パーセント。だから非常にこの部分がソーシャルファームを応援するという部分になるわけであります。

私どもがちょうどベルリンに行ったとき、ベルリンのコンサートホールに付設されている喫茶店でお茶を飲みました。そうするとそこで、普通であれば19%、2割程度の消費税が上乗せされるんですけれども、そこは7%と大変低い消費税ですので、なんかちょっとお得感ですね、得をしたな、あ、このコーヒーでこんなに安いのかというふうな、内税になっておりますので、消費税が安いから安くなっているのかというふうにはわからなくて、何かサービスをされたような気持ちになるわけであります。

3番目、国や地方自治体における優先購入、優先契約を設けている。例えばイタリアはこれで応援をしているわけでございます。これはいろいろとヨーロッパの中でも議論があるようでございます。というのは、ソーシャルファームがだんだん企業として力をつけてきた。競争力も持たせるのがソーシャルファームですから、ソーシャルファームのやっている仕事と一般のビジネスとしてやっている一般企業と十分対等の関係になってきたんですね。それこそまさに理想です。そうすると、一般企業からソーシャルファームに対して、国が優先購入や優先契約をするのはちょっとおかしいぞというようなクレームが出始めている。だから国や地域によっては、この優先購入や優先契約を取りやめるというところも出始めている。これはある意味ではすばらしいことだと思います。一般企業にとっては脅威に感じてきたわけであります。

そのほか、経営指導や研修、情報提供、こういうものも行われております。

以上がいわばソーシャルファームの要点でございますけれども、4として、それでは各国の状況を簡単に見ておきたいと思います。これは後程3人の海外から来ていただいた方々に詳しく説明をしていただきますので、私はそれらを聞くためのヒントとして、むしろ予備知識としてお話をする程度にします。

ドイツは2001年にソーシャルファーム法ができております。法律は社会保障法典という大きな法律の一部分にソーシャルファームに関する規定を入れたわけであります。単独法ではありません。設立時にコンサルや設備費を補助し、そして特に設立から3年間は手厚い人件費の補助をしております。当初の3年間は大変厳しいですから、特に3年間は大変有利な手厚い補助をしている。そして、これは大変私自身感銘をしたんですけれども、ドイツの中央官庁、これは社会保障を行っている省庁が、大きな社会福祉法人に対してソーシャルファームを作りなさいという非常に強い行政指導をしました。初めはその社会福祉をしている団体は、ソーシャルファームなんて儲かるわけがないんだからやりたくないとみんな消極的でした。日本の今とまったく同じですね。しかし国は、やはりこれは障害者のために必要なんだということで強力な行政指導をしたわけであります。この結果、ドイツでは比較的大きなソーシャルファームが設立され、非常に活発な活動がなされています。

2番目、フィンランドはソーシャルファーム法という法律を作っています。最初に英訳する際、これをソーシャルエンタープライズ法という形で翻訳をされたということですけれども、これは正しくは「ソーシャルファーム法」の方が意味としては正しかったというふうにお聞きをしました。2004年にできました。設立に要する費用を補助し、また運営費について当事者の人件費を援助したり、また、職業訓練の機能を持っているところに大きな特色があるなというふうな印象を持ったわけであります。フィンランドは一種の経済学的に言えば混合経済的な色彩を持つ国家だと思います。ですから、国の関与が大変強いのではないのかな、というふうな印象を持ちました。

3番目、イタリアでは1991年に社会的協同組合法を作って、ソーシャルファームを社会的協同組合で設置するという方式をとっております。支援の仕方は、ここで働く当事者の社会保険料を免除するという形で間接的に援助する。イタリアの社会保険料はかなり高額のようでございます。結果的には人件費の3分の1相当を補助することに等しいということになっております。支援の仕方は、国、地方自治体による製品・サービスの優先購入。また、比較的小規模なソーシャルファームが大変多いというのもイタリアの特色だろうというふうに思います。

イギリスの場合は、全国団体であるソーシャルファームUKが1999年に設立、発足をしました。法人格としてはそれぞれ、例えば有限責任会社、チャリティー等の法人格でソーシャルファームとして活動されております。比較的民間色が強い。これはフィンランドやドイツとはちょっと違うのかな、と、非常に民間的な色彩の強いソーシャルファームの運営になっているという印象を持ちました。イタリアの場合はその中間の協同組合方式という形になるわけでございます。したがって国の方の支援は、研修制度やまた情報提供、このようなソフト面の援助に力を入れているようでございます。

そこで5ですけれども、日本での状況はどのようになっているのだろうかということでございます。

やはりいろんな人が問題意識を大変持っていらっしゃる。日本には2,000万人以上にわたる人たちがやはり何らかの形で日々、雇用の面で悩んでいらっしゃる。何かやらなければいけないということで、ソーシャルファームと言わなくてもソーシャルファーム的な団体が次々に立ち上がっているわけでございます。その形態や財源規模等はかなり差があるというものという状況であります。

これらを支援するために2008年にソーシャルファームジャパンという組織を設立いたしたわけでございます。そしてこれによって日本においてソーシャルファームを何とか推進していこうと。ちょうど今年で10年が経つわけでございます。このように海外との交流、また情報交換等を通じて、日本におけるソーシャルファームを推進したいという形で努めてまいりました。

一昨年からソーシャルファームジャパンサミットを年に1回開催をしております。2014年には北海道新得町。2015年には滋賀県大津市で行いました。それぞれ300人とか400人とか、大変たくさんの方々も出席していただきました。大津の場合は県知事の三日月知事も参加をし、内閣府から伊藤補佐官もわざわざ来ていただきました。

このように非常に関心を集めているわけですけれども、今年は10月8日、9日、この関東の近郊であるつくば市のつくば国際会議場でソーシャルファームジャパンサミットを行います。土地の便がちょっと離れているせいでしょうか、まだまだ参加者を募っておりますので、ぜひお近くにいらっしゃる方は積極的なご参加をお願いして盛り上げていただきたいと思います。

ここでは、昨年、一昨年に続いてフランスでソーシャルファームを行っているヘンケルさんという、これは刑務所からの出所者に対してソーシャルファームを行っている実践家も招いて行うことにしているわけであります。

また、先ほどのメッセージにもありましたように、2016年4月、今年の4月からは超党派のソーシャルファーム推進議員連盟が発足をしたわけであります。超党派ですから、あらゆる政党がご参加をされました。既に2回ありまして、第1回目は私が報告をし、第2回目はソーシャルファームとして活動されている「共働学舎」の宮嶋さん、それから埼玉県飯能市「たんぽぽ」の桑山さんが実践報告をしていただき、大変感銘を与えました。各党の方々も大変熱心にですね、これは必要だということで応援をしていただいています。是非ソーシャルファーム推進基本法が必要だ、これは議員立法で作らないといけないなとかですね、大変盛り上がっているわけでございます。会長は小池百合子さんが会長になられましたけれども、このたび都知事なられましたので、後任はまた新しい人になっていただけるということで進められているというふうに聞いております。事務局長には木村弥生議員がなっていただいているわけでございます。

また、設立の実例ですけれども、既にお話し、今日も関係者の方が来ていらっしゃる方も多いと思います。またヨーロッパから来ていただいた方々にも既にご覧いただいたところもあるわけですけれども、北海道新得町の「共働学舎」、これは障害者やひきこもりの若者、ホームレスなど約70名の方々に対して共同生活をしながら日本最高のブランドであるチーズを作っている。販売額は年商2億円を超えるに至っているわけであります。チーズですから牛乳で売るよりもはるかに付加価値が10倍程度あるというものでございます。そしてブランドとしては日本最高のブランドの評価を得ておりますので、例えば、JALの国際線のファーストクラスで出されるチーズには、この共働学舎、ソーシャルファームが作ったチーズが提供をされているわけでございます。

2番目の「エコミラ江東」、これは、今回ヨーロッパの方々に視察をいただきましたけれども、江東区内で知的障害者が廃プラスチックのリサイクル事業を行っている。これは一般雇用として大体月12~13万の給料を払われております。これは江東区がいろいろな面でお金の面ではなくて、例えば廃プラスチックの運搬ということで支援をされています。

3番目、「たんぽぽ」ですけれども、これが飯能市の桑山さんという方が精神障害者等が健常者と一緒に自然農法で野菜作りをされております。農業やってらっしゃる方も多いと思いますけれども、なかなか付加価値が高くない。また販路が非常に難しい。そのためにここに書きましたけれども、当初はレストランを開いたんですけれども、どうもやはり経営がいま一つということで、今は販路を保育所に最近開拓をし、保育所がこれを買ってくれるという形で今、出しております。また、かつて私は、休暇村協会の理事長をしておりましたので、近くに休暇村ができましたので、その休暇村でお土産として、ここでできた野菜を売るということも試したりしているわけであります。

4番目、「がんばカンパニー」は、滋賀県の大津市。知的障害者がクッキーを製造している。大変質のよいクッキーなので、東京と名古屋の一流のデパートで売られております。既に年商2億円を超えているというものでございます。私はここでできたクッキーを、亡くなられましたけれども寛仁親王に、障害者が作ったクッキーですと言って持って行ったことがございます。

それから5番目、「ハートinハートなんぐん市場」。これは愛媛県の愛南町でございます。精神科の医師である長野先生が中心になって進めております。精神障害者も働くためにいろいろな仕事を幅広くやっていらっしゃるわけでございます。シイタケ、アボカド栽培、それからレストラン、ドックラン、温泉の経営と非常に幅広くやっておられます。そしてそこでは、むしろ、この愛南町は過疎地ですので働く場所がない。住民にとって働く最大の場所は、まさにこのなんぐん市場。精神障害者が働くために作ったソーシャルファームが一般住民の最大の働く場所になっているという状況でございます。

最後に、日本におけるソーシャルファームの主な課題についてお話をしていきたいと思います。これはいわば問題提起です。私ども今回のセミナーは、いわば日本型ソーシャルファームはどうあるべきか、それをどのように制度化すべきか。具体的には、例えばソーシャルファーム推進基本法がつくられる場合はこういう点について気をつけてほしいと言って議員さんにお願いをする、そういうものであります。

まず、法的財政的な整備であります。法人格は、これはむしろ日本の法律制度からいっていろいろなものがあると思います。ソーシャルファームという法人格をつくるというのも1つの方法ですけれども、むしろ現在の場合は、既にある社会福祉法人、NPO法人、株式会社、一般財団法人、いろいろなものを考え、それを前提にして考えた方がよいのかなというふうに思っております。そして一定の要件に合うものをソーシャルファームとして指定をするというのも一番よい方法かなというふうに思っております。

2番目、財政援助。やはり立ち上げ費用が大変かかります。立ち上げ費用をやはり何らかの財政援助をする、これも必要だろう。また、通常の財政援助も、例えば障害者等の場合は必要でしょう。これをどのように組み立てるか、これが非常に難しいところです。というのは、ソーシャルファームの究極的な狙いは独立採算。普通の企業のように一本立ちしたい。あまり公的な援助に頼る、それを前提とすることは、ソーシャルファームの自殺行為になるんですね。何のためにやっているかわからなくなる。その部分の兼ね合いに注意をしなければいけません。

税制措置。これも何らかの優遇措置が必要だろうと思います。優先購入制度、これも日本の場合は役に立つんじゃないかなというふうに思います。このようなものを含めた基本法の制定というものをぜひ要望をしていきたいと思っているわけであります。

そして次は、他制度との調整。既に最初にお話しましたように日本の場合は、障害者に限って言えばたくさんの立派な制度があります。特例子会社制度、それから障害者雇用に対する助成金制度。また、福祉の制度では、ここにいらっしゃる方はご存じのように就労継続支援A型、こういうものもあります。こういうものは、方法によってはそのままではソーシャルファームにはもちろんなりませんけれども、方法によっては十分ソーシャルファームになり得る。イコールソーシャルファームでは絶対にありませんけれども、やり方によってはソーシャルファームとしての指定というものができるのだろうと思います。

3番目、競争力のある商品を作っていく、その開発ですね。

それから4番目、販売の拡大。これは例えばソーシャルファームジャパンのロゴマークを作っております。JALのファーストクラスでのチーズにソーシャルファームジャパンのロゴマークが貼られているわけであります。そして今既に試行的にソーシャルファームジャパンで認定をしてロゴマークを貼っている。これによって販路の拡大、またはホームページを使ってソーシャルファームの注文を受け付ける、そういうことも考えられるのではないのかなというふうに思います。

5番目、指導者の養成。特に研修制度、こういうものも重要だと思います。

採算の確保。これも営業力が問われます。

そして、ここでは抜かしましたけれども、資金をどのように用意するか。特に、例えばソーシャルファイナンスというものも考えられるのではないかな、というふうに思います。

このようにいくつかの課題があります。そういうものを整理して、ソーシャルファームを進めていきたいと思います。

繰り返しになりますけれども、ソーシャルファームは何のためにあるか。その原点を忘れてはいけないんだと思います。つまり、障害者や刑務所からの出所者、その他、何らかの形で社会の中で適切な仕事を得られない人に対して、それぞれの個人の尊厳、働きがい、生きがいをもたらす。そしてそれらの人の人権を重視する、人権を基本にする。それがないならばソーシャルファームなんていうのはなくてもいいんですね。やめた方がいいんだと私は思っております。

また、それによって社会との結びつき、ソーシャルインクルージョンを果たせる。そのようなものがソーシャルファームの理念であり、それが重要だということを最後に繰り返し申し述べさせていただきまして、私のお話とさせていただきます。

どうもご清聴ありがとうございました。