音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

日本型ソーシャルファームの推進に向けて

報告2「ドイツのソーシャルファームの現状と課題」

ゲーロルド・シュワルツ ドイツ国際協力公社 民間セクター開発・雇用創出プログラム(パレスチナ)プログラム責任者

ご紹介ありがとうございます。今回ここにおります理由は、私の経歴をご覧いただいてのことだと思います。基本的にはドイツで仕事をしておりました。1993年にはソーシャルファームのナショナルアソシエーション、連合会のようなものでしょうか、これに勤め始めました。その後、多くのヨーロッパのその外のソーシャルファーム、ソーシャルエンタープライズ・プログラムの仕事もしました。先ほどお話にありましたように、パレスチナでのプロジェクトも今やっております。また、困難な立場にある方たちの雇用を創出するためのさまざまなプロジェクトに関与しております。それからドイツでのいろいろな教訓をベースに、障害のある人、困難な立場にある人々のお手伝いをする、手を差し伸べるというのが私にとっての個人的なキャリアの元になっています。ですからドイツだけでなく、他の国でも何かできることがあればどんどんお手伝いをしています。

こちらが今日の論題、アジェンダです。日本に来たのは今回で8回目でしょうか。一番最初が2006年でした。そのときに同じようなプレゼンテーションを行いましたが、そのときにいらっしゃった方は今日もおみえでしょうか。今日の発表ではまず、ドイツのソーシャルファームの発展、それから現状についてお話しするようにというふうに言われています。これについては以前にもお話をしたことがございます。ですので、今日はそれに加えて、これまでに私たちがどんな教訓を得たか、これを共有したいと思います。この分野ではドイツでも結構長い歴史を持っておりますので、いろいろ頭を悩ませました。今日皆さんに教訓をお話しするに当たって、他の国の皆さん、つまり日本の皆さんにとって、その教訓の中で何が重要になるのかといろいろ悩みました。でも頑張ってみます。

さて、ソーシャルファームとは何か。これはソーシャルファーム・ヨーロッパにおける私たちの理解です。もちろん炭谷先生も先ほどお話になっていました。1997年には国内で同意に至ったのですけれども、他のヨーロッパの国々でも、議論の土台となっていて、国内のソーシャルファームの法制定に利用されています。定義については皆さんご存じでしょうから割愛します。

ソーシャルファームの位置づけです。炭谷さんも先ほどお話になっていましたけれども、この図をご覧ください。ドイツでどんな状況か、数字を挙げてお話ししていきましょう。全体の社会経済の中でどんな部分をソーシャルファームが占めているのか。この図でいうと本当に一部であります。この図を見ながら、ソーシャルファームというのはドイツにおいては小さいもののきちんと存在感を持っているグループです。

ドイツでは、ソーシャルファームの定義は明確ですが、これについては後ほどお話しします。今現在、800ほどのソーシャルファームがあります。ソーシャルファームは雇用統合型ソーシャルエンタープライズ(WISE)というものの一部になっています。ドイツでは、ソーシャルファームというのは障害者や他の立場の弱い人たちの雇用を創出することが主な目的ですが、WISEの方は長期的な雇用やもっと広範な範囲をカバーしています。さっきフィンランドのユッカさんも言っていましたジョブバンクやジョブコーチンを行う組織もありますが、ドイツでも職業訓練とかジョブコーチングといったことを行う組織があります。これらを「雇用統合型ソーシャルエンタープライズ」と呼んでいます。60万ほどWISEの種類があります。ソーシャルファームが800ですから数がすごく違うというのがよくわかります。

そしてまた、社会的な、環境的な問題に取り組んでいるのがソーシャルエンタープライズというものです。ソーシャルファームをこのように位置づけた理由についてはまた後で述べます。

これはドイツのソーシャルファームの法的定義です。ソーシャルファームの定義、ドイツ版という感じです。2001年に制定されました。炭谷さんが先ほどまとめてお話しくださいました。シンプルで非常に基本的な法律です。

言わんとしているのは3点。まず1つ目、ソーシャルファームは一般市場で取引をする企業である。2点目、ソーシャルファームとは特別な社会的使命を帯びた企業である。つまり、重度の障害のある人を雇用するものです。この重度の障害というのをドイツではきちんと定義づけています。それからもう1点、従業員の25~50%は障害のある人でなければならない、と言っています。この部分、そんなに厳しいものではなくて、例えば従業員の51%が障害者ですといったら、いけないのかというと、そういうことはありません。しかし最低25%はいなければならず、これは重要です。

それではドイツの法律についてもう少し見ていきたいと思います。

フィンランドのプレゼンを聞きまして頭に浮かんだことがあります。ドイツの法律というのはとても焦点を明確にしています。この法律について議論していたとき、私はソーシャルファーム・アソシエーションで働いていましたが、そのときに法律の中にどういったことを含めるべきかという議論を行いました。フィンランドでしたような議論をドイツでも行いました。つまりソーシャルファームは人々を訓練して雇用し、一般労働市場に移行させるという話をしました。また、ソーシャルファームはこれをするべきだとか、例えば従業員を雇ったときにトレーニングをして、ソーシャルファームとの契約のもとで、民間企業で働くようにするというお話をしました。さまざまなモデルに取り組んでいる組織がありますので、そうしたモデルもこの法律に反映されました。けれども、そちらの方面に力を入れるよりも、法律で焦点を明確にしておくことの方が大事だということを言われていました。例えば従業員を、ソーシャルファームを通じて民間企業に統合していくということに関しましては、私たちの意見は当時も今も、ソーシャルファーム自体が民間セクターの会社であると思っています。ですので、社会的な使命こそ違えど、同じ民間企業として、私たちが訓練した有能な人材を他の民間企業に提供していくということはいかがなものかという話もしていました。これは明白に黒か白か、どちらがいいか悪いかという話ではないと思いますけれども、ただ、やはりそのような議論も行われていました。

私たちドイツにおける経験としましては、政府がソーシャルファームに関する法律を策定するならば、なるべく焦点を明らかにするべきだ、混乱が生じないようにするべきだということです。

例えばギリシャが自分たちもソーシャルファームに関する法律を作ろうということになったときに、ギリシャの場合はソーシャル・コーポラティブという名前でしたけれども、そのときイタリアのモデルに似せたものを作ろうとしました。けれども、精神科の先生たちのロビー活動を通して、精神科医はギリシャのソーシャル・コーポラティブのメンバーになるべきだという話になりました。ギリシャのソーシャル・コーポラティブは市町村と連携をとりながらやるわけだから、市町村もこのソーシャル・コーポラティブの一部になるべきだという話も出てきました。ですので、とても複雑な法律になりました。つまりソーシャル・コーポラティブとして承認されるためにはとても複雑な人選や仕組みをクリアしないといけなくなってしまいました。このような制約がありますと、うまくいきません。私たちはそれを見まして、ドイツにおいてはなるべくシンプルに、そして焦点を絞って法律を作ろうと思ったわけです。

その法律に則した形での政府による支援についてですけれども、ここで重要なのは、政府の支援というのはこの法律に関連しているものもありますが、かといって法律でソーシャルファームとして認められているから自動的に政府から支援が来るというわけではありません。政府から資金援助をもらうためには、それぞれケースバイケースで交渉して得ることになります。この法律があって、ソーシャルファームだから自動的に支援を得られるというわけではありません。

一般的な開かれた競争の中で事業を展開していくという要素はソーシャルファームであっても重要なのです。

また、ソーシャルファームは他の一般企業と何ら求められるものに大きな違いはありません。日本や他の国でもそうだと思いますけれども、例えば障害者のために仕事を創出するためにソーシャルファームを作る場合は、やはり何かしら当初の投資のための援助を得られる可能性があります。例えば障害のある人たちのための仕事場を改良、調整するということも入ってくると思います。

また、別のタイプの支援パッケージがあります。ソーシャルファームのスタッフの給料を負担するということですが、障害のある人たちにのみ適用されるものです。それはその時の政府の財政状況にもよりますけれども、給与の約80~90%が最初の1年目に支援され、3年かけて減っていきますが、最長で5年間、支援を受けることができます。それをやることによって、投資費用のカバーをすることが目的となっています。

また、トレーニングを提供するということに関して、政府の方から余分なコストについての支援が行われます。一方、長期的な援助として、ソーシャルファームは障害のある人たちに対してトレーニングを提供するトレーナーの給与も一部負担しています。これはあまり大きな部分ではありません。だいたい1人の給与を支払うのに、20~25人必要になってきますけれども、そのような支援もされています。

また、別の支援としましては、障害者による低い生産性を補償する支援というものも提供されています。これも継続的、恒久的な支援で、多額の金額ではありません。会社側としましても障害のある人が同じ仕事をしている他の人と比べて生産性が低いということを毎年証明しなければなりません。

こうした資金的な支援は、どの会社に対してもオープンになっています。障害者を雇用している企業であればこうした支援を受けられることになります。つまりソーシャルファームである必要はありません。ソーシャルファームでしたらいろいろとソーシャルファームであるから、という明確な部分がありますが、こうした支援はソーシャルファームに対してだけというわけではありません。

次です。ロビー活動もいろいろ行われており、日本でもそうかもしれませんけれども、ドイツで初めてソーシャルファームが生まれた1983、84、85年の頃は、まだ小さな企業が5~10、あっても30くらいしかなく、社会福祉団体、つまり日本でいうNPOという形で立ち上げられました。活動が進むにつれてプロのアドバイスが求められました。NPOとしてスタートをしたはいいけれど実際に運営するのにちゃんとしたノウハウがなかったからです。そこでドイツでは、早くからソーシャルファーム・アソシエーションを立ち上げました。目的は、一方ではグループ同士の交流と助け合い、もう一方では組織の中で能力を上げられるように、アドバイスを提供する、ということで、一般市場でビジネスを立ち上げるための知識やノウハウを提供することにありました。例えばレストランを経営しよう、というときに、その場所で実際に利益が出るだろうかとか、人の行き来がある場所なのか、いろいろなことを考え、調べていかなければいけません。そこで必要とされたのがビジネスコンサルティングです。障害とどのように企業活動を組み合わせたらいいのか、プライベートセクターのコンサルタントが民間企業にアドバイスを提供するのと同様に、ドイツのソーシャルファームに対して、障害を持つ人たちを多く雇用するんだけれども、彼らの障害というのはソーシャルファームで仕事をする上でどんな影響を及ぼすのだろうか、また、ソーシャルファームをスタートして運営するに当たってどんな資金調達の機会があるのか、これはヨーロッパでもこういった分野で参考になるようなプログラムというのはたくさんありますが、あるいは障害についてのどういう知識を持っておくべきなのかとか、学ぶことはたくさんありました。

当時まだ、アドバイスを提供できるコンサルタントは2人でした。私は3人目です。そしてドイツのソーシャルファーム関連の法律でも、このようなコンサルティングが必要だということになり、ソーシャルファームを立ち上げるときは専門のコンサルティングを受けられるようになったわけです。社会福祉団体やNPOは、低額のコンサルティング料金でいろんなアドバイスを受けられるようになりました。ソーシャルファーム立ち上げの際に必要なポイントというのをこういったコンサルタントから学ぶことがでるようになった、ということです。

さて、炭谷先生がおっしゃっていましたけれども、政府による支援はこのような感じです。そのほか、考慮すべきポイントが書かれています。これらは実はソーシャルファームだけに関連するものではありません。

ソーシャルファームは非営利団体としての立場を利用し、ドイツのダックスという株式市場に上場している企業がソーシャルファームの事業に乗り出す場合もありますが、有限責任の会社や、株主がいるような会社、こういった企業が財務省に申請をして、社会的なミッション、使命があるということをきちんと申請すれば利益には課税されませんし、社会的なミッション、使命を持っていてそのために仕事をしているということであれば、付加価値税が半額まで減額されます。

さて、教訓としては、ドイツで起きたのはどんなことかというと、そもそもソーシャルファームに関する法律は非常に基本的なものなのです。ドイツにとっては新しいタイプの法律でした。そこの法律をめぐってさらに議論が行われましたが、もう少しフォーカスを絞った法制が必要であろうということになりました。もともと創設したソーシャルファームがもっと使いやすい法律をということで、政府内での話し合いが進みましたが、ソーシャルファーム特有の法律を作って物事を複雑化するのではなく、最低限の定義だけ策定し、あとは既に存在する法律を利用すればよい、という方向に落ち着きました。ですので、既存の法律を活用すればよいわけですから、ソーシャルファーム用の税に関する法律を作ったりしても、役に立たない、ということになったわけです。

さて、こちらはソーシャルファームに支払われる年間の支援額の表です。ドイツに統合局という部署があります。2014年のデータです。合計で7,600万ユーロがソーシャルファームに対する資金援助として費やされています。具体的には職場への投資、障害のある人のトレーナーやアドバイザー用の費用、低い生産性の補償、ビジネスコンサルティング等です。

ここであまり細かいところまで言おうとは思わなかったのですが、ドイツの場合、5%というクォータシステムが導入されています。民間の会社が従業員の5%を障害者とする。そのルールを守れていなければ罰金を支払うことになっています。この罰金を集めて配分する政府当局もあります。こういったものが資金になります。2014年ですと罰金の合計が5億4,200万ユーロになりました。この罰金が民間企業から集められました。障害者をちゃんと本来のクォータ、割り当ての数値に合うようにその人数を雇っていないということで罰金、そしてその罰金が統合局による資金援助に回されました。そのうち7,600万ユーロがソーシャルファームに割り当てられました。5億4,200万ユーロに照らし合わせると、決して巨額とは言えませんけれども、そういう動きがあります。ドイツのこういったソーシャルファームのモデルをお話しすると、ドイツはクォータシステムがあるんですね、罰金がとれるなら資金的には潤沢ですねと言われてしまうのですが、実際に、この罰金も全部が全部ソーシャルファームに来るわけではなくて、罰金の多くは職業訓練やその他の用途に使われてしまうものですから、ソーシャルファームに潤沢な資金が回っているというわけではないのです。この資金は競争力が高く、依然としてなかなかソーシャルファームに回ってこないのです。

こちらのグラフはどのように成長しているかです。私が最初2006年に来たときはソーシャルファーム、400だと言っていましたけれども、今は842となっています。このように継続的に増えていっています。

なぜこういうふうに増えているのか私もちょっとよくわかりませんが、いいシステムがあるからでしょうか。あまりプロモーションはされていませんが、やはり関心は高く、より成功したソーシャルファームの話が広がれば、より関心も高くなるということがあります。最初はみんな多くの疑問を感じていて、我々も小さな組織でした。けれどもうまくいっているという証拠が増え、多くの人が関心を持って入ってきたということがあります。

最初は、ソーシャルファームはとても小さなコミュニティベースの団体でした。けれども人々を助けたいという情熱があり、そのころは仕事が見つけられないということがありました。ですので、自分たちで作ろうということで、最初は本当に小さい団体から始まりました。既に設立されていたとても大きい非営利団体は、最初はこのようなモデルに関して懐疑的でした。けれども今現在、状況はとても変わりまして、例えばフィンランドのように民間セクターの会社が障害者を雇用したいと。そのためにソーシャルファームを作る、ソーシャルファームを子会社にするというところもあります。大きな社会福祉団体もソーシャルファームはとてもいいモデルであると、障害者が雇用されて利益を生み出すにはいいモデルだとみなすようになりました。これはとてもよいことです。

また、作業所を運営している団体と一緒に活動するのは、最初は大変難しいところがありましたけれども、作業所の方も私たちのモデルの利点を理解してくれるようになりましたので、ドイツの大規模保護作業所も興味を持つようになり、ソーシャルファームの子会社を設立して、保護作業所で働いていた人で、物足りなくなって次に進もうとしている人を雇ったりするケースも出てきました。

この数字は、リップル効果を表しているのではないかと思います。関心が高まるにつれ、さらに真剣にこのセクターに取り組んでいる人たちが増えています。2014年の数字を見ていただきますと、2万4000人という人たちがソーシャルファームで雇用されています。障害のある人たちは半分よりちょっと少ない大体40%くらい雇用されています。合計は2万4,000人になっています。このような形で、ここ10年でとても成長してきているということを見ていただければと思います。

こちらは、ソーシャルファームの業種を表したものです。一番多いのは17.9%の食料関係、ケータリング、レストランです。それ以外には庭仕事、生産、施設管理といった業種になっています。このグラフで皆さんに何をお伝えしたいかというと、これがソーシャルファームにとって一番いいというセクターはありません。先週、ドイツの私の同僚と話をしたのですが、例えば、中にはソーシャルファームをやりたい、私たちはハウジングをやっているが、職業訓練もするしデイセンターも作るしという話をしたときに、障害のある人たちは自然の中で働くのがいいのではなか。例えば庭とかそういったところで働いて、なるべくシンプルな仕事を提供した方がいいのではないかと思う人がいらっしゃるようです。けれども私はそうは思いません。最初のソーシャルファームは確かにある特定のセクターから始まりましたが、その後広がっていきました。IT関連のソーシャルファームもありますし、例えばベルリンで炭谷さんも見てくださったと思いますけれどもスーパーハイテク関連のものもあります。ガーデニングとかレストランとかホテルとかスーパーマーケットとか、本当に多くのサービス会社があるわけです。例えば視覚障害者の人たちのための会社もあります。ガン診断の仕事で、特別な訓練を受けた視覚障害の人が、腫瘍を探し当てる、というものです。視覚障害者はとても耳がいいですし、-私の母も視聴覚障害ですが、子どものころ、母にはすべて聞こえていました-感覚が優れているので、腫瘍を触って探し当てることができるのです。そういった意味でさまざまな業種の可能性があるわけです。ですので、ソーシャルファームはこのセクターがいいとか、そういうことはありません。

多くのソーシャルファームは食料のセクターから始めます。というのは、そこに成功事例が多いからです。けれどもそこからまた他の業種にどんどん広がっていくということがあります。ここにいくつかの業種を書きましたけれども、これに限定されるものでもありません。また、活動のタイプや複雑性とか、そうしたことには関係ありません。それはそこで働く人個人の能力であったり関心であったり興味であったり、そうしたことにより関連するものなのです。

こちらのスライドは、ソーシャルファームの実態、ドイツではどのようになっているかについてお話ししたいと思います。既にいくつかお話ししましたけれども、ほとんどのソーシャルファームは大規模な組織によって設立されています。法律がしっかりしていて資金があって、例えば3人の人が集まってソーシャルファームを作ろうとか、そういうふうにはなりません。多くの場合は障害者を支援している組織や団体がソーシャルファームを作ります。そしてその大きな組織の方たちのニーズや意志、関心やモチベーションによって作られるソーシャルファームがほとんどです。

そして、ソーシャルファームと民間セクターのスタートアップの成功の比率を見てみますと、ソーシャルファームの方が設立して5年経ったところでの成功率が高いのです。これは、多くが大規模な組織が始めるからということがあります。既に従業員がいますので、例えば3人とか4人の人が集まって会社を起こす民間セクターと比べますと、やはりソーシャルファームの方が成功する率が高いと言えるかと思います。そして、平均的なソーシャルファームには大体10~100人を超える従業員がいまして、平均売上高も100万ユーロ以上、また、サービスや商品には競争力が不可欠で、一般の顧客に買ってもらえなければいけません。

ドイツにおきましてはロゴの話がよく出ます。ソーシャルファームのロゴを作るべきかどうか。それについてはイギリスでも議論があるようです。ドイツにおいては、ロゴを作ってもあまり役に立たないのではないかという話をしています。やはり800社くらいしかありませんので。もし1万社以上あれば違うかもしれませんけれども。

また、カスタマーの人と話をしますと、自分がソーシャルファームと仕事をしているということをわかっている場合と、知らない場合があります。そうした中でソーシャルファームであるからということがどれだけ利点があるかはわかりません。いずれにしても、商品やサービスに競争力があるものを提供するのが一番です。

次にこちらをご覧いただきたいと思います。投資者から見たソーシャルファームです。投資者は民間人、つまり納税者です。通常ソーシャルファームはこのようになっていまして、我々もいろんな研究やリサーチをしましたが、ソーシャルファームに対してさまざまな質問や批判が寄せられてきました。ソーシャルファームは果たしてサポートするに値するのかと。しかしこちらにデータがあり、これを提示することができます。こちらがドイツの例です。たいていは公的補助金が最初の段階で随分出る。それがだんだん減らされるというのがありがちなパターンだと思います。例えば3年間の給与を公的補助金で出すとか、あるいは他の補助で何とか初期のコストをカバーするということがあると思います。ですがその後は自分たちで何とかしないといけないというケースが多いと思います。通常のソーシャルファームは、スタートしたとき、何年かはやはり苦戦しました。その後、利益が出るようになりました。そうなると今度はそのソーシャルファームが税金や社会保険料を政府に、国に払えるようになりました。

私たちの場合はイタリアのような例外措置、優遇措置というものがないので、ドイツのソーシャルファームというのは、例えば年金の保険料とか税金や社会保険料を全部払わなければいけません。まさに先ほど炭谷先生がおっしゃっていたお話にもつながると思うんですけれども、システムは異なるとは思いますが、利益を出せるようになると、基本的には給与の3分の1が社会保険料として支払われます。この点については、いろいろ議論の場にのっています。私たちはソーシャルファームを運営すべきなんだろうか、必要なのだろうかという問いに対しては、やはりこれが答えになるわけです。そしていずれ成長して利益が出れば、こうして税金や社会保険料を払えるようになる存在なので、やはり後押しすべきであろうという議論がされています。

さて、私の発表の最後のパートに入ります。支援制度です。

これまで私もいろいろな組織に携わってきました。さまざまな教訓を得ました。支援制度はやはり絶対に必要です。これがゆえにドイツのソーシャルファームは成功を収められたからです。ドイツの場合には3つの段階があり、1つはドイツの企業の団体で、ネットワーク作りや政府へのロビー活動、会議や表彰などを行っています。それから、FAF=ソーシャルファーム・ビジネスコンサルタントというものがあります。今600のメンバーがいます。これもまた非営利の団体で、ソーシャルファームに対してコンサルティングを行うことによって収入を得ています。ソーシャルファームがコンサルティングを受けた場合、政府からその代金として資金を援助してもらえます。FAFはほとんどのソーシャルファームのコンサルタントを行っており、20年にわたって蓄積された知識と実績をもっているので、非常に有益です。

それから、会社としては最低でも毎年1回、ソーシャルファームのマネージャーの方などに対してトレーニングを行っています。大きな非営利団体や社会福祉団体、作業所の方たちが主に参加します。

FAFは3日間の研修プログラムを開催して、ソーシャルファームの教育を行い、参加者はそれを終えたらどんなビジネスを自分たちはやったらいいのか、あるいはどんな規制を理解しなければいけないのかを学ぶ。最初に行われたのは1989年くらいでしたか、それ以来、定期的に行われています。

それから3つ目、先ほどロビー活動とネットワークということを言いましたし、ビジネスコンサルティングという言葉も言いました。さらにもう1つの支援としては、調査研究、そして研修を通して行うものがあります。研修については説明しましたが、調査研究というのは、前にも述べましたように、ソーシャルファームに対する投資利益率や財務的な影響、政府の雇用創出を支援する特別なプログラムを評価することを言います。ドイツのソーシャルファーム協会もこのような調査研究を行っています。このモデルはなかなかうまくいっていると思います。

ある意味、このモデルの重要な側面は、すべてがボトムアップだということだと思います。小さなソーシャルファームのグループが、例えば私たちはこういう知識が欲しいんだ、こういう技術を知りたいんだ、もう少しここで誰かとつながりを持ってもっと交流したいんだというような形で、動いています。そして自分たち自身が独自の非常に強力なシステムを作り上げなければいけないと、このようなモデルを作ったと言えると思います。

97年、98年、にイギリスのソーシャルファームUKと一緒に新しいプログラムを立ち上げました。プログラムの目的は、お互いに学びあい、交流し、連携して活動することにあり、これまでにお互いにさまざまなディスカッションを行いました。話し合って、どうやってネットワークをサポートしていけばいいだろうかという話もしました。イギリスの方たちと交流することによって、また別の学びもありました。イギリスのやり方については後程伺うことになりますが、こういった交流活動がとても成功していると思います。

ドイツの場合、コンサルティングを中心としたシステムの開発というやり方を選び、知識やノウハウをすべて1つのシステムに統合することによって、1つのセクターの中できちんと成長し、維持されていると言えます。

いよいよ最後のスライドになります。私たちの今後の課題と動向についてです。

いくつかポイントがあります。1つ目は、炭谷先生も先ほどおっしゃいましたが、ドイツでは超党派でソーシャルファームを支援していこうという動きが出ています。今ではどの政党もソーシャルファームをサポートしてくれています。全国ソーシャルファーム協会には、各党の代表議員が集まって話し合いに参加しています。これに関しては、障害のある人たちにも雇用を創出しようということに反対を唱える人もいませんし、非常にいい感じで動いています。

こういった同意事項の結果、今年の5月、政府が新しいプログラムを導入しました。800のソーシャルファームに対してもっと数を増やしていこう、倍増しようという思いのもとに、1億5,000万ユーロを拠出して、今後3年間でもっと多くのソーシャルファームを立ち上げようという結論に至っています。ちょっと過剰かもしれませんが、すばらしい動きです。

では、私のプレゼンをもう終わりにしたいと思います。この後に行うディスカッションをとても楽しみにしております。以前のセミナーに参加されていない方もいらっしゃると思います。今回は本当にいろんな国のいろんな情報を皆さんお聞きになられると思います。そして日本においてどういうことができるのかということについて、成功だけではなく失敗からも学んでいただければと思います。それがとても重要だと思います。今日は3カ国からプレゼンターが来ていることはすばらしいと思います。この後の議論を楽しみにしております。ありがとうございました。