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講演会「DAISYの展開」

基調報告

河村宏
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長

みなさん、こんばんは。ただいまご紹介に預かりました河村です。これから約20分ほどいただきまして、どういう話を全体としてするのか、またお忙しい中をたくさんご来場くださった皆様に本日どういうふうにご参加いただきたいのか、というふうな前座を務めることとさせていただきます。プレゼンテーションも一応ありますが、私の話すことはプレゼンテーションの中身を話しますので、あまり画面は文字だけでおもしろくもありません。気になさらなくても結構です。

本日のこの集会のテーマを私なりに解釈いたしますと、DAISYとSMILをどう進化させるのかという事に尽きます。まず最初に何故DAISYが問題なのか、ということを整理してみたいと思います。もちろん、こちらにいらっしゃっている方のほとんどはDAISYをもうある程度ご存知だと思います。中にはあまりご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっと会場の方に伺いたいのですが、これまでに録音図書であれ、マルチメディアであれDAISYというものに実際に見たり聞いたりしたことがまだ一度もない方手を挙げてみていただけますでしょうか?素晴らしいですね。皆さんもう体験していらっしゃいます。大変心強いと思います。そうしますと私の話は非常にしやすくなります。何故DAISYなのかの一番の重要な要素は画像と音声とテキストが同期されて、シンクロされて表示される。そういう技術であるという事に尽きます。その結果アクセシビリティ、視覚障害あるいはディスレクシア、上肢障害、聴覚障害あるいは盲ろう障害という方たちがユーザーインターフェイスが適切であれば、そこで情報に、そのまま同じコンテンツにアクセスできる、つまり、別にコンテンツを作るという必要がなく、そのままみんなで同じものを使うことができるというところに非常に大きなDAISYの有意性が有ります。これは機能面ということです。その結果、視覚障害の方を例にとりますと、一口に視覚障害と言いましても、全盲の方でかなり早い段階で失明された方は点字もお読みになれます。ところがある程度成人して加齢とともに失明者は多くなりますので、お年を召して点字が読めるというわけではなくて、音声あるいは大きな文字に拡大して読みたい、というふうな多様な要求が視覚障害の中にもあります。そして、できれば残った視覚を使い、耳で聞いて、そして点字もだんだん覚えたいというような要求もあるかと思います。それらに全てにまとめて応えられる、そういうふうなチャンスを提供できるというのがDAISYの特徴だろうと思います。

そして、社会参加を支援する、これは仕事のチャンスを増やす、あるいは投票をするための、誰が自分の支持する政策として一番適切なのかという重要な判断をする、あるいは、友人、まだ会った事もない人も含めて広い交流の世界を作る、そういったことがあります。もうひとつは、安全、安心というふうに言われますが、移動する時に安心して移動できるようになるためには様々な情報が必要です。あるいは、災害、今日の講師の皆さんがいらした晩にマグニチュード6.8と7.いくつの地震が2つ起こりまして夜によく眠れなかったと翌日言っておりました。そして、津波の情報もNHKで流れて、みんな注目していたんですが、実はその情報システムが約一時間ちゃんと動いていなかったということがあとでわかりました。ほんとうに津波が来るのであれば、みんなもうその瞬間に情報を得ていなければ、今どうしたらいいのか、という生死にかかわる情報を得られないんだということが、講師のみなさんがいらしてすぐに体験をされたわけです。そして、日常的には火事とか病気とかケガとかそのときにどうしたらいいか、というようなことが情報が必要な場合がたくさんあります。そういったときに安心して依拠できる情報ツールというものが必要です。それら全てがDAISYがターゲットとする情報の機会ということになるかと思います。

そして、もうひとつ、何故DAISYか、ということの中に今までアクセシビリティと言われてこなかった要素があります。それは、わかりやすさ、ということだと思います。アクセシビリティと普通言います時は、これは歴史的な当然の根拠があるのですが、グラフィカル・ユーザーインターフェースが、インターネットで非常に普及して、今までテキストベースの通信で非常に便利になっていた視覚障害者の方々のアクセスがこれで妨げられた、つまり今までITに期待できると思ってた視覚障害者の方々がGUIの普及でもってもう一回アクセスが閉ざされようとした、その時に猛烈な反対とそれからもっと広くアクセシビリティということで問題を提起してインターネットの世界に情報アクセスの橋頭堡を作ろう、というふうなことがちょうどインターネットの標準化団体でありますワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)で積極的に取り上げられてまたその中に、視覚障害者のみなさんも積極的に参加して様々なアクセシビリティのガイドラインをこれまで作ってきたわけです。そのガイドライン作りというのは非常に大きな成果をあげてきたわけですが、その中でいくつかまだやり残したことがございます。そのひとつが認知障害者、あるいは知的障害者のみなさんがどうしてもこれが欲しいというのは、非言語的な情報、言葉では言い尽くせない情報、あるいは言葉ではよくわからないけれど体の動きで示してくれればわかる、そういうふうな情報、一般にはビデオとかアニメーションとかそういったもので伝えられることが多いわけですけど、そういう部分のテキストばっかりでは自分は逆にわからないんだ、という方々の情報アクセスをどう保障していくのか、どう発展させるのかという意味での「わかりやすさ」というものをもっと豊かにしていこうという意味でのこの「わかりやすさ」という概念が重要になってくるかと思います。その点においても同じコンテンツに将来拡張すれば充分ナビゲーションができる、ここというポイントに即座に移動できる、そういう機能を持った動画も含めて将来のDAISYに期待できるのではないか、ということでわかりやすさにおいてもDAISYの有意性が確認できるというふうに思います。

そして、画面上ではA、M、I、Sというのが矢印のところにちょこちょこでてくるのですが、これは後ほどマリッサ・デマリオさんが、私の次にAMIS(アミ)についてお話を下さいますので、ここでは省きます。しかし、そういった柔軟なユーザーインターフェース、それとDAISYが結びつくことによってこういった「わかりやすさ」というものも確保できるんだ、というふうに私どもは考えてきております。精神障害の方たち、世界を広げたいという要求を持っています、社会参加をしたいという切実な要求ももっています。そして、災害の時などには隣近所の人たちと協力しあって安全を確保したいというよ要求を持っている。べてるシステム、というのは北海道のべてるの家が開発した同時にマルチチャンネルでみんなでコミュニケーションできるリアルタイムのコミュニケーションシステムです。その中では動画も扱えますので、例えば言葉では充分言い尽くせないそういうふうなもの、あるいは言葉だけではないコミュニケーションというものも可能です。そういうふうに言葉によるもの、そして言葉以外のもの含めたコミュニケーションのシステムとしてのDAISYの将来の発展というのをやはり多くの方が待っているかと思います。

そして、発展途上国に目を転じますとそこでは世界中の障害を持つ人の8割か9割あるいはもっとそれ以上の人々が暮らしているわけです。つまり、世界的に見れば障害を持つ、特別のニーズを持つ方々のマジョリティは発展途上国に暮らしているわけです。従いまして、世界的なグローバルなスタンンダードを作る、という時に先進国だけで考えてはいけないという有力な根拠がそこにあると思います。ほんとの意味でのグローバルスタンダードというのは、途上国の人も含めて使えるものでなければならない、ということが重要なポイントになると思います。その途上国におきまして、様々な情報における特別なニーズ持つ人たちを支援できる人たちというのは当然、読んだり、書いたりできる人が主流になるはずです。ところが、こういうふうに考えてみてください。もし、視覚障害者の方が、家族も周り近所の人もみんな字が読めない非識字者だとしたらどうやって読むものを手に入れることができるだろうか、とうことです。つまり、識字、字が読めるということが前提になってはじめて様々な情報アクセス上の特別なニーズというものもでてくるわけですが、非識字者のみなさんはちょうど識字者ばかりの社会で障害を持つ方々が情報及びコミュニケーションにおいて、ハンディキャップのあるのと同じ状態が非識字者の方々が相対としておかれているいうふうに考えていいと思います。そこで私どもは識字を進めるということと、情報とコミュニケーションにおいてハンディを持っている方たちが自立と社会参加のために情報コミュニケーションの手段を確立するということとは一体不可分である、というふうに途上国を考える時には考えざるを得ません。

そして、何故DAISYなのかの3番目になります。これはオープンスタンダードであるということであります。オープンスタンダードというは何だろう、これは日本語に直すと「開かれた標準規格」というふうに言っていいと思います。「開かれていない標準規格」にはどんなものがあるかを考えてみたいと思います。MP3という音楽などの配信に使われている圧縮、この技術は「開かれていないスタンダード」、と言いますか、あるグループが独占している、使用料を払わなければならないスタンダードであると言えます。それから、使用料を払っても使えないスタンダードというものがいくつか提案されています。それに対してDAISYはDAISYコンソーシアムがこれまで開発してきました2.0、それから段々ステップが上がって、2.02、そして3まできておりますが、これら全てがよくよく見ると中身が全て公開されて、使用料も払わなくていい、そしてコンピューターで言いますとWindows、マッキントッシュ、Unix、Linux等のいくつかの実際に使われているプラットフォームの上で使えるものであるという意味だ無償かつインターオペラビリティ(interoperability)と呼んでおりますが、いくつかのシステムの上で共通して使えるそういった条件を満たしております。そして、その基礎になっておりますスタンダートはW3Cが開発管理をしております。 W3CもポリシーとしてそのようなDAISYコンソーシアム同様のオープンスタンダードというポリシーを持っております。今日のテーマであるSMILはW3Cが開発をしたオープンスタンダードのひとつとして1.0から今2.0になっておりまして、本日も議論いたしました2.1というのができれば今年中に勧告にしたい、そして来年からは3.0というもっと抜本的に改定をしたものにしていこうという動きになっております。そして、DAISY3につきましては、これはアメリカのスタンダードで日本のJISにあたりますANSIのZ39.86の2002年版という形でアメリカの標準規格として採用されています。そして、これはさらにこの7月教科書、教材等の出版社が用意すべきスタンダードとしてホワイトハウスで2年間の研究結果として、これで行きましょう、とうことをアナウンスいたしました。つまりこれからはアメリカの出版社の教科書と教材を作る会社は求めがあればDAISY3のフォーマットでファイルを提供するという要請をホワイトハウスから受けたということになります。おそらくどの出版社もアメリカにはADAという訴訟に訴えるしくみがありますので、どの出版社もその要請にこれからは応えるだろうというふうに思われます。

そして、何故DAISYかの4番目ですが、世界中で採用されている規格であるということが言えると思います。日本、世界で先駆けて全国の点字図書館が導入いたしました。そして、今年の4月からは録音、さらに再生ができるPTR1が視覚障害者であれば日常生活用具として無償で手に入れられるという、これまた諸外国が非常にうらやましがる決定が日本政府によってなされました。さらにDAISYが普及するというふうに考えられます。スウェーデンも今組織的に製作している録音図書はDAISY以外はありません。そしてさらに、スウェーデンのディスレクシアの本人団体は全ての教科書をDAISYで、というふうに要求しております。今スウェーデンではDAISYを使っている大学生が1200人いるといいます。そのうちの400人が視覚障害者、800人がディスレクシアと聞いております。アメリカも先ほど申し上げたとおり、イギリスではDAISYと貸し出しが100万を超えたと先日報じております。オランダもナショナルスタンダードとして使い、そしてさらにタイ、インドでもDAISYを普及するということが決まっております。

それでは、何故SMILを改定する、そしてそれに基づいてDAISYを改定するということに期待をするのか。防災を事例に簡単に申し上げて、このあとのプレゼンテーションにつなげたいと思います。まず私たちは防災というときに、声のない声に学ぶということが一番大事だと思います。これは、亡くなられた犠牲者の方たちが語っている言葉と言っていいと思います。つまり一番以外と知られていないことは、何故その方たちが犠牲になられたのか、ということはもう本人に声がないので発言できないわけです。なんとか生きのびられた方々の声しか聞けません。つまり、一番重要な命を救うためにはどうしたらいい、というのは実は生きのびた方たちからはなかなか聞き出せないんです。一番重要なことは、それは確実に避難する方法を身につけておくこと、そしてその身につけた方法を生かすための防災の情報が確実に伝わる、そして、支援を要する方は支援者がそのとき一緒に活動してくれるとうことです。そのためには、できることを確実に事前に行なっておかなければいけません。重度の自閉症の方々の施設であります「けやきの郷」というところでは最初30分かかった火災の避難訓練を今は5分をきるところまで縮めるという訓練をずっと積み重ねてきております。精神障害者の施設であります「べてるの家」においても同じようなソーシャルスキル・トレーニングというももの中で、こういう時にどうしたらいいだろうかというディスカッションを重ねて防災に備えています。そしてさらに、そういった障害を持つ支援を必要とする方々が地域できちんと連帯して身近にいる人と連携して避難をしなければならない、そういうみんなが参加する防災計画作りは情報へのアクセスあるいは、発言できるコミュニケーションの保障がなければできません。そして、あらゆる可能なチャンネルを動員して必要なときに必要な避難に関する情報がアクセスでき、コミュニケーションができなければ命は救われない、そして、これが欲しいというものが最後にいくつかあります。災害情報のリアルタイムアクセス、これは障害の有無に関わらずみんなが欲しい、そしてわかりやすいコンテンツ、放送されたコンテンツがあとで検索する、あるいはローカルな情報があとでネットその他でこの地域はどうなんだろうということを自分でオンデマンドでとることができる、そして災害の後では体験を共有するということがとても大事です。そしてコミュニケーション障害者も含めた双方向のリアルタイムコミュニケーションがどのプロセスにも通じて必要であります。

そこで何故SMILなのか、ということになります。このあとは本日のプレゼンテーションの中でSMILとはこういうふうなことができるし、こういうことが期待できるということがプレゼンされるというふうに考えております。4つのプレゼンテーションがあります。そしてそのあと、討論の時間が45分とってあります。その討論の時間は、みなさんにも一緒に参加をしていただくことを前提としております。それでは、私の前座を終わらせていただきまして、次のプレゼンテーションにいっていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。