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平成18 年度 DAISY を中心とした情報支援普及啓発事業
障害者への情報支援普及・啓発シンポジウム
-DAISY を中心として-

【講演1】「視覚障害者のためのD A I S Yによる情報支援」

講演を行う岩井和彦氏の写真

岩井和彦( 社会福祉法人 日本ライトハウス盲人情報文化センター館長)

皆さん、こんにちは。私、全国の視覚障害者情報提供施設協会、全視情協と申しますけれども、そちらのほうの立場から、先行していると言われる視覚障害者のD A I S Y 環境について少し報告させていただきたいと思います。
昨今、I T 社会、デジタル化ということで世の中ずいぶん便利になってきているわけですけれども、情報障害と言われる私たち、情報のほとんどが8 割とも9 割とも言われますが、目から入ってくる。その情報を我々は触覚で確認し、あるいは耳からのものとして情報入手をしていく訳ですけれども、おかげさまでパソコンも音声で画面の読み上げをしてくれるようになった。あるいは携帯電話が本当にもう日常生活の中でなくてはならない必須ツールになってくるなど、いろいろ私たちの日常生活を豊かにしてくれるものは確かに増えてきています。

しかし、残念ながら視覚障害者がこのI T 社会の中でインターネット等に自由にアクセスできるかというと、まだそういったものにアクセスできる技術を有する人というのは本当に数パーセントしかいないとか、一般社会のデジタル化の恩恵に比べて、我々はそういう意味でますます情報格差が大きくなる可能性もある。そしてまた、同じ視覚障害の中でも、D A I S Y その他デジタル情報を取得できる人とそうでない人の差がどんどん大きくなってきていると実は感じております。そういう情報格差を一日も早くなくしたい、その期待をかなりこのD A I S Yの中に私たちは感じています。

一般的な視覚障害者の状況として、この平成13 年に厚生労働省が実施した全国の身体障害者実態調査では、在宅の視覚障害者のうち、実に51. 5 % が7 0 歳以上。そしてまた、7 3 . 4 % が6 0 歳以上という超高齢化の状態にあるんですね。しかも、その大半が高齢になってから、あるいは中途失明という状況下にあるわけで、そうした視覚障害者が本当に潤沢に情報を入手して、そして目からの情報入手のハンディキャップを克服するその手段というのを本当に求めているという状況がございます。
本日参加いただいている皆さんの中には、視覚障害者がどういうふうに情報入手しているかをご存じないかたもおられると思いますので、少し私たちの情報環境の2 0 年について、簡単に振り返ってみたいと思います。

このD A I S Y 関係の歴史、きちんと資料等にも書かれておりますが、私今日ちょっと整理してきましたのは、視覚障害者のほうの2 0 年の動きを少し、レジュメのほうにもまとめて整理しておりますのでちょっとまた見ていただいたらと思うのですが、近年の視覚障害者のための情報提供に本当に画期的、我々は情報革命とまでも言っておりますが、その役割を果たしてくれたのは19 8 8 年の日本I B M の支援で始まりました、パソコン通信を中心としての点訳広場だと思います。それまでこつこつと点筆で、点字板で1枚1枚作っておった点字図書、あるいはタイプライターでガチャガチャと打ちながらも手作りで作ってきた点字図書から、パソコンによる点字図書、すなわちデジタル化の第一歩がこの19 8 8 年の点訳広場であったのかな、というふうに思っております。
私もこの利用者として、このシステムが始まって本当に思いましたのは、情報利用の一番大きなのは、匿名性が保証されたということだと思っています。
私たちは点字図書館から本を借りるしか方法はありませんでした。一回、2 週間に2タイト ルとか3 タイトルとかの制限のある中で、本を手元に置いておいて読みたいときに読むとか、 あるいは目録等から本を選ぶだけで本当に書店でぱらぱらと立ち読みして面白そうだか ら購入するというふうなことがなかなかできない。

この点訳広場、今はナイーブネットと申しておりますけれども、この通信システムで2 4 時間いつでもどこからでもアクセスできるこのシステムができたことで、そういう立ち読み的なことも、また「積み読」というようなこともできた。読書がずいぶん変わりました。
何より大きかったのは匿名性、図書館職員に名前を名乗って、電話やハガキで図書をリクエストして送ってもらうという図書の利用方法から、名前を名乗らずしても自分の読みたいものが読めるということが、初めてできたわけです。図書館職員にポルノ小説なんかをリクエストするというのはなかなかやはり恥ずかしいという面はあるわけですけれども、このインターネットからであれば自由に利用できる、名前を伏せて、伏せてというか匿名性が担保される形で利用できるというネットワークが始まって、視覚障害者の情報環境がずいぶん 変わりました。

しかしこれは、残念ながら点字というキーワードでのシステムであります。このナイーブネットの利用統計というのをそちらにも掲載しておりますけれども、これを見ていただいても、この目録件数3 7 万タイトル、また点字図書もすぐに利用できる図書が7 万後半から8 万くらいあるということ。そして点字ではないカセット図書、あるいはD A I S Y 図書の情報も、かなりの部分が網羅されている。たとえば現在、このインターネットのシステムではカセットが16万3 , 4 0 0 タイトルあまり。D A I S Y 図書が4 万3 ,7 3 2という数字。これは去年の3月ですので、数字はまだ年間D A I S Y 図書も8 , 0 0 0 から9 , 0 0 0 タイトルが制作されるようになってきておりますので、ずいぶん数字はアップするわけですが、そういう情報ネットワークが一つ走っているということを報告させていただきます。

そして、もう一つのやはり視覚障害者にとっての情報環境の大きな動きが、このデジタル 録音図書制作としてのD A I S Y であったのかなと思っております。
私どものD A I S Yのイメージは、現時点ではやはり音声を利用するということが中心ですので、今D A I S Y はD i g i t a l A c c e s s i b l e I n f o r m a t i o n S y s t e mとなっておりますけれども、初代D A I S Yの「A c c e s s i b l e 」の部分がA u d i o - B a s e dということでの利用が中心という状況であります。このいきさつについては今基調報告で河村さんのほうからあり ました。

私たちが直接このD A I S Yの恩恵を大きく受けることになりましたのは、国内で普及のきっかけになりましたのは、平成10 年度の厚生省の補正予算によって、日本障害者リハビリテーション協会がこの視覚障害者の情報提供施設に対して、また国立の視力障害者センターでありますとか、あるいは盲学校等10 0 施設にこのD A I S Y 図書の製作機材と、またC D 図書そのものの2 , 5 8 0 タイトルあまりの製作を実現して、貸出システムにのせるという具体的な動きが、この10 年度から始まりました。

その後も、技術面の進歩というのはやはりすごいですよね。2 0 01年から2 0 0 2 年にかけて、東京と大阪と長野で、この録音図書のネット配信の実証実験が始まったわけです。シナノケンシさんによって実験が始まり、2 0 0 3 年の4月には大阪の公共図書館である府立中央図書館で、このネットワークの実証実験としての配信がスタートしましたし、2 0 0 4 年には日本点字図書館さんと日本ライトハウスのほうで、共同サービス事業として「びぶりおネット」というネット配信サービスをスタートさせております。そのびぶりおネットの概念図をそちらのほうに掲載しております。

実際D A I S Yの利用者の期待というのは非常に大きいものがありまして、近年ではD A I S Y 利用者がカセット利用者を上回るという視覚障害者情報提供施設― ― 点字図書館ですが― ― がもう半数以上になってきております。
しかし、私ども情報提供施設の状況としましては、このカセットサービスとD A I S Y、現時点では両方の利用者がおられるわけですが、そういう利用者に対して両方のサービスを継続して提供するということは、人材的にも経済的にも非常に負担が大きいという現状がございます。これをどうしていくかについては後で現状を報告しますけれども、今少し、非常に有力な情報配信として、D A I S Yの活用事例としてびぶりおネットの概念図について少し補足説明をさせていただこうと思います。

まずこの図書館サーバは、日本点字図書館と日本ライトハウス、すなわち東京と大阪の2か所に置いてございまして、録音図書のデータそのものを格納するコンテンツサーバと、そして図書目録の管理、検索データベースもあわせて格納するところの検索・データベースサーバを設置しているということです。ユーザは、この標準のパーソナルコンピュータ、W i n d o w s を用いるわけですけれども、そのパソコンに音声ガイダンス、そして視覚障害を持つ利用者が晴眼者と同様に操作ができる機能を備えた専用のアプリケーションソフトウェアをインストールするということで利用しております。このびぶりおネットの配信サービスを利用するための端末として、そういったものを使っています。インフラとしましては、録音図書の容量が約10 時間の収録時間の本で、1冊あたりが15 0メガバイトの容量になりますので、コンテンツの配信に用いる音声方式、MP 3 でやるわけですが、サービスの利用をいただくためには高速のネットワーク環境が前提となっております。ですから、利用者の方には家庭でも利用可能な低コストのネットワークインフラとして、ケーブルテレビ回線ですとかA D S L 回線を使っていただいているということで、さらに昨今はケーブル回線を利用される方も増えてきております。

現在、利用者が点字のデータ配信に比べるとまだまだ少ないという現状があるわけですけれども、これはまた著作権の関係がございまして、残念ながら点字データのように録音データであるD A I S Yを自由にインターネット配信するということが現時点ではできないという関係で、逐次著者の許諾をいただきながらネットにアップしているということで、3 , 0 0 0 タイトルあまりのコンテンツしか現時点では提供できておりません。

しかし、昨年末の著作権法の改正で、もっぱら視覚障害者を対象に私ども点字図書館等から配信することがようやく公衆送信権の権利制限という形で認められましたので、来年7月1日を期してこのコンテンツは急速に増えるという状況になります。タイトル数としても1年の間で7, 0 0 0とか8 , 0 0 0とかいうことでの提供を考えております。

そういうびぶりおネットで、インターネットですなわち2 4 時間いつでもどこでも利用できる、これは先ほど申しました点訳広場からナイーブネットへの点字データ配信システムを利用しての、視覚障害者の立場からいくと非常に大きなメリットがある、匿名性を中心とした大きなメリットがあるということが、録音図書の資料においても実現するということで、ますます利用が広がると考えております。 しかし、残念ながら現在、カセットからD A I S Yへどのように利用者を導いていくかということが、大きな課題になっています。既に2 0 年前、D A I S Yの規格が検討される段階で、将来的にカセットが市場からなくなるということへの問題提起が現時点では本当に正しかったということが証明されていると思います。現在、カセットテープもほとんど輸入に頼っている状況で、生産量そのものがピーク時の19 9 0 年代後半からしても9 . 4 % になっております。売上額も一番多い時から比べると十六.数%というふうに非常に減っております。このカセットテープとテープレコーダー、そしてカセットをコピーして配信していくレプリケーターという、我々情報提供施設としてのカセットのサービス提供のための三種の神器が、本当に市場から消え去ろうとしている。

そういう中で私ども全視情協としても、本年2 0 0 6 年を最終年度として、とりあえずこの二重のサービス形態から解放され、制作環境ですね、D A I S Y 一本で行けるような準備をするということで進めてまいりました。制作側としても、2 種類の制作の人材、そして場所、そして機材の準備、そういったことからの解放ということで2 0 0 6 年を一つの大きな目標としておりました。
しかし、なぜこのD A I S Yを使わないのか、D A I S Yの実際の利用を一度見ていただこうかなとも思ったのですが、本当に視覚障害者が主体的にといいますか、目の見える皆さんが読書される、本を読まれるのと同じような感覚で、栞をつけたり、あるいは読みたいところへジャンプしたりというようなそういう読書なので、本当にすごいなという実感を私なども持っているわけです。しかし、全国で私ども点字図書館に登録いただいているのが約8 万人あまりですけれども、その中で実際にどんどん図書を利用いただいている利用者は、カセット利用者が2 万数千人、そしてD A I S Y 利用者が8 千台ということで、圧倒的にまだカセットの利用者のほうが多い状況ではございます。しかし、D A I S Yの利用というのは本当に便利ですので、図書利用状況、貸出はカセットよりもD A I S Y 図書のほうが3 倍から4 倍の利用というのがだいたいの傾向ということで、非常に多くの図書を利用いただいている状況はあるわけです。

さあ、そういう中でこのD A I S Yを使わない理由というのが、使い慣れたテープで十分だから、あるいはD A I S Y 再生機のことを知らないという方、操作が難しいのではないかなと思っていらっしゃる方、あるいは障害等級によって、日常生活用具化されたこの再生機が、3級以上の方は日常生活用具対象にならないから購入費用が問題なんだ、というふうなこと、あるいはまた、先ほども申しましたように現在インターネット等でもそうですし、まだカセットに比べるとコンテンツ数がD A I S Yの場合はタイトル数が少ないということがあったりとか、いろいろな理由があってなかなかD A I S Y 移行をしきれないという方が多ございます。そういう中で、私どもD A I S Yの便利さ、そしてD A I S Y 機能をもっとシンプルにする形でのメーカーさんへのご相談、そして利用者へも、すべての機能を使う必要はないんだ、もっと簡単にカセット感覚で機材を使っていただいたらいいんですよというふうなことで、利用者に対しての広報を活発にしております。D A I S Yへの移行をなんとか早急に促進しようということで考えております。
それで、その向こうにあるマルチメディアの利用ということで我々が進めておりますけれども、今回D A I S Yの普及で、日本障害者リハビリテーション協会さんが制作された現状のD A I S Yの中で、2 、3 分、時間のある間、少しマルチメディアとしてのD A I S Yを使っていらっしゃる視覚障害者の実践例を見ていただくということで、あと言いたいことも報告したいこともございますけれども、また後日にしたいと思います。



( 財)日本障害者リハビリテーション協会製作 D A I S Y 紹介D V D
「E N J O Y ! D A I S Y - 私らしく読むわかる-」から視覚障害の事例。

ナレーター

「国立函館視力障害センターは、視覚障害者の職業訓練や生活訓練を行い、職業的自立、社会 参加の促進を目的として、昭和39 年に開設されました。 国立函館視力障害センターでは、8 年 前から、授業、図書館、寮内での学習や読書に、D A I S Yを積極的に利用してきました」

国立函館視力障害センター 教官 清原 修二教官

●「D A I S Yの場合は、ほぼ肉声をもとの声質の状態で、スピードが速くなったり、遅くなったりする。 これが非常に聞きやすい。 ページ或いは、節だとか章だとか、聞きたいところに、すっと行ってくれる。 テープですと中々、巻き戻しだとか、早送りして、時間がかかりましたし、ちゃんと第一章の頭に行ってくれない。 D A I S Y だと、ちゃんと頭に行ってくれる。
テープですと非常に大量の本数がいったものがですね、D A I S Y だと一枚に納まってくれる。
 これが、凄くスペースとか、或いは持ち運びに助かる面です」

ナレーター

「そして、今、国立函館視力障害センターでは、マルチメディアD A I S Yの導入を始めようとしています。今まで、弱視の人は、拡大読書機によって拡大した文字を、音声に合わせながら、本を移動させ、読書を行ってきました。 マルチメディアD A I S Y では、タッチパネルで、文字の大きさとスピードを自由に調整できるだけでなく、音声と文字がシンクロして表示されるので、つづりを確かめながら、読み進めることができます。また、全盲の人でも、点字ディスプレイをつなぐことにより、音声と同時に、点字によって、理解を深めることができます」

国立函館視力障害センター 教官 安田 晴幸教官

● 音を聞きながら、どういった漢字が使われているのかっていうのは、結構、ものを覚えるのに重要なんですね。拡大読書機で、教科書を見ながら見ながら、音を聞くとなかなか学習にはなるんですけど、音が先に行ってしまったり、ということで不便なんですが、マルチメデイアのD A I S Y だと、見たいところが直ぐに音声も文字も同時に見ることができて、また点字も出てくる。ということで、音声使用者だけじゃなくて、活字を使われる方、また点字を使われる方でも、マルチメディアのD A I S Yというふうになるんじゃないかなと思います



ありがとうございました。
最後に一言だけ、今後のD A I S Y 開発あるいはマルチメディア開発に関して、視覚障害者からの強い意見として、これまでどちらかというと「私作る人、僕食べる人」みたいな形で、与えられた、制作されたD A I S Yを利用するということについてはいろいろ楽しませてもらいましたけれど、もっと制作段階においてもきちんと音声化がされて、視覚障害者がD A I S Yを自らの立場で編集等ができるようにされたい。今P T R 2 ができて初めてそれができるようになって、点字図書館のサービスではない、視覚障害者が独自のコレクション、落語全集を1枚のC Dに入れて、五十音順に著者別、あるいは演目別に編集したりとか、あるいは音楽C D を自分で作ってM P 3 のステレオで楽しんでおられるとか、そういうことが初めてこのP T R 、シナノケンシさんのP T R 2 ができて、初めて視覚障害者も食べる人だけではない、主体性を持ってD A I S Yに参加できたわけですけれど、今後のマルチメディア等の開発についても、当事者としてのやはり意見、立場が十分反映されるような形で参加したいということで、これは是非、この場で伝えてほしいという強い意見をもらってきましたので、最後にそれだけ補足して、私の発表を終わります。
ありがとうございました。