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平成18 年度 DAISY を中心とした情報支援普及啓発事業
障害者への情報支援普及・啓発シンポジウム
-DAISY を中心として-

【講演3】「知的障害者に必要な情報支援」

講演を行う藤澤和子氏の写真

藤澤和子( 京都府立向ヶ丘養護学校教諭)

こんにちは、藤澤と申します。
私は指導者の立場から「知的障害者に必要な情報支援」ということで、主にD A I S Yの活 用と意味についてお話ししたいと思います。

まず、D A I S Yを知的障害の人にどのように使うかということですが、一つには先ほどから言 われている図書としての活用という方法があります。もう一つには、教材として使っていく方 法があります。

D A I S Yの活用と意味

まず図書としての活用なんですが、世界文化社の絵本にD A I S Y 図書をつけるという企画 をリハ協の方でされていまして、それの編集をちょっとやらせていただきました。その編集し たD A I S Yについて、事例とモニターの調査をしましたので、その報告です。

マルチメディア図書としての活用

これには三つのバージョンが収録されています。 『はなさかじい』と『ねずみのよめいり』という絵本なんですけれども、一つは普通読み、それか ら区切り長め、区切り短めという三つのバージョンが入っています。先ほどの話では、分かち 読みがいいのかなと思うんですけれども。人によりそれぞれハイライトの区切りとか読み の速度というのは受け入れやすいものがあると思うんですね。とにかく三つのバージョン が作られて、私は長めの編集を担当させていただきました。

その長めバージョンの編集の目的は、文字に興味を持ちつつある、あるいは文字に興味を 持っているけれども十分読めない、そういう知的障害の子どもが絵を見てお話を聞きな がら、句や文のまとまりに関心を持って読むことへの興味や能力を育てることを目的としま した。
要するに、分かち読みよりももう少し長く、文節のまとまりを意識させながら読むことへの 動機づけ、それから能力をつけるということを目的としました。 ちょっとどんなものなのか聞いていただきたいと思います。


( D A I S Yの音声)
はなさかじい
おっきくなると
がさがさと 天井に上がり
いい声で 歌ったと
♪じいの前さ むしろ引け
♪がーさがさ
♪ばぁの前さ むしろ引け
♪がーさがさ
あれれ、なんだべって
むしろ引いてみたらばの
天井から ざらんざらんと
大判が降ってきて


普通の読みを聞き慣れている方からすると、ゆっくりで間延びしているように思われると思 うんですけれども。
ここで編集した方針としては、マルチメディアですから文字の大きさとか読みのスピードと かは変えられるというのが特徴ではあるんですが、ここではいったん「、こういうものがいい んじゃないか」という提案の意味で、基本的なところを制作してさせてもらったわけです。

見やすさは、1ページが1画面に納まるという文字の配置にして、スクロールしないようにして もらいました。スクロールというのは、文字が1画面に納まっていないと文字を追っていくた めに画面がグッと変わるんですが、それをすると非常に見づらいのではないかと思いまし た。

それから文字の大きさ。それからこれが一番時間がかかったのですが、ハイライトの区切り をどこにするかということで、今回は文節のまとまりごとにしました。つまり、あまり細かくする と全体のお話の流れがわかりにくいので、1~ 3 文節で切りました。主部で切る、そして述部 が長いときは2 つ程度に分けるという編集をしました。

改行の箇所も、最後のハイライトの下で区切るというか、ハイライトが下から上まであるとい うことがないようにしました。それから行間もあまり詰めないようにしました。

聞きやすさなんですが、ゆっくりの音読でやっていただいたのと、聞きやすいということでは、 先ほどのハイライトと同じように区切りということをとても大事にしました。

ハイライトのところに間が空いていると思うんですが、そこは子どもが文字を目で追いなが ら復唱できる程度の間を空けるということでやりました。これを使って1人、私の指導してい る子どもに指導しましたのでその結果をお知らせします。

復唱から自力の音読へ

対象児は4 年生の子どもで、発達年齢が4 歳半程度の知的障害の子どもです。 ひらがなの1文字ずつの拾い読みはゆっくりできる程度です。読み間違いをしたり単語を 一まとまりとしてすっと読むということがなかなかできない。

それから音読の学習が嫌い。先ほどの神山先生のお話にもありましたけれども。私はそん なに読ませてはいないんですが、と弁明しているんですが、お家でかなり読め読めと言われ ているんですね。そういうことがあって文字嫌いになってしまっていて、間違えたりするとイヤ イヤとすぐにすねる、そういう状態だったんです。
でも読んでもらうのは好きで、5 ~ 6 歳用の絵本であればすごく喜んで聞いています。指導 は週1回4 0 分程度の個別指導で行いました。

指導経過

経過なんですが、10 回程度ですごく効果があって、私もびっくりしました。
初回はこの2 つを使ったんですが、すごく集中して聞いて、すごく面白いと言ってくれました。 これはよしよしと思って2 回目も聞かせたんです。私は別にこの子に、実は読みの指導をし ようと思っていたわけではなかったんですけれども、自発的に読もうとしたわけです。 私が「読もうか」と言うと嫌がるのに、これを見たら何か自分から積極的に読むんだなと 思って。
先ほどのハイライトごとに、ちょっと止めてみました。

そうすると、この人は聴覚的な短期記憶がわりといいんだと思うんですけれども、自発的に 復唱を始めまして。ずっとそれをやるんです。4 0 分、えらく集中して頑張りました。4月に入って、4 、5 回目には、ハイライトで止めなくても、長めの間で復唱しました。

そんなにきれいにサッと言えるわけではないんですが、これが大事なんですが、間違っても 気持ちが崩れないんです。間違っても次にハイライトがつくと、次のところにスッと気持ちが 向かうという状態でした。

『ねずみのよめいり』と『はなさかじい』がそんな形で間違えながらでも読めるようになったの で、8 回目は音を消してやろうと思いました。音は調整できるので、消したらハイライトだけが 移動するわけです。どこまでやれるんだろうと思ってやってみたら、それが結構読めたわけ です。すらすらというよりも、間違ったりたどたどしいところはあるんですが、そんな状態で10 回目まできました。

この後ですが、他の本、D A I S Yになっていない本ですが、それも積極的で文のまとまりとい うのを意識するようになったという経過をたどりました。

この人にとって何がよかったのか。

D A I S Yの効果

教師の指導よりずっとよかったわけですが、ハイライトと音声がシンクロするという話があ りましたが、編集方法もハイライトを短くして音声とハイライトがずれないようにしましたか ら、文のまとまりが耳と目からの両方から意識できたということと、復唱をする間を空けてあ るので復唱がしやすかったのではないか。そしてゆっくり耳から入るので、テンポが合ったと 考えられます。

それから普通は教師が分かち読みで読んで「さあ読んでごらん」というふうに口伝えの練 習方法というのが多いんですけれども、この人はそれが適わなかったわけですから、人か ら指導を受けずに学習できたということがまたよかっただと思います。
それと自分が読めるようになっていく過程が、相手が機器なので、自分でフィードバックでき て確かめられたということはよかったんだと思います。

それで今はどうかと言いますと、読めるようにはなってきていますので、文章を書く練習をし ています。
ただ文章を書けと言っても書けないし、作文を書くほどの力もないから、この人には意欲づ けがすごく大事なので、一緒にデジタルカメラで写真を撮っているんです。
好きな写真を撮って、それに文章をつけていく、書くという勉強をしています。
もともと、こんなふうに写真を撮ったのと書いた文字を貼り付けたプリントを作ってやって、 字を書いているのですが、わりと喜んでやっていたのです。

まだ1回しかやっていませんが、これをD A I S Yにしてあげて、本人の声を吹き込んで聞かせ てあげました。それを聞いていただきたいと思います。


( 音声)
私は山がきれいと思いました。
私は葉っぱがきれいかったです。
コスモスが風に揺れてきれいかったです。
菊の花が大きくてきれいかったです。


4 枚しかないんですが、見せてあげると自分の音声が出て、自分の書いた字よりももっとき れいに出てきて、すごく喜んでいました。

知的障害者のモニター調査

こんなふうに個人の教材としても十分に使っていけるんだなと思っています。
それともう一つは、編集した責任があると思って、コロニーという成人の方の入所施設、そこ に『ねずみのよめいり』と『はなさかじい』を持っていって聞いてもらいました。3 グループに分 けて、長めバージョンと普通読みの両方聞いてもらいました。こんな形で食い入るようでし た。初めてということで珍しかったこともあるんですが、すごく興味を持っておられました。

これが結果です。14 名。

結果(感想と読み方の好み)

「クとフのどっちがよかった?」と聞いたときに答えたもので、横に書いてあるのが感想です。 字を読んだ人もいるんですが「。普通読みがよかった」という人が4 名、ちょっと間延びした 「長めがよかった」という人が6 名、両方がよかった人が2 名いました「。本の方がやっぱりいい」 という人が2 名。感想がないという人が1名。あとは「D A I S Yが面白かった」ということですが。

感想

感想の中で目立ったのは「聞こえるよさ」と言った人が何名かいました。それから「映画やテ レビや紙芝居みたいだった」と、視覚的にすごく入りやすい、興味づけになるということは思 いました。それから「こんなものがほしい」というニーズが自発的に出ました。これは私が「他 にどんなものをしてほしい?」とは聞いていないんですけれども「、こんなのをして」と出たのが、 「家庭ドラマ、小説がほしい」。それから「はなさかやま」とか「もちもちの木」がいいとか、いろいろ感想も出ました。

先ほどの事例とモニターの考察というか、私の思いですけれども、やはりD A I S Yというの は読書を楽しくさせるものであるし、先ほどの自発的なニーズでもわかりますように、やはり 知的障害の人にとってニーズがある。だからできるだけ多くいろんなものがD A I S Yになる と、文字が読めなくても楽しめる本が本当に増えるのではないかということ。

事例とモニターの考察

これは1事例だけ報告しましたが、全員がああいうふうになるわけではもちろんありません。 ケースによっては、音読の力をつけるという教材として活用できるということ。

それから編集は、読みバージョンもあるし、縦読みが難しいと先ほどおっしゃっていましたが、 それは自分で変えられるのかはわからないのですが。とにかく幾通りかの編集があって、ハ イライトの区切りなども事前に用意してあったらいいのにと思いました。

次は、わかりやすく伝える教材として活用したところをお話しします。

わかりやすく伝える教材として活用

どんなことをしたかと言いますと、シンボルを使った自立支援のためのD A I S Yを作りました。 シンボルというのは話し言葉のない人が指さしをしながらコミュニケーションをするという ものですが「、マンガシンボル」というのを京都精華大学の表現研究機構と一緒に開発して います。
どんなものかと言うと、これはJ I S のシンボルの横にあるものなのですが、キャラクターが5 つあってマンガ表現が使ってあって。子どもたちにすごくいいのではないかと思うようなも のを作っているわけです。

シンボルを使った自立支援のためのD A I S Y

このマンガ表現を使ったシンボルで、まず自閉症の人たちに手順を教えるための視覚支援 というのを作りました。これは静止画です。

シンボルと使った、自閉症の人たちに手順を教えるための視覚支援

これは私が勤める学校で実際に使われているものですが、まず視覚的にインプットされる とすごくわかりやすいわけですね。

歯を磨く順番でも、こっちを磨いてこっちを磨いてというように、人のやっていることを真似 することができないんです。
私の学校は全部こうやって図版で示してあるんです。うがいの手順もこんなふうに。ある人 はカードをペラペラめくりながらこれを勉強するということもしています。

これをD A I S Y で作ってみたのです。

シンボルをD A I S Yのコンテンツとして活用

テキストと音声、それから効果音も付けてみました。静止画が並んでいるのがわかりやすい 人もいますが、このD A I S Yにしたときには、おそらく知的障害の人にも健常幼児にもすごく わかりやすいものになっているのではないかと思います。
それを聞いてください。


( 音声)
歯みがき。
洗面所に行きます。
歯みがき粉と歯ブラシとコップがあります。
歯ブラシと歯みがき粉を取ります。
歯みがき粉を歯ブラシにつけます。
さあ、歯みがきを始めましょう。
歯ブラシを前歯に当てます。
歯が汚れています。
下の左の歯を磨きます。
( 効果音:シャカシャカ……)
きれいになりました。
下の右の歯を磨きます。
( 効果音:シャカシャカ……)



とにかくいちいちこういうふうに、磨く順番を視覚的に提示するんです。いちいちなんですが、 そうしないとやはりできない人がいるわけです。



( 音声)
コップに水を入れます。
( 効果音:ザーッ…)
水を口の中に入れます。
ほら、ピカピカでしょう?



ですから、1つのコンテンツがあったらいろんなふうに使っていくという、その1つとして D A I S Yというのも面白いのではないかなと思います。

最初に河村先生の方から、アニメーションができるとおっしゃっていたので、私はすごくアニ メーションには期待していて、ぜひそういうのを使えるようになりたいと思うんです。私は ずっとシンボルのことをやっているんですが、シンボルにもアニメーションというのがありま す。

先ほどの歯みがきも実はアニメーションで作っているのもあるんですが、アニメーションが わかりやすいかどうかを調査した結果があるので見ていただきたいと思います。 知的障害の人を対象にやりました。静止画と動画「。これ、何に見える」と聞いて答えさせて、 次に動画を見せるのです。

方法

知的障害の人を対象にやりました。静止画と動画「。これ、何に見える」と聞いて答えさせて、 次に動画を見せるのです。これ、わかりますか? 

シンボルを使った静止画と動画

考えるということ。アニメーションでもいろいろありますよね。文脈があるアニメーションも あるし、こんなふうに1つのイラストがちょっと動くというのもあります。今回はその調査です。

調査の手続き

結果ですが、評価に点数をつけてこうなりました。

評価

3 名だったんですが、ちゃんとデータとして取れたのは11名でした。上が動画の評価点、下が 静止画です。動画の方がやはり断然よくわかったと。11名中、9 名が「動画がわかりやすかっ た」という結果でした。

動画点、静止画の評価点

これは統計上も非常に有意な差がありました。
シンボルは2 0 個やりましたが、どうだったかというのも、やはり動画の方がわかりやすかっ たと。これは1つのシンボルについてなんですが、動画が使えるようになると知的障害の人 にとってD A I S Yというのはもっとわかりやすくなるし、おそらく興味という点ではもっと広 がっていくのだと、非常に期待しています。先ほどの歯みがきのアニメーションは、実は動画 でも作ってあるんです。1つのコンテンツをいろいろな方法で見るというので、見ていただい たらいいのですが時間がありませんので……。……これは音声も何もついていないのです が。こっちは動画です。……どうですか? 
先ほどのとどっちがわかりやすいか。そういう調査もこれからやっていきたいと思います。 障害によってどういう形態がわかりやすいか。


( 効果音:シャカシャカ……)


…… 音はやっぱり動いていた方が臨場感があります。


( 効果音:シャカシャカ……  水を流す音)


……こんなふうにアニメーションとしてやっているので、ぜひD A I S Y でもこういうことができればなと思っています。
ご清聴いただいてありがとうございました。