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「国連・障害者の十年」最終年記念 北欧福祉セミナー

資料1:パーソナル・アシスタント・サービス(PAS)
-スウェーデンとアメリカの比較-

この資料は、Rehabilitatio Intemationalなどによってまとめられた
”Personal Assistant Service Programs in Germany,Sweden and the USA”を抜粋したものです。

(財)日本障害者リハビリテーション協会編

Ⅰ.スウェーデンにおけるパーソナル・アシスタンス・サービス(PAS)

A.スウェーデンにおける社会保障と社会福祉
スウェーデンの社会保険と社会福祉システムは、広い範囲の二ーズに関し、人口のほとんどをカバーしていることで知られている。社会福祉の援助を受けることは歓迎されない依存の状態とは考えられておらず、むしろ社会のすべての人にとって、その潜在能力を引き出し、自己実現を可能にするための手段と考えられている。スウェーデン国民全体の連帯感と、社会保障・福祉制度の恩恵に浴する資格を誰にもみな同じ条件のもとに与えるという目標が、この国の福祉に関する基本的な考え方の基盤となっているのである。

B.(在宅)パーソナル・アシスタンス・サービス(PAS)に対する社会給付金
パーソナル・アシスタンスの必要性は、社会保険と社会扶助システムの双方によって認められている。初期の段階から、単に障害者のみでなく、子どものいる夫婦や単身母親、高齢者にも在宅サービスが提供されてきたということは注目に値することである。

1.社会保険
社会保険は、国民健康保険(医療、歯科、および新手当)と国民年金保険(部分的、基本的かつ補足的な保険)、そして労働災害保険や失業保険とを包含するものと規定されている。

a.国民健康保険と年金保険
スウェーデンの住民のすべては、年齢が16歳に達すると、地域の保険事務所に登録され、国民保険の有資格者となる。子どもは親の保険によってカバーされる。

(1)ヘルスケア
ヘルスケア保険は、医療サービスや疾病給付、ならびに新手当から成り立つ、医療サービスは、医師による診療や歯科治療、病院における治療、パラメディカルによる治療(理学療法他)のようなサービスが含まれる。病気や傷害、または障害のために所得損失をこうむった者には、通常の収入総計の90%を上限として疾病給付を受ける資格を与えられる。新手当は、分娩関係の所得損失をカバーするものである。

 一般にスウェーデンの社会保険システムを財源として支えているのは、国税と地方税、雇用者および自営業者から保険料、そして種々の財源からの利息所得や資本引き上げなどである。外来患者の治療に対して少額の料金が課せられてはいるものの、基本的にはスウェーデン医療ケアが無料であるという理由はここにある。医療にかかわる他のさまざまな経費は、いわゆる「医療ケア手当」と呼ばれるものでカバーされる。原則としてはこれらの手当は、ヘルスケア管理機関、または患者の治療に当たる個別の開業医に対し社会保険事務所から直接に支払われる。医療手当もまた、在宅医療サービスや障害者に対するリハビリテーションを部分的にカバーしており、これには聴覚障害者のための通訳サービスや慢性疾患を持っ障害者のための在宅医療のように技術的、かつ個人的な援助も含まれている。

 スウェーデンにおけるヘルスケアは、明確に公的分野の仕事とみなされているため、これらの医療サービスは地方自治体である県政府(County Councils)により提供される。県政府は、1983年の「保険および医療サービス法」に従って、全住民の医療二ーズに応える責任を負っている。この法律は、ヘルスケアのための一般基準を設けており、資質が高く、全住民の二ーズを満たすべきものと定めている。また、患者の自己決定権と、人間の尊厳に関する権利に基づくものでなければならないと定めている。しかし、これらの基準と別に、県政府は治療サービスの組織や範囲、人事などに関して広大な裁量権をもっている。

 健康保険システムの中のもう一つの障害関連給付金は、新手当により支給される。新手当の主目的は分娩関連の給付金を支給することにあるが、同時に、疾病が障害をもつ子こどもを世話するため1年間に60日までの期間、仕事につけない親に対して給付金をも保証する。

(2)「年金保険」
国民年金システムは、主に2つのタイプの公的年金から成り立っている。すなわち「老齢基礎年金」と「公的付加年金(ATP)」である。これら2つの年金は共に一定の「基礎金額」を参照し、実際の支払いはこれに従って算定される。

 老齢基礎年金と公的付加年金の主だった相違点は、公的付加年金の場合、年金受給者に過去の数年間、勤労所得があったという事実が必要な点である。少なくとも3年間、基礎年金を超える収入を得た者は、基礎年金に加えて勤労関連の給付金を得る資格が与えられる。

 基礎年金は、現在、一個人に対し基礎金額の96%と定められている。しかし、この金額は日常の生活費としては十分ではない。したがって公的付加年金を全く、もしくは少ししか受給できない年金受給者のために「付加年金」と呼ばれる特別給付金がある。それは1987年には1年当たり基礎金額48%にのぼった。

 年齢が16歳以上で65歳の退職年齢に達しておらず、かつ労働力が少なくとも50%減少している障害者は、この基礎年金(この場合は「障害年金」と呼ばれる)の受給資格を有する。労働力の減少程度によって、基礎年金の全額か3分の2、あるいは半額が認可される。

 その他、基礎年金システムの下で取得できる特別給付金がある。障害に関わる二ーズをカバーする「付加年金」、「障害手当」および「児童手当」である。障害をもつ年金受給者で、被雇用経験を全く、もしくは少ししかもたない者には、その障害が必然的にもたらす高い生活費を補うために二重年金補足を受ける資格が与えられる。これらの所得年金給付に加えて、個人的な援助を必要とする障害者は基礎年金を補う障害手当の資格が得られる。

 この給付金は障害者に、PASの受給や他の障害関連費用に当てるための財源を提供するためのものである。

 年齢16歳以上で、65歳になる前に障害者となった人は、もし、つぎの必要条件が満たされるならばこの手当を受給する資格が得られる。すなわち、「機能的な能力」が少なくとも1年間は減少しており、かつ、その程度は、被保険者が:

 ・日々の生活において、他者からのかなり時間のかかる介助を必要とする
・働くか勉強するためには、他者からの連続的介助を要する
・それ以外の方法では、かなりの追加費用を必要とする

 二ーズ査定は社会保険事務所によって行われる。

 障害手当の受給資格は、一般に、基礎(障害)年金の受給者に与えられる。また、障害手当の受給条件を満たす障害をもった労働者や学生へも支払われる。そのような障害をもってはいるものの、障害年金の受給対象からはずれている程度に働くことのできる労働者の場合、この給付金は「障害補償」と呼ばれる。

 年金給付金とは異なり、障害手当には税金は課せられない。障害者施設の入所者には、当然、この給付金の受給資格は与えられない。

「児童手当」は、障害のゆえにかなりな量の介助、または保護を要する16歳以下の障害児を世話する親に支払われる。これは基礎年金システムによる障害年金全額または半額に相当する額プラス補足給付金に等しい。

 16歳以下の障害児の場合、この給付金は障害手当と同様に、もし、その障害児が障害児施設に入所している場合、親に支給されることはない。

(3)「労働災害保険」
この保険は強制的なもので、雇用労働者、自営業者および一部の学生をカバーする。その主目的は、仕事や勉強に関連して受けた疾病や災害による所得損失や医療出費を補償することにある。

 この保険体制のもとでは給付金に次の3タイプがある。1.健康保険の下で支給のもとに同等の給付金、2.基礎年金とATP年金に類似の給付金、そして3.葬儀のための手当である死亡給付金のようなユニークな給付金。

2.社会福祉
パーソナル・アシスタンス関連の社会保険給付金とは別に、1982年の「社会サービス法」によって資産調査を伴うPAS(パーソナル・アシスタント・サービス)が県により提供されている。本法は、「保健医療サービス法」と同じように目標を示すだけの形をとっており、コミューンはさまざまな社会事業を全人口に対して供給する責任を課せられている。ただし、その一方で、事業計画の立案に関しては、それぞれの二ーズに合わせて、大きな自由裁量権がコミューンに与えられている本法1条には、社会サービスの包括的な目標がつぎのように定められている。

 「公的社会サービスは、民主主義と連帯を基盤とし、経済や社会保障、生活条件の平等、そしてコミュティ活動への積極的参加を押し進めるべく確立されるべきものでるある。個人や他者の社会的立場に対する責任に対して十分な考慮を払いつつも、社会サービスは個々人と各グループが本来内在的に有している資源を解放し、開発することに狙いを定めるべきである。社会サービス活動は、個々人の自己権やプライバシーの尊重を基盤とすべきものでるある。」

 これらの目標は社会福祉立法の新しい方向を示している。しかし、その一方で、現行のスウェーデンのPASは、1930年代にこのシステムが生まれて以降、未だもって重要な変更が加えられていない。

C.教育と雇用に関するパーソナル・アシスタンス・サービス
1965年以降、パーソナル・アシスタンスは就学年齢の障害児に対しても提供されるようになった。そのサービス内容は個人的な手助けで、たとえばトイレの介助、昼食の介助、ノートとり、聴覚障害児の通訳、そして知的障害のある児童の手助けなどである。必要な介助の程度によって、1対1の割合でアシスタントが付くこともあるし、生徒何人かに対し1人付く場合もある。

 アシスタントは学校が雇用し、生徒は料金を負担しない。その費用は、大学の場合、県と中央政府の間で負担される。

 同種のプログラムは中等学校や大学レベルでも適用されるが、異なる点は、大学所在地の自治体がアシスタントを雇用する点である。これらの介助サービスは、学生には無料であって、前述した障害手当に加えて供給される。

 地方自治体は、費用負担者たる中央政府によって弁済を受ける。

 1978年の「労働環境法」は、雇用者に対して、障害をもつ従業員の二ーズに適した作業条件を整える義務があると定めている。障害をもつ労働者を雇う雇用主は、国から助成金の給付を受ける。助成金の額は、採用時、雇用に関わる必要経費の100%にものぼり、それ以降は数年で徐々に消失する。

 障害をもつ労働者に対しては、広範囲な技術援助が提供される。その中で比較的新しいものはパーソナル・アシスタンスで、労働現場における実際的な援助が必要な障害をもつ労働者のために供給される。この場合のアシスタントは、他の従業員の場合もあるし、社外の者の場合もある。雇用主は、政府からある上限までの額の返済を受けることができる。全国労働委員会から補助金が出ることもある。

D.パーソナル・アシスタンス・プログラムのしくみと管理体制
前述の県政府による在宅保健サービスの他に、PASは主に「ホームヘルパー」あるいは「家庭サマリタン・サービス」と呼ばれるものから成り立っている。このサービスに対しては、少額の料金が自己負担となる。その当初の目的は高齢者に対するサービスであり、現在も高齢の障害者が利用者の大部分を占めている。

 ホームヘルパー・サービスは、地方レベルに位置する県社会サービス事務所によって管理されている。サービスの調整やPAS申請者の二ーズ査定、アシスタントの配置などは、すべてソーシャルワーカーが行う。サービス時間数は、運営期間や利用者の二ーズによって地域的な差がみられる。二ーズ査定に関するガイドラインがないため、明らかに同じ二ーズをもつ利用者であっても時間数に差が出ることもある。

 統計によると、1人当たりの平均時間数は過当たり3.3時間で、まれなケースとして1週間30~40時間という最高時間数も見られる。

 ほとんどの地域では、ホームヘルパーという形のPASは平日の一般営業時間内とされている。それ以外の時間帯は、県政府が管理する在宅医療サービスによって医療ケアという形で提供される。パーソナル・アシスタンスは施設外で24時間提供されるものであるが、サービスハウスという、ケアつきの集合住宅では提供されることがある。

 ホームヘルパー・サービスによって供給されるパーソナル・アシスタンスの仕事は、一般に家事や料理、個人の衛生管理、着替え、銀行や郵便局への使い、洗濯、散歩の介助などの手伝いから成り立っている。通常・ホームヘルパー・サービスは障害者の家庭のみに限られている。

 これら以外に、最近、利用者が買い物やレジャーなど、家庭外で介助を必要とする場合の二ーズに応えるべく、「エスコート・サービス」と呼ばれるサービスをスタートしたコミュニティがいくつかある。このサービスは、より重度な障害をもつ利用者に限られており、1ヵ月に数日間しか利用できない。また、これにはあらかじめ数日前に予約が必要である。

 さらに最近見られる改革の一つは、週末と夜間の「パトロール・サービス」で、いくつかのコミューンで実施されている。パトロールは普通、2人のヘルパーが組となり、あらかじめ打ち合わせたスケジュールで利用者を訪問し、就寝の手助けをしたり、夜間の備えをする。また、緊急事態に対しても待機する。

 ホームヘルパー・サービスのアシスタントはコミューンによって雇用され、大部分は労働組合に加入するが、専門性が比較的低いという理由で支払われる賃金はコミューンの基準の最低である。アシスタントの約80~90%は女性で、中年の主婦であることが多い。1982年にフルタイム就業しためは、わずか7%であった。コミューンによる雇用ではあっても、実際にはアシスタントの約14%は障害者の家族や親戚であり、自分の家族の援助を条件としていた。

 1980年代における傾向として、フルタイム就業は増加に向かったが、家族のアシスタントとして雇われた家族メンバーの数は減少しつつあるといわれている。今いっそうの専門化と、より高給を求める労働組合の要求書の中に、この説明が見受けられる。

E.スウェーデンのPAS(パーソナル・アシスタンス・システム)の発展
スウェーデンでは、パーソナル・アシスタントは障害をもつ者にとって、日常生活のあらゆる分野で必要あると考えられている。従って、必然的に、社会保険制度と社会福祉体制には共にPASに対する規定を伴う。

 パーソナル・アシスタンスは、自立生活の概念を支える1つの分野たる医療処置とははっきり区別されている。

 障害児や高齢の障害者がいる家庭は、社会保険システム内の規定によって支えられていると同時に、コミューンの福祉システムにも支えられている。このようにして、スウェーデンのシステムでは、たとえ家族によって介助が提供されたとしてもPASはPASであり、これらの人びとは補償を受けるに足ると認識されている。これは、もしPASが家族の結びつきによって自発的に行われるとすれば、家族の収益能力は実質的に減少するとスウェーデン政府が認識していることを反映している。

 スウェーデンのPASの最も重要な特徴の1つは、障害者の雇用が積極的に奨励されているという点である。職場でPASが利用でき、ホームヘルパー・サービスの対象者の中に障害者が含まれているので、それが可能なのである。とはいえ、重度の障害をもつ者にとっては、選択肢は依然として極く限られている。障害手当も、コミューンによって供給されるPASも、週2~3時間の介助だけではどうにもならない障害者の二ーズはカバーしきれない。さらに重度な障害をもつ者にとって、主として週末と通常の勤務時間外に公的援助を得られないということは、非常に大きな意味をもつといえる。これらの人たちは、家族の援助やサービスハウスに入居するか、あるいは施設に入所するかのいずれかを選ばなければならない。この点に関し、つぎのようなことも示唆を含む例として見受けられる。ある障害者グループの中の高齢者で、施設に転入したばかりの人たちが入所前に受けたアシスタンスの平均量を調べてみると、1日当たり3時間であった。このように、PASの大部分は、真の意味での施設代わりとして機能するように立案されておらず、むしろ施設への入所を遅らせる手段として機能しているように見受けられる。

 自立生活の概念に関するもう1つの問題は、ホームヘルパー・サービスの組織化である。1982年の「社会サービス法」に定められている「自己決定権の尊重」および「個人のプライバシー」という原則とは対照的に、ホームヘルパーの利用者は誰が自分の担当になるかについて何の影響力ももたず、自分のヘルパーに対して雇用者の立場に立てるわけでもない。障害をもつ利用者の間で聞かれる最も多い苦情の1つは、ヘルパーの入れ代わりの率が高いことである。

 現在、スウェーデンの社会サービス・プログラムは専門化の方向に向かっている。特に、パーソナル・アシスタントの地位と給料の改善に力を入れる労働組合によって、その動きは押し進められている。障害者諸団体の中には、サービスの質の向上を望んで、ホーム・ヘルパー・サービスの一層の専門化に対する労働組合要求を支持している団体もいくつかあるが、この傾向に懐疑を抱く団体もある。上述の通り、自立生活の観点から見ると、PASの専門性を高めることが利用者に対する過保護的関係を生み出す懸念があるというのである。

 STILのメンバーは、パーソナル・アシスタントの賃金増額要求に同意したこととは別に、PASがより高い専門性をもつことは、パーソナル・アシスタントが利用者中心の視点をもつのをはばむとみている。ホームヘルパーに対して頻繁に使用される「サマリタン(困っている人に同情して援助する人)」という言葉は、このような過保護主義的関係の象徴と見られている。このもう1つの徴候は、近年いくつかのコミューンが着手した新しい実験的な動きに見られる。たとえば、ストックホルムの4~5人のアシスタントから成るアシスタント・チームの導入である。かれらは、朝のミーティングの場所として市当局からアパートを供給され、そこで食事をし、毎朝、その日の仕事の分担を決める。この考え方の根底にあるのは、かれらの労働条件を改善するということである。利用者の中にはこのやり方に不満をもつ者がいる。一体、誰が自分のパーソナル・アシスタントになるかに関して、何も発言力をもてないだけでなく、自分たちの私生活について、細部が暴露されることも恐れているのである。

 過保護主義を生み出すとして批判されてきた専門性の問題に関わる実験的なもう1つの試みは、社会サービス事務所がパーソナル・アシスタントに、利用者をより「活性化」させるという任務を与えることである。つまり、利用者に自分でできることはできるだけ自分でするように動機づけることである。たとえば、パーソナル・アシスタントが壁にかかっている絵の上隅の埃を払い落とすとしたら、利用者こは車いすの高さで届くところの埃を払わせて「活性化」をはかるという。たとえそれが可能な人でも、障害のない人より時間と労力を多く必要とするといった場合、これは自分たちのエネルギーをいかに費やすかという選択の自由を奪うものだと、パーソナル・アシスタンスの利用者は批判した。たとえば、かれらは雇用など、他の問題にもっと時間とエネルギーを注ぎたいということがあり得るのである。

 3番目の同じような例は、ストックホルム社会サービス事務所が行った決定にみられる。ここでは、パーソナル・アシスタントが利用者のためにアルコール飲料を買うのを禁じたのである。

 この種の実験的試みがうまくいっている例もいくつかあるが、少なくともここに挙げた例からは、スウェーデンのPASの専門化に対する批判の方が正しいことが十分に証明されているといえよう。

 このような観点からみると、スウェーデンのホームヘルパー・サービスは、自立生活の概念にそった利用者中心のパーソナル・アシスタントというものからははずれる。さらにいえば、1982年の社会サービス法にみられる自立生活の原則に準じていない。法的改革は、変更が履行されるまでに常に2~3年は必要と指摘する人がいるかも知れないが、PASの場合、専門化という新しい傾向は反対方向をとっているように見受けられる。

 平均的な量のサービスを超えるパーソナル・アシスタンスを必要する人に対しては、法律と管理の両側面でわずかな選択しか与えられていない。障害手当は、低い料金のホームヘルパー・サービスには十分かも知れないが、毎日、数時間のアシスタンスを必要とする人の費用はカバーできないであろう。

 スウェーデンのPASには、明らかに、グループとしても、個人としても、利用者自身が参加していない。それが一番感じられるのは、アシスタントの配属方法であり、スタッフメンバーの入れ代わり率が高いという点である。

 PASはサービスの大部分が、個人的な介助と密接な人間関係に関わるので、利用者の根本的なプライバシーの問題が生まれる。サービスハウスに入居しているある女性は、そのジレンマをつぎのように表現した。「私はサービスハウスに来て、はじめて、自分の寝室にどんな男性が入ってくるかについて何の権限ももてなくなった。」

Ⅱ.米国におけるパーソナル・アシスタンス・サービス

 スウェーデンとは異なり、米国は包括的、かつ強力に中央集権化した社会保障や福祉システムをもっていない。米国のこの状態を外部から眺めると、システムというよりもさまざまなプログラムからなる迷宮が見えてくる。つまり、民間と公的な保険、自助グループや連邦、州、コミュニティを主体としたプログラム、そして、その他多くのプログラムが合衆国の「ソーシャル・ネット」と呼ばれるものをつくり上げているのである。自立生活運動は、その運動が生まれた当初から公民権と公的年金とを重要課題としながら進められてきた。したがって、合衆国におけるパーソナル・アシスタンス・サービスは、このような状況を背景として眺める必要がある。本章では、主に社会保障と福祉法に焦点をあてるが、障害に関連する反差別法への簡単な洞察も加える。

A.反差別法と「制限を最小に抑えた環境(Least Restrictive Environment)」に対する権利
1970年代初期、障害者は、人種や民族的少数派、あるいは女性たちが、公民権運動によってすでに獲得していたのと同様の保護を要求していた。やがて議会は障害に関わる広範囲に整った反差別法を制定した。差別禁止に加え、これらの法律の多くは障害者のためのサービス・プログラムを生み出し、提供した。障害者が機会均等と社会における完全参加をなすためには、差別だけでなく、さまざまなサービスのことも忘れてはならないのである。

 こうして、たとえば「発達障害援助及び権利宣言法(The Developmental Disabilities Assistanceand Bill of Rights Act)」が制定された。この法は、発達障害をもつ人のための連邦政府の助成のプログラムに関わるもので、州が主体となってケアと訓練の内容を改善するのを援助し、奨励するものである。この法によっていろいろなサービスの委託が行われるほか、発達障害児・者の権利を保護、擁護する「権利宣言」が含まれている。社会への完全参加に関して、障害者は「適切な治療やサービス、リハビリテーションを受ける権利」を有し、「発達の可能性を最大化し…かつ、それは個人的自由に対する制限を最小に抑えた中で与えられる」という点は必要不可欠な部分である。「制限を最小に抑えた環境」という考え方は、いくつかの州や連邦の法律の中に含まれており、たたえば障害児に対する教育機会均等などに関わる「1975年全障害児のための連邦教育法(Federal Education for All Handicapped Children Act of 1975)」にも見られる。ここでは、障害児が制限を最小に抑えた環境において教育されることを保障するよう州に要求している。「制限を最小に抑えた環境」という表現は、障害児が、障害をもたない児童と可能な限り共に教育される場、と定義されている。

 州法規の一例に、1967年、カリフォルニア州議会によって採択された「The Lanterman-Petris-Short(LPS)法」がある。これは知的障害をもつ人達の権利を定義、保護するものであったが、その後、より広い意味で発達障害をもつ人びと全体を対象とするように改訂された。この法の下では差別が禁止され、「(A)制限を最小に抑えた条件の下で…治療とリハビリテーションサービスを受ける権利」が規定されている。今日では、ほとんどの州が類似の法律を制定し、「制限を最小に抑えた環境」は障害者の擁護に立つ者の間ではコミュニティをべースとした施設のキャッチフレーズとなった。裁判所によっては、「制限を最小に抑えた環境」という考え方を、施設に入所している障害者が、制定法あるいは憲法の規定に基づいて提供されるコミュニティ・べ一スのアスシタンス・サービスを受ける市民権、と解釈している。しかし、2つの最高裁判決や、その後、司法の分野に行き渡った抑制の力と専門家の判断を重視するという風潮によって、これら初期の裁判所の決定によって生まれた楽観的見方は衰えてきた。

 まず、「Pennhurst Ⅰ」の判決で裁判所は、DDAの権利宣言が、発達障害をもつ者のためのコミュニティ・べースの治療を受ける実質的権利を確立してはいない、と判断している。つまり、権利宣言の各項を、ただ単に議会が脱施設化を選択したにすぎないと解釈したのである。同様にして、「Youngberg対Romeo訴訟」では、裁判所は憲法上、州はその境界内の住人を対象に実質的サービスを支給する義務を有していないので、施設入所者は「最小の適切なトレーニング」を受ける狭い意味での憲法上の権利を有するにすぎないと判断した。何が適切なトレーニングを構成するかという解釈は、司法の判断を重んじ、専門家の判断に任せられた。これらの判決以降、ほとんどの裁判所は、コミュニティ・べースのサービスを法的に必要と認めなかった。施設にとどめることが不適切であるとの専門家のコンセンサスがあった場合のみ、裁判所は施設外での処遇の命令を下した。他の裁判所は、「制限を最小に抑えた環境」への憲法上の権利に対して、まったく根拠を認めなかった。また、法律の中の「制限を最小に抑えた代わりの選択肢」に関する条項についても、最高裁の「Pennhurst Ⅰ」判決と同様に、コミュニティ・べースのアシスタンス・サービスを実施する権利は含まれていないと判断する裁判所が増えている。

 脱施設化傾向は施設の部分的な閉鎖と立法上のプログラムの脱施設化へと導いたが、それに伴って(知的)障害者のための自立生活を促進する適切なコミュニティ・サービスが開発されたわけではなかった。

 似たような経過が、前述の自立生活センターでみられた。自立生活センターは、「1978年リハビリテーション法修正法(1978 Amendment of The Rehabilitation Act)」により、米議会によって法的に承認されたものだが、この制定法をもって米議会は再び、ノーマライゼーションの原則と障害をもつアメリカ人のための自立生活に関わるプログラムの遂行を認める法案を通過させた。この法改正により、1973年のリハビリテーション法(Rehabilitation Act of 1973)の第Ⅶ章bは、議会はさらに重度の障害者のため、4部門のプログラムを制定した。リハビリテーション法の第Ⅶ章パートAは、適切な州計画に基づいて規定された自立生活サービスに対する予算支出を認めた。パートBは、自立生活センターによって提供されるいくつかの他のPASとともに、助成プログラムの設立と運営を認めた。パートCは高齢の視力障害をもつ個々人に対する自立生活サービスのための資金を設定した。第Ⅶ章パートBによって公認された基本的な資金は、米国における約160の自立生活センターの設立に役立ったのである。

 しかしながら、リハビリテーション法第Ⅶ章bは、アデンタント・サービスを支給されるべきサービスの1つとして明白に記載している数少ない連邦制定法条項の1つではあるが、この法は決してPASに対する主たる連邦資金とはいえなかった。

 たとえば、施設ケアのために使われてきた連邦の予算に比較すると、PASへの資金供給は常に小額であった。パートAに定められたプログラムによって支給されるサービスに対しては、1984年になって初めて予算化され、これは施行後6年以上も経っており、引当て金額はわずか500万ドルであった。

B.米国における社会保障と福祉法
現代的な見方をすると、米国の社会保障と福祉法は比較的若いといえる。それは1935年の社会保障法(SocialSecurityAct)の施行に始まったが、そのころは大恐慌によって貧困が国家的問題になっており、ニューディール時代へと入っていったころである。それ以後、アメリカの社会保障政策は、所得保障をはかるということに重点がおかれてきた。それは、OSDI(老齢遺族、障害保険)、失業保険、労働者補償など、ヨーロッパ諸国で実施されていたようなプログラムを通じて行われた。また、AFDC(扶養児童のある家族への扶助)のような資産調査があるプログラムなども実施された。これらプログラムは、すべて失った収入を補償する給付金を支給するもである。

保健や社会サービスは、長い間、公的領域外のものと考えられてきた。したがって、強制的にカバーする中央集権的国民健康保険や、児童のケアに関する強力な社会サービス、収入サポート・サービスなどはない。それにもかかわらず実際には、人口の95%がある程度まで公的あるいは民間の健康保険プログラムによってカバーされていると言われている。保健プログラムと社会サービスは、主に民間セクターにゆだねられているのである。

しかし、人口の大部分を対象に医療サービスを供給している2つの大きな公共プログラムがある。「メディケア」と「メディケイド」と呼ばれているものである。メディケアは65歳以上の人、そして退職給付金または障害給付金の受給資格を有する障害者に健康保険を提供する連邦プログラムである。また、メディケイドは貧困者に対して医療アシスタンスとサービスを供給するよう考えられた資産調査を伴う連邦と州の合同プログラムである。

1.障害をもつアメリカ人のための所得補償プログラム
公共社会保障と福祉プログラムの主な着眼点として所得保障が重視されてきたが、このことは同時に、米国における障害者対策の発展をも可能にした。一般に障害に関わるプログラムは、収入に代わるものを供給はしても、基礎的な医療費以外、障害関係の出費はカバーしない。

  • a.労働者の補償金
    米国における社会保険の原型の1つである労働者の補償金は、労働者が労働に関連して負傷した時に現金給付と医療ケアを提供するものである。給付金は、通常、事故または死亡時点での週単位所得の割合で計算される。州プログラムの中のいくつかは、既婚者か否か、あるいは扶養児童の数などを考慮する。また、ほとんどの法律の中では、「美観の損傷」の補償として付加給付金が承認される。その一方、必要なアデンタント・サービスに対する給付金を支給するプログラムはわずかしかない。
  • b.社会保障障害給付金
    連邦の障害保険(以前はOSDIの一部)により支給される社会保険障害給付金(SSDI)もまた、失った所得能力に関連している。障害労働者の給付金の額は、その労働者の受給していた給与額を基礎に計算される。給付金は、配偶者給付金、子どもと遺族給付金を含むが、必要なPASに対する障害手当は与えられない。
  • c.連邦補足的保障収入
    もう1つの主な障害プログラムに、「連邦補足的保障(SSI)」がある。SSIは、わずかしか、あるいは全く労働経験をもたず、実質的な有給活動に従事することができない65歳以下の資産調査の条件を満たす障害者の場合、最少限度額を保障した収入を供給する。1986年現在で、月間の支給額は、最高325ドルであり、配偶者のある有資格の障害者の場合は488ドルである。1986年の平均支払い同額は199ドルであると見積もられた。2州を除く全ての州がこれらの連邦支出を補足するが、補足程度の決定には各州が幅広い裁量権を有している。SSIは、いずれの州においても障害関連のパーソナル・アシスタンスに対する二ーズの重要な資金供給源とはなっていない。
  • d.退役軍人の補償
    所得保償に加えて、PASを供給する唯一の主要連邦プログラムは、「軍務関連障害に対する退役軍人補償プログラム(Veteran’s Compensation Program for Service Connected Disabi1ities)」である。社会保障システムが確立されているほとんどの国のように、この障害者のグループは特権を与えられる身分で・広範囲に整備されたプログラムと給付金を受ける資格を有している。軍務に由来した障害に対する補償としての月間現金支払いに加えて、米国の退役軍人で重度の障害をもつとみなされる者には、「援助と介助手当」が支払われる。1986年の補償支払いは、10%の障害に対する1ヵ月66ドルから、全面的障害の1ヵ月1,295ドルまでに及んでいる。ただし、補償と手当を合わせて1ヵ月3,697ドルの限度を超えることはできない。1984年には、退役軍人の運営管理事務所は、8,493人に対して「援助、介助手当」として1億103万6,520ドル支出している。およそ6,860人にのぼる者が、1ヵ月当たり906ドルの額を受領し、施設入所のリスクに面していると考えられる残り1,633人は、月額1,350ドルを受け取った。
    退役軍人の補償」は、その受給者の家庭生活や、アテンダントヘの支払いを可能にするが、SSDIやSSIの支給金に依存するほかない大部分の他の障害者がおかれている状況は異なる。 SSDIやSSIを設立する際に、連邦政府は障害者の基礎的な生活二ーズを補償する責任を認めた。しかしこれらの制度だけで障害者が自立して生活できるようにはなっていないのである。

2.パーナソル・アシスタンス・サービスに対する財源を保障する連邦の立法
「退役軍人の援助と介助手当」に加えて、現在、より広い意味でPASに資金を提供する主な連邦プログラムにはつぎの4つがある。
1)社会保障法の第ⅩⅧ章(メディケア)
2)社会保障法の第ⅩⅨ章(メディケイド)
3)社会保障法の第ⅩⅩ章(ソーシャルサービス定額交付金)
4)高齢アメリカ人法第Ⅲ章
これらの他に、いくつかの州または地方プログラムの中には、PASのために資金供給しているものがある。一般に、州はこれらのプログラムにも連邦の資金供与を利用している。

a.メディケア(社会保障法の第ⅩⅧ章)
労働力の一部をなしてきた退職者と障害者に対する健康保険は、2つの関連の保険科分担制の健康保険プランを包含している。つまり、病院保険(HI)と補足的医療保険(SMI)の任意プログラムである。これら2つの保険が効力をもつのはつぎの条件の下にホームヘルス・サービスが提供される場合のみである。つまり、在宅療養中、医師の監督下において、医師が設定し定期的に検閲するプランに従ってホームヘルス代行機関、またはその下請けによって、サービスが提供されるということである。

 提供されるサービスは、受給者の居住地のみに限られるという条件も含まれる。さらに、これらホームサービスは医療的に特定の除外例がみられることも特徴の1つである。

 原則として、患者が入院した場合に提供されないと考えられるサービスは、どれも適用範囲から除外される。食事の宅配、家事サービス、そして運搬サービスなどである。病気が傷害の治療のために、合理的とも必要とも思われないサービスは「メディケア」によってはカバーされず、別の一般的な例外条項をなす。もしホームヘルス・サービスが近い家族(配偶者、子ども、兄弟、姉妹、義兄弟など)によって供給されるなら、保険による返済はない。

 このように、「メディケア」ホームヘルス・サービスは、厳密な意味での医療モデルに基づいて供給される。上述のPAS作業の多くは除外され、医師と看護機関は広範な権威を付与されているので、受給者側の意見が生かされる道はないといえる。

 1981年以降、ホームヘルス訪問は、年当たりの訪問回数に特定の限度が設けられなくなった。とはいえ、メディケアはホームヘルス・ケアに対する主たる供給源とはならなかった。1982年には、約117万1,000人(うち93%は高齢者)がメディケアによるホームヘルス・サービスを受けた。その年の平均訪問回数は26.3回であった。

b.「メディケイド」と「メディケイド使途変更」
(1)メディケイド(社会保障法の第ⅩⅨ章)
メディケイドは経済的貧困者に医療援助を供給するため、連邦と州の資産調査による資格付与プログラムとして創設された。連邦政府は、一定のサービス(その中には在宅サポート・サービスが含まれる)が提供されることを指令する一方、州側は、プログラムを管理し、収入適格のレベル、給付金の範囲と継続期間、サービス利用の可能性、支給方法、弁済方法などについて、広範な裁量権をもっている。

 ほとんどの州ではメディケイドの受給資格は、「扶養児童のある家族への援助(AFDC)」や「補足的保障給付(SSI)」のように現存する現金支給福祉プログラムを連結している。しかし、いくらかの州では、より制限のゆるやかな資格条件を定めている。

 メディケイドを支える法律の自由裁量の面は、各州の間で急速に大きな差を生み出していったが、それは今日もなお明白に表れている。結果として、メディケイドは一律の国家的なプログラムではなく、共通要素の少ない、異なった州のプログラムになったといえる。このプログラムの資金は、連邦と州により共同で供給される。

 メディケイド資金の大部分は、病院やナーシングホーム、知的障害者のための「中間ケア施設(ICF)」のような施設、「熟練看護施設(SNF)」などに供給されている。

 メディケイド在宅サービスの付帯条件は、医療モデルによって規定されるメディケアの規則よりも大分ゆるめである。メディケイド法によれば、サービスは書面に記された治療プランの一部として医師により処方されねばならない。これらのサービスは認可されたホームヘルス代理機関によるホームヘルス援助サービスとして提供される。提供者が満たすべき条件はつぎの通りである。
1)サービス提供の資格をもつ個人である。
2)登録看護婦の監督下にある。
3)受給者の家族の一員でない。

 この医療モデルの枠ぐみの中で、受給者の声を生かす革新的方法を見いだした州と都市がいくつかある。デンバー、ニューヨーク、およびボストンの各市は、数カ所の自立生活センターをホームヘルス代理機関として指定し、受給者がアシスタントを雇い、訓練するのをセンターが許可するという方法をとった。他の地区は、看護婦に3ヵ月、または半年ごとに評価されることによって、監督に関わる条件をゆるめている。

 メディケイドに対する連邦の資金供給は、オープン・エンド、つまり金額を制限せず提供するやり方である。有資格の受給者へ支給されるサービス費用に対し、州は連邦政府より払い戻しを受ける。各州のその額の算定基準は、州民1人当たりの収入に基づいて定められる。各州は、民間セクターのサービス支給者に、第三者売主払によって返済する。このように、ほとんどの場合メディケイドによる在宅サービスを受けている障害者は、自分たちが受けているサービスの財務面に影響力をもたないしくみになっている。供給者は、受給者のためというよりも、むしろ州の意を満たす方向へと動きがちである。しかし、自立生活センターがホームヘルス代行機関として指定された地域では、受給者がアシスタントヘ支払う賃金を、センターが受給者に対して直接支払うようになっている。

(2)メディケイド使途変更(1981年の総括予算調停法の第2176項)
1981年に、議会は施設サービスに対する費用を削減するために、コミュニティ・べース・サービスの分野で実験的な試みのための道を開いた。すなわち「総括予算調停法の家庭/コミュニティ・べース・サービスのメディケイド使途変更規定(Home Community-Based Services Medicaid Waiver Provision of the Omnibus Budget Reconciliation Act)第2176項」を制定することにより、議会は施設に入所するしかないリスクのある人のためにコミュニティ・べースのサービスを供給するよう州に働きかけた。州は狭義の対象者に、PASを含んだいろいろな新しいサービスをもっと自由な資格条件を採用して供給するため、メディケイド規則の使途変更を申請することができる。

 多くの州が、このような使途変更を申請し、デモンストレーション・プロジェクトも多数設けられたがその数が多く認められた。可能性は少ない、というのもメディケイド使途変更プログラムには、新規サービス施設ケアよりコストが高くなってはならないという条件が政府によって付けられており、また、使途変更の認可期間は3年と限られているからである。

 圧力に応える形で、議会は、ナーシングホームの平均以上の費用を一個人に対してかけてはならない、と規則を変更した。障害者を擁護する人たちは、このような規則は多種多様な傷害をもつ人びとへの差別であると主張している。つまり、ナーシングホームの入所者は高齢であり、その二ーズは傷害者に比べてずっと少ないということである。議会は1985年に統合平等調停法を定め、サービスに対する異なった二ーズをもつ人々に対して、2段階方式の制限を導入した。しかし、一方では、より包括的なコミュニティ・べースのサービスのための使途変更は、もうこれ以上連邦政府の承認を受けることはできないといわれている。

c.社会サービス定額交付金(旧第ⅩⅩ章)
社会保障法の第ⅩⅩ章は、連邦政府が助成する、異なった地域における州の社会サービス・プログラムを規定するものであった。その中には施設入所のリスクがある人のための在宅サポート・サービスも含まれていた。州の、よりゆとりある資金活用を可能にするため、この部分は1981年に連邦政府から州政府に対する定額交付金という形へと転化された。供給されるべきサービスの種類や受給資格について、州は社会サービス定額交付金(以下SSBGと記す)規則に従い、広範な裁量権を与えられている。ほとんどの州は、SSBG資金とパーソナル・ケアのためのメディケイド資金とを組み合わせてアデンタント・サービスに活用している。しかし、カリフォルニアを除くほとんどの州で、SSBG資金によって提供されるアデンタント・サービスは非常に限られている。資金供給がオープン・エンド方式でなく、その額がごくわずかしか引き上げられていないというのが理由である。(1976年の25億7千万ドルから、1984年、85年、86年の27億ドルヘと引き上げられた。)

 SSBGプログラムは、州や郡政府の担当部署により運営管理され、二ーズ査定、評価などはソーシャルワーカーによって行われる。このプログラムに医療従事者は関与しない。このように、SSBG資金供給がメディケイドやメディケアと比べて有利な点は、サービスが医療と結びついていないという点になる。

d.高齢アメリカ人法第Ⅲ章
高齢アメリカ人法によって、米国議会は高齢のアメリカ人のための広範な社会医療サービスを含む社会福祉プログラムを制定した。

 この法の第Ⅲ章は、現行のPASを拡大すること、あるいは新規にアデンタント・サービスを生み出すことによって、PASを提供しようとするものであった。SSBGやメディケイドのような他の福祉プログラムとは異なり、第Ⅲ章が規定するプログラムには資産調査がない。しかし、資金供給に対する連邦の最高限度額が定められているため、州や郡などの地域の高齢者対策機関は、連邦の規則に従って60歳以上の低収入者を対象とすることが奨励されている。

 州が連邦政府の資金供給を受けるために必要な条件を満たすためには、アデンタント・サービスのような特別サービスについて資金供給の一部の費やすこと、あるいはこれらのサービスがすでに他の資金供給源によって提供されていることを証明しなければならない。このように、一般に州は第Ⅲ章による資金をSSBGおよびメディケイドとの組み合わせで活用している。SSGBやメディケイドと異なり、第Ⅲ章はその上、給食宅配サービスを提供する。このプログラムのもう1つの利点は、あらゆるタイプの障害をもつ高齢者のためのサービスを包含していることである。つまり、アデンタント、朗読者、通訳、およびコンパニオンなどによるサービスも提供される。

C.教育と雇用に関するパーソナル・アシスタンス

1.学校におけるパーソナル・アシスタンス
合衆国における教育は、基本的に、州と地方政府に任せられている。そのため、学生のための、障害に関連したサービスに関わる目立った連邦プログラムはない。しかし、この分野に若干の影響を与える連邦の法律が2つある。

 リハビリテーション法第504項とその関連規則は、連邦資金によって実施されるプログラムのいずれにおいても、障害による差別が行われることを禁じている。すなわちすべての州が教育プログラムのために連邦資金を受領するので、いずれの州においても障害をもつ学生に対する差別が禁止されていることになる。第504項施行のため交付された規則は、資金受領者に対し、差別を排除するための「必要な配慮」を保障することを求めている。

 全障害児教育法(Education for All HandicapPed Children Act[EHA])のもと、連邦扶助を受け取る州は全障害児に「制限を最小に抑えた環境」において「自由にして適切な公共教育」の提供を保障しなければならない。また、障害児が必要とする場合、「特殊教育とその関連サービス」を無料で支給しなければならない。

 「必要な配慮」と「関連サービス」という表現は、どちらも同じ概念を具体的に表現している。いくらかの修正なくしては障害をもつ学生に対する機会均等と反差別に向かって努力することは不可能である。障害をもたない者の二ーズを満たすようにデザインされた教育の場に調整を加え、その上にサポート・サービスが必要となる。もっと一般的にいえば、これらの表現は、福祉機器、作業療法、学校保健サービスおよび輸送に関わる二ーズに対して使われてきた。しかし上述の法のもとでは、手話通訳のようにPASもいくつか認められてきた。

 これらの法律を選択するにあたり、米国議会は設備と関連サービスに対して、必要な費用と、その費用負担を助けるためのプログラムを設けることが必要となると認めている。例えば、リハビリテーション法第302項は、第504項に呼応して、技術的で個人的なアシスタンス(例えば手話通訳)を供給するための州単位の補助金を認めている。リハビリテーション法の第110項は、若干の資金を職業リハビリテーションのクライエントに対し供給するが、これは他の供給源が得られぬ時に使用できるといわれている。

 PL98-199(障害者のための中等教育終了後プログラム)によって、議会は、障害をもつ中等教育終了後の学生のための通訳、朗読、ノートとり、家庭教師、カウンセリングおよび関連サービスを提供するための補助金を認めた。1984年には21のプロジェクトがこれによって実施されたが、聴覚障害学生のための4地域のプログラムに優先権が与えられた。

2.就業中のパーソナル・アシスタンス・サービス(PAS)
障害のある従業員のためのアデンタント・サービスをすでに実施しているマサチューセッツ州やオハイオ州のような州は別として、就業中の障害者に対するPASプログラムはほとんどない。

 リハビリテーション法第504項は当然のことながら、連邦資金を受ける雇用主に適用される。同様にして、さらにすみずみまで行きわたる規定として、連邦政府の契約者を対象とする第503条と連邦政府そのものを対象とする第501項がある。そのいずれも差別是正措置をとる義務を条件とする。

 しかしながら、適切な設備を整える義務に制限がないわけではない。ある意味で基本的権利であると考えられている教育の領域と異なり、雇用の分野では多くの広範囲にわたる費用が必要であるということを理由に、この義務からのがれようとすることができる。また、連邦の資金を一切受けていない雇用主の多くは、障害をもつ労働者に対する差別を禁止されてはいないのである。

 このように、働くことを希望する障害者で、PASを必要とする者の場合、仕事を見つけることも、実際に働くことも困難である。

 ほとんどのPASプログラムと資金供給は、貧困レベル以上の収入がある者には利用できないようになっている。1986年にそのレベルは独身者1年で、5,272ドルであった。米国におけるPASプログラムについて世界障害研究所(World Institute on Disability)が監督して行ったPASプログラムに関する全国調査によると、PASの受給者が働けるように考えられたもの、あるいは労働を目標として強調しているプログラムは、わずか16プログラム(存在する全プログラムの10%にあたる)だけであった。

D.パーソナル・アシスタンス・プログラム

 運営管理と構造
米国におけるパーソナル・アシスタンス・プログラムは、州により大きく異なる。支給されるサービスの範囲は、どの資金が利用されるか、供給主体が民間か公共か、障害者のどの人口グループを対象としているかなどによって決まる。

 1985~86年、WIDによって行われたパーソナル・アシスタンス・プログラムの全国調査が、現在、米国のPASに関する唯一の実態を示す資料である。したがって、PASプログラムの記述はこれに基づいて行う。この調査では、米国内の173のPASプログラムを調査し、そのうち154が調査結果に含まれた。さまざまな理由から、精神障害や知的障害をもつ人たちのみを対象とするプログラムはこの調査から除外された。

1.資金供給源と普及
この調査によると、国内のすべての州が、ある種のPASプログラムを生み出している。平均して州当たりおよそ3プログラムが存在する。プログラムの3分の2以上がメディケイド(メディケイド使途変更を含む)により資金を得ているが、4分の1よりやや少ない資金がSSBGを資金源としている。

 高齢アメリカ人法の第Ⅲ章は、全プログラムの10%に対する唯一の連邦資金供給源であり、リハビリテーション法の第ⅦB章は全プログラムのわずか0.6%に対する資金供給源しか提供していない。他方、全プログラムのうち22%は完全に州または地方の資金で賄われている。わずかに全プログラムの12%のみが連邦資金供給源との組み合わせによって機能しているといわれている。このように、PASプログラムの主たる資金供給源は、メディケイド、SSBGおよび州もしくは地方自治体の資金である。連邦資金はPASに対する全支出の52%を占めている。

2.目標・管理運営・構造
ほとんどのプログラム(45%)は、社会事業、保険、および福祉業務にわたって司法権をもつ州の代行機関により運営管理されている。その他は、「州立老人研究所」(27%)、医療・保健局(17%)により運営管理されており、自立生活センター(メイン、ネバダ、ノース・カロライナ、サウス・ダコタの各州)により直接管理されているものも少しある。

 ほとんどすべてのプログラムが、施設への入所数を抑えようとしている。そして、プログラム72%が稼働年齢の障害をもつ受給者を対象とするが、わずかに10%(16プログラム)が、受給者が働くことを目標として定めているに過ぎない。

 サービスに対する受給資格はプログラムによって異なるが、年齢や収入、障害のタイプ、雇用の状態などによって決まる。ほとんどのプログラム(88%)は、60歳、あるいは65歳以上の高齢者を対象としている。全プログラムの41%が子をもつ、あらゆる年齢層の受給者を対象としており、この受給者グループが最も受給率が低いグループである。全プログラムの半分以上(58%)は、すべての障害タイプを対象にする一方、10%が身体障害だけに限定している。

 一般的なプログラムは、貧困者のみにサービスを提供する。プログラムの50%は貧困レベルを受給資格の基準として採用するか、あるいは権利付与プログラム(収入の有資格限度が貧困レベル付近、またはそれ以下のSSI、あるいはメディケイドなど)と関連させて受給資格を定める。貧困レベルの2倍以上の収入ある受給者を認めるプログラムはわずか23%である。

 また、他の受給資格条件は、施設入所のリスク(57%)、医師の命令(42%)、家族の援助が利用できぬこと(22%)やその他の理由である。

 サービスの内容は、入浴、着付け、衛生や身づくろい、家事サービスとこれに関連するサービスなど、大部分が個人サービスを含んでいる。しかし、調査によると、カテーテル取扱いや注射、投薬などを伴うサービスや、通訳、朗読サービスなどは少ないことが明らかになった。

 プログラムの半分以上が、一時的に受給者の苦痛を和らげる何らかのサービスを行っているが、多くのプログラムは、その規則の中で、サービス提供者が平日午前9時から午後5時までをサービス時間とするホームヘルス代理機関の従業員であると定めている。つまり、プログラムのわずか65%しか24時間サービスを提供していないのである。その他12%のプログラムが午前9時以前、あるいは午後5時以降サービスを提供する。しかし、それも24時間以下である。支給者の多くが民間なので、サービスの供給の仕方は自由市場ルールによって決まる。そのため、競争が少なく、人口が過密でない地域においては、供給者は規則的な作業時間内にサービスをとどめる傾向がある。

 受給者1人に対するサービス時間に上限を定めていないプログラムは、調査したプログラムのわずか28%であった。ほとんどのプログラムが24時間サービスをしていないということである。サービス時間の限度は過当たり3時間から67時間にわたり、平均は29時間である。

 サービス提供方法には3つの型があり、アデンタントはつぎの3つのグループに分けられる。
1)個別供給者(IP型)
2)契約代行機関に雇用される者(契約型)
3)郡または他の地方自治体に雇用される者(郡型)

 最も一般的に、利用されるのは契約型(78%)である。全プログラムの50%がIP型を使用し、28%が郡型を使用する。しかし、プログラムの多くは、1つの以上の供給者型を使用する。受給者の意見を取り入れる度合いや、資金、返済の比率などによって、これらの型は内容が異なる。WIDの調査によれば、IP型は、スケジュール、アシスタントの決め方、どの作業を何時にするかなどについて、受給者の意見を大部分生かしている。しかしこの場合、受給者自身がアデンタントを管理する能力をもっていなければならないだけでなく、IPアデンタントが受け取る賃金が最低、あるいはそれに近いという問題がある。調査時における1時間当たりの平均賃金は3.74ドルであった。

 また、多くのIPアデンタントは、何の給付金も受けていない。それとは対照的に、郡型のアデンタントは平均1時間あたり4.77ドルという最高賃金と給付金を得ている。ただしこの型は、自立生活の概念や受給者の意見を取り入れるという考え方に最も閉鎖的である。受給者が直接アシスタントを訓練することや、雇用、解雇、あるいは支払などを直接行う等を認めたプログラムはほとんどない。

 契約型のアデンタントは、平均1時間あたり4.71ドルの支払を受けるが、政府雇用によるアデンタントと比べるとはるかに少ない給付金しか受け取っていない。そのほとんどは、登録されたホームヘルス機関のホームヘルス補助員か家政婦である一方、IP型アデンタントは免許をもつ看護婦や受給者の親類、あるいは学生などであることが多い。

 政府が雇用するアデンタントは、契約支給者がいない時だけIP支給者として利用される。政府がサービスを民間機関へ移すことを奨励している連邦の現行政策によって、公的アデンタントの数は減少するものとWIDは予測している。

E.米国におけるパーソナル・アシスタンス・サービスの評価
PASに対する連邦資金供給について見てみると、コミュニティ・べースのPASに関する包括的な連邦政策がないことがわかる。さまざまな資金供給源が入り乱れ、そのほとんどが医療面からのアデンタント・サービスを永続させているのである。結果として、メディケイドのような主たる資金供給源は、施設入所によるケアや緊急性の高い者に対するケアを過度に強調することになる。

 現存のPASプログラムは、資金源が連邦政府であるもの、そうでないもの、とさまざまであり、サービスの能力に関しても州によって大きな違いがみられる。いくつかの州は、カリフォルニア州の在宅サポート・サービス・プログラムのように、その州独自の非常に包括的なアデンタント・サービス・プログラムを開発している。しかし他の州は、これを重要な政策課題とはとらえていない。また、プログラムの内容は、アデンタント資格条件によって異なる。WID調査は、プログラムの59%が特定の年齢グループをその対象からはずし、44%が障害の特定タイプを除外していることを明らかにした。また、全プログラムの50%は貧困レベル以上の収入を得る人たちを対象からはずしている。

 もう1つの欠点は、プログラムの多くが、家族を有給アデンタントとして認めないということである。つまり、家族はボランティアとしてのみPASを供給すると想定している。しかし実際には、この種の仕事を負担と感じている家族はますます増えつつある。

 プログラムが、資金供給、運営管理、そして構造という3つの面にはっきり分かれてしまったということが、PASプログラムの多様性を生み出したといえる。まさにこのことが、米国におけるPAS政策の指揮者を特定するのを難しくしている。あるものは、連邦政府が資金供給源であると同時に運営管理も行い、あるものは州が連邦資金と他の資金の組み合わせで州が運営管理にあたり、また、あるものは完全に州や地方政府のプログラム、というような状態である。それぞれの中に民間セクターも参加し、実際に多くのプログラムは複数の資金源によって支えられている。

 供給の方法、サービスの内容、対象となるグループなどは、したがって、資金供給源、運営管理主体、供給代理機関などによって決まる。

 連邦と州、または民間と公共セクター、それぞれの政策のこの相互作用がPASの革新的なモデルを生み出してきた。しかし同時に、それは「国民的問題」としてとらえられるだけの包括的国家政策へと発展することをはばんできたともいえるのである。


主題(副題):国連・障害者の十年最終年記念 北欧福祉セミナー 報告書 (重度な障害をもつ人々の地域生活の実現のために)