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自立生活 国際フォーラム 日本語版

第2分科会資料:当事者提供サ-ビスとコミュニテイケア「専門家と障害当事者」

中西 正司
ヒュ-マンケア協会

 8月に名古屋で厚生省主催で障害者のケアマネジャ-・リ-ダ-養成研修会が開かれ、講師として参加してきた。名古屋のリハビリテ-ションセンタ-が実務を行い、全国都道府県より2名の代表が選ばれ、そのうち1名は県の厚生相談所(リハセンタ-が併設された障害者の判定機関)から、1名は地域で障害者に接する仕事をしている人から都道府県が選んだ。障害者の参加は4名にとどまった。
 研修は5日間行われ、第1、2日目にはケアマネジメントの理念が講義され、自己選択、自己決定、自立、エンパワメント、医療モデルから生活モデルへなどが語られ、自立生活センタ-の活動と理念についても話す機会が与えられた。当初、これらの理念が研修の参加者に理解され、ケアプラン作成という実際の場面で使えるものとなることが目的とされていた。
 ところが、実際のケアプランを作らせる段になると、聞き取り調査シ-トは寡黙な当事者の意見など無視して、たくさんしゃべった家族や配偶者の意見を中心にケアプランを作る人がほとんどとなった。市のケ-スワ-カ-やリハビリテ-ションセンタ-の職員として障害者を対象化してみる目を体の中に機構として組み込んでしまった人に、当事者の意思を最後まで尊重しようとする姿勢を身に付けさせることは至難の業だと思った。
 リハビリテ-ションの専門家であれば自立生活の理念も頭には入っており、理解はしているつもりではあるが、実際の場面で体で理解していないため行動できないというのが現状である。
 例えば、訪問調査で、ある障害者が新聞も読まない、字も書こうとしない、この人は何もやる気のない人だ。デイケアに連れ出さなくては、と考える専門家と、新聞が読めないのは眼鏡の度が合わないのかもしれない。筆圧がなく字が書けないのかもしれない。という当事者への信頼から入るピアカウンセラ-との違いは大きい。
 英国の学者であり運動家でもあるビック・フィンケルステインによると、リハビリテ-ション等の障害に関する専門家が生まれたのは施設の中である。彼らは閉じられた空間の中でベットからの移動、トイレでの機能測定等の業務に携わってきた。従って地域ケアにおいては何のノウハウも持ち合わせていない。その彼らが今、地域ケアの時代を迎え専門家として地域に出てこようとしている。
 施設ができる前には重度障害者も地域に暮らしていた、そこにはそれを支えるコミュニテイがある程度存在していた。ところが今度障害者が施設から出て地域で暮らそうとしている今、コミュニテイは崩壊し、それに変わる支援組織が必要となっている。それが自立生活センタ-である。という説は学ぶべき点が多い。
 2020年には障害者が福祉の前面に立ち、消費者コントロ-ルが世界の福祉のキ-になっていることを願っている。

資料添付
1.ケアサ-ビスの基本原則

(1)地域での独立した生活を保障します。在宅サービスの不足を理由に、施設への入居をすすめるといったことがあってはなりませんし、また親や親戚との同居をすすめたり、家族によるサービスを他の社会サービスに優先させて求めるようなことがあってもなりません。
(2)社会サービスは、当事者の生活のかたちを限定するものではありません。障害のない人と同様に様々な社会活動を行なうことを保障するものでなければなりません。従って、地域でのサービスは狭義の「在宅サービス」に限られるものではなく、「外出介助の保障」を基本とすべきです。
(3)社会サービスの水準は以上を達成できる水準に設定されねばならず、予算の増減に左右されるものであってはなりません。また、個々人のニーズの変化に迅速に対応するものでなくてはなりません。これらが保障されないなら、アセスメントについての疑念を招くことになってしまいます。また、将来のサービスの切り下げに対する懸念を生み出すことにより、余分なサービスの請求を促してしまいます。必要になった時に必要なだけが供給されるという安心感が、サービスの効率的な供給と利用をもたらします。
(4)サービスは利用者によって選択可能なものでなくてはなりません。同じ税金を財源としてサービスが行なわれる場合でも、それを利用した複数の供給主体があることが望ましいです。また例えば、同一の供給主体から介助サービスが供給される場合でも、どこからサービスを得るかの選択権が保障されなければなりません。利用者は複数の中から自分に合ったものを選択し、選択が間違っていたと感じたら、それを変更することができるものとします。そのためには、すべての選択肢がわかりやすく提示されなければならならず、また、決定や決定の変更にあたって必要な場合には、それを支援する人や機関の協力を得ることができます。身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)がその役割を果たします。
専門員は、あくまで当事者の側面から支援することがその責務であり、専門員自身は決定権を持ちません。
(5)サービスシステムや供給量の立案にサービスの利用者が参加するのは当然です。さらに、当事者が参加したかたちでの再評価のシステムを組み入れる必要があります。

2.3つのケアサ-ビスの方法

 (1)身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)方式と他の方式の違い 身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)では、重度障害者は複合的なニードがあるので複数分野の専門家がチームを組んで身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)する必要があるという理由でチーム・アプローチ方式が採られました。チームアプローチ方式では「複合的なニーズ」がある者、すなわち複数分野の援助者が関わる者が利用者となります。この条件に、本人がマネジメントを希望しているという条件が加わります。この方式はリハビリテーションの評価会議でも使われ対象分析には適しているが、障害者本人の自己決定や生活上の主体性につながらず、本人をエンパワーできない欠点を持ちます。
 そのため、身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)と並列されるその他の制度には以下のものがあります。

(2)セルフ身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)

 既に地域で自立生活している障害者は、自分の生活を自己管理し、人生の目標を持ち、主体的に生きている。そして、介助やケアサービスを自ら選択し、決定し、ケア計画を作って生活できています。このような障害者はセルフケアマネジメントを行っており、身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)を必要としません。
 セルフマネジメント方式は、本人自身がケアをマネジメントするものです。介助などのサービスは受けても他人に自分の生活は管理されたくはないことは当然のことであり、このモデルが基本になります。障害当事者自身がケア・ニーズを自己評価し、その結果をもとに自分でマネージします。この場合には、ケアサービスは提供されますが、身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)としての介入はなされません。ケアコンサルタント・システムは、セルフケアマネジメントへの移行期にある人のために用意されるものでもあります。
 他のさまざまなサービスについてと同様、福祉サービスについても、情報が十分に与えられければ、その利用者はその内容をよく把握することはできません。また、施設や親もとで暮らしてきたことによって、他の社会人が当然に得ている生活術や知っている情報を知らないということがあります。これらのことは、彼らにもともと自己管理能力、生活能力がないということではなく、暮らしてきた生活環境によるものです。それが、ケアコンサルタント方式で本来は可能な人が、今すぐにすべてを自己管理できないでいることの要因となっています。
 介助サービスの現場から見ると、利用者のうち7割は自分のケア計画を自分で立て、それを管理できる、セルフケアマネジメントの範疇に入る人たちです。

(3)ケアコンサルタント

 一人暮らしを行っていたり、独立した世帯を作ってはいるが、情報が不足していて、介助、住宅改造、福祉用具、訪問リハビリ、社会参加等について自己選択できないでいる自立生活初期段階の人には、同様な経験をしたことがある障害を持つケアコンサルタントの支援・助言が有効です。
 ケア・コンサルタントは利用者サイドからみた介助者の選定法、地域での人間関係作り、住宅改造のあり方、移動手段、権利擁護等従来の専門家にない知識と経験をもって援助するほか、利用者のために情報を集め、専門職を紹介し、引き合わせ、本人が、選択し、判断する材料を用意するアシスタントです。それゆえ長い自立生活の経験とピアカウンセリングを含む幅広い知識と情報源についての幅広い人脈を持っている必要があります。
 介助サービス利用者のうちの3割に当たる、自分のケア計画を自分で立て、それを管理するのが難しい人たちも、情報を提供したり、相談に乗ってあげることで、その大多数が時間はかかっても自己管理できるようになります。そこでケアコンサルタント方式を設けます。本人の指示に従い、ケアコンサルタントが専門家とコンタクトをとったり必要な情報を集めたりしてその結果を本人に提示し、相談しながら、本人がプランを決めていくものです。
 ケアコンサルタント方式では、複数分野についてのケアの必要があるかどうかを重要な要件とはしません。あくまで当事者が自身の生活、ケアに関わる助言、支援を必要としているかどうかに着目します。個別サービスとしてのケアが必要なことと、それを使って暮らしていくにあたっての支援、助言を必要とすることとは別のことであり、また必要なケアが複数の分野に渡っているかどうも支援を必要とする決定的な理由ではないからです。そもそもここで行なわれる支援は、本人が必要とする範囲に限定されたものです。本人が自己管理する部分についてはコンサルタントは立ち入らず、本人が必要する領域についてだけ支援を行ないます。
 7割の人がセルフケアマネジメントで可能であると述べました。そして自立生活センターからサービスを得ている人たちについては、この割合は現実の割合です。これは、自立生活センターがこれまで当事者に対して情報を提供し、自己管理しやすいかたちでサービスを提供してきたことにもよります。
 他のさまざまなサービスについてと同様、福祉サービスについても、情報が十分に与えられければ、その利用者はその内容をよく把握することはできません。また、施設や親もとで暮らしてきたことによって、他の社会人が当然に得ている生活術や知っている情報を知らないということもあります。これらのことは、彼らにもともと自己管理能力、生活能力がないということではなく、暮らしてきた生活環境によるものです。それが、ケアコンサルタント方式で本来は可能な人が、今すぐにすべてを自己管理できないでいることの要因となっています。
 そして、コンサルタント方式を採用した際には、チーム・アプローチ方式のような形でのケア会議は開催されず、ケア従事者の研修や社会資源の情報交換の場としてケア会議は再構成されます。
 個々人に対する支援とともに、自立生活センターが実施してきた「自立生活プログラム」などによる情報の提供、生活術獲得のための支援、その前提ともなる自身に対する信頼と自信の回復のための援助、また、一人ひとりに対して、その時々に応じて、相談を受け、情報を提供してきたケアコンサルタント方式と同様な活動が有効です。これらと、一人に対して比較的長い時間をかけるコンサルタントの活動を組み合わせることによって、セルフケアマネジメントに位置したいと希望する人たち、あるいはそこまでは必要でないがすぐにはすべてを管理できるには至らない人に援助が可能となります。
 このコンサルタント事業が、自立生活プログラム、ピアカウンセリングを組み入れた国の事業として「市町村障害者生活支援事業」と一体化したかたちで行なわれるべき理由はここにもあります。

(4)セルフケアマネジメントへの移行

 一般的に、希望する人に身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)のプロセスが開始される際、それに先立ってアセスメントが行なわれます。援助者が行なう援助のためのアセスメントではなく、障害当事者が自分自身にかかわるケアをマネジメントする助けとなる情報提供が求められます。それは、障害当事者が自分の状態を知り、自身のニーズを充足するためにはどのようなケアやサービスの選択肢があるか、あるいはどんな生活が可能なのかを知るための情報を提供してくれる人が必要です。いったんサービス情報が開示されれば、2度目からは自己選択が可能となります。すなわち、これがエンパワメントのための身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)です。このことは、ケアコンサルタントの介入によっても、勿論達成できます。
 援助のためのアセスメントならば、利用者の状態を援助者側が把握することで充分でしょう。しかし、利用者は常に援助される立場にとどまってしまい、自立に必要なエンパワメントが起こりません。利用者がエンパワーされるためには、利用者のニーズを把握する方法やサービスを利用するための知識や情報を、専門職をはじめとした援助者から利用者へと移すことが必要です。それには、自分に自信を取り戻すためのサポート、すなわちピアカウンセリングや自立生活プログラムが有効です。
 このようなセルフケアマネジメントを目標としたエンパワメントのための情報提供支援を行なわないと、利用者は無期限に援助の「対象」の地位にとどまって自主性が失われ、援助者からみると援助しなければならない利用者が増えることはあっても減ることがなくなります。しかも援助する期間が長引くばかりとなって、利用者と援助者の双方にとって好ましくない状況に追い込まれてしまいます。
 専門員等、障害者の周囲の者からみてセルフケアマネジメントを行なうには不安を感じる時にでも、当事者自身はマネジメントができると思っている場合も実際にはあります。こうした場合にも、まず本人にマネジメントしてもらい、そのあとでモニタリングをし、うまく行っているかどうかを本人に聞きながらフォローを行います。大事なことは、自己の決定を尊重することです。周囲の者がセルフ身体障害者介護等支援サ-ビス(ケアマネジメント)の経験を最初から奪ってしまうのではなく、一度本人にマネジメントをやってもらうことが必要です。リスクを犯す権利を与えられて、誰もが失敗をしながら成長していくのであり、安全を期して失敗の機会を回避させることは、利用者本人の意欲をなくすことになりかねません。だからといって、全く本人にまかせてしまい取り返しのつかない状況になってしまうことも避けねばならないでしょう。このようなタイプの利用者への対応には困難や問題が伴います。しかしともかく、利用者の意向を第一に尊重し、セルフケアマネジメントを行なうと同時に定期的にフォローアップをする、あるいはなにかの目標を利用者と一緒に設定することによって話し 合いの機会を持つなどといった対応が考えられます。
 当初は自分で管理できず、他人に支援を求める人であっても、その支援を受けながらやがて自分自身で自らの生活、生活に関わるケアを管理できるようになるように、支援することをめざします。
 そのために、ニーズの評価や、ケアプランの全過程に本人が参加できるようにします。単に参加するというだけでなく、コンサルタントの助言や支援をえながらも、障害当事者自身がケア・ニーズを自己評価し、マネジメントすることを基本とします。あくまでも本人を「補う」ためにケアコンサルタントは存在します。 知的障害があったりして、自分の意思の伝達が容易に誰にでもできるわけではない人もいます。こうした場合には、複数の選択肢をわかりやすく示して選択してもらうなどの工夫が必要になります。またあくまで本人の思いを尊重しながら、本人が選んだピアカウンセラー、友人、親など、自分のことを代弁してくれる人や介助者を必要があれば連れてきて相談を受けることも場合によっては必要になります。