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自立生活 国際フォーラム 日本語版

第3分科会資料1:障害者の自立生活を支える法整備

DPI日本会議  三澤 了

 障害者はその障害が重いという理由で、あるいは生活能力が不十分であるということで本当に本人が望む生き方ができないという状態が長く続いていた。重い障害を持つものの生き方は、障害を持つ当事者が自らの主体的な判断や決定によって決められるのではなく、多くの場合、親や家族、そして教師やリハビリテーション関係者によって定められて来たと言える。わが国の一般的な障害者感は、「障害者は弱く劣ったもの」とか「障害者は誰かの保護がなければ危なく生きていけない存在」といった受け止め方が主流を占めている。その結果、障害者に関する法律や制度も「弱く劣った者を保護するとか指導する」といった観点で作られてきた。こうした認識や社会的な位置づけは、障害者自身をも束縛し、生きることに対して当事者の自由な選択や決定を阻害してきたという歴史的な経過がある。
 わが国では障害者の生活支援は基本的には、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神障害者保健・福祉法という障害種別の福祉法によって行われている。しかし、どの福祉法も障害者が各種のサービスを利用する権利について規定しているものではなく、行政等のサービス提供者の義務やサービス内容を示しただけのものにすぎない。さらに各福祉法による生活支援は、基本的に行政主体の恩恵的な性格が抜けきれていない。この状況の中で福祉サービスの利用者は社会の厄介者、おちこぼれという受けとめ方がなされ、正当な権利を持つ市民として位置づけられてこなかった歴史がある。障害者を弱く、劣った者とする、社会的な障害者の位置づけや認識を変えていこうとする動きが1980年代のはじめからわが国でも起こり始めてきた。この動きは、長年にわたって軽んじられ続けてきた障害者の個人としての人権を正当に認知させようとする動きであり、現在の障害者運動の中心的な理念となっている。
 障害者の人権が尊重され、社会的に正当な位置づけのもとで暮らしていくということは、障害者一人一人が他の地域住民と同等な経済的な基盤や労働・教育といった社会参加の機会が完全に保障され、住宅・交通施設が安心して利用でき、更に介助の必要な人には必要な介助が社会的に保障されるという、基礎的な条件整備がなされて始めて可能となるものである。現在の日本社会はこうした生活の基礎的な条件が十分に整備されているとは言い難い。障害を持っていきていく上で、何を権利として保障するかとか、あるいは不当な差別や排除からは法的に護られるとかいった法制度を我々は持ち得ていない。さらに、就労や教育、住宅や所得、まちづくりや交通環境整備、介助や社会参加支援活動等々、多くの課題における問題点はなかなか解決されず、障害者が円滑な生活を営むことを阻んでいる。これらの条件の問題の解決や、新たな整備に関してまず中心的な役割を果たして行くべき者は、行政担当者でも学者・研究者でもなく、あくまでも障害当事者でなければならない。私たちはこれらの社会的な条件の確立に向けて、さらにより豊かな社会とするために、当事者の立場から積極的な提起を続けて いかなければならないと考えている。
(検討すべき課題)
1.基本的な法整備と社会福祉基礎構造改革

  • 権利を明確にした法の制定
  • 個別の福祉法から総合福祉法へ
  • 社会サービスのあり方の明確化
  • 独立した個人としての位置づけの保障
  • 行政が主体となるサービスから利用者のニーズが主体となるものへ
  • 真に利用者の選択権、決定権が保障されるものへ

2.生活条件整備に関する基本的な課題

(1) 経済的な基盤の確立(所得保障と就労保障)

  • 年金を核とした所得保障制度の将来展望は
  • 無年金者の解消をはじめとする障害基礎年金の問題点の解決
  • 措置制度の縮小、応益負担の導入と新たな所得保障システムの必要性
  • 介助・住宅・移動等、障害故に必要な経費の手当化
  • 重い障害を持つ人の就労保障、
  • 効果的な就労支援システムの構築
  • 介助付き就労の制度化

(2) 介助・介護体制の整備

  • 総合的な障害者介助保障システムの確立の必要性
  • 新たな介助保障システムと介護保険制度の関係の整理
  • 自己選択、自己決定を保障する仕組みづくり
  • わが国に於けるダイレクト・ペイメント方式の現実性は
  • 介助力の供給体制の整備 ── 自薦登録方式の制度化等
  • 生活モデルを柱とした客観的な判定基準の構築

(3) 住宅・交通・まちづくりの推進

  • 自由に住まい、自由に動き、自由に活動するという基本的理念
  • ハートビル法の見直しから、住宅・交通施設を包含したまちづくり基本法へ
  • 住宅におけるユニバーサル・デザインの設定
  • 公営住宅に於ける欠格条項の撤廃
  • 基本的な理念に沿った総合的な交通体系の整備に向けて
  • 交通環境整備に関する義務づけを含む促進法の制定

(4) 権利擁護・相談・支援体制の整備

  • 権利擁護システムの構築と制度化
  • 当事者主体の支援・相談体制の確立と制度的裏付け
  • 自立生活センターの機能の充実と運営の安定化
  • 介護保険の実施と社会福祉事業法の改正を踏まえた当事者組織の役割の拡大