音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

国境を越えた歌声-たんぽぽの会

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年1月号掲載

第26回わたぼうし音楽祭開催される

第26回わたぼうし音楽祭が2001年8月5日、たんぽぽの会主催により奈良県文化会館国際ホールで開催された。
障害をもつ人たちも、地域のなかで人間らしくいきいきと生きられる社会をつくろう。そんな願いをこめて、障害を持つ子供たちの母親が中心になり、「奈良たんぽぽの会」は誕生した。1976年、障害をもつ人たちの自立援助サービスセンターをつくるために「財団法人たんぽぽの家」が設立され、施設運営と並行して健常者と障害者が共に生きる社会づくりをすすめてきた。
誰もが夢をもって生きたいと考えている。しかし、現実には、身体的な障害により社会のあちらこちらに大きな壁がある。これらの壁を少しでもなくしていきたいと願い、「たんぽぽの家」は自立を支援するワークセンターとして機能し、また芸術文化活動を支援する事業や、芸術文化を通じてアジアの障害をもつ人たちと交流する事業などを行っている。
そのひとつに、1976年から毎年夏、奈良市で開いている「わたぼうし音楽祭」がある。障害をもつ人たちが日々の感じたことや思いを綴った“詩”に、ボランティアがメロディーをつけ、歌うコンサートは2001年で26回めとなった。今年は全国から635点の障害者による詩の応募があり、2日間におよぶ選考会を経て、選ばれた10曲が8月5日、奈良県文化会館国際ホールで演奏された。ロックや演歌調、バラード、弾き語りなど様々にアレンジで作曲者が歌ったり、“作詩”した障害者も舞台でいっしょに楽しみ、約1000人の観客が聞き入っていた。聴覚障害者の中山和也さんは、世界中が“I・Love・You”になってほしい、正直な気持ちを持とうよ、と言いたくて、詩を作った。

I・Love・You
 世界中にも伝えられるよ
 たとえちがう国でも
 たとえちがう肌の色でも
 同じ人間だから
 正直に想いを伝えたい
 そうこの手で・・・
 I・Love・You

約100人ものボランティアに支えられ、今年のコンサートも、出演者と観客の垣根を超え心をひとつにした歌声につつまれた。オープニングでは子供から年配の40人のボランティアで結成された合唱団が「Dream in two thousand」というメッセージソングを大合唱した。大阪府の中学校教諭は生徒13人と参加。この中学校は数年前から文化際でわたぼうし音楽祭の入選作を歌い、障害者理解を深めてきた。生徒の一人は「歌ってのれる楽しさがあります。」と笑顔がこぼれる。普段ホームヘルパーとして働いている女性は、「これまでも漠然と音楽祭にかかわれたらと思っていた。歌にはこみあげてくるものがある。」と語る。
このわたぼうし音楽祭で生まれた歌は「わたぼうしコンサート」として、毎年50ヵ所を超える日本の各地で開催している。
1991年からは2年に1度、アジア各地で「アジアわたぼうし音楽祭」が開催されるようになり、2001年はさらに地域を広げ、台湾の高尾市で「アジア・太平洋わたぼうし音楽祭2001」が開催された。2003年はオーストラリア、ブリスベーンで行われる。(↓台湾でのコンサートの様子)

画像は台湾でのコンサートの画像

可能性の芸術―ABLE ART MOVEMENT

財団法人たんぽぽの家は、音楽以外でも創作活動を通して障害者の自己表現、社会的自立を目指している。「わたぼうし語り部コンクール」は障害のある人たちが身体や言語などの障害を個性として生かした語り芸を競い合う芸術コンクールで、誕生から10年たち、障害のある人たちの新しい表現のあり方を探しつづけている。(↓語り部コンクールの様子)

語り部コンクールの画像

また、1995年から障害のある人たちの生み出すアートを新しい視点でとらえなおす「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を展開している。障害のある人たちの芸術はエネルギーにあふれ、人々の心に衝撃を与え、人間的な共感を呼び起こす。しかし、このような障害のある人たちの精神的な活動に対する評価は低く、社会的役割を果たすことができないでいた。そこで、たんぽぽの家ではこのような芸術をきちんと評価し、その活動に価値を与える活動をはじめた。この芸術運動のキーコンセプトは「自己表現・交流・癒し」で現代に生きる私たちが失ってしまった何か、忘れてしまった何かを感じて欲しいと考えている。「ジャパン2001」を記念して、2001年7月から2002年2月にかけてイギリスの3都市を巡回して「エイブル・アート英国展」が開かれ、日本の障害者の芸術の多様さ、輝きと美しさを日本のみならず、英国でも紹介することができた。(↓ロンドンでのアート英国展の様子)

ロンドンのアート英国展の画像

あらゆる芸術の分野で障害のある人が自分を表現していくことによって、芸術そのものにも新しい息吹が吹き込まれ、また共に生きる社会の実現により近づくことができ、新しい社会、新しい文化を作り出すきっかけとなるのではないだろうか。