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小泉総理とマスコミと国民の皆さんにお伝えしたい事

広田和子
精神医療サバイバー)

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年3月号掲載

精神医療により辛い体験をし、だれもが安心して利用できる精神医療にするために活動している

 私は1988年4月21日から5月19日まで、鍵と鉄格子に象徴される閉ざされた自由のない精神科病院に入院した。入院の原因は病気ではなくて、医療ミスにより打たれた注射の副作用によるものだった。その副作用で、よだれを流し、幻覚を体験し、視力も落ち、1日に22時間も歩きつづけなければならないアカシジア(着座不能)で家庭生活不能となってしまった。
 退院後に主治医は「あの時の広田さんは自殺のおそれがあったので入院を勧めた。」と語った。地獄の苦しみの中で私は“死にたい”と思ったが、死ぬ力もないほどの副作用だった。注射を打たれた時の私の状態は精神科に通院して5年後の事で、前年の出社拒否からぬけでてアルバイトを始めた時だった。
 私の代わりに母に通院してもらったところ、本人を通院させるように言われて母は帰ってきた。翌週私は、会社を休んで通院したところ、薬を飲み忘れるという理由で、いきなり注射を打とうとしたので、「私はアレルギー体質だから困ります。」と言っているのに、何のインフォームドコンセントもなく注射を打たれてしまった。
 その結果、私は冒頭に書いたように辛い体験をして廃人のような姿で緊急入院した。8時間横になれるようになって退院したが、その注射を打たれて以後、薬を飲まなければ眠れない身体になってしまった。又、薬を飲んでも音が少しでもすれば目がさめてしまう生活のしづらさを抱えていて、疲れやすく1日12時間ぐらい横になっている生活である。
 退院後、一年間、作業所へ通所して、企業でパート勤めのかたわら患者会に入り、93年の交通事故を機に復職せず、相談や講演等の活動を本格的に開始した。収入は生活保護である。
 91年10月にはアメリカのセントルイスで開催された、日米障害者協議会へ参加する機会に恵まれた。そこで24時間システムで稼動しているインディペンデンスセンターを訪問できた事は私にとって幸運だった。
 私が感じていた日本の精神医療や保健福祉の現場ではコンシューマーがとても受け身で、コンシューマーの自主性が発揮できないと思っていた。そこでその様な発言をしていたが、そうした視点はスタッフにとっては好ましいものではないと気づかされた。
 ところがインディペンデンスセンターのコンシューマーは、とても主体的な人が多いことに感動し、私自身の視点は残念ながら日本では受け入れられないが、アメリカでは当然のことなんだとわかった事が私にとり幸運だった。
 私は昨年12月14日付けで日本の歴史上初めて、精神医療サバイバーとして厚生労働省社会保障審議会障害者部会臨時委員を担った。その事を朝日、産経、東京、中日、読売、毎日という日本を代表する全国紙(合計約2700万部発行)と地元の神奈川新聞が写真付きの大きな人物紹介記事にした。又、初めての委員会の夜と翌朝には公共放送のNHKテレビがトップニュースとして放映した。この様な形で日本のマスコミがひとりの精神医療の被害者を大きく扱ったのも、又、日本の歴史上初めての事である。
 その後、約1ヶ月に新聞の読者等から自宅に350本以上の電話が殺到した。話の内容は大多数の相談、委員になった激励、そして私が新聞紙上で「国はこれまでの精神障害者の施策を謝罪し、抜本的改革を…」等とコメントした事に対して共感したものだった。
  謝罪は隔離収容施策に対するものである。日本の隔離収容施策を加速させたのは1964年3月25日に、当時の駐日米国ライシャワー大使が精神障害を持つ青年に刺された事による。その時点ですでに精神科病床は増え始めていて、病床確保のため精神科病床は他科より医師も看護士も少なくてよいという差別的な法律が1958年にできていた。
 そこに当時、日本にとって超大国であった米国大使が刺された事でマスコミが“精神障害者を野放しにするな”と世論に火を付けた。そしてその世論がおちついても国は低金利で病院建設資金を貸し付け民間病院のベッド数は増え続けた。
 その結果、病床があるから患者が必要になってしまい、現在も33万人以上の入院患者が居て世界一の入院率である。厚生労働省自身が入院治療が必要ないのに退院先がない、社会的入院者が大勢居る事を認めている。
 しかし、退院施策は中々進まない。国及び地方自治体のマンパワーや予算が少ないためである。日本中ほとんどの地方自治体に24時間精神科救急医療もなければ、24時間システムの福祉サービスもない。私はこの国の精神障害者が地域で安心して暮らす事ができるためには国が隔離収容施策を謝罪して抜本的改革が必要だと考えている。同時にライシャワー事件の時、世論に火を付けたマスコミにも自覚を持って欲しい。そして精神障害者の現状をぜひ小泉内閣総理大臣とマスコミと全ての国民の皆さんにお伝えしたいと切望している。