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地域で自分らしく暮らすために-知的障害者のためのグループホームの実践

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年7月号掲載

グループホームの写真

最近日本でも画一的な入所施設で暮らすより、当事者が自分らしいライフスタイルを楽しめる「グループホーム」が注目され始めている。

しかし、日本では全国でグループホームのある自治体はわずか15%にとどまっているのが現状だ(2002年の調査より)。知的障害者が自分たちのペースで生活できるグループホームが本当に可能なのか、家族でさえも懐疑的という側面もある。今回は、足利市でグループホームを実践し、自然な形で地域に受け入れられている「足利むつみ会」の試みを紹介したい。

ドナルド・デイジー

グループホームの台所の写真

足利むつみ会の施設長、阿由葉(あゆは)寛(ひろし)氏は地域の中で知的障害者が障害を持たない人と同じように自分の生き方を選択して生活できる場所を提供したいとC考えていた。阿由葉氏はダウン症の兄を持ち、兄が充実して過ごせる場所を家族で模索してきたという背景がある。そして、1990年、知的障害者のためのグループホーム、「あゆみの家」を開設した。1995年、スウェーデン、オランダのグループホームを視察し驚いた。そこではコミュニケーションが難しいと思われる知的障害を持った人たちが、グループホームでそれぞれのライフスタイルを保ちながら地域の中で自然に生活を営んでいた。阿由葉氏は自らの考え方が間違っていないことを確信した。当初様々な問題がでてくるのではないかと危惧されていたグループホームだったが、「あゆみの家」の成功を受けてより個人の生活に視点をおいた第2のグループホーム、「デイジー」と「ドナルド」を立ち上げた。それぞれ男性4名、女性4名が生活する。男性の中にはA-1という最重度の知的障害者も含まれている。ここでは、より快適に暮らせるように様々な工夫が施されている。個室であるのは言うまでもないが、各部屋は個人の好みを取り入れた個性のあるレイアウトになっている。好みの家具に、好みのインテリア。足の悪いメンバーのためには風呂とトイレは別々にして広く使えるようにしている。空調設備は完備され、共有のキッチン以外にも各部屋にミニキッチン、冷蔵庫がある。電磁調理器を使用しているため火事の心配がない。また、家族が泊まりにきても十分なスペースがある。スタッフは住み込みで必要な見守りを行なうが、必要以上の干渉はせず、夕食のあとの自由時間や就寝時刻も本人に任せている。食事のメニューなども話し合って決め、時にはメンバーができることを引き受ける。ここに住むメンバーは「好きなことができるので生活が楽しい」と話す。

メンバーの力を信じて

ダイニングのテーブルに座るメンバーの写真

知的に障害のある人の生活の質を高めるとはどういうことだろう。私たちは大人になるにつれ、社会のしくみをだんだんと身につけていく。自分にあった仕事をみつけ、働き、自立していく。また、高齢になるとリタイアしてゆったりと過ごす。このような自然な人生のサイクルを障害のある人もない人も送れるのが理想の社会ではないだろうか。グループホームで暮らすメンバーは日中作業所へ出かけ、自分にあった仕事をする。足利むつみ会では、イラストをふんだんに使ったわかりやすいパンフレットを用意し、本人と家族にセンターのサービスを丁寧に紹介する。家族の要望、将来の希望を聞き、その人にあったプランを作る。様々な仕事の中からやってみたい仕事を選択してもらう。また、給与を貰うとスタッフと共に銀行で口座を作り、収入の中から毎月決まった額を貯金する。こうして貯めたお金で年に2回、買い物にでかける。何を買うかはメンバーの自由。スタッフも助言しない。こうして金銭的な感覚を少しずつ身につけていく。支援は行なうがメンバーの力を信じ、その人の価値観や生き方を尊重する。メンバーの親は、グループホームで子供が生活することに始めは不安を感じるが、生活してみるとあまりに問題がないことに逆に驚く。阿由葉氏は、病気のため入院が必要な場合は別として、何歳になっても生活の質を保ちながら生活していける場所がこのグループホームだという。

完全なノーマライゼーションに向けて

とは言っても、地域に溶け込み生活していくためには乗り越えなくてはならない課題がある。1つは、知的障害者がはたしてグループホームでやっていけるのか懸念する親も含めた地域の固定観念を取り除くこと。そのためには、このようなグループホームの成功を広く社会に知ってもらうことが必要だ。2つめは、行政面での整備。当事者がより豊かで自分らしい生活を送るためには、スタッフの支援は不可欠だ。そのような人的資源の必要性を行政側が認識し、きめ細やかなサービスを提供できるシステムの確立を急ぐ必要がある。将来的には日本でもすべての入所施設はグループホーム型に移行し、知的障害があっても地域の一員として自分らしく豊かに暮らせるような社会を実現させることが完全なノーマライゼーションのためには大変重要である。