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日本発、ジョブコーチ事情

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年7月号掲載

動き出したジョブコーチ制度

 2002年5月、厚生労働省は知的障害者や精神障害者の雇用支援事業としてジョブコーチ制度をスタートさせた。障害者が職場に適応できるよう、ジョブコーチが職場に直接出向いて支援を行なうと同時に、事業主や従業員に対しては、障害者の職場適応に必要な助言を与える。日本では、アメリカで1986年に制度化された援助付き雇用をモデルに、雇用前の職場実習において生活支援パートナーが支援し、障害者雇用に成果をあげてきた。しかしながら、雇用後に不適応になり離職してしまう障害者が少なくなかった。こうした状況を改善するために、2000年度と2001年度、ジョブコーチによる雇用後の支援を試行的に行なうとともに、学識経験者からなる検討委員会においてジョブコーチ養成、および支援のあり方について検討してきた。2年間の施行では、支援を受けた事業主のほぼ全員が支援について肯定的に評価しており、ジョブコーチによる支援が効果的であることが確認された。2002年度、政府はこの制度に18億円の予算をあて、700人のジョブコーチを養成し、2000人の重度障害者を支援する。ジョブコーチは養成研修を経て、障害者を職場で2~4ヶ月支援し、その後は必要なフォローアップを行なう。

 日本では、米国からヒントを得て民間福祉施設などが草の根的にジョブコーチの実践を展開してきた。横浜市で自閉症の就労支援に取り組んできた社会福祉法人横浜やまびこの里の小川浩次長は、1992年に渡米し、米国の援助付き雇用の理念、またジョブコーチ制度の方法論を学んだ。重度障害者の親の会と当事者団体から、実際に職場で働く際に、スムーズに適応していけるよう援助者を派遣してほしいという要望の高まりがあった時期である。帰国後、法のもとに整備されたアメリカの援助付き雇用とは違う形で、地域に根づいた重度障害者支援をジョブコーチを派遣し、独自に行なってきた。小川さんらの法人組織やNPOは、今まで予算の中の一部を、ジョブコーチを派遣するために割り当てていたが、今回制度化されることにより、ジョブコーチ雇用に公的な資金が使えるようになったことが大きなメリットだ。それと同時に、地域にある授産施設、作業所が直接ジョブコーチを配置することができ、地域の障害者が就労につきやすくなった。また、日本では、企業が障害者の雇用率1.8%を達成しなければ罰則を受けることになっており、障害者を雇用する事業側にとっても、障害者を雇用する場合にどのように対応していけばよいのか、ジョブコーチから専門的な支援を得ることができるようになるので、知的、および精神障害者を雇用しやすくなる。

ジョブコーチの仕事は職場開拓から始まる。やまびこの里の場合、生協や大学など、主に利益追求型ではない事業所や、職業安定所の紹介や、時にはとびこみで中小企業を訪問し、開拓してきた。日本では、長引く不況の影響で、部品などの製造分野が東南アジアに移ってきており、製造業での障害者の雇用が難しくなってきている。そこで、流通、サービス業方面で新たな雇用を開拓していく必要が生じている。

今後の課題

 ジョブコーチに従事している人は、やまびこの里の場合は今のところ、心理・福祉・教育学を大学で専攻した福祉に興味のある人がほとんどである。しかし、障害を持った人の特性を理解できることに加え、企業側の事情にも通じたビジネスセンスを持つ人材の育成が、今後のジョブコーチ制度発展の鍵となる。そのためには、研修の質と内容を高め、実践的なノウハウの蓄積をしていくことが非常に重要である。それと同時に、公的予算規模をさらに拡大し、ジョブコーチにとって賃金面でも魅力ある仕事にし、ひとつの職業として確立することは、優秀なジョブコーチ確保には欠かせない。
また、ジョブコーチ事業では、障害のある人が企業に定着するために定期的に企業と密に連絡をとることは非常に重要であり、フォローアップ重視をジョブコーチ制度に明確に盛り込むこと、そしてそのための財源確保も必要である。
 そして、なんと言っても、ジョブコーチという言葉が単にブームで終わることのないよう、10数年に渡り、現場で実際に知的・精神障害者の雇用に携ってきた社会福祉法人・NPOの努力に行政が下支えをしていき、地域と連携し、大きな潜在力を持つ知的・精神障害者が企業にとっての戦力となるよう育成していくためのたゆまぬ努力が必要である。