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国連障害者権利条約―日本政府とNGOの取組み

金政玉(きむ・じょんおく)
DPI(障害者インターナショナル)日本会議  事務局長

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2004年12月号掲載

8月23日より9月3日にかけて、NY国連本部において障害者権利条約に関する第4回特別委員会が開催された。日本からは、角外務省国際社会協力部参事官を団長に内閣府、法務省、外務省、文科省より出席があり、NGO(日本障害フォーラム[JDF]準備会)からも通訳者を含めて延べ25人が参加した。また、今回初めて国会議員5名(八代英太議員、原口一博議員、石毛えい子議員、今野東議員、岡崎トミ子議員)の参加があり、前・後半に1回ずつ多くの参加者を集めて日本政府の国連代表部とNGO共催によるサイドセミナー(テーマは、前半が「合理的配慮と労働・教育」、後半が「条約が各国制度に及ぼすインパクト」)を行う等、精力的な取り組みが各国の参加者からの注目と高い評価を集めた。

1.第4回特別委員会での意見交換

日本政府代表団では、第2回特別委員会(2003年6月)の開催前から政府とNGO(JDF準備会)との協議が継続的に行われ、同代表団にNGOの推薦によって東(DPI日本会議常任委員、弁護士)、オブザーバーとして金(DPI日本会議事務局次長)が参加し一定の意見交換を行いながら特別委員会の議論に参画している。ここでは作業部会草案の中の限られた内容であるが、政府代表団に対してNGOからアプローチした主な意見交換の内容を可能な範囲で報告することにしたい。

(1)障害者と家族との関係(前文関連)

インド提案の「家族が障害者の意思形成過程に参画する」(前文関連)については、現実の障害者と家族との具体的な関係において、利害関係者である家族の側にパターナリズムが根強くあるため本人の自己決定を抑圧する場合が少なくないことから、NGOとしては反対であることを述べる。

(2)手話と言語の関係(第3条「定義」関連)

*草案原文:「言語」は、口及び耳による言語並びに手話を含む。

<政府側の意見>

  • 手話の言語性に関する法的取り扱いとして、まず、「言語」に位置づける場合、並びに、その上で「公用語」に位置づける場合と2つの取り扱いがある。少数民族の言語使用権のように、言語として認める場合は、その使用を妨害されないという自由権的な権利としての位置づけになるであろうが、日本の場合、アイヌの言葉はどうなるのかなどの問題も出てくるであろう。
  • 公用語としての位置づけをした場合、国内施策としてどういうことが義務づけられるのかが問題になる。例えばテレビの政見放送ですべてに手話通訳をつけることは、現状では予算上困難を伴うし、教育、雇用、映画館等のあらゆる場面で手話通訳をつけるのは無理がある。他国の立法例を見ても、すべての場面で、第1言語との同等の扱いを求めるものではないようである。現状においてどの程度の範囲で何が義務づけられるのか、特にアクセシビリティなどに関する点字等との関係も含めて具体的に議論することが必要なのではないかという意見が伝えられた。

(3)司法手続におけるアクセスの保障(第9条「法の前における人としての平等」関連)

*本会議での発言(角団長)

日本の(前回の)提案は、政府とNGOの支持を受けている。若干の修正提案をしたい。日本提案は新しい権利を生むのではない。日本提案をより明確にするため、自由権規約に定められた司法手続、という文言を、自由権規約14条に規定された権利に置き換えたい。

【前回(第3回特別委員会)の発言】

―部分的に(※NGOからの下記案文)を修正して発言を行う。

  • 司法手続におけるB規約(自由権規約)第14条〔公正な裁判を受ける権利〕の趣旨を踏まえて、手続上における適切な理解に対する困難をカバーするために、新しいパラグラフ(※下記案文)を追加する。
  • (追加理由)知的障害者が現場において何が起きたかわからない、または視覚・聴覚の障害者も同じような状況に置かれている場合には、司法の公正な手続を確保することが必要である。

(※NGOからの下記案文)

「(g)障害のある人が、自由権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)において確保されているすべての司法手続上の裁判を受ける権利を、他の者と平等な立場で享有し、行使することを保障するために、物理的またはコミュニケーション上の障壁を除去し、理解の困難さを軽減する適切で効果的な措置をとる。」

2.今回の評価と課題に関する意見交換

第4回特別委員会の最終日に、角団長とNGO関係者との間で総括的な懇談会を行った。本報告の結びに、お互いの共通の感想や意見の要約を紹介しておきたい。

  • 論点としては、どこまでが政治的・市民的権利(自由権)なのか、どこまでが社会権なのか。ある程度整理をしなければならないように思う。今までの概念から言うと、自由権は即時的に実行しなければならない。情報アクセスに関しては、選挙の時に政治集会を開く場合、手話や点字の準備をしなければならなくなるが、今の段階ですぐには無理。また、合理的配慮を含む積極的措置の問題や、家族と障害者本人の関係に関する議論などが課題
  • サイドイベント(セミナー)については、2回ほど行い、日本政府が条約に非常に積極的であるという姿勢をアピールできたのではないか。また、内容も面白かった。
  • 今回は前半・後半と国会議員の方が参加された。これは、国内における条約推進の動き対して非常に有益なことである。
  • NGOと一緒に勉強会を開くことがいいのではないか。それも外務省だけというよりは関係各省庁と行うのがいいと思う。合理的配慮については政府内で勉強会をしたことがある。来年の特別委員会までに1回か2回、機会を作ってみてはどうか。
  • 文部科学省と話をすると、統合教育は実態上かなり進んでいるという。親が望めばかなり普通学校に行っているのが実態。そういったことも含め、意見交換してみてはどうか。
  • 条約が(障害者問題の解決の)さまざまなきっかけを作っていると思う。
  • 帰国してまた意見交換をしたい。

以上