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障害者と携帯電話

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年10月号掲載

 現在、日本国内の携帯電話の加入者数は、7000万以上にのぼっている。電話以外にも、メールやどこにいてもインターネットの情報にアクセスできるサービスにより、携帯電話は若者の必需品になった。このように若い人の間で急速に広まった携帯電話は、今や高齢者や障害者の生活にも大きな変革をもたらし始めた。

新しいコミュニケーションの手段として

携帯電話メールの機能は聴覚障害者のコミュニケーション手段を大きく広げた。「気軽にリアルタイムでメールのやりとりができるのが良いと思う。何かあったときに、すぐに連絡ができるので本当に助かっている」とある聴覚障害者は語る。携帯電話によるEメールを初めて開始した携帯電話事業者大手のJ-フォンは2001年11月、聴覚障害者だけを対象に、携帯電話の販売や相談にのる「J-フォンハンズサインセンター」を代理店に委託し東京・渋谷に開設した。事業者による障害者向けのこうした試みは国内初である。ここでは、手話のできる7人のスタッフのうち3人のスタッフが常駐して、新規購入や機種変更、アフターサービスや機種別の利用方法を手話や筆談で丁寧に行っており、聴覚障害者に喜ばれている。多きときは1日40人くらいの来客数がある。また要請があれば、聴覚障害者関連団体や学校などを訪れて手話による携帯電話の出張説明会を開く。また、FAXやEメールによるアフターサービスも行っている。携帯電話を持つことにより、コミュニケーションの手段が増え、聴覚障害者の世界は確実に広がった。

“目”としての携帯電話

また、視覚障害をもったユーザーの場合、受信メールを読み上げる携帯電話やテレビ電話の出現はモバイル生活に大いに影響を与えそうだ。テレサポートNET代表の長谷川貞夫さんは、業界最大手のNTTドコモが2001年10月に発売した3Gテレビ携帯電話「FOMA」を利用して、新しいサポートシステムを立ち上げた。離れた場所にいる視覚障害者とサポーター両方がテレビ携帯電話を持つ。視覚障害者が歩行中、あるいは在宅で説明して欲しい物にカメラを向け、サポーターに画像を送る。サポーターは彼らの目になり、受信した画像を詳しく説明し、利用者は携帯電話に接続したイヤオンから説明を聞く。歩行中であれば、障害物を説明してもらえるので、安心して歩くことができる。さらに、2002年7月、NTTドコモは「FOMA」に比べて、価格、通信費とも安いPHSビジュアルホン「LookwalkP751v」を発売した。これを使って実験をしたある利用者は、レストランで紅茶を飲み、テレサポーターにナビゲートをしてもらい、テーブルや椅子にぶつからずにレジに行って支払いを済ませることができた。この間、約4分で、40円だった。「目が見える人には何でもないことかも知れませんが、全盲の視覚障害者が、レストランなどの狭い通路で、人や物に全く触れずに歩くことは困難なことです。それが、テレサポートによって可能になった」と驚く。また、新聞やTVなどにカメラを向けて、それらを読んでもらうこともできる。ボランンティアのサポーターと、サービスを受ける視覚障害者は登録制。「テレサポート」は日本から世界に発信できる画期的な視覚障害者技術といえる。

テレサポートを利用しガイドを受けるユーザー

しかしながら、もともと、このテレビ電話は視覚障害者用に開発されたサービスではないので、このシステムが視覚障害者に十分浸透するには超えるべき壁がありそうだ。まず、価格の問題。携帯電話や通信費は、全て利用者負担であるため、経済的負担をどうするかという点。技術的な問題としては、画像は立体感、距離感がつかみにくく、暗い場所では識別しにくいという点がある。さらに、ユーザーに危険な状況が発生しても、サポーター自身は離れた場所にいるので即座に手を差し伸べることはできない。また、十分なサポーターの確保も必要になってくる。視覚障害者の鈴木淳也さんは、「ボランティアに依存するサービスは長続きしない。行政がしっかりと障害者に対するサービスを確立し、サポーターが職業として活躍することが大事」と語る。

さらなる可能性

 重度身体障害者で事業を営む林美恵子さんは、携帯電話の出現について、「通常の公衆電話は高さや位置の関係で全く使えないことが多いので、携帯電話は絶対に手放せないツール」だと語る。林さんは手が不自由なので、フリーハンド用機器やイヤホンマイクをつけて使用している。
高齢者、障害者の生活情報の提供を行っている林さんは、さらなる携帯電話の可能性に期待を寄せる。「高齢者の徘徊を含む位置特定サービスなどは、そのまま、視覚障害者の現在地案内に発展できるし、コンパクトで持ち運びしやすい上、体に密着させやすいことから、心拍数や血圧などの医療データ送信にも活用できるので、ぜひ、今後の発展を期待したい。」と語る。

 企業側にとっても、だれにでも使いやすい製品を開発することにより新たな顧客を獲得することができ、市場開拓につながるはずだ。産声を上げて以来、大きく成長してきた携帯電話市場もユニーバーサルデザインの波を受けて、新たな局面を迎えそうだ。それと同時に、通信分野の障害者・高齢者に対する公的サービスのあり方を、企業、当事者、支援団体を含めて話し合うことが重要である。