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脆弱な地域生活支える制度基盤

藤井克徳
きょうされん 常務理事

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年5月号掲載

日本における奇妙な事象

工業力や科学技術力では先進国と肩を並べて久しい日本国であるが、障害分野となるとその水準は極端なまでに低下してしまう。このことを端的に表す主要な事象として、次の諸点があげられよう。まず第一は、おびただしい数のまま固定化しつつある精神病院における社会的入院(医療上の理由ではない入院形態)問題である。最新の厚生労働省の発表によると、精神科入院患者33万人のうち72,000人が社会的入院状態にあるという。なお関係学会等の調査で、10万人以上という見解も示されている。第二は、現在に至ってなお増加傾向にある知的障害者に対する入所施設偏重政策についてである。成人期にある知的障害者のうち、収容型の入所施設利用者数は13万人にのぼるが、この数は同知的障害者の40%強にあたる。第三は、法律に基づかないいわゆる無認可の小規模作業所が6000ヵ所に及んでいることである。過去20年間にわたって、一年間平均200ヵ所以上の伸びが続いている。第四は、法で定められている民間企業での障害者雇用率が、法施行後の25年間一度も守られていないことである。ちなみに2002年度の実雇用率は、1.8%の法定雇用率に対して、1.47%であった。

こうした問題事象にあって、これらに共通するのは成人期障害者に対する地域生活支援策が本格的に講じられていないということである。具体的には、社会福祉分野や職業リハビリテーション分野を中心とする地域型の社会資源が圧倒的に不足していることである。精神病院からの退院が遅々として進まないのも、知的障害者が収容形施設から地域に戻れないのも、このような地域型社会資源の量的な貧寒ぶりが大きく影響しているといえよう。無認可の小規模作業所が長期にわたって増勢傾向を続けているのも、その主因が制度化された地域型社会資源の不足にあることは、政府を含めた関係者の一致した見方となっている。加えて、障害者雇用促進法に基づく実雇用率の低迷は、地域で生きる条件をより狭いものにしているのである。

民間の手で市区町村対象に悉皆調査

ところで、このように量的な側面を中心に問題があるとされている地域型の社会資源についてであるが、その正確な実態となると必ずしもはっきりしていない。全体状況についての国の調査は実施されたことがなく、民間団体にあっても断片的なものでしかなかった。今般きょうされんが行った、「障害者のための社会資源の設置状況等についての調査」と銘打っての実態調査は、本格的にこの問題に分け入るものであった。なおきょうされんは、作業所や授産施設、地域生活支援事業を主領域とするもので、「成人期障害者対象の地域型社会資源」は中心的なテーマの一つなのである。

調査は、すべての市区町村を対象としたもので、その結果もまた膨大なものである。ここでは紙幅の都合もあり、特徴点のみの紹介に留めたい。

1)調査の条件

調査の対象は3246のすべての市区町村とし、調査基準日は2002年3月末日とした。調査期間は、同年4月26日から9月30日までとし、送付は郵便にて、回収は郵便またはFAXにて行った。なお返答がなかった200余の市区町村に対しては、直接担当者に電話をいれ、聞き取ったデータを調査票に記入した。これらを含めると、回収率は100%となった。

2)調査結果の概要

a,地域生活を支える通所型施設・事業所のゼロ市区町村14.5%

日本における成人期障害者を対象とした法定の社会福祉施設制度・事業は、40種類以上に及ぶ。これらのうち地域生活を支える基幹となる社会資源は、10種類の通所型施設(9種類までが授産施設であり、障害種類と程度によって細分化されている)と8種類の居宅生活支援事業(グループホーム・ホームヘルプ・デイサービス・ショートステイの各事業で、これらも障害種類別に分かれている)である。これら18種類の施設・事業をすべて備えている市区町村は31市(1.0%)、逆に469市町村(14.5%)がゼロの状態であった。

(グラフ1)地域を支える通所型施設・事業所の有無

(グラフ1)地域を支える通所型施設・事業所の有無

b,グループホームのゼロ市区町村73%

日本では、ここ10数年グループホームの急増はめざましいものがある。政策上も、民間においても、地域生活支援策の切り札のように言われてきた。グループホーム事業は、知的障害者対象と精神障害者対象との2タイプに分かれている(身体障害者を対象としたものはない)。これら2タイプのうち、1ヵ所でも設置されているところは869市区町村(26.9%)に留まっている。約4分の3の市区町村で空白地帯にある。

(グラフ2)グループホームの有無

(グラフ2)グループホームの有無

c,精神障害者対象の社会福祉施設が一つもない市区町村89% 

身体障害者や知的障害者と比べて大きな遅れをとった精神障害者のための社会福祉施設制度は、1988年度に制度化が図られたばかりである。その制度は、8種類(働く場や生活訓練など、機能別に分化)から成っている。これらが1ヵ所でも設置されているところは367市区町村(11.3%)で、大半の自治体で設置が図られていないのである。

(グラフ3)精神障害者社会復帰施設設置の有無

(グラフ3)精神障害者社会復帰施設設置の有無

d,社会資源の設置率、都市部で優位 

予想できたことではあるが、障害関連の社会資源の設置率は都市部で圧倒的に優位となっている。例えば通所型施設(10種類)で見ていくと、これが1ヵ所でも設置されている市区町村は、人口10万人以上(234)で221(94.4%)で、5万人以上10万人未満(227)の152(67.0%)を大きく上回っている。これが5万人未満(2,773)となると、499(18.0%)と、一挙に急落してしまう。グループホームの設置率についてもほぼ同様の傾向にある。

(グラフ4)人口規模にみる通所型施設の有無

(グラフ4)人口規模にみる通所型施設の有無

新障害者プランによる好転は期待薄 

以上、障害がある人々のための社会資源の実態についてその特徴点を概観してきたが、改めて深刻な状況が浮き彫りとなった。

一方、政府は昨年末、2003年度~2007年度までの行政計画としての新障害者プランを発表した。当事者・関係者の注目を集めた新プランではあったが、ここに示された5年間の数値目標は、余りに期待を裏切るものであった。すなわち、先に掲げた日本における立ち遅れた事象を好転させていくには、おおよそかけ離れている目標値なのである。当面は、民間団体の連携によって独自のカウンタープランを策定し、これを元に政府に対して数値目標の上方修正を求めていきたい。中長期的には、量的な問題のみならず質的にも多くの改善が必要とされている現行の社会資源関連制度であり、官民上げての大改革作業ということになろう。

※「きょうされん」についての紹介

結成は1977年。無認可の小規模作業所や授産施設によって構成され、現在の加盟数は1500ヵ所。本部は東京都中野区にあり、スタッフ数は15人(2003年4月1日現在)

上記の調査結果は、「きょうされん」のホームページに掲載されています。(http://www.kyosaren.or.jp/research.html)