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障害学生支援の取り組み

殿岡翼(とのおかつばさ)
全国障害学生支援センター代表

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年12月号掲載
月刊誌「ノーマライゼーション」2002年11月号より転載

 みなさん想像してみてください。入学試験を点字で受けたり、講義を手話通訳を使って受けたりする学生がいます。電動車いす使用の医師も誕生しています。
日本では毎年三〇〇〇人もの障害をもつ学生が大学を受験して、そのうち五〇〇人が入学しています。わたしたちは、彼ら彼女たちを障害学生と呼んでいます。
しかし残念なことに、国内のすべての大学が、障害学生に門戸を開いているわけではありません。障害ゆえに受験を拒否するケースが、いまだに残っています。
そこで大学に対して調査を実施して、受験可否をはじめとするさまざまな情報を提供することで、障害学生の抱えているニーズに応えたいという思いから、全国障害学生支援センターは一九九九年に設立し、活動しています。

日本の大学における障害学生の現状

 ところでそもそもこのような活動をはじめるきっかけは、ある座談会からでした。
視覚・聴覚・全身性肢体という異なる障害をもつ大学生が集まってその体験を語り合ったのです。そこで障害の違いを超えて共通する数々の問題が見えてきました。この座談会が終わるころには出席者の誰もが、障害学生に対する適切な情報提供と具体的なサポートが急務であり、それは同じような体験をしてきた当事者が中心となって行われる必要があることを痛切に感じていました。この座談会でのメンバーの思いが現在の支援センターの立ち上げへとつながったのです。

受験・授業での問題

 第一点目は、受験・授業での問題です。
 当センターに寄せられている相談事例からは次のようなことが上げられます。そもそも入学試験で、点字での受験がどこの大学でも認められているわけではありません。また点字が読めない学生(全盲・強度弱視)への対応として、パソコンによる受験の可能性も指摘しておかなければなりません。さらに、肢体障害の学生からは、「代筆などの配慮については、事例がないことを理由に受験できない」といったことも報告されています。聴覚障害学生からは、講義保障をどう実現させていくか。入学前の、入学後のサポートについての不安や入学後、講義保障がないため内容が分からず、講義についていけない、などが報告されています。このことについてはすばやい対応が求められるのですが、実際には、人材募集・養成の面で時間がかかるので、それまでの仮対応をどうするかなどが課題です。

学生生活での問題

 二つ目は通学や下宿など学校外での生活に関わる問題です。
 当センターにも、生活に関する実に多様な相談が寄せられています。
 ここで皆さんにぜひ知っていただきたいのは、ほとんどすべての障害学生が大学に進もうと希望したときに、自分の志望動機や学びたい分野に優先して「入学後の通学・下宿場所・日常生活上のサポートの可能性を考慮したうえで志望校を選ばなくてはいけない」という現実があることです。この現実こそ、障害学生がもっとも苦しむ大きな壁なのです。

アイデンティティーの問題

 三つ目は障害のある人々が、他の人々、とくに障害のない人々との友達関係や、自己のアイデンティティーの確立に関わる問題です。障害のある人が障害のない人の中で対等に生きていくことが可能になるためにはどのような環境整備が必要なのか、これは非常に重要な課題です。
 障害学生が自分自身のアイデンティティーに力強さを持って発言することができるよう支援することが大切です。社会の中でマイノリティーとしていやおうなく自己と向き合わなければならなくなる障害学生は、自分自身の本当の気持ちをさらけ出すことに、とてもおっくうになりがちです。それを補うために、障害学生に「ものをいえる場所」を実際に作ることが必要でしょう。

 こうした学生のさまざまなニーズに最大限応えられるよう、当センターでは障害当事者のスタッフにより、次のような業務を実施しています。

  1. 大学を受験する際の相談とサポート
  2. 入学後の学内生活に関する相談とサポート
  3. 全国すべての大学に対して独自の調査を行い、その内容を『大学案内障害者版』として出版
  4. 機関誌『情報誌・障害をもつ人々の現在』発行
  5. 毎年夏に「障害をもつ学生交流会」を開催

DPI世界会議に参加して

 去る七月に当センターは、「第六回DPI世界会議プレ大会 障害をもつ学生交流会二〇〇二」および「日韓障害学生交流プロジェクト」を開催しました。障碍人便宜施設促進連帶の、ペ・ユンホ氏を含む韓国の障害学生ら一六人が参加して、日韓の障害学生当事者の交流が実現しました。これに引き続いて去る九月には日本から二人の障害学生が韓国を訪問し、さらに交流を深めました。障害学生支援は、国境を越えた共通の課題となりつつあります。
 また本年十月十五日~十八日に行われた第六回DPI(障害者インターナショナル)世界会議札幌大会に障害学生四人を含む計十一人で参加し、十六日の「小グループによる自由討議」の一つを「障害学生と高等教育~当事者活動に求められるもの~」をテーマに企画・進行をしました。前述した韓国への学生の訪問報告や当センターでの活動を詳しく発表し、外国からの参加者を含めた多くの方に障害学生の高等教育の分野に関心を持ってもらうのに非常に大きなきっかけとなりました。
 この世界会議への参加を機に私たちは、次のような思いを新たにしました。障害をもつ学生の高等教育を受ける権利が、障害者権利条約や差別禁止法に位置づけられる必要があります。そして障害学生に対する、大学による入学試験の出願拒否、受験拒否、入学拒否をはじめとする差別の禁止が明記されることを望んでいます。この実現こそが、すべての障害当事者の教育権の拡充につながるものです。

  • 第6回DPI世界会議の会場にて(筆者)
  • 第6回DPI世界会議で「障害学生と高等教育」を企画・進行した
  • 第6回DPI世界会議プレ大会 障害をもつ学生交流会2002