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図書館は障害者に何ができるか?
-IFLA(国際図書館連盟)年次大会(2006)に参加して-

有田由子
(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター

IFLA大会が開催されたCOEXコンベンションセンター

IFLAは1927年、国際的な非政府組織として結成された。その目的は図書館の活動と情報科学のあらゆる領域において国際的理解、協力、意見交換、研究・開発を推進することである。現在は150カ国1700団体の会員で構成されている。 IFLAは毎年大会(World Library and Information Congress)を開催しており、72回目にあたる今年は8月20日から24日、韓国のソウルで開催された。

今年のテーマは"Libraries: Dynamic Engines for the Knowledge and Information Society"(知識と情報社会のダイナミックなエンジンとしての図書館)で、21世紀のデジタル時代に情報センターとしての役割と機能を果たすために世界の図書館の連携の必要性を強く打ち出した。

IFLAは8つの部門に分かれており、さらにその中にいくつかのセクションがある。障害者に直接関係のあるセクションとしては「一般市民への図書館サービス」部門の「図書館利用に障害のある人々へのサービス」セクションと「盲人図書館」セクションがある。しかし今年は、この2つのセクションだけではなく、「特別な図書館」部門の「科学技術」セクションも障害のある人の利益に関連した話題を提供しており、今後ますます情報技術が障害者の知識の共有に貢献していく可能性が見えてきた。

この大会に参加し、障害児・者にとって図書館が果たす役割は非常に大きいと感じた。 図書館は動かない建物で利用者が訪れるのを待つという構図から、図書館側が出て行って利用者に積極的に働きかけるという流れに動きつつあるからである。そこには、情報技術の進化の影響もあるが、「図書館」という概念を図書館側が変えようとする力の存在があった。今年の会議やポスターセッションから特にこのような動きが感じられたプレゼンテーションを紹介する。

「図書館利用に障害のある人々へのサービス:LSDP(Libraries Serving Disadvantaged Persons)」セクションは今年、ディスレクシアへの図書館サービスに焦点をあて、韓国、デンマーク、日本から発表を行った。ディスレクシアの人たちは知的な発達に遅れはないが、読むことと書くこと両方に困難をかかえている。日本での発症率は低いと言われ、ディスレクシアという言葉になじみのない人も多いが、日本でもディスレクシアの方々を支援する団体は存在している。「図書館利用に障害のある人々へのサービス」セクションは2001年、「ディスレクシアのための図書館サービスのガイドライン」 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/easy/gl.htmを発行し、ディスレクシアの方々が図書館を訪れやすくするよう様々な工夫を提言している。ディスレクシアの人が図書館を訪れても、図書館員の理解がなければ自分に合う本を探すことができず、2度と図書館に訪れようとは思わないだろう。しかし、読むことが困難な方々に図書館側が働きかけをして、等しく情報を提供しようと努力すれば必ず利用者は自分にふさわしい本とめぐり合うことができる。そのことをプレゼンテーションでは強調していた。

韓国の国立図書館はアジアとオセアニアにおける図書館のディスレクシアへのサービスに関する調査を行った。20カ国の団体にアンケートを送ったが、わずか8ヶ所からしか回答がなく、そのうち実際にディスレクシアへの支援を行っているのはわずか4ヶ所だった。この結果を受け、図書館員は目に見えない障害を持った人を受け入れる義務があるという立場に立ち、ディスレクシアに関する基礎的な知識を持ち、録音図書、読みやすい図書、コンピュータープログラムなどにより、文化、文学、情報に等しくアクセスできる機会を提供する必要性を訴えた。 (財)日本障害者リハビリテーション協会は、マルチメディアDAISYを活用したディスレクシアの方々を含む読みに障害のある方々への支援の啓発・普及活動により図書館員を含む多くの人々が支援の重要性を認識しはじめているとの報告を行った。

「盲人図書館」セクションは、「ウェブサイトをアクセシブルにするためには-経験と課題-」というテーマのもと、フィンランド、日本、韓国、イギリス、スウェーデンから発表を行った。もはやどの図書館もウェブサイトを運営する時代となっているが、本当に視覚障害やその他の障害者の方々が訪れやすく、情報が得やすいウェブサイトを提供しているだろうか。利用者がどのような環境でもウェブサイトにアクセスしやすくすることが図書館を利用してもらえる第一歩である。情報通信社会に入り、インターネットを活用したサービスを行うことで、「動かない建物」から今までは想像できなかったようなサービスが提供できる可能性が見えてきた。スウェーデン国立録音点字図書館は視覚障害児を対象に、本の検索システムや音声ベースのゲームをウェブサイト上で提供している。また、文献についての質問や要望を送ることもでき、双方向のコミュニケーションを行うことができる。このような取り組みが、日本でも始められることを期待したい。

ポスターセッションでは、菊池佑氏が日本の患者図書館について発表を行った。患者が自分の病気を知る権利を尊重し、図書館を病院の中に設置することで情報を得やすくし、また専門性の高い情報の提供を行っている。単に病院の中に図書室があるのではなく、患者やその家族に合うサービスを行っているのが特徴で、菊池氏は欧米の患者図書館を視察し30年間の調査・研究の末、2002年にはじめて県立静岡がんセンター内に患者図書館を開設した。現在は東京女子医科大学、島根大学と続いている。「図書館利用に障害のある人々へのサービス」セクションは、1931年、患者図書館のサブセクションとしてできたが、現在は図書館を訪れることが困難な「特別な支援を必要とする人たち」に焦点をあてた活動をしている。その活動は病院内の図書館にとどまることなく、刑務所にいる人、施設にいる高齢者、在宅を余儀なくされている人、聴覚障害者、身体障害者、発達障害者への支援を行っている。現在までに発行したガイドラインは、「矯正施設被拘禁者に対する図書館サービスのガイドライン」「ディスレクシアのためのガイドライン」 「聴覚障害者のためのガイドライン」「患者図書館及び施設内の高齢者・障害者のためのガイドライン」「読みやすい図書のためのガイドライン」など多数あり、数ヶ国語に翻訳されている。

患者図書館についてのポスター発表を行った菊池佑氏

このように、図書館が出て行って障害者のための様々な取り組みを行っているが、国によっては従来のサービスから一歩進んだこのような支援まで手を付けられていないところもある。「図書館は国の文化を示すバロメーター」とはよく言われることだが、様々な角度から図書館サービスの充実を図る中で、図書館とは縁が薄いと考えられている人々に対して何ができるかを真剣に考え、それを実行することが一国の文化的質の高さの指標となるのではないか。そのことをこの大会に参加して強く感じた。