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シンガポール バリアフリーな街づくりへの課題

APDF(アジア太平洋障害フォーラム)シンガポール会議ワークショップセッションAより

飯田紀子
(財)日本障害者リハビリテーション協会 情報センター

項目 内容
発表年月 2003年12月

急速な経済発展を遂げたシンガポール

シンガポールは1965年にマレーシアから独立して以来、長期的プランに基づいた総合的な都市計画を含め、政府の計画的かつ大胆な政策のもと急速な経済発展を成し遂げ、現在、アジアでは日本に次ぐ近代国家となっている。

近代化と共に政府は、障害を持った人々の生活を向上させ支援を行ってきた。

しかし、高齢化やノーマライゼーションの考え方などの考え方をふまえた誰もが利用しやすい”バリアフリーな街づくり”という観点においては、まだまだ検討課題が多い。シンガポール国立大学にて建築に関し教鞭を取り、建築家・アクセスコンサルタントとしても活動を行っているDr.ジェームス・D・ハリソン氏は、シンガポールの街についてこう語る。

「バリアフリーという視点で交通機関を見ると、電車はMRTシステム(正式名称:Mass Rapid Transit。都心部では地下鉄になり郊外は地上走行となるシンガポール島全体を網羅する電車。2005年までに完全バリアフリー化予定。)でバリアフリー化も進んでおり、障害者や高齢者の方も不自由なく利用出来るようになってきたが、その一方、バスはアクセシブルでなくまだまだ利用しにくい。アクセシブルに対する交通機関のレベルがバラバラで統一性が無い為、電車は利用出来るが、バスは乗れないという人々も少なくない。 建造物に関しても、新しく作られるビルや建物はバリアフリーで無いものは多い。ビジュアル面ばかりを優先し、使う人の配慮に欠けた物も多い。

又、道路も、車椅子の人が利用しにくい幅の狭かったり、段差があるものも少なくない。バリアフリーとは、人々が日常生活で利用している装置や器具(車椅子やベビーカーなどに代表される。)のニーズもふまえ、設計されなければならないが考慮されていない面が非常に多いのが現在のシンガポールの街なみである。」

バリアフリーな”街づくり”にとって大切なこと

ではバリアフリーを考慮した”街づくり”の為に、どのようなことが大切なのだろうか?

「現在の街の状況は、建築物を設計する建築家及び利用者が全ての人に取って利用しやすいというその概念の重要性を感じていないことに起因していると考えられる。

障害を持つ人や高齢者も健常者と同じように建造物や交通機関等、町のあらゆるものを利用することが出来るようにするということは人が生まれながらに持っている権利であることを人々に認識させることが大切である。シンガポールでは、その認識が低い。

人間は様々なニーズをもっており、ある人は他の人に比べてより複雑なニーズを持っている場合もある。そのこと(私達に多種多様なニーズがあるということ)は私達の人生において、質や広がりを変化させることを理解しなければならない、そして、理解した上で、それぞれの立場(設計に関わる建築家であったり、利用する障害者・高齢者・健常者等)に応じて意見を言い、”街づくり”に反映させなければならない。多くの人々の声を反映させたバリアフリーな建造物や交通機関は、多くの利用者に利用されることになりその結果、コストの低減にもつながり全ての人の利益になりうる。」

そして彼は一つの問題点を挙げる。人々のバリアフリーに対する誤った認識である。

「多くの人々は、バリアフリーであり良いデザインは、とても複雑であり、又、値段がかり実現させることが難しいと思っている。しかし、これは間違った認識である。私達が住む建造物や設計の基本的部分がバリアフリーであるならば、支援技術はとてもシンプルなものになり、複雑であったり値段がかかるということも無い。利用者のニーズやバリアフリーデザインや多くの建造物や街路や輸送機関の(デザインの)基本をよりよく理解することは、人口の多くが利用可能な”街づくり”への近道である。」

最後に彼は理想の”街”に関してこのような言葉で締めくくった。

「中国には”いい靴というのは靴を履いている感覚が無い”という諺がある。これを私は街に置き換えて、”誰もが利用しやすいのが当たり前で、バリアフリーという概念を感じない街”を理想としたい。」