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アジア太平洋障害者の10年の評価<完全参加と平等<へのNGOの展望

タイ
RNNカントリーレポート:行動課題の実施

障害の統計

これまで障害者に関する統計的研究及び調査はなされているが、これらの研究において採用されている障害の定義が限定的で、かつ医学的視点のものなので、集められたサンプルがタイの障害者の全体像を示しているかどうかは疑わしい面がある。

1991年、保健省とともに、国立統計局は国内で障害者に関する調査を行った。この調査では、障害に対する二つの定義がなされた。一つは、医学的状況によるものであり、もう一つは社会的状況によるものである。

最初の定義は、障害を治療とリハビリテーションの目的によって分類しているが、もう一つの定義では、障害を、恐らく社会にとって負担または問題となる、身体的または精神的な異常と理解した。

調査の結果、約110万人の障害者がタイにおり、5700万人の全人口の1.8%を占めていることが明らかとなった。このうち、1.1%が男性で0.7%が女性であった。

分布としては、障害者の大多数の38.6%は北東に居住しており、次に北部に23.5%居住していることが明らかとなった。これらの地域はタイの二大貧困地域とされており、貧困と障害に何らかの関係があるということが推測される。

加えて、市街地や都市部のほうが、地方や農村地帯よりも障害者が少ないことが示された。市街地では障害者が1.2%であるのに対して、農村地帯では2%であった。

障害の種類について、調査では一般的な定義で以下のように位置付けている。

  1. 移動障害 19.6%
  2. 聴覚障害 13.2%
  3. 知的障害 10%
  4. 言語障害 5.4%
  5. 視覚障害 1.9%

年齢別には、障害者人口が最も多いのは60歳以上で、続いて10代及び思春期の年齢層が多い。彼等の障害理由の多くは交通事故の結果によるものと思われる。加えて、64.9%または71万3000人の障害者が稼動年齢層である。

国内調整

1991年障害者リハビリテーション法によって、タイは厚生労働省による障害者のリハビリテーションに関する国立委員会の設置が義務付けられた。

障害者のリハビリテーションに関する国立委員会は、政策策定段階で関係省庁、NGO及び障害当事者をメンバーとして設立された。

障害者のリハビリテーションに関する県委員会は、1999年にすべての県(地方自治体)で設立された。県委員会は4人の障害者を委員とすることが要求されており、彼等は、それぞれの県における障害問題を国内的、地域的そして国際的レベルの目標を達成するように促進する役目を担っている。

第8国内経済及び社会発展計画(1997‐2001)は、障害者問題の発展に関する特別な戦略を具体化した、最初の国家的な開発計画である。加えて、このプランのもと、プライベートセクターが障害者のための職業的リハビリテーションを提供することが奨励されている。

立法

タイにおいて最初に障害者に特化した法律として制定されたのは、1991年の障害者リハビリテーション法である。この画期的な法は、政府、プライベートセクター、学識者及び障害者団体が協調して努力を行った結果としてできあがったものであり、障害者のさらなる参加と平等を求める際の始点として役立っている。

法のもとで、障害者は以下のようなサービスを受ける権利がある。医学療、教育、及び職業の各リハビリテーション、職業斡旋及び地域支援などである。しかし、そのようなサービスを受けたい障害者は、登録しなくてはならない。

労働者補償法は1994年に施行された。この法律は労働災害によって障害者となった被雇用者を保護し、医療費、補助具及び身体的・精神的リハビリテーションの補償を行うものである。加えて、この法律のもと、Pathum Thani県Bangpoonにある産業リハビリテーションセンターにおいて特別な職業リハビリテーションも提供されている。法はまた職場におけるさらなる安全と健康の促進も行っている。

タイ障害者の権利宣言は、タイの前首相によって1998年12月3日、50回目の人権宣言の時、承認され、署名された。この宣言は障害者のためにタイの人々によって行われた誓約であり、今日では障害者のサービスの実施における根拠として使われている。

1997年のタイの新しい憲法は、“国家は障害者のためのアクセス及びその他の福祉を準備しなければならない”と明確に規定している。また、人種、宗教、ジェンダー及び身体的状況による差別を禁止している。

1999年に改正された教育法は、“国家は12年の義務教育を提供し、教育手段、教育サービス、アクセスその他の障害学生の便宜のためのの特別な支出を提供すること”を規定している。これは2002年に省令として発布された。

国民の啓発

障害者のリハビリテーション委員会は、親と家族の教育プログラムをアレンジすることに関して、障害者のNGOとセルフヘルプ組織を支援している。このプログラムは、障害をもつ家族員のニード、彼等の完全で意味のある人生に対する権利、そして平等に主流の社会的プログラムに参画していく彼等の権利に対して、親と他の家族員を啓発することを目的としている。

多くの政府・非政府組織が障害者の権利を認識し、受け入れを開始している。公民公認委員会は障害者に対して、彼等が海外で勉強できるように、奨学金を支給しており、また、タイ国際航空は、障害者に対する国内線の料金を50%割引している。タイスポーツ協会は、ただちに健常者の国内スポーツ競技会の後に、障害者スポーツ大会を組織する予定である等。

アクセシビリティー

タイ政府は、障害者が学校、職場または社会活動に参加する際に直面する困難に対して十分に認知している。

1999年12月3日、障害者のアクセシビリティーに関する政府方針が告示された。この日は国際障害者の日である。この方針は、建物、移動手段、その他のサービスを含むすべての公的機関は障害者がアクセスできるようにしなければならないことを規定している。

加えて、障害者のリハビリテーション委員会と障害者のセルフヘルプ組織はともに、タイ国内における公的移動システムにおいて、障害者のアクセスを保障することを主張している。

その他の建物建築の管理法に関する政府方針は、障害者のアクセシビリティーをその過程に含んでいる。

バンコク当局は、新しい公園を含む多くの道や歩道をアクセシブルにするように修繕を開始している。 JICA 、 ESCAP 、 FAO の事務所は、障害者がアクセスできるように建物を建て直している。いくつかのテレビプログラムが、スクリーンのコーナーに手話通訳を映し、聴覚障害者のニュースへのアクセスを保障している。

教育

法によると、障害者は就学前教育から大学教育までの教育を受ける権利を有している。

タイでは、障害児の学校システムは、以下のように分類される。すなわち、障害児のための特殊学校(多くは全寮制)でカリキュラムは一般的な普通学校と似ているもの、障害児が第3レベルまですべてのレベルに参加することができる普通学校、そして、参加者には年齢制限がなく、ボランティアによって指導されている無認可教育システムである。

さらに、病院の中には、慢性的疾患を持つ子どものクラスがある。タイは以下のような特殊教育学校を用意している。

  1. 聴覚障害児のための学校 13校
  2. 視覚障害児のための学校 8校
  3. 知的障害児のための学校 8校
  4. 身体障害児のための学校 2校
  5. 聴覚障害児と知的障害児のための学校(クラスは分かれている) 6校
  6. 視覚障害児、聴覚障害児及び知的障害児のための学校(クラスは分かれている) 5校
  7. 病院及び施設内学校 10校

1999年、政府は“障害者教育年”と宣言した。国の国内政策の一部として、“学校にいきたいと望むすべての障害者が学校に行くことができる”という看板表示がすべての学校の前に掲げられた。

訓練と雇用

障害者の雇用をより勧めるために、特別な職業訓練が提供されている。障害者に対する最初の職業リハビリテーションセンターは、1968年に設立され、現在は8つのセンターが事業を展開している。厚生労働省の公的福祉部によって運営されているこれらのセンターは、毎年800人の障害者にサービスを提供している。各センターは様々な職業、セルフマネジメント及びソーシャルスキルに関する訓練を提供している。以前に就学経験のない障害者には、その地区の民間の教育センターからの派遣教師によって一般的な教育も提供されている。

障害者は、差別なく仕事に応募する権利がある。この政策は、閣議によって承認されたものの一つであり、閣議は全ての政府機関および企業に障害者を平等に労働させることを保障するように要求している。

1994年、厚生労働省も、障害者のリハビリテーション法(1991年)に従って障害者の雇用に関する省令を発した。この省令は、200名以上の被雇用者を雇用している企業は、被雇用者200名ごとに一名の労働可能な障害者の雇用を要求している。

もしそうしない場合には、年ごとに納付金を障害者リハビリテーション基金に支払わなくてはならない。その一方で、障害者を雇用した雇用主は、雇用にかかる実費の2倍が課税対象から控除される。この事業において、これまで国内で5,968人の障害者が雇用されている。

現在では雇用主自身が、障害者に支援を提供することに対して理解を示し、その準備を行っている。そのような事業をより促進するために、国際障害者の日である毎年12月3日、障害者を雇っている企業には、彼等の貢献を承認するという意味で、首相より額が送られる。この事業は1997年より行われている。

障害者が企業や政府機関で働きたくないという場合には、障害者リハビリテーション基金の、無利子の長期貸付に申し込むことができる。これによって、彼等は自分で企業を起こすことができる。この基金は障害者リハビリテーション法(1991年)に従って設立されたものであり、障害者に貸付を提供し、様々な関係機関を支援することを目的としている。政府は1993年には2,500万バーツの予算を配分し、それ以来、毎年2,000~3,000万バーツの予算を配分している。これまで、基金は16,137の貸付で総額 313,000,000 バーツを障害者の事業開始に提供している。

政府は2002年を“障害者職業促進の年”と宣言した。障害者は現在、以前よりも高い生活水準を楽しんでおり、医療、リハビリテーションサービス、公的機関及び教育へのアクセスを増加させているので、かつてよりもより働きやすくなっている。

障害原因の予防とリハビリテーションサービス

保健省は、13種類におよぶ障害者のための医療リハビリテーションサービスを立ち上げた。これらのサービスは、診断に関する臨床検査と他の種類の特別な検査、カウンセリング、薬、手術、医療リハビリテーションと看護ケア、理学療法、作業療法、行動療法、サイコセラピー、社会サービスとセラピー、聴覚言語療法、用具の利用または機器の支援を含んでいる。

政府の政策と計画も障害の予防に焦点を当てている。その予防プログラムは、セルフケアに関する結婚したカップルへの家族指導、障害を引き起こす病気の情報提供及び乳児のワクチン接種を含んでいる。

また、車内でのシートベルトの着用及びバイク使用時のヘルメット着用を促進するキャンペーンを行ったり、殺虫剤のような有毒科学物質の安全利用を提案したり、騒音遮断装置や光防御マスクの利用など安全な作業を勧めたりしている。

セルフヘルプ組織

代弁機能を行ったり、人権に関わるセルフヘルプ組織は国際障害者年の次の年に生まれた。それ以前にいくつかの組織はあったが、全国的なレベルではなく、その機能は社会的な機能または福祉的な機能と見られていた。つまり、伝統的な組織と同じものとしてみられていたのである。セルフヘルプ組織、または「障害者の」セルフヘルプ組織の新しい概念は、人権にあり、それまでの福祉に関心がある「障害者のための」組織と比較することができる。この組織は1983年にそれぞれの障害者が種別を乗り越えて手を携えて障害者協議会またはタイ DPI を設立したことによって始まった。これは国連障害者の10年の終了から2年後に起こった。卓越した業績は、政府組織とともに障害者のリハビリテーション法の議会通過のために働いたことである。この法律は、アジア太平洋の障害者の10年で実施された。アジア太平洋の10年において、障害者の組織の強化が障害者自身及び政府の支援によって促進された。公的福祉局はリハビリテーション基金にリーダーシップトレーニングセミナーの支援を要請した。このセミナーは、県のセルフヘルプ組織を強化するものである。ほぼすべての県が障害者のセルフヘルプ組織を持っている。

地域協力

国際的なレベルにおける将来的な努力について考慮すると、タイもまた近隣諸国同様にこの分野での密接な協調関係を広げていく計画をしている。この協調関係は、最近のESCAPの大メコン副地域開発協力(2000‐2009年)の10年の宣言に従っている。

タイ政府及び日本政府は、タイ国内に「障害に関するアジア太平洋開発センター」を建設することでも共同している。このセンターは、障害者のための情報センターとして、またアジア太平洋地域の地域協力センターとして稼動するであろう。障害者のための地域の訓練プログラム、セミナー、そして会議を支えることに加えて、センターは、アジア太平洋地域の障害者のライフスタイルをより快適なものにするための技術の開発を支援するであろう。

Narong Patibatsarakich

訳:日本女子大学大学院 田中恵美子