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ビギナーズガイド:
生活機能,障害,健康に関する共通言語にむけて:
ICF 国際生活機能分類

WHO: Towards a common language for functioning, disability and health. Geneva, 2002.
(http://www.who.int/classifications/icf/site/beginners/bg.pdf)

監訳:佐藤久夫(日本社会事業大学)
翻訳:三田岳彦・三上史哲・樫部公一(川崎医療福祉大学)

  1. 序論
  2. ICFとWHO国際分類ファミリー
  3. ICFに対するニード
  4. WHOはICFをどのように使うか
  5. ICFはどのように利用できるか
  6. ICFのモデル
  7. ICFの領域
  8. 結論
  9. 世界的なICFネットワーク

1.序論

国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health)は,ICFとしてより一般に知られ,健康状況(health states)と健康関連状況(health-related states)を記述するための標準的な言語と枠組みを提供している。ICFは,1980年,世界保健機関(WHO)が試案として発行した初版と同様に,さまざまな領域での広範囲な利用を目指し,多くの目的に用いられる分類である。それは健康領域(health domains)と健康関連領域を分類するものである。これらの領域は,心身機能や身体構造,ある健康状態にある人が標準的な環境において遂行できること(能力(capacity)レベル),また,彼らが現在の環境で実際に行っていること(実行状況(performance)レベル)などの変化を記述するための助けとなる。これらの領域は,身体,個人,社会という3つの視点にたって,2つのリストによって分類される:心身機能と身体構造のリストと,活動と参加の領域のリストである。ICFにおいて,生活機能(functioning)は心身機能,活動,参加の全てを表す用語である。一方,障害(disability)は機能障害,活動制限,参加制約の全てを含む包括的な用語である。 ICFはさらに環境因子のリストを含んでおり,これらすべての構成要素(components)と相互作用するものである。

ICF 表紙

ICFはWHOの健康と障害に関する枠組みである。それは健康と障害に関する定義,測定,政策立案のための概念的基盤である。それは健康領域および健康関連領域で利用するための障害と健康に関する普遍的な分類である。従って,ICFはシンプルな健康の分類のようにみえるが,多くの目的に利用することができる。その最も重要なものは,意思決定者の計画と政策のツール(手段)である。

ICFは,障害というよりむしろ,健康と生活機能を強調するがゆえに,そのように命名された。従来,障害とは健康が終わったところで始まり,一旦,そのひとが障害をもつと,そのひとは別のカテゴリーに入るという考え方であった。我々はこの種の考え方から離れたい。我々は,どんな理由で機能障害が生じたかにかかわらず,ICFを社会における生活機能を測定するツールにしたい。そこで,それは,健康と障害に関する従来の分類よりも,さらに広い領域で極めて多くの目的に使われるツールとなる。

これは根本的なシフトである。我々は今,人々の障害を強調することから,健康のレベルに焦点を当てる。

ICFは,「健康」と「障害」の考え方に新しい光を当てる。全ての人間が健康の衰退を経験し,何らかの障害を経験することは良く知られている。これは少数の人にのみ起きていることではない。従って,ICFは,障害の経験を本流化し,それを全ての人に共通な経験として認識する。原因から影響へ焦点をシフトすることによって,それは,全ての健康状態を同じ立場におく;その立場は健康状態を共通の尺度(健康と障害の物差し)で比較することを可能とする。

2.WHO国際分類ファミリー

ICFはWHO国際分類ファミリー(WHO family of international classifications)に属する。その最も知られたメンバーはICD-10 (the International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)(国際疾病分類 第10版)である。ICD-10は,診断によって,疾病や変調および他の健康状態の分類に関する病因論的な枠組みを提供する。一方,ICFは,健康状態と関連した生活機能と障害を分類する。従って,ICD-10とICFは互いに補い合う。人々や集団の健康に関するより広範囲かつ有意義な像をつくりだすために,利用者がそれらを一緒に使うことを推奨したい。死亡率に関する情報(ICD-10による)と,健康や健康に関連した帰結に関する情報(ICFによる)とを統合することによって,集団の健康に関する総括的な指標をつくることができる。

要するに,ICD-10は主として死亡原因を分類するために使われ,ICFは健康を分類する。

WHO国際分類ファミリー図

(邦訳は,http://plaza.umin.ac.jp/~haruna/icf/icf_icd.htmlより引用,改変)

3.ICFに対するニード

診断のみでは,サービスの必要性,入院期間,介護のレベル,機能面の結果を予測できないことが,これまでの研究によって示されている。疾患や変調のいずれの存在も,障害手当の受給,労働状況,労働復帰の能力,社会的統合への可能性に関する正確な予測値にならない。このことは,もし我々が医学的な診断分類のみを使うとすれば,保健の計画や管理の目的に必要な情報を得られないことを意味している。我々に欠如しているものは,生活機能と障害レベルに関するデータである。ICFは,首尾一貫して国際比較が可能な方法で,これらのバイタル(生命・生活)データを収集することを可能にする。

基本的な公衆衛生の目的(集団の全般的な健康の確定,非致命的な健康帰結の有病率や罹患率など)のために,また,保健ニーズや保健システムの成果や有効性を測定するために,我々は,人々や集団の健康に関する信頼性のある比較可能なデータが必要である。ICFはこの目的のための枠組みと分類システムを提供する。

しばらくの間,病院をベースとした急性期の医療から,慢性状態に対する地域ベースの長期間のサービスに焦点が移行してきた。社会福祉機関は,障害給付の要求の著しい増加に気づいてきた。この傾向は,障害について信頼性かつ妥当性のある統計の必要性を強調するものであった。ICFは,障害の種別とレベルを明らかにするための基礎を提供する。それは政策開発に必要な障害についての国家レベルの基礎データを提供する。

社会計画者やサービス機関の間で以下の認識も高まっている:ある集団での障害の発生率や重篤さは,個人の生活機能の能力(capacity)を向上したり,社会的および物理的環境の特性を変化させて実行状況(performance)を増進することによって低減できる。これらさまざまな介入の影響を解析するためには,我々は,実行状況を増進するような生活・人生の領域(domains)や環境因子(environmental factors)を分類する方法を必要とする。ICFはこの情報を記録することを可能にする。

4.WHOはICFをどのように使うか

WHOは,保健政策を改善したり,人々の健康増進を達成したり,保健システムの費用-効果や正当性を可能な限り高めることを確保するために,加盟国が利用できるツール(手段)を提供しなければならない。我々は,最高の科学に基づいて,また,組織(organization)がその事業(つまり,機会均等,インクルージョンおよび,個々の人が彼らの機会を最大限に利用できる生活・人生を達成するための全ての目的)の基盤をおくような基本的で核となる真価をもった手段を提供する。

昨年,WHOの191加盟国が,健康と障害に関するデータの世界的な科学的標準化に関する基礎として,ICFを採用することに同意した。ICFは,総合的な集団の健康に関する測定の枠組みを確立するために,WHOの努力に直接寄与する。我々は,健康に関する生活機能の領域の測定を取り入れることによって,古い従来の死亡率や罹患率の尺度を超えていきたい。

WHOは,保健システムの成果を評価するための基礎として,多次元の健康尺度を使用する。保健システムの健康面のゴールは,ICFに基づいて測定される。この過程において,WHOは,保健システムの成果を促進することにおいて,加盟国を支援することができる。より良い生活機能保健システムによって,人々の健康レベルは高められ,全ての人々が利益を得る。

ICFはそのようなツールの鍵となる例である。ICFは,健康と障害の経験に関する首尾一貫した国際比較が可能な情報に関する科学的なツールである。また,ICFは健康に対するWHO全体のアプローチの基礎を提供する。

5.ICFはどのように利用できるか

ICFの柔軟な枠組みや,分類の詳細さと完全さ,また,それぞれの領域(domains)が含まれるもの(inclusions)と除かれるもの(exclusions)を用いて,具体的に定義されている事実ゆえに,その前任者(ICIDH)のように,ICFは,臨床,研究,政策展開の課題などの広範囲な質問に答えるために,多くの利用者に使われることが期待される。(サービス提供の領域でのICFの利用や多くの実際の課題について,下記の具体例を参照のこと)

サービス提供におけるICFの適用

個人レベルで

・個人の評価:
個人レベルの生活機能とは何か?
・個人の治療計画:
どのような治療や介入が生活機能を最大にできるか?
・治療やその他の介入の評価:
治療の成果は何か?介入はいかに有用であったか?
・医師,看護師,理学療法士,作業療法士,その他のヘルスワーク,ソーシャルサービスワーク,地域機関の間のコミュニケーション:
・利用者による自己評価:
私は自分の運動・移動やコミュニケーションの能力をいかに評価するか?

病院・施設レベルで

・教育と訓練の目的:
・資源の計画と開発:
どのような保健やその他のサービスが必要とされるか?
・質の向上:
我々はクライアントにどの程度十分にサービスしているか?質の保証に対してどのような基本的な指標が妥当で信頼できるか?
・管理と結果(成果)の評価:
我々が提供するサービスはどのように有用であろうか?
・保健提供の管理されたケアモデル:
我々が提供するサービスはいかに費用-効果があるであろうか? 少ない費用でより良い成果を得るには,いかにサービスを改善すればよいか?

社会レベルで

・社会保障手当,障害年金,労働者の補償と保険などの国の福祉施策に対する受給基準:
障害給付に対する受給基準は,根拠に基づいており,社会的ゴールに適切であり,正当であるか?
・立法審査,モデル法律,規則と指針,反差別法に関する定義などの社会政策の開発:
これらの法令で保障する権利は社会レベルの生活機能を改善するであろうか? 我々はこの改善を測定でき,我々の政策と法律を調整できるであろうか?
・ニーズの評価:
さまざまなレベルの障害(機能障害,活動制限,参加制約)をもつ人々のニーズは何か?
・ユニバーサルデザインに関する環境評価,義務付けられたアクセシビリティーの履行,環境の促進因子と阻害因子の確定,社会政策の変化:
我々は,障害の有無に関わりなく全ての人に対して,いかにして社会的環境や物的環境をよりアクセシブルにできるか?我々は改善を評価したり,測定したりできるか?

ICFに関する他の利用には以下のものがある:

5.1. 政策開発

社会保障,雇用,教育,交通などの人々の生活機能の実態に配慮する必要がある健康領域や他の領域において,ICFが果たしうる重要な役割がある。これらの領域における政策の開発には,生活機能の実態に関する妥当で信頼できる集団のデータを必要とすることはいうまでもない。障害の法的な定義は,一貫性があり,また,障害の発生過程に関する唯一の首尾一貫したモデルに基づいていることが必要とされる。それが障害年金に関する受給基準を立案したり,福祉用具の利用に関する規則を開発したり,移動,感覚,知的障害をもつ人に対応する住宅や交通政策を義務づけることであっても,ICFは障害と関連する総合的で一貫した社会政策の枠組みを提供しうる。

5.2. 経済分析

ICFの多くの適用には経済分析がある。さまざまな資源が保健や他の社会サービスで有効に使われているかどうか明らかにするには,健康と健康関連の帰結に関して,コストの見積りができ,国際的にも比較できる,首尾一貫した標準的な分類を必要とする。我々は,さまざまな病気や健康状態の障害の負担に関する情報を必要とする。社会が活動の制限と参加の制約を効果的に防ぎうることを保証するために,物的な環境や社会的環境を整備するコストと比べて,生活機能の制限の経済的影響のコストを見積る必要がある。ICFはこれらの課題双方を可能にする。

5.3. 研究利用

一般に,ICFは,障害に関する学際的な研究の枠組みや構造を提供することによって,また研究結果を比較するための枠組みや構造を提供することによって,科学的な研究を支援する。従来,科学者は,死亡率のデータを手がかりとして,健康状態の帰結を測定してきた。ごく最近,保健(health care)の成果に関する国際的な関心は,日々の生活における全人間レベルでの生活機能の評価へシフトしてきた。ここでのニードは,社会生活の基本的な領域と役割において,汎用的に適用できる分類や評価手段であり,活動レベルならびに参加の全般的なレベルに関するものである。これはICFが提供しているものであり,それを可能にするものである。

5.4. 介入の研究

類似した集団に対する介入(intervention)の結果を比較する研究は特に興味深い。ICFはこの種の研究を促すことができる。そこでは,対象とする障害の側面で介入を区別したり,結果のコード化を行う。身体レベルあるいは機能障害の介入は,主として医療的でありリハビリテーション的である。また,その介入は,内在する心身機能や身体構造を矯正あるいは改変することによって,個人あるいは社会レベルの生活機能の制限を防ぎ,改善するために行う。他のリハビリテーション治療戦略や介入は,能力レベルを増進するために計画される。個人の実行状況に焦点をおいた介入は,能力の改善に力を注いだり,あるいは,環境の改修を求めたりするものである。この環境の改修では,日常生活における課題や行為の実行状況を拡大するために,環境的な阻害因子を除去するか,促進因子を作りだすかする。

5.5. 環境因子の利用

ICFの大きな革新の一つは環境因子分類を取り入れたことである。それは日常生活での課題と行為の能力や実行状況に関する環境的な阻害因子(barriers)と促進因子(facilitators)を明らかにする。この分類表は,個人ベースで,あるいは,集団の広範囲なデータ収集のために利用できる。この分類表によって,さまざまな種類や程度の障害に対する促進あるいは阻害の発生レベルによって,環境を評価するツールを作り出すことができる。この情報を手にすることによって,生活活動域にわたる障害者の生活機能レベルを拡大するような,ユニバーサルデザインや他の環境規制に関するガイドラインを策定したり,実施することがより実際的になるであろう。