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災害へのインクルーシブかつレスポンシブな対策と対応:
東日本(東北)大震災と津波の経験及び教訓
(抄訳)

ICTアクセシビリティの促進によるインクルーシブな社会の構築と開発:新たな課題と動向に関する国連専門家会議「ICTと障害-アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ」
2012年4月20日

出典:
United Nations Expert Group Meeting on Building Inclusive Society and Development through Promoting ICT Accessibility: Emerging Issues and Trends (Tokyo Japan, 19-21 April 2012)
Final reportのSpecial plenary session(20 April)
http://www.un.org/disabilities/documents/egm2012/final-report.pdf

日本DAISYコンソーシアムの河村宏氏は、国連専門家会議「ICTと障害-アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ-」の特別セッションでモデレーターを務めた。日本各地から招へいされた専門家と参加者に、ハイチ、インドネシア、ロシア、スイス、アメリカ合衆国及び国連システムの災害対応と危機管理の専門家が加わり、(1)災害直後に広く見られた状況と被災地で取られた措置、(2)障害のある人々の視点に立った、情報通信へのアクセスにかかわる実体験と所見、(3)現場での実践から得られた教訓の再考と、災害の予防、対応及び復興に障害を含め、アクセシビリティを強化するよう、地域社会、政府及び国連システムに勧告することについて、集中的な議論が交わされた。

以下の専門家が特別発表を行った。日本放送協会(NHK)の迫田朋子氏は、2011年の東日本大震災と津波及び被災地の障害のある人々に対するそれらの影響に関するNHKのドキュメンタリーを紹介した。日本障害フォーラム(JDF) 幹事会議長の藤井克徳氏は、地震と津波の直後の対応及びその後の復興の取り組みで、障害のある人々のニーズへ対処する際の重要な課題と対策、さらにこれらの取り組みにおけるJDFの役割について論じた。地震と津波を経験した宮城教育大学の松﨑丈博士は、災害時及びフォローアップ対応時の、ろうの人々と難聴の人々の状況を説明し、アクセシブルなコミュニケーションの重要性を特に指摘した。アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)のマルシー・ロス(Marcie Roth)氏は、FEMAが緊急事態の対策と管理を、障害のある人々にとって完全にインクルーシブなものとするために講じている措置を説明した。国連国際防災戦略事務局(UNISDR)局長代理のヘレナ・モリン・バルデス(Helena Molin Valdes)氏は、ジュネーブの事務所からビデオによる発表を行い、防災対策において、障害のある人々のニーズと能力の問題に十分かつ効果的に取り組むことを確実に進めるという世界的な傾向について論じた。

発表に続き、会場の参加者の間で、また、招へいされた専門家とも遠隔コラボレーション(スカイプによるテレビ会議)を利用し、活発な議論が交わされた。ハイチ政府障害者統合担当大臣のジェラルド・オリオール・ジュニア(Gerald Oriol Jr.)氏は、2010年1月の地震とその後の被害に関する継続的な取り組みと問題点、また、障害のあるハイチの人々の多くが直面している特別な状況について説明した。モスクワに拠点を置く全ロシア視覚障害者協会(All-Russia Society of the Blind)のアナトリー・ポプコ(Anatoly Popko)氏は、障害を含めた災害対応と緊急時計画がロシアでは新しい概念であり、現時点で紹介できる実践的経験は限られていると述べた。スイスのドミニク財団(the Dominic Foundation)の専門家で、中南米にクラウドベースのアクセシビリティ技術を導入するための、パナマ政府とパナマ大学の共同能力開発プロジェクトにかかわる活動を、パナマシティ(パナマ)で行っているクラウディオ・ジュリエンマ(Claudio Giugliemma)氏は、クラウドベースのプラットフォームにより、教育、保健医療、電子政府及び電子決済などの分野におけるアクセシブルで利用しやすいコンテンツとサービスのサポートが可能となり、これらが障害のある人々にとって完全にアクセシブルなものになると予測した。インドネシアのチュチュ・サイダ(Cucu Saidah)氏は、会議参加者に論文を紹介したが、特別セッションで予定していた遠隔インタラクションの接続はできなかった。日本政府外務省代表は、東日本大震災と津波への対応と復興策、及びそれらを障害のある人々を完全かつ効果的に含めたものとするための政府による継続的な取り組みについて、簡潔に述べた。

1. 教訓

日本及び主要諸外国の災害対応と危機管理の経験を見直し、活発な議論を交わすことで、政策枠組み、現場での実践、アクセシブルなICTの役割に関する重要な教訓がいくつか得られた。

第一に、障害のある人々が一般の人々に比べて弱い立場にあり、自然災害時に取り残される可能性が高いことが、データから示された。その原因は、(1)インクルーシブかつレスポンシブな防災と危機管理の手順の欠如、(2)災害対応にかかわる早期警戒情報及びコミュニケーションへのアクセス、特にアクセシブルなICTの欠如、そして(3)障害のある人々が早期警戒情報と緊急時サービスにアクセスする能力と、主流の通信サービス事業者がアクセシブルなコンテンツを提供するキャパシティとの間に見られる重大な格差と、便利な場所に配備されたアクセシブルな緊急施設及びサービスの不足(または欠如)である。

第二に、災害のない平常時に準備された災害対応政策及び戦略と、災害・緊急時におけるこれらの政策及び戦略の実績とのギャップが、明らかに認められるとの指摘が専門家によってなされた。運営上の問題には、非常用電源や、代替通信手段などのその他の重要インフラの欠如が含められる。このような状況が原因で、死亡率と疾病率が上昇するうえ、障害のある人々が深刻な苦しみを味わうことになる。東日本大震災と津波の際には、特に聴覚機能障害のある人々がその苦しみを経験した。初の公式データによれば、東日本で障害があるとして登録されていた人々の死亡率は、一般の被災者の2倍またはそれ以上であった。また、国際統計によれば、地震と津波のために亡くなった犠牲者の50-70%は、高齢者や障害のある人々であった。

東日本大震災及び津波への対応の経験からは、以下の2つの重要な教訓が得られたと言える。(1)2011年の地震とそれに伴う津波は、前例のない甚大な規模であったために、既存の対災害政策と措置はうまく機能しなかった。(2)通常の災害を想定して考案された適用基準及び手順は、東日本大震災と津波のような極限状況ではうまく機能しなかった。

参加者は、障害のある人々のアクセスと機能上のニーズに対処するためのセーフティーネットと措置を、現行の「兵庫行動枠組」に組み込む必要性があることに特に注目した。さらに参加者は、日本と世界における障害を含めた災害対応のグッドプラクティスの事例を多数取り上げた。例えば、日本の一般市民への防災・災害準備教育は、成功例として認められており、世界の多くの地域で模倣されてきた。防災研修のための資料とツールキットは、日本の文部科学省のウェブサイトで入手できる。また、2011年の地震と津波の際には、障害を含めた対応に貢献する多くの官民共同イニシアティブが見られた。例えば、日本財団はスマートフォンを通じて、地震と津波の被災地にいる、ろうの人々と難聴の人々に向けて、テレビ電話による遠隔手話通訳サービスを提供した。一方、アメリカ合衆国では、2006年のハリケーン・カトリーナなどの過去の緊急時対応から学んだ教訓を踏まえ、FEMAが災害対応と復興のための「全コミュニティ・イニシアティブ(whole community initiatives)」を導入した。その他の有望な実践及び革新的なアプローチとしては、(1)クラウドベースのアクセシブルなICT製品及びサービスの提供と、(2)災害対応と復興におけるICTアクセシビリティ促進のための、官民を超えたマルチステークホルダーによるパートナーシップの活用と、さらなる南北協力及び南南協力があげられる。

2. 障害を含めた災害対応、復興及び危機管理への影響

討議では、一般の人々の認識の向上と、障害の視点をあらゆるレベルの開発言説において主流化する取り組みへの一層の努力、そして防災と危機管理のための戦略と計画に、障害のある人々を主体及び受益者として、完全かつ効果的に含めることの確保という、明確かつ緊急のニーズが示された。

基本的に、災害時及び緊急事態における障害のある人々の権利とニーズ、特にアクセシブルな情報通信サービスと、アクセシブルで障害のある人々が利用できる、便利で安全かつ確実な緊急施設は、国内外の災害関連政策、戦略及び計画に、完全かつ効果的に組み込まれなければならない。これは、あらゆるタイプの障害のある人々と、特別なアクセスと機能上のニーズを抱えている人々が、すべての被災者と同じ、必要不可欠なサービスと施設への平等なアクセスの権利と、自らの福祉、生活及び統合に影響を与える決定への完全参加の権利を享受しなければならないことを意味している。平等なアクセスとアクセシブルなサービス及び施設に関するこれらの検討事項は、官民両部門の関係者にかかわりがあり、災害と緊急事態の予防及び準備計画、早期警戒、避難及び輸送、避難所、救急医療サービス、仮設住宅及び復興と再建の施策の、すべての局面とすべての段階に関連している。

参加者は、次の国連防災世界会議が2015年に日本で開催されることを指摘し、障害を含めたアプローチとアクセシブルなサービス及び施設について、会議準備段階で十分かつ効果的に検討し、予想される会議の成果に、明瞭かつ簡潔に記載しなければならないという確固たる見解を示した。