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基調報告

藤井 克徳 (日本障害フォーラム幹事会議長)

スライド1

(スライド1のテキスト)

 このたびの地震に際しまして、国連をはじめたくさんの国から応援を頂きました。ありがとうございました。日本の障害分野のNGOを代表して厚くお礼申しあげます。あれから2年半、世を経ました。少しずつ復興の足跡が聞こえていますけれども、今なお福島では復興の出口が見つからず、また、永住の公営の住宅、その数もとても少ない状況にあり、復興状況はまだら状況にあると言っていいと思います。被災地の障害者は、被災前に戻ることを期待はしていません。なぜならば、バリアが少なくなかったからです。復元ではなく新しく生まれる新生を、そして外形的な復興ではなく、インクル―シブの思想を土台にした新しい社会づくり、これを強く求めています。私の後にJDF製作のドキュメンタリー映画「生命のことづけ」が上映され、そしてその後に最も被災の大きかった地域の一つである陸前高田市の久保田副市長から報告が続きます。これらを合わせて今日のテーマに肉薄していこうと思っております。画面に映っているでしょうか。これは宮城県の女川町というところの被災直後の状況です。

スライド2

 次のスライドは、地球儀の中での日本の位置であります。

スライド3

 そして、次に出る写真は、日本の東北地方を襲った震災、マグニチュード9という巨大な地震でした。私のこの基調報告のキーワードは2つあります。一つは2倍、もう一つは標準値であります。一つ目のキーワードである2倍について考えてみます。障害を持った人の死亡率は全住民の死亡率の2倍であることが判明しました。一つ目のキーワードは、この2倍という数字であります。この2倍につきましては、政府は現段階では調査を行ってはおりませんけれども自治体や各種の報道機関によってこれが裏付けられ、政府もこれを追認しております。簡単ではありますが犠牲者の全体像を見ていきます。被災地域は、岩手県、宮城県、福島県、この3県が主要な被災地でありここでの死亡者の数は1万5888人、そして行方不明者数は2676人、これらを合わせた合計の犠牲者数は1万8559人、これが5月現在の数値であります。これに加えて現在深刻なのは、震災後の関連死であります。福島県だけでも1500人を超える関連死が出ているとのことです。これらを加えると今度の震災による犠牲者の数は2万人をはるかに超えています。

スライド4

(スライド4のテキスト)

 次に障害者の死亡率と全住民の死亡率との関係について見ていきます。これについては最も犠牲者の多かった、かつ公的なデータがしっかりしている宮城県に焦点を当てます。画面に映っていますでしょうか。宮城県の沿岸部の市町村、この死亡率で見ていきますと、沿岸部の人口の総数は120万ちょっとであります。120万5066人です。そして、死亡した人の数は9407人、死亡率は0.8パーセントです。

スライド5

(スライド5のテキスト)

 これに対して同じく宮城県の沿岸部の市町村に在住する障害者、障害者手帳を持っている人でありますけれど、その数は5万2936人、死亡した人は1095人、死亡率は2.1パーセントに上っています。

スライド6

(スライド6のテキスト)

 こうしたことから障害者の死亡率が全住民の死亡率の2.6倍になっていることがはっきりしました。

スライド7

(スライド7のテキスト)

 次のスライドは犠牲者の障害者の実態の中で障害種別ごとにみたデータであります。
 身体障害者の中で亡くなった方が2.4%、知的障害者は0.8パーセント、精神障害者は1.3パーセント、このように障害種別ごとによって大きく変化があるということが重要なポイントだと思います。

 次に2倍以上の死亡率、この背景について考えてみます。私たちは、その主要な要因について二つあるとみています。一つは、既存の防災政策が無力であったということであります。日本の国は自然災害の多い国で、さまざまな防災政策が講じられていました。今回の地震を称して想定外という言葉がずいぶん言われていましたけれど、結果として防災政策が甘かったことがこうした被害をもたらしたというふうに考えられます。そういう意味では、天災というこういう要因ともう一つは障害ゆえの不利益、これを私達は人災と呼びたいのですが、この天災と人災の二重災害といってもいいのではないのでしょうか。少なくても人災に関しては人為的に防げたはずです。

 二つ目は2倍以上の死亡率と社会の標準値、これが深く関係しているのではないかということであります。標準値に関しましては、いろんな見方が出来ますけれども私たちの国というのは少しずつ少しずつ障害を持った人を前提とせず、また大人を中心に、しかも屈強な大人を標準に社会が作られつつありました。標準値から外れた障害者、障害者だけではありません。高齢者も子供もそうです。悲劇の主人公になってしまったわけです。私達は今、この2倍という死亡率から社会の標準値のあり方、これが厳しく問われているということを認識する必要があると思います。大震災という極限状況はその社会の実像をまる写しにすると言われています。しかし、もしかしたら、この2倍という数字は震災、あるいは災害だけではなくて、社会のそこかしこに潜んでいると言ってもいいのではないでしょうか。何かことが起こるとそのひずみや問題点が障害のある人に集中、集積するのは歴史の常であり、わずかな想像力を発揮すればこうしたことは十分に予想がつくはずです。今度の2倍以上の死亡率、これについては世界中の関係者が深く考えるべきテーマかと思います。私たちJDFは、この問題をもっと社会に訴えていこう、その手法の一つとしてドキュメンタリー映画の製作を思い立ちました。残念ながら、亡くなった同胞達からは証言を集めることが出来ずに、かろうじて命をつないだ生還者達から証言を得て、そしてこの2倍の死亡率の問題に肉薄を試みました。これから見て頂く映画のタイトルは、"命のことづけ"というタイトルで、監督はろう者がつとめ、そしてナビゲーターも、盲ろう者がつとめました。

 3月に公開したこの映画は、現在日本の各地で上映されております。今日は英語のバージョンをもって参りました。40分弱程の映画ですが、是非いくつかのシーンの裏にあるものを感じ取ってほしいと思います。なお最後になりますけれども、注目すべきは今度の大震災が、権利条約の発効後に起きた世界でもっとも大きな災害の一つであるということです。権利条約に照らして日本の大震災の障害者の被害状況を検証することも大事ではないでしょうか。本日のこの企画が2015年3月の仙台での国連の防災会議への新たな入口の一つとして、また、防災政策を盛り込んだインチョン戦略のこれまた新たな跳躍台になってほしい、こう願わざるを得ません。以上で基調報告を終わります。Tank you so much!