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障害と開発に関するハイレベル会合に参加して

野村美佐子
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター

第68回国連総会は、一般討議の開始の前日である2013年9月23日に障害と開発に関するハイレベル会合を開催した。このハイレベル会合の最重要テーマは「前進:2015年以降の障害者を含む開発計画(The way forward: a disability-inclusive development agenda towards 2015 and beyond)であった。2015年までのミレニアム開発計画(2000年に作成)においては、障害者の言及がなされていなかったが、障害者が多く関与している実情をみると今後すべてのレベルで障害が含まれていくことは、開発目標を達成していくために重要であるとして2010年の総会でハイレベル会合の提案がなされ、2011年に日程が決定した。こうした経過を持つ歴史的に意義ある会合に参加したので報告をしたい。

会合は、開会演説、非公式な2つのテーマを持つ討論会(Round Table Discussion)、そして討論会のまとめを行う閉会演説で構成されていた。

開会セッションにおいては、最初に第69回国連総会議長であるジョン・ウィリアム・アシェー氏による開会宣言に伴うスピーチがあった。

開会宣言スピーチを行うジョン・ウィリアム・アシェー氏

彼は、人権宣言や2006年採択の障害者の権利条約にも言及し、ポスト2015年の開発計画への道筋は、すべての人にとって平等で差別のない世界を描かなければならないという言葉で締めくられた。

国際連合事務総長である潘基文氏は、「障害者に対する物理的バリアや情報やコミュニケーションのバリアだけでなく、偏見や差別をあおる態度におけるバリアを取り除く行動をおこさなければならない。」と述べた。

国際連合事務総長の潘基文氏

国連障害者権利委員会委員長であるマリア・ソリダド・システルナス・レイズ女史(Maria Soledad Cisternas Reyes)のスピーチは、障害者の政治的権利を特に強調していた。

次に国連平和大使で、シンガーソングライターとして有名なスティーヴィー・ワンダーのスピーチと続いた。

国連平和大使のスティーヴィー・ワンダー氏

彼のスピーチは、今年の6月にモロッコで行われた外交会議において採択された視覚障害、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々の出版物のアクセスを改善するマラケシュ条約に言及した。条約設立に向けて応援し、採択がされた最終日にお祝いのメッセージを述べるために出席をしていたからだ。それらの活動をベースに障害者が社会にそして開発に含まれていくためには、教育、知識、そして情報への同等のアクセスが必要であることを述べた。またそのためのアクセシブルなフォーマットでの出版物が少ない現状を述べ、その必要性を強調した。

最後に欧州障害者フォーラム(EDF)会長であり、国際障害同盟(IDA)の会長でもあるヤニス・ヴァルダカステニス氏(Yannis Vardakastanis)のスピーチでは、障害者権利条約の採択までの交渉の中で、またその後でも使われていた言葉、「Nothing about us without us」について、障害者とその家族の前進と決意の推進力となったことを述べた。本会合中、彼に対してまたこの言葉を述べる発言者に対して拍手をする参加者が大勢いた。

開会演説の5人の内、3人が視覚障害者であり、参加者は障害者団体からの参加者が800人にも上る。障害を持つ当事者の参加も多かったので本会合においても様々なアクセシビリティが考慮されていた。車いす利用者のためのアクセシブルなルートがあり、障害者の特性に配慮した情報保障として手話、磁気ループ、要約筆記などが提供された。会場のスクリーンには発表者が映しだされるとともに手話と要約筆記が同時に映し出されていた。同時にウェブキャストも行われていたので、インターネットを通して見ることも可能であった。

成果文書は、本会合のプログラムと一緒に、国連経済社会局(DESA)、支援技術開発機構(ATDO)、日本財団の協力で制作したアクセシブルなマルチメディア形式(手話付きHTML5版、DAISY版、EPUB版)で、USBに同梱されて参加者に配布された。USBにはWord版とオープンソースのスクリーンリーダ(NVDA)も含んでいる。今後も今回のような配慮がなされることを要望したい。

上記配布物は国連の以下のウェブサイトでも見ることができる。 http://www.un.org/disabilities/documents/hlmdd/daisy/readme.html

また、DINF内で一式ダウンロードが可能である (データ一式(zipファイル)

ハイレベル会合は、普段なら3日間の開催であり、少なくとも2日間が必要とされるそうなのだが、1日で終了をするためにかなり駆け足でプログラムが進められた。

2つの非公式な討論のセッションは、それぞれ「障害を含む開発を目的とした国際的および地域的な協力とパートナーシップ」と「ポスト2015年開発目標と障害者を含む開発」をテーマに各国政府の代表者およびステークホルダーと呼ばれる関係団体からの発言があった。

日本からは岸田文雄外務大臣が出席をし、2番目の討論のセッションでの発言の中で「日本はこの条約の締結に向けて2007年の署名以降、障害者条約の改革に集中的に取り組んできました。その結果、国内法の整備が行われ、条約の趣旨が国内政策において一層反映されております。日本は本条約のできるだけ早期の締結に向けた努力を続けつつ、障害者の権利を保護、促進し彼らの尊厳の尊重に取り組んで参ります。」と述べ、批准がまもなくであることを示唆する言葉であったように思うので、今後の政府の動きに期待したい。

岸田文雄外務大臣

また、現在134カ国が障害者権利条約の批准を行っているが、本会合をきっかけとしてさらに批准国が増加し、多くの国々が障害者と共に成果文書の実践と推進をすることを期待する。