音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

国連専門家会議「アクセス可能な情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進による共生社会の構築と開発;新たな課題と傾向」報告書

開催地:東京(日本)

期日:2012年4月19日~21日

主催
国連事務局経済社会局(UN DESA)

共催
国連広報センター(UNIC)
日本財団

国連広報センター
東京、日本
2012年4月19日~21日

※この報告書は正式に編集されたものではありません。

本報告書にある見解は、会議に参加された専門家の見解であり、国連および国連広報センター、そして日本財団の見解とは必ずしも一致しない場合がありますので、あらかじめご了承ください。

仮訳:日本財団国際協力グループ

報告書原文は、「United Nations Expert Group Meeting on Building Inclusive Society and Development through Promoting ICT Accessibility: Emerging Issues and Trends (Tokyo Japan, 19-21 April 2012)」http://www.un.org/disabilities/default.asp?id=1596に「Final Report」(ワード)と「Excecutive Summary」(PDF)が掲載されています。

目次

概要

Ⅰ.会議の成果:結果および提言

A.アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進に関する政策の枠組みと制度的な取り決めについて

1.開発状況

2.国際的な規範と基準

3.障害とアクセシビリティと国際的な開発戦略

4.国際公約と国連の組織的な役割

5.国策と国家的プログラム

6.公的調達

7.アクセシブルなICTsの構造的特徴

8.援助技術(AT)と拡大・代替コミュニケーション(AAC)

9.ICTsアクセシビリティに関する方針と仕組みにおける新たな課題

B.テクノロジーについて。アクセシブルで使いやすいICTsの促進に関連した技術的な基準と規則

1.アクセシビリティの基準とコンプライアンス

2.技術基盤の収束と調和

3.ICTsアクセシビリティのための先を見越した想定および人間の能力の向上

4.障害者に対する持続可能なデジタルインクルージョン

5.すべての言語に対するアクセシビリティのための基本ツール

C.災害および緊急時への備えと危機管理におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術(ICTs)

1.アクセシブルでインクルーシブな災害対応および危機管理において重要な原則

2.障害者を含むインクルーシブな災害対応および危機管理を考慮した提言

Ⅱ.会議の概要

A.開会式

1.基調スピーチ

2.歓迎のあいさつ

3.開会のあいさつ

B.全体会1:4月19日

1.ICTsアクセシビリティの概要:方針、仕組みと技術について

2.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:世界的な枠組み

3.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:国際機関の経験から

4.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:日本の視点から

5.アクセシブルかつ使いやすいICTsの促進に関する話題提供

C.特別全体セッション:4月20日

1.インクルーシブかつ即応可能な災害時への備えと対応:東日本大震災と津波被害の経験から

2.得られた教訓について

3.障害者インクルーシブな災害対応、復興および危機管理に関する障害者への影響

D.全体会2:4月21日

1.結果と提言の考察と採択

2.閉会式

Ⅲ.会議主催組織について

A.経緯

B.参加状況

C.開会式

D.課題の採択について

E.分科会について

F.提言採択について

G.閉会式

巻末資料(*ウェブには掲載せず)

Ⅰ.参加者一覧(*ウェブには掲載せず)

Ⅱ.参考文献および資料(*ウェブには掲載せず)

概要

2012年4月19日から21日まで東京で開催された本専門家会議はアクセシブルで利用しやすい情報コミュニケーション技術(ICTs)とその開発に関する傾向や課題について検討・協議した。また、2011年の東日本大震災や他の国々の被災経験も含め、災害対応と緊急事態におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術について検討するための特別全体セッションが4月20日に行われた。この専門家会議は開発に障害者を含めるためのベスト・プラクティスについての情報提供を国連事務総長に要求した国連総会決議65/186に準拠して組織された。

専門家らは、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術は、世界人口の15パーセントにあたる障害者約10億人が開発に完全に平等にそして効果的に参加するために大変重要なものであると指摘した。会議の参加者は、いまだに何も行っていない各国政府に対して、主流の開発政策と施策において、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティ促進と具体化を強く勧めた。また、本質的に重要な各分野で主流の問題として、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術のための啓発促進、支援の構築や能力強化をする際に、国連の組織体制が果たす重要な役割について議論を行った。

専門家らは、以下に挙げるインクルーシブで効果的な緊急時のための準備計画、災害対応と復興手段を促進するための指針の洗い出しを行った。それが以下の3点である。:(1)リスク軽減、準備計画、災害対応、復興手段におけるアクセスや機能的なニーズのある人々の統合と調整に基づいたコミュニティ全体のアプローチ、(2)アクセスや機能的なニーズのある人々のエンパワメントに基づいた、災害や緊急事態における持続可能性のあるユニバーサルなアクセシビリティを提供するための完全かつ効果的な参加、(3)次の三点を考慮に入れた緊急時や災害時における設備・構造物などの対応能力と情報コミュニケーション技術能力の回復力、(a)低電力または無電源状態に陥った場合への対応、(b)震災前から存在する能力の限界、(c)重要なサービスのバックアップや重要な情報コミュニケーション技術の代替システムとして考えられる他の基盤構造への影響。

出席者らは、4月21日の全体会において、(1)アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進に関する政策の枠組みと制度的な取り決めについて、(2)アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進に関連した技術的な基準と規則、(3)災害および緊急時への備えと危機管理におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術(ICTs)の3つのテーマのワーキンググループから提案された成果について討議を行い、提言を採択した。

Ⅰ.会議の成果:結果および提言

国連専門家会議(EGM)「アクセシブルな情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進による共生社会の構築と開発;新たな課題と傾向」が、2012年4月19日から21日までの3日間、日本の東京都にある日本財団本部ビルで開催された。この国連専門家会議は、国連事務局経済社会局(UN DESA)、国連広報センター(UNIC)と日本財団の共催で行われた。

全体会と分科会を含め、専門家会議は約3日間にわたりアクセシブルかつ使いやすい情報コミュニケーション技術(ICTs)と開発に関する傾向と課題について徹底的な議論が交わされた。4月20日には特別全体セッションが設けられ、ここでは2011年に発生した東日本大震災と津波被害やその他の災害などの経験から得た教訓の考察を含め、災害対応および緊急時のアクセシブルな情報コミュニケーション技術について報告や議論が行われた。専門家たちは4月21日の全体会で、各テーマ((1)アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の促進のための政策の枠組みと産業的な取り決めについて、(2)アクセシビリティ技術と技術的な基準、(3)(提示のように採択された)災害対応と緊急時におけるアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術)の分科会からの提案を元に結果と提言を検討した。

A.アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の促進に関する政策の枠組みと制度的な取り決めについて

1.開発状況

専門家らは、2010年現在10億人以上(世界の人口の15%以上)の障害者がいると推定した世界保健機関(WHO)の近年の調査を振り返ることからアクセシビリティに関する政策や仕組み、技術に関する議論を開始した。議論にあたり、まず運動感覚機能の変化には高齢化が関連していること、国連人口部の発表によると2009年現在7億3700万人(世界の人口の約10%以上にあたる)が、60歳以上であることを指摘し、さらに国連の調査結果を見ると、60歳以上の人口群は人口全体の群の中でも最も早く増加しているということが示されている。したがって、世界の人口の約25%にあたる人々は「生涯のあらゆる場面で完全参加と自立した生活をするために」アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術によって恩恵を受けるであろうことが予測される。

2.国際的な規範と基準

専門家らは、「障害者に関する世界行動プログラム」、「障害者の機会均等化に関する基準規則」、「障害者権利条約(CRPD)」を含め、障害者に関連する国際的な法律文書においてもアクセシビリティに関しての取り組みがあったことを振り返った。障害者権利条約は、物理的環境や移動サービスのアクセシビリティと同等に、その課題の重要な部分として、情報コミュニケーション技術を定義していることを指摘した。アクセシビリティは障害者権利条約の第3条(一般原則)、第4条(一般義務)、第9条(アクセシビリティ)の中に含まれ定義されている。さらに、障害者権利条約の中に「アクセシビリティ(Accessibility)」と「アクセシブル(Accessible)」という言葉がそれぞれ9回と17回出てくる。これらの言葉は条約の多くの条項に関連しており、障害者が多くの権利を享受するために不可欠なものである。

専門家らは、障害者と関連した現行の国際的な法律文書が、機能性、技術基準ならびに開発の文脈にあるアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術に対して適切なアドバイスをすることができるという結論を出した。

3.障害とアクセシビリティと国際開発戦略

(a)問題と背景

これまで21世紀の主な国際的な開発戦略、特に2000年から2015年の間に実施される国連の「国連ミレニアム宣言」や8つの「ミレニアム開発目標(MDGs)」の中で、障害者は主体または受益者として十分に考慮されてこなかったと指摘した。

分野横断的な開発の問題としてアクセシビリティの認識と評価の欠如がさまざまな証拠からもうかがえる。また他の国際的に合意されている「すべての人、特に障害者のための成果」でも開発の文脈でのアクセシビリティ促進の適切な政策指導の欠如が、ミレニアム開発目標達成の障壁となってきた。

国連の組織の中で国際的な開発戦略に関する2つの関連した工程が進行中である。短期的には、ブラジルのリオデジャネイロで2012年の6月20日から22日にかけて行われる「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」であり、中期的にはポスト2015年に関する国際的な開発の検討課題についての議論である。これらは、障害者の地位向上と主体または受益者としての開発における役割の向上に重要な意味合いを持っている。

今後、2013年の9月23日に国連本部で開催が予定されている「障害に関する国連総会ハイレベル会議」は、障害者権利条約の原理と目的が支えとなった成果文書と、ミレニアム開発目標や他の国際的な合意を得た障害者のための開発目標を認識した上での選択肢をもたらすはずである。

「教育と訓練」、「持続可能な生活手段」、「社会福祉とセーフティネット」これら3つの分野は、開発の文脈において障害者の地位が向上することが特に重要である。これらの3つの主題は政策の選択肢、事業そして実施手順として提示され、さらに持続可能で、公平かつインクルーシブな開発方法として政府の検討のため、またすべての人のための社会の一般体系でアクセシビリティを前提とすることもあり得る。

(b)国際的な開発戦略に関する提言

1) アクセシブルで利用しやすい情報コミュニケーション技術は、開発のすべての局面において公平を基盤とした完全または効果的な参加機会を得るために必要不可欠な要因として認識されている。これらは、今後行われる「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」や、2013年に行われる国連の「障害と開発」におけるハイレベル会議、またポスト2015年の経済的、社会的関連分野に関する全世界会議、サミットによって採択された行動計画に欠くことのできないものであり、政治公約として適切に反映されるべきである。

2) アドボカシー(権利擁護)の取り組みとして目標とされたのは、持続可能で、公平かつインクルーシブな開発であり、全世界的なネットワーク、国連関係機関、各国政府、大学機関、研究・支援組織、民間団体も同様に障害と市民社会団体とさまざまな関係者間のパートナーシップの構築を含めた障害者の地位向上が促進、改善、支援されることである。

4.国際公約と国連関連機関の役割

(a)問題と背景

国連関係機関は重要な役割を担っている。そのメンバーは、それぞれの分野の実質的な懸案事項に関する開発の文脈においてアクセシビリティの認識を促進するための重要な貢献ができる。

一般的なアクセシビリティと情報コミュニケーション技術に絞った場合のアクセシビリティでは、常に国際的な開発の枠組みの面で欠けるところがあるが、国際的な開発の枠組みは重要な開発イニシアチブと革新的な実験のさまざまな例を示している。例えば、国連教育科学文化機関(UNESCO)は、「ミレニアム開発目標2:普遍的な初等教育の達成」のさらなる成果のために「インクルーシブ教育」や「すべての人のための教育(EFA)」という革新的な取り組みを実施してきている。しかしながら、『障害に関する世界報告書』によると、障害のない子どもや若年層に比べて、障害のある子どもは男児・女児にかかわらず、著しく低い小学校修了率と修学年数の短年化が報告されている。アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術は、すべての子どもたちのための普遍的な初等教育をという目標の推進において、共通の方法で教育的かつアクセシブルで使いやすいフォーマットを用いたリソースを十分に提供することで非常に重要な貢献ができる。

(b)国際的な開発戦略に関する提言

1) 国連本部と関係機関は、インクルーシブな社会を保障するアクセシブルな情報コミュニケーション技術の欠かせない役割を認識し、それぞれの政策や事業、ガイドライン文書に積極的に取り入れ、言及するべきである。

2) 国連行政ネットワーク(UNPAN)のような、国連関係機関のインターネットベースの情報リソースは、アクセシブルで使いやすいデザインとコンテンツ、アクセシブルなe-ガバナンス、そして公的サービスの提供を促進するべきである。これらは、公的なウェブサイトのデザインや公的調達での必要条件の利用なども含まれるであろう。

3) 喫緊の行動としては、障害のメインストリーム化の課題に対して、合意された開発公約を達成するために粘り強く努力することに世界的な注目を集めるような、経済や社会、その他の関係分野における世界的なイニシアチブとともに「すべての人のための教育(EFA)」イニシアチブを加速すること。そして、特にこれらの開発実現の過程に主体的または受益者として常に完全に参加できない障害者に関する、ミレニアム開発目標とその他の国際的な合意を得たすべての人たちのための開発目標の実現に、アクセシブルな支援技術の最大の可能性を結びつけること。提言は、民間部門と同様に国連機関、各国政府そして市民社会の構成員を考慮するように方向づけられている。

4) 国連貿易開発会議(UNCTAD)は、取引、金融そして開拓を保障することと同様に、コーポレートガバナンスに参画することを保障することで、障害者のための新しくそして拡大された機会の促進を目的とした、良い労働慣習、人材開発と地域社会への貢献の基本的な要素としてのアクセシブルな情報コミュニケーション技術に関係する企業の社会的責任(CSR)の問題をめぐる話し合いを開始することを強く勧める。

5) 国際電気通信連合(ITU)や世界知的所有権機関(WIPO)のような国連の専門機関や、国際標準化機構(ISO)のような国際的な非政府組織は、政府や国の標準化機構が資格を作り、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の製品やサービスを生産する組織的な能力の強化を支援するために、実務的なガイダンスや技術資源の開発や普及を個別の関心のある分野について拡大する努力を強く勧める。

6) 国連グローバルコンパクトや関連する責任投資原則(PRI)は、指針となる原則の一つとして「開発の主体かつ受益者としての障害者の権利」を取り入れること。また、開発の文脈における障害者の権利を含めた行動と企業全体のアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の貢献に関する定期的なレポート報告などを含めること。

5.国家政策と国家的プログラム

(a)問題とその背景

専門家らは、国連障害者権利条約(CRPD)の32の締約国(これに評価者として国連が加わる)の調査をベースとして、アクセシブルな情報コミュニケーション技術に関する国家政策や事業の国際的な比較研究にも注目した。国連障害者権利条約締約国の約半分の国が2010年の半ばに調査したものによると、主流の情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに具体的な政策を採択していることがわかった。

(b)国家政策に関する提言

1) 未整備の政府に対して、分野横断的な開発の問題解決の手がかりとしてのアクセシビリティの役割と、開発の主体そして受益者として障害者に完全参加と平等の権限を与えるためにアクセシビリティに関する公的な認識を高めることを強く勧める。

2) 未整備の政府に対して、アクセシブルで使いやすい情報とコミュニケーションに関する製品やサービス、ユーザーインターフェースや取扱方法などを含むアクセシビリティに関する明確かつ簡潔な政策と規制上の枠組みを策定し、採択することを強く勧める。関係者で特に障害当事者が、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティを促進するための政策や事業のデザインや推進、実施や評価において、意思決定のできる役割を担うことを示唆している。考え得るすべての関係者に機会を保障する法案が策定されるべきである。

3) 各国政府、国連機関、障害者団体を含む国際的な開発調査・支援機関、民間団体に対して、国家資格やアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の政策設計、事業計画、実行管理、モニタリング、評価等の機関を設置するためのより一層の努力を強く求める。

6.公的調達

(a)問題とその背景

社会目標や規制の強化、市場にプラスの影響を与える手段としての公的調達は、環境保護とアクセシビリティのような領域に効果的であると証明されたと専門家らは指摘する。アクセシビリティに関する国連障害者権利条約(CRPD)の第9条と締約国の実行に関する第4条の(d)の項目は、それらのルールを採択する締約国のための動機づけとして引用され続けている。政府によるアクセシブルな情報コミュニケーション技術のための公的調達に関するルールの適用は、合意されたアクセシビリティの必要要件を用いてすべての公的調達を保障することによって、非常に多くの影響を市場に及ぼすことになる。

政府や政府機関が行う、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに影響する可能性のあるこの方法を用いた公的調達は、いくつかのカテゴリのソフトウェアアプリケーションが存在するが、たとえば、ツイッター(Twitter)のような無料のミニブログクライアントなどは、それらの初期設定と配布に関して公的調達のルールから影響を受けないかもしれない。情報コミュニケーション技術のためのアクセシビリティ要件を支援する公的調達ルールの採択は、エンドユーザの情報とコミュニケーションに関する製品やサービスへのアクセスの拡大が保障されることに重要なステップがある。そして、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに影響する可能性のあるこの方法は、政府や公的な資金を受けた組織や団体の見識ではない唯一の顧客(または原則)としてビジネスモデルの下で発展した。

(b)公的調達についての提言

1) 未整備の政府に対して、情報コミュニケーション技術の公的調達のための一般的な基準のようにアクセシビリティ要件を組み込んだ調達のルールを採択するよう強く勧める。

2) 各国政府、国連機関と市民社会団体、特に障害者の団体は、資金調達に関して個人消費や会費に係る画面広告と商品やサービスへの支払手数料によって、登録されたエンドユーザのアクセスをサポートするような商業モデルに基づいて開発・配布される情報技術やコミュニケーションサービスのアクセシビリティとユーザー規程ビリティを奨励・保障するための革新的な方法や触媒となる方法を努力して達成しようとすることを強く勧める。

7.アクセシブルなICTsの構造的特徴

(a)問題とその背景

専門家らは、一般参加型でインクルーシブな制度的構造は、開発の文脈の中で障害者の地位を向上させ、彼らの福利と生活手段に影響を与える決定に完全でかつ効果的な参加を促進させるという重要な貢献について報告し議論を行った。また、彼らはサンパウロ州(ブラジル)の州事務局による障害者の権利促進の取り組みについても触れた。

特に、信頼性があり、手ごろな料金のブロードバンドサービスが入手できることに関係するアクセシブルな情報コミュニケーション技術の規定の構造面についても議論した。多くの障害者は、遠隔で健康チェックができるようなものからオンラインで手話通訳を受けられるような必要不可欠なサービスと情報資源を得るためにブロードバンドへの接続を必要としていることを示唆している。しかしながら、そのような示唆がありながら、多くの障害者は、社会全体の状況と比べて、必要不可欠な情報とコミュニケーションニーズを満たすブロードバンドサービスを手に入れられていないことが多い。

(b)アクセス可能な情報コミュニケーション技術の構造的側面に関する提言

1) 未整備の政府に対して、アクセス可能で使いやすい情報コミュニケーション技術に関する判断を含め、意思決定プロセスに障害者の完全かつ効果的な参加を保障するための確実で多重レベル構造の通信回線を開発し、整備することを強く勧める。

2) ブロードバンドサービス促進のための政策と施策の開発について、各国政府に対して、都心や郊外など住居地にかかわらず、必要不可欠な情報とコミュニケーションニーズを満たし、障害者にとって、手ごろな料金で信頼性のあるブロードバンドサービスを供給することに特に注意を払い管理することを強く求める。規制当局は、多くの障害者が快適に使えるようなブロードバンドサービスにするため経済的なバリア排除の現実的かつ実行可能な企画書を作るように通信接続業者に確実に働きかけることを明確に強く勧める。

3) 国連障害者権利条約(CRPD)条約締結国で未整備の国に対して、アクセシブルな情報コミュニケーション技術と開発における明確な目的を設定し、アクセシブルな情報コミュニケーション技術の普及、選択、利用の過程を監視するなど、条約の促進と実施を確立する仕組みの活用を考慮することを強く勧める。

8.援助技術(AT)と拡大・代替コミュニケーション(AAC)

(a)問題とその背景

援助技術(ATs)は、障害者たちが望む教育へのフルアクセス、雇用機会、社会への参加を含めた目標達成を可能にする上でなくてはならない役割を担っている。発話できないことは精神的に苦痛をもたらすものであるが、拡大・代替コミュニケーション(AAC)は、会話内容を認識することが可能であるが発話言語障害をもつ人々にとって、社会生活や開発でコミュニケーションを取り、能動的に参加し、さらに自立し、彼ら自身で決定するということのために特に重要な役割を担っている。

多くの言語で文字の音声化(TTS)と音声認識のアプリケーションの普及が進んでいないことは、障害者の多くの団体にとって開発のすべての側面に完全に参加する機会に影響するような技術の取り込みに対して根本的なバリアとなっていることを示唆している。文字の音声化(TTS)は視覚障害者だけの問題ではなく、ディスレクシア(難読症)や文字に関する障害のある人たちにも役立つということを指摘した。

(b)援助技術(ATs)と拡大・代替コミュニケーション(AAC)に関する提言

(1)特に、障害者と援助技術(ATs)と拡大・代替コミュニケーション(AAC)の獲得に関して、すべてのエンドユーザが情報コミュニケーション技術に関する製品やサービスに、より低価格でアクセスすることを保障するために、各国政府に対し、国内の情報コミュニケーション技術の基準を開発したり更新する場合は、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに関する国際基準と機能条件を忠実に守ることを強く勧める。

(2)国連機関、国連教育科学文化機関(UNESCO)などの関係機関、特に協働している関係国際機関と大学などの教育機関は、すべての人のための広く公平な情報コミュニケーション技術へのアクセスのために必要な構成要素を提供できるだけのさまざまな母語で自由に利用できる文字の音声化(TTS)用の音声データの保管場所の設置、開発、維持をサポートする努力を強く勧める。

(3)非営利組織であるG3ict(Global Initiative for Inclusive Information and Communications Technologies)の活動の枠組みで新しく形成された「AT(支援技術)リーダーシップネットワーク」に注目し、それがオープンで民主的な方法で早期に設立され、ウィキペディア(Wikipedia)のように支援技術(ATs)の問題についてオンラインで情報資源や傾向と調査ニーズを提供できると指摘する。

9.ICTsアクセシビリティに関する方針と仕組みにおける新たな課題

(a)電子出版とアクセシブルなコンテンツの供給の進展

専門家らは、特にEPUB3という電子出版の規格に関する問題と傾向について議論を行った。主にデジタルコンテンツとして利用可能な出版物が増加しているが、現在、すべての電子規格が合理的配慮のあるアクセシビリティを提供しているわけではないということが指摘された。このことは、アクセシビリティの問題を効果的に考慮することを保障しているEPUB3の開発にかかわったDAISYコンソーシアムの専門家が指摘した。共同作業で予想される援助は、DAISYコンソーシアムがDAISY規格を更新する時である。EPUB3は、DAISYのデリバリーフォーマット(配布形式)として認識されるであろうし、それは電子書籍の読書環境となるさまざまなリーディングシステムの配布コンテンツをアクセシブルにする電子書籍ファイルを作るためにEPUB3規格の利用ができるであろう。

未整備の各国政府に対しては、デジタルコンテンツの出版と普及のための規格を採用する際に、EPUB3やその他同様の規格であろうとなかろうと、アクセシブルなデジタルコンテンツに効果的に変更できるようなサポートを保障することを専門家らは勧める。

さらに、国連機関はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやGNUのジェネラル・パブリック・ライセンス(GPL)バージョン3やMIT/X11-ライセンスのような、支援機械を使う人が個人的に使うために著作権のあるコンテンツをアクセシブルなフォーマットに制限なしに変更することを許可するような、自由度の高い開かれた著作権ライセンスの枠組みの採用を検討することを勧めている。国連の出版物をこのような自由度の高い開かれた著作権ライセンスで提供することは、世界中のさまざまなエンドユーザのニーズと機能に合ったフォーマットで非常に多くの情報源を増やすことになるであろう。

また、各国政府に対して早期の世界知的所有権機構(WIPO)の提案する「盲人、視覚障害者およびその他の読書障害者のためのアクセス権条約」の採用と実施を支援することを強く勧める。この条約は、障害者のために著作権免除をサポートするための拘束力のある国際文書である。そして、結果的に世界中の障害者が利用できるアクセシブルな書籍の大幅な増加をもたらす。

(b)援助技術開発のオープンソースと参加型の試み

マイクロソフトウィンドウズOS用のNVDA(Nonvisual Desktop Access)スクリーンリーダは、オープンソース開発の成功例、評価された例として取り上げられる。NVDAは、一部のコミュニティグループのサポートの下でNV アクセスによって開発され、無料で配布された。このスクリーンリーダは、合成音声と点字の両方をフィードバックするもので、ウィンドウズのコンピュータを使う盲人や視覚障害者が晴眼者より余分なコストをかけずに利用できるようにするものである。35以上の言語に対応しており、USBドライブなどに入れ持ち運び可能なアプリケーションとしても使えるのが主な特徴である。

専門家らは、NVDAはオープンソースおよび参加型の援助技術開発の成功例と考えている一方で、現行モデルへのより一層の開発とサポートがこれまで同様の時間をかけて継続的に行われないかもしれないと危惧する者もいた。

オープンソースの援助技術はアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の製品やサービスを促進するための政策、法略や施策の重要な構成要素となる。そのため、各国政府、財団や産業さらに非政府組織に対して、国内の情報コミュニケーション技術の政策と施策でオープンソースの援助技術の開発、普及、保守を支援することを専門家らは奨励する。

アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術を考慮した一般的な提言として、専門家らは、国際標準化機構があらゆる標準化の作業にアクセシビリティの概念と原理を体系的に組み込むことで彼らのアクセシビリティの成果を足場とすることを要請する。さらに、標準化の開発・促進・実施・導入プロセスに障害者や障害者組織を徐々に取り込んでいくことを国際標準化機構に働きかける。

B.テクノロジーについて。アクセシブルで使いやすいICTsの促進に関連した技術的な基準と規則

1.アクセシビリティの基準とコンプライアンス(法令順守)

アクセシビリティの基準は、理解の拡大、製品価格の引き下げ、相互運用の向上・改善、すべてのエンドユーザに結果として公平な機会を与えることに大きく貢献する。情報コミュニケーション技術のいくつかの分野では、世界的な検査者が提案した利用可能なアクセシビリティの基準が広く受け入れられているものの、これらの基準を順守するということについては非常に乏しい面が残っている。ウェブコンテンツのアクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)はよく知られた例である。

たくさんの国々で法律や規制により統一を行い広く啓発・宣伝をしているにも関わらず、ウェブ・アクセシビリティの順守と実施のレベルは依然低いままである。これに関して、以下のような共通の理由がある。(1)基準が複雑すぎで理解しづらい。(2)基準が、技術的な進歩と潜在的に反していると受け取られている。(3)大多数のウェブ作成者の認識の欠如。

ウェブコンテンツの分野において、製品は、大衆向けにシフトされ、ウェブコンテンツを作る側になる個人がますます増加するようになった。ウェブとモバイルアプリケーション開発の分野においてさえも、アプリケーションを作ることができる開発者の数が増加している。すべてのウェブ作成者とアプリケーション開発者がアクセシビリティの基準との関連性を承知で作成するということは非現実的であるが、基準または標準を適用するための動機づけをすることや、アプリケーションで教育することは可能である。

ほとんどのウェブ作成者やウェブアプリケーション開発者は、ある種の作成用のツールや開発ツール、ツールがキットになったソフトウェアやコンポーネントライブラリを使用している。ガイドラインでも構わないが、作成者がアクセシブルなコンテンツを作る時にすでにそれらがサポートされ、導入されているような作成ツールやキットのデザインをすることが可能である。また、ツール自体をアクセシブルにすることで、どんなコンテンツもアプリケーションもはじめからアクセシブルな状態で作成できるようにデザインすることが可能である。

ツールキットが構成要素として、また、ウェブアプリケーションを作成するコンポーネントとして提供されることと似ている。与えられたコンポーネントは、さまざまなアプリケーションに再利用されまた内蔵される。このコンポーネントがアクセシブルな形で作成されれば、すべてのアプリケーションに内蔵されているコンポーネントとしてアクセシブルデザインが増殖(伝播)する。典型的なウェブ作成者とは異なり、作成ツールや開発ツールの製作者は、アクセシブルなコンテンツとサービスに関する技術基準とガイドラインを理解するための技術的な専門知識を持っている。

(a)基準とコンプライアンスに関する提言

1) 各国政府、国連機関、国際標準機構とアクセシビリティに関する市民団体、また民間、法人に対して、コンテンツやアプリケーションを作成するために使われるツール(ウェブコンテンツ作成ツール、作成テンプレート、アプリケーション開発ツール、コンポーネントライブラリソフトとコンポーネントキットを含む)にアクセシビリティ支援を内蔵すること、および、この一連の過程に基準とガイドラインを規定することを強調し、それに焦点を当てることを強く勧める。国連機関および国際機関と各国政府は、良い取り組みのモデルを提供し、国内でこの提言を実施するべきである。

2) 各国政府および関連する規制機関・組織に対して、(障害者が訴訟を起こすことに頼ることなしに)公的報告書、査察、罰金などに基づいた環境や公衆衛生基準が実行、監督、推進されるのと同様の方法でアクセシビリティの基準に関する法律を制定し、規制する枠組みを実行し、監督し推進することを強く勧める。これらの取り組みは、アクセシビリティ基準の実施、監督、推進のすべての権限で採用されるべきである。

3) 公的資金を得ている団体は、可能な限りアクセシビリティ基準に準拠した製作や管理をサポートするコンテンツやアプリケーションやサービスなどのアクセシブルなインターネットリソース作成開発ツールを含む、製品やサービスの使用を奨励し、支援するための実用的方法として公的調達品を使うことを強く勧める。

4) 各国政府、国連機関、その他の国際機関、財団、民間団体、法人などの研究を支援し、課題研究を行うすべての利害関係者に対して、実用的で効果的な法令順守法略と行程に関する研究を支援し、広く普及することを強く勧める。

5) 同様に、アクセシビリティ基準への法令順守に関する相対的なデータをモニターし提供する仕組みとツールも広く普及し配布されるべきである。

2.技術基盤の収束と調和

(a)問題とその背景

情報コミュニケーション技術領域の崩壊は、資金不足のアクセシビリティ技術コミュニティに受け入れがたい負荷をかける。細分化された情報コミュニケーション技術の各プラットフォーム(インターネット、遠隔通話、放送や特定の機能のための複合的な産業基準など)は、個別の訓練、代替のアクセスシステム、技術基準と専門知識を必要とする。

ある政府間組織のレベルにおいては、現在一体になったICTサービス(2層のインターネットなど)の層のようになったバージョンを作成する提案がある。また、あるメディアについては多数の競合する非互換性の独自基準がある。

アクセシビリティの分野においては、先述のような分割をすることは、その達成のために必要な努力と投資を増大させる。障害者はたいていの場合、高価な多くの支援技術の中から、必要なもの選びそれを学習するために時間をかけなければならない。障害者にとって、現行のものはたった一つの支援技術でさえ手に入れられない。独自基準は、障害者のための代替アクセスシステムの生産を妨げ、同様の基準の設計や開発において、障害者の参加機会を制限する。対照的に、オープンスタンダード(EPUB3やHTML5などのようなもの)は、すべての人々のために材料(資金)を提供し、アクセス手段の代替方法の開発に貢献することができるようになる。

(b)プラットフォーム(技術基盤)に関する提言

専門家らは、以下を提言する。

1) 各国政府、国連機関、経済協力開発機構(OECD)非政府組織であるインターネット協会(ISOC)を含む、その他の国際機関、そして民間団体や企業、その他の関係者に対して、国内外の法的拘束力のある意思決定機関でプラットフォーム(技術基盤)についての意見の一致と調整を促進・奨励することを強く勧める。意思決定権者や技術規制を担当する者は、基盤の分裂が障害者に与える損失とリスクを自覚するべきである。

2) 公的資金を受けている団体に対して、オープンスタンダードを基礎としたアクセシビリティ技術の開発とそれらを妥当なものとして採用することを促進し、支援することを強く勧める。

3.ICTsアクセシビリティのための先を見越した想定および人間の能力の向上

(a)問題とその背景

情報コミュニケーション技術のシステムと慣例を途中から改善することは、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術のシステムと慣例をはじめから設計することよりも非常に難しく、お金のかかることである。アクセスしづらい情報コミュニケーション技術の設計は、素早く伝播し修正がだんだん難しくなる。アクセシブルな情報コミュニケーション技術の分野は、絶え間なく技術の進歩を追従し続けている。

アクセスしづらい情報コミュニケーション技術の慣例がしっかり定着し、広範囲に広がるとたいていアクセシビリティの問題が認識されることになるが、定着し、かつ広範囲だからゆえにそれを根絶するのはより困難な(そして高額のお金がかかる)ことになる。これまでの経験から、アクセシビリティ対策は、ほとんど常に反応することである。アクセシビリティを推進する団体などは、一般的にアクセシビリティに対する脅威の可能性を予測したり、先を見越した行動をするなどの技術的な専門知識や認識を持っていない。

(b)先見予測に関する提言

専門家らは、以下を提言する。

1) 国連機関およびその他の関係する国際機関は、信頼のおける技術面及び業界の専門家の常任理事会の設立を選択肢として検討すること。理事会は、新たな情報コミュニケーション技術の傾向を予測・モニターし、アクセシビリティに与える影響を分析し、アクセシビリティに対するリスクの可能性を警告・指摘し、方略的に関係する事業体の情報・行動のために、必要に応じて発生しそうなリスクや潜在的な機会について連絡を取り合うなどの機能を持ったものであること。

2) 各国政府、教育省、技術センター、職業訓練センター、そして特に未整備の機関に対して、デジタルインクルージョンや障害者のための情報コミュニケーション技術のインクルーシブデザインにおいて、能力開発のための教育プログラムの開発と設立の促進を強く勧める。関係する規格認証機関は、ガイダンスを提供し、履修課程を監督し、性能と成果を評価し、実践的な活動に対しても提言をするべきである。

3) 未整備の各国政府に対し、主流となる情報コミュニケーション技術の教育や訓練に、アクセシブルでユニバーサルデザインの概念や原理を統合する政策と法律制定を採択することを強く勧める。同じく、アクセシブルな情報コミュニケーションの技術開発者の養成と資格付与プログラムの開発を支援することを強く勧める。各国政府機関や組織、教育関連当局、国内の認証機関に対して、特にアクセシブルでインクルーシブな情報コミュニケーション技術の教育や訓練を監督し、また性能や成果を評価するための手続きを設計し実施することを強く勧める。

4.障害者の継続可能なデジタルインクルージョン

(a)問題とその背景

専門家らは、障害者のための個別特定化された技術的な収益構造を持続することは、実現可能でも実効可能でもないとの見解を示した。現在、多くの自治体では政策や法律は、専門の支援技術が代替アクセスシステムを必要とする障害者の主流の情報コミュニケーション技術とニーズや人の能力の間の差を埋めることができるとみなしている。

援助技術の業界は、技術的、経済的に必死の努力を行っている。障害者のためのデジタルインクルージョンを可能にする援助技術としてほぼ毎日進歩、更新される主流のシステムは、援助技術に関連する部分の素早く、早急な更新対応を必要とし、増え続ける大量のアプリケーションと主流の技術と同時に効果的に使用されなければならない。情報コミュニケーション技術の分野における新たな開発の方略は、援助技術の同時使用をますます難しくする。主流の技術と異なり、援助技術はよりコストがかかり、利用可能性、信頼性、機能性そして多様性の面でより劣ったものとなっている。

援助技術は、世界のほとんどの地域で広く利用可能ではない。それらが販売されていない多数の国では、もし利用ができたとしても、適切に維持されていなかったり、個人年収の50パーセント以上の価格であることもしばしばである。

そのうえ、適切な援助技術は、最も一般的な障害者のニーズに合うように存在していない。

同様に、情報コミュニケーション技術のための個別のアクセシビリティ基準や個別の技術仕様書を、実行・調和・維持することは難しい。他のすべての領域のように統合された主流アプローチは、より持続可能でそれほど高価でなく、最も効果的である。

(b)持続可能なデジタルインクルージョンに関する提言

専門家らは、以下を提言する。

1) 国内外の標準化機関は、その主流の技術的および相互運用性基準を確保し、機能仕様書が特定の標準、またはすべてのアクセス可能なデザインの解決策を進めるための仕様書の一部としてアクセシビリティを考慮した項目を含み、統合しているかに特段の注意を払うことを強く勧める。

2) 国連機関、政府の取締機関や組織、国際標準化機関に対して、アクセシビリティが法令順守のために利用可能性、特定利用や個別の援助技術により決まるべきでないということを知らせる政策、法律制定、技術標準を保障するために特段の注意を払うことを強く勧める。政策と法律制定は、必要に応じて、アクセシビリティの統合方法を奨励すべきである。

3) 各国政府、取締機関、民間、企業組織で障害者に対応する機能条件書を設計したり提供したりしようとする組織は、国のアクセシビリティポリシーや技術標準、法体系や法律制度を実行するために必要なあらゆる援助技術の助言を保障する情報コミュニケーション技術の主流となる開発者や製造者に対して、それらの機能に移転するため(または、公私の連携関係を締結するため)の選択肢を考慮すべきである。

5.すべての言語に対するアクセシビリティのための基本ツール

(a)問題とその背景について

障害者のデジタルインクルージョンは、言語固有の多くの重要な構成要素によってサポートされている。この構成要素には、文章から音声への変換(TTS)、音声から文章への変換(音声認識(speech recognition))、光学式文字認識(OCR)、ユニコード変換も含まれる。

最近、このような構成要素は一部の言語にのみ用意されており、ある特定の言語しか使えない多くの障害者たちの排除を招くことになる。言語固有の構成要素は、民間企業の参加のない独立した研究機関でしばしば開発される。これは多くの場合、開発と維持が一時的な資金援助の期間のみで終了してしまうということを意味している。

(b)すべての人のための言語固有の構成要素に関する提言

専門家らは、各国政府、国連機関、関心のある研究・訓練機関、さらには民間や法人団体に対して、最優先のこととして、国際機関で使われているすべての公用語のサポートを含め、鍵となる言語固有のアクセシブルな構成要素の開発に注目することを強く勧める。その取り組みは、可能な限り決まった期間を超えて継続的に行えることが予想される民間団体を参加させるべきである。

C.災害および緊急時への備えと危機管理におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術(ICTs)

1.アクセシブルでインクルーシブな災害対応および危機管理における重要な原則

専門家らは、以下の(a)~(c)の政策と施策の影響について再検討し議論を行った。 (a)2011年東日本大震災に学ぶ、災害への備え、対応、教訓に関する特別セッション。(b)国連障害者権利条約第11条(危険のある状況と人道上の緊急事態)。(c)「兵庫宣言」と「兵庫行動枠組2005-2015:災害に強い国・コミュニティの構築」。また、以下のような、アクセシビリティと障害者を含めた災害への備え、対応や危機管理の促進の原則を提案する。

1) 根本的な統合

危機回避、緊急時への備えや災害対応と復興のすべての側面において、アクセスと機能的なニーズのある人たちの統合と調整に焦点を当てること。

2) すべてのコミュニティへの働きかけ

すべての物理的、計画的な提供方法、コミュニケーションの提供方法において、アクセシブルな情報コミュニケーション技術を保障する「すべてのコミュニティ」への働きかけを利用すること。

3) 「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing about us, without us)」

障害者やその他のアクセスや機能的なニーズをもつ人たちは、災害や緊急事態に関連した行動についてすべての領域で完全に参加し、権限が与えられなければならない。このことは、事実上、障害者も「担い手」になるということで、態度を変化させ偏見を減らすこととなる。

4) アクセシブルな情報コミュニケーション技術のイノベーション(新しいアイディア)

障害者や障害はないがユニバーサルデザインやアクセシブルな情報コミュニケーション技術の専門家は、危機回避、緊急時への備えや災害対応と復興に関するアクセシブルな情報コミュニケーション技術の利用を変化させるよう(かつ、実際に役立つよう)導かなければならない。これらの経験から得た教訓(同様に遭遇した障壁)は、アクセシブルなフォーマットで文書化され、広く配布されなければならない。

5) 持続可能なアクセシビリティと普遍的な(ユニバーサル)アクセシビリティ

障害者を含めた危機回避や、緊急時への備え、災害対応と復興のための開発や、リソース一覧の作成と共有、施策実行や期待できる実践を通して、より持続可能であるようにコミュニティに働きかけ、支援すること。このことは、普遍的なアクセシビリティの計画、準備、対応、復興、再構築の促進を含んでいるが、制限はされない。

6) 回復する力

さまざまな物理的なサポートや情報コミュニケーション技術の基盤設備能力は、(a)低電力または無電力、(b)すでに存在する能力限界、(c)その他の災害または緊急事態の基幹設備への影響力などからなる要素であるべきである。回復力の分析は、鍵となるサービスにおける複数の選択肢もまた考えるべきである。例えば、障害者のためのアクセシブルなコミュニケーション方法として、AM/FM放送を文章表示用手元ディスプレイに表示するなどである。

2.障害者を含むインクルーシブな災害対応および危機管理に関する提言

専門家らは、「兵庫宣言」で確認されている、各国政府、地方や国際組織、金融機関、一般市民や非政府組織(NGO)や障害者団体、さらには民間組織や科学界にいたるまで、災害や緊急事態に関係のあるすべての利害関係者に対してこの提言を指示する。

1) 危機の識別と評価

利害関係者に対して、良い実践を行い、熟練しかつ経験豊富な人物に関する情報や、すべてのレベル(地方からより細かなエリア、国、地域、国際など)の知的・物的な資源(リソース)を共有するためのクラウドデータベースの仕組みとともに、地方コミュニティ資源を収集し、共有するためのオープンデータベースや保存庫(リポジトリ)の仕組みの設立とその発展を支援することを強く勧める。保存庫(リポジトリ)は、アクセシブルな情報コミュニケーション技術の提供や、機能上のニーズごとの内容やフォーマットでの供給を含め良い実践を含めるべきである。国レベルの保存庫(リポジトリ)は、誰もがアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術と情報サービスを享受するのを助けるという観点から、コミュニティやサービス提供者名簿の存在(かつ利用可能性)の情報を提供できる可能性がある。

2) 危機および災害回避計画

未実施の利害関係者に対して、障害者のニーズと能力、アクセスや機能的なニーズをもつ人たちへ対応するための条項を含めた、地方、国そして国際的な危機回避、緊急時への備えと災害対応と復興に対処する計画を整備することを強く勧める。危機回避と災害回避の計画は、災害対応と復興のために、彼らの完全かつ効果的な参加のために資源(リソース)を提供することと同様に、障害者団体の技術、知識、経験を取り込まなければならない。危機回避、緊急時への備えそして災害への対応計画は、習得、運営、維持そしてアクセシブルな情報コミュニケーション技術の項目を含まなければならない。

3) コミュニティレベルと個人レベルでの災害への備え

利害関係者に対して以下のことを強く勧める。

a)統一された公的警報システムやアクセシブルなデジタルラジオ、テレビ放送などコミュニケーション技術に関連したものを含む、災害への備え、対応、復興の過程の中で採用されているあらゆる情報コミュニケーション技術に関して、アクセシブルな基準を定義すること。

b)停電発生時には、緊急警報を知るための手回しラジオや悪天候でも使えるモバイル情報コミュニケーション機器、防水仕様や手回しラジオで充電可能な携帯電話など、低電力または代替電力を使った情報コミュニケーション技術を定義し、獲得すること。

c)アクセシブルな基準や、情報コミュニケーション技術に関係する物やサービスの説明に使う、平易な言語で書かれた文書などの開発やそれらの使用を促進をすること。

d)アクセシブルな情報コミュニケーション技術のアウトリーチ活動やトレーニングの開発と提供を約束すること。それは、計画者、危機管理チーム、地域のコミュニティそして個人が災害や危険な状況からの復興中や復興後に先立って利用できるもので、指導者養成、指導内容開発の計画、訓練提供の仕組みなどを含むが、これらに限定されない。

4) 早期の警告

利害関係者に対して以下のことを強く勧める。

a)アクセスや機能的なニーズをもつすべての人々のコミュニティ全体に届く多様な経路を介した方法で提供されるアクセシブルな早期警告とさまざまなフォーマットでの緊急情報を準備し、テストを行うこと。直近の経験から得られたものとして、ひとつの鍵となる提供経路は、Twitterのような、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックPCなど多様な方法で人々のネットワークにコンテンツを提供できるアクセシブルなソーシャルメディアである。

b)災害や緊急時において基準として提示できるような、アクセシブルなフォーマットで、明確ですぐに役立つ情報とガイダンスを提供できるであろう、国際的なモデルとなる開発と採択を調査すること。

5) 早急かつインクルーシブな対策

利害関係者に対して、災害や緊急時のすべての側面で効率良く緊急のニーズにコミュニティの資源(リソース)を適合させるアクセシブルな情報コミュニケーション技術システムの計画、開発、維持を支援すること強く勧める。例えば、アクセスや機能的ニーズを持った人々を含め、ばらばらになった家族やコミュニティのグループを再び呼び集めたり、アクセシブルな輸送手段や避難所を確認したり、影響のあったすべての人のニーズに合う必要なサービスを関係づけたりするようなものである。

6) 災害復興と再構築におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術

災害や緊急時の事前事後すべてのコミュニティベースの情報の素早く効率的な収集と分析ができるようになるので、緊急時への備えと同様に、災害復興と再構築の分析や計画、評価にアクセシブルな情報コミュニケーション技術を採用することを利害関係者に対して強く勧める。アクセシブルなソーシャルメディアは、災害や緊急時の状況の中で地域の人を動員し、連動させ、展開させるのに役立つ。また、それはコミュニティの知識と経験を動員するのに鍵となる役割を担うことができる。それは、すべての人のニーズが対応するコミュニティの設備を再構築したり、新たな構築の素早い実施に貢献ができる。例えば、改良されたアクセシブルな避難方法や、家族に優しいアクセシブルな避難所、そして、アクセシブルな学校やコミュニティの関係施設などである。

Ⅱ.会議の概要

A.開会式

日本財団の障害者事業担当のグループ長である、石井靖乃氏の開会の言葉で会議が始まった。次に日本財団の会長でWHOのハンセン病制圧特別大使でもある笹川陽平氏より基調スピーチが行われた。

1.基調スピーチ

日本財団の笹川陽平会長より専門家会議の参加者に対し、心からの歓迎と重要な本専門家会議を共催できることを光栄に思うとの基調スピーチがあった。日本財団は、日本国内および海外100カ国以上の国々で、国の安定と繁栄する社会のための能力を構築するための基本構成要素である教育・健康と社会福祉・食料保安に関するさまざまな活動を支援する非営利社会貢献団体である。笹川会長は、これらのフィールドワークを通して、問題解決のための主な障壁は直面する困難そのものにあることは少なく、外からもたらされた解決方法にあると気づいたという。どのような問題でも一番の解決方法は、それが影響する人々の生活様式や常識に合ったものであるということである。しかしながら、問題を解決しようとする者は、彼ら自身の価値観や方策を用い、異なる思考様式を考慮しなかったり、全く新たな方策で問題に取り組む場合がある。

財団がたくさんのパートナーと取り組んでいるような、多くの障害者をエンパワメントやセルフアドボカシーへと導くようなプログラムの設計や実行のための能力構築の取り組みに、障害者は参加する機会を享受できていないと認識している。これは障害者に偏って被害が発生した2011年の東日本大震災と津波被害に続いて特に注目すべき領域となったとのことである。

情報とコミュニケーション技術に焦点を絞った会議ということで笹川会長は、日本財団がアクセスを手助けするためにテクノロジーを用いて行った、聴覚障害者のためのスマートフォンを使った遠隔手話通訳サービスの事業について言及した。このプロジェクトのスタッフが考慮していなかったものは、一番大切な人間であったという。機械をインターフェースとすることは、たとえスマートフォンを使った経験があったとしても受益者を制限することを意味している。機械技術の導入は、それが必要とされるものに変わるまで、限られた理解と運営に影響されたプロジェクトに終わってしまう。人間的要素(ヒューマンファクター)と価値観や文化を尊重するという会長の視点は、差し迫った問題に対する解決策の設計に必要不可欠な要素であり、また、独創的かつ力強い解決方法である。このことは成功できるものであり、かつ持続可能であり、インクルーシブなプロジェクトには絶対に必要である。最後に、笹川会長は、専門家らが十分な討議を進められることまた、それによって得られた討議結果と提言から多くのことを学べることを期待していると述べられ挨拶を締めくくった。

2.歓迎のあいさつ

次に、本会議の共催団体である国連広報センター(UNIC)の東京支部センター長の山下真理氏より、歓迎の言葉が述べられた。山下氏は、アクセシブルな情報コミュニケーション技術は、国連の事業においても、日本においても同様に最大の関心事であり、持続可能で、公平かつインクルーシブな開発の文脈には重要な課題であると述べた。アクセシブルな情報コミュニケーション技術と障害に対する備えと対策の特別セッションは、日本と国際社会の経験を交換する重要な機会を提供する。会議によって得られた成果は、アクセシブルな情報コミュニケーション技術論を高めることそして、日本および国際的な発展に貢献することを確信していると挨拶した。

3.開会のあいさつ

続いて、主催である国連事務局経済社会局(UNDESA)社会政策開発部門および、障害者権利条約専門委員会事務局長の伊東亜紀子氏より、会議開会の宣言と開会のあいさつ、引き続いて、UNDESA副事務局長のシャ・ズンカン氏より歓迎の挨拶が述べられた。伊東氏は、本会議開催にあたり、国連広報センター(UNIC)と日本財団の2つの共催団体に対して感謝の意を述べた。

さらに伊東氏から、障害分野における国連の事業について簡単な紹介と国連組織にとってUNDESAが世界的に中心となって担っていることについて説明がなされた。UNDESAとその関係団体は、持続可能で、公平かつインクルーシブな開発の文脈におけるアクセシブルな情報とコミュニケーション技術(ICTs)を提案するための、新たな問題や傾向、そして戦略的選択を考えるためにこの会議を開催したこと、また、この会議は、2015年以降の国際的な開発の戦略の選択肢を討議することに重点を置いていることについて言及した。そして、本会議の結果と提言は、来るべき2013年の国連総会のハイレベル会合、「その先へ:2015年とその先を見据えた障害とインクルーシブな開発の課題」というテーマの各国政府首脳レベルの障害と開発会議にて報告されることになると説明がなされた。ハイレベル会合は、障害の観点からの2015年以降の持続可能かつ公平な開発とインクルーシブな社会を促進することが選択肢として重点的に取り組まれるという結果が採択されることが期待されているとのことである。

続けて伊東氏は、本会議では障害者を含めた災害時の対応と復興におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術の役割、2011年の東日本大震災と津波からの教訓やその他の国々での同様の経験についても検討されるであろうと述べた。2015年に日本で防災に関する国際会議が計画されていることを考慮すると、伊東氏は、本会議の結果と提言は、障害インクルーシブな手法と効果的、かつ革新的な、災害対応と緊急時におけるアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の好事例と最初の原則を、国際社会に対して提供できると述べ、挨拶とした。

B.全体会1:4月19日

1.ICTsアクセシビリティの概要:方針、仕組みと技術について

国連のコンサルタントを担当している、クリントン・ラプレー氏が最初の全体会の司会を担当し、議題案と作業計画についての意見を求めたが、特に意見は出されなかった。採択された議題は、この報告書の第3章に掲載した。

議題の採択に従って、ラプレー氏から会議の目的、作業の進め方、想定される成果などについて簡単な説明が行われた。その中で、本会議は以下の3つの問題について国連に対して助言をすると述べた。(1)情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに関する問題と傾向、(2)アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の促進のための革新的かつ見込みのある実践、技術、手法に関する将来を見据えたアセスメント、(3)優先的かつ実用可能な、すべての人のためのアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術促進のための行動指針的な提言。さらに、開発の文脈における情報コミュニケーション技術のアクセシビリティは必要不可欠である:については、「RIO+20」と呼ばれる国連持続可能な開発会議(2012年6月20~22日にブラジルのリオデジャネイロ開催)の場で提言され、また討議は、2015年に向けた国際開発戦略のための選択肢として進行中であることが述べられた。これらの会議は、専門家会議の結果と提言によってより強化されるであろう。問題が両会議の議題を促進するための政策の策定に関する選択権(これらの選択権には、技術政策と技術構造に関する者も含まれる)の問題ではないので(重要な関心事であることは認めざるを得ないが)、両会議は、今回の会議の成果と提言で強化されるであろう。ところが一方で、その必要性は、すべての人々のための持続可能で平等な成長と変化を促進する要因としてではなく、アクセスと人間の機能的な面で条件のある主要な人々についての問題として、アクセシビリティと一致するような実際の知的構成概念に取り組むための方法に注目することである。

この会議では、全体会と分科会でそれぞれ作業を行う。最初の全体会では、政策と仕組み、技術の観点からアクセス可能な情報コミュニケーション技術の課題と傾向を概観、検討し、実際問題として、情報コミュニケーション技術の経験から得た知識を選び出す。4月20日の特別セッションでは、2011年の東日本大震災および津波被害と同様の国際的な経験の文脈におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術の役割を考える。4月21日の最後の全体会では、成果と提言についての発表と討議に取り組む。本会議の報告書は、本会議終了後にもその他の会議で使われる。: 世界的な障害問題と傾向に関する国連第67回総会(2012年)で背景となる報告を提供し、2013年の9月23日に行われる国連総会での障害と開発のハイレベル会合で技術的なリソースとして用いられる。そして、2015年以降の国際的な開発会議やその他の国際的な開発に関する討議の選択肢として議論を支えるものになる。

2.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:世界的な枠組み

UNDESAの伊東氏より、障害と開発に関係する問題と傾向についての簡単な説明がなされた。特に、持続可能で公平かつインクルーシブな開発の出現は、2015年以降の国際的な開発会議やすべての人のためのアクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術の実施の重要なテーマとして取り上げられている。2013年の9月に行われる国連総会の障害と開発のハイレベル会合の準備に、アクセシビリティと障害を包括した開発に関する本会議の成果と提言が役立つであろうという認識をしている。第51回目(2013年)の国連社会開発委員会を含む、会議の成果が期待されている他の政府間会議は、「貧困撲滅とソーシャルインクルージョン(社会的統合)における人々の地位向上とエンパワメント(権限付与)」を最優先のテーマと考え、2013年の国連経済社会理事会の閣僚による実質的な見直しでは「持続可能な開発とミレニアム開発目標の実現のための、科学・技術・革新そして文化の可能性」を検討することになっている。

伊東氏は、3つの考慮すべき政策の枠組みを提示した。まず一つ目は、障害と開発の存在を考慮した包括的な世界的政策の枠組みである。すべての世界行動計画や基本ルールと条約は目標としてアクセシビリティについて取り組む。また、人権の枠組みの後半で、開発における障害者の完全参加と平等を促進する手段としてアクセシビリティについて取り組む。しかしながら、そのフレームワークでは、すべての人のためにアクセシブルでインクルーシブな(差別がない)社会を構築する手段上の実践的な見識を得られない。二つ目は、制限のある中での開発の文脈におけるアクセシビリティの政策ガイドラインである。ゆっくりとではあるが増加する、例えば、たくさんの国際的な開発が連携して政策を実践をするなど、アクセシビリティは、主流となる共通の開発課題に言及されていることを示唆した。三つ目は、近年の国際的な開発政策にふさわしいものとして今回の専門家会議の成果は世界的な開発の討議に役立つことである。焦点は、8つのミレニアム開発目標(MDGs)と主要なその他の経済や社会、これに関連する分野の国連会議やサミットの成果である。これらは、現在進行中の「Rio+20(国連持続可能な開発会議(2012年6月20~22日リオデジャネイロで開催))」と、2015年に向けたミレニアム開発目標の第3回進捗確認会議の準備において平等とソーシャルインクルージョン(社会的統合)を増進させることになる。

3.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:国際機関の経験から

国際電気通信連合(ITU)のアジア太平洋地域担当官のウィジット・アチパヤクーン氏より、ITUの電気通信の開発分野に関する簡単な紹介と、アクセシブルな情報コミュニケーション技術に関する事業の説明が行われた。話の焦点は、ITUのアジア太平洋地域事務所とモンゴルで行われた、「デジタルインクルージョン」促進のための試験的な取り組みについてであった。この取り組みは、盲人と訓練をするエンドユーザのための読み上げソフト(スクリーンリーダ)と互換性のあるモンゴル語の文章読み上げ機能(TTS)を作るために、モンゴル語の試験的なTTS(文章読み上げ)機能をベースにしたモンゴル語のHMM(hidden Markov Model)の確立を重点的に取り組んだ。この取り組みは、モンゴル盲人協会も参加して行われた。その他にも、モンゴル国家ITパーク(NITP)、モンゴル国立大学、タイ国家電子・コンピュータ技術センター(NECTEC)も参加した。2011年5月にこの試験的期間は成功裏に終了したものの、モンゴル語の読み上げ機能(TTS)の継続的開発のサポートや、さらなるユーザの拡大に関しては確認されておらず、モンゴルでの読み上げ機能(TTS)サービスは試験の段階のままになっている。全体的にかつ効果的に利害関係者(ステークホルダー)と受益者の興味をデジタルインクルージョンイニシアティブに引き付けることの重要性がこの経験を通してわかった。関係する行政機関や組織、産業界も合わせて情報交換を行い、興味を引き付けることが大切である。そして、引き続きデジタルインクルージョンイニシアティブの実行、維持、さらなる開発を支援するために「ユニバーサルアクセス」基金の利用を含め、伝統的ではない選択肢を研究する必要がある。

4.アクセシブルなICTsの方針と仕組み:日本の視点から

早稲田大学(東京、日本)の小尾敏夫教授より、特に災害と緊急事態におけるその役割、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティの状況と見通し、そして将来の取り組みの予測について、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術における日本の視点についての発表が行われた。小尾教授は過去20年間に、日本は地震や台風、津波などの大災害に数多く見舞われたことに触れた。これらの災害の負傷者のうち、70パーセントが、高齢者や障害者であったと説明した。

このような日本の過去の経験は、災害対応と災害管理の市民教育と訓練、中央政府と地方自治体との連絡体制の強化、関連するコミュニティの災害発生前後にわたるネットワークづくり、災害への備えと災害計画と対策の実践的な手引きの広範囲への配布、そして影響を受けやすい人の集団に対する適切な資金提供と支援サービスの提供を含めた、大災害に関する減災を示唆している。

小尾教授は、情報コミュニケーション技術におけるアクセシビリティの観点から、以下のような考慮すべき重要な要因があると述べた。高齢者およびアクセスや機能的な制限のあるすべての人々のニーズと能力に合致した計画をすること。無理なく買え、使いやすくかつ長期使用可能なエンドユーザの装備を明確にすること。そして、一般的な連絡手段と同じような安全かつ安心な方法で、アクセシビリティを提供すること。計画されたアクセシブルな情報コミュニケーション技術は、経済的影響と意図した受益者の間の公開情報と能力開発の両方の手段と同様に社会も考慮に入れなければならない。また教授は、日本の障害者のデジタルインクルージョン(または、電子参加)の促進に関する実践的な例として電子政府サービスとアクセシブルでスマートな移動手段を引き合いに出した。

情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに関する技術的な標準化は、ITUと同様に国際標準化機構(ISO)の関係リソースを利用している。国の標準化団体である日本規格協会(JSA)は高齢者や障害者に対するアクセシビリティと使いやすさについて日本工業規格(JIS)を公表している。アクセシビリティ基準実施の主な障壁は適切に規定された枠組みがないことが挙げられる。これはJISが単にデザインの指導にすぎないこと、アクセシビリティの指導と促進のための資金供給が限られていること、行政当局と個人の両方にアクセシビリティの役割が理解されていないことを意味している。その他の要因としては以下のようなものがあげられる。教育を受けた経験のある職員が少ないということ、行政分野と組織の調整がうまくいかないこと、アクセシブルで使いやすい手段を作り出す中で実験や革新を奨励するような方法がないことなどである。彼の見解では、これまでの経験では、根本的なソフトウェアの部分と社会と制度の要因に対してもっと注意を向けるよう示唆があるのにもかかわらず、情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティのハードウェア面ばかりが取り上げられすぎているということであった。構造的側面からみて小尾教授は、高齢者や障害者と関係する問題の責任を担う大臣級の行政体の構築が、日本の社会のために望ましい開発になるだろうという強い見解を示した。

5.アクセシブルかつ使いやすいICTsの促進に関する話題提供

(a)ヨーロッパ連合

アイルランド共和国、ゴールウェイにある国立アイルランド大学からの参加者で、国家障害庁所属のドネル・ライス氏より、特にアクセシビリティ促進のための技術的な標準化と国の法律制定に沿った公的調達の利用について、情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティ政策と実践の全体像が短く紹介された。

ヨーロッパでは、情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティが15年以上前から政策課題となっていたと、ライス氏は指摘する。当初、EUはウェブサイト、セルフサービス端末すなわち情報端末、電気通信、デジタルテレビ放送の4つの技術エリアに焦点を当てていた。アクセシビリティは、平等と経済的な問題の両方として扱われていた。しかしながら、欧州委員会に委任された研究で文書化されたが、EU指令を実行することはなかなか進まなかった。

政策の枠組みを作る際に重要な役割を担うEU各国の障害者権利条約の批准は、ヨーロッパの国レベル、コミュニティレベルの両方で情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティの改善について議論する。欧州委員会の検討すべき障害とデジタル経済についての議題は、ヨーロッパ全体レベルで情報コミュニケーション技術のさらなる立法化された行動について明確な義務を含んでいる。これらは、特にウェブ・アクセシビリティの分野とより包括的なヨーロッパ・アクセシビリティ・アクトにおいて、直接活動のための4つの提言の義務が含まれている。これらの提言は、今年(2012年)の終わりまでにドラフトの形で出せるよう現在作業中である。

根拠に基づいたさらなる法制化の支援をすることは、欧州委員会がヨーロッパ中の情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティの基準レベルを継続し、ばらばらになったアクセシビリティ機器の利用によってもたらされた市場バリアの研究をすることである。2005年に欧州委員会は、標準化への取り組みを開始することや、アクセシブルな情報コミュニケーション技術を促進するツールキットの調達をすることという欧州指令M376を、重要な標準化組織である欧州電気通信標準化機構(ETSI)に通知した。ヨーロッパの新しい情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティの基準は、2013年の後半に完成することになっている。この基準の開発にあたって背景となった重要な動機は、公的調達で利用に際してアクセシブルな必需品のまとまりを供給することである。このような必需品は、現在異なる国々で調達されることによって規定された多数の分裂した必需品、全く正反対の必需品と交換するために開発された新しい法律制度に触れられる可能性を秘めているかも知れない。情報コミュニケーション技術が世界的な産業として、必需品はこの基準で規定され、世界の他地域との調和を取る必要がでてくるであろう。

ライス氏は、ヨーロッパはアクセシビリティ政策の枠組みの開発で危機的な岐路に立っていると指摘する。現在開発中の基準と法律は、ヨーロッパすべての障害者のための情報コミュニケーション技術のためのアクセシビリティレベルに対して長期的なインパクトを与え続けるであろう。

このヨーロッパの経験からは2つの大きな学ぶべき点がある。まず一つは、公的調達は市場に影響を与えるための効果的な方法となりうること。二つ目は、公共政策を策定することは、方策を提案するための強力なビジネス・ケースで支えられるということである。彼の見解では、厳密なビジネス・ケースが情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティのために開発されているとのことであった。

(b)カナダ

カナダのオンタリオ州立芸術大学のインクルーシブデザイン研究センター所属のジュッタ・トレビナルス氏は、実践から学んだ教訓に焦点を当てて、カナダの視点から見たアクセシビリティに関する問題と傾向について議論をした。カナダの注目すべき進展は、「2005年「障害のあるオンタリオ州民法(AODA)」である。これは、アクセシビリティを訴訟の問題として扱うのではなく、環境調査や公衆衛生調査のような問題として扱うところに特徴がある。このことは、法令順守の監視の責任を、アクセシビリティのケースでは通常法的手段を求める必要のある障害者個人に残すのではなく、政府が民法実施のための法的な正当性を監視することが必要条件であるということを意味している。「障害のあるオンタリオ州民法(AODA)」によると、公私ともにすべての組織は、アクセシビリティについての法令順守に関する年次報告書を出さなければならず、違反が発生した場合には、環境関連法のように罰金を徴収される。

もう一つの例は、作成ツールのアクセシビリティ・ガイドラインについてである。カナダは、規則を作ることではなく、アクセシビリティの概念と原則を携帯電話のアプリやウェブコンテンツを作成することも含めた、ソフトウェアやアプリケーションを作るために使用されるツールやアプリケーションの中に統合することでアクセシビリティを順守することを求め続けている。そうすることで、たとえアクセシビリティについて関心がなかったり、知らなかったとしても、作成ツールがアクセシブルであるように促し、導くのでアクセシブルなコンテンツやサービスを作ることができる。カナダは、間もなくアクセシビリティ・ガイドライン2.0作成ツールをリリースする予定である。

また、トレビナルス氏は、4つの課題を示し、これらが情報コミュニケーション技術に与える影響を挙げた。一つ目は、主流となる情報コミュニケーション技術の性能特徴と障害者のニーズと能力を反映した必要条件の間のデジタルギャップを埋める援助技術の現行の開発方法は機能していない。援助技術は主流となる情報コミュニケーション技術の製品やサービスに後れを取ってしまっている。二つ目に、情報コミュニケーション技術に関する製品やサービスへのアクセスするための方法の個別化は現在実行されているアクセシビリティの法制化と逆行しているように思われる。3つ目は、公的助成にふさわしいアクセシビリティ技術を提案する頃には、それらの技術は主流の情報コミュニケーション技術の製品やサービスに比べてすでに古いものとなってしまうこともしばしばである。その結果として、アクセシブルな情報コミュニケーション技術の訓練や援助機器の手軽さのためには、他の手段を考える必要がある。四つ目は、アクセス認識の問題は、たくさんのアクセシブルな情報コミュニケーション技術に関する取り組みと現在利用できる情報コミュニケーション技術基準において欠如している。その問題は、機能的リテラシーとe-リテラシーについて強い関係があり、また、高齢化との関係も浮上する。

トレビナルス氏は、特にクラウドベースの技術のように、アクセシブルな情報コミュニケーション技術の有効性が高まることに貢献する新たな有利な条件も示唆した。これらは、クラウドソーシングやクラウドディストリビューション、クラウドベースのアクセシビリティに関連した技術を製造したりサービスを提供したりすることも含まれている。トレビナルス氏は、新しく生まれた好事例として、「すべての人のためのクラウド」、地球規模の公的なインクルーシブな社会基盤、クラウドベースのアクセシビリティ実践を引き合いに出した。経済の全体像から、クラウドベースのアクセシビリティ技術は「押す」市場ではなく、「引く」という作品につながるだろう。顧客の選択に頼る「引く」市場であるので、ひとつの形式の製品とサービスをエンドユーザに押し付ける大量生産に反するものとして、顧客のニーズと能力が製品とサービスの混合やデザインを後押しする。

(c)ブラジル

ブラジルのサンパウロ州、障害者権利に関する州政府職員のシド・トロクアト氏は、公民両方の領域での組織の枠組みとアクセシブルな解決方法の促進について、いくつかのポイントを考察した。彼の経験から、障害者に関する政府機関の核を作ること(または、団体や政府機関を調整すること)は、連邦政府から州や市など、すべてのレベルにおいて障害者に差別のない(インクルーシブ)開発の進展に決定的、重大な意味をもつ。彼は、国連が、障害者そして、すべての人のための開発とアクセシビリティに関する取り組みを促進して調整し、また事務総長に対してその結果と提言を発表するために、世界的な「特別対策本部(タスク・フォース)」を設置(または、UNDESAが担当)する可能性を考えるべきだという意見であった。最後に彼は、他の問題と同じように、成功例のノウハウや情報の交換を促進するであろう障害と開発に強い関心を持つ世界的なネットワークのパラメータと同様に、選択肢を考える必要があると指摘した。

(d)南アフリカ

南アフリカ独立通信庁から参加の、ホサ・マシャンゴアン氏は、国内の障害者の状況とアクセシブルな情報コミュニケーション技術についての概要を発表した。情報コミュニケーション技術が無理なく買えるということは、発展途上国の人々の大きな関心事であるとのことであった。国内の障害者の約57%が携帯電話を所有し、エンドユーザが端末を選ぶ時に重要視するのは料金であるということが近年の調査で判明した。南アフリカにおいて、障害者の権利法は、放送局が障害者のためのアクセシブルなサービスを提供しなければならないということを規定している。アクセシブルな情報コミュニケーション技術の促進は、それ自体を含めた、アクセシビリティと開発に影響を与えることができるということを政府組織機関に対してはっきりとした命令と義務のある適切な組織的な枠組みを必要とする。その他の重要な要因は、アクセシビリティの概念や原理における情報公開や教育、訓練に対する支援を含む。これらのすべての取り組みにおいて、秩序だった協議と政策の選択肢を考える際の障害者の効果的な参加、実施法略、監視と評価が必要不可欠である。

(e)地域間

G3ictの事務局長である、アレックス・レブロイス氏は、国の障害政策と施策、「障害者権利条約2010年進捗報告」で、障害者インターナショナル(DPI)との協力を行った直近のG3ictの調査結果をまとめて発表した。この調査は、32の障害者権利条約の締約国が参加し、アメリカはその基準値として用いられた。それによると、締約国の91%が、憲法またはその他の法律に障害者の権利を定義する規定があると回答、また、73%の国が、合理的配慮についての明確な定義があると回答しているが、アクセシビリティを規定し、なおかつ法律やその他の規定などでアクセシブルな情報コミュニケーション技術を採択したという政府は、58%にすぎなかった。

この調査は、情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティ政策の開発と実行にバリアとなるものと同様に、成功のための重要な要因を明らかにした。例えば、情報コミュニケーション技術に関するアクセシビリティ基準を含めた公的調達のルールは、特に効果的であることが示されている。成功事例は、アクセシビリティの法律制定、条約または規定がそれぞれ単独では機能しないが、それらは、すべての人のためのアクセシブルな情報コミュニケーション技術の製品やサービスを促進するための包括的な枠組みの一部を担うべきであるということを示唆している。これらの経験はアクセシビリティに関する利害関係者は、領域、背景や適応によっても異なるということを示している。教育と雇用から放送用の電気通信手段の促進などの状況において、すべての領域や区域に機能する一つの解決方法はないということをデータは示している。例えば、民間の開発者がインターネットや携帯電話などの環境の両方で、製品やサービスやe-コマースなどのアクセシビリティに焦点を当て配慮すると同時に、公的なところでも電子政府や教育、公的サービスでアクセシビリティに焦点を当てるということである。多様な利害関係者が一緒に活動する場合には、このデータは達成されるという明らかに良い結果が示されている。また、多様な利害関係者の認識の高まりや情報公開、e-リテラシーを含む能力開発が、必要不可欠な成功の要因である。

民間の情報コミュニケーション技術開発者やサービス提供者に情報コミュニケーション技術のアクセシビリティ政策を実施するという挑戦は、アクセシビリティの問題や概念の経営上の認識の低さ、また、アクセシビリティの基本とユニバーサルデザインの概念と原理について良く訓練された、経験豊富なスタッフの数に限りがあるということを含んでいる。アクセシビリティは、市場の機会を開拓したり、市場シェアを上げるために使われるというよりはコストの面、または、法令順守によって判断が左右される。企業の社会的責任の法略は、アクセシビリティに対する政治公約の代用品ではない。

公の部分では、先ほどの調査で、59%の国々が、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティ基準の採用や促進に至っていない。72%の国々では、デジタルアクセシビリティに関する政策決定に障害者団体を取り込むような体系だった仕組みがない。また、87%の国々では、障害者のデジタル・アクセスについてデータや統計データを維持していない。

情報公開や訓練などを含めた国際的な協力のためのそれぞれの領域は、開発の文脈におけるアクセシブルな情報コミュニケーション技術のための実験的な取り組みや、ネットワークづくり、優れたものの集中化に対する支援である。これらすべてのものは、乗数効果を得るために国連機関とよく連携していくべきである。

(f)参加者からのコメントや見解

会議参加者からは、討議を通してたくさんのコメントや見解が寄せられた。その中には、情報コミュニケーション技術の促進や市民社会のかかわりにおいて、公的な品物や技術的基準の役割や、ガイダンス規定などとは対照的なアクセシビリティのビジネスケース(商用のものに関する事例)についての質問も寄せられた。

日本貿易振興機構(JETRO)の森壮也氏は、情報コミュニケーション技術のアクセシビリティの促進に関して、彼が収集した途上国の実践事例のデータを紹介した。JETROはバングラデシュ、ガーナ、インド、マレーシア、カタールのそれぞれの国から、2005年6月から2012年4月にかけて66の事例を集めて調査した。その結果、政府の自発性と、情報コミュニケーション技術への支援、そして、障害インクルージョン(障害統合)は、アクセシビリティの政策と施策の実施が成功するためには重要であるという結果が調査から得られた。また、いくつかの途上国では、すでに情報コミュニケーション技術に関する国家政策が整備されているということが判明した。世界的な情報コミュニケーション技術に関する企業が技術支援の提供で大きな役割を担っている一方で、障害者団体は、情報コミュニケーション技術の能力強化のためのトレーニングの実施を最も活発に行ってきた。彼の調査によれば、企業の社会的責任の観点と長期的な採算性の両方の理由から、情報コミュニケーション技術に関する大企業数社は、運営の関心事となるそれぞれの領域の情報コミュニケーション技術のアクセシビリティについての研究開発に投資してきたということが判明した。

C.特別全体会:4月20日

1.インクルーシブかつ即応可能な災害時への備えと対策:東日本大震災と津波被害の経験から

日本から参加のDAYSIコンソーシアムの河村宏氏が、特別全体会の司会を務めた。招待された日本の専門家や参加者は、ハイチ、インドネシア、ロシア、スイス、アメリカそして国連の災害と危機管理の専門家とともに全体会に加わった。参加者らは、(1)災害直後に広がった状況と被災地域で取られた対策について、(2)障害者の視点からの情報とコミュニケーションへのアクセスについて直に得られた知見について、(3)防災と災害対策、そして復興における障害者インクルーシブでアクセシビリティを補強するための地域社会(コミュニティ)と政府と国連機関に対する現場実践と提言から学んだ教訓に関する反省について集中的に、活発な討議を行った。

主な発表は、以下の参加者から行われた。日本放送協会(NHK)の迫田朋子氏からは、2011年東日本大震災と津波の被災地で障害者に与えた影響に関するNHKのドキュメンタリー映像が紹介された。日本障害者フォーラム議長の藤井克徳氏は、地震と津波に対する緊急対策での障害者のニーズに対応する重要な課題と対策について、またそれらの取り組みにおける日本障害フォーラムの役割についての考察を行った。宮城教育大学の松﨑丈氏は自身が地震と津波を経験し、災害時のろう者および難聴者が置かれた状況について詳細を報告し、またアクセシブルなコミュニケーションについての際立った重要性について指摘した。アメリカ連邦緊急事態管理庁(FEMA)のマーシー・ルース氏は、FEMAが緊急時への備えと危機管理が障害者にとって完全に差別がないものとなっている(fully inclusive)ことを保障するために取っている対策について考察した。そして、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)のヘレナ・モリン・バルデス氏は、ジュネーブの事務所で撮影したビデオメッセージの形で発表を行い、障害者のニーズや能力をすべてまたは効果的な取り組みのための災害への備えと対策に関する世界的な傾向について説明を行った。

各々の発表の後には、遠隔地から参加協力をしてくださった専門家が(スカイプを使ったテレビ会議を用い)ネット上から参加する形で、討議を行った。その専門家らは、それぞれ以下のような発表を行った。ハイチ障害大臣のジェラルド・オリオール・ジュニア氏が、2010年の1月に発生した地震に関連した継続的な取り組みと課題およびその震災直後のハイチの障害者が経験した状況について説明を行った。モスクワに拠点を置くロシア視覚障害者協会のアナトリー・ポプコ氏は、ロシアで、障害者インクルーシブな障害対策と緊急時対策の概念ができつつあること、またこれに対して良い影響のあるような実践的な知識に限界があることを指摘した。次に、スイス、ドミニク財団のクラウディオ・ジグリエマ氏は、パナマ政府とパナマ大学と共同して、中央・南ラテンアメリカにクラウドベースのアクセシビリティ技術を紹介するためのパナマの能力開発プロジェクトに従事している。彼は、クラウドベースのプラットフォームが、教育や医療、電子政府や電子支払いシステムなどの分野においてアクセシブルで使いやすいコンテンツやサービスをサポートでき、障害者のアクセスを完全にするだろうと予想した。インドネシアから参加のクク・サイーダ氏は、これまでの参加者と同様に遠隔地からのテレビ会議で参加を予定していたが、回線接続がうまくいかなかったために、資料配布によりインドネシアの状況を報告した。日本政府外務省の代表者が、東日本大震災と津波に関する対応と復興手段に関する短い発表を行い、障害者の完全かつ効果的な包括(インクルーシブ)を保障するための政府の取り組みを続けるということを述べた。

2.得られた教訓について

日本そして海外から災害対策と危機管理についての知見などの報告や活発な協議は、政策の枠組みや現場実践、そして情報コミュニケーション技術の役割に参考となるたくさんの重要な教訓を生み出した。

まず、一般の人々に対して、障害者は自然災害発生時はより被害を受けやすく、放置されがちであるということが分かった。そのことには以下の3つの理由が考えられる。(1)インクルーシブかつすぐに対応できる備えと危機管理の手続きの欠如、(2)具体的にアクセシブルな情報コミュニケーション技術を取り込んだ災害対策関係の警戒情報とコミュニケーションへのアクセスの不足、(3)早期警戒情報と緊急時にサービスへアクセスするための障害者の能力とアクセシブルなコンテンツ(内容)を提供する主流のコミュニケーションサービス能力との大きな隔たり、そして、避難施設やサービスのアクセスしやすさや便利さの限界または欠如などがある。

次に、専門家らは、災害対策の政策と法略が、平常時、災害のない状況で準備されていることと、それらの政策と法略の災害と緊急時の実性能の間のギャップが明白であると指摘した。運営上の課題は、コミュニケーション・ツールの代わりとなるようなもので、停電時やその他の重要な社会基盤のバックアップ方法の欠如を含んでいる。このような状況では、特に東日本大震災と津波では、聴覚に障害のある障害者が経験したかなりの苦しみと同様に高い死亡率や罹患率を増やすこととなる。初期の公的データでは、東日本大震災での障害者の死亡率は一般の被災した人に比べて2倍(または非常に高い)数値を示している。国際的な統計を見てみると、地震や津波で亡くなった被災者の50%から70%は高齢者か障害者であるということを示している。

これらの2つの重要な教訓は、東日本大震災と津波での対応の経験からもたらされている。(1)2011年の大震災と関連した津波がこれまでにない規模であったために、存在していた対災害政策と手段は機能しなかった。(2)通常の災害シナリオにデザインされた応用可能な基準と手続きは東日本大震災と津波のような非常に困難な状況ではうまく機能しない。

参加者らは、現在の「兵庫行動枠組み」における障害者のアクセスの取り組みと機能的ニーズに対するセーフティネットと手続きを含む必要性について特段の注目をした。また、日本やそのほか世界での障害インクルーシブな災害対策の好事例がたくさんあることを指摘した。例えば、日本での一般社会に向けた防災と防災教育は、成功していることが確認され、世界中の様々な状況で再現されてきた。防災トレーニングのリソースやツールキットは、日本の文部科学省のウェブサイトからダウンロードが可能となっている。2011年の地震と津波を通して、障害インクルーシブな対策に役立つようなたくさんの官民分野のイニシアチブがある。例えば、日本財団は、スマートフォンを使った遠隔手話通訳サービスを地震と津波で被災したエリアの聴覚障害者に対して提供した。アメリカでは、FEMAが、2006年のハリケーン、カトリーナを含むこれまでの緊急時の対策から学んだ教訓を考慮して、災害対策と復興のために「ホール・コミュニティ・イニシアチブ」を設けた。その他の将来有望な実践や革新的なアプローチには、以下にあげるようなものがあった。(1)アクセシブルな情報コミュニケーション技術の製品やサービスのクラウドベースでの供給、(2)災害対策と復興において情報コミュニケーション技術のアクセシビリティの促進に、北地域と南地域、南地域同士の連携と同じように官民を横断するような、一つではなく、さまざまな利害関係者の相互関係を利用すること。

3.インクルーシブな災害対応、復興および危機管理に関する障害者への影響

議論では、開発のすべてのレベルにおいて障害の全体像を主流に組み込む取り組みを倍加し、一般の認識を高める緊急の必要性、また、障害者が主体であり、また受益者として完全かつ効果的に含まれるような災害への備えと危機管理のための法略とプログラムを保障する必要性が示された。

基本的な考えとして、特に、アクセシブルな情報とコミュニケーションサービスと、アクセシブルで使いやすく、便利で、安全で安心な避難施設を含めたものとして、災害と緊急事態での障害者の権利とニーズは、国際的、国内的両方の面で災害関係の政策、方略、施策に完全かつ効果的に組み込まれたものでなければならない。このことは、あらゆる障害者のニーズと、特別なアクセスや機能条件書のあるものが、すべての被災者にとって不可欠なサービスと設備を平等に利用し、福祉・生活・社会への融合に影響する判断に完全に参加できること、同じ権利を享受しなければならないということを意味する。このような、イコールアクセス(平等に利用できること)やアクセシブルなサービスや設備に関する検討事項は、官民両方の利害関係者に関係するものであり、防災計画と、早期警報、避難と移動手段、避難生活、応急処置と医療サービス、仮設住宅そして、復興と再生手段という災害と危機管理のすべての側面とすべての段階において関係するものである。

参加者らは、2015年に日本で行われる次回、国際防災世界会議について触れ、障害インクルーシブな手段とアクセシブルなサービスや設備は、会議の準備においてすべて、効果的な配慮がなされ、発表されるであろう会議の成果に明確に簡潔に含まれていなければならないという確固たる見解を示した。

D.全体会2:4月21日

1.結果と提言の考察と採択

ここでは、3つの分科会の結果と提言について考察と討議を行った。結果と提言は、会議で使用する仮編集の形で配布され、各分科会の発表者から説明が行われた。その後、短時間の意見交換と不明な部分をはっきりさせるなどを行い、会議参加者たちは前述のような提言を採択した。

2.閉会式

今回の主催団体である、日本財団の石井靖乃氏、国連広報センター東京の山下真理氏、国連事務局経済社会局の伊東亜紀子氏のそれぞれから閉会にあたり挨拶があった。

専門家らは、これら日本財団、国連広報センター、国連事務局経済社会局のすばらしい支援と協働に対してその感謝の気持ちを公式に記録として残すことを望んだ。

また、同様に以下に対しても同様である。

(a)専門家会議を編成するために社会政策開発局に代表される国連事務局経済社会局の主導により、アクセシブルで使いやすい情報コミュニケーション技術(ICT)に関する知識や経験、特に災害復興と危機管理という文脈における知識や経験をお互いに交換するための重要な集まりが提供された。(b)東京の国連広報センターの有効かつ効率的な協力によって、東京開催の本会議は順調に進められた。(c)日本財団により、全体会でのインターネットを使用した遠隔字幕表示や、全体会と分科会を通しての日本手話-アメリカ手話および、英語-アメリカ手話それぞれの手話通訳者の配置を含め、会議開催中の最新のフルアクセスが可能な会議設備などスタッフの方たちの効率的かつ丁寧な援助が提供された。

会議の参加者は、専門家会議の後に行われる、日本財団とともに「国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会」を担当する、日本障害フォーラム(JDF)の率先した行動に対しても感謝の意を表した。このフォーラムは、日本の市民団体や障害者団体、また学術組織などに対して専門家会議の成果と提言を考えていただき、日本におけるアクセス可能な情報コミュニケーション技術の問題と傾向に関しての意見交換をしていただく場を提供するものである。

Ⅲ.会議主催組織について

A.経緯

アクセシブルな情報コミュニケーション技術(ICTs)の促進を通した共生社会の構築と開発をテーマとした国連専門家会議(EGM)は2012年4月19日から21日の3日間にわたり東京で行われた。主催は、国連事務局経済社会局(UN DESA)、それに加えて、東京の国連広報センターと日本財団が共催した。会議は、東京にある日本財団の本部ビルで行われた。会議に係る経費は、一部は国連の障害者基金から、また日本財団からの資金援助を受けた。

本会議の重要な目的は、以下の3つである。

(1)自然災害と緊急時を含む、開発の文脈における情報コミュニケーションと障害者の地位向上についてのさらなる認識と革新的なアイディアと選択肢を確認すること。(2)情報コミュニケーション技術の分野、さらには障害インクルーシブな開発と、災害/危機管理においてアクセシビリティを改善するための良い実践と革新的な手段を蓄積すること。(3)災害と危機管理を含めた、障害インクルーシブな開発政策とガイドラインのための提言を生み出すこと。

専門家らは、災害への備えや対策や緊急事態に役割を担う方を含め情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに携わる方々で、以下のような点を考慮して選ばれ、招聘された。

(1)専門知識があり、議論される問題についての世界規模の知識体系に貢献した経験のある方。(2)技術的な情報交換を通して貢献できる地理的な地域を代表して招聘されること。(3)すべての障害者の多様性のあるアクセシビリティのニーズ取り組む直接の経験と知識があること。

UN DESAは、日本財団、日本障害フォーラム(JDF)は協力して、「国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会」を、4月21日の午後、日本財団の本部ビルにて、専門家会議と同時並行的に開催した。このフォーラムは、日本の経験を学んだり、技術的面での情報交換をする重要な機会を提供した。専門家会議からは3人が代表してフォーラムに招かれ、分科会での情報コミュニケーション技術のアクセシビリティに関する政策と構造と規制や、アクセシブルな情報コミュニケーション技術の機能条件書と技術標準について、また、自然災害の防災と非常事態の管理体制の文脈での情報コミュニケーション技術のアクセシビリティと障害インクルージョンのそれぞれのテーマにそって成果などを報告した。

B.参加状況

専門家会議には、専門をもつ24人の専門家と国連機関、国際NGOや非政府組織、国連加盟国から15名が参加した。障害者の組織を含む政府の組織、公庫、学究生活、研究所および市民社会組織を代表する地方の15人のエキスパートおよび参加者が、観察者としてEGMに参加しました。

C.開会式

開会式は、日本財団の障害者プログラムのディレクターである、石井靖乃氏が会式を宣言し、参加者を歓迎した。また、日本財団会長の笹川陽平氏の紹介を行った後、笹川氏から基調スピーチをいただいた。UN DESAとともに主催を務めた東京の国連広報センター(UNIC)の山下真理氏からも、簡単な歓迎のスピーチが行われた。次に、国連事務局経済社会局(UN DESA)社会政策開発部門および、障害者権利条約専門委員会事務局長の伊東亜紀子氏より、会議開会の宣言が行われた。

D.議題の採択について

以下のような議題が採択された。

1.開会式
・歓迎のあいさつ 日本財団
・歓迎のあいさつ 国連広報センター(UNIC)東京事務所
・開会のあいさつ 国連事務局経済社会局(UN DESA)
2.議題の採択
3.全体会1:障害とアクセシビリティに関する傾向と課題、国際的な基準についての共有
4.テーマ毎の分科会
a.社会と開発へのアクセスと政策
b.情報コミュニケーション技術の規格とその応用
c.災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス
5.特別セッション:「障害とアクセスを組み込んだ自然災害・緊急事態への対応と政策」
6.全体会2:提言と成果についての意見交換
7.提言の採択
8.閉会式

E.分科会について

本会議では、3つの分科会で、優先度の高いテーマについて協議した。

1.分科会1(政策の枠組み):司会・クリントン・ラプレー氏、報告者・ドネル・ライス氏
2.分科会2(技術と技術的標準):司会・小尾敏夫氏、報告者・ジュッタ・トレビナルス氏
3.分科会3(災害と危機管理):司会・ウィジット・アチパヤクーン氏、報告者・マーシー・ロス氏

F.提言採択について

会議参加者らは、4月21日の全体会で分科会の成果と提言について考察と討議を行い、前述の通りそれらを採択した。

G.閉会式

石井靖乃氏(日本財団)、山下真理氏(UNIC東京)の両氏から短い挨拶が行われ、最後に伊東亜紀子氏(UN DESA)から閉会の辞が述べられた。

専門家グループは、本会議開催にあたり尽力された、国連事務局経済社会局(UN DESA)、ならびに、日本財団、東京国連広報センター(UNIC)に対して、心から感謝の意を伝えた。

本専門家会議は、2012年4月21日午後1時をもって閉会した。

-以上-