音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

結論

結論

知的障害のある人々の地域社会における生活とインクルージョンの権利の実現は、家族、教育関係者、雇用者、地域社会の関係者、政府及び知的障害のある人々自身を含むさまざまな関係者に対し、多面的で複雑な課題を提示する。家族との協議から得られた重要な所見を検討すれば、地域社会における変革のプロセスを主導する公共政策のロードマップが見えてくる。

重要な所見と政策に関する提言:

知的障害のある人々の大多数は、どこで誰と生活するかを決定するに当たり、意見を言うことも、コントロールすることもできない。

自分自身の生活に関する決定を各自が下す権利を認めるには、法律、社会の態度及び家族の役割の変更が必要となる。法改正のみでこの移行を達成しようという考え方は魅力的である。しかし、人々の生活に真の変革を確実にもたらすには、このほかにもいくつか重要な投資を行う必要がある。第一に、知的障害のある人々とその家族には、日常生活における個別支援ネットワークを開発するための支援が必要である。このようなネットワークを通じて、知的障害のある成人は意見を表明し、自らの生活を管理できるようになる。この支援は、本人活動運動への投資と、家庭を基盤とする組織に対する支援及び家族に対する研修を通じて開発できる。第二に、支援付き意思決定の仕組みとプロセスを開発する必要がある。支援付き意思決定のモデルの中には、さまざまな管轄地域で検証されているものもあるが、国際的には、法律で認められているモデルの事例はごくわずかしかない。

知的障害のある人々は、どこで誰と生活するかについて、選択の機会と選択肢が限られている。

写真地域社会における生活とインクルージョンを支援する公共政策の対応では(そのような対応がある場合)、障害関連の支援機関による、障害のある人々のために特別に設計された住宅の供給が、大いに重視されてきた。本人が一般市場から住宅やサービスを購入するために利用できるよう、個別にあるいは直接に資金を提供するプログラムの好事例がある一方で、政府によるアプローチは、これまでおもに「供給側」に対する資金提供であった。非常に多くの場合、資金提供を受けた住宅モデルとプログラムは、知的障害のある人々の真のニーズや要求とは無関係であった。「供給」側への資金提供と「需要」側への資金提供のバランスをさらに均等化することにより、公的住宅の質と対応性に関する説明責任の向上、利用可能な住宅及び支援の選択肢の拡大、知的障害のある人々とその家族の生活における選択の機会とコントロールの強化及び柔軟性の増加が達成される。

地域社会における生活を支援するための公共投資が、ほとんど、あるいはまったく行われてこなかった低所得国では、障害者の権利条約を受けて政府による認識が高まっても、それが誤って、需要側への投資(所得支援、住宅補助金、日常生活活動の支援)ではなく、集団生活への投資(グループホーム、小規模施設あるいは大規模施設)につながってしまう危険がある。限られたリソースを最大限活用する方法を決定する際、政府は、地域社会における既存の一般向けのサービスと支援を、本人が最大限利用できる政策とプログラムを選択しなければならない。

施設は引き続き人権侵害のおもな原因となっており、一部の地域では、子どもの施設入所が増加していることや、新たな形態の施設が建設されていることを示す証拠がある。

女性の写真政府は、施設の閉鎖に、そして、地域社会と地域社会による支援に対する投資に向けての明確かつ持続的な戦略に、例外なく全力で取り組まなければならない。知的障害のある人々の施設収容を継続することは、障害者の権利条約の直接的侵害である。施設で生活している人々が地域社会に復帰するための個別計画を開発する一方で、あらゆる人権主体は政府に対し、新たな入所政策や資本投資を採用しないよう圧力をかけなければならない。さまざまな管轄地域における施設閉鎖のプロセスからは、閉鎖のプロセスだけを重視し、これと関連のある、地域社会における生活とインクルージョンの実現に必要な地域社会の開発を重視しないことの危険について、教訓が得られた。個別支援計画は、地域社会への復帰を確実に成功させるために不可欠であるが、地域社会による支援を開発し、インクルージョンを主流化するプロセスも、等しく重要である。新たな形態の施設が決して建設されないよう、警戒が必要である。

知的障害のある人々の大多数は、実家で家族と生活しており、個別のサービスや支援は、ほとんど、あるいはまったく受けていない。

知的障害のある子どもと成人は、実家で家族と生活しているため、通常、必要な障害関連の支援にアクセスすることができない。子どもの場合、公共政策の下では、依然として自宅以外(施設、児童養護施設、長期介護施設)で生活している子どもの方が、より多くのサービスを利用できるようになっている。子どもには家族と生活する権利があるにもかかわらず、公共政策では引き続き家族に対し、基本的な支援にアクセスするために、我が子を国に引き渡すことを強いているのだ。知的障害のある成人に対しては、障害及び/または所得に関する既存の支援は、利用できないか、自立するための支援としては不十分である。

知的障害のある子どもと成人を対象とした、障害関連のサービスと支援の提供に投資する必要性が、明らかに認められる。高所得国では、これらのサービスと支援を、所得支援の受給資格から切り離す必要があるとともに、柔軟性とどこでも利用できる性質を備えたものにしなければならない。低所得国では、政府の資金による支援はほとんど存在しないが、一貫性に欠ける限られた支援が、国際NGOによって、いくらか提供されている。政府はCRPD、特に地域社会における生活とインクルージョンの権利に即した、明確な包括的政策を開発しなければならない。それは開発援助費の使用の指針となり、その説明責任は国際NGOが負わなければならない。

知的障害のある人々が受けている支援及び介護は、おもに家族が提供しているが、家族は地域社会や政府から、ほとんど、あるいはまったく支援を受けていない。

障害者の権利条約の前文と第23条では、障害のある家族が権利を実現できるよう援助するために、家族も支援を必要としていることを、明確に認めている。これは、地域社会における生活とインクルージョンの権利の実現において、最も重要である。この権利を実現できる主要な手段が家族なのだ。家族は、教育や、サービス、雇用及び住宅へのアクセスにおけるインクルージョンを求める、第一の、そして多くの場合、中心的な役割を果たす擁護者である。しかしほとんどの管轄地域における公共政策は、「家族に優しい」方法では開発されてこなかった。家族は、障害のある家族のケアに関する情報や精神面での支援を、ほとんど、あるいはまったく受けていない。また、ケア責任を果たすために失われた所得の補償も受けていない。さらに、ケア責任を果たす中で、短期休暇を取るためのサービスへのアクセスはほとんどなく、自分たちが高齢になり、ケアや支援ができなくなったときに、障害のある家族の将来について計画するための支援も利用できない。これらの支援の多くは、低所得国と高所得国の両方において、地域に根ざした組織と既存の一般向けのサービスとプログラムへの投資を通じて、地域社会レベルで開発することができる。家族の役割を支援する公共政策の好事例がいくつか開発されてきた所では、知的障害のある成人が家族への依存を強めることへの懸念が示された。家族に対する支援を、本人に対する支援の代替として利用してはならず、むしろ、その両方の支援がなければ、地域社会におけるインクルージョンは実現できないということを、明確にしておかなければならない。

知的障害のある人々は地域社会で生活していても、孤立し、疎外されていることが多い。

サービスのインフラストラクチャーが開発されている高所得国では、引き続き、専門家による施設でのケアを模した隔離型・孤立型のサービスが提供されている。政府は、すべての関係者(障害関連サービス及びその他のサービス提供者、公共政策関係者、家族、雇用者、教育関係者など)による、障害のある人々のニーズと願望に従ったシステムへのパラダイムシフトを必要とする、サービス提供システムの再編を開始しなければならない。このパラダイムシフトは、長年の活動方法に固執しているサービス業界の変革を意味するが、脱施設化のプロセスとインクルーシブな教育が教えてくれたように、前進にはリーダーシップとビジョンが必要である。そのビジョンは、地域社会における生活のためのサービスを自ら利用し、必要としている人々が生み出さなければならない。

子供たちの写真低所得国では、地域社会における孤立の経験は、サービス不足(あるいは国際NGOが提供するサービスが限られている、もしくは不十分な指示の下に提供されているなど)が一因となっているが、障害のある人々に対する一般の人々の社会的及び文化的態度も原因である。支援の提供に対する一貫したインクルーシブなアプローチの開発が必要なことは明らかだが、その一方で、障害のある人々の権利への認識を高め、知的障害のある人々が社会に貢献し、参加できる方法を実例で示す地域社会プログラムの開発を通じて、多くのことが達成できる。

地域社会は、インクルーシブなシステムづくり(教育、医療、交通機関、政治過程、文化・宗教団体、雇用など)に失敗している。

この報告書で最も中心となる重要な所見は、知的障害のある人々に、生活における選択の機会やコントロールの自由を与えることにどれほど成功しても、また、本人と家族にサービスや支援を提供することにどれほど成功しても、地域社会の組織(教育、労働市場、医療、政治的措置、文化・宗教団体など)の在り方を根本から考え直さなければ、地域社会における真のインクルージョンを実現する望みは持てないという、本人と家族からの明確なメッセージである。インクルーシブな計画とアプローチの結果、地域社会は恩恵を受け、より力強いものとなることを、私たちは知っている。地域社会におけるこれらの変革のためのプロセスは多数あるが、政府が第一段階として利用できる重要な礎石がいくつかあげられる。知的障害のある子どもの、同級生が学ぶ普通学級におけるインクルージョンや、知的障害のある成人の、地域社会の他の人々が働く一般の職場におけるインクルージョンを支援する公共政策及び実践は、地域社会に貢献し、参加する本人の能力を向上させるとともに、インクルージョンを支援する地域社会の理解と能力の向上をもたらすであろう。

これらの変革は容易ではなく、中には数年どころか数十年かかるものもある。障害者の権利条約は、一部の規定が「漸進的な実現」の対象となること、そして各国が独自の方法で、それぞれのペースで進めることを認めている。ただし、第19条に定められている義務の一部は、施設閉鎖など、差し迫った緊急の行動と見なされるべきである。しかし、あらゆる国で前進は可能である。障害者の権利条約は、障害のある人々とその家族に、より良い未来への希望を与える。インクルージョン・インターナショナルは、知的障害のあるすべての人々とその家族のより良い未来に向けて、全力を尽くしている。国内の各地域で、国内全体で、世界の各地域で、そして世界全体で、ともに活動することにより、より良い未来と、すべての人のためのより良い地域社会に向けて貢献できると、私たちは知っている。

表12:地域社会での生活とインクルージョンの権利に関するインクルージョン・インターナショナルの研究結果の利用 インクルージョンへのステップ

 研究結果戦略
1知的障害のある人々には、どこで誰と生活するかを決定する機会がない。
  • 知的障害のある子どもと成人に対し、自分達自身のために発言し、希望と夢を語るよう奨励し、支援する。
2知的障害のある人々は、生活できる場所について、選択の機会がほとんどない。
  • 本人が自分の興味や希望に近い未来を切り開けるように、本人とともに計画することを重視する。
  • 地域社会で誰もが利用できるサービスやプログラム、誰もが就ける仕事を活かし、そこで支援の選択肢を提供する。
3施設は権利をはく奪する。
  • 知的障害のある人々を収容するための大規模施設を新設しない。
  • 既存の大規模施設の改築に投資しない。
  • 現在大規模施設で生活している人々を地域社会に受け入れる計画に着手する。
4知的障害のある人々の大部分は実家で家族と生活しており、ほとんど、あるいはまったく支援を受けていない。
  • 子どもや成人が実家を離れた場合により多くの支援を提供する奨励策を、すべて撤廃する。
5家族は知的障害のある人のケアに対する支援を、ほとんど、あるいはまったく受けていない。
  • 障害のある人とその家族の両方に支援を提供する。本人活動団体とともに、家族団体も支援する。
6知的障害のある人々は、地域社会で生活していても孤立していることが多い。
  • スティグマと偏見を軽減するため、知的障害のある人々に関する一般の人々の認識を高める。
7地域社会のシステム(教育、医療、交通機関、政治的措置、文化・宗教団体、雇用など)から、知的障害のある人々が疎外されている。
  • 障害のある人々専門のプログラムに投資するのではなく、地域社会のプログラムとサービスをアクセシブルかつインクルーシブにするために投資する。