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勧告と結論

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障害者権利条約の発効後間もなく、政府と地域社会では、障害のある人々の人権、特に、障害のある人々が自分の人生について決定を下す権利への認識が大いに高まった。インクルージョン・インターナショナルの決める権利に関するグローバルキャンペーンを通じて寄せられた、世界各地の本人とその家族、友人および支援者の声によれば、知的障害のある人々がこの基本的な権利を実現するには、態度の変容、政府および地域社会による支援方法の転換、法制改革、公共政策の転換、支援付き意思決定のネットワークとプロセスの開発と法律による承認が必要となる。

重要な所見と政策勧告

エンパワメント、本人活動(セルフアドボカシー)、集合的な意見の強化に力を注ぐ。

知的障害のある人々が、自分自身の人生において決める権利を否定されているという事実は、知的障害のある人々の集合的な意見が、広く公共政策に関する決定において聞き入れられていないということも意味している。「本人活動」に対する市民社会団体と政府の注目が高まってきたとはいえ、自分の「意思と選好」を表明する機会をまったく与えられてこなかった人々のエンパワメントを支援し、自分の人生に関する意思決定における発言権を与え、知的障害のある人々の集合的な意見が、公共政策、地域社会活動および組織体制に取り入れられるようにするために必要なさまざまな戦略については、これまでほとんど議論がなされてこなかった。個人が自分の好き嫌いと選好を表明できるようにするために必要な支援と、これを容易にする手段は、集団の意見をまとめるために必要な支援や手段とは大きく異なっている。

勧告:

  • 意思決定の支援を開発する。
  • 知的障害のある人々とその家族が、サービスと支援を自分で選択し、決められるよう支援する。
  • 地域社会への参加とインクルージョンに向けて支援を拡大する。
  • 知的障害のある人々の集団参加、すなわち「本人活動」に向けた支援と、これを容易にする手段を増強する。

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自立とは「一人ぼっち」ということではない。

障害種別を超えた障害運動による条約の交渉と促進において強調されてきたことの大半は、自立と自律の概念に関連していた。障害のある人々が体験してきた地位の低下と、自分の人生を自分で決めることを再び求めるニーズに加えて、個人主義を重視する文化的偏見がこの原因である。これを受けて、知的障害のある人々とその家族が「1人で行動する」ための偽りの基準が生まれた。

第12条(3)では、政府に対し、「障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる。1」ことを義務付けている。しかし、本人と家族からは、国会議員や政策立案者および地域社会による理解はほとんどなく、実際にはこれらの支援は、法律で保護され、促進され、最終的には承認されなければならない人間関係のことである、という声が寄せられた。

人間の相互依存性は社会資本を構築し、社会資本は人と地域社会を強化する。障害とは直接関係のない人々が所属する村、町または都市の自然発生的なネットワークの一員となることで、知的障害のある人々とその家族の価値は高まる。それは、有償・無償の関係を問わず、人と人とを結び付ける。地域社会の一員となり、他者とネットワークで結ばれることで、条約の大半は実現される2

インクルージョン・インターナショナルの会員組織にとって、これは、障害のある人々の地域社会へのアクセスと人間関係の構築および地域社会の開発の支援において、これらの会員組織が果たす役割(教育関係者、雇用主などとの関係の構築)の重要性を強調するものである。

勧告:

  • 知的障害のある人々の支援団体による社会的関係の構築に、一層多くの時間を投資する。
  • 支援付き意思決定のメカニズムとプロセスを法律で承認する。

家族には、支援付き意思決定に必要な社会的つながりを構築するために果たすべき重要な役割がある。

大多数の知的障害のある人々にとって、家族は、意思決定の権利の行使を可能にするための、第一の、かつ、主たる支援者である。しかし、家族はこれまで、介助者、代替的意思決定者および保護者としての役割を与えられてきた。地域社会からは拒絶され、学校からは門前払いされ、支援とサービスを否定されてきた体験から、多くの家族が疑念と不信を抱くようになった。一部の家族は、家族の一員である知的障害のある人の将来の財務計画、政府によるサービスと支援へのアクセス、および「最善の利益」の保護のために、後見命令を求めている。保護する者から実現を可能にする者へ、つまり、代替的意思決定から支援付き意思決定への移行は、意味論にとどまらない。それは、家族に期待されている役割の根本的な変化であり、同時に、家族の一員である障害のある人が、将来自分の人生を自分で決め、自分で選択するための支援を受けられる、という安心感を家族にもたらす。

勧告:

  • 支援ネットワークの構築と維持の方法について家族が学べるよう、情報と支援を増強する。
  • 支援ネットワークの促進を支援する。
  • 金融サービス、法的サービスおよび/または医療サービスを利用する際、常に後見制度を利用することを阻止する。

家族を基盤とする組織は、地域社会における変革の主体として主導的役割を果たさなければならない。

50年以上前に、地域社会レベル、地方レベルおよび全国レベルで必要な支援やサービスを求めて闘うために家族によって設立された組織は、権利擁護(アドボカシー)、意識向上、キャンペーン活動、人権問題への取り組み、サービス提供、地域開発、家族支援および本人組織など、数々の役割を果たす組織の世界的なネットワークへと進化した。インクルージョン・インターナショナルの会員でもあるこれらの組織は、もともと知的障害のある人々の社会参加と、意思と選好の尊重を支援するという目標を使命として掲げている。家族を基盤とする組織に対する政府の財政支援が存在する場合、それはサービスの提供と結び付いていることが多い。一部の国では、政府がこれらの組織の権利擁護活動やキャンペーン活動を制限している。また、利用可能なサービスが削減されつつあるため、知的障害のある人々を支援し、彼らの声として活動する組織の能力(キャパシティ)も低下している。公的な資金による社会的支援のインフラストラクチャーがほとんどない、あるいは、まったくない国々では、組織は寄付金や開発基金に依存しながら、支援機関と権利擁護機関という2つの複雑な役割を果たしている。地域社会の家族を基盤とするすべての組織は、知的障害のある人々とその家族のニーズに合わせたサービスを提供する一方で、自らの支援能力を維持するために資金提供者の要求にも応じるという、微妙なバランスを保っている。この緊張感は目新しいものではないが、第12条の採択により、政府には「(障害のある人が)その法的能力の行使に当たって必要とする支援」を利用する機会を提供する義務が生じる。政府がこの支援を具体化し、提供する際に利用できる最善の資源は、家族と本人自身によって設立された団体を通じて得られる。

勧告:

  • 政府は、家族を基盤とする組織の多面的な役割(本人に対する支援、家族に対する支援、地域開発、権利擁護活動および一般市民の意識向上)に投資しなければならない。
  • サポートワーカーを「介助者」から「ファシリテーター/地域社会におけるアウトリーチワーカー」へと転換するための研修を開発する。
  • 人中心の計画と支援を提供するために、サポートワーカーに対する継続的な研修に投資する。

決める権利は、地域社会へのインクルージョン抜きには達成できない。

キャンペーン全体を通じて、知的障害のある人々は分離された場を「選択」することがあり、自分以外にも障害のある人々がいる環境の方が「より快適」なことがあるので、引き続き分離型のサービスを提供する必要があると考えている専門家、親およびサービス提供者の意見が寄せられた。実際に、分離された場での体験しかなく、「自分が通っている作業所が好きだ」とか、「自分が入所しているグループホームが気に入っている」と話す者もいた。しかし、私たちが話をした中には、よりインクルーシブな環境で暮らしている者で、分離を望む者は誰1人いなかった。いつ食べるか、いつ寝るか、何を着るか、どのようにお金を使うかについて、ほとんど、あるいは、まったく意見を言うことができない場では、自分の選好を表明する能力(キャパシティ)を育む機会はない。

このような状況の中、単に後見制度の下から解放するだけでは問題解決にはならない。本人には、支援ネットワークが何もない可能性があるからだ。現在の慣行を正当化し、あるいは、代替的意思決定の慣行を支援付き意思決定と「改称する」ことを目的とした、第12条の文言の誤用と濫用が、ますます目につくようになってきている。この件に関する非常に危険な例の1つが、「人中心の後見制度」という言葉の導入であった。地域社会で生活し、地域社会に受け入れられる機会がなければ、意思決定における真の選択と支援は不可能である。実際の課題は、地域社会におけるネットワークや人間関係および支援を構築する際に、分離され、孤立させられてきた人々を支援する戦略を開発することである。

勧告:

  • 知的障害のある人々をひとまとめにしている分離型の住宅、雇用、その他のサービスと支援を、人中心の計画を用いて、インクルーシブな支援および個別支援に再編成する。
  • 家族、サービス提供者および政策立案者は、地域社会における知的障害のある人々のためのネットワーク構築の戦略を開発する。

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決める権利は、後見制度と代替的意思決定の撤廃にとどまらない

大幅な法改正と、それに関連した支援付き意思決定のメカニズムの開発に加えて、決める権利にははるかに広い意味がある。第3章で概説したように条約第12条では広範な改革課題を義務付けており、それには、司法へのアクセス、雇用に関する法律と慣行、医療へのアクセスと医師に対する研修、金融部門の慣行(銀行法および契約法)の改革、教育制度、直接的な支援サービス制度などが含まれる。公式の代替的意思決定メカニズムが存在しない国では、非公式な代替的意思決定の慣行が採用されている。これらの国と、代替的意思決定メカニズムが法律で承認されている国では、公式および非公式な規定の撤廃だけでは、意思決定の権利の実現に必要な変革は達成されない。

図1は、世界各地の専門家が参加し、ファシリテーターを介して行われた、第12条実施推進に関する議論を受けて作成された3。これは、決める権利の実現における多数の戦略、優先事項および障壁を示すとともに、広くさまざまな改革課題の必要性を再確認するものである。

勧告:

  • 改革課題を策定するために、全国レベルと州/県/市町村レベルで、障害者組織およびその他の地域社会におけるステークホルダーと協議の上、法律と政策を見直すプロセスを確立する。

図1:第12条推進のための変革の枠組み

図1:第12条推進のための変革の枠組み(図1の日本語訳)

法改正は、地域社会による支援および意思決定のための支援の構築に向けた戦略と、歩調を合わせて進められなければならない。

過去20年以上にわたる、地域社会に参加し、地域社会で生きる権利の促進を通じて、インクルージョン・インターナショナルの会員組織が得た体験から、施設閉鎖は地域社会と地域社会による支援方法の変革を必要とする、より大きなプロセスの一部にすぎないことを私たちは学んだ。同様に、全権を委任する後見制度と限定的後見制度およびその他の形式の代替的意思決定制度の撤廃は、これに関連した支援付き意思決定ネットワーク開発への投資がなければ、意思決定の権利実現に向けた真の前進を達成できないことがわかっている。全権を委任する後見制度の防止と撤廃を含む法改正の課題は、法律で承認される支援ネットワークと適切な保護措置を開発し、地域社会での開発とアウトリーチのプロセスを促進するための、地域社会における支援構築に向けたマルチステークホルダーによる総合戦略と歩調を合わせつつ、進められなければならない。

勧告:

  • 後見命令を制限する。
  • 個人支援ネットワークと支援付き意思決定の支援者を法的に承認するための政策課題を策定する。
  • 支援ネットワーク内での誤用や苦情に対する保護措置を開発し、実施する。
  • 雇用主、金融機関、医師、弁護士、判事、その他の公認の専門家や地域社会の人々と協力するために、地域社会におけるアウトリーチのプロセスを開発する。

表11:決める権利の達成に向けた共通の課題

政府
  • 知的障害のある人々とその家族が、サービスと支援を自分で選択し、決められるよう支援する。
  • 知的障害のある人々の集団参加(「本人活動」)の支援とファシリテーションを強化する。
  • 支援付き意思決定のメカニズムとプロセスを法律で承認する。
  • 分離型のサービスと支援を、インクルーシブな個別支援へと再編成する支援を行う。
  • 改革課題を策定するために、障害者組織およびその他の地域社会におけるステークホルダーと協議の上、あらゆるレベルで法制度と政策を見直すプロセスを確立する。
  • 新たな後見命令を制限する。
  • 個人支援ネットワークまたは支援付き意思決定の支援者を法的に承認するために、政策課題を策定する。
  • 支援ネットワーク内での誤用や苦情に対する保護措置を開発し、実施する。
  • 金融サービス、法的サービスおよび/または医療サービスを利用する際、後見制度が前提となることを阻止する。
  • 家族を基盤とする組織の多面的な役割に投資する。
  • 人中心の計画と支援を提供するために、サポートワーカーに対する継続的な研修に投資する。
家族を基盤とする組織
  • 知的障害のある人々とその家族が、サービスと支援を自分で選択し、決められるよう支援する。
  • 意思決定のための支援を開発する。
  • 地域社会への参加とインクルージョンの支援を拡大する。
  • 知的障害のある人々の集団参加(「本人活動」)の支援とファシリテーションを強化する。
  • 支援している人々の社会資本の構築に積極的に関与する。
  • 分離型のサービスと支援を、人中心の計画を用いて、インクルーシブな個別支援へと再編成する。
  • 地域社会における知的障害のある人々のためのネットワーク構築の戦略を開発する。
  • 改革課題の策定および法制度と政策を見直すその他のプロセスの開発に参加するとともに、家族の参加も支援する。
  • 雇用主、金融機関、医師、弁護士、判事、その他の公認の専門家や地域社会の人々と協力するために、地域社会におけるアウトリーチのプロセスを開発し、実施する。
  • 個人支援ネットワークおよび支援付き意思決定の支援者を法的に承認するための政策課題の策定に参加するとともに、家族の参加も支援する。
  • 支援ネットワーク内での誤用や苦情に対する保護措置の開発と実施に参加するとともに、家族の参加も支援する。
  • 支援ネットワークの構築と維持の方法について家族が学べるよう、情報と支援を提供する。
  • 支援ネットワークの促進を支援する。
  • サポートワーカーを「介助者」から「ファシリテーター/地域社会におけるアウトリーチワーカー」へと転換するための研修を開発する。
  • 人中心の計画と支援を提供するために、サポートワーカーに対する継続的な研修を実施する。
家族
  • 家族の一員である障害のある人々のニーズと能力(アビリティ)に基づく意思決定の支援の開発に貢献する。
  • 地域社会における知的障害のある人々のネットワーク構築を支援する。
  • 知的障害のある人々とその家族が、サービスと支援を自分で選択し、決めることを要求する。
  • サポートワーカーの、「介助者」から「ファシリテーター/地域社会におけるアウトリーチワーカー」への転換に協力する。
本人
  • 国内および国際レベルでの本人の集合的な意見のとりまとめに貢献する。
  • 知的障害のある人々の意見を尊重する改革課題の策定において、リーダーシップをとり、方向性を示す。

インクルージョン・インターナショナルは、自らの人生を決める権利に関する、知的障害のある人々とその家族の意見と強い願望とを、広く障害およびその他の部門の市民社会団体と政府および国際機関に届ける広範なキャンペーン活動の一環として、本報告書の作成を引き受けた。あまりに長い間、私たちの意見と、私たちが社会に貢献する可能性は否定されてきた。貧困撲滅、インクルーシブ教育、地域社会で生活する権利に関する初期のグローバルレポートを踏まえ、本報告書の調査結果は、これらの広く共有されている目標が、知的障害のある人々が家族や地域社会とのかかわりの中で自分自身の人生を方向付けていく平等な権利を認識し、尊重し、支援することなくしては実現できないことを明確に実証している。実現には、孤立を伴う個人主義と自立という通常の自律の概念を超越し、私たち全員の本質的な相互依存性を十分に理解することが必要となる。また、知的障害のある人々が、社会において正当な地位につき、自分の意見を述べ、自分の思うように生きられるようにする文化を築き、組織を設立し、地域社会による支援と政府による政策および実践を確立するために、ともに取り組み、資源を調達し、責任と義務を果たすことが必要である。私たちは、この構想を地域社会および世界中の国々の法律、政策および実践において現実のものとするために、地域だけでなく世界のパートナーとも、協力して取り組んでいくことを楽しみにしている。