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障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例

障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例をここに公布する。

平成23年7月1日

熊本県知事蒲島郁夫
熊本県条例第32号

目次

 私たちが住む熊本県では、先人のたゆまぬ努力により、共に支え合い、助け合う地域社会が築かれてきた。しかしながら、その地域社会には、障害者が障害を理由として差別を受けたり、障害への配慮がないため暮らしにくさを感じたりするなど、依然として、障害者にとって地域での安心した生活が妨げられている状況がある。
 これまで、障害者への理解を深める様々な取組が行われてきたにもかかわらず、このような状況が続く背景には、障害者の社会参加を制約している物理的な障壁あるいは障害者に対する偏見や誤解といった意識上の障壁など、様々な社会的障壁がある。今、私たちには、障害者を取り巻くこれらの障壁を取り除く取組が求められている。
 国内外において、障害者の権利を擁護する意識が高まりつつある中で、熊本県においても、障害を理由とした差別をなくし、社会的障壁を取り除く取組を促進し、障害のある人もない人も、一人一人の人格と個性が尊重され、社会を構成する対等な一員として、安心して暮らすことのできる共生社会を実現しなければならない。
 ここに、この使命を強く自覚し、県民一人一人が力を合わせて、こうした社会を着実に築き、次の世代に引き継いでいくことを目指して、この条例を制定する。

第1章総則

(目的)
第1条 この条例は、障害者に対する県民の理解を深め、障害者の権利を擁護するための施策(以下この章及び第22条第1項において「障害者の権利擁護等のための施策」というに関し、基本理念を定め、。) 並びに県の責務及び県民の役割を明らかにするとともに、障害者の権利擁護等のための施策の基本となる事項を定めることにより、障害者の権利擁護等のための施策を総合的に推進し、もって全ての県民が障害の有無にかかわらず社会の対等な構成員として安心して暮らすことのできる共生社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)
第2条 この条例において「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害(以下「障害」という。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
2 この条例において「社会的障壁」とは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

(基本理念)
第3条 障害者の権利擁護等のための施策は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、自らの意思によって社会経済活動に参加し、自立した地域生活を営む権利を有すること及び何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないことを踏まえ、全ての県民が各々の役割を果たすとともに、相互に協力することを旨として行われなければならない。

(県の責務)
第4条 県は、前条に規定する基本理念にのっとり、障害者の権利擁護等のための施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。

(市町村との連携)
第5条 県は、市町村と連携し、かつ、協力して、障害者の権利擁護等のための施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。
2 県は、市町村が障害者の権利擁護等のための施策を策定し、又は実施しようとするときは、市町村に対して情報の提供、技術的な助言その他の必要な支援を行うものとする。

(県民の役割)
第6条 県民は、第3条に規定する基本理念にのっとり、障害者に対する理解を深めると ともに、県又は市町村が実施する障害者の権利擁護等のための施策に協力するよう努めるものとする。

(財政上の措置)
第7条 県は、障害者の権利擁護等のための施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

第2章障害者の権利擁護

第1節不利益取扱いの禁止等

(不利益取扱いの禁止)
第8条 何人も、次に掲げる行為(以下「不利益取扱い」という。)をしてはならない。
(1) 障害者に社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第1項に規定する社会福祉事業に係る福祉サービスを提供する場合において、障害者に対して、障害者の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要があると認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、福祉サービスの提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(2) 障害者に障害者自立支援法(平成17年法律第123号)第5条第1項に規定する障害福祉サービスを提供する場合において、障害者に対して、同条第17項に規定する相談支援が行われた場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、障害者の意に反して同条第1項に規定する厚生労働省令で定める施設若しくは同条第12項に規定する障害者支援施設への入所を強制し、又は同条第10項に規定する共同生活介護若しくは同条第16項に規定する共同生活援助を行う住居への入居を強制すること。
(3) 障害者に医療を提供する場合において、障害者に対して行う次に掲げる行為
 障害者の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要があると認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、医療の提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
 法令に特別の定めがある場合を除き、障害を理由として、障害者が希望しない長期間の入院による医療を受けることを強制し、又は隔離すること。
(4) 障害者に商品を販売し、又はサービスを提供する場合において、障害者に対して、その障害の特性により他の者に対し提供するサービスの質が著しく損なわれるおそれがあると認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、商品の販売若しくはサービスの提供を拒み、若しくは制限し、又はこれらに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(5) 労働者の募集又は採用を行う場合において、障害者に対して、従事させようとする業務を障害者が適切に遂行することができないと認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、募集若しくは採用を行わず、若しくは制限し、又はこれらに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(6) 障害者を雇用する場合において、障害者に対して、業務を適切に遂行することができないと認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件、配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格、教育訓練若しくは福利厚生について不利益な取扱いをし、又は解雇すること。
(7) 障害者に教育を行う場合において、障害者に対して行う次に掲げる行為
 障害者の年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするために必要な指導又は支援を講じないこと。
 障害者又はその保護者(学校教育法(昭和22年法律第26号)第16条に規定する保護者をいう。第16条第2項において同じ。)への意見聴取及び必要な説明を行わないで、就学させるべき学校(同法第1条に規定する小学校、中学校又は特別支援学校(小学部及び中学部に限る。)をいう。)を指定すること。
(8) 障害者が不特定かつ多数の者の利用に供されている建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において、障害者に対して、建物その他の施設の構造上又は公共交通機関の車両、自動車、船舶及び航空機の構造上やむを得ないと認められる場合、障害者の生命又は身体の保護のためやむを得ないと認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、建物その他の施設若しくは公共交通機関の利用を拒み、若しくは制限し、又はこれらに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(9) 不動産取引を行う場合において、障害者又は障害者と同居する者に対して、建物の構造上やむを得ないと認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、不動産の売却若しくは賃貸、賃借権の譲渡若しくは賃借物の転貸を拒み、若しくは制限し、又はこれらに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(10) 障害者から情報の提供を求められた場合において、障害者に対して、当該情報を提供することにより他の者の権利利益を侵害するおそれがあると認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、情報の提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。
(11) 障害者が意思を表示する場合において、障害者に対して、障害者が選択した意思表示の方法によっては障害者の表示しようとする意思を確認することに著しい支障がある場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、意思の表示を受けることを拒み、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。

(社会的障壁の除去のための合理的な配慮)
第9条 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって障害者の権利利益を侵害することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮(第11条第1項において「合理的配慮」という。)がされなければならない。

(虐待の禁止)
第10条 何人も、障害者に対し、次に掲げる行為(次条第1項において「虐待」という。)をしてはならない。
(1) 障害者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
(2) 障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
(3) 障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。
(4) 障害者を養護する責任がある場合において、障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他養護を著しく怠ること。
(5) 障害者の財産を不当に処分することその他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること。

第2節不利益取扱い等に関する相談

(特定相談)
第11条 何人も、県に対し、不利益取扱い、合理的配慮又は虐待に関する相談(次項及び第14条第1項において「特定相談」という。)をすることができる。
 県は、特定相談があったときは、次に掲げる業務を行うものとする。
(1) 特定相談に応じ、関係者に必要な助言、情報提供等を行うこと。
(2) 特定相談に係る関係者間の調整を行うこと。
(3) 関係行政機関への通告、通報その他の通知を行うこと。

(地域相談員)
第12条 県は、次に掲げる者に、前条第2項各号に掲げる業務の全部又は一部を委託することができる。
(1) 身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第12条の3第2項に規定する身体障害者相談員
(2) 知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)第15条の2第2項に規定する知的障害者相談員
(3) 障害者に関する相談又は人権擁護について知識又は経験を有する者のうち知事が適当と認める者
 知事は、前項第3号の者に委託をしようとするときは、あらかじめ、熊本県障害者の相談に関する調整委員会(第22条に規定する熊本県障害者の相談に関する調整委員会をいう。以下この節及び次節において同じ。)の意見を聴かなければならない。
 第1項の規定による委託を受けた者(以下「地域相談員」という。)は、中立かつ公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。
 地域相談員は、この条例に基づき業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その業務に従事する者でなくなった後においても、同様とする。

(広域専門相談員)
第13条 知事は、第11条第2項各号に掲げる業務を行わせるため、障害者の福祉の増進に関し優れた識見を有する者のうちから、広域専門相談員を委嘱することができる。
 知事は、前項の規定により委嘱をしようとするときは、あらかじめ、熊本県障害者の相談に関する調整委員会の意見を聴かなければならない。
 広域専門相談員は、中立かつ公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。
 広域専門相談員は、この条例に基づき業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その業務に従事する者でなくなった後においても、同様とする。

(指導及び助言)
第14 条地域相談員は、特定相談について、必要に応じ、広域専門相談員に対し、指導及び助言を求めることができる。
2 広域専門相談員は、前項の規定による求めがあったときは、適切な指導及び助言を行うものとする。

(連携及び協力)
第15条 専門的知識をもって障害者に関する相談を受け、又は人権擁護を行う者は、知事、地域相談員及び広域専門相談員と連携し、この条例による施策の実施に協力するよう努めるものとする。

第3節不利益取扱いに該当する事案の解決のための仕組み

(助言又はあっせんの求め)
第16条 不利益取扱いを受けたと認める障害者は、知事に対し、当該不利益取扱いに該当する事案(以下この条及び次条において「対象事案」という。)の解決のための助言又はあっせんを行うよう求めることができる。
 対象事案に係る障害者の保護者、後見人その他の関係者は、前項に規定する求めをすることができる。ただし、当該求めをすることが障害者の意に反することが明らかであると認められるときは、この限りでない。

(助言又はあっせん)
第17条 知事は、前条第1項又は第2項の規定による求めがあったときは、熊本県障害者の相談に関する調整委員会に対して助言又はあっせんを行うよう求めるものとする。
 熊本県障害者の相談に関する調整委員会は、前項の規定による求めがあったときは、助言若しくはあっせんの必要がないと認めるとき、又は対象事案の性質上助言若しくはあっせんをすることが適当でないと認めるときを除き、助言又はあっせんを行うものとする。
 熊本県障害者の相談に関する調整委員会は、助言又はあっせんのために必要があると認めるときは、対象事案の関係者に対し、助言又はあっせんを行うために必要な限度において、必要な資料の提出又は説明を求めることができる。
 熊本県障害者の相談に関する調整委員会は、対象事案の解決に必要なあっせん案を作成し、これを関係当事者に提示することができる。

(勧告)
第18条 熊本県障害者の相談に関する調整委員会は、あっせん案を提示した場合において、不利益取扱いをしたと認められる者が正当な理由がなく当該あっせん案を受諾しないときは、不利益取扱いをしたと認められる者が必要な措置をとるよう勧告することを知事に対して求めることができる。
 知事は、前項の規定による求めがあった場合において、必要があると認められるときは、不利益取扱いをしたと認められる者に対して、必要な措置をとるよう勧告することができる。
 知事は、前条第3項の規定により必要な資料の提出若しくは説明を求められた者が正当な理由がなくこれを拒んだとき、又は虚偽の資料の提出若しくは説明を行ったときは、その者に対し、必要な措置をとるよう勧告することができる。

(事実の公表)
第19条 知事は、前条第2項又は第3項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、規則で定めるところにより、その旨を公表することができる。

(意見陳述の機会の付与)
第20条 知事は、前条の規定による公表をしようとするときは、規則で定めるところにより、当該公表に係る者に対し、あらかじめ、その旨を通知し、その者又はその代理人の出席を求め、意見を述べる機会を与えなければならない。

第3章県民の理解の促進

第21条 県は、障害者に対する県民の理解を深めるため、啓発活動の推進、障害者と障害者でない者との交流の機会の提供、当該交流のための拠点の整備その他必要な措置を講ずるものとする。

第4章熊本県障害者の相談に関する調整委員会

第22条 障害者の権利擁護等のための施策に関する重要事項について調査審議するため、熊本県障害者の相談に関する調整委員会(以下「調整委員会」という。)を置く。
 調整委員会は、この条例の規定によりその権限に属させられた事項を処理する。
 調整委員会は、委員15人以内をもって組織する。
 委員は、障害者及び福祉、医療、雇用、教育その他障害者の権利の擁護について優れた識見を有する者のうちから、知事が任命する。
 委員の任期は、2年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
 委員は、再任されることができる。
 委員は、この条例に基づき職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。
 この条例に規定するもののほか、調整委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。

第5章雑則

(規則への委任)第23条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。

(罰則)第24条 第13条第4項又は第22条第7項の規定に違反して秘密を漏らした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

附則

(施行期日)
 この条例は、平成24年4月1日から施行する。ただし、第4章及び次項の規定は、 公布の日から施行する。

(この条例の施行のために必要な準備)
 第12条第1項の規定による地域相談員への業務の委託の手続その他の行為及び第13条第1項の規定による広域専門相談員の委嘱の手続その他の行為は、この条例の施行 の日前においても行うことができる。

(検討)
 知事は、この条例の施行後3年を目途として、この条例の施行の状況、社会経済情勢の推移等を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。