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京都市手話言語がつなぐ心豊かな共生社会を目指す条例

 手話とは,音声ではなく手や指,体などの動きや顔の表情を使う独自の語彙や文法体系を持つ言語である。明治11年(1878年)に日本初の聴覚・視覚障害児の教育機関である「京都盲唖院」が開設されると,各地からろう児が集まり,この集団の中で,手話は成立した。それ以来,手話は,ろう者をはじめ手話を必要とする人にとって,聞こえる人たちの音声言語と同様に,生活を営むために不可欠な意思疎通を図るための手段として用いられ,それゆえ,手話は,ろう者の「いのち」とされるのである。
 ところが,海外から「口話法」が伝えられると,我が国でもその普及に力を入れたため,昭和の初め頃から,ろう学校での手話の使用は禁止されることとなった。このように,社会では手話を使うことで誤解され,偏見にさらされるという不幸な歴史があった。
 しかし,それにもかかわらず,手話はろう者の間で日常的に使用され続け,大切に守られてきた。
 その後,手話に関する研究が進み,言語には音声言語と非音声言語とがあることが明らかとなるとともに,国連においては,昭和56年(1981年)の国際障害者年をはじめ,障害者に関する取組が進んだ。そして,平成18年(2006年)に国連で採択された障害者権利条約において,「手話は言語」であることが明記されることとなった。
 その結果,我が国は,障害者権利条約の批准に向けて国内法の整備を進め,平成23年(2011年)に成立した「改正障害者基本法」では「全て障害者は,可能な限り,言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保される」と定められるとともに,平成25年(2013年)には,全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け,障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として,「障害者差別解消法」が制定されるに至った。
 このように,今後は,手話による自由なコミュニケーションが保障される社会の構築が求められている。
 手話発祥の地とされる京都においては,昭和38年(1963年)に我が国で最も長い歴史を持つ手話サークルが市民により結成され,昭和44年(1969年)には,関係団体により,福祉施設として京都ろうあセンターが開設された。京都市も,自治の伝統,もてなしの心その他の京都固有の文化を生かしながら,昭和47年(1972年)の「障害者のためのモデルまちづくり」宣言や,昭和53年(1978年)の京都市聴覚言語障害センターの開設など,障害者の社会参加への支援に積極的に取り組んできた。
 世界で手話が言語であると位置付けられた今,国際観光都市であり,世界文化自由都市宣言を掲げる京都市は,手話に対する理解の促進に努め,手話を日常的に使用することができる環境を整えることにより,手話が,市民や観光旅行者を含む全ての人の心をつなぎ,相互に人格と個性を尊重することができる豊かな共生社会を実現することを目指して,この条例を定める。

(目的)
第1条 この条例は,手話に対する理解の促進及び手話の普及に関し,その基本理念を定めて,本市,市民及び事業者の責務と役割を明らかにするとともに,手話に関する施策に係る基本となる事項を定めることにより,手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって相互に人格と個性を尊重することができる豊かな共生社会を実現することを目的とする。

(基本理念)
第2条 手話に対する理解の促進及び手話の普及は,手話が言語であること及びろう者をはじめ,中途失聴者,難聴者その他の手話を必要とする人が次項の権利を有することを前提とし,全ての人が相互に人格と個性を尊重することを基本理念として行わなければならない。
2 ろう者をはじめ,中途失聴者,難聴者その他の手話を必要とする人は,より豊かな生活や人間関係を築くため手話によりコミュニケーションを円滑に図る権利を有し,その権利は尊重されなければならない。

(本市の責務)
第3条 本市は,基本理念にのっとり,手話を必要とする人が,安心して生活し,又は滞在することができるよう,必要な配慮を行い,手話に関する施策を総合的かつ計画的に実施しなければならない。
2 本市は,市民及び事業者が,次条から第6条までの規定による役割等を果たすため,これらの者に対し,必要な情報及び資料の提供その他の支援を行わなければならない。

(市民の役割)
第4条 市民は,基本理念にのっとり,手話に対する理解を深め,手話を必要とする人が手話を使用しやすい環境づくりに努めるとともに,手話に関する本市の施策に協力するよう努めるものとする。

(事業者の役割)
第5条 事業者は,基本理念にのっとり,手話に対する理解を深め,手話を必要とする人が利用しやすいサービスを提供するよう努めるとともに,手話に関する本市の施策に協力するよう努めるものとする。

(観光旅行者その他の滞在者への対応)
第6条 本市,市民及び事業者は,もてなしの心を持ち,手話を必要とする観光旅行者その他の滞在者が,安心して滞在することができるよう,必要な施策を実施し,手話への理解のある応対をし,又は利用しやすいサービスを提供するよう努めるものとする。

(施策の推進方針)
第7条 市長は,手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための方針(以下「推進方針」という。)を定めなければならない。ただし,推進方針は,市長が別に定める障害者に係る計画と調和のとれたものでなければならない。
2 推進方針には,次に掲げる事項を定めるものとする。
 (1) 手話に対する理解の促進及び手話の普及に関すること。
 (2) 手話により情報を取得する機会の拡大に関すること。
 (3) 手話の獲得及び習得の支援並びにコミュニケーションの手段として手話を選択しやすい環境の整備に関すること。
 (4) 手話通訳者の確保及び養成をはじめとする,手話による意思疎通の支援の拡充に関すること。
 (5) その他市長が必要と認める事項

(推進方針等についての協議の場)
第8条 市長は,推進方針及びこれに基づく施策の実施状況について,ろう者をはじめ,中途失聴者,難聴者その他の手話を必要とする人及び手話通訳者その他の関係者の意見を聴くため,これらの者との協議の場を設けなければならない。

(学校における理解の促進等)
第9条 本市は,学校教育の場において,児童及び生徒が手話に接する機会の提供その他の手話に親しむための取組を通じて,手話に対する理解を促進しなければならない。
2 本市は,前項の規定による手話に対する理解の促進に当たっては,国,京都府その他の関係機関等と緊密な連携を図るよう努めなければならない。

(財政上の措置)
第10条 本市は,手話に関する施策を推進するため,必要な財政上の措置を講じるものとする。

(委任)
第11条 この条例の施行に関し必要な事項は,市長が定める。

附則

 この条例は、平成28年4月1日から施行する。