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埼玉県障害のある人もない人も全ての人が安心して暮らしていける共生社会づくり条例

目次

 温和な気候に恵まれ、穏やかな県民性を持った私たちの埼玉県には、思いやりや助け合いの心を育む地域の風土がある。
 平成二十六年に我が国が批准した障害者の権利に関する条約は、全ての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連を有すること並びに障害者が全ての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有することを保障することが必要であることなどを明らかにしている。
 しかしながら、今なお、社会の実態は、障害や障害のある人に関する理解が深まっていないことから、社会的な障壁が残り、障害を理由とする差別の解消には至っていない状況にある。
 もとより、人は、一人一人が異なる個性や素晴らしい持ち味を持っている。そして、誰もが自分の持ち味を生かすことによって、他の誰かを笑顔にし、明るい社会を築くことができる。思いやりや助け合いの心を育む風土に生きる私たち一人一人の持ち味を生かせる社会をつくることが、明日の埼玉県の原動力になる。
 障害のある人もない人も、互いを理解し、思いやり、共に支え合う心を持つことにより、誰もが安心して生活することができ、ひいては、誰もが生きがいを感じられる埼玉県がつくられていくことを私たちは確信している。
 ここに、私たちは、障害を理由とする差別を解消し、障害のある人もない人も分け隔てられることなく、相互に人格と個性が尊重される共生社会を推進することを決意し、全ての人が安心して暮らしていける埼玉県をつくるため、この条例を制定する。

第一章 総則

(目的)
第一条 この条例は、障害者の権利に関する条約、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号。以下「法」という。)の趣旨を踏まえ、共生社会の推進に関し、基本理念を定め、並びに県、県民、地域活動団体及び事業者の責務を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、共生社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この条例において「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)、難病(治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病をいう。)に起因する障害その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
2 この条例において「社会的障壁」とは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

(基本理念)
第三条 共生社会(障害を理由とする差別を解消し、障害者と障害者でない者とが分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら、地域の中で共に手を取り合って暮らすことのできる社会をいう。以下同じ。)の推進は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、性別や年齢等にかかわらず、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を基本として行われなければならない。
  全て障害者は、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他のあらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。
  全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。
  全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。
  何人にも、社会的障壁に係る問題が認識され、障害及び障害者に関する理解が深まること。

(県の責務)
第四条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、障害及び障害者並びに共生社会に関する理解を広め、共生社会の推進に関して必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、共生社会を推進するに当たっては、市町村その他関係機関(以下この項において「市町村等」という。)と連携するとともに、当該市町村等に対し、情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。
3 県は、共生社会を推進するに当たっては、その講ずる施策が障害者及びその家族その他の関係者の立場に立ったものとなるよう配慮するものとする。

(県民及び地域活動団体の責務)
第五条 県民及び地域活動団体(地域で文化、スポーツ、ボランティア等の活動に取り組む団体をいう。第七条において同じ。)は、基本理念にのっとり、障害及び障害者並びに共生社会に関する理解を深めるとともに、共生社会の推進に寄与するよう努めなければならない。

(事業者の責務)
第六条 事業者(法第二条第七号に規定する事業者をいう。以下同じ。)は、基本理念にのっとり、障害及び障害者並びに共生社会に関する理解を深め、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮に努め、共生社会の推進に寄与するよう努めなければならない。

第二章 共生社会を推進するための施策

(普及啓発)
第七条 県は、県民、地域活動団体及び事業者が障害及び障害者並びに共生社会に関する理解を深めるよう、障害を理由とする差別の事例を周知する等により普及啓発を行うものとする。

(交流の機会の拡大及び充実)
第八条 県は、障害者と障害者でない者との交流の機会の拡大及び充実を図り、その相互理解を促進するものとする。

(社会参加の促進)
第九条 県は、地域社会等における活動を通じた障害者の社会参加の促進のため、必要な施策を講ずるものとする。

(教育の推進)
第十条 県は、学校において、児童及び生徒が障害及び障害者並びに共生社会に関する正しい知識を持つための教育が行われるよう努めるものとする。
2 県は、共生社会の推進に果たすべき教育の役割の重要性に鑑み、障害者が障害者でない者と共に学び、必要な教育を受けることができるよう、教育の支援体制の整備及び充実に努めるものとする。

(意思疎通の手段の確保)
第十一条 県は、障害者が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるよう、障害者の意思疎通を仲介する者の養成等必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、災害その他非常の事態の場合に、障害者に対しその安全を確保するため、必要な情報が迅速かつ的確に伝えられるよう必要な施策を講ずるものとする。

(就労の促進等)
第十二条 県は、共生社会の実現に向けて、障害者の職業選択の自由を尊重しつつ、障害者がその能力に応じて適切な職業に従事することができるようにするため、障害者の多様な就労の機会の拡大に必要な施策を講ずるものとする。

(表彰)
第十三条 県は、共生社会の推進に特に功績があると認められるものに対し、表彰を行うことができる。

(職員の育成等)
第十四条 県は、障害者に対して適切な支援を行うため、医療、保健、福祉、教育等の業務において、専門的知識又は技能を有する職員の育成、配置その他必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(財政上の措置)
第十五条 県は、共生社会の推進のための施策に必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

第三章 障害を理由とする差別を解消するための施策

(差別の禁止)
第十六条 何人も、障害者に対して、障害を理由とする不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 県は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明(障害者の保護者その他の関係者が本人を補佐して行ったものを含む。次項において同じ。)があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするものとする。
3 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

(特定相談及び広域専門相談員)
第十七条 県は、障害を理由とする差別に関する相談(以下「特定相談」という。)に応じるものとする。
2 県は、特定相談に関し、次に掲げる業務を行うものとする。
  特定相談に応じ、必要な助言及び情報提供を行うこと。
  特定相談に応じ、関係者間の必要な調整を行うこと。
  関係行政機関への通告、通報その他の通知を行うこと。
3 県は、前項各号に掲げる業務について、専門的知識及び技能を有する者に、これを行わせることができる。
4 前項の業務を行う者は、広域専門相談員と称する。

(助言又はあっせんの申立て)
第十八条 障害者は、自己に対して、事業者が第十六条第一項に規定する不当な差別的取扱いをした事案又は同条第三項に規定する必要かつ合理的な配慮をしなかった事案(以下「対象事案」という。)の解決を図るため、知事に対し、助言又はあっせんの申立てをすることができる。
2 対象事案に係る障害者の保護者その他の関係者は、前項の申立てをすることができる。ただし、当該申立てをすることが当該障害者の意に反することが明らかであると認められるときは、この限りでない。
3 前二項の申立ては、前条に規定する特定相談を経た後でなければ、することができない。
4 第一項及び第二項の規定は、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)第七十四条の五に規定する紛争については、適用しない。

(事実の調査)
第十九条 知事は、前条第一項又は第二項の申立てがあったときは、当該申立てに係る事実の調査を行うものとする。
2 前条第一項又は第二項の申立てがなされた対象事案に関係する者(当該申立てを行った者を含む。以下「対象事案関係者」という。)は、正当な理由がある場合を除き、前項の調査に協力しなければならない。

(助言又はあっせん)
第二十条 知事は、前条第一項の調査の結果に基づき、助言又はあっせんを行うものとする。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
  助言又はあっせんの必要がないと認めるとき。
  対象事案がその性質上助言又はあっせんをするのに適当でないと認めるとき。
2 知事は、前項の助言又はあっせんのために必要があると認めるときは、対象事案関係者に対し、助言及びあっせんにあっては対象事案に係る説明若しくは意見の表明又は資料の提出を求め、あっせんにあってはそのあっせん案を作成し、これを提示することができる。

(勧告)
第二十一条 知事は、対象事案に係る事業者が、正当な理由がなく前条のあっせんに従わない場合(前条第二項の規定による求めに応じない場合を含む。)において、必要があると認めるときは、当該事業者に対し、当該あっせんに従い、又は当該求めに応じるよう勧告することができる。

(公表)
第二十二条 知事は、第十六条第一項に規定する不当な差別的取扱いに係る前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

(意見の聴取)
第二十三条 知事は、前条の規定による公表をしようとするときは、当該公表に係る者に対し、あらかじめ、その旨を通知し、その者又はその代理人の出席を求め、意見を述べる機会を与えなければならない。

(地域協議会)
第二十四条 県は、地域における障害を理由とする差別に関する相談等について情報を共有し、障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、法第十七条に規定する障害者差別解消支援地域協議会を組織するものとする。

第四章 雑則

(委任)
第二十五条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。

附則

1 この条例は、平成二十八年四月一日から施行する。ただし、第十八条から第二十三条までの規定は、同年七月一日から施行する。

2 県は、社会状況の変化等を踏まえ、必要に応じこの条例について見直しを行うものとする。