音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

総合福祉部会 第11 回
H23.1.25 参考資料6
西滝委員提出資料
2011 年1月25 日

内閣府障がい者制度改革推進会議総合福祉部会
部会長 佐藤 久夫様

総合福祉部会委員 西滝憲彦
(財団法人全日本ろうあ連盟)

障がい者制度改革推進会議総合福祉部会への提言

 平素は私たちの事業の推進に対してご理解ご協力を賜り厚くお礼申し上げます。
障害者制度の改革、特に総合福祉法(仮称)の検討へのご尽力に深く敬意を表します。
障害者自立支援法に代わる新たな法制度が、わが国の障害者の暮らし、特に私たちの関わりでい えば聴覚障害者の暮らしの豊かさに結びつくものになるために、微力ながら私たちは障がい者制度 改革推進会議の内容が深まるために協力をしてまいる所存です。
このたび、現在進められている総合福祉部会の中での現行のコミュニケーション支援事業に代わ る聴覚障害者のための総合的な福祉制度にかかる論議をより深めるために下記の意見を提出しま す。ご検討いただきますようお願いいたします。

   記

< 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会への提言 >

 別紙の通り提言させていただきます。提言の要旨は以下の通りです。
総合福祉部会において、聴覚障害者に関する施策についての論点整理及び論議が不十分です。聴覚障害者のコミュニケーション保障は、音声言語が聞こえない、聞こえづらい聴覚障害者と健聴者と間で、手話通訳または要約筆記により通じ合うようにするという重要な役割を持っています。しかし、これだけでは聴覚障害者が受ける福祉施策は十分とは言えません。
基本的な問題意識として、聴覚障害者に関する総合福祉施策は情報保障・コミュニケーション保障の他に、人格形成・発達支援、自己実現・確立支援、地域生活における地域住民との交流等の地域生活支援があります。そのためにコミュニケーション保障を軸とした制度的な福祉施策が必要不可欠です。
現行制度(現行障害者自立支援法)のコミュニケーション支援事業は、コミュニケーション支援を必要とする聴覚障害者の自らの申請により実施(保障)されるしくみになっています。十分な教育を受けることがなかったために書記言語(書記日本語)の獲得が不充分であったり、障害の自覚のない数百万と言われる難聴者であったり、精神障害を併せ持ったり、引きこもりであったり、今もなお一定数存在する不就学の聴覚障害者などは、自らの意思で現行のコミュニケーション支援事業を利用することが困難です。また、コミュニケーション保障が乏しい日常生活を送っている聴覚障害者にとって、障害者福祉の施策体系を把握することは難しく、障害者福祉施策を選択する前提となる自己決定が困難です。加えて、現行制度におけるコミュニケーション保障の仕組みは地域格 差を生みだしており不充分な内容となっております。
以上のように、言語・コミュニケーション手段の保障を軸として、聴覚障害者の生活支援やエン パワメント、相談支援とも一体となった聴覚障害者のための総合的な福祉施策が必要です。そのた めには、聴覚障害者情報提供施設の機能強化、福祉圏域レベルでのコミュニケーション支援事業の 強化・実施拠点の展開、障害者関連事業拠点へのコミュニケーション手段(手話通訳・要約筆記等) 及び支援スキルを持った有資格者の配置という施策が必要です。


障がい者制度改革推進会議総合福祉部会への提言

総合福祉部会委員 西滝憲彦
(財団法人全日本ろうあ連盟)

1 提言の理由
総合福祉部会において、聴覚障害者に関する施策についての論点整理及び論議が不十分です。聴 覚障害者のコミュニケーション保障は、音声言語が聞こえない、聞こえづらい聴覚障害者と健聴者 と間で、手話通訳または要約筆記により通じ合うようにするという重要な役割を持っています。し かし、これだけでは聴覚障害者が受ける福祉施策は十分とは言えません。
基本的な問題意識として、聴覚障害者に関する総合福祉施策は情報保障・コミュニケーション保 障の他に、人格形成・発達支援、自己実現・確立支援、地域生活における地域住民との交流等の地 域生活支援があります。そのためにコミュニケーション保障を軸とした制度的な福祉施策が必要不 可欠です。
現行制度(現行障害者自立支援法)のコミュニケーション支援事業は、コミュニケーション支援 を必要とする聴覚障害者の自らの申請により実施(保障)されるしくみになっています。十分な教 育を受けることがなかったために書記言語(書記日本語)の獲得が不充分であったり、障害の自覚 のない数百万と言われる難聴者であったり、精神障害を併せ持ったり、引きこもりであったり、今 もなお一定数存在する不就学の聴覚障害者などは、自らの意思で現行のコミュニケーション支援事 業を利用することが困難です。また、コミュニケーション保障が乏しい日常生活を送っている聴覚 障害者にとって、障害者福祉の施策体系を把握することは難しく、障害者福祉施策を選択する前提 となる自己決定が困難です。加えて、現行制度におけるコミュニケーション保障の仕組みは地域格 差を生みだしており不充分な内容となっております。
以上のように、言語・コミュニケーション手段の保障を軸として、聴覚障害者の生活支援やエン パワメント、相談支援とも一体となった聴覚障害者のための総合的な福祉施策が必要です。そのた めには、聴覚障害者情報提供施設の機能強化、福祉圏域レベルでのコミュニケーション支援事業の 強化・実施拠点の展開、障害者関連事業拠点へのコミュニケーション手段(手話通訳・要約筆記等) 及び支援スキルを持った有資格者の配置という施策が必要であることを、同部会に提言することに より新たな聴覚障害者のための総合的な福祉施策の充実を図っていただけるようお願いします。

2 基本的な問題意識 ∼聴覚障害者のコミュニケーション(保障)の重要性∼

(1)人格形成・発達
個人の人格は他の人間との関わりを持つことによって豊かに成長する。コミュニケーションはこの人格形成過程に深く関わっている。コミュニケーションが貧しければ人格が豊かに成長することは困難である。

(2)自己実現・確立
コミュニケーションによる他者との意見交換・交流を通じて、人間は自己を確立できる。

(3)地域生活
障害者が健常者と平等な地域生活を営むにあたり、住民間交流や地域情報獲得が重要であり、そのためには情報保障・コミュニケーション保障が常に必要となる。それが社会参加につながる。

【まとめ】
上記3点に必要な「コミュニケーション保障」の実現には、地域住民相互の協力・努力も欠かせないが、その前提としてコミュニケーション保障を軸とした制度的な福祉施策は必要不可欠である。

3 現行のコミュニケーション支援事業(障害者自立支援法関連分)
現在の聴覚障害者のコミュニケーション支援を図る事業には、障害者自立支援法で定める「地域生活支援事業」の内容を国が規定した「地域生活支援事業実施要綱」により、①コミュニケーション支援事業、②その他事業、がある。

 ①コミュニケーション支援事業には、市町村が実施する手話通訳者派遣事業、要約筆記者派遣事業、手話通訳設置事業等がある。②その他事業には、都道府県・市町村が実施する手話奉仕員養成・研修事業、都道府県が実施する手話通訳者養成・研修事業等がある。
これらの事業実施については、実施主体である都道府県・市町村が策定した条例・要綱等が根拠となっている。

4 現行制度上の問題点
(1)ニーズ把握の困難 ∼申請主義の限界∼

コミュニケーション保障を必要とする現場では、ほとんどの場合「コミュニケーション保障を必要とする聴覚障害者の申請により保障(例:手話通訳者の派遣)が実施される」という「申請主義」によっている(例:体調不良を感じる→市役所に手話通訳者(要約筆記者)派遣を依頼→病院で手話通訳者(要約筆記者)と共に受診)。
一見合理的に見える方法だが、実際には「コミュニケーション保障の必要性を自覚して申請す る行為」が困難な聴覚障害者にとっては、聴覚障害者のコミュニケーション保障が進まない(聴 覚障害者の社会参加が困難になる)結果がもたらされる。

<「コミュニケーション保障の必要性を自覚して申請する行為」が困難な聴覚障害者の例>
○書記日本語の獲得が不十分であり手話をコミュニケーション手段とするろう者や重複障害の聴覚障害者
→手話を知らない健聴者に対してコミュニケーション保障のニーズ主張をためらう
○数百万人と言われる難聴の自覚のない難聴者
→「聞こえにくさ」の補償ニーズを主張しない(例:高齢者)。
○「難聴」「中途失聴」を併せ持つ精神障害や引きこもりの聴覚障害者
→治療や社会復帰に必要なコミュニケーション保障のニーズ主張をしない
○現在もなお一定数存在する不就学の聴覚障害者
→言語概念の獲得が不十分でありコミュニケーション保障のニーズ主張をしない

(2)情報獲得の困難及びそれがもたらす自己決定の困難への対応が不十分
日常においてコミュニケーション保障が乏しい中で生活する聴覚障害者にとって、障害者福祉の施策体系を把握することは困難な場合が多く、福祉施策選択の前提となる自己決定の困難をもたらすことになる。

<情報獲得の困難の具体的な例>
○福祉サービスは経験財が多い(例:手話通訳者派遣事業)
→日常生活で情報獲得が困難な聴覚障害者にとって、自らのニーズとの適合性の判断が困難
○抽象概念などを含む「高度な内容の情報獲得」を保障するしくみがない
→インターネットや動画視聴等の方法では、①書記日本語が多い、②わからないときに確認で きない(双方向でない)
○情報獲得を容易にする前提となるコミュニケーション手段選択を保障するしくみがない
→(健聴者が用いる)生身の人間による「口コミ」を利用するしくみがない
→手話や筆談で日常会話を通じて情報交換する健聴者はほとんどいない

<自己決定の困難の具体的な例>
○自己決定を保障するしくみが制度にない
→権利擁護制度、相談支援制度には、意志表明の不十分な聴覚障害者のための十分なコミュニ ケーション保障のしくみ(手話等のコミュニケーション手段のあるソーシャルワーク機能な ど)が準備されていない

(3)既存事業におけるコミュニケーション保障のしくみが不十分

○現行コミュニケーション支援事業は制度そのものが脆弱である。
→コミュニケーション保障が司法上の権利となっていない。
→コミュニケーション支援事業は市町村必須事業であるが、強制力がない(事業開始後3年半経 っても4分の1の市町村は事業未実施)
→国(県)の補助金は地域生活支援事業全体に対するものでありコミュニケーション支援事業の 財源には必ずしもならない。
○介護保険(65 歳以上の障害者は加入することになる)には、コミュニケーションに障害がある 人に対応するしくみがない(例:デイサービスにコミュニケーション支援メニューはない)
○情報獲得や自己決定を容易にするために必要な専門的な人材確保を保障するしくみが乏しい
→現行手話通訳者養成事業カリキュラムの専門性の不足(全部で90 時間、講義12 時間、実技78 時間)
→国レベルの手話通訳士資格をとっても職場が保障されていない(例:手話通訳設置事業実施市 町村は全体の4分の1)
○現行の手話通訳者養成事業ではニーズに応えきれていない。
→手話通訳者派遣事業実施市町村は平均74%(2009 年3月厚生労働省調べ)。
【参考】権利条約第2 条 定義、21 条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会

<コミュニケーション保障を困難にしているさまざまな課題>
① 登録手話通訳者の労働者性(「手話通訳問題研究No113 2010/9」参照)
手話通訳制度の中核をなしている手話通訳派遣事業の担い手は登録制の形態であり、ほとん どすべての業務遂行の形態はボランティア(労働契約なし、労災保険なし)。過重労働により 倒れても保障はまったくない。

② 感染症の患者への情報保障(「新型インフルエンザ対応の厚生労働省通達」参照)
2009 年夏の新型インフルエンザの流行にあたり、罹患の疑いのある聴覚障害者の受診にあた り手話通訳の担い手の確保が問題となった。厚労省通達は、ボランティア依存の現状と聴覚障 害者の生命や健康を守るしくみの不十分さを示している。

③ 手話通訳者の労働状態の貧困(「2005 年度 手話通訳者の労働と健康についての実態調査」 参照)
手話通訳業務を職務(労働者)として遂行する者に雇用通訳者がいるが、その内訳は、78% が非正職員(月収平均は男性約20 万円、女性は約16 万円、50%の職場は職業病健診の実施な し)、平均年齢は46.2 歳、約30%がいつも/時々肩が痛い、という状況になっている。

④ 差別事例(「聴覚障害者の差別事例」参照)
聴覚障害者に対するさまざまな形態での差別が現存している。
○職場

  • 職場に手話ができる者がいないため仕事の内容や指示等は筆談。時間がかかるので他の人の半 分位の情報しか伝えられない。
  • 昇進試験の面接で手話通訳を依頼したが断られ、「職場で手話がちょっとできる人」が通訳を 担当した。その人の手話がよくわからず思うような返答ができなかった。結局不合格でそれ以 来受験していない。

○施設

  • 電車の無人駅、高速道路の無人料金所、エレベーター内、ドライブスルー、銀行のATMなど、 インタホンしかなく、問い合わせが必要なときには聴覚障害者は利用できない。

○医療機関

  • 聴覚障害者一人ではコミュニケーション困難という理由で入院や検査を断られる。
  • 手話通訳者を依頼したがじゃまだからという理由で同席を断られた。

○教育

  • 聴覚障害者の大学生。講義で学生ボランティアの通訳しか認められない。

○司法・警察

  • 聴覚障害者の事情聴取に手話通訳が配置されない。
  • 免許更新時の説明に手話通訳が配置されない。
  • 聴覚障害者の裁判傍聴にあたり、手話通訳者も傍聴券が必要といわれる。また裁判傍聴に手話 通訳者が配置されない。

○地域生活

  • 聴覚障害者のみの世帯とわかったら不動産屋が物件を紹介してくれない。
  • スポーツジムで聴覚障害者の入会を断られた。
  • 郵便局の不在配達票に記載してあるFAX への連絡では当日の再配達対応ができない。
  • 保険・携帯電話・クレジットカードの申込などのサービスで本人確認が電話だけの場合があり 聴覚障害者は利用できない。
  • 通信販売・電話回線申込・海外旅行・広報紙の案内など申込方法や問い合わせ方法が電話だけ の場合があり聴覚障害者は利用できない。

<実例>
より深刻な問題として、聴覚障害と加齢等の問題が重層的に関係し、極めて困難な権利侵害を 引き起こしている事例が多く報告されている。以下はその実例である。
○79 歳聴覚障害高齢者の入院時身体拘束の事例
脳梗塞右片麻痺、帯状疱疹、総胆管結石にて入院。コミュニケーションの不成立が原因と思 われる「点滴の針を抜くという行為」が「治療拒否」と誤解され、両手をベッド柵に縛り身体 を拘束された。また、精神薬が投与された。家族が、「縛られて眠らされている姿は、みるに しのびない」と退院手続きをとり、現在、聴覚障害者支援の専用機能のある特別養護老人ホー ムへ入所している。
○不就学の聴覚障害高齢者に対する専門機関の人権侵害
入所中の軽費老人ホーム作成の看護サマリーに、「聾唖のため意思疎通困難」「未就学にて文 盲」、また、掛かり付け内科医の診療情報提供書に、「聾唖で文盲 意思疎通が困難です」他に も、「聾唖のため詳細聴取不能」といった主旨の記述もある。
これらに共通するのは、コミュニケーション支援と特別な手立てがほとんどとられていない ことであり、施設や医療機関などの「閉じられた空間」で行われている人権侵害の事例である

5 総合福祉法への提案 ∼上記の問題点を解決するために∼
1) 聴覚障害者情報提供施設の機能強化
∼県レベルでのコミュニケーション支援・相談支援事業の充実∼

都道府県事業である聴覚障害者情報提供施設事業においてコミュニケーションに障害のある 人のコミュニケーション支援・相談支援の充実強化を図る。

<機能強化の例>
○広域的なコミュニケーション支援にかかる事業(例:都道府県域のコミュニケーション保障)
○専門性(例:医療、労働、司法)の高いコミュニケーション支援事業(圏域での実施も検討)
○地域におけるコミュニケーション障害の支援ネットワークの構築指導及び調整
○コミュニケーションスキル(手話会話、手話通訳、要約筆記等)のある専門職養成
○コミュニケーションスキルのある人材養成講座の講師養成

(2)コミュニケーション支援実施拠点の設置 ∼福祉圏域レベルでの事業拠点の展開∼ 現行の情報提供施設が有する聴覚障害者のコミュニケーション支援機能を、より身近な地域での展開を図るために、都道府県、政令指定都市に限らず、新たに中核都市、福祉圏域での整備を促進するための補助対象とし、広域・専門相談支援、コミュニケーション支援、市町村職員への研修・地域の医療など公共機関職員への研修・民生児童委員研修・地域住民や学校の生徒などへの理解促進交流事業などきめ細かく実施できる体制を整えるべきである。
また、必須事業であるにも関わらず実施自治体数が増加しないコミュニケーション支援事業の実施自治体数の増加を図り、各都道府県内の福祉圏域レベルでコミュニケーション支援事業の実施拠点を設け、聴覚障害者のコミュニティを保障することのできる通所型日中活活動を整備する。

<実施拠点の開設方法例>
○聴覚障害者センター設置(複数の市町村が、コミュニケーション支援事業として運営費を支出しあい共同設置する)
<想定される事業例>
○手話通訳者・要約筆記者派遣事業、手話通訳設置事業、手話通訳者・要約筆記者養成事業、手話奉仕員養成事業、聴覚障害者を対象とする相談支援事業等

(3)障害者関連事業拠点への有資格者配置 ∼市町村・福祉圏域レベルでの事業の充実∼
市町村・福祉圏域レベルの障害者関連事業拠点に、要約筆記や盲ろう者支援スキルを獲得(例:(1)の情報提供施設での研修)手話通訳士等有資格者を配置し、聴覚障害者がコミュニケーションに支障のない障害者と同等に利用できるように、コミュニケーション支援機能強化を図ること。

<配置場所の例>
○委託相談支援相談事業所(福祉圏域ごとに置かれる相談支援事業所)
○障害福祉サービス(例:施設入所や日中活動の中でコミュニケーション支援強化型(仮)を新設)
○市町村の障害者福祉事務担当セクション(例:市町村における手話通訳設置事業の必須事業化)
○障害者就労促進関連事業所(例:地域障害者職業センター、障害者就業/生活支援センター)

以上