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総合福祉部会 第12回 H23.2.15 資料1

資料1 「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案)
法の理念、目的、総則部分

総合福祉部会「法の理念・目的チーム」
2010年12月8日

【前文】

 わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした1981年の国際障害者年とその後の国連障害者の10年により一定の進展を遂げたが、依然として多くの障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。
 そのため、2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」)が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に発効し、わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。
 この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国内法を権利条約の水準に引き上げる障害者制度の改革を目的とする。
 憲法第13条、14条、25条等の諸規定に基づき、障害者は人間としての固有の尊厳及び自由並びに生存が平等に保障される基本的人権を有しており、従来この国で保護の対象とされてきた障害者が人権行使の主人公であるという改革の理念を確認し、障害福祉施策は憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援することをこの法律の基本とする。
 さらにこの法律は、権利条約の掲げるインクルージョン、すなわち障害者が社会の中で当然に存在し、障害の有無にかかわらず誰もが排除されず、分離・隔離されずに共に生きていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方を基本としている。それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任があるとする考え方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現するために社会が支えることをこの法律は目的とする。
 とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している障害者が多数存在している現状を直視し、地域で自己決定の尊重された普通の暮らしが営めるよう支援し、地域生活への移行を推進するための総合的な取り組みを推進することがこの法の使命である。
 そして障害者の自立とは、経済的な面に限らず、誰もが主体性をもって生き生きと生活し、社会に参加することを意味することを確認し、この法律は、障害者が必要な支援を活用しながら地域で自立した生活を営み、生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、社会生活を支援する。これは現在障害を持つ人に限らず全ての人のためのものである。人権保障としての支援という趣旨に照らせば、国・地方公共団体の義務的経費負担が原則的仕組みとなる。
 この法律は、これらの基本的考えに基づき、障害の種別、軽重に関わらず、尊厳のある生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保障し、障害者各自が、障害のない人と平等に社会生活上の権利が行使できるために、あらゆる障害者が制度の谷間にこぼれ落ちないように必要な支援を法的権利として総合的に保障し、差異と多様性が尊重され、誰もが排除されず、それぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現をめざして制定されるものである。

【法の目的】

 この法律は、憲法第13条、第14条、第25条等の基本的人権諸規定、障害者基本法、近く批准が予定されている障害者権利条約の精神に基づき、国・地方公共団体が、障害を持つ一人ひとりが人として尊厳ある暮らしと社会生活を営むことのできるようその権利を十分に保障し、障害の種別,軽重、年齢等に関わりなく、各自の必要性を満たす支援を、制度の谷間にこぼれる者のないように柔軟に実施し、障害を持つ人が当たり前の市民として社会参加できるための実質的な平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利益、不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにし、障害の有無にかかわらず人が相互にそれぞれをありのままに人として認め合い、差異と多様性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現をめざすことを目的する。
 また障害を持つ人はその居住地、施設入所、病院入院にかかわらず、入国管理局施設や警察署、刑事施設矯正施設に収容されているか否かを問わず、この法の支援の対象とする。

【保護の対象から権利の主体への転換を確認する理念規定】

 従来、障害者は、障害者対策実施の対象、保護の対象として、当事者として扱われてこない面があったが、この法律は、障害者が権利の主体、当事者であることを明確にする。

【社会モデルへの転換に関する理念規定】

(障害の本質の確認)

 障害の本質とは、機能障害、疾病を有する市民の様々な社会への参加を妨げている社会的障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害、疾病を持つ市民を排除しないようにする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉、支援の基本理念であることをここに確認する。

【他の者との平等の権利の保障】

 本法は、障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、表現の自由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、平等の権利が保障されることを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するものではなく、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具体的に各条項に規定されたものである。

【個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障】

 障害者にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支援が尽くされることをめざして本法は制定される。

【障害者の公的支援を請求する権利】

 市民として生きていくために公的支援を必要とする障害児者は、障害に起因して被っている社会的不利益の是正を国・地方公共団体に求め、固有の尊厳の尊重された生活を営む権利が保障されるよう、国及び居住する市町村に対して、この法律に基づき必要な支援を求める公的請求権が保障される。

【地域で自立した生活を営む基本的権利】

1 障害者自らが選択した地域において自立した生活を営む権利は憲法13条、14条、21条、22条、25条等に基礎づけられた基本的で重要な人権であり、本法に基づき、障害者にその権利が保障される。

2 障害者は、みずからの意思に基づきどこに誰と住むかを決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障される。

3 国及び地方公共団体は、障害者に対して前項の権利を保障する公的義務を有する。

【支援選択権の保障】

1 障害者には憲法第13条等に基づき、活用する支援を選択する権利が保障され、特定の施策を強制されない権利を有する。

2 前項の支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や支援システムが,地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それらの整備義務を有する。

【情報・コミュニケーション支援請求権の保障】

 この法律は、全ての障害者、とりわけコミュニケーションに関して制限のある、『ろう者』『難聴者』『盲ろう者』」等、重複聴覚障害者を含む全ての聴覚障害児者、視覚障害者、言語障害者、知的発達障害者に憲法第13条、第21条等に基づき、自由で民主的な社会を成立させる不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自ら選択する言語(手話など非音声言語を含む)及びコミュニケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を保障し、そのための情報・コミュニケーション支援に関する請求権を保障する。

【移動の自由の保障の重要性】

 この法律は、視覚障害者、全身性障害者、知的障害者をはじめ、移動、行動に制限を伴う全ての障害者に憲法第13条、第22条等に基づき、自由で民主的な社会を成立させる不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自らの意思で移動する権利を保障し、そのための外出介護、ガイドヘルパー等の支援に関する請求権を保障する。

【就労支援の実現の必要性の確認】

 この法律は、就労を希望する障害者の就労が真に実現するよう、企業への支援を含め、その就職を支援するための制度を準備し、また、従来低い工賃等のもとで訓練を強いられていた「福祉的就労」の現状を解消するため、賃金補填を含む、抜本的制度改革が必要であることを確認し、具体的規定は、『障害者労働保障法』等の別法に規定する。

【介護保険との選択権保障】

1 旧障害者自立支援法第7条が規定していた介護保険優先原則は廃止する。

2 65歳(一部40歳)以上の障害者に、介護保険の利用と障害者支援施策の利用を選択する権利を保障する。

【国の義務】

1 国の法制度整備・充実義務
 国は、本法各規定の定める障害者の支援請求権が実効的に保障されるため、法制度を整備・充実する責務を有する。

2 国のナショナルミニマム保障義務、地域間格差是正義務
 憲法に保障された基本的人権を保障する義務は第一義的には国にあることから、障害者支援の最終責任は国にあることを確認し、市民の障害の有無、障害の種別、軽重に関わらず、定住外国人も含め、自らこの国のどの地域に居住しても等しく安心して生活することができる権利を市民に保障する義務があり、そのため、国は自治体間での支援の格差を解消するための制度設計をする責務を有する。

3 国の財政支出義務
 国は、地方公共団体の財政事情に障害者の権利の保障が左右されないよう、必要な支援を保障することを可能とするため、地方公共団体に対して必要な財政援助を行なう義務を有する。
 人権保障としての支援である以上、支援の必要性があるにも関わらず年度予算の範囲内で支出すれば義務が免責されるものでなく、義務的経費負担制度を基本とする。

4 国の制度の谷間解消義務
 国は、難病患者、高次脳機能障害、発達障害者をはじめ、障害者が各制度の谷間に置かれて支援が不十分とならないよう、制度の谷間・空白を作らないように注意を尽くす義務を負う。

5 国の長時間介護等保障義務
 国は、地域で自立した生活を営むために1日8時間を超えるような長時間介護を必要とする障害者に対する介護等の支援が万全に行われるよう保障する具体的義務を負う。

【所管省庁を横断した総合的支援の必要】

 制度の谷間のない支援という本法の目的を実現し、ライフステージや場所、分野に分断されない継続的な支援を実現するため、この法律は、内閣府、厚生労働省はもとより、文部科学省、国土交通省、総務省、財務省、経済産業省、法務省等全ての官庁により横断的かつ有機的な連携が取られながら実施されることに特に留意が必要である。

【都道府県の義務】

都道府県は、この法律の実施に関し、次に掲げる責務を有する。

1 市町村が行う障害者支援が十分に保障されるよう、市町村に対する必要な助言、情報の提供、財政支援その他の援助を行うこと。

2 市町村と連携を図りつつ、必要な障害児者支援を総合的に行うこと。

3 障害者に関する相談及び助言のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものを重点的に実施すること。

4 市町村と協力して障害児者の権利の擁護のために必要な援助を行うとともに、市町村が行う障害者等の権利の擁護のために必要な援助が適正かつ円滑に行われるよう、市町村に対する必要な助言、情報の提供その他の援助を行うこと。

5 コミュニケーション支援について支援が不十分な自治体に居住する障害者の社会生活上の不利益が生じることのないよう、都道府県が直接支援事業を実施することを含めて責任を負うこと。

【市町村の義務】

市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、この法律の実施に関し、次に掲げる義務を有する。

1 障害者が自ら選択した場所に居住し、全国どこにおいても等しく自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、当該市町村の区域における障害者の生活の実態を把握した上で、必要な支援を実施、保障する。

2 障害者の支援に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び助言を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。」

【市町村の説明責任と申請妨害に対する制裁】

1 市町村には、支援を必要とする人が支援のネットからこぼれおちないように、障害者支援に関する制度を適切に周知・教示する義務がある。

2 市町村には、障害者の本法に基づく支援の申請権を保障する義務があり、支援の必要な人からの申請または申請に関する相談があった場合は、申請に必要な書式や説明文書を交付し、施策内容・申請方法等を適切に本人が十分に理解できるよう説明する義務がある。

3 市町村が前項の義務に違反し、障害者の申請権行使を妨げた場合、本法施行令の定めに従い、市町村長個人及び妨害行為者個人は検察庁の処分に基づき過料の制裁に服する。

【事業所整備義務が国・地方公共団体にあること】

 『措置から契約』への制度変革に伴って、国・地方公共団体は、「自分で事業所を探してください」といえばそれ以上の責任を問われないかのごとき状態は問題である。
 「契約制度」のもとで「地域で暮らす権利」が保障される前提条件は、支援を実施する事業者が地域に存在していることである。障害者福祉は本来、国・地方公共団体の責任で履行されるものであり、事業所のない地域が生じないよう、事業者への財政援助、育成を含めた、基盤整備義務が国、地方公共団体にあることをここに確認する。

【国民への広報、啓蒙】

 共生社会を実現するためには一般市民の理解が不可欠であり、国・地方公共団体は、障害者支援の重要性の理解を広報、啓蒙する義務がある。
 障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一部の当事者、家族に偏在、固定していることが不公平・不平等であり、この不平等を解消することが大切であり、そのためにはこの障害者支援制度改革が障害のある人に限らない全てのひとにとってわがこととして感じられ、教育・広報等により、幅広い世論の共感が得られるよう、努力する義務がある。
 具体的制度は個別に規定する。

【障害児の支援を求める権利】

1 障害のあるなしに関わらず共に生きる社会を実現することためには未成年段階で障害のあるなしにより隔離、分断されない療育、教育、生活を保障することが重要であることを確認する。

2 障害児のその成長発達の段階と差異と多様性に応じて、個別に必要な支援を請求する権利が、児童福祉法及び本法に基づき障害児及びその保護者に保障される。

3 障害児支援に関する費用負担を含めて、障害に起因する特別な経済的支出を親子、配偶者を含む家族が負担しない権利が保障される。

【障害福祉分野の労働者の人権保障の必要性の確認】

 この法律は障害者を支援するための法律であるが、障害福祉分野の労働者の給与水準等が低く、労働条件が劣悪で人材が希薄なことは障害者の生活の質が保障されないことを意味する。障害者支援の事業所に経営努力義務があることが前提であるが、この法律は、障害福祉分野の人件費が適正水準を下回ることが障害者の尊厳ある生活を受ける権利を侵害することを認め、そのような事態を生まないための努力義務が国・地方公共団体にあることを確認する。

【この法律による権利保障を目的とした相談支援を受ける権利の保障】

1 すべての障害者は本人の自己決定権を尊重され、この法律による権利保障を目的とした相談支援を受ける権利がある。

2 なん人もこの法律による支援についての情報を得るために相談支援を受ける権利がある。

 以下、定義条項

【障害の定義 規定】

(定義)

 この法律において「障害者」とは=「障害の範囲」作業チーム担当

【自立の定義条項】

 本法における障害者の「自立」とは、必要な支援を駆使して自己の意思で(支援を活用した自己決定を含む)主体的、自律的に社会生活を営み、自己実現をはかることという。

【地域生活の定義条項】

 本法における「地域生活」とは、障害者が地域社会で排除、孤立、隔離されることなく他の者と自然に共存し、特定の生活様式を強制されることなく、自分の選択に基づいて普通に暮らすことをいう。

【障害者支援の公的責任の定義条項】

 本法における「公的責任」とは、民間事業による福祉の実践を否定する趣旨でなく、障害者支援は憲法に基づく基本的人権の実現にほかならないことを前提に、障害福祉、障害者への社会生活の支援が最終的な責任が国家、自治体にあること、契約制度においても、支援が社会資源の不足等により満たされない場合の障害者に対する支援保障義務、基盤整備義務のあることをいう。

【請求権の定義条項】

 本法における「請求権」「支援請求権」とは、本法の規定に基づいて、障害者個人が国、地方公共団体等の公的機関に対して、個別の公的支援を求める具体的権利であり、司法救済の対象となるものをいう。

【支援請求権の基礎】

 障害者の公的支援請求権を基礎付けるものは、憲法の人権諸規定、障害者基本法で確認される基本的な権利に加え、権利条約により国際的な人権規範として確立されつつある合理的配慮義務の理念等により重層的に構成される。

【受給権なる表現について】

 保護の対象から権利の主体へという本法の改革の理念に照らして、「受給権」なる表現は、施策の対象としての受け身の存在を前提としており、相応しくない。
 「支援請求権」「請求権」等を利用するべきである。

【支援の定義条項】

 本法における「支援」とは、障害者は庇護されるべき弱者とみなすのでなく、本人の自律した自己決定を尊重し、本人らしさを発揮開花させるためのバックアップサポートをいう。

【自己決定の定義条項】

 本法における「自己決定」とは、支援者とともに悩む過程や、意思決定、意思形成において支援を活用することも含めて、自分の主体的な意思に基づき、生活、人生を切り拓いていくことをいう。

【合理的配慮の定義条項】

 本法における「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等に基本的人権を享有し、行使するために必要な、障害に伴う社会的不利益を埋めるために社会公共が果たすべきその人の個別事情に則した最も相応しい支援をいう。

以上

「新法の理念・目的」分野に関する意見

2010年12月8日
総合福祉部会「法の理念・目的チーム」

第一章 本法制定に至る経緯と障害者支援の基本原理

第1 障害者自立支援法導入に至るわが国の障害者福祉

 戦後、わが国の社会福祉は行政の職権に基づく「措置制度」を基本に実施されてきた。
 バブル崩壊の社会状況のもと、1995年、社会保障審議会が「自己責任と社会連帯」を強調する勧告を出し、国民には自らの努力によって自らの生活を維持する責任、自己責任があることが強調された。
 1998年6月17日中央社会福祉審議会 社会福祉構造改革分科会から「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」が発表され、戦後50年変わらない措置制度を抜本的に見直し、「契約制度」に移行させ、「サービス」提供者と利用者の対等性を確保し、市場原理を活用して「サービス」を向上させ、高齢化社会により増加する社会保障費用を公平に負担するべきと言われた。
 2003年には社会福祉事業法が消滅し、社会福祉法が制定され、障害者福祉の分野では自己決定の尊重を理念として、2003年4月1日から身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法に「支援費制度」が導入された。
 支援費制度開始からまもなく同制度の財政破綻等が盛んに言われるようになり、2005年10月に当時の「国民が痛みをわかちあう」という「国民自己責任論」の世論も背景として「障害者自立支援法」が成立、2006年4月1日から施行された。

第2 障害者福祉の基本原理

 障害の「社会モデル」を基本とした障害理解の必要性。
 障害者の完全参加と平等の実現を目標として1981年が国際障害者年とされ、1983年から1992年に国連障害者の十年が行なわれた。
 そこにおける「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである。障害者は、その社会において特殊なニーズを持つ特別な集団と考えられるべきではなく、通常の人間的なニーズを満たすことに特別な困難を持つ普通の市民と考えられるべきなのである」とのテーゼを改めて再確認してきたい。
 1993年1月21日付の中央心身障害者対策協議会の「国連・障害者年の10年以降の障害者対策の在り方について」と題する内閣に対する答申でも「障害者は特別な存在ではなく、基本的人権を有する一人の人間として最大限尊重されなければならない。」「障害者は決して障害のない人々と違った存在ではなく、社会の中に障害者が存在し、社会経済活動を行なっていくことが正常な社会の姿であり、障害者が各種の社会経済活動へ参加することを拒んでいる現在の社会の姿こそがむしろ問題である。」とされている。
 1990年身体障害者福祉法の目的から「更生」という言葉が削除されたように、障害を「治療と訓練と努力により自分で克服するべき対象」という「自力更生主義」から、「社会の側が障害者の社会参加を実現するために支援するべき」という方向で改革が進んできたはずであった。
 今回の改革は、上記の改革の方向性を再認識することである。
 テーゼとして掲げれば「障害自己責任、家族責任からの解放、障害の公的責任原則へ」がスローガンである。
 医学モデルに偏った従来の障害理解を変革し、社会モデルに立脚した改革が必要である。

第二章 改革の必要性

第1 障害者権利条約の批准に向けた改革の必要性

 2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」)が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に発効し、わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。
 この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国内法を権利条約の水準に引き上げ、権利条約が批准され、国内法的効力を発効する場合に、相互に矛盾のないように国内法を整備するための障害者制度の改革を目的とする。  従来のわが国の福祉法は恩恵的な色彩が色濃いが、権利条約は障害者のすべての人権と基本的自由の完全な実現の確保を締結国が約束しており、国内法を人権主体性の明確にした権利保障体系に変革する必要がある。
 そして、障害の概念について、様々な障壁との相互作用により社会参加を妨げることを確認する社会モデルを意識しており、批准に向けて、応益負担制度に象徴される障害者自立支援法の自己責任原則の撤廃が必要となる。
 また、権利条約第19条は自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョンを規定し、障害者が地域社会で生活する平等の権利を認めているが、依然として数十万人の障害者が施設、精神科病院に入所している現状と制度は、権利条約の精神に背反するものであり、地域での支援保障がないために例えば人工呼吸器装着を選択できず、生きることそのものをあきらめざるを得ない現状があり、人の生命と生存が守られる社会とするためこの新法制定による障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障するための根本的な改革が必要である。

第2 障害者自立支援法の問題点と是正

1 自己責任論を障害福祉に持ち込むことの過ちの解消

 国民一般に努力義務、自己責任があることは当然であり障害者も国民、市民として一般論として努力義務・自己責任があることは当然であろう。
 しかし、心身上の障害に起因する社会的障壁・社会的不利益が障害の本質であることが正しく理解されるならば、障害者に障害を自己責任と感じさせる仕組みは障害福祉の本質に抵触するものといわなければならない。
 障害に基づく不利益の是正を支援するに際して本人に「利用料」名目で自己負担を求める仕組みは障害を自己責任に帰するものであり、今回の新法制定とともに廃止しなければならない。

2 障害福祉の公的責任強化・増大の確認

 措置制度から契約制度への移行自体を根本から否定することは現実的でない。
 しかしながら、日本国憲法により本来最終的に公的責任のある国・自治体等の公的機関が、民間事業者に障害福祉の実施を託したことに伴い、障害福祉の公的責任が後退し、様々な弊害と限界があると指摘されている。
 措置制度が変更されることにより、とりわけ障害者福祉に関して言えば、公的責任の後退は断じて許されず、むしろ、福祉の公的無責任状態をもたらす危険性があるがゆえに、法的な公的責任は強化・増大したと整理・確認されるべきである。
 障害者が地域で自立した社会生活を営むためには、たんに「ご自由に事業者と契約して下さい。」で公的責任が終わるのではない。
 障害者がどの地域においても、個人の尊厳が保障された生き方が可能なように、国・自治体には地域間格差を是正する公的義務があり、契約の前提としての障害者の意思決定、意思形成を支援する仕組みを構築する義務があり、自治体には支援を活用出来る様に事業者の育成・財政支援も含めて、基盤整備を尽くす義務がある。
 さらには、障害児童の支援の分野では契約制度自体が相応しくなく、職権主義、措置制度に戻るのではなく、支援が充足し、権利が保障される方向で新たな制度が構築されるべきである。

第3 脆弱なわが国の障害者福祉水準

1 世界水準とかけ離れた劣悪な障害者福祉水準の引き上げの必要性

 OECD(経済協力開発機構)の2007 年社会支出統計(SOCX)によれば、加盟各国のGDP(国内総生産)に対する障害者関係支出額の比率を対比すると、わが国の障害政策公的支出費用比率は0.673%とされ、加盟30ヶ国の中で、最低のメキシコ、韓国についで下から3番目であり、圧倒的に低い水準である(*1 参照)。
 このことは、国民一般にあまり知られていない事実であるが、障害施策の財政支出の必要性が理解されるため、障害関係者だけでなく、広く周知されるべき事柄である。
 国外、国内とも不景気の続く時代とはいえ、2009年時点でアメリカ合衆国に次いで世界2位の国内総生産を維持し、先進国として世界の人権規範のモデルとなるべきわが国のあり方として、もっとも手篤く支援するべき障害者に対する施策が飛びぬけて劣悪な水準は一刻も早く根本的に改善されるべきである。

*1 国立社会保障・人口問題研究所 刊「季刊 社会保障研究 2008 年秋号 通巻181号」138~149頁「国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ ―国際比較研究と費用統計比較からの考察―勝又幸子」

2 国民一般とかけ離れた所得水準と家族依存状態の解消の必要性

 2004年4月の厚生労働省の資料によれば、全人口の労働年齢の就業率は67%であるのに対して、労働年齢の在宅障害者300万人のうち一般就労者は102万人とされ、34%程度である。50万人を超えると思われる施設入所者、精神科病院長期入院者等の労働年齢のほぼ全員が一般就労していないことと思われるので、その割合は更に低いものとなる。
 厚生労働省発表の2009年度工賃月額実績によると福祉工場、就労継続支援A型を含む「福祉的就労」における平均工賃月額は16,894円(年額202,728円)であり、小規模通所授産施設では8,208円(年額98,496円)である。
 2005年度末で障害年金受給者総数は約175万人とされ、平成22年度の障害基礎年金1級の月額は約82,508円(年額990,096円)、2級は約66,008円(年額792,096円)とされる。年金受給の認められない障害者も多い。
 厚生労働省統計情報部編平成20年「賃金構造基本統計調査」によると、国民平均賃金は年間約486万円である。
 これらにより、障害者の所得水準がそれ以外の国民一般に比較して掛け離れて劣悪であることが明らかである。それにも関わらず障害者が現実に生活を送っているのは、この国が障害者の支援を家族に人的、経済的に依存しているからに他ならない。国が障害者支援の本来の機能を果たし「他の者との平等」を実現、保障するためには、従来の障害福祉の予算水準を抜本的に引き上げることが不可欠である。

第三章 改革の理念の確認

第1 障害者の基本的人権を実現するための権利保障法体系への変革
…人権の主役としての明確化…

 推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の1」は、「権利の主体」である社会の一員とされている。
 措置制度から支援費制度に変わったとき、障害者の権利を保障する法体系に変わっていない。
 従来の「障害者は市町村の支給決定を受けなければならない」との権利者と義務者が逆の規定ではなく、障害者の公的支援の請求権の保障を法文に明記しなければならず、権利保障体系への変革として法文に国・自治体の障害者支援義務が明確に規定されることが必須である。
 障害者の権利の本質とは、障害に起因する社会的障壁により傷付けられている自由と個人の尊厳を回復するためのものであり、障害福祉施策を活用する権利は天賦の基本的人権である。
 障害者福祉は基本的人権の実現のために行なわれるものである。
 このことは国(厚生労働省)と障害者自立支援法違憲訴訟団との平成22年1月7日付け基本合意第一条「障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定」において、「そこ(障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する)においては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」とされている。
 また、基本合意第二条「障害者自立支援法制定の総括と反省」第1項は「国(厚生労働省)は、憲法第13 条、第14 条、第25 条、ノーマライゼーションの理念等に基づき、違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感し、これを真摯に受け止める。」とされている。
 すなわち新たな法制度は、憲法第13条に基づき障害者の個人の尊厳の保障し、第14条に基づき障害者に法の下の平等を保障し、第25条に基づき障害者の生存権を保障し、ノーマライゼーション理念に合致した新法にしなくてはならないことを意味している。
 基本的人権として当該支援に関する請求権が当事者に保障されなければ、何時でも消滅する脆く、淡い立場のままであり、政治や行政の「政策裁量」に左右されない普遍的な権利性の確立がなされなければならない。
 今回の改革の意義は、人権保障としての障害者支援を確立するための改革である。
 そのために、憲法第14条に基づく、障害者の平等の保障の明記が重要である。
 そして、憲法第25条生存権の保障が法の基礎にあることを明記すべきである。
 機会の平等を保障しただけで、裸の競争原理に放り出すことで障害福祉の責任は到底果たせない。障害者支援における生命の保障、生存権の保障の原理、誰もが安心して生きていかれる社会保障の原理もまた、重要な理念である。
 また、憲法第13条障害者の個人の尊厳の保障、自己決定権、幸福追求権の保障の明記が重要である。基本合意第二条第2項で国(厚生労働省)は「障害者の人間としての尊厳を深く傷つけた」ことを心から反省し、この反省を踏まえて、今後の施策の立案・実施にあたるとされているところ、これは憲法に則していえば、新法制定において、憲法第13条の個人の尊厳の保障を大切にするということである。
 さらに、障害者の生活支援において、ただ生命が維持されれば足るということではなく、全ての個人の尊厳が保障されることが重要であり、人間の尊厳が保障されることが必要である。
 そして、公的支援を活用しながら自分の生きたいように生き、各自が自らの幸福を追求する権利を有するという当事者の自己決定の原理、当事者主権と幸福追求権の保障(憲法13条)が重要である。
 夜間の見守り介助の必要性を訴える障害者に対して、「オムツをすればいい」と言う障害者福祉行政が現実に横行している。それが憲法第13条違反の人権侵害であることが、一般市民にも行政職員にも容易にわかる規定が必要である。

第2 地域で生きていくことが可能な法律にすること
…誰もが地域で当たり前に生きられるインクルーシブな社会の実現…

 推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の4」は、「地域生活」を可能とするための支援とされている。
 権利条約第19条は障害者が他の者と平等に地域社会で生活する権利を認め、障害者がどこで誰と生活するかを選択し、特定の生活様式を義務付けられないこと、地域社会からの孤立と隔離のないようにパーソナルアシスタンスを含む支援の確保を謳っている。
 長年この国で課題とされてきた「入所施設から地域での生活へ」を題目に終わらせること無く、地域で生きていくことが可能な、一人ひとりの支援の必要性に則した支援体系を整備し、新制度にすることが重要である。
 基本合意第三条⑥「どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるように、支給決定の過程に障害者が参画する協議の場を設置するなど、その意向が十分に反映される制度とすること。」
 できる限り訴訟団のこの指摘を踏まえた制度にすることが必要である。
 各地の重度障害者から、「現在の支給量では生きていかれない」との声が挙がっている。
 また、大量の社会的入院状態が長年にわたって解消されないわが国の精神障害の分野での、地域移行を実現するための総合的かつ具体的プログラムが必要である。

第3 制度の谷間にこぼれおちない支援
…障害の種別を超え、支援のネットからからこぼれ落ちている人を一人でも減らす…

 従来の制度において「障害」は、身体、知的、精神の三障害に限定され、発達障害、高次脳機能障害、難病等、障害者支援のネットからこぼれ落ちることの多かった障害者が適切に支援を受けられることの出来る新法構築が改革の最重点課題の一つである。
 これは「申請主義」の弊害を是正する取り組みも含まれる。
 すなわち、自己決定の尊重という観点からすると形式的には「申請なければ支援なし」となりかねない。
 しかしながら、現実には様々な社会的障壁により、どのように相談したらよいかさえ判らずに必要な支援が届かずに放置されている人々が多数存在している。
 個人のプライバシーの尊重を大切にしながらも、障害者の潜在的なニーズを掘り起こす支援も含めて、支援に辿りつけない人を一人でも減らす包摂社会を実現するべきである。
 また、障害者が刑事手続きの被疑者、被告人、未決拘留者、受刑者等の立場になった場合、制度や関係者の認識において、障害者にとって必要な当然の支援、合理的配慮が欠如していたことに起因する不利益には大きなものがあり、新しい法の支援がこれらの者に普く及ぼされることが確認されるべきである。

第4 他の者との平等の権利の保障、個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障
…平等に扱われてこなかった現実を直視し、平等な権利、社会の実現と個別事情に即した支援を…

 障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、表現の自由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、平等の権利が保障される。
 この法はそのことを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するものではなく、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具体的に各条項に規定されたものである。
 そして、個々の障害者の暮らしにおいて当然に必要とされるその個別事情に最も相応しい合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、障害者にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支援が尽くされることをめざして本法は制定される。

第5 障害の社会モデルへの転換
…障害の自己責任、家族責任からの解放…

 権利条約の考え方の基礎である障害の医学モデルから社会モデルへの転換を図るべきである。
 それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任があるとする考え方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現するために社会が支えることをこの法律は目的とする。

第6 公的支援を活用しながらの労働
…働きたい誰にでも誇りある労働を…

 障害者自立支援法は、就労支援の強化を謳いながら、就労支援のために利用料を徴収し、通勤や職場内での支援を認めない(認めるのは極めて例外)矛盾があった。
 障害者の尊厳ある労働を保障するための新法の構築が求められる。
 これは、障害者の労働基本権保障法等の別途の個別法律にて十分に規定することが必要である。

第7 医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障

 障害者各自の医療や福祉を選択し利用する権利に基づき、医療と福祉の責任範囲を区別しつつ、互いに連携して支援することは重要である。
 この法の実施にあたり、どんなに重い障害を持っていても自身の望む地域で自立した生活ができるよう、本人の選択に基づき医療との連携を図り、十分な質を備えた必要な医療的ケア(精神医療的ケアは除く)が支援されるよう務める。医療が責任を持つケアを安易に福祉に押し付けてはならないことを前提に、本人の生存と生活の支援の観点から実情に即した医療的支援が保障されるべきである。
 但し、精神保健医療及び福祉の分野においては、医療的ケアの名のもとに本人の意思を尊重しないことが問題視されている点に十分に留意しなければならず、原則として、精神障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。

第8 権利擁護機関の設置

 この法における権利を十全に保障し、かつ侵害されないために、権利保障・擁護機関設置の必要性を提言する。
 この法律による障害者の権利を保障し、権利侵害されないために権利擁護者制度を置くべきと考える。権利擁護者は行政および事業所から独立して作られた権利擁護機関によって提供されるべきである。権利擁護機関の構成員の過半数を障害者とし、国は十分な財政保障を行うべきである。権利擁護機関は障害者の要請に基づき公費で弁護士を個別障害者に保障することが望まれる。
 そして、これらの権利擁護機関は、本法に限らず、「障害者差別禁止法」「障害者虐待禁止法」その他障害者の権利に関する関係法令に関する権利の擁護全般を司る機関とすることが望ましい。

第9 現行の民法等に基づく成年後見制度の抜本的改革の必要性の提言

1 現行成年後見制度の廃止を含めた抜本改革

 民法等に基づく現行の成年後見制度は、本人の意思、意向を引き出して支援するという本来のあり方よりも、本人の意思能力と財産管理を中心とする生活上の権利を否定、剥奪し、本人の権能のほとんどが後見人に権限として移管される仕組みと批判されており、権利条約第12条2項「締結国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。」等の規定の趣旨に照らしても、本質的に問題が大きく、一旦廃止することを含め、本人の意思と能力を最大限尊重し、それを基礎として側面から支援する仕組みに抜本的に改革されるべきである。

2 報酬援助

 現行の成年後見制度の抜本改革を前提として、自己決定、意思形成に関する支援員のための報酬援助金を請求する権利を保障するべきと考える。
 「契約制度」等における障害者の自己決定を実効的に保障するため、上記の現行成年後見人制度の抜本的改革を前提として、本人の自己決定、意思形成への支援に関する支援員のための報酬援助金が本人に個別給付請求権として保障されるような法制度改革が必要である。

第10 共生社会実現のための幅広い世論の共感が必要
…共に生きる社会を実現するために広報、世論喚起を…

推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の5」は、「共生社会」の実現である。 障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一部の 人に偏在、固定していることが不公平・不平等なのである。 この不平等を解消することが大切であり、そのためにはこの障害者福祉制度改革が障害のあ る人に限らない全てのひとにとってわがこととして共感することが重要である。 教育・広報等も含めて幅広い世論の共感が得られなければ改革の成功はなし遂げられない。 その観点を実現することを目的とした具体的制度を新法に組み入れる必要がある。

第四章 論点と意見

第1 【法の名称】「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」

 基本合意第一条において、「そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」と確認されている。
 恩恵的歴史を辿ってきた日本においては法の名称に「福祉」も用いないほうが適切である。
 「人権保障としての障害者支援」を確認することがなにより大切である。
 「憲法に基づく基本的人権保障としての障害者支援法」を確立しなければ、すべては「行政施策上の裁量権」に収斂され、当事者が支援の中身に立ち入ることはできない。

  1. 障害者権利条約の国内法化という法制定の意義に鑑みれば、権利という文言は不可欠。
  2. 障害者の権利保障の法規の確立こそが重要という認識を関係者が共有し、基本合意で確認されたことを活かす。
  3. 本法のメインの守備範囲を明確にするため、「社会生活の支援」を入れる。
  4. 誰もが制度の谷間にこぼれ落ちない総合的な支援の必要性を法名に入れるべき。

 これは、本法に基づく支援が、上記③の「社会生活」を中心としながら、わが国で顕著な縦割り行政の仕組みで支援が分断されがちの支障を解消し、教育、労働、交通等の関係隣接分野にも柔軟に適用、利用できることを強調する狙いがある。
 以上から、この名称が適切と考える。

第2 【前文の必要性】

 結論:前文はこの法に必須である。
 議員立法にあっても内閣提出法には付けないなどという旧弊に縛られる必要は何らない。
 全国1000万人を超えると思われる障害者と、その家族、支援者、一般国民、全ての人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、新法の意義を関係者が共有し、個別規定の解釈指針とするためにも、前文でこの法の精神を高らかに謳うことが改革を成功させるためにも不可欠である。

第3 【そもそも、この総合福祉法は、誰の何のためにつくるのか?】

 障害をもつ人々が普通の市民として生きるために必要不可欠な社会的支援を行うため。ライフステージの全ての段階における個人の尊厳の保障を図るための制度。
 これは現在障害を持つ人だけでない全ての市民のためのものである。
 また、何らかの機能障害あるいは疾病を持ち、生命の維持および一般の市民と平等に人としての尊厳を尊重され幸福追求権をもち、社会の一員として社会に参加するにあたって支援を必要とする人のためである。
 なおこれらの人についてはその居住地、性別、国籍、年齢、施設・病院に入院、入所しているか否か、矯正施設刑事施設(受刑者には一定の制約はありうるが)入管施設にいれられているか否かを問わず平等にこの法の対象として権利を持つ。
 この法律は障害者権利条約の国内履行のための法律であり、障害者権利条約1条目的3条一般原則、4条一般的義務に照らして、上記が求められる。

第4 【憲法、障害者基本法等と「総合福祉法」との関係をどう考えるか?】

 基本合意で確認された「障害者の基本的人権の支援」ということ、憲法に基づく制度ということが明文で記載されることが必須である。
 基本合意書第一条「新たな総合的な福祉法制においては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」が新法の基本である。
 個人の尊厳(憲法13条)と生存権(憲法25条)が平等に保障される(憲法14条)ことが障害福祉の本質であり例えば「この法律は、憲法第13条、第14条、第25条、障害者基本法、障害者権利条約の精神に基づき、国・自治体・公権力が、障害を持つ市民一人ひとりが人として尊厳ある暮らしを営むことのできる権利を十分に保障し、障害を持つ市民が当たり前の市民として社会参加できるための実質的な機会平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利益、不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにする。」等の条項が必要。
 基本法自体について、差別禁止法及び支援権利保障法の上位法規として、さらに権利性を強める改正を実行することを前提に(基本法においてある程度の権利の抽象性は止むを得ないが)、下位規範としての位置付けを「基づき」等として明確化するべき。

第5 【障害者権利条約の「保護の客体から権利の主体への転換」「医学モデルから社会モデルへの転換」をふまえた理念規定についてどう考えるか?】

 法の理念規定を作るべきである。
 従来、障害者対策実施の反射的利益を享受する受け身の客体に過ぎなかった機能障害者は、自力で更生する努力をして障害を克服し、更生のための障害者の努力を支援するのが福祉の目的だとされてきた。
 そうではなく、「障害の本質とは、機能障害を有する市民の様々な社会への参加を妨げている障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害を持つ市民を排除しないようにする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉の基本理念として確認される」等と規定されるべき。
 障害者支援制度の存在意義は「障害を持つあなたは何も悪くない、何の責任もない、障害による様々な社会的不利益、不平等を公的に支えるからこの社会で共に生きていきましょう。」そういうメッセージを与え、そのための具体的支援をすることである。

第6 【推進会議では「地域で生活する権利」の明記が不可欠との確認がされ、推進会議・第一次意見書では「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利を有することを確認するとともに、その実現のための支援制度の構築を目指す」と記された。これを受けた規定をどうするか?】

 新法の前文で「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」が憲法13条、14条、21条、22条、25条等に基礎づけられた権利であることを明らかとした上で、各種支援規定を設けるに際して、この権利が実質的に確保されるためのより具体的な権利規定ないし請求権規定を置くべきである。
 「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」は、障害者権利条約19条でも定められている重要な権利であり、その具体的内容も多岐にわたる。障害者権利条約19条では、(A)から(C)項が掲げられているが、これは例示列挙と解すべきであり、新法ではこの権利の実質的確保のため、さらに十分に内容を検討した上で、各種支援を定めるに際して、この権利の趣旨を十分に踏まえた権利規定ないし請求権規定を置くべきである。
 個別規定としては、「1項 障がいのある人は、みずからの意思に基づきどこに住むかを決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障される。2項 国及び地方公共団体は、障がいのある人に対して前項の権利を保障する公的義務がある。」などの条項を設ける。

第7 【障害者の自立の概念をどう捉えるか?その際、「家族への依存」の問題をどう考えるか?】

 自立概念については、自律自己決定と同時に、支援を受けた上での自律自己決定ととらえられるべきであり、さらに自律自己決定の前提は選択肢の保障であり、自律の概念規定以前に選択肢保障が法的になされるべきである。選択肢保障のないところに自己決定はない。国・自治体が公的に保障するべき障害者福祉が家族に依存することは否定されるべき。
 自立はたんに経済的自活や、一人で何もかもできることではないということが確認されるべきである。そうでないと「自立」のために一生訓練に費やすことを強いられたり、全生活を医療の傘に下に置かれることになり、障害を持つ者が他の者と平等に扱われないことになる。
 また病院・施設しか生きる場がない、あるいは限られた選択肢を押し付けられるということがないよう、選択肢の保障は自律自己決定の前提である。
 なお否定されるべき「家族への依存」は、障害者の家族への依存のことでなく、国が果たすべき支援を家族へ依存していることである。

第8 【「地域で生活する権利」を担保していくために、サービス選択権を前提とした受給権が必要との意見があるが、これについてどう考えるか?】

 当事者に支援選択権のあることを条文で明記すべき。
 なお、「受給権」なる表現は、施策の客体としての受け身の存在を前提としており、今回の改革の方針に照らして相応しくない。
 そして、支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や支援システムが,地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それらの整備義務のあることが明記されなければ、支援選択権は絵に描いた餅になる。
 支援請求権の根拠は憲法第13条の自己決定権であり、当事者に選択権があることが根本である。在宅支援を求める当事者に公権力が入所施設への入所を選択する権限は原理的にない。
 それにも関わらず、それを条文で明記しなければ、そのような不条理が抑止できない。
 そして、支援申請権を明記し、その重要性の担保を制度化する必要がある。
 支援申請権が権利として保障されていることを明記することは当然の前提として、行政が申請をさせないという申請拒否行為が違法であることを明記し、処分庁個人及び違法行為者個人に制裁を課すなど実効性確保の制度が必要である。

第9 【条約第19 条の「特定の生活様式を義務づけられないこと」をふまえた規定を盛り込むか、盛り込むとしたらどのように盛り込むか?】

 特定の生活様式を障害当事者の意向等を無視して強制することが問題であり、特定の生活様式が問題ではなく、それを強制することが問題であると考えられる。規定するとすれば「本人の意に反して特別な生活様式を強制してはならない」とすべきである。

第10 【障害者の福祉支援(サービス)提供にかかる国ならびに地方公共団体の役割をどう考えるか?】

 社会全体の一般的な地域主権(地方分権)の方向性は否定されるべきでないものの、生命と個人の尊厳保障に直結する障害者支援の分野において、国はナショナルミニマムとしての社会福祉を公的に保障する責務があり、国の果たすべき役割は大きい。 地域に実施を任せた地域生活支援事業に象徴されるように障害者自立支援法が、様々な地域格差、サービス低下を招いたと強く批判されており、その反省にたった改革が大切である。
 少なくとも生きていく上で不可欠な福祉支援については、住んでいる地域によって差がつけられるようなことがあってはならない。常時介護を必要とする人に対する支援について、地域での生活が継続可能となる最低保障水準については、地方公共団体に委ねるのではなく、ナショナルミニマムとして、制度・財源の両面において国が責任を負うべきである。
 障害者の福祉支援(サービス)提供は、障害者の生存に関わるものであり、A市においては生きられるが、B市においては生きられないなどということがあってはならない。
 いくら地域で暮らすことの自由を言ったところで、そのための支援を実施する事業所が地域に存在せず、支援員もいない状態では、暮らすことが出来ず、それは公権力の公的責任履行義務違反であり、基本的人権が保障されていない憲法空白地域を意味するものであり、基盤整備義務を国と自治体の法的義務としなくてはならない。
 また、情報格差のもとで障害者の自己決定の保障を実質化していくための仕組み作りの観点が重要である。国・自治体の制度、施策の教示・周知義務を徹底し、福祉にたどり着けていない人、支援のネットからこぼれ落ちている人を一人でも減らす努力が必要である。

第11 【新法の守備範囲】

 障害者が一市民として暮らし、社会参加するために受けている社会的制限を除去・是正するための支援一般がこの法の対象である。
 中でも、社会生活上の支援を中心の守備範囲とする。
 従来の障害者福祉の分野を基本としながらも、教育・司法・労働等にも横断的に適用できるような法制度とする。
 分野ごとに分断されてきたわが国の縦割り行政の弊害で、一人の人間の支援も分断されて使いづらい仕組みであったことを解消するため、この法の支援は他の分野の垣根を超えて、制度の谷間のない(シームレスな)支援を実現するため、柔軟に利用できる制度
 医療:自立支援医療に相当する分野は本法の対象。排痰ケアーなど、医療と福祉の重なる分野において、本来的な範疇を医療法にて定めることも前提としながら、障害児者支援のために必要な規定は本法に設ける。
 労働:障害者雇用促進法の廃止を含む抜本的見直しとともに障害者就労支援保障法として別個の法律を制定。日中活動の場の保障は本法で。
 コミュニケーション:聴覚障害者団体の意見にあるように独立法とすることも一考に価するが、障害種別を超えたコミュニケーション支援が必要であり、今回は本法の対象と考える。
 障害児:児童福祉法を基本とするが、障害のある児童の障害特性にあった支援保障がなされるための基本的な権利を本法でも規定しておく必要がある。現在の行動援護、重度訪問介護、居宅介護等は障害児の権利も保障するべき。
 高齢者:介護保険法が基本であるが、障害のある高齢者等が介護保険優先利用を義務付けられることが無く施策利用の選択権を保障するべき。
 住宅政策・移動支援・交通バリアフリー:国交省の施策との有機的連携が必要。
 社会福祉法:今回の改革の理念に照らして必要な条項の修正。
 教育:通学支援、学校内介護等は本法で規定。財源は文部科学省の予算。
 精神保健福祉法:将来的には廃止の方向。

第12 【身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、その他の既存の法律のあり方、並びに総合福祉法との関係についてどう考えるか?】

 当面は、関連法の必要な改正。
 障害の種別ごとの制度の谷間をなくすことが今回の法制定の目的である以上、身体・知的・精神の障害別3法は廃止の方向性を確認しつつ、5年から10年等の中長期的課題として実務的課題として進める。
 精神分野については精神保健福祉法廃止とともに精神医療の充実のためにも精神に特化しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。
 新法の理念に則して、社会福祉法の改正も必要。
 また発達障害者支援法も今後発展的に新法に包括・統合されるべきである。

新法制定と同時に「社会福祉法」の改正が必要不可欠である。

 「障害者自立支援法」に関する規定が新法に基づくものに改正されることは当然の前提。
 それ以外の部分について。

改正前

「第3条 (福祉サービスの基本的理念)福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。 」

改正後

「第3条 (福祉支援の基本的理念)
1 福祉支援は、個人の尊厳の尊重を旨とし、その内容は、福祉支援の利用者の幸福追求の権利が尊ばれ、各自が自立した社会生活及び日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。
2 福祉支援は憲法第25条、第13条、第14条等の個人の基本的人権を保障することを基本とし、支援の最終責任は国・地方公共団体にあることを確認する。」

他の条項も サービス→支援

事業体系等に関しては、他の作業チームの意見参照。

第13 【地域生活移行促進のための時限立法の必要性】

 わが国では障害者の地域生活移行が一向に進まない現実があり、地域生活移行を実現するための総合的プロジェクトとして「地域支援充実と地域移行促進法(仮称)」といった時限立法制定と施行が必要である。
 この点は、地域資源チームが主に検討。
 また、このプロジェクトが国民的課題として周知され、官民一体となったムーブメントとなるよう、政府広報を行うことはもとより、定期的に番組を放映する、民放を含めテレビで積極的に取り上げてもらうよう活動するなど積極・果敢な活動が必要である。

以上

理念・目的チームについての主要な意見【補足版】

■「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案)についての主要な意見

*本文中に書かれている「本法」の表記は「この法律」にする、障害をもつ人の表記は障害のある人などと統一すべき。

*法の名称に関わって、広汎な領域について提起しているが、総合福祉法としての整備を軸として他法の関連領域についての整備をする法とすべきが適切なこの法の位置付けと思われる。従って、その内容にふさわしい名称とすべきである。

*自立の定義は、非常に重要であるにも拘らずあいまいな表現になっている。具体的な表現をすべきである。例えば、かわさき基準推進協議会のものを参考にしてはどうか(*かわさき基準推進協議会:「自立」とはすべてを自分でできることを意味するのではなく、「自らが望む」、「主体的に選択、自己決定できる」ことであり、家族や地域が協力することも含めて実行、実現できることを意味します)。

*請求権との表記があるが、解釈によっては自治体の裁量権とも捉えられかねず、むしろ受給権と記した方がいいのでは。但し、受給権が受け身的なニュアンスがあるとすれば、別の表現を模索するのも。

*都道府県・市町村の義務については、表現方法の検討を、また地方自治体が担う公的責任の範囲については、国と地方自治体との役割も含めて、今後十分な議論・検討が必要である。

*国・都道府県・市町村の義務に、24 時間の支援が必要な障害者も含めること、その際財政調整や支援を保障する具体的な義務について明記すべき。

*障害児の支援を求める権利の3項目目は、推進会議の第二次意見6)「障害のある子ども」の「障害のある子ども及び家族への支援」の趣旨を踏襲すべき。

■「新法の理念・目的」分野に関する意見についての主要な意見

●第3章、第7医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障について

*・・・医療的ケア(精神医療的ケアは除く)・・・、とあるが括弧内の削除。また、但し・・・精神障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。とあるが、精神障害者の医療を医療法に限定するような表現は修正して欲しい。医療・合同作業チームでも統一した意見集約に至っていない。

*連携するにあたっては本人の意向を尊重することが重要である。また、医療的ケアの必要な全身性障害者で、本人が望まない場合は、ヘルパー等の福祉施策のみで対応すべき。

●第4章、第12身体障害者福祉法、知的障害者福祉法・・・

*3法は廃止の方向性を確認しつつ、・・・精神分野については・・・精神に特化しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。とあるが容認できない。理由は、精神障害者の医療の問題は、入院前後を含めての包括的な対応が必要であり具体的には、保健(行政、保健所)医療、福祉が関与しなければならない。その際、非自発的な入院や治療が提供される場合には人権的視点からの「適切な手続」きが必要不可欠である。医療法で規定することは困難であると考える。