音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

総合福祉部会 第5回 H22.7.27 参考資料9

竹端委員提出資料

論点C-1-1)に関する参考資料

第5章 政策的インプリケーション

1.西宮調査から導き出されたもの

(1)西宮の実践から何を学べるか

 西宮における障害者の相談支援体制や地域生活支援に関する調査から見えてきたことは、自立支援法の検討の際に喧伝された支給決定プロセスの概念とは異なるアプローチや考え方、であった。
 自立支援法における支給決定プロセスとは、簡単に言えば、まず障害程度区分の認定調査があり、障害程度区分が決まった後、支給決定が行われる。サービス利用計画はある意味付け足し的なものであり、その決定された範囲内での計画作成がなされる、ということであった。ただこの仕組みではサービス利用計画作成が全国的に非常に少ないケースしか上がってこなかった為、廃案になった2009 年度の見直し案では、障害程度区分の調査の後、支給決定の前にプランニングをすることが方向性として打ち出された。これによって、介護保険のケアプラン同様、全ての障害者へのサービス利用計画作成を原則とする方向が打ち出された、と言える。だが、この改正案でも、あくまでも障害程度区分に基づく国庫負担基準の上限の範囲内で、という可能性が十分に考えられることは、介護保険のケアプランの現状からは容易に推測出来る。
 一方、西宮で支援費時代から行われてきたのは、まず本人中心の個別支援計画作成のプロセスにおける、当事者エンパワメントであった。その結果、セルフマネジメントが出来る方は、それを応援する。さしあたって困難な方の場合でも、相談支援事業者との協働の中で、本人中心の個別支援計画を作る。その上で、それを行政の勘案事項調査の際に検討課題としてもらい、実際の支給決定がなされる、という協議・調整モデル的な考え方であった。その際、西宮における支給決定の判断材料としてのガイドラインを官民の協働の中で作り上げ、ガイドラインで適応出来ないケースはサービス調整会議を開いて検討する、というものであった。だが自立支援法下では、「支給上限」という色彩の濃い障害程度区分を、協議調整プロセスの成果物であるガイドラインの中に盛り込んだことにより、後者が前者に引っ張られていき、ガイドラインの「魂抜かれて、ダイナミズムを失った」という事態に陥った。一方、すすめるネットに代表されるネットワークや社会資源開発の仕組みと仕掛けは地域自立支援協議会の中で生かされ、その協議会の会長にも障害当事者が位置づけられると共に、議論された内容は市政にも反映される、という仕掛けを作り上げてきた。
 では、この西宮の実践から、どのような他地域(全国)への政策的インプリケーションが出来るであろうか? 以下ではそれを、「支援計画策定を通じた当事者エンパワメント」「協議調整型の支給決定プロセス」「社会資源開発としての自立支援協議会」の3つのポイントで整理していきたい。

(2)支援計画策定を通じた当事者エンパワメント

 西宮の実践から必要性が高く、かつ他地域でも応用可能である課題として、計画策定を通じた当事者エンパワメント、が挙げられる。メインストリーム協会や青葉園における、障害当事者のエンパワメントの支援と、セルフマネジメントの作成支援、および、本人中心の個別支援計画作成のプロセスなどがそれにあたるだろう。
 その際、議論の前提となるのは、どんなに重い障害を持つ人でも地域で、というパラダイムシフトである。メインストリーム協会や青葉園では、他地域なら入所施設や医療施設にいる他ない、とされていた障害当事者の支援を続けている。その中で、メインストリーム協会では地域に暮らす障害者や地域生活を望む施設入所者をも対象にした、ピアカウンセリングや自立体験室等のサービスを提供することで、障害当事者のエンパワメントを行ってきた。また、青葉園では、養護学校卒業後の重症心身障害者の「拠点的場」を作りだすことによって、青葉園通所者の市民としての可能性開発(集団的・継続的・生産的な作業というものとは対極にある、消費的・非継続的・享楽的な活動等)に取り組むと共に、他地域に先駆けて、重症心身障害者の自立生活支援にも取り組んできた。それらの当事者エンパワメントの実践が、セルフマネジメントや本人中心の個別支援計画の作成に、当然色濃く反映されている。ただその一方、西宮においては知的障害におけるピープルファースト的な動きや、入院中の精神障害者の地域移行の推進などの面では、少し弱い部分もみられる、ということも明らかになった。
 セルフマネジメントと本人中心の個別支援計画の作成、は、当事者主体、という考え方においては同じ範疇に入れることが出来る。ただ、セルフマネジメントが出来る人でも、最初から制度やケアマネジメントに精通している当事者はいない。ピアカウンセリング等を通じたエンパワメントを行うことによって、障害当事者が元々持っている力を取り戻し(開発し)、仲間の支援に助けられながら、自分らしい暮らしのマネジメントを行えるようになるのである。また、知的障害や精神障害、重症心身障害を持っていて、自分でプランニングを作り上げることが苦手な当事者であっても、自分のことをよく知る相談支援事業者に手伝ってもらいながら、自分の想いや願いを入れ込んだ個別支援計画を、支援者と一緒に作ることは可能である。また、そのプロセスによってエンパワメントがなされ、コアとなる生活イメージが作られることを通して、「したい生活」の全体像(セルフマネジメントの大枠)が障害者本人に芽生えることにつながっていく。
 以上をまとめるならば、セルフマネジメントないし本人中心の個別支援計画の作成が出来るように、障害の種別や重さに関係なく、障害当事者へのエンパワメントを行う仕組みが、支給決定プロセスの入口で必要である、ということだ。最初に行政尺度ありき、支援者の介入ありき、ではなく、最初に本人のニーズありき、という基本が制度的に担保される必要がある。そしてその際、本当に本人が望むことが出せるような、本人の自己決定や自己選択の機会と可能性を拡げるためのエンパワメント支援が、何よりも第一義的に求められるだろう。

(3)協議調整型の支給決定プロセス

 さて、セルフマネジメントや本人中心の個別支援計画の作成を通じて、当事者のエンパワメントが果たされたとして、作られた計画と実際の支援との間にどのような関係を持たせるべきであろうか。この点を考えるために、以下では支給決定の枠組み(その理念と方法論)、相談支援機関および行政のあるべき姿について検討する。

【協議調整型の支給決定の枠組み(理念)】

 今回の調査から見えてきたのは、障害当事者、行政、相談支援事業者、の三者が互いにエンパワメントしあいながら、サービスの支給決定や社会資源開発において、協議調整が実態的に機能する仕組みが西宮では長年実践されてきており、この仕組みは他地域でも以下の仕掛けを行うことで、応用可能性が十分にある、ということである。
 まず前提として、障害当事者が自分の求める生活のプランニングに関して、その方法に2つの裁量権が付与されるべきである。
 ひとつは、自身のどのような想いや願いを反映させたいか、という結果と、そのためにどのようなプランニング方法が自分には適しているか、という方法の裁量である。本人のニーズを反映する、という結果をもたらすために、セルフマネジメントか、相談支援の専門家が支援した本人中心の個別支援計画か、のどちらの方法論を選択するか、選択権を付与する必要がある。
 次に、障害当事者が選び取った方法論(セルフマネジメントor 本人中心の個別支援計画)を用いての、支給決定に至るプロセスに関する裁量である。障害当事者の思いや願いを重視した支給決定に導くために、当事者、相談支援の専門家、行政の三者の役割分担と協働が求められる。
 当事者は、どの方法論を採るにせよ、支給決定のプロセスに参画する事が求められる。計画の作成、行政の勘案調査、サービス調整会議等への参画だけでなく、そもそも勘案調査の基準となるガイドライン作成にあたっても、当事者(団体)の参画が基本となる。相談支援の専門家は、この当事者の参画を支援し、エンパワメントしながら、本人のニーズ実現の為の支援を、本人の側に立って行うべきである。一方行政側は、その地域の社会資源の有無や財政的制約条件など、行政側の都合や事情に左右される可能性が十分にある。それを避けるためにも、当事者が参画した形でのガイドライン作成を積極的にすすめていくべきである。
 支給決定における公平・中立性を、単に行政のみで担保する事は非現実的である(行政は自身の事情に左右される偏りを持っている)。西宮市の行政が「すすめるネット」の議論を大いに参考にしたガイドラインを構築し、あるいは勘案調査において個別支援計画(セルフマネジメント含む)を参照したのは、その地域における生活水準は、当事者・行政・支援者の三者の協働で模索することが妥当である、と判断したからである。その地域における公平・中立な支給プロセスのシステムは、後に述べる地域自立支援協議会の仕組み同様、当事者・行政・支援者の協働で作り上げられるべきである。

【協議調整型の支給決定の枠組み(方法論)】

上記の理念に基づき、次に具体的な支給決定の方法論について提起する。西宮で実践さ れてきたように、当事者側ではセルフマネジメントないし支援者との協働による本人中心 の個別支援計画がまず作成される。その上で、行政は、そのセルフマネジメントないし本 人中心の個別支援計画を勘案材料として活用しながら、独自のアセスメントを行う。その 際には、本人が望む場合は本人参画のもと意見表明を可能にした上で、官民協働で作り上 げたガイドラインを拠り所にして判断を行う。 この際、障害の区別や重さに関係なく地域生活支援を行えるよう、ガイドラインはあく までも重度障害者の地域生活支援の生活実態に合わせた内容に構築する必要がある。これ は国の国庫負担基準といった「支給上限」的な色彩とは異なり、あくまでもその自治体の 実態に合わせた水準としてのガイドラインとすべきである。 ただ、この点で敢えて注記しておく事は、この水準は、重度障害者の地域生活支援の実 態がない中で設定すると、絵に描いた餅、あるいは現状(の無策)の追認に終始する可能 性がある、という点である。青葉園やメインストリーム協会のような重度障害者の地域生 活支援を支える拠点がない地域では、上記の現状追認と低い水準設定が重なれば、障害程 度区分や国庫負担基準による上限化の失敗と同様の失敗を繰り返す可能性は十分に想定さ れる。この点について、後に述べる地域自立支援協議会と連動させながら、その地域にお ける重度障害者の地域生活支援の課題と可能性、について、当事者・行政・支援者による 協働型の議論と解決策の模索も併せて望まれる。 さて、そうして構築されたガイドラインの枠内に収まらない、一定水準を超えるニーズ を持つ人へのサービス支給に関して、二段階のプロセスが求められる。まず、関係する当 事者・行政・相談支援事業者が一同に介するサービス調整会議で協議を行い、解決策を模 索するのが第一義的に重要である。次に、サービス調整会議でも三者の折り合いのつかな いケースに関しては、①不服申し立てという外部機関への訴えと、②地域自立支援協議会 における地域課題としての議論、の二つの解決方策を活用する事が有効であろう。 このうち前者のサービス支給決定に対する不服申請に関しては、市町村レベル、あるい は都道府県レベルでの審査会を設置する事が望まれる。ただ、その際、当事者の側に立っ て不服申請をしやすいようなエンパワメントや支援を行う広域型権利擁護機関の存在も不 可欠になるだろう。 後者の地域自立支援協議会は、個別支援計画(ミクロの個別課題)と障害福祉計画(マ クロの地域計画)の間をつなぐメゾレベルの議論の場である。そのため、ケース検討では なく、課題別の部会を中心とし、課題解決に向けた関係者全体の実質的協議の場とする。 イメージとしては、これまで行政内部で、あるいはコンサルティング会社に丸投げして作 っていた障害福祉計画の実質的な下案を官民協働で作る、実務者による協議調整の場、と いう形が望まれる。そして、その協議会に当事者が参画することはその前提条件である。 西宮のように当事者がその協議会の会長になる、あるいは事務局など運営機能の中枢にも 当事者が参画し、当事者・行政・支援者の協働が、自立支援協議会の意志決定のレベルで も行われる事も大切な要素であろう。 ここまでの議論をまとめると、西宮の事例からも明らかなように、支給決定プロセスの 構築は、単なる事務手続きの遂行ではない。「支給決定」のプロセス全体に当事者が参画 することは、当事者のエンパワメントにもつながり、かつ協議調整モデルを構築する上で 必要不可欠な課題でもある、と言えるだろう。このモデルを構築するためには、先述の 「計画策定を通じた当事者エンパワメント」が求められるだけでなく、相談支援機関およ び行政にもエンパワメントと変容が求められる。

【相談支援機関のあるべき姿とは】

 これまで見てきたように、相談支援機関の役割としては、支給決定を行う際および必要な場合は支給決定後に、本人が参画して「本人中心の支援計画」を作成し、必要な支援サービスの確保に努めること、と整理出来るだろう。
 そして、先に述べた「支給決定の枠組み」の項でも見たように、当事者、相談支援機関、行政のどれか一者が公平・中立に判断することは幻想である。その地域における公平・中立とは、三者の協議調整の中で構築的に導き出されて来るものである、というのが、西宮調査からの最大のインプリケーションである、ともいえる。そのため、支給決定の際に行政が勘案するケア計画を作成する(あるいはセルフマネジメントの支援をする)相談支援機関にも、公平・中立性を求めない。むしろ行政と利益相反になる可能性のある障害当事者を支援する為には、相談支援機関が、徹底的に当事者に寄り添い、当事者のニーズを引き出し、自分でケアマネジメント出来る人には、セルフマネジメント作成の支援を、自分でそうするのが現時点では苦手な人には、本人中心の個別支援計画の作成の支援を行う事が求められる。

 そのための方法論としては、以下に掲げる2通りの方法論が考えられる。

  1. 西宮のように自治体が委託の相談支援事業所のネットワークを作り、一定の質の担保 にコミットする
  2. 私たちが『障害者総合福祉サービス法の展望』で提起した、その理事会の過半数を支 援の受け手の団体等が関与するサービス提供を行わない法人もしくは公立で運営委員 会が同様の構成となっている組織が地域生活相談支援機関としてその任を担う

上記のどの方法論を採ろうとも、下記の点については、相談支援機関はクリアする必要がある。
 第一に、「支援計画策定を通じた当事者エンパワメント」を果たせる、という条件である。これは、現在使っているサービス以外のサービス利用の可能性も本人に情報提供・喚起することを意味するため、サービス事業所が行うことは利益相反になる可能性もある。そのためには、運営母体(法人)の利益追求の枠組みの範囲内での業務、という制約が科されている事業所では、この条件はクリア出来ないだろう。行政直営であれ、民間委託であれ、この機能を担保出来る形にすることが求められる。
 第二に、障害の重度・軽度の区別無く地域生活を支援出来るように、重度障害者の地域生活支援や地域移行支援に力を注ぐ必要がある。24時間の介助が必要、医療的ケアのニーズが高い、精神疾患の二次障害としての生活上の困難が大きい、などの理由で入所施設や医療機関から戻れない対象者を掘り起こす支援も求められる。当然、ガイドラインも、上記の対象者も含めた地域生活支援を念頭に置いたものとして構築されるべきである。
 第三に、メインストリーム協会や青葉園が行っていたように、地域移行支援だけでなく、新規や再度の入所・入院を防ぐ取り組みもこの相談支援機関では必要である。セルフマネジメントや本人中心の支援計画が作成される中で、地域における社会資源の未解決課題が浮き彫りになり、自立支援協議会で検討すべき内容が明確化される。この部分でも、相談支援事業者の積極的関与が求められる。

【行政のあるべき姿とは】

 行政は、当事者やその支援を行う相談支援機関と協議調整を行う主体である。ただ、岡部耕典氏の整理1を活用するなら、従来のような障害程度区分に代表される、抽象的で第三者型の給付調整から、西宮のガイドラインのような生活必要度基準を用いた、具体的で当事者参加型の給付調整に変容させるためには、行政のあり方も大きく変容が求められる。
 障害程度区分という抽象的で第三者型の給付調整を用いない場合、行政の役割も現行から大きく変化する。従来のように、障害程度区分と標準的支給量まずありき、サービス調整はその支給上限の範囲内で当てはめる、という方式はとらない。勘案事項調査の際に、行政の調査員(ワーカー)は、セルフマネジメントや本人中心の個別支援計画の中で提起されている生活像を、ガイドラインの水準と対比させた上で、当事者・相談支援機関との協議調整の中で、支給決定量を定めることが求められる。
 上記の協議調整型の支給決定プロセスや、それを可能にするガイドライン作りを行うためには、自治体レベルでの福祉専門職の配置、ないし一般担当者の継続性および障害者の地域生活に関する専門性の向上に向けた配慮や努力、等も必要となるであろう。少なからぬ自治体で、担当者は1,2年で変わるため実態を把握出来ない、ゆえに認定調査や自立支援協議会、障害福祉計画の策定は民間に委託(丸投げ)をして積極的に関与しようとしない、という実情も仄聞される。だが、これまで述べてきたように、協議調整モデルを真に実現しようとすれば、勘案調査だけでなく、自立支援協議会の運営やサービス調整会議の主催、ガイドライン制定などで、行政側の主体的関与、および当事者や相談支援機関との協働が求められる。そのためには、自治体行政が協議調整の主体となれるよう、専門的知識を持った行政職員の採用、および現行職員の知識や考え方を深めるためのエンパワメント研修なども求められるであろう。また、1、2年で担当者が移動する、障害者の地域生活に関する専門性と継続性が担保されない現行の行政のジョブ・ローテーションが、障害福祉の分野で馴染むか、についての検討も真摯に求められる。

1 岡部耕典『障害者自立支援法とケアの自律―パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』明石書店、2006 年、89 ページ

(4)社会資源開発としての自立支援協議会

 これまで見てきたように、当事者と相談支援機関、行政の三者による協議調整モデルを構築する為には、三者が一定の緊張関係を孕みつつも、緊密な連携と協働を行う、という、一見矛盾するような関係性の構築が求められる。西宮で実際そのような関係構築が可能であったのは、第二章でみたように「すすめるネット」という三者をつなぐネットワークの存在が大きい。そして、そのネットワークは、自立支援法における地域自立支援協議会の形に発展していったことも、既に述べた通りである。
 以下では、この自立支援協議会がどのような形で機能することが、協議調整モデルを円滑に進める上で重要か、について検討する。その際、地域自立支援協議会に求められるのは、ガイドライン作成機能、社会資源開発機能、およびそれらの評価と点検機能、の3つであろう。
 まず、ガイドライン作成に関して言えば、その地域の交通手段、社会資源などの実情に併せたガイドラインを自治体独自で作ることが求められる。例えばバリアフリー化された公共交通機関やグループホームなどの社会資源が整った西宮のガイドラインを、現状では移動支援サービスもグループホームもない地域で直接活用しようにも、「ニーズはあってもサービス無し」という実情になる。だが、先述のように、この水準は、「絵に描いた餅」「現状(の無策)の追認」に終始してはならない。そこで、その地域における重度障害者の地域生活支援の課題と可能性を視野に入れたガイドライン作成を、地域自立支援協議会の本来的業務と法的にも位置づけ(その財源も確保し)、その場で当事者・行政・支援者による協働型の議論と解決策の模索がされる事が必要であろう。
 次に、社会資源の開発機能についてだが、現行では多くの自治体で、自立支援協議会で議論された事を自治体レベルで施策化するための担保が取られていない。西宮では自立支援協議会で整理・検討された課題について、行政に報告した上で、市の事業への取り込みが実態的に図られている。自立支援協議会の協議結果を自治体政策に反映させるための法的・財政的根拠付けも必要とされている。
 附言すれば、地域自立支援協議会は市町村ないし圏域単位が望ましいが、社会資源創出等のスケールメリットなどを考えると、最低でも人口10万単位くらい(都市部以外の道府県での障害福祉圏域単位)くらいで設定する事が、社会資源開発機能を持たせるためには現実的かもしれない。だが、それ以下の規模で実質的に機能している自立支援協議会があるならば、その動きを止めるものであってはならない。
 評価と点検機能については、厚労省がもともと自立支援協議会を提起した中での一番目の項目として書かれているのだが、その方法論が確立されていない。ガイドラインが形骸化しないためにも、サービス調整会議で解決出来ない課題を議論するためにも、あるいは不服申請から施策課題を検証するためにも、この評価・点検機能を自立支援協議会に持たせることも、大変重要である。その際も、繰り返しになるが、当事者・相談支援機関・行政のどれか一機関で、公平・中立な評価・点検は不可能である。そのため、協働型の評価・点検を行うためのスキーム開発も、国レベルで求められている、といえよう。

2.実体のある協議・調整モデルに向けて

 DPI日本会議では『障害者総合福祉サービス法の展望』(茨木他編、ミネルヴァ書房、2009年)の中で、支給決定の仕組みについて、次のように提案した。

「…『自立支援法』の支給決定の仕組みから、『協議・調整モデル』へと変更することが求められる。
 そのために、現行の障害程度区分は廃止し、本人の意向を基本として、精神・身体の状態のみならず、社会参加の制約や環境要因も勘案して支給決定する仕組みに組み換えることを提起したい。
 セルフマネジメントを基本に置くとともに、本人中心のアプローチのもとに「本人中心の支援計画」がつくられ、それに基づき協議・調整を行い支給決定をする仕組みが必要である」(P290~291)
こうした「協議・調整モデル」に基づく支給決定が有効に機能するための条件として、「その『協議・調整』プロセスに入るに先立ち、また、その過程において、障害当事者のエンパワメントが不可欠である。そのために、地域エンパワメント事業をはじめとする権利擁護システムをつくり、必要に応じて利用できるようにすることが必要である」(P291)

と、地域エンパワメント事業をはじめとする権利擁護システムの確立が不可欠であることを指摘した。

 こうした点から、西宮市の地域自立生活支援の仕組みは、実例として興味深いだけでなく、今後の制度検討において極めて示唆に富むものであった。
 これまで見てきた通り、西宮市では、他地域では入所施設・医療施設が想定されがちな、人工呼吸器使用者等も含めた重度の全身性障害者や、重複障害を持つ重症心身障害者の地域生活が実現されてきた。
 まず、「どんなに重い障害を持つ人でも地域で」を基本においた、メインストリーム協会や青葉園等によって長年の活動が展開され、当事者のエンパワメントがなされ地域生活の実態がつくられてきた(地域生活を基軸にした当事者エンパワメント)。
 そして、支援費制度の開始に当たっては、そうした地域自立生活支援を進めてきたところが中心となり、「すすめるネット」を立ち上げ、行政と協働しながらガイドライン作成を行ってきた(重度障害者の地域生活の実態を前提にした、当事者参画によるガイドラインの作成)。
 また、一方、「あんしん相談窓口」がメインストリーム協会、青葉園を含む複数の事業者に対して委託がなされた。相談窓口は、セルフマネジンメントが可能な場合はセルフマネジメントの支援を行い、さしあたって難しい人に対しては個別支援計画策定の支援を行ってきた(セルフマネジメント基本に置き、必要に応じて本人中心計画作成の支援)。
 さらに、西宮市の自立支援協議会は、地域生活支援に当たってきた当事者が会長を担うとともに、「あんしん相談窓口」が事務局を担っている。そのことにより、他地域では自立支援協議会の役割の一つとされている「困難事例への具体的対応」等は「あんしん相談窓口」で行うことを前提として、その中から市への課題提起を中心にした議論がまとめられ、市幹部への報告会開催等、市政への反映の回路がつくられてきた。(社会資源の開発機能としての自立支援協議会)。
 ただ、このように様々な面で特筆すべき点をもっている西宮市でも、決して、「予定調和」的に現在の姿が形成されたわけではない。むしろ、試行錯誤を経て、また、その試行錯誤を許容する柔軟性があったからこそ、現在の状況があると見るべきだろう。
 支援費制度開始後、当初、西宮市では月380 時間を上限として設定された。それに対して、介助サービスの利用当事者による「介護制度をよくする会」が結成され、不服申し立てや数度に及ぶ交渉の末、上限撤廃がなされることになった。(当事者による権利擁護、ソーシャルアクション)。
 また、「自立支援法」の障害程度区分により、「魂を抜かれ、ダイナミズムを失った」との指摘も当該の関係者によってなされており、今後、さらなる試行錯誤も想定されよう。
 こうした試行錯誤のプロセスにこそ、我々は障害者の地域生活支援をめぐる生命力、ダイナミズムといったものを読み取るべきである。
 前節で、「当事者と相談支援機関、行政の三者による協議調整モデルを構築する為には、三者が一定の緊張関係を孕みつつも、緊密な連携と協働を行う、という、一見矛盾するような関係性の構築が求められる」と指摘した。まさに、こうした「緊張と密接な連携・協働」という「矛盾」の中にこそ、障害者の地域生活支援の発展の契機がある。「協議・調整」モデルとは、そうした「矛盾」をそれぞれが引き受けつつ、そのダイナミズムの中で、ギリギリのところで「納得感」を得る、また納得が得られない時には不服申し立て等も含めて必要に応じて是正が可能なプロセスでなければならない。

 以上のように、西宮市では支援費制度の際に示された理念(ノーマライゼーションの理念、自己決定・自己選択の尊重、施設から地域の流れ)を、当事者・相談支援機関・行政等関係者がひたすら真面目に追求してきたと言える。そして、その後の国レベルでの支援制度から「自立支援法」への制定・施行と数度に渡る見直しという混迷した状況にあっても、変わることなく「愚直」に、その理念を追い続けて、今日に至っている。  だとすれば、何か「安易な処方箋」を求めるのではなく、「協議・調整」モデルが可能 となるように、当事者・相談支援者・行政担当者のそれぞれのエンパワメントを行い、 「愚直」に障害者の地域生活支援を進めていくことができる制度が求められる。

 支給決定プロセスに関連して、2009 年3月に国会に提出され、後に廃案となった「障害者自立支援法等の一部を改正する法案」の内容についてふれておきたい。
 支給決定に関連しては、「障害程度区分」を「障害支援区分」に変更するとなっていた。「程度区分」から「支援区分」と名称が変わることをもって歓迎するむきもあったが、基本的に「区分」と国庫負担基準がリンクする構造は変わらないこと、そして、「標準的な支援の度合を示す区分」との定義によって、「国庫負担基準を超えるもの=標準外」と解釈され上限的役割が強化される可能性があったと言わなければならない。
 そして、相談支援の充実として、「相談支援体制の強化(基幹相談支援センターの設置を設置、自立支援協議会の法定化)」「支給決定プロセスの見直し(サービス利用計画案を勘案)サービス利用計画作成の対象者の大幅な拡大」が掲げられていた。
 相談支援の充実というが、何をどのように強化するかがポイントとなろう。前述の通り、「協議・調整」モデルの中で相談支援機関に求められる立ち位置として、「行政と利益相反になる可能性のある障害当事者を支援する為には、相談支援機関が、徹底的に当事者に寄り添い、当事者のニーズを引き出し、…支援を行うことが求められる」とした。
 こうした点から、我々の提案では、「地域生活相談支援機関の理事会の過半数を支援の受け手の団体等が関与すること」とした。それに比べて、一定以上の規模を想起させる「基幹相談支援センター」では行政直営や行政と密接な関係にある外郭団体へ委託され、支援の受けての団体が関与することが遠くなり、「徹底的に当事者に寄り添った支援」が得られなくなるのではないかと危惧する。
 さらに言えば、「自立支援法」に制度的にビルトインされているのはサービス給付に関することがらが主であり、それ以外の障害者の地域生活に関わる様々な支援のことがらの「穴埋め」のような役割が「相談支援」に付与されてしまったのではないだろうか。あたかも、「相談支援」が「打ち出の小槌」(しかも、安上がりの)のように見なされているとの印象禁じ得ない。むしろ、「相談支援」という言葉の中に、エンパワメント、(狭義の)相談支援、権利擁護といった諸機能がない交ぜ状態で詰め込まれてきたのではないか。
 我々は、こうした点をふまえて、地域エンパワメント、地域相談支援機関、権利擁護機関といった、それぞれの機能に対応した事業や機関が必要だと考えている。
 そして、これらの事業や機関を「基盤的な施策」としてしっかりと位置づけ、事業仕立ての仕組みとすることが必要であると考える。
 「自立支援法」では、個別給付か地域生活支援事業のどちらかしかないこともあり、相談支援事業の財源確保の「苦肉の策」という面もあって、サービス利用計画作成の対象拡大(サービス利用計画に対する個別給付)が打ち出されたと思われる。
 しかし、障害当事者の希望と無関係に、いたずらにサービス利用計画を拡大することはセルフマネジメントを阻害することにもなりかねない。
 そして、本人中心計画の作成支援が必要な当事者にとっても、サービス利用計画作成の拡大によって、必要な支援が得られるとは限らない問題があげられる。というのも、その支援にいくら「手間隙」がかかってもサービス利用計画(並びにフォローアップ)で1件としてカウントされる仕組みであったからだ。そういう仕組みならば、エンパワメントのプロセスを大切にし、時には行きつ戻りつしながら、本人のニードを明確にしていくような支援をすることは、事業者からすれば割にあわないことになる。事業者は手のかからないケースを中心にクリームスキミングを行い、むしろ、地域生活実現のために手厚い支援が必要な重度障害者は必要な支援を得られない事態が起きるといった問題は防げないのではないか。
 あらためて、重度障害者の地域生活支援を行うためにこそ、地域エンパワメント・地域相談支援機関・権利擁護機関といった重層的な支援体制と、それらが基盤的施策としてしっかりと位置づけられた展開がなされることが求められることを強調したい。

 最後に、支援費制度の理念を現在に至るまで追求してきたと西宮市の事例から、もう一 つ指摘しておきたいことがある。
 支援費時代に「今の仕組みを続けると青天井になり財政が破綻する」との説が喧伝され た。また、「ニード爆発」等と一種誇張とも言える表現も使われた。
 しかし、我々は(そもそも、対GDP 比で先進国中最低水準とも言える障害者予算がも たらす天井の低さはさておいたとしても)、あまりにも一面的な見方だととらえてきた。 なぜならば、支援費制度の中で在宅サービスの利用増加は、支援費制度により在宅サービ スが全国の市町村で提供され始めたことによって、元々あった潜在ニーズが現れたものと 考えたからである。そして、長年の措置制度の歴史の中でつくられた施設中心の政策・サ ービス・財源(当時84 対16)の構造から、地域生活に移行・転換していく中での軋み、 「生みの苦しみ」とも言うべきものであり、全国的に一定のサービス提供がなされてくれ ば落ち着くだろうと見ていたからだ。
 その点から、西宮市での財政面での変化は、示唆に富む推移(急増から一定の期間を経 て安定)をしている。ただ、中核都市という一定レベルの人口規模と財政を有しているか らこそ、その期間を持ちこたえたとも言える。そうした点から、どこの市町村においても、 長時間の介護サービス等の提供を可能とする財政調整の仕組みが求められる。

3.最後に

 総じて、この西宮の調査で分ったことは、西宮市と障害者市民や障害者団体と、その間をつなぐ、相談支援機関のトリニティー関係の重要さである。西宮が、今後わが国の、ポスト障害者自立支援法の先取りが少しでも可能となったのは、この3者が、相互にエンパワーし合いながら、それぞれをレベルアップしてきたからに他ならない。それでも、これまで見てきたように、「支援費制度」の柔軟性をなくした「障害者自立支援法」のものでは、西宮といえども、茨の道を歩まざるを得なかったわけである。とりわけ「障害程度区分」が、サービスの種類や量をリジッドに規定していることや、地域生活支援事業に組み込まれた移動・社会参加支援や相談支援事業の絶対的な予算制約が、各自治体を瀕死の状態に追いやっていることは明らかである。
 それに対して、『障害者総合福祉サービス法への展望』で提起した、ソーシャルワーク的アセスメントができる行政担当者や、エンパワーリングされた当事者と本人中心計画をサポートできる相談支援者の萌芽が西宮に確かに存在したことも、この調査で明らかとなった。足りないのは、今後、障害程度区分に頼らなくても、西宮の支給ガイドラインを使いこなして(裁量して)、利用者の真の必要性と向き合うアセスメントソーシャルワーカーのレベルアップ研修システムと、その裁量権を真に可能とする予算的裏づけであろう。さらに、『青葉園』や『メインストリーム協会』といった障害者本人のエンパワーメント支援機関が、その裾野を広げて、より多くの障害者本人のエンパワーメント支援をおこなっていかなければならない。 さらに、相談支援機関に関しては、本人の思いや選択が可能となるような自己決定・自己選択そのものの支援をさらに充実すると共に、どの相談支援機関においても本人に寄り添った質の高い「本人中心支援計画」が立てられるような研修体制を組まなければならない。
 最後に提起しておきたいのは、「支援費制度」が正しく提起した、入所・入院から地域移行・地域支援へという大きな流れである。「障害者自立支援法」は、今やそれを掛け声だけに終わらせてしまいかねない。厚労省の資料は、2005年から2007年の2年間で施設入所者は389人減っただけで、しかも、地域移行者9,344人に対して新規入所者18,558人と言うのだから呆れてものが言えない。後の人は他の施設・病院か死亡者である。同じことが、精神病院にも言える。国が全国規模の資料を出してこないので、静岡県の資料を使うと、2006年から2007年の1年間で948人が退院し、新たに898人が入院したので、50人減っただけで、しかもGH・CH等利用者は僅か60人で、退院者の大多数の717人は自宅に帰っている。静岡県の担当者は自宅に戻っている人については、サービスの必要量が把握できないために、かなりの人が、病状悪化等による再入院の可能性があるとしている。
 実にこれが、わが国の実態であり、目標(入所施設1万ベット、社会的入院7万2000人)とは大きく乖離してしまっている。その目標ですら、精神病院では、毎年2万8000人が死亡退院しているのだから、何もしなくても3年で8万人以上ベッドを減らせるはずだ。要は減らす気がないだけである。
 ここまで分れば、後は、3つしか方法は残されていないし、それを必ず実行しなければなるまい。
 まずは、各市町村で現在地域・在宅で暮らしている障害児者全員の訪問ヒアリングを実施することである。もちろん、精神障害者を含めなければならない。嫌がられても、ラポールができるまで通いつめ、地域・在宅で暮らすのに必要な支援ニーズを聞かせていただくことである。そしてそれに基づいて、介助サービスや日中活動支援やCH・CH等の障害福祉計画を立てることである。
 次に、同じく、入所施設と精神病院利用者全員の訪問ヒアリングを市町村が行うことである。
 これもまた、ヒアリングをする担当者のトレーニングも大切だが、何より話せる関係ができるまで、通いつめ、その真のニーズを聞かせてもらい、それに基づいて地域移行計画を策定しなければならない。
 最後に、入所施設や精神病院の規模の縮小に見合った、単価の設定や、他の地域支援サービスへの転換支援や、職員の再教育プログラムを構築しなければならない。
 その際、それに必要な予算はどうなるのかと必ず市町村は言うであろうし、それは当然の疑問である。そこで、高齢者に対して介護保険制定の10 年前から始めた、ゴールドプランと新ゴールドプランのようなものをふまえて「障害者地域生活基盤整備計画(チェンジプラン)」を構想し、5年程度の時限を限って集中的に社会資源を充実するための「地域生活基盤整備推進法」を成立させ、必要な予算を確保すべきであろう。