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総合福祉部会 第5回 H22.7.27 参考資料11

中西委員提出資料

第5章 政策提言~障害者地域自立支援体制(案)~

 わが国では、政権交代により障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るために、障がい者制度改革推進会議が当事者過半数で構成された。これは、第2章第1項で紹介したカリフォルニア州のRCの理事メンバーの構成(障害当事者と家族が50%)と同様で、当事者主導である。ランターマン法では、これまで行政が裁量していた知的・発達障害者のサービス計画・決定と提供を当事者中心に行うために、RCの理事の体制や運営に関することを明記し、知的・発達障害者の地域生活を権利として保障することを定めている。本研究の成果を参考に、わが国で、「障害者地域移行緊急10カ年計画法案(仮称)」を策定し、地域に以下のような組織と地域サービス体制の構築を提言する。本計画は、2011年より10カ年で策定し、施設の新規入所を止め、施設に代わる具体的な地域生活移行のための包括的なプランを策定する

第1節 障害者地域移行緊急10カ年計画法案(仮称)

本事業では、次の5点を重点的に行うこととする。

  1. 人材育成(当事者組織の育成、専門職の育成)
  2. 総合的な相談支援体制(身体障害、知的障害、精神障害)の整備
  3. ショートステイ(精神障害、知的障害、重症心身障害、緊急時・一時避難)の整備
  4. 個別介助サービス体制の整備
  5. 地域の権利擁護センターの設立

第1項 人材育成

 本研究では、ピアカウンセラーなど障害当事者の専門性について多くを語り、障害がない立場の専門職について述べることは少なかった。もちろん、障害者人口は724万人(出典;平成20年度版障害者白書)と限られており、当事者専門職ばかりを求めることもできない。
 5万人規模※76での緊急サービスや、海外のマディソンモデルを参考にしたACTなどの医療機関と、当事者が中心となって運営を担う体制づくりと、そのための当事者職員の養成研修が必要である。またプロジェクト期間である10年以内に、全体制を整備することも困難である。ゆえに、現実的な問題として、当事者主体の理念を研修などで確実に身につけた障害のない専門職との「協働」は重要である。そこで、当事者主体の理念を持った専門職をどのようにして育てるかも重要な問題となる。

※76 トリエステ精神保健センターの行政区は5万人に1センターとしており、参考とする。日本の小学校区とほぼ同数で考える。

① 当事者組織の育成

 主に身体障害者中心で設立された自立生活センターは、権利擁護機関、相談支援組織、サービス提供組織として機能している。知的障害者についてはピープルファーストがあり、権利擁護活動や相談支援機関としてある程度機能しているが、サービス提供事業体としては機能していない。精神障害者については、当事者集団やピアサポート組織が、やはり相談支援や権利擁護、生活支援を行っているが、まだ数が少なく、全国的な支援網とはなっていない。そこで、マディソンモデルのSOAR、カリフォルニア州の知的障害者・発達障害者ヘのPC-IPPに基づく地域支援などを参考に、当事者の育成とシステムづくりを、活動資金も含めて公的な支援が求められる。特に、地域格差を生じさせないために市町村ごとに、事務所運営資金、職員費用等の運営補助が必要である。現在のリソースも活用しながら、特にピアカウンセリング、自立生活プログラム、さらに自立生活プログラムをコーディネートするEプログラム※77の導入やWRAP※78などの研修、そして支援者の訓練であるアクティブサポート※79を実施することなどが求められよう。

② 専門職の育成

【社会福祉士】

 障害者の地域生活支援という視点から社会福祉士の専門性を高めるためには、まず、在宅サービスの中での具体的な介助や、地域生活支援事業の相談支援の現場実習をカリキュラムの中に取り入れることが望ましい。2009年には、従来の養成カリキュラムが改訂されたが、その内容だけでは未だに不十分である。地域生活を望む当事者のニーズが十分に尊重されず、自己決定に基づいた地域生活を支えるサービスが十分ではなく、当事者の権利は保障されない状況が変わらないままともなりかねない。そこで、社会福祉士をめざす学生や既に業務に携わっている職員が介助サービスの現場で、入浴やトイレ介助などの生活を通して、頭ではなく身体で福祉を理解し、対等な人間関係を作ることが求められている。社会福祉士の現場実習において、介護を行う例は今も多く見られるが、直接的な介助を通して福祉や支援の基本を学ぶという視点が十分ではないため、有益な学習の場となっておらず、当事者との対等な関係性を感得するに至らない。同時に、相談支援の現場での実習が確実に行われていないために、社会福祉士が本来果たすべき、個別支援計画、生活支援、ジョブワーカーなどのスキルを得ることができないままに終わっている。したがって、目的性を明示した直接的な介助と、地域生活支援のコーディネーターとしての社会福祉士のスキル獲得のために、現場実習をバランスよくカリキュラムに盛り込む必要がある。また、4年生の大学の福祉関係のカリキュラムの中に、障害当事者を講師として招くなど、「当事者主体」の視点に立つ支援者養成のカリキュラムヘと再編成することが求められる。

※77 大阪出発なかまの会がILPを推進するための運営委員の活動を「Eプロ」と称して当事者中心に構成して実施している。

※78 市川市、クラブハウスFor Usの仲間を中心に当事者が中心となって進めている元気行動回復プラン(WRAP)をさす。

※79 大阪出発なかまの会が職員側の指導システムとしても取り入れているプログラム。

【精神保健福祉士(PSW)】

 特に病院に勤務するPSWについては、看護師などの医療職が「医師の指示の下に」と、業務に制約があるのと同様、医者からのオーダーを受けて動かざるをえないのが現実と思われる。したがって、期限以内に患者を退院させるために、住宅改造、介助サービスを設定し、全ての手当てや福祉制度が受給できるように手配することが求められることになる。それに加えて、短期間の間に、入院患者の障害受容についてもケアしなければならない。実際にこのような体制では、入院患者の意向を十分に理解する相談支援ができず、必ずしも、入院患者の希望する退院後の地域生活が保障されるとはいえない。そこで、当事者相談を中心にすえ、ピアなどのサポートを得ながらエンパワメントの促進を含め、入院時から本人の意向に沿ったニーズ中心の地域移行が実現できるようなシステムを構築する必要がある。また、精神保健福祉士養成課程におけるカリキュラムの見直しも必要である。特に、医学的な観点に比重をおかず、社会モデルに依拠した支援のあり方について学ぶ機会を保障することが必要である。当事者との対等な関係性を築くことは急務であり、そのためには、現場実習のあり方や講師として当事者を招くなどして、対等な人間関係を構築するための意識転換を図るカリキュラムに改編することが必要である。長期的には、社会福祉士と同一制度に統一し、当事者のニーズに基づき地域生活を支援する担い手として養成する必要があると考える。さらに、既に資格を有している者に対しては、定期的に研修を行う必要がある。

【特別支援教育の専門職】

 特別支援教育においても、我が国では、4年間の専門教育学科卒業者だけを特別支援教育専門職と捉える事が多いが、実質的にこのレベルの教育課程だけでは多様なニーズに応える専門職とはなりえない。点字や手話、重度障害の場合は身振りや表情など、あらゆる手段を使ってのコミュニケーションや、障害固有のニーズに的確に応じられなければならない。欧米で行っているように、4年生大学卒業後、大学院レベルも含めた専門教育を求めていくことがますます必要となろう。インクルーシィブ教育の現場で求めているのは、まさにコミュニケーションに長けた、個別の可能性を引き出せるような人材である。しかし教師自体が、生活支援の経験、特に地域在宅サービス現場における十分な知識や経験を持たない。2週間程度の介護体験だけでは、PC-IPPを活用した本人参画に基づく支援の重要性を十分に理解できない。したがって、介助の知識や技術を学び、相談支援などの実践を積んだ後、教育専門職としての役割が果たせるようにカリキュラム内容を改編すべきである。また、退職後の教師を再雇用することにより、教材、教育手法などに工夫をこらして教育支援を行う試みなどが始められている。人材確保の点からは期待できるが、一部の試みに過ぎないという段階であり、今後、拡大して展開するには十分な検討が必要がある。

【介護支援専門員】

 ケアマネージャー養成カリキュラムにおいては、ケアプラン作成が目的化しており、地域生活を理念とすることや、それに向けての方法論が欠落しており、エンパワメントの視点も欠如している。ニーズ発掘の過程で、ピアカウンセリングや、lLP、自立生活体験室の活動を、本人が体験する中でエンパワメントしていく。こうしたプロセスの重要性について認識が抜け落ちたまま、庇護ニーズ※80に基づいたケアプラン作成が行われるシステムは、早急に廃止されなければならない。PC-IPPでは、「どこに」「誰と住みたいか」「どのような生活を送りたいか」「どのようなサービスを使いたいか」など、本人の意向を聞いてから、ケアプランやサービス決定が行われている。現在の日本のケアマネジメントシステムにおいては、「本人主体」の視点が抜け落ちており、ニーズが実現できないケアプラン作りとなっている。結果的に障害者は、これに甘んじざるを得なくなり、自己決定に基づく地域の暮らしを実現できない状況にあると言わざるを得ない。そこで、当事者のニーズを十分に汲み取れるような行政サービスシステムヘの転換と、専門職養成カリキュラムを確立するために、カリフォルニア州のPC-IPPのシステムなどを学ぶことが必要である。

 以上をふまえると、社会福祉士、精神保健福祉士、特殊教育専門職、介護支援専門員など、あらゆる障害者支援の専門職に対して、養成カリキュラムと実習制度、具体的な地域移行システムについて、「当事者主体」の視点に立った根本的な改革が求められる。そのような大改造を行わなければ、精神障害者、知的障害者の施設や病院からの地域移行の達成は困難であると言わざるをえない。そこで、全ての人材養成・研修カリキュラムを、当事者の意向を入れた形で再構築することが必要である。そして、新しい当事者中心の支援システムの中で、自立生活体験室などの移行機関の利用と、ピアカウンセリングやILPが受講できるシステムを、障害当事者と専門職とで協働して作り上げていく必要がある。こうしたシステムを確立していくために、早急に、当事者が過半数から成る審議会等を厚生労働省と文部科学省の中に設置し、問題点の洗い出しと課題への対応について検討を開始する必要がある。

※80 第3章の42ページで解説

第2項 地域生活移行の整備

2-1.マンツーマンによる一貫した職員体制を保障した3障害の地域生活移行の整備

 特に、精神障害者や知的障害者にとっては、同じ職員がマンツーマンで一貫して関わり、信頼関係が確立した中でこそ、安心して相談できるようになる。このような相談の場を設定し、本人のニーズを十分に引き出すための体制づくりが重要である。そして、ある時期までは、この担当職員が徹底的に関わり、当事者性を十分に引き出すことが必要である。カリフオルニア州のRCの規模などからすると、地域生活移行センターには、20名程度の相談支援員を正規職員として配置することが求められる。3障害を総合して、継続的な地域生活を支援するために、地域生活移行センターを核として、24時間体制で相談に応じられる職員配置を確保する。そのうち、当事者相談支援員を過半数とし、ピアカウンセラーを必須の配置とする。また、代表、事務局長、運営委員の過半数は障害者であることを義務とし、当事者主導の体制を構築する。ここでは、身体障害か、知的障害、精神障害者であり、日常的な生活支援相談を必要とする者を対象とする。以下の図1は、地域生活移行センターを核とした、障害者地域生活支援体制の全体図である。第3項で、それぞれの機能と役割を解説する。

図1.障害者地域生活支援体制案

2-2.相談支援の目的

2-2-1.身体障害者の相談支援

 介助が日常的に必要な身体障害者の中にも、ヘルパーだけではなく、常時相談支援を必要とする者が少なくない。しかし実際には、介助サービス組織や作業所、特別支援学校によるマンパワー的な支援で、何とか生活してきたが、これでは、家族や支援者の精神的な負担が重すぎる。支援者の燃え尽きや、同様の支援が継続して受けられなくなる恐れもあり、地域生活が継続できなくなる者が出てくる。そこで、このような状況にある身体障害者が、常時、安心して地域での相談支援を受けて暮らすことを目的とする。

2-2-2.知的障害者の相談支援

 親元で暮らす知的障害者は、作業所などに通うことによって日中の生活を維持し、その他の時間は、家族や介助者による支援を受けて何とか地域生活を継続してきた。しかし、親の高齢化や本人の精神的な不安定からくる支援の難しさから、施設入所やGHを選ばなければならない事態に追い込まれてきた。しかし、マンツーマンの相談支援体制があれば、家族や介助サービスに過大な負担をかけることなく、地域生活の継続を一生に渡って保障されることになる。自立生活をめざすことも可能となり、そのためにも、個別支援計画の作成、就労支援、生活支援などを統合的に提供することが必要となる。

2-2-3.精神障害者の相談支援

 精神病院からの退院・地域移行が進まない理由は、このマンツーマンの相談支援体制が地域にないことに起因していると思われる。そこで、医療ケア付のショートステイ(*第3項で説明)と、相談支援サービスがあれば、介助サービスと合わせて精神障害者の地域移行が可能となり、地域での生活を継続することができる。

第3項 ショートステイ体制の整備

3-1.医療ケア付のショートステイ

 いずれのショートステイも定員は4名とする。当事者中心の運営体制(代表、事務局長、運営委員の過半数は障害者)を基本とする。行政は、家賃と運営費補助、建築費補助を行うほか、医者と看護師の加算を実施する。各ショートステイには、障害特性に合った当事者職員が必要である。またいずれも、24時間体制を保障するためのコーディネーターを配置する。

3-1-1.精神障害者の医療付ショートステイ(5万人に1ヶ所)

  • 体制:精神科医師(常勤)1名 看護師 2名 当事者相談員を配置
  • 対象者:統合失調症・躁うつなど
  • 目的:重篤な精神障害者をすぐに精神病院に入院させるのではなく、地域の生活に戻ることを前提に考えた社会モデル的なシステムをめざす。緊急対応と日常的な相談の両方を可能とし、緊急時に診断をしなくても一時的入院ができるようにする。また、精神病院に抵抗がある人が、気軽に相談できる地域の生活支援の場とする。原則として、地域で生活を継続させる事を目的とする

3-1-2.医療ケアが必要な知的障害者のためのショートステイ(5万人に1ヶ所)

  • 体制:看護師 2名 当事者相談員を配置
  • 対象者:てんかん発作や日常的に医療的ケアが必要な知的障害者・重複障害者(知的と精神、知的と身体)
  • 目的:知的障害や精神障害のために、一般の診療所や病院では対応しきれなかった人たちが、地域での継続的な生活を可能にすることを目的とする。

3-1-3.医療的ケアが必要な重症心身障害者のためのショートステイ(50万人に1ヶ所)

  • 体制:医師1名・看護師2名、24時間体制。
  • 対象者:呼吸器や経管栄養、インシュリン、透析など専門的な医療的ケアが必要な者。
  • 目的:家族による介助が困難であったり、緊急事態で専門病院への搬送が間に合わない場合や、通院の困難さを緩和するなど、地域の中であらゆる事態に対応できる日常的な診療と一時的な入院ができる場とする。

3-2.緊急時、一時的な支援が必要な人のためのショートステイ(50万人に1ヶ所)

  • 対象者:家族が知的障害者・精神障害者、虐待と被虐待がある場合など
  • 目的:これまでのDVセンターなどは、障害があると受け入れてはもらえないことも多かった。そのため家族からの緊急避難や、本人が地域生活の困難さから一時的な支援が必要な場合の場とする。

第4項 個別の介助体制の整備

 「重度訪問介護」を「地域生活支援介助サービス」と改称し、精神障害者、知的障害者にも適応し、地域生活支援に柔軟に対応する。知的障害者で介助者との同居を求める人には、その費用を負担する。グループホームにおいても個別の介助サービスを提供する。

第5項 地域の権利擁護センターの設立

 障害者が地域での自立生活がすすむとともに、個別化した支援体制が必要となる。それは、外部からの目が入りにくい、一人暮らしや家庭内で権利侵害が起こる可能性があるためである。そこで本事業では、当事者が運営する相談支援事業所に権利擁護センター(5万人に1ケ所)を併設することとする。これは、権利条約の趣旨に沿って作られる差別禁止条例に基づく、地域権利侵害調停機関と同種のものである。