「障がいを理由とする差別を禁止する法律」日弁連法案概要 2007年3月 第10 参政権 1 参政権  何人も、障がいを理由として、いかなる差別を受けることなく、次に掲げる行為を行う権利を有し、その機会を保障されるものとする。 (1) 衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長(以下「公職」という。)の選挙において投票し、選挙されること。 (2) 最高裁判所裁判官の任命に関する国民の審査において投票すること。 (3) 一の地方公共団体のみに適用される特別法に関する当該地方公共団体の住民投票において投票すること。 (4) 日本国憲法の改正に関する国民投票において投票すること。 (5) 地方自治法(昭和22年法律第67号)第2編第5章に規定する直接請求を行うこと。 (6) 損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、請願すること。 (7) 前各号に掲げる行為を秘密に、かつ自由な意思に基づいて行うこと。 (8) 自らが選択する情報伝達方法により、(1)から(6)までに掲げる事項に関する情報の提供を要求し、情報を受領及び利用し、並びに自ら情報を発信すること。 (9) 国及び地方公共団体の公務に携わること。 2 合理的配慮義務 (1) 国及び地方公共団体は、次に掲げる行為を行う義務を負う。 1) 障がいのある人に対して、投票所への移動の保障その他投票の機会を現実に保障する措置を講じること。 2) 選挙に関する事務を行う際、障がいのある人が1の権利を行使することを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用すること。 (2) 選挙管理委員会は、次に掲げる行為を行う義務を負う。 1) 投票所における段差の解消、車いす利用者のための投票台の設置、視覚に障がいのある人のための点字板又は照明具の設置その他投票所における障がいのある人の負担を軽減するために利用可能な物理的環境を提供すること。 2) 選挙公報等において障がいのある人が1の権利を行使することを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用すること。 3) 選挙運動を行う者は、障がいのある人が1(8)に規定する各行為を行うことを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用する義務を負う。 4) 政見放送及び経歴放送を行う者は、障がいのある人が1の権利を行使することを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用する義務を負う。 5) (1)から(4)の者は、その他、障がいのある人の参政権を実質的に保障するために必要な合理的配慮を行う義務を負う。 3 差別の定義 参政権に関する差別とは、次に掲げるものをいうものとする。 (1) 障がいを理由として、1の権利を剥奪若しくは制限し、又はこれについて不利益な取扱いを行うこと。 (2) 2(1)から(4)の者が、各々の合理的配慮義務に違反すること。 4 差別の推定  2(1)から(4)の者が、参政権の行使に関し、障がいのある人をそうでない人と比較して不利益に取り扱ったときは、当該行為は障がいを理由として行われたものと推定するものとする。 5 選挙管理委員会の職員研修義務  選挙管理委員会は、職員研修を実施し、研修を経た職員を相当数配置するものとする。 第11 司法 1 裁判を受ける権利等 (1) 何人も、障がいを理由として、いかなる差別を受けることなく、裁判所において裁判を受け、裁判外紛争解決手続(訴訟手続きによらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続を言う。(以下同じ。)を利用し、又はこれらを含む司法関係手続に参加する権利を有し、その機会を保障されるものとする。 (2) 何人も、障がいを理由として、いかなる差別を受けることなく、適正な刑事手続を受ける権利を有するものとする。 (3) 何人も、障がいを理由として、いかなる差別を受けることなく、刑事施設、少年院又は少年鑑別所において適正な処遇を受ける権利を有するものとする。 (4) 何人も、障がいを理由として、いかなる差別を受けることなく、弁護士その他適切な補助者を選任する権利を有し、その機会を保障されるものとする。 2 合理的配慮義務 (1) 裁判所、検察庁、警察署並びに裁判官、裁判所書記官、裁判所調査官、裁判所事務官その他の裁判所職員(以下「裁判官等」という)、検察官、検察事務官その他の検察庁職員(以下「検察官等」という)、及び警察官その他の警察職員(以下「警察官等」という)は、次に掲げる行為を行う義務を負う。 1) 障がいのある人が裁判の内容を理解することを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用して、裁判の言渡し、裁判に関する事務、公判手続、令状の呈示、黙秘権の告知、取調べ、勾留質問その他の手続を行うこと。 2) 適切な情報伝達方法を使用しても障がいのある人が当該裁判手続の意味又は内容を十分に理解することができない場合において、当該障がいのある人に対して弁護人その他適切な補助者を付すること。 3) 裁判の運用、方針又は手続が障がいのある人に対して相当の不利益を及ぼしている場合において、その不利益を除去するための施策を講じること。 4) その他、障がいのある人の司法関係手続に参加する権利を実質的に保障するために必要な合理的配慮を行うこと。 (2) 刑事施設、少年院又は少年鑑別所及び法務事務官その他の刑事施設等の職員(以下「法務事務官等」という)は、次に掲げる行為を行う義務を負う。 1) 障がいのある人が抑留又は拘禁の意味及び内容を理解することを容易にするため、適切な情報伝達方法を使用すること。 2) 障がいのある人に対して、その障がいの種類・程度に応じた処遇を行うこと。 3) 抑留又は拘禁に関する運用、方針、又は手続における不利益を除去するための施策を講じること。 4) その他、障がいのある人の適正な刑事手続及び処遇を受ける権利を実質的に保障するために必要な合理的配慮を行うこと。 3 差別の定義  司法における差別とは、次に掲げるものをいうものとする。 (1) 裁判所、検察庁、刑事施設等、弁護士会若しくは司法書士会(以下「司法機関」という。)又は裁判官官等、検察官等、警察官等、法務事務官等、弁護士、弁護士会の職員(以下「弁護士等」という。)若しくは司法書士、司法書士会の職員(以下「司法書士等」という。)が、障がいを理由として、1の権利を剥奪若しくは制限し、又はこれについて不利益な取扱いを行うこと。 (2) 2の者が、各々の合理的配慮義務に違反すること。 4 差別の推定  司法機関又は裁判官等、検察官等、警察官等、法務事務官等、弁護士等若しくは司法書士等が、司法関係手続、刑事手続及び刑事施設等における処遇に関し、障がいのある人をそうでない人と比較して不利益に取り扱ったときは、当該行為は障がいを理由として行われたものと推定するものとする。 5 裁判の傍聴 (1) 裁判所は、障がいを理由として、裁判の傍聴を拒否してはならないものとする。 (2) 裁判所及び裁判官等は、障がいのある人が裁判を傍聴し、その内容を理解することを容易にするための、補助犬使用や適切な情報伝達方法の使用を妨げてはならない。 6 裁判所等の人的設備充実義務 (1) 裁判所は、障がいのある人が司法関係手続を利用することを容易にするために、障がいに関する専門的な知識及び技術を有する専門職員を養成し、職務に従事させなければならない。 (2) 裁判所、検察庁、警察署、刑事施設等、弁護士会及び司法書士会は、裁判官等、検察官等、警察官等、法務事務官等、弁護士等及び司法書士等に対し、障がいに関する理解を深めるために必要な研修を行わなければならない。 7 準用  2ないし6は、裁判外紛争解決機関、検察審査会、保護観察所の行う保護観察に、その性質に反しない限り準用するものとする。