差別禁止部会 第11回(H23.12.9) 参考資料7 平成22年度決算検査報告(抜粋) http://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy22_05_14_32.prf 第3章第1節第11国土交通省 (5)移動等円滑化に係る事業の実施に当たり、移動等円滑化の一体的推進等が適切に行われ、事業が計画的かつ効果的に実施されるよう改善の処置を要求し、踏切道等における事業が適切に実施されるよう是正改善の処置を求めたもの 会計名及び科目一般会計(組織)国土交通本省 (項)都市再生・地域再生整備事業費等 (平成19年度以前は、(項)都市環境整備事業費等) 社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定) (項)道路環境改善事業費等 (平成19年度以前は、道路整備特別会計(項)道路環境整備事業費等) 部局等 国土交通本省 補助の根拠 都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)、道路法(昭和27年法律第 180号)等 補助事業者 都、道、府2、県12、市111、特別区9、町10、計16 都道府県、130市区町 移動等円滑化に係る事業の概要 高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上に資する構造及び設備を備えた道路、旅客施設、建築物等の整備を実施するもの 平成13年度から22年度までの間に作成した基本構想に基づくなどして実施した移動等円滑化に係る事業費 2112億8081万余円 上記に対する国庫補助金交付額 1000億4162万円(背景金額) 移動等円滑化が確保されていないエレベーター数及び事業費 45基 13億9666万余円(平成13年度〜22年度) 上記に対する国庫補助金交付額 5億3922万円 障害物検知装置の設置費用を負担している踏切道拡幅工事の実施箇所数及びこれに係る障害物検知装置の設置費用 6か所 5138万余円(平成19年度〜22年度) 上記に対する国庫補助金交付額 2706万円 (1)及び(2)の計 14億4804万余円(平成13年度〜22年度) 上記に対する国庫補助金交付額 5億6629万円 【改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】 移動等円滑化に係る事業の実施について (平成23年10月28日付け国土交通大臣宛て)  標記について、下記のとおり、会計検査院法第36 条の規定により改善の処置を要求し、及び同法第34 条の規定により是正改善の処置を求める。 記 1 移動等円滑化に係る事業の概要 (1) 移動等円滑化の促進  貴省は、平成6年9月に施行された建築物の利用の円滑化を進めるための「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(平成6年法律第44号。以下「ハートビル法」という。)及び12 年11 月に施行された旅客施設、鉄道車両、乗合自動車(以下「バス」という。)等の公共交通機関と旅客施設周辺の歩行空間の移動の円滑化を進めるための「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12 年法律第68 号。以下「交通バリアフリー法」という。)に基づき、高齢者、身体障害者等の利用の円滑化及び移動の円滑化を推進してきた。  その後、17年7月に、貴省は、上記の枠組みにおけるバリアフリー化の取組の課題と今後推進すべき施策等について取りまとめた「ユニバーサルデザイン政策大綱」を策定している。これを踏まえ、18年12月に、ハートビル法と交通バリアフリー法を統合、拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18 年法律第91号。以下「新法」という。)が施行された。そして、貴省は、これに基づき、道路、旅客施設、建築物等の構造及び設備を改善するための措置並びに一定の地区における旅客施設、建築物等及びこれらの間の経路を構成する道路、駅前広場、通路等の一体的整備を推進するための措置を講ずることにより、移動等円滑化(注1)の促進を図ることとしている。 (注1)移動等円滑化高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上することをいう。 (2) 基本構想の作成及び事業の実施  貴省は、新法に基づき、18年12月に移動等円滑化を計画的に推進するため、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年国土交通省等告示第1号。以下「基本方針」という。)を策定している。基本方針においては、道路、旅客施設等の移動等円滑化の目標のほか、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が新法に基づき、これらの施設の移動等円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本的な構想(以下「基本構想」という。)を作成(注2)するに当たって指針となるべき事項が定められており、移動等円滑化に係る各種の事業が相互に連携して連続的に移動経路が確保されるよう、関係者間で十分な調整を図り事業の集中的な実施を確保することなどに留意する必要があるとされている。また、市町村が作成する基本構想には、基本方針に基づき、移動等円滑化に係る事業を重点的に推進することが特に必要な地区(以下「重点整備地区」という。)の位置及び区域、重点整備地区において、高齢者、障害者等が日常生活又は社会生活において利用する旅客施設、官公庁施設、福祉施設等(以下「生活関連施設」という。)及びこれらを結ぶ経路(以下「生活関連経路」という。)、移動等円滑化のために実施すべき事業等を定めることとされている。  そして、生活関連施設又は生活関連経路の管理者(以下「施設設置管理者」という。)は、基本構想において、歩道の設置、拡幅等を行う道路特定事業、旅客施設内でエレベーター等の設置を行う公共交通特定事業等の実施すべき事業が定められた場合には、当該事業の具体的な内容、実施予定期間等を定めた特定事業計画(以下「事業計画」という。)を作成(注2)し、これに基づき事業を計画的に実施することとされている。  また、基本方針によると、市町村は、基本構想作成後、各特定事業等が早期に、かつ、当該基本構想で明記された目標に沿って順調に進展するよう、事業の実施状況の把握、これに係る情報提供等による事業を実施すべき施設設置管理者との連絡調整の適切な実施等事業の進展に努めることが必要であるとされている。 (注2)新法の規定により、交通バリアフリー法に基づき作成された基本構想及び事業計画は、新法に基づき作成されたものとみなすこととされている。 (3) 生活関連経路の整備及び管理  市町村が定めた生活関連経路のうち、移動等円滑化が特に必要な経路については、新法に基づき、その経路及び区間を国土交通大臣が指定するものとされ、施設設置管理者は、指定された経路において新設又は改築する道路については、「移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する基準を定める省令」(平成18 年国土交通省令第116号。以下「移動等円滑化基準」という。)に適合するように整備し、維持しなければならないとされている。  また、道路管理者である国、都道府県、市町村等は、上記以外の管理する道路についても、移動等円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。 2 本院の検査結果 (検査の観点及び着眼点)  我が国においては、高齢者、障害者等が社会、経済活動に参加する機会を確保することが求められており、誰もが安全で安心して参加できる社会を形成することが国の主要な政策課題となっていることから、移動等円滑化に係る事業を着実に推進することが必要となっている。  そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、移動等円滑化に係る事業は重点的かつ一体的に実施されているか、生活関連経路は基本構想や移動等円滑化基準等に基づいて適切に整備されているか、整備された生活関連経路は適切に管理され有効なものとなっているか、また、重点整備地区以外の道路における移動等円滑化は適切に推進されているかなどに着眼して検査した。 (検査の対象及び方法)  13年度から22年度までの間に作成された基本構想に基づくなどして、17都道府県(注3)管内の130市区町の重点整備地区において、16都道府県(注4)及び17都道府県(注3)管内の109市区町が国庫補助事業として実施した移動等円滑化に係る事業(工事費(注5)計2034億5379万余円、国庫補助金計959億1823万余円)並びに13都道府県(注6)及び13都道府県(注7)管内の44市区町が重点整備地区以外において、19年度から22年度までの間に実施した移動等円滑化に資する踏切道拡幅に係る道路整備事業等(工事費計78億2701万余円、国庫補助金計41億2338万余円)を対象として、基本構想、事業計画等の書類及び現地を確認するなどして会計実地検査を行った。 (注3)17都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡、長崎、鹿児島各県 (注4)16都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡、長崎、鹿児島各県 (注5)都道府県及び市区町の公共交通事業費については除外してある。 (注6)13都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、富山、福井、岐阜、愛知、兵庫、香川、福岡各県 (注7)13都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、鹿児島各県 (検査の結果)  検査したところ、移動等円滑化に係る事業について、次のような事態が見受けられた。 (1)生活関連施設及び生活関連経路の一体的整備の推進について  新法によると、市町村は、基本構想を作成するに当たり、各特定事業に関して、施設設置管理者等と協議することとされており、施設設置管理者は、市町村が基本構想を作成した後に、市町村、他の施設設置管理者等の意見を聴いた上で、事業計画を作成することとされている。また、国及び地方公共団体は、基本構想に定められた生活関連施設の整備等必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。このようにして、移動等円滑化に係る事業の実施に当たっては、関係者が緊密に連携することによる効果的な事業の実施が求められている。  17都道府県(注3)管内の130市区町の重点整備地区のうち、施設設置管理者が事業計画を作成しないまま事業を実施しているものが見受けられた87 市区町の重点整備地区において、隣接している生活関連施設と生活関連経路の一体的整備の推進状況についてみたところ、次のようになっていた。  17市区町の重点整備地区において、4都道県及び14 市町が管理する生活関連経路25経路については、視覚障害者等が円滑に移動できるように視覚障害者誘導用ブロック(以下「誘導ブロック」という。)を連続して敷設するなどの整備を21 年度までに完了していた。一方、25 経路に隣接する4 県及び15 市区町が管理する生活関連施設については、生活関連経路が整備されてから1 年以上経過した22 年度においても、当該施設の案内設備までの間の誘導ブロックは未整備となっていた。このため、整備済みの生活関連経路における視覚障害者等の安全かつ円滑な移動は確保されているものの、当該施設の案内設備までの安全かつ円滑な移動が確保されておらず、整備した生活関連経路の事業の効果が十分発現されていない状況となっていた。 (2) 生活関連経路の移動等円滑化の実施について ア 駅前広場等に設置するエレベーターの整備  生活関連経路の施設設置管理者である都道府県及び市町村は、鉄道の旅客施設と隣接している駅前広場や歩道等においてエレベーターを整備している。この整備に当たっては、立地条件、交通条件等から、車椅子使用者が介助者なしで利用したり、エレベーターの出入口に接続する歩道等を自転車等が通行したりすることなどが想定されている。  このため、移動等円滑化基準等によると、エレベーターの構造については、原則として、出入口が1 方向の場合には、車椅子使用者がエレベーター内で円滑に回転でき、前方を向いて安全に降りられるように、内幅、奥行き共に1.5m 以上とすることとされている。また、出入口が2 方向の場合には、視覚障害者等が認識しやすいように、開閉する出入口の方向を音声により知らせる装置を設置することとされ、その場合には、エレベーターの内幅及び奥行きは、車椅子使用者が搭乗したまま他の同乗者が乗降可能な内幅1.4m以上、奥行き1.35m以上とすることとされている。  5都道府県(注8)及び14都道府県(注9)管内の51市区町が、13年度から22年度までの間に駅前広場、歩道等に設置したエレベーター154 基の移動等円滑化に関する整備状況についてみたところ、鉄道事業者と協議の上、自ら整備していたり、鉄道事業者に委託して整備していたりなどしていた。  そして、1都及び6 市が整備した出入口が1方向のエレベーター10基(工事費計4億5448万余円、国庫補助金計1億3855万余円)は、内幅及び奥行きが1.5m未満となっていて、車椅子使用者がエレベーター内で円滑に回転して前方を向いて安全に降りられるものとなっていなかった。  また、2県及び20市区町が整備した出入口が2方向のエレベーター35基(工事費計9億4218万余円、国庫補助金計4億0067万余円)は、音声案内の内容が開閉する出入口の方向を明確に知らせるものとなっていなかったり(20基)、駅舎用のエレベーターと同様の寸法のものを導入するなどしたため内幅が1.4m未満となっていたり(15基)していて、視覚障害者等が安全かつ円滑に乗降できるものとなっていなかった。 <事例1>  A市は、平成17年度に、B駅の駅前広場に接続するエレベーターを工事費1107万余円(国庫補助金500万円)でC鉄道株式会社に委託して整備している。同市は、委託に当たって、設置場所の条件等から、出入口が2 方向のエレベーターを設置することとしていたものの、音声案内の内容について、明確に指示していなかった。このため、整備されたエレベーターの音声案内は、出入口が2か所あるのに、到着階において、到着階のみをアナウンスし、乗った側と反対側の出入口が開くことをアナウンスするものとなっておらず、当該エレベーターにおける視覚障害者等の安全な利用に支障が生ずる状況となっていた。 イ 駅前広場等のバス停留所の整備  基本方針によると、バス車両については、原則として低床バス(注10)に代替することを目標とするとされている。  そして、生活関連経路の施設設置管理者である都道府県及び市町村は、移動等円滑化基準等に基づき、低床バスが停留所との隙間を空けずに停車(以下「正着」という。)して、車椅子使用者がスロープ板を使用して低床バスとの間の安全かつ円滑な移動ができるように、歩道の高さを確保したバス停留所を整備するなどの移動等円滑化に係る事業を実施している。  17都道府県(注3)管内の89 市区町の重点整備地区において、駅前広場及びバス路線となっている生活関連経路計328 経路の移動等円滑化の状況についてみたところ、次のようになっていた。  9市の駅前広場9 経路では、バス停留所の設置位置が駅前ロータリーの曲線部分に位置していて低床バスが正着できないことから、低床バスに搭載しているスロープ板を適切に設置できないなど、バス停留所と低床バスとの間の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。  また、44市区町の重点整備地区において、13都道府県及び26 市が設置、管理する生活関連経路計70経路の歩道に設置したバス停留所では、低床バスが正着できても、歩道の高さが十分確保されておらず、設置するスロープ板が急勾配となり、スロープ板を適切に設置できないなど、バス停留所と低床バスとの間の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。 <事例2>  D市は、平成20年度に、E駅の駅前広場整備として、誘導ブロックの設置、バス停留所のある歩道の整備等を工事費1億7290万円(国庫補助金1480万円)で実施している。バス停留所の位置については、タクシー利用者の要望等により、当初計画のタクシー乗場の位置を変更したため、これに伴い、バス停留所2 か所が曲線部分に設置されることとなった。しかし、バス停留所の構造等についての検討が十分でなく、低床バスが停車する際に、バス停留所と低床バスの乗降口に相当の隙間が生じて、スロープ板が適切に設置できないなどのため、車椅子使用者等の安全かつ円滑な乗降が確保されていない状況となっていた。なお、会計実地検査実施後の23年7月に、同市は、バス事業者と協議するなどして、低床バスが正着できるように、タクシー乗場とバス停留所の位置を変更したり、停車方法についての申合せを行ったりするなどの対策を行っている。 ウ 車両乗入れ部の整備  移動等円滑化基準等によると、生活関連経路を構成する歩道の有効幅員(注11)は、原則として2m以上確保することとされており、隣接する民地等に車両が乗り入れる箇所(以下「車両乗入れ部」という。)においても、歩道の平たん部分の有効幅員は2m以上確保することとされている。  14都道府県(注12)管内の38市区町の重点整備地区において、基本構想に定められた生活関連経路のうち、これらの市区町が既に必要な構造を確保しているとして事業計画上移動等円滑化に係る事業を行わないこととしている経路や、誘導ブロックの設置等を部分的に実施したのみで幅員等の構造の改良を行っていない経路の計257 経路の移動等円滑化の状況についてみたところ、次のようになっていた。  22市町の重点整備地区において、4 都府県及び15 市が設置、管理する生活関連経路計105経路は、車両乗入れ部全体が車道側に傾斜するなどして、平たん部分の幅員が確保されていないのに、事業計画上、当該箇所についての改良を実施しないこととされており、車椅子使用者等の安全かつ円滑な移動が確保されていない状況となっていた。 (注8)5都道府県 東京都、北海道、大阪府、福井、鹿児島両県 (注9)14都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、長崎、鹿児島各県 (注10)低床バス床が低く、乗降口とバス停留所との段差が少ないため、利用者の負担が軽減されるだけでなく、搭載しているスロープ板を乗降口とバス停留所との間に設置することにより、車椅子使用者の乗降が可能となり、移動等円滑化に資する機能を有しているバス (注11)有効幅員路上施設、縁石等の幅員を除き、実質、歩行者が通行可能な幅員 (注12)14都道府県東京都、北海道、京都、大阪両府、群馬、神奈川、富山、福井、岐阜、 愛知、兵庫、広島、福岡、鹿児島各県 (3) 事業実施後の移動等円滑化の確保について  施設設置管理者は、移動等円滑化が特に必要として指定された経路を含む生活関連経路については、その整備後においても、移動等円滑化基準に適合するよう維持し、また、適合させるために必要な措置を講ずるよう努めることとされている。  また、道路管理者である都道府県、市町村等は、道路占用物件の設置等のための工事(以下「占用工事」という。)については占用許可条件を、道路管理者として発注する工事については施工条件をそれぞれ施工業者に示して工事施工期間中に行うべき安全対策等について定めている。  19年4月から23年3月までの間に、11都府県(注13)及び12都道府県(注14)管内の35市区が誘導ブロックの敷設を含めて整備した生活関連経路において、整備した後に水道事業者等が占用工事を行っていたり、道路管理者が工事を行っていたりしている生活関連経路計162経路の事業実施後の移動等円滑化の確保状況についてみたところ、次のようになっていた。  10都県及び31 市区では、視覚障害者等を安全に仮設経路に誘導するための仮設の誘導ブロックを敷設することを占用許可条件及び工事の施工条件とする取扱いとしておらず、移動等円滑化に係る事業により誘導ブロックを整備した生活関連経路における占用工事の許可及び道路管理者による工事の発注に当たっても同様の取扱いとしていることから、工事期間中の視覚障害者等の安全かつ円滑な移動が確保されない状況となっていた。そし て、このような占用工事等は、生活関連経路計126 経路において、1,255 件見受けられ た。 (注13)11都府県 東京都、大阪府、群馬、埼玉、福井、岐阜、愛知、兵庫、香川、福岡、鹿児島各県 (注14)12都道府県 東京都、北海道、大阪府、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、広島、香川、福岡各県 (4) 踏切道における歩道の移動等円滑化の実施について  道路管理者である都道府県及び市町村は、重点整備地区以外の管理する道路の整備等について、新法に基づき、移動等円滑化基準に適合させるよう必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされており、踏切道の多くが歩道未整備であることから、歩道拡幅等の移動等円滑化に資する踏切道拡幅工事を鉄道事業者に委託して多数実施している。  鉄道事業者への委託に当たっては、基本的に「道路と鉄道との交差に関する協議等に係る要綱」(平成15 年国道政第74 号等。国土交通省道路局長等3 局長連名通知。)により、工事費用の負担方法等を決定することとしているが、同要綱に具体的に規定されていない事項について、これまでに多数の通知が発出されたり、鉄道事業者と道路管理者との間で、覚書が締結されたりしている。そして、貴省は、道路局長、鉄道局長等の連名により、「踏切道の拡幅に係る指針について」(平成13 年国道政第32 号等。国土交通省道路局長等3局長連名通知。)及び「踏切道の拡幅に係る指針の取扱いについて」(平成13年国道政第33号等。国土交通省道路局路政課長等3 課長連名通知。以下、これらを合わせて「指針」という。)を発して、踏切道拡幅工事に伴い、踏切道上の自動車を検知する装置(以下「障害物検知装置」という。)を設置するに当たり、既設の踏切道に歩道がないか又は狭小な場合には、その設置費用を道路管理者の負担の対象としなくてもよいとする取扱いとしており、緊急に歩道の整備を必要とする踏切道の改良を促進する道路管理者の負担が軽減されることとなっている。  13都道府県(注6)及び13都道府県(注7)管内の44市区町が19年度から22 年度までの間に重点整備地区以外の計88か所の踏切道において、工事費計78億2701万余円(国庫補助金計41億2338万余円)で実施した歩道の新設、拡幅及びこれに併せて障害物検知装置を設置している踏切道拡幅工事についてみたところ、次のようになっていた。  1県及び5市が工事費計4億7599万余円(国庫補助金計2億5062万余円)で鉄道事業者に委託して実施した6 か所の踏切道拡幅工事においては、道路管理者と鉄道事業者における検討及び協議が指針の趣旨を踏まえたものとなっておらず、既設の踏切道に歩道がないか又は狭小な場合に該当し、歩道整備に伴う踏切道拡幅工事となっているのに、道路管理者である当該県市が、障害物検知装置の設置費用計5138 万余円(国庫補助金計2706 万余円)の全額を負担している状況となっていた。 (改善及び是正改善を必要とする事態)  以上のように、移動等円滑化に係る事業において、関係機関と連携した一体的な取組がなされておらず、生活関連経路を整備した効果が十分発現していない事態、駅前広場等に設置したエレベーター及びバス停留所において、視覚障害者、車椅子使用者等が円滑に乗降できなかったり、生活関連経路の車両乗入れ部において、車椅子使用者等が円滑に移動できなかったりしている事態、整備した生活関連経路において、仮設の誘導ブロックを敷設することを占用工事等の許可条件等としていない事態、並びに歩道拡幅等の移動等円滑化に資する踏切道拡幅工事の実施に当たり、十分な検討及び協議を行わないまま、道路管理者が障害物検知装置の設置費用を負担している事態は適切とは認められず、改善及び是正改善を図る要があると認められる。 (発生原因)  このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。 ア 市町村において、生活関連経路の整備の効果が十分に発現されるよう、事業計画の作成及びそれに基づく事業の実施状況を正確に把握し、施設設置管理者との間で連携して取り組むことについての認識が十分でなかったこと イ 施設設置管理者において、移動等円滑化基準等に基づいたエレベーター、バス停留所、車両乗入れ部の構造等についての認識が十分でなかったこと、また、エレベーターの整備の委託に当たり、エレベーターの設置場所や運用方法に応じた構造等について明確にしていなかったこと ウ 施設設置管理者において、整備した生活関連経路において実施される占用工事等の工事期間中の視覚障害者等の歩行の安全かつ円滑な移動の確保に対する認識が十分でなかったこと エ 施設設置管理者において、踏切道拡幅工事を鉄道事業者に委託するに当たり、指針についての理解が十分でなかったこと、また、費用負担についての検討及び協議が十分でなかったこと 3 本院が要求する改善の処置及び求める是正改善の処置  本格的な高齢社会を迎え、高齢者、障害者等が社会、経済活動に参加する機会を確保するため、移動等円滑化に係る事業は、今後ますます重要となる。そして、我が国の厳しい財政状況の下、計画的、効果的に事業を推進することが必要とされている。  ついては、貴省において、移動等円滑化の一体的整備の推進等が適切に行われ、移動等円滑化に係る事業が計画的かつ効果的に実施されるよう、また、踏切道等における事業が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。 ア 市町村に対して、生活関連経路の施設整備の効果を十分に発現させるため、事業計画の作成及びそれに基づく事業の実施状況を正確に把握し、施設設置管理者と緊密に連携するよう周知すること(会計検査院法第36 条による改善の処置を要求するもの) イ 施設設置管理者に対して、移動等円滑化に係る事業の実施に当たっては、移動等円滑化基準等に基づき、エレベーターの整備については、委託の場合も含めて、設置場所や運用方法に応じた構造等を十分検討した上で実施するよう周知すること、バス停留所の整備については、バスが正着できることやスロープ板を適切に設置できるようにすることに十分配慮して実施するよう周知すること、車両乗入れ部については、構造等の現況を把握した上で、移動等円滑化に係る事業を実施するよう周知すること、また、前記のような事態となっている各施設について、その現状を把握し、各施設の安全かつ円滑な移動等の確保に努めるよう周知すること(について同法第34 条による是正改善の処置を求め並びに、及びについて同法第36 条による改善の処置を要求するもの) ウ 施設設置管理者に対して、占用工事等について、整備した誘導ブロックの機能を継続して確保するため、占用工事の許可条件等の重要性を周知すること(同法第36 条による改善の処置を要求するもの) エ 施設設置管理者に対して、踏切道拡幅工事を行う場合における障害物検知装置の費用負担の方法等について改めて周知するとともに、国、都道府県、鉄道事業者等で構成される踏切道調整連絡会議等を積極的に活用し、必要な検討及び協議を行うなどして、踏切道における移動等円滑化に資するよう周知すること(同法第34 条による是正改善の処置を求めるもの) http://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy22_05_14_35.prf (8)鉄道駅等の移動等円滑化に当たり、補助金により整備される移動等円滑化設備が円滑化基準に適合するなどして適切に整備されるとともに、整備の効果が十分に発現するよう改善の処置を要求したもの 会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省 (項)総合的バリアフリー推進費 (項)鉄道駅移動円滑化設備整備事業費 (項)鉄道網整備事業費 (平成19年度以前は、(項)国土交通本省 (項)都市鉄道・幹線鉄道整備事業費) 部局等 国土交通本省 補助の根拠 予算補助 補助事業 交通施設バリアフリー化設備整備費補助金(平成22年度は交通施設バリアフリー化設備等整備費補助金) 鉄道駅移動円滑化施設整備事業費補助(平成19年度以前は鉄道駅総合改善事業費補助) 地下高速鉄道整備事業費補助 鉄道駅等の移動等円滑化の概要 鉄道駅等において、エレベーター等の設置等による高齢者、障害者等の円滑な通行に適する経路の確保、転落防止設備の整備、誘導ブロックの整備等を実施するもの 補助事業が実施された駅数 54鉄道事業者等の929駅(平成18年度〜22年度) 上記に係る補助対象事業費 1670億2833万余円(平成18年度〜22年度) 上記に対する国庫補助金交付額 452億5845万余円 整備の効果が十分に発現していないなどの駅数 405駅(1日当たりの平均的な利用者数計16,121,372人) 上記に係る補助対象事業費 923億6360万余円(平成18年度〜22年度) 上記に対する国庫補助金交付額 244億9911万円(背景金額) (後掲659ページの「鉄道駅等の移動等円滑化に当たり、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合するなどして適切に整備されるよう改善の処置を要求し、及び整備の効果が十分に発現し、移動等円滑化が適切に実施されるよう意見を表示したもの」参照) 【改善の処置を要求したものの全文】 鉄道駅等の移動等円滑化について (平成23年10月28日付け国土交通大臣宛て) 標記について、会計検査院法第36 条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。 1 鉄道駅等の移動等円滑化の概要 (1) 鉄道駅等における移動等円滑化の促進  国は、高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性に鑑み、平成18年6月に制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下「法」という。)に基づき、旅客施設等の構造及び設備を改善するための措置等を講ずることにより、鉄道駅等(以下、単に「駅」という。)の公共交通機関等における移動等円滑化(注1)の促進を図ることとしている。  国は、法に基づき、18年12月に「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年国家公安委員会・総務省・国土交通省告示第1号。以下「基本方針」という。)を策定している。基本方針においては、駅の移動等円滑化の目標が定められており、1日当たりの平均的な利用者数(以下「1日当たり利用者数」という。)が5,000人以上の駅(以下「対象駅」という。)については、22年までに、原則として全ての駅について、エレベーター等の設置等による円滑な通行に適する経路の確保、ホームドア、点状ブロック等の転落防止設備の整備、視覚障害者誘導用ブロック(以下「誘導ブロック」という。)の整備、便所がある場合の障害者対応型便所の設置等の移動等円滑化を実施することとされている。 (注1)移動等円滑化高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上することをいう。 (2) 駅における移動等円滑化の基準等  法によると、鉄道事業者等は、旅客施設等を新たに建設し又は旅客施設等について大規模な改良を行うときは、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18 年国土交通省令第111号。以下「円滑化基準」という。)に適合させなければならないこととされており、また、既存の旅客施設等については、円滑化基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととされている。円滑化基準は、例えば次のような移動等円滑化のための設備(以下「移動等円滑化設備」という。)等が適合すべき基準について示すものである。 1)公共用通路と車両等の乗降口との間の経路であって、高齢者、障害者等の円滑な通行に適するもの(以下「移動等円滑化経路」という。)を乗降場ごとに1 以上設けなければならないこと 2)傾斜路(スロープ)の勾配部分は、接続する通路との色の明度差等が大きいことにより容易に識別できるものであること 3)階段は、手すりが両側に設けられていること、また、階段の通ずる場所を示す点字を、手すりの端部の付近に貼り付けること 4)階段、傾斜路及びエスカレーターのそれぞれの上端及び下端に近接する通路等には、警告のため、点状ブロック(以下「警告ブロック」という。)を敷設しなければならないこと 5)出入口の付近等に、駅の構造及び主要な設備の配置を音、点字その他の方法により視覚障害者に示すための設備(以下「触知案内図」という。)を設けなければならないこと  また、貴省は、19年7月に、「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」(平成19年7月国土交通省。以下「ガイドライン」という。)を定めている。ガイドラインは、例えば次のような旅客施設の標準的な整備内容や、これ以外の望ましい整備内容等を示すものである。 1)エレベーターロビー付近に下りの段差や傾斜が近接しているなどの危険な状況を作り出さないこと 2)上り又は下り専用のエスカレーターの場合、乗降口付近の通路の床面等の分かりやすい位置等において、進入の可否を示すこと 3)階段への誘導ブロックの敷設経路は、手を伸ばせば手すりに触れられる程度の距離を離した位置とすること 4)警告ブロックと1 本の線状突起を組み合わせたホーム縁端警告ブロックを、プラット ホーム縁端部の警告のために敷設すること (3) 駅の移動等円滑化に関する補助金の交付状況等  貴省は、駅の移動等円滑化を促進するため、駅において移動等円滑化設備を整備する事業に対して、交通施設バリアフリー化設備整備費補助金(注2)、鉄道駅移動円滑化施設整備事業費補助(注3)及び地下高速鉄道整備事業費補助(以下、これらを合わせて「補助金」という。)を交付している。  そして、表1のとおり、法が施行された18年度から22年度までの間に、54鉄道事業者等(注4)の計929駅(以下「補助金交付駅」という。)において、補助金によりエレベーター等の移動等円滑化設備が整備されている(補助対象事業費計1670億2833万余円、国庫補助金交付額計452億5845万余円)。 表1 駅の移動等円滑化に関する補助金の交付状況(単位:百万円) 補助対象事業費 平成18年度:21,833 平成19年度:25,900 平成20年度:25,683 平成21年度:36,617 平成22年度:56,992 計:167,028 国庫補助金交付額 平成18年度:5,428 平成19年度:6,793 平成20年度:6,981 平成21年度:9,604 平成22年度:16,449 計:45,258 交通施設バリアフリー化設備整備費補助金 平成18年度:2,325 平成19年度:2,726 平成20年度:3,125 平成21年度:4,955 平成22年度:12,216 計:25,349 鉄道駅移動円滑化施設整備事業費補助 平成18年度:1,374 平成19年度:2,191 平成20年度:2,369 平成21年度:1,792 平成22年度:832 計:8,561 地下高速鉄道整備事業費補助 平成18年度:1,728 平成19年度:1,875 平成20年度:1,486 平成21年度:2,856 平成22年度:3,400 計:11,347 鉄道事業者等数 平成18年度:31社等 平成19年度:32社等 平成20年度:34社等 平成21年度:32社等 平成22年度:40社等 計:54社等 整備駅数 平成18年度:266駅 平成19年度:262駅 平成20年度:229駅 平成21年度:293駅 平成22年度:387駅 計:929駅 注(1) 東日本大震災により被災した東北地方等に所在する駅に係る補助対象事業費等は除外している。 注(2) 地下高速鉄道整備事業費補助に係る補助対象事業費及び国庫補助金交付額は、大規模改良のうち移動等円滑化設備の整備に係るものを計上しており、整備駅数は、東京地下鉄株式会社の新線建設に係る4 駅を含んでいる。 注(3)各年度の補助対象事業費等は、事業を実施した年度に計上している。 注(4)複数年度にわたり整備している鉄道事業者等及び駅があるため、各年度の鉄道事業者等数又は整備駅数を合計しても計欄の鉄道事業者等数又は駅数とは一致しない。  このように、国や鉄道事業者等において、駅の移動等円滑化を進めてきたことから、貴省は、22年度末における駅の移動等円滑化の状況について、表2 のとおり、全国の対象駅計2,813駅のうち2,401駅がエレベーター等により円滑化基準に適合して円滑な通行に適する経路を確保しているなどとしている。 表2 駅の移動等円滑化の状況(単位:駅、%) 平成22年度末時点の対象駅 2,813(100%) うちエレベーター等により円滑化基準に適合して円滑な通行に適する経路を確保している駅 2,401(85%) うち円滑化基準に適合する誘導ブロックを敷設している駅 2,736(97%) うち円滑化基準に適合する案内設備を設置している駅 1,713(61%) うち円滑化基準に適合する便所を設置している駅 2,245(80%) うち円滑化基準に適合する転落防止設備を設置している駅 2,783(99%) (注2)平成22年度は交通施設バリアフリー化設備等整備費補助金であり、23年度から、新たに創設された地域公共交通確保維持改善事業費補助金に統合された。 (注3)平成19 年度以前は鉄道駅総合改善事業費補助 (注4)54鉄道事業者等 東京地下鉄株式会社、北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、九州旅客鉄道株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、東武鉄道株式会社、西武鉄道株式会社、京成電鉄株式会社、京王電鉄株式会社、小田急電鉄株式会社、東京急行電鉄株式会社、京浜急行電鉄株式会社、相模鉄道株式会社、名古屋鉄道株式会社、近畿日本鉄道株式会社、南海電気鉄道株式会社、京阪電気鉄道株式会社、阪急電鉄株式会社、阪神電気鉄道株式会社、西日本鉄道株式会社、新京成電鉄株式会社、北大阪急行電鉄株式会社、神戸高速鉄道株式会社、神戸電鉄株式会社、山陽電気鉄道株式会社、札幌市、東京都、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市、長野電鉄株式会社、しなの鉄道株式会社、関東鉄道株式会社、秩父鉄道株式会社、北総鉄道株式会社、千葉ニュータウン鉄道株式会社、東葉高速鉄道株式会社、東京臨海高速鉄道株式会社、箱根登山鉄道株式会社、伊豆箱根鉄道株式会社、静岡鉄道株式会社、三岐鉄道株式会社、水間鉄道株式会社、能勢電鉄株式会社、土佐電気鉄道株式会社、愛知環状鉄道株式会社、土佐くろしお鉄道株式会社、東京モノレール株式会社、湘南モノレール株式会社、高尾登山電鉄株式会社、財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 2 本院の検査結果 (検査の観点及び着眼点)  我が国においては、本格的な高齢社会を迎えるなどして、高齢者、障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むことができる社会を構築することが求められており、駅における移動等円滑化は一層重要性を増してきている。そして、駅において、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインの標準的な整備内容に沿って(以下、単に「ガイドラインに沿って」という。)適切に整備されれば、高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性が向上し、当該駅の適切な移動等円滑化に資するものとなる。  そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、駅の移動等円滑化を促進するために交付された補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿って(注5)適切に整備され、かつ、管理が適切に行われ、高齢者、障害者等の利便性及び安全性が確保されているか、駅前広場等の公共用通路までの移動等円滑化経路の確保が図られているかなどに着眼して検査した。 (注5)円滑化基準の施行前については、「移動円滑化のために必要な旅客施設及び車両等の構造及び設備に関する基準」(平成12 年運輸省・建設省令第10 号)に適合していることをいい、ガイドラインの策定前については、「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(平成13年8月国土交通省。追補版(14 年12 月)を含む。)の標準的な整備内容に沿っていることをいう。 (検査の対象及び方法)  本院は、18 年度から22年度までの間に補助金により移動等円滑化設備が整備された54鉄道事業者等の補助金交付駅929 駅を対象として検査した。  検査に当たっては、上記929 駅のうち380 駅において、移動等円滑化実績等報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの549駅については関係書類の提出を受けるなどして検査を行った。 (検査の結果)  検査したところ、次のような事態が見受けられた。 (1) 補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないなどしていて、整備の効果が十分に発現していないもの ア 補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないもの  202駅 補助対象事業費(注6)計544億1552万余円国庫補助金交付額計149億5597万余円 202駅(1日当たり利用者数計6,912,096人)において、表3 のとおり、傾斜路の勾配部分が接続する通路との色の明度等の差により容易に識別できなかったり、触知案内図による案内が適切でなかったりなどしていて、補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていない事態が見受けられた。 (注6)補助対象事業費は、該当する駅において整備の効果が十分に発現していないなどしている移動等円滑化設備の整備に係る分を特定できないことから、平成18 年度から22年度までの間に実施された事業に係る補助対象事業費の総額を計上しており、国庫補助金交付額についても同様に、当該事業に対する国庫補助金交付額の総額を計上している。以下同じ。 表3 補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っていないもの 1) エレベーターの鏡が設置されていないなどしていて、エレベーターの設備が適切に整備されていないもの 円滑化基準に適合していないもの ― ガイドラインに沿っていないもの 2駅 2) 傾斜路の勾配部分が接続する通路との色の明度等の差により容易に識別できないなどしていて、傾斜路の安全性が十分に確保されていないもの 円滑化基準に適合していないもの 47駅 ガイドラインに沿っていないもの 3駅 3) 階段又は傾斜路の手すりに点字による案内が貼付されていないなどしていて適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 16駅 ガイドラインに沿っていないもの 33駅 4) 誘導ブロックによる誘導経路に障害物があるなどしていて、誘導経路の安全性が十分に確保されていないもの 円滑化基準に適合していないもの ― ガイドラインに沿っていないもの 15駅 5) 誘導ブロックが階段の手すりに手を伸ばせば触れられる程度の距離を離した位置に敷設されていないなどしていて、その敷設が適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 4駅 ガイドラインに沿っていないもの 73駅 6) 警告ブロックが階段の上下端に敷設されていないなどしていて、その敷設が適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 19駅 ガイドラインに沿っていないもの 4駅 7) 触知案内図等による案内が駅の主要な設備の配置等と相違するなどしていて適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 16駅 ガイドラインに沿っていないもの 36駅 8) 便所の案内図等による案内が便所の構造を示していないなどしていて適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 28駅 ガイドラインに沿っていないもの 6駅 9) ホーム縁端警告ブロックの敷設長が不足しているなどしていて、その敷設が適切でないもの 円滑化基準に適合していないもの 1駅 ガイドラインに沿っていないもの 15駅 10) その他 円滑化基準に適合していないもの 8駅 ガイドラインに沿っていないもの 1駅 (注)複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。  これらの事態は、補助金により整備された移動等円滑化設備が円滑化基準に適合せず又はガイドラインに沿っておらず、高齢者、障害者等の利便性又は安全性が十分に確保されていない状況になっていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。 イ 補助金により整備された移動等円滑化設備の周辺の整備等が適切でなく、当該設備の利用に当たっての安全性が十分に確保されていないもの  16駅 補助対象事業費計51億4828万余円国庫補助金交付額計14億2532万余円  16駅(1日当たり利用者数計596,784人)において、表4のとおり、補助金により整備されたエレベーターの前に下り傾斜があり、乗降ロビーが十分に確保されないなどの事態が見受けられた。 表4 補助金により整備された移動等円滑化設備の周辺の整備等が適切でなく、当該設備の利用に当たっての安全性が十分に確保されていないもの 1) エレベーターの前に下り傾斜があり、乗降ロビーが十分に確保されないなどしているもの 8駅 2) 既設の誘導ブロックによる誘導経路が階段の手すりに衝突するようになっている など誘導経路が適切でないもの 3駅 3) その他 5駅  これらの事態は、補助金により整備された移動等円滑化設備の周辺の整備等が適切でないため、当該設備の利用に当たっての安全性が十分に確保されていない状況になっていて、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。 ウ 補助金により整備された移動等円滑化設備に対する案内設備の整備等が適切でなく、整備の効果が十分に発現していないもの  285駅 補助対象事業費計584億8967万余円国庫補助金交付額計146億1050万余円  285駅(1日当たり利用者数計12,388,454人)において、表5のとおり、触知案内図が整備されていなかったり、触知案内図は整備されているものの、補助金により整備された移動等円滑化設備が表示されていなかったりなどしている事態が見受けられた(これらの中には、アの事態と重複しているものがある。)。 表5 補助金により整備された移動等円滑化設備に対する案内設備の整備等が適切でなく、整備の効果が十分に発現していないもの 1) 誘導ブロックが敷設されていないなどしていて、補助金により整備された移動等円滑化設備に対する誘導が適切でないもの 16駅 2) 触知案内図が整備されていないもの 252駅 3) 触知案内図に補助金により整備された移動等円滑化設備が表示されないなどしているもの 20駅 4) その他 8駅 (注)複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。  これらの事態は、補助金により整備された移動等円滑化設備の利用のための案内設備の整備等が適切でないため、高齢者、障害者等が利用しやすいものとなっておらず、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。 エ 補助金により整備された移動等円滑化設備が破損するなどしていて、その管理が適切でないもの  27駅 補助対象事業費計84億0131万余円国庫補助金交付額計23億4998万余円  27駅(1日当たり利用者数計974,383人)において、表6のとおり、警告ブロックが破損したままとなっていたり、誘導ブロックによる誘導経路上にごみ箱等の移動の支障になる物が置かれていたりなどしている事態が見受けられた。 表6 補助金により整備された移動等円滑化設備が破損するなどしていて、その管理が適切でないもの 1) 整備した誘導ブロックを無断で撤去するなどしているもの 3駅 2) 誘導経路上に移動の支障になる物が置かれているなどしているもの 5駅 3) 触知案内図等の整備後に適切に改修等を行っていないため、実態と相違しているなどしているもの 9駅 4) 警告ブロック等が破損等したままとなっているもの 10駅 5) その他 2駅 (注)複数の事態に該当している駅があるため、駅数を合計しても前記の駅数とは一致しない。  これらの事態は、補助金により整備された移動等円滑化設備が破損したままとなっているなどしていてその管理が適切でないため、移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現していないと認められる。 (2) 補助金により整備されたエレベーターの稼働時間に制限があったり、隣接施設等のエレベーターの稼働時間に制限があったりしていて、移動等円滑化経路が十分に確保されていないもの  7駅 補助対象事業費計27億6124万余円国庫補助金交付額計7 億0974 万余円  7駅(1日当たり利用者数計763,937人)において、補助金により整備されたエレベーターの稼働時間に制限があったり(3駅)、円滑化基準において、駅の営業時間内に、隣接した他の施設のエレベーターを利用することにより公共用通路までの円滑な移動ができる場合は移動等円滑化経路に代えることができる旨の規定があるが、そのような公共用通路への経路となっている隣接施設のエレベーターの稼働時間に制限があったり(4駅)していて、駅の営業時間内に移動等円滑化経路が確保されていない時間がある状態になっている事態が見受けられた。  これらの事態は、移動等円滑化経路が十分に確保されていないものと認められる。  上記の各項目に係る駅には重複しているものがあり、その重複を除くと、計405駅、1日当たり利用者数計16,121,372人、補助対象事業費計923億6360万余円、国庫補助金交付額計244億9911万円となる。 (改善を必要とする事態)  以上のように、補助金により整備された移動等円滑化設備について、駅における高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の確保が十分に図られておらず、整備の効果が十分に発現していないなどの事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。 (発生原因)  このような事態が生じているのは、鉄道事業者等において、駅の全面的な改修が困難な場合があることにもよるが、円滑化基準及びガイドラインの理解が不足していたり、移動等円滑化を適切に実施することに対する認識が十分でなかったりしていること、また、貴省において、鉄道事業者等に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。 3 本院が要求する改善の処置  国は、23年3月に基本方針を見直して、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国家公安委員会・総務省・国土交通省告示第1 号)を策定している。これによれば、1日当たり利用者数が3,000 人以上である駅については、32 年度までに、原則として移動等円滑化を実施することなどとされている。  移動等円滑化設備の整備は、高齢者、障害者等の交通弱者の安全や安心の確保とも密接に関わるものであり、鉄道事業者等においても、様々な制約条件の中で駅の移動等円滑化に努めているところではあるが、移動等円滑化設備を適切に整備するとともに、整備された移動等円滑化設備が老朽化するなどして、その整備の効果が薄れていないかについても、不断に点検し改善していく必要がある。  ついては、貴省において、移動等円滑化設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに 沿って適切に整備されるとともに、整備の効果が十分に発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。 ア 移動等円滑化設備の整備に対する補助金の交付に当たっては、当該設備が円滑化基準に適合し又はガイドラインに沿って、高齢者、障害者等にとって安全で利用しやすいものとなるよう、鉄道事業者等に対して、円滑化基準及びガイドラインについて周知徹底を図るとともに、補助金により整備する移動等円滑化設備については原則として円滑化基準に適合させることを明確にすること イ 鉄道事業者等に対して、補助金により整備された移動等円滑化設備の整備の効果が十分に発現するよう、当該設備周辺の整備の適切な実施に努めること、当該設備を適切に管理すること、移動等円滑化経路が隣接施設を経由する場合においては当該移動等円滑化経路の適切な確保に努めることなどについて周知すること