2009年3月10日 第8回 政府意見交換会 障害者権利条約総務省関連の項目についての意見書 日本障害フォーラム 1.コミュニケーション・情報アクセシビリティ関連(第2条、第4条、第5条、第9条、第10条、第21条等関連) (1)差別禁止 1)差別禁止する法制度 障害者権利条約(以下、条約)第2条では、「障害に基づく差別」を定義している。ここは、条約で特に注目すべき部分である。すべての人権及び基本的自由の認識、享有、行使を害し、無効にする目的又は効果を差別としており、「直接差別」「間接差別」が含まれている。この点について、日本政府が、条約交渉過程において、「あらゆる形態の差別」の中には、直接差別のみならず間接差別も含むと述べている。さらに、「合理的配慮を行わないこと」が「障害に基づく差別」と定められた。第2条に定義されている「合理的配慮」は、障害者と障害をもたない人の実質的な平等・機会均等を確保するための新しい概念であり、条約における重要ポイントであるが、それを「行わないこと」が差別となるということの意義は大変大きい。 また、ここでは手話は言語と定義されている。国連憲章、国際人権規約は言語の平等を規定しており、手話は言語と定義されたことで、あらゆる場面に関わって、手話を音声語と差別してはならず同等の扱いを受ける。 第3条の一般的原則で非差別平等を規定し、第5条では、実質的な平等をはかり差別を禁止するという個別条項が設けられ、合理的配慮の確保を規定している。重要なことは、これら差別の定義と差別禁止規定は、条約の総則にあたる部分(第1条から第9条)に規定されており、条約上のあらゆる規定に適用されることである。コミュニケーションや情報アクセシビリティ、政治的・公的活動や文化的参加等を規定している第9条や第21条、第29条や第30条にも当然適用されるのである。以上を鑑みるに、条約に基づいた「障害に基づく差別」を規定し、禁止する法制度の確立が必要となり、そこには「合理的配慮を行わないこと」も障害に基づく差別として明記されなければならないと考える。イギリスのDDA(Disability Discrimination Act /障害者差別法)や韓国の「障害者差別禁止及び権利救済法」では、コミュニケーション手段、情報・情報サービスでの差別を禁止し、合理的配慮義務を課している。ところが日本では、「JIS X8341」など世界をリードする技術基準をもち、すぐれたユニバーサルデザインの携帯電話や支援機器がありながらも、法による強制力を持ち得ないことから、「技術」はあっても障害者がなかなか「利用」出来ない状況にある。以上の点から、差別禁止法制度の必要性についての貴省の認識をお聞きしたい 2)アクセシブルな情報通信機器の義務付け等 1)に関連して、日本においては、地域差が歴然と存在し、例えば「音声合成」は視覚障害者だけでなく言語障害のある人の発言にも有用だが、制度がないため地域によって利用できない、活字読書機はある自治体とない自治体がある、肢体不自由者にとって「ページめくり機」はたいへん役立つが、EUでは補助があり普及している一方で日本では補助等が無く高価で利用できない、といった例にこと欠かない。いいものがあってもなかなか利用できない状況にあり、障害のない人と比べ、情報の収集等に著しい不利益をこうむっている。 米国では「リハビリテーション法508条」、ヨーロッパでも「Mandate 376」などにより、アクセシブルな情報通信機器の義務づけが進んでいる。米国のリハビリテーション法508条は、米国の連邦政府の調達基準に関する法律であり、連邦政府が購入する情報通信機器やソフトは、障害者に使えるものでなければならないと規定されている。1998年12月に1986年法が改正され、よりアクセシブルな機器を調達する義務が生じ、違反した場合に職員や市民からの提訴も可能となったのが特徴である。対象となるITとは、パソコンのハードやソフト、電話、コピー機、FAX、そしてWebサイトなどが含まれる。また、この法律は、連邦政府のあらゆる機関をはじめ、1990年に施行されたAssistive Technology Act(通称Tech Act)という法律で政府のファンドを得ている州政府の機関も含まれるため、原則的には米国のほとんどの公的機関がその影響を受けると考えられている。これがアクセシブルな情報通信機器の普及に大きく役立っている。 日本でも、少なくとも政府機関については、このような法律が必要であると思われるが、貴省並びに関連省庁の見解をお聞きしたい。 (2)施策の推進 1)情報・コミュニケーションを保障する法律(仮称)の必要性 第9条ではアクセシビリティについての一般的な規定がされており、交通機関や建物などの物理的環境へのアクセスと情報通信へのアクセス、施設(設備)やサービスへのアクセスを列挙しており、同時に、アクセシビリティの妨害物や障壁の除去も規定している。 この規定に関しては、障害者基本法3条(基本的理念)、4条(国などの責務)、19条(情報の利用におけるバリアフリー化)、IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が存在するが、さらに、具体的な数値目標の設定や市民参加のもとでの総合的な施策推進のための法律が必要であると考える。特に権利条約第4条3項では、条約の国内実施のための法令施策づくりにあたり、障害者や関係団体と親密に協議し参加させる、とある。 交通機関や建物に関しては「新バリアフリー法」(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が存在し、バリアフリー施策が推進されている。「新バリアフリー法」では、その施策推進のための基本計画策定に当たっては住民参加を保障している。情報コミュニケーションの分野においても、同様に情報コミュニケーション分野のバリアフリー化を総合的に推進するバリアフリー法としての情報・コミュニケーション保障法が必要であると考えるが、貴省ならびに関係省庁の見解をお聞きしたい。 2)アクセシビリティの最低基準の公表と監視 上記1)にも関連するが、第9条2項(a)には、 公衆に開かれ又は提供される施設及びサービスのアクセシビリティに関する最低基準及び指針を策定し及び公表すること、並びにこれらの最低基準及び指針の実施を監視すること とある。例えば、盲ろう者や聴覚障害者に関連して、自力でテレビの視聴覚情報が得られるよう、字幕を見やすくすることや、インターネット等を通じてテレビ放送を点字で視聴できるようにする、又は電話リレーサービス〔5)を参照〕等の技術開発や措置が行われるべきであるが、これにとどまらず、どのような最低基準を策定し、その実施を監視するのか、具体的な計画等を明らかにされたい。 3)地上デジタル放送について 2011年度から本格的に導入される地上デジタル放送について、「すべての障害者」が障害のない人と平等にサービスの対象とされなければならない。アメリカでは地上デジタル放送の導入を延期するという議論もされているようであり、この情報化社会の中で万全の準備が必要であると思われる。 まず、これまで国の指針に示された目標に照らしても字幕付加は遅れている。字幕放送、解説放送は、対象時間を設けることなく、すべてのテレビ番組で行うべきであるが、いかがお考えか。 また、手話放送についてははるかに少なく、民間放送ではほとんどない。しかもどのような指針、どのような目標数値も明示されていない。人権規約等の言語同等の原則に基づき、音声語をあるところ常に手話を付加しなければならないがいかがお考えか。さらに、このような現状のために障害者放送統一機構「目で聴くテレビ」が、「字幕と手話」付加放送として実質的な補完放送を行っていることについてどのようにお考えか。 また、情報通信審議会の第5次中間答申では、全国の生活保護世帯を対象に、デジタル放送の簡易チューナー等を無償配付するとされているが、簡易チューナー等が各分野の障害者の特性に対応したものとなるよう、障害者が対象から漏れることがないよう具体的な対応策を講じているのか、貴省に確認したい。 さらに、地上デジタル放送実施に伴い、CS 障害者放送統一機構の「目で聴くテレビ」を受信する「アイドラゴンU」が、デジタルテレビ放送化に伴い使用できなくなる。現在、デジタルテレビに完全対応した「アイドラゴンV」が開発中であるが、これを視・聴覚障害者に対して情報保障の観点から、無償配付等の措置を講ずることを検討しているのか明らかにされたい。 4)地上デジタル放送実施に伴う障害当事者の参画 1)とも関連して、至近の課題として、地上デジタル放送のアクセシビリティ(リモコンなど受信機器のアクセシビリティを含む)に関する施策を検討・研究する場に、視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者等の障害者団体の代表を加えるべきである。障害当事者者参加を重視する条約実施の観点から、これらは必要な措置と考えるが、貴省の見解を明らかにされたい。 5)電話のアクセシビリティの保障 第4条2項(b)では、公衆に開かれ又は提供される施設及びサービスを提供する民間主体は、障害者のアクセシビリティのあらゆる側面を考慮することを確保する、とある。 聴覚障害や視覚障害を持つ人々、発語、ダイヤルなどの操作ができない人など、電話操作ができない人たちのために、欧米では、オペレーターによる音声、文字、手話のメディア変換を行う「電話リレーサービス」が電話事業者のサービスとして発達し、テレビ電話による電話リレーサービスも行われている。 日本が国際通信連合の電気通信標準化部門ITU-Tに対して提案した電気通信アクセシビリティガイドラインは、2007年1月13日、ITU-Tの勧告として承認された。これは高齢者や障害者が、障害や心身の機能の状態にかかわらず、固定電話、携帯電話、FAXなどの電気通信機器やサービスを円滑に利用できるよう、電気通信機器・サービスの提供者が企画・開発・設計・提供等を行う際に配慮すべき事項を示したものである。その中に【電気通信サービスに関する個別の要件】として、「リアルタイム性、互換性等を確保し、音声情報をテキスト情報等に変換するメディア変換の仕組み等を提供する」があり、我が国もこの勧告に従って、電話リレーサービスを行うべきであるが、国からの動きは見えない。 電話が使用不可能な障害者の電話のアクセシビリティを保障するために、この勧告に従って電話リレーサービスが行われるべきであり、電気通信事業者の義務として法定化し、サービス提供方法や操作について、関係機関は当事者と協議すべきであると思われるがいかがか。 6)ATMの使用等について 第4条2項(b)に関連して、コンビニエンスストアを含む全ての金融機関のATMの取り扱いについて、盲ろう者等が自力で操作することが困難なATMがふえている。さらに、有人窓口の廃止、店舗の縮小により、窓口での現金の出し入れが難しくなってきている。盲ろう者をはじめ、障害者が単独で金融機関を利用できるようになることは、障害者が地域における自立した生活の推進のために必須であり、現状では障害者が大きな不利益をこうむっていると指摘することができる。ボタンによる操作と点字表示による確認が可能なATM、ならびに弱視者に配慮したATM の設置等が必要であるが、貴省・関係省庁の見解をお聞きしたい。 (3)緊急災害時の情報保障 緊急災害時、聴覚障害者にとっての情報・コミュニケーション保障はテレビ放送が主となる。現在のところ、NHKのみならず各民間放送での手話、字幕放送がさまざまな努力はされていることは承知しているが、十分にされていない。全国的な統一されたレベルでの聴覚障害者対応の緊急災害放送はなく、多くは市町村の対応に委ねられている。しかも、市町村の緊急災害情報保障の対応は聴覚障害者を視野に入れたものは少ない。さらにシステムは地域毎にまちまちであり、府県、市町村の境界を越える災害には対応できない。これは、生命に関わってくる事項であり、障害者放送統一機構「目で聴くテレビ」の常時放送チャンネル確保を保障して、避難所設備等の対応を含め、早急に、聴覚障害の無い人と同様の情報保障の確立が必要となる。 どのような取り組みをされているのかを明らかにされたい。 (4)情報アクセシビリティと著作権 情報アクセスと著作権法はどのように整合性が保たれるのかという課題がある。現状では、一般図書(書籍)を読むのと同等程度に電子図書データへのアクセスや入手が確保されていない。例えばアメリカのカリフォルニア州等では、大学が教科書指定をすると、出版社はデータ(電子版)を提出しなければならないという法制度がある。 また、(3)とも関連するが、災害時の緊急放送において柔軟な対応がされておらず、情報量等に障害のない人と比べ大きな差が生じている。 1月26日、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第11回)が開催され、そこで「平成19・20年度・報告書(案)」が提出され、審議されたと聞く。その「第3章 権利制限の見直しについて 第2節 障害者の著作物利用に係る権利制限の見直しについて」の「1 問題の所在」の中に、障害者権利条約に関する記載が盛り込まれている。また、「2 検討結果−(1)全体の方向性」の中にも、情報アクセスを保障するという観点が述べられている。これらをみると、条約に規定されている障害者の権利に沿った記載となっており、条約実施の観点からも注目される。 これら報告書案にもあるとおり、条約の実施に際して、一定の権利(著作権)制限が必要であると考えるが、実施に対する具体的な日程や方法、その検討における当事者参画のあり方などを明らかにしていただきたい。 2.政治及び公的活動への参加関連 (2条、4条、5条、21条、29条等) (1)選挙運動や投票 点字による公報は整備はされつつあるが、法制度で保障されておらず、自治体の裁量で行われているため、地域格差等、点字を使用する視覚障害者は候補者などの情報を得ることが著しく困難な状況に置かれている。また、選挙運動については、公職選挙法142条以下において、電話以外の活動が認められていない。電話の使用が困難な聴覚障害者は著しい不利益をこうむっている。 日本は投票に自署式(候補者氏名を投票者が自ら書く方式)を採用している、まれな国である。それにも関わらず、例えば、知的障害や身体障害等のために識字や筆記に支援が必要な場合にも投票を行うために必要な投票所内での配慮がなされていないなどの問題がある。知的障害のある人たちへの対応については、地方選挙においては記号投票あるいは代理投票、衆参議院選挙では代理投票が行われてはいるが、各市町村や投票所の対応に開きがあり、知的障害者が投票しづらい状況にある。 このような状況は、障害に基づく差別を禁止し、第29条(a)の「他の者と平等を基礎として、政治的および公的活動に効果的かつ完全に参加することができることを確保する」という条項に違反していると考えるが、貴省並びに関係省庁はどのようにお考えか。 (2)政見放送 政見放送の場合の字幕・手話の付与状況は下記の通りである。 衆議院小選挙区 衆比例代表区 参議院選挙区 参比例代表区 知事選 手話 ○ ○ × ○ × 字幕 ○ × × × × 字幕が付く政見放送は非常に限られており、手話に関しても、上記の通り参議院議員選挙区選挙と都道府県知事選挙には手話通訳を付けることができない。衆議院議員小選挙区選挙では、政党が自らビデオを制作する際に手話通訳を付けることはできるが、政党の任意である。そもそも全ての政見放送が政党の任意であるため、手話通訳を付けるか否かも政党の任意となっている。やむなく、聴覚障害者関係団体が政見放送ビデオを手話通訳付きで見る会等の取り組みを行っている。その費用は国が助成するという通達はあるものの、聴覚障害者関係団体の負担で賄っているところもある。このように、聴覚障害者は手話、字幕のつかない政見放送を理解する方法が全くなく、事実上政見放送の利用から排除され、国民の一員として平等に選挙に参加する機会を制限されている。公平を旨とすべき公職選挙においてこのような不公平な状況を放置することは、日本国憲法14条及び条約第4条、第29条(a)の規定に違反していると考える。即時に全ての政見放送に手話、字幕を付与すべきであると考えるが、貴省の見解を伺いたい。 (3)公職選挙法における手話通訳者の取り扱いについて 公職選挙法の(実費弁償及び報酬の額)第197条の2の2,3,4において、手話通訳者が政党や候補者の「選挙運動に従事する者」として以外、認められないという問題がある。 条約では、第2条で手話は言語ならびにコミュニケーションとして定義され、第21 条で自ら選択するコミュニケーションによって、表現や意見、情報伝達の自由についての権利を確保する、とある。手話通訳者とは、聴覚障害者のコミュニケーションを保障し、政治参加の権利を保障するためのものである。一律に選挙運動に従事する者となるのは、通訳者本来のあり方としては間違っており、上記法規定は改正されるべきであると考えるが、貴省の見解を明らかにされたい。 (4)最高裁判所裁判官国民審査における情報保障(4条、29条) 最高裁判所裁判官国民審査の際の点字による裁判官等の情報が保障されておらず、29条等に定める公的活動への参加において、視覚障害者が不利益をこうむっている。この点について貴省及び関係省庁の見解を明らかにされたい。 (5)差別禁止法制度の必要性について 上記の問題等から、政治及び公的活動への参加に関しても、実質的な機会の平等を確保するためには、障害に基づく差別を禁止し、合理的配慮の提供を義務として定める法制度が必要であると考えるが、貴省ならびに関係省庁はどのようにお考えか。 3.その他 (1)専門家や自治体職員、教員等に対する研修等(4条、9条、21条、24条等) 第4条の1−iの「この条約において認められる権利により保障される支援及びサービスを一層効果的に提供するため、障害のある人と共に行動する専門家及び職員に対する当該権利に関する訓練を促進すること」の規定から、専門家や自治体職員、教員等に対する研修等が必要となる。貴省に関連する部門において、どのような対策をお考えか。 (2)映画やDVDのガイドラインの作成(30条等) 条約の第30条では、障害のない人と平等にアクセシブルな様式を通じて文化的作品や文化的な活動にアクセスすることを確保する、とある。しかし例えば、日本映画に字幕はほとんどなく、現状では聴覚障害者にとって大きな不利益となっている。例えば、DVDでは複数の言語の字幕表示は技術的には可能であるにもかかわらず、邦画やアニメ等では日本語字幕が表示できるようにしているものは未だ少ない。当該施策推進のために、映画やDVDの字幕や見易さ等、文化・娯楽・レクレーション活動のためのアクセシビリティ(利用可能)ガイドラインが必要であると考える。さらに、テレビ字幕と同様に、この件についての財政的措置さらには法制化が必要であると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。 (3)情報の収集と開示等(31条等) 第31条に関連して、厚労省や文科省、法務省が各省庁の施策に応じて個人情報を所持している。例えば、患者調査は厚労省が行っており、患者のデータを持っている。個人情報の保護は基本となるが、例えば、精神病院の退院相談など第19条「地域における自立生活」条項における規定の実施に関連して、病院に入院している人数程度の情報等、必要最低限、開示すべきものは開示すべきであると考える。第31条の2では、この条に規定に伴って収集された情報は条約上の締約国の義務履行に役立て並びに障害者の権利行使のための障壁の除去に取り組むために用いる、とある。これら各省にまたがる統計やデータの使用や開示について、総務省が各省庁に対する協力要請を行うことができるようにする等、条約条文の実施のための制度が必要である。貴省の見解をお聞きしたい。 (4)個人情報保護法(第21条等) 個人情報の改正に伴い、通訳者を介した電話での応対を拒否する企業等がほとんどである。例えば盲ろう者は、視覚と聴覚の両方に障害があるため、単独での電話やファックスでのやりとりが不可能であるが、通訳者を介して電話をしても、本人ではないとの理由からサービスを提供しない。他に盲ろう者だけでなく聴覚障害者等も、銀行のキャッシュカードを紛失したため、カードの停止を頼んでも通訳者や介助者を介した電話では対応されなかったことや、カード会社から電話での本人確認によって通訳者や介助者を介したサービス利用の申し込みを拒否するといった例がある。また、個人情報を記載して申し込んでいるものは大半が本人からの電話を条件に対応している。 このように個人の財産やライフラインに関わる重要な局面において、障害者が大きな不利益を被っている。貴省の見解をお聞きし、今後の明確な対応策をお聞きしたい。 2008年8月26日 第4回 政府意見交換会 障害者権利条約文部科学省関連の項目についての意見書 日本障害フォーラム 1.インクルーシブ教育への政策の転換の確認 (1)大臣答弁などからの確認 2006年6月14日衆議院本会議において、小坂憲次文部科学大臣(当時)は次のように答弁している。この答弁に変更はないことを確認し、「現場の体制整備」の方向性について明らかにされたい。ちなみに権利条約の第24条2項(c)では合理的配慮、同項(e)においては必要な支援を「完全なインクルージョンという目的に則して」提供することと規定した。また、条約の原則の一つに「社会への完全かつ効果的な参加とインクルージョン」(第3条)が規定された。この点に留意してお答えいただきたい。 「委員が御指摘いただきましたように、私も流れはインクルージョンの流れであるということをここではっきりさせていきたい、こう思います。その上で、現場の体制整備を行っていきたい」 (2)上記(1)に関連して初等中等教育局の見解 障害のある子どもが通常学級で学ぶための条件整備について、初等中等教育局としての見解を明らかにされたい。 (3)条約第24条の「インクルーシブ」の解釈 第24条第1項柱書きでは「あらゆる段階におけるインクルーシブな教育」とあり、第2項(b)では「自己の住む地域社会でインクルーシブで質の高い教育にアクセスできること」となっている。この「インクルーシブ」という文言をどのように解釈しているのか見解を明らかにされたい。 (4)障害をもつ子どもに対する異別取り扱いについて 学校教育法施行令第5条によって、当初より記載されている市町村の学齢簿から同施行令第22条の3に規定されている程度の障害をもつ子どもは都道府県に通知され、障害のない子どもと別扱いをされることで、市町村の教育委員会から就学通知が送付されないことになる。これは、障害を理由とした異別取り扱いであり、条約の規定するインクルーシブ教育に反すると思われるが、見解を明らかにされたい。 【参考 関連条文】 ■学校教育法施行令第5条 市町村の教育委員会は、就学予定者(法第17条第1項又は第2項の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)で次に掲げる者について、その保護者に対し、翌学年の初めから2月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。 1.就学予定者のうち、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第22 条の3の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)以外の者 2.視覚障害者等のうち、市町村の教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(以下「認定就学者」という。) 2.教育を受けるために必要な支援や合理的配慮について (1)障害のある子どもが教育を受けるための支援について 第2条や第24条等では、合理的配慮について定義し、合理的配慮義務を国に課している。合理的配慮においては第2条で『不釣合いなまたは過重な負担』がある場合には行わなくてもよいという規定がなされている。しかし、特に義務教育課程では、他の者との平等を基礎とする限り、当該児童が学校教育を受けるために欠かすことのできない「配慮」をしないことは認められないと考えられるが、見解を明らかにされたい。 (2)合理的配慮義務を履行する体制の整備 第2条、第4条、第24条2項(c)の規定により、合理的配慮を行うための施策・制度を通う学校如何に関わらず、すべての障害をもつ子供に適用すべきである。これに関して貴省の見解を明らかにされたい。 (3)第24条1項(b)および(c) 第1項(b)「障害のある人が……(その)能力を最大限度まで発達させること」ならびに(c)「自由な社会に効果的に参加すること」を実現するために、通常学級をふくむすべての教育機関において教育条件の改善が急務であり、個人個人のニーズにあった支援が必要となるが、どのように考えるか見解を明らかにされたい。 (4)小中学校の施設設備の整備 小中学校の施設設備の整備を具体的にすすめるための計画を明らかにされたい。平成19年7月24日改正の小学校(中学校)施設整備指針は、「総則」において「特別支援教育推進のための施設」「施設のバリアフリー化」等を掲げている。しかし、これはあくまでも「指針」であり、拘束力はない。具体化のためにはどのようにお考えか。 3.第24条第3項に関連して (1)言語としての手話 第2条において手話は音声言語と同様に言語であると定義づけられた。第24条第3項(b)において、「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること」と規定されている。インクルーシブな教育制度にあっても、「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進」を確保するためには、ろうの子どもの集団での教育が必要であり、手話を言語として位置づけたろう教育の確立が必要である。現在のろう学校のありかたについて、どのような認識をお持ちか見解を明らかにされたい。 (2)難聴者等について 聴覚障害者には、ろう者、難聴者、中途失聴者が存在する。難聴の子どもは、聴覚を活用して成長しており、難聴の子どもの教育に関しては、聴覚を活用した日本語学習・学科学習ができるように、支援が行われなければならないと考える。また、聞こえの程度もさまざまであり、一人ひとりにあった支援が必要であるが、貴省の見解をお聞きしたい。 (3)deafblind(盲ろう)および盲ろう者に関連して 第24条3項(c)で、原文は"deafblind"と記述されているのに対し、政府仮訳文では、「視覚障害と聴覚障害の重複障害のある者」となっている。世界の多くの国では、「盲ろう」を独自の障害区分として位置づけられているので、「盲ろう者」とあらためるべきと考える。貴省として、「盲ろう」を独自の障害として考えているのか、見解を明らかにされたい。 (4)特別支援学校の課題 条約の内容に照らして、特別支援学校の課題について、とくに知的障害校の「過大化・狭隘化」についての認識、盲学校、ろう学校の統廃合の見解を明らかにされたい。 2008年11月27日 第7回 政府意見交換会 障害者権利条約文部科学省関連の項目(第2回)についての意見書 日本障害フォーラム 1.障害者権利条約への批准に向けた検討の場の設置について 権利条約批准に向けた検討の場としては貴省が主催している「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」(以下、協力者会議)では不十分である。権利条約第2条で「障害に基づく差別」を定義し、第3条で非差別の原則、第5条等において、平等・非差別の規定をおいている。直接差別、間接差別、合理的配慮を行わないことは差別となるとされ、差別に対して、効果的な法的保護を障害者に保障するとある。これは教育の分野でも当然適用される。また権利条約第24条では、生涯学習等の規定もされている。よって、権利条約の批准に向けた検討の場は関連する全ての条項に対する検討の場となるべきであり、特別支援教育の問題に限られるべきではないという理由から、協力者会議では不十分である。 第4回意見交換会の質疑応答の場で若干触れたが、合理的配慮や就労の体系など、教育問題と類似する労働分野での課題を抱える厚生労働省の労働部門においては、2008年4月より「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応のあり方に関する研究会」を立ち上げている。最低限同様の、権利条約に基づいて障害をもつ子ども・障害者の教育における課題や論点を整理し、政策に生かすための検討の場をもつべきである。この取り組みでは、少なくとも議事や資料は迅速に公開され、そこに参加する団体にはJDFといった権利条約への取り組みを行ってきた障害関連団体と専門家を含めるべきである。この要望について、現時点での貴省のお考えを聞かせていただきたい。 2.インクルーシブ教育等について (1)障害をもつ子どもに対する異別(別異)取り扱いについて 第4回意見交換会において、学校教育法施行令第5 条等により、障害のある子どもとない子どもを手続き的に別々に取り扱い、原則として別学校へという就学の仕組みが異別取り扱いにあたるのではないか、という意見を出したところである。 それに対し、現行の就学の仕組みについて就学基準があり、特別支援学校の対象は障害の基準で判断するとの答弁がされた。 学校教育法施行令の第5条では 市町村の教育委員会は、就学予定者(法第17 条第1項又は第2項の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)で次に掲げる者について、その保護者に対し、翌学年の初めから2月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。 1.就学予定者のうち、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第22条の3の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)以外の者 2.視覚障害者等のうち、市町村の教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(以下「認定就学者」という。) と規定されており、これらの仕組みのもとで、就学の入り口のところで障害のある子どもとない子どもは分けられ、障害を理由に別異の取り扱いを受けている。さらに、通常学校に通う障害のある子どもは、こうした制度の下で不利益を被っている状況にある。権利条約第2 条の「障害に基づく差別」(Discrimination on the basis of disability)では、「障害に基づくあらゆる区別」を差別と規定しているが、こうした不利益をこうむっている状況は差別であると考えるが貴省の見解をお聞きしたい。 (2)インクルーシブ 障害者の権利条約(以下、権利条約)第24条の「インクルーシブ」の解釈について、2008年8月26日に開催された第4回政府意見交換会(以下、第4回意見交換会)において、障害のない子どもに提供されている場に、すべてではないにせよ障害をもつ子どもを受け入れるものと理解されることが確認された。 権利条約では同条第1項で締約国は「あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度」を確保すると規定し、同条第2項(b)に自分の生活する地域においてインクルーシブで質の高い教育にアクセスすることができること(can access)を確保する、とある。 ところが、わが国における現行制度では、障害のない子どもに提供されている場には「特別の事情」があると認められる場合にのみ、自己の暮らす地域の市町村からその地域の学校への就学通知が送られる。その結果、それ以外の障害をもつ子どもは、原則として地域の学校に就学できない。 この手続き規定およびその基となる就学制度は、「自己の住む地域において」インクルーシブ教育すなわち「障害のない子どもに提供されている場に、障害のある子どもを受け入れる」教育を確保する、という条約の規定に明らかにそぐわないと考える。第4回意見交換会で貴省より、「就学制度のあり方を条約との関係で今後十分考えて行きたい」との見解をいただいた。これについて、今後どのようなスケジュールでどのように検討するのかを明確にご回答いただきたい。 (3)普通学級・普通学校に通う障害のある子どもの現状 第4回意見交換会において、通常学級に通う障害をもつ子どもの受けている不利益について指摘したところである。難聴児の問題についても個別支援が無い状態で放置されている状況を指摘した。関連して、自民党の馬渡龍治議員の国会質疑も言及させていただいた。これに対して、第4回意見交換会の質疑応答において、貴省より現行制度上の不都合を詳細に把握していない、という発言があった。その後、現行制度上の不都合があるのか調査し何らかの結果が出たのか。出たとするとどのような結果が出たのかお聞きしたい。 例えば、通常学級への就学を希望している障害をもつ子どもは、一連の就学相談の過程で不利益をこうむる実態があり、相談が障害者団体や関連団体に寄せられている。 この現状に対する見解をお聞きしたい。 (4)初等中等教育局が管轄する通常学級での障害のある子どもの教育を充実するための課題 インクルーシブ教育の制度化に際して、通常学級で障害のある子どもが障害のない子どもと平等に教育を受けるためには、通常教育の抜本的改革が必要であることはいうまでもない。まず、以下の2つの点について、通常教育全体に責任をもつ初等中等教育局の見解をうかがいたい。 1)現在、国で定めている40人である通常学級の学級編制基準を縮小する 2)各学年の学習内容を障害のある子どもが学ぶことを念頭において見直す(学習指導要領の見直し) また、特別支援教育の推進策として実施されている支援員の全校配置や教職員に対する研修だけでは、通常学校・学級での障害のある子どもの教育の充実は不十分である。例えば、現状では、いわゆるLD、ADHD,高機能自閉症と診断された子どもが通常学級から排除される事態も生じている。こうした問題をどのように解決していくのか具体的にお聞きしたい。 3.教育を受けるために必要な支援や合理的配慮について (1)合理的配慮の提供義務と過度な負担について 教育は基本的人権であり、国家の義務でもある。合理的配慮実施義務を規定する法律をもつ他の国の中には、義務教育の分野に関する合理的配慮については、その基本的権利性に照らして、他の分野における合理的配慮義務の抗弁(過度な負担等)よりも厳格に判断される、としている国もある。 日本においても、過度な負担という合理的配慮義務に対する抗弁は、非常に厳格に判断されるべきであると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。 (2)合理的配慮の決定プロセスと今後の検討について 権利条約や子どもの権利条約における障害をもつ子どもの意見表明権等の規定から、合理的配慮の内容等の決定プロセスについては、障害をもつ子どもの保護者や教員、障害をもつ本人等が加わって策定するようにすべきであるが、貴省の考えを明らかにされたい。 たとえば、米国においては、法律(Individuals with Disabilities EducationImprovement Act, 2004)で、障害をもつ子どもの保護者、一人以上の通常学校の教員、一人以上の特殊教育の教員、地域教育機関の代表、評価について説明できる人、保護者や教育機関の自由裁量で子どもを熟知している人を加えることができ、適切である場合には障害をもつ本人が加わり、個別指導計画を策定することになっている。 さらに、調停、行政不服申し立て等の救済措置も設けられている。日本の現行制度上の個別指導計画では、教員が作ったものがそのまま提示されるにすぎない。また、特別支援員も、全ての学校に通う障害をもつ子どものニーズへの支援に対して有効な手立てとなっていない。 第4回意見交換会において、合理的配慮について、関係省庁と検討し、協力者会議でも取り扱う旨の回答があった。合理的配慮に関連して、関係省庁との協議や協力者会議の今後の日程や、どのようにとりまとめ、施策に反映させるのかご教示願いたい。 (3)通学等における支援 現在、普通学校や特別支援学校に通う障害をもつ子どもの通学について、親の同伴が就学の際の条件として課せられたり、多額な交通費が自己負担になっていることが多い。どの学校に通う如何にかかわらず、少なくとも義務教育の期間には、通学を始めとする必要な支援については本人・保護者の費用を無料とすべきであるが、貴省の見解を明らかにされたい。 (4)特別支援学校の課題 現在の特別支援学校の中には、児童生徒数の増加によって過密状態となり、教室不足で図書館をなくして教室に転用している、あるいはトイレが不足しているという教育の場として最低限の条件が損なわれている実態があることについて、第4回意見交換会で指摘させていただいたところである。また、障害種別をこえた特別支援学校への一本化によってろう学校が他の障害種別の学校と統合され、ろう児が他の障害をもつ子どもと一緒に教育されている現状がある、との指摘もさせていただいた。 これらの現状は障害をもつ子どもの権利が侵害されていると考えるが、改善策等について、貴省の見解を明らかにされたい。 4.第24条第3項に関連して (1)言語としての手話とろう者への教育 第4回意見交換会において、権利条約において、手話を言語と規定し(第2条)、第24条第3項(b)において、「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること」と規定されたことについて、ろう教育のあり方の認識をお尋ねしたところである。そこに関する質疑等の中で、貴省の担当より、手話を言語と規定するのは難しいが、想いや感情を伝え合うと辞書にあり、意思疎通するものと解釈すれば、手話も言語である、という発言があった。 「手話の取得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進」という規定の実現のために、JDFとしては、ろうの子どもの集団での教育が必要であり、手話を言語として位置づけたろう教育の確立が必要である、との意見を出したところであるが、貴省からは明確なコメントがされなかった。 これに関して、条文の実施のために、貴省はもっと具体的に、一般国民、特に当事者にわかるような方向性を示す責任があると思われる。手話と教育の両方の能力を備える教員をどのように確保するのか、そうした教員によってどの場所でろう社会の言語的アイデンティティは確保するべきであると考えるのか、具体的にお答えいただきたい。 (2)盲ろう者に関連して 第4回意見交換会において、盲ろう者を独自の障害として認識はしていないとの貴省の見解が披露された。それに対して、盲ろうの当事者より、盲ろうの子どもは盲学校か、ろう学校に行くことになるが、自分が望むろう学校に入れなかった、という経験が披露されたところである。自らの望む学校に行けない実態がある。盲ろう児への教育についても今後、検討すべきではないかと考えるがいかがか。