第13回差別禁止部会 (H24.2.10) 川島聡委員 提出資料 第13回部会への意見 2012年2月6日 差別禁止部会 委員 川島 聡 はじめに 2012年2月3日に室長が提示された論点について私見を記します。この論点について検討しなければならない事項はかなり多くあります。しかし、ここでは、情報分野・教育分野について、現時点での若干の暫定的な私見を示すだけとなります。この私見を記す前に、その前提となる理解をまず述べます。 私見の前提 わたしは、この部会では、障害差別禁止法の下で、「誰がどんな義務を負うべきか」という枠組みを用いて議論をすべきであると思います。 しかし、この部会での議論の進め方は、熊本県障害差別禁止条例の枠組みに基づいているように思われます。この条例第8条は、何人も次に掲げる行為をしてはならないと定めます。そして本条は、@福祉サービス、A医療、B商品販売・サービス提供、C雇用、D教育、E建物等・公共交通機関、F不動産取引、G情報提供という8つの分野について、それぞれ180-250字程度の規定を設けています。 熊本県条例は、「何人も障害者に対して差別をしてはならない」という構造をとっています。しかしこの構造では、障害差別を受ける者の範囲は、「障害者」 だけに限定されることになりかねません。たとえば、障害のある子どもがいることで、その親が差別されることがあります。しかも、「障害者に対して」という文言は、アメリカで問題となったように、「誰が障害者か」という不毛な議論(「継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態」の解釈をめぐる論争)が日本で生じる可能性があります。 このような問題を回避するためには、総則で「何人も、障害を理由とする差別を受けない」という規定を採用し、各則で「○○○は、何人に対しても、障害差別をしてはならない」という規定を採用するのが妥当です(○○○の部分は、使用者、学校設置者・学校、役務提供者、公務遂行者などが入ります)。 また別の問題として、義務を負う主体を「何人も」とすることで、誰が義務を負うかが曖昧となります。このような曖昧さは、障害差別禁止法によって権利が保障される主体にとっても、それによって義務を課される主体にとっても、好ましいことではないと思われます。以下、少し具体的に述べます。 そもそも障害差別禁止法は、合理的配慮の提供義務を含め、私人に差別禁止の義務を課すことで、私人の自由な社会・経済活動を制約する法律です。この事実を踏まえてこそ、現実的な立法論が可能となります。そのため、義務を負う主体の範囲は「何人も」という表現ではなく、明確に特定する必要があると思います。 障害差別禁止法を作成する際には、障害差別を受けた者の権利と相手側の義務(利益)とのバランスをとる、という視点が基本的な重要性を持ちます(その際、抽象的個人を想定するのではなく、障害者の置かれた構造的不利等を出発点として、両者の間のバランスを適正にとることが重要となります。) 義務主体の範囲をある程度特定することには次の利点もあります。義務を負う側は、あらかじめ自分がどんな義務を負うかが分かれば、合理的配慮の提供等を含め、障害差別を行わないように、社会経済活動を効率的に展開できます。これにより、合理的配慮の実効性も高まりえます。障害差別の発生防止にも役に立ちます。また、義務主体が特定されれば、障害者の側も誰に対して合理的配慮の提供を要請すべきかが明確に分かります。 1 情報とコミュニケーションについて 1-1 議論の枠組み 御提案の「受信と発信に場合分けして議論する」という枠組みは、熊本県条例の次の規定を想定していると思われます。 熊本県障害差別禁止条例第8条 (10) 障害者から情報の提供を求められた場合において、障害者に対して、当該情報を提供することにより他の者の権利利益を侵害するおそれがあると認められる場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、情報の提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。 (11) 障害者が意思を表示する場合において、障害者に対して、障害者が選択した意思表示の方法によっては障害者の表示しようとする意思を確認することに著しい支障がある場合その他の合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、意思の表示を受けることを拒み、又はこれに条件を付し、その他不利益な取扱いをすること。 熊本県条例の第8条(10)は、情報を受信する場合について定めています。 第8条(11)は、情報を発信する場合について定めています。 この部会では、受信と発信に場合分けをして議論するという枠組みをそれほど重視する必要はないように思われます。情報の受信と発信は、コミュニケーションの保障という観点からみれば、多くの場合、両方が同時に必要となります。そのため、受信と発信を場合分けして議論するよりも、むしろ、障害差別禁止法の下で「誰がどのような義務を負うべきか」という枠組みを用いて議論をすべきであると思います。 たとえば使用者、教育機関、役務提供者、公務遂行者、結社(団体)関係者、不動産関係者など、この法律の下で義務を負う主体を特定し、それらがどのような義務を負うかを明確にしていくというアプローチです。 このアプローチをとれば、@不特定多数、A特定の範囲、B特定の個人、のどの対象に向けて情報を発信するか、という室長の問いは、それほどメインに議論する必要はないように思われます。なぜなら、義務主体は、@ABのどの対象に向けて情報を発信する際にも、そもそも障害差別をしてはならないからです。障害差別の内容を特定することが、むしろ議論すべき重要な課題となります。 障害差別の内容を特定する際には、障害差別の基本的な枠組み(総論)を検討することが、分野ごとの具体的な義務内容(各論)の検討と同時に必要です。その基本的な枠組みを、わたしは第12回部会に提出した「総論私案」で示しました。その内容は、まだ再検討の余地は多くあると思いますが、とりあえず今回は、この「総論私案」に基づいて以下私見を展開します。 1-2 障害差別の概念 障害差別とは何か、という問いについては、使用者、教育機関、役務提供者、公務遂行者、団体関係者、不動産関係者などの義務主体の違いに応じて、具体的に検討すべきだと思われます。しかし、ここでは包括的に検討する余裕はありませんので、役務提供者の場合に限定して議論を進めます。 障害差別の基本枠組みとして、「総論私案」では障害差別を二類型に分けています。 ・不均等待遇(直接、間接、関連(起因)の三つを含む) ・合理的配慮義務の不履行 たとえば、情報の受信・発信を拒むこと、また情報の受信・発信に当たって不当な条件を付すことは、不均等待遇にあたると思います。 1-3 合理的配慮 合理的配慮義務の概念は、英国平等法を参考にした「総論私案」では、次の三つの合理的措置を講ずる義務に分けられます。(あ)物事の決め方ややり方を変更するための合理的措置、(い)物理的形状を変更するための合理的措置、(う)補助手段を提供するための合理的措置、です。 英国平等法では、(あ)(う)のケースで、情報関係の実質的不利が障害者に生じる場合に、役務提供者は、「アクセシブルな様式」で、情報の提供を確保するための合理的措置を講じなければなりません。 「聴覚障がい者が手話によるコミュニケーションを求めた場合に、手話を理解できない者が筆談などその他の方法を求めても不利益取扱いには当たらない」とする熊本県解説書案の考え方は、合理的配慮という文脈では、認められると思われます。コミュニケーションの手段として、相手側が手話を使えない以上、障害者と相手側が共に理解できる手話以外の手段(筆談など)を、相手側は合理的配慮として提供するほかないと思われます。 もちろん、ろう者が手話を求めているのであれば、合理的配慮は手話の提供が望ましいです。しかし、合理的配慮として突然手話の提供求められても、相手側が即座に手話を提供することは、現実には、かなり難しいと思われます。その結果、合理的配慮の内容は、障害者自身の要求が反映されないケースが多々生じると思われます。 このような問題を考えますと、障害差別禁止法は、この法律の下で義務を負う主体に対して、手話を含め、障害種別に対応した「事前的改善措置」を講ずることを義務づける必要があると思います。これについては後述します。 合理的配慮は、相手側に過重な負担を課す場合には、提供しなくても良いという点については、広く合意が得られていると思います。また、事柄の性格を根本的(本質的)に変更する場合にも、(これを過重な負担として考えるかどうかは別として)合理的配慮を提供する必要はないと言えます。 英国平等法では、たとえば役務の性格を根本的(本質的)に変更する措置を、役務提供者は講ずる必要はありません。行為準則は、こういう例を挙げています。暗闇での飲食を売りにするレストランは、合理的配慮として、聴覚障害者の来店客に読唇用の明かりを用意する必要はありません。というのも、それが役務の性格を根本的に変更させてしまうからです。 1-4 事前的改善措置 障害差別禁止法の下で義務を負う主体には、合理的配慮だけではなく事前的改善措置も適用されるべきです。この発想は、かつてのDDA(現・英国平等法)に定める「予測型合理的調整」の考え方に基づいています。 もちろん、役務提供者は、事前的改善措置として、すべての多様なニーズに対応した合理的措置を講ずることは不可能でしょう。しかし役務提供者は、予測しうる障害種別に応じた合理的措置と言える内容を、あらかじめ講ずるべきだと言えます。ちなみに、事前的改善措置が、障害者の尊厳や人格を害するようなものである場合は、それは不均等待遇やハラスメントとなりえます。 事前的改善措置とは異なり、合理的配慮は個別的・事後的な性格を持ちます。 すなわち、ある個別具体的な場面において、特定の実質的不利を被った障害者 個人が(個別的)、その不利を除去するために特定の配慮要求を行い、その要求を受けた相手側が(事後的)、その不利を除去するために、現状を変更することが、合理的配慮です。 合理的配慮は、特有のニーズを持った各障害者がその都度相手側に配慮を求めるものです。そのため、合理的配慮だけでは社会全体のバリアフリーはなかなか進みません。また相手側も、何の準備もしていない状況で、突然特定の配慮を求められても、その配慮を提供したくても提供することが困難な場合が生じえます。障害者の要求に応じた配慮を相手側が行いうるためにも、事前的改善措置を相手側に義務づけることが有効となります。また相手側は、そのような事前の措置を講ずることで、中長期的にみて効率よく合理的配慮を提供できるようになっていくでしょう。 たとえば、ある車いす利用者が、スロープの不備ゆえに、銀行やレストランや市役所などを使用できない場合があります。合理的配慮の場合、実質的不利を被った車いす利用者が、特定の要求を行わない限り、相手側にスロープ設置の義務は発生しません。その車いす利用者が、特定の要求を行ってはじめて相手側に合理的配慮をする義務が発生します。 しかし、事前的改善措置の場合は、障害者が特定の配慮要求をしていない段階でも、障害種別を考慮に入れて障害者一般に実質的不利をもたらさないための合理的措置を講ずる義務が、役務提供者に発生します。合理的配慮と事前的改善措置とでは、義務の発生契機が異なるのです。 事前的改善措置の場合、たとえば役務提供者である銀行は、一定の範囲の障害者のニーズを予め予測して、銀行の入店を可能にする措置を事前にとらなければなりません。もし銀行がそうした措置を怠り一定の範囲の障害者に実質的不利をもたらす状況を作り、その結果、ある障害者個人も入店時に実質的不利を受けるのであれば、その人は差別を受けたと主張しえます。ただし、その銀行にとってスロープの設置が過重な負担であれば、違法な差別にはなりません。 事前的改善措置は、障害者一般を対象にアクセシビリティを継続的に改善するために、実施機関による監視・指導などのチェックに服します。それと同時に、事前的改善措置は、たんなる底上げ的措置にとどまらず、個人の救済にも結びつきます。ただし、個人が訴訟を提起できる資格を持つためには、上の銀行の例のように、障害者個人が実質的不利を被っていなければなりません。 2 教育分野の論点について 2-1 義務を負う主体 教育についても、だれが義務を負う主体となるかを明確にする必要があります。公立・私立を問わず、義務教育に限られず、学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校)と学校設置者(国、地方公共団体、学校法人)は、差別禁止法の下で義務を負う対象になるべきであると思われます。 2-2 不利益処遇 障害差別禁止法では、障害者の被っている構造的不利等の現実を出発点として、障害者の権利と相手側の義務とのバランスを適切にとる必要があります。 相手側が、「正当な目的の達成に相応な手段」を証明すれば、違法な差別にはなりません。また相手側が、障害を認知不可能であった場合にも、違法な差別にはなりません。以上の考えについて、英国平等法の行為準則を参照しながら、いくつか例を挙げます。 (例1)ガンをもつ生徒が、社会科見学中に教師の指示に従わなかったことで、処分を受けるケースが考えられます。その生徒は、治療の投薬のせいで、疲れやすく、イライラしていたので、教師の支持に従えませんでした。この場合、その生徒は、障害に起因する事柄を理由に、懲戒処分という実質的不利を被ったことになります(不利益処遇の一応の成立)。教師が、その生徒に障害があることを知らなかった場合、また、その懲戒処分を正当化しえた場合(正当な目的の達成に相応な手段を証明しえた場合)を除いて、その処分は違法な差別となります。 (例2)母親が、ヒルシュスプルング病(重度の腸閉塞・便秘症を伴う疾病)をもつ息子を入学させようとして、学校から断れるケースが考えられます。学校側は、他の子どもはトイレを適切に行えるのに、その息子がトイレを適切に行えないことを、入学拒否の理由に挙げました。障害それ自体を理由とするのではなく、障害に起因する事柄(トイレの問題)を理由として、その息子は入学拒否という実質的不利を受けたと言えます(不利益処遇の一応の成立)。学校側が、入学拒否を正当化しえない限り、その入学拒否は違法な差別となります。 (例3)学校が、年間の高い出席率を残した生徒のみを対象にして、一年に一度の学芸会のメンバーを決定する場合に、低い出席率を残した臨床的鬱病のある生徒が、高い出席率の基準を満たせず、メンバーに選ばれないケースが考えられます。その生徒の欠席の理由の大半が、障害に関係しているものでした。そうであれば、その生徒は、障害を起因とする事柄(欠席)に基づいて、メンバーになる資格を失うという実質的不利を被ったことになります(不利益処遇の一応の成立)。学校側が、高い出席率の基準を用いることを正当化しえない場合には、違法な差別となります。 (例4)自閉症のある生徒が、繰り返し給食時に列を並ぶことを拒否したので、給食の提供を断れたケースが考えられます。その生徒は弁当を持参するように求められ、友達と離れて昼食をとるように言われました。その生徒が列に並ぶことを拒否したのは、自閉症に起因する行為です。その生徒は給食の提供を断られたので、障害に起因する行為(列に並ぶことを拒否すること)を理由に実質的不利を被ったことになります(不利益処遇の一応の成立)。学校側が、それを正当化しえない場合には、違法な差別となります。 2-3 合理的配慮 合理的配慮の具体的内容は、中央教育審議会初等中等教育分科会・特別支援教育の在り方に関する特別委員会・合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告案(学校における「合理的配慮」の観点)の別表なども検討して、「指針」を作成する必要があると思われます。基本的な内容は、条文化すべきであると思われます。 障害差別禁止法に含まれるべきである、教育分野の合理的配慮の特徴(の一部)を以下列挙します。@合理的配慮は、(あ)決め方・やり方の変更、(い)物理的形状の変更、(う)補助手段の提供、に関する合理的措置を講ずることを意味します。A過重な負担を伴う場合に、学校側は合理的配慮を提供する必要はありません。B学校関係活動とは異なる活動(私的な活動)について、学校側は合理的配慮を提供する必要はありません。C学校側は、合理的配慮として、試験の内容等の適性基準を変更する必要はありませんが、試験時間の延長など試験の仕方を変更する必要はあります。ただし、試験時間がその試験の本質的部分を構成する場合は、試験時間を延長する必要はありません。D学校は、障害のある生徒のための特定の合理的配慮の提供が、他の生徒に甚大な問題を与える場合には、それを提供する必要はありません。その場合、学校は、別の合理的配慮を提供する必要があります。E学校は、合理的配慮の費用を負担し、その費用を生徒・親に請求できません。F障害のある生徒と親は、その生徒の障害の存在・性格を内密に扱うことを学校側に要求する権利を有します。 以下、英国平等法の行為準則を参照しながら、いくつか例を挙げます。 (例1)学校は、制服として、あるメーカーのポリエステル製ズボンを着用しなければならないという方針をとっている場合があります。そのズボンが、ある生徒の湿疹を悪化させてしまうので、学校はその方針を変更して、見た目が同じ綿製ズボンの着用をその生徒に認めました。これは合理的配慮です。 (例2)学校は、視覚障害のある生徒に、MP3 プレーヤーにダウンロードできる電子フォーマットを提供しました。これは合理的配慮です。 (例3)学校は、校内で車いすを押す支援者を、障害のある学生に提供しました。これは合理的配慮です。 (例4)学校は、低身長症の生徒が、校内の実験室の机を利用できるように、特別な椅子を提供しました。これは合理的配慮です。 (例5)学校は、手先を動かすのが難しい障害のある生徒に、授業中にノートをとるために電子ノートテーカーを提供しました。そして学校は、それが数時間ごとにバッテリーの充電を必要とするので、その充電をできるようにました。これは合理的配慮です。 (例6)視覚障害のある生徒が、教科書類の点字版を要求し、学校はこれを行いました。これは合理的配慮です。 (例7)生徒が、学校内の活動とは関係のない私的目的のために車いすが必要な場合に、学校は車いすをその生徒に提供する必要はありません。 (例8)法学専攻の学生に対し、学位取得の条件として特定の法分野に関する知識の証明を求めることは「適性基準」です。この「適性基準」を変更する必要はありません。 (例9)高い室温によって湿疹が悪化する障害のある生徒の親が,教室を低温にするように依頼する場合があります。しかしその温度が、他の生徒にとっては低すぎる温度となってしまう場合には、学校はその温度にする必要はありません。その代わりに学校側は、他の学生にとって許容できる程度にまで室温を下げた上で、さらに障害のある学生をなるべく室温の低い場所(窓の近くなど)に移し、制服着用義務をゆるめて、より涼しい服装を許容する必要があります。 (例10)16ポイントのフォントサイズであれば文字を読める視覚障害のある学生が、学校に視覚障害があることを内密にしてほしいと依頼する場合があります。教師は、通常は、視覚障害のある学生に対する合理的配慮として、拡大文字のレジメ・資料を授業時に用意しています。しかし教師は、その学生の依頼に応えて、授業時ではなく授業前に拡大文字のレジメ・資料を学生に渡す必要があります。これは秘密保持を確保した合理的配慮です。 2-4 事前的改善措置 障害差別禁止法の下で、学校と学校設置者は、事前的改善措置を講ずる義務を負うべきです。障害種別を考慮に入れて障害者一般のニーズをあらかじめ充足しておくことは、教育環境のアクセシビリティの底上げのために大変有効です。また、事前的改善措置は、合理的配慮の実効性を高める上でも重要です。しかし、障害種別はきわめて多様で、障害者のニーズもきわめて多様です。そのため、事前的改善措置だけでは対応できない障害者個人のニーズが発生しえます。その場合に、学校は個人の要求に応じた合理的配慮を提供しなければなりません。以下は、英国平等法の行為準則が挙げる例を参考にした例です。 (例)学校は、聴覚障害者の生徒が入学することを予測して、あらかじめ磁気ループを全教室に配備しました。しかし、実際に入学した学生は、磁器ループではコミュニケーションがとれませんでした。その学生は読唇によるコミュニケーションを希望しました。この場合のありうるひとつの合理的配慮は、すべての職員・教員が、その生徒に話しかけるときに顔をそちらに向けることができるように、研修を受けることです。 2-5 教育分野の条文の基本構造案 第三章 教育 第○条 差別禁止事項 学校及び学校設置者は、次に掲げる事項について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。 一 入学、卒業、転学、除籍、退学、復学 二 教育の提供 三 あらゆる役務、設備又は利益 四 処分 五 その他の学校関係事項 第○条 合理的配慮 本章において合理的配慮は、次に掲げる行為を含む。 第○条 過重な負担 本章において過重な負担は、次に掲げる場合をいう。 第○条 事前的改善措置 学校及び学校設置者は、次に掲げる事項について事前的改善措置を講じなければならない。 *「合理的配慮」、「過度な負担」、「事前的改善措置」の内容のうち、基本的な骨格部分を明確にし、条文化する必要があります。