差別禁止部会 第17回(H24.4.27) 委員提出資料 第17回差別禁止部会 共同意見:障害のある女性に関する独立した条項を設ける必要性について 差別禁止部会委員 浅倉むつ子、太田修平、川島聡 <共同意見の趣旨>  この提案は、障害のある女性(以下、障害女性という)の立場で、アンケートや政策提言に取り組んでいる団体の人達とともに検討を重ね、作成したものである。  障害女性は、「障害」と「女性」という二つの特徴が重なることによって、障害男性よりも不利な立場におかれることがある。たとえば、障害女性は性と生殖に関する自己決定に関して、障害男性が経験しない差別を受けることがあり、また機会の平等、社会参加の実現という観点からみても、障害男性よりもいっそう不利な立場におかれることが多い。具体的には、DPI女性障害者ネットワークによる調査結果と見解(資料1)を参照されたい。  にもかかわらず、障害女性が被る差別は、障害差別の文脈では障害男性の影に隠れてしまい、女性差別の文脈では「非障害女性」の影に隠れてしまいがちである。障害女性に対する差別への関心の低さ、そして障害女性に特有のニーズに対する軽視が、障害女性の不利な立場をさらに深刻にさせている。障害女性に対する差別の問題は、女性分野と障害分野の両方で軽視されがちである。  したがって、(下線開始)当部会で障害女性という論点を意識的かつ積極的に取り上げるべきであり、将来の障害差別禁止法の中に、障害女性の独立した条文を設ける必要がある。(下線終了)実際、韓国の障害差別禁止法のように、女性障害者の独立した条文を設けている国があることは(資料2)、そうした条文の必要性を裏付けている。また、第三次男女共同参画社会基本計画(資料3)も、このような問題意識を共有している。  (下線開始)今夏に公表予定の当部会の「骨格提言」の中にも、障害女性の独立した条文を設ける必要性を明記すべきである。(下線終了)そのための議論のたたき台を、以下に提案する。 <たたき台> 第A条 合理的配慮 障害のある女性に対する合理的配慮義務の不履行は、これを障害を理由とする差別とみなす。 二 前項の合理的配慮義務とは、障害のある女性に実質的な不利をもたらさないように、その要求に応じて、現状を変更するための合理的措置を講じなければならないことをいう。ただし、過重な負担及び著しい困難が生じる場合は、この限りでない。 三 前項の合理的措置とは、雇用、公務、教育、役務その他のあらゆる分野において、障害のある女性の身体又は性に関係する必要を充足するための積極的な措置をいう。 第B条 不均等待遇 障害のある女性に対する不均等待遇は、これを障害を理由とする差別とみなす。 二 前項の不均等待遇とは、性別若しくは障害又は性別若しくは障害に関連する事由に基づく行為又は基準が、障害のある女性に実質的な不利をもたらすこという。ただし、その目的が正当であり、かつ、その目的を達成する手段が相応である場合は、この限りでない。 三 前項の行為又は基準とは、雇用、公務、教育、役務その他のあらゆる分野において、障害のある女性の尊厳及び人格、自己決定、社会参加並びに機会平等を害する性的、侮蔑的その他の言動に関するものをいう。 第C条 性と生殖に関する権利 障害者は、性と生殖に関する権利を享受するものとし、避妊、妊娠、出産等について自ら決定する権利を侵害されてはならない。 二 前項に規定する侵害は、障害を理由とする差別とみなす。 三 使用者、学校、役務提供者及び公務機関は、第一項に規定する権利を保障するため、合理的配慮義務を負う。 <たたき台の説明>  第A条と第B条は、総則に置くことを想定しています。第A条は、合理的配慮義務の規定です。第一項は、障害差別禁止法と障害女性とをリンクさせる規定です。第二項は、障害女性の合理的配慮義務が何かを定めます。第三項は、その義務の内容を、例示的に記しています。  第B条は、不均等待遇の規定です。第一項は、障害差別禁止法と障害女性とをリンクさせる規定です。第二項は、不均等待遇の定義です。「障害」と「女性」という二つの特徴が重なることによって生じる差別をカバーしています。また、ここでの不均等待遇の定義は、直接差別と関連差別の両方をカバーする書きぶりです。第三項は不均等待遇の内容を例示的に簡単に記しています。たとえば、尊厳や人格を害する侮辱的・性的等の言動(セクハラなど)を、不均等待遇としています。  第C条は、各則に置くことを想定しています。各論としての「性と生殖に関する権利」に関する規定です。この権利には、性行為や妊娠、出産について自ら決定できることや、障害に応じて適切な避妊方法を選ぶことができることなどが含まれます。これを第一項で例示的に記しています。第二項は、障害差別禁止法と障害女性とをリンクさせる規定です。第三項は、合理的配慮義務を負う主体を例示しています。 <資料1:DPI女性障害者ネットワークの調査結果と見解> 「障害女性の複合差別――中間整理の8つの論点に沿って」(調査の回答から) DPI女性障害者ネットワーク  以下は、「障害のある女性の生きにくさに関する調査」に寄せられた回答の引用です。障害女性の支援の経験を持つ、現場職員から寄せられた声も添えました。・を付けたものが障害女性からの回答、*印を付けたものが職員からの声です。――を付けた文面は、調査のまとめをした私たちDPI女性障害者ネットワークのコメントです(中間整理の8つの論点ごとに、ひとこと書きました)。また、中間整理の8つの論点に含まれていない論点も、最後に添えました。 1「雇用、就労」 ――障害女性の就労への意欲は高く、また自立した生活に必須ですが、そのことが社会的 に理解されていません。“男性が働いて稼ぎ、女性は養われて家事をする”という性別役割分業と、障害者の就労の困難の両方を障害女性は受けています。職場での性的被害も、多くの人が経験しています。 ・ある企業の面接で、「うちは本当なら障害者は要らないんだよ。でも社会的立場上、面接くらいはしないとね。だから期待しないでね。まだ男性で見た目に分からん障害やったらエエねんけどな〜。一応は面接はしてあげたからもう良いでしょ。」と言われた。(30歳代 肢体不自由) ・出産後の職場復帰で正職からパートになり、夫の扶養に入ることを勧められた。半年後、同じ職場の健常女性が出産した時は正職のまま復帰できた。(40歳代 視覚障害) ・勤め先の病院で管理者から、「身体が不自由で子育てが大変だろう」と退職を勧められた。労働組合を通して抗議して就労を続け、増員も実現させた。(50歳代 肢体不自由) ・障害女性だから無理して働く必要ないのでは?と周りに言われた。障害女性は経済的自立を前提とした自己実現が難しい。(30歳代 聴覚障害) ・大学の学生課にくるバイト募集で女性が応募できるものが1、2割程度しかなく、応募しても障害があるために拒否されることがあった。(50歳代 聴覚障害) ・職場は、男性が私から見える位置で用を足したり目の前で平気で着替えたりする、男性中心の差別的な環境だった。子どもがいたので、懸命に働いた。(30歳代 肢体不自由) ・上司の性的暴行に耐え切れず会社のセクハラ相談室に訴えたが、まるでセカンドレイプを受けるようだった。(30歳代 肢体不自由) ・マッサージ師として働く職場で、休憩中、上司と2人きりになると後ろから抱きつかれて胸を触られた。白衣をめくられて下着に触れられた事もある。(40歳代 視覚障害) ・会社で自分の席へ向かう通路を外れて男性社員の席にぶつかった。それを見た上司が「お前、男性のにおいのする方へ近づいていくから、ぶつかるんだよ!」と言った。女性としての自分を汚されたような、自分が薄汚いもののように思えた。(40歳代 視覚障害) ・一人で営業する鍼灸の治療所で、初めて来た男性患者さんが治療室へ入るなり全裸になった。何とか治療をしたが、以後、男性患者が怖い。(50歳代 視覚障害) ・就労をめざしているが、ルートは作業所しかない。近所には病気のことを言えず、親は「女は働けるだけで幸せだ」というが、作業所に合わなくて家に引きこもっている。(40歳代 精神障害) ・整形外科でマッサージ師をしている。忙しいときトイレに行かないよう水分を最低限にしているが、生理の時はそうはいかない。そんなとき主任(男性)からトイレの回数が多いと言われる。決してさぼる為ではないのに。(40歳代 視覚障害) 2「司法手続」 ・交通事故の賠償は、将来の可能性ではなく現在の男女の賃金から算出されるので男女差が大きい。顔の傷の補償額は女性の方が多い。見かけが大事なのか。(20歳代 肢体不自由) ・会社の上司から受けた性的被害の裁判で、上司の最初の行為が性的暴行であると認め慰謝料の支払いを命じた。しかし二度目以降の被害は認めず、会社の責任も認めなかった。(30歳代 肢体不自由) *障害を持つ人が裁判を起こす、あるいは加害者として訴えられる、ということを想定していない。法廷関連の付添い人や補助者の必要性が十分理解されてはおらず、何の取り決めもないため、障害女性のわいせつ被害の裁判でより不利になる。 *聴覚障害を持つカップルのDV事件など、関係者すべてが通訳者も含めて聴覚障害者コミュニティと関わりが深い場合もあり、当事者が信頼できる通訳者を希望して選択できるかが裁判にも強く影響する。また、通訳者の恣意が働く危険性もある。 *知的障害を持つ女性をめぐる性暴力裁判などは、証言の信憑性を疑われて立証不可能とされることもしばしば。はじめに被害を伝えた人の証言や、医療者などの専門証言が信頼されないのは、「たいしたことではない性被害を、大げさに言う」「本当は女性も合意していた」といったような強かん神話によることが多いが、この部分でも、障害について無理解な周囲によって、障害女性がより不利となる。 3「選挙等」 ――私たちの調査では、選挙に関連する回答はありませんでした。しかし、2「司法手続」とも併せて考えますと、障害女性の生活実態が、反映されていないことを感じます。制度、政策を決定する場に、障害女性が参画できることを期待します。 4「公共的施設及び交通施設」 ――障害のない女性でも、単身であるいは一人親としてアパートを借りにくい状況が、地域によっては最近までありました。障害に対する理解の不足から、障害女性にはまだその状況が続いています。 ・子どもの保育所にエレベーターがなく、参観日は危険を伴いながら自力で階段を上るか、 夫にかつがれるのを余儀なくされる。(30歳代 肢体不自由) ・スーパーの身体障害者用トイレが男性用トイレの奥に設けられていた。しかたなく利用したが、今もこんな状況なのかと大変ショックを受けた。(40歳代 肢体不自由) ・離婚して2人の子と暮らす住宅探し、障害者・母子家庭は優先入居の制度がある市営住宅を希望したが入れなかった。健常者の母子家庭が優先入居していたのになぜと相談しても、特別扱いはできないくじを引いてくれとの事。くじ引いたが当たらなかった。民間アパートは、火を出されては困ると何軒も断られ、やっと障害を理解されて入居できたときは、とても嬉しかった。入居後も、温かく見守られた。障害者を一番支援しなくてはならない市が、何もできなかったのは残念だ。(50歳代 視覚障害) 5「情報」 ――情報保障がないことは合理的配慮の不履行だと思いますが、障害女性にとってはさらに別な困難をもたらします。DV防止計画における被害対応の公的窓口も、バリアフリーでないことと同時に、情報保障がないことから、被害を受けた障害女性には閉ざされているのが現状です。 ・妊娠の健診の時、女性手話通訳者がいなくて男性だった。私も抵抗があったが、通訳者本人も困っていた。女性通訳者を増やす必要があるが、全体的にももっと必要。(30歳代 聴覚障害) ・小学生のとき痴漢に遭った。助けを求めるにもコミュニケーションがいる。聴覚障害のため助けを呼べなかった。中学生のとき同じ犯人から再び被害にあった。(20歳代 聴覚障害) 6「教育」 ――教育の場でも、生徒として+障害女性として、弱い立場におかれがちです。教育は就労や自立につながるもの。障害の有る無しだけでなく、性別によって異なる扱いが行われないよう、また立場の弱さを回復する施策を望みます。 ・一般中学校の担任が女性だったから性にまつわる相談をしたのに、対応に難聴学級の男性教諭が出てきた。保健室の先生にも話を真剣にきいてもらえなかった。(30歳代 聴覚障害) ・子供の保育所入所を門前払いされた。子に障害はなく、親の私の障害のためと思われ、区に抗議して入所できた。(30歳代 肢体不自由) ・養護学校では、性別より障害の重さで勉強の内容に区別があった。職業訓練では性別で科目が違い、男子は技術、女子は家庭。自分は、家庭科より技術を勉強したかった。大学進学の話はなかった。(40歳代 肢体不自由) ・養護学校で男子の数が多く、男女別の更衣室があるのに男子が女子の所で着替えをすることがあった。体育は当時ブルマーで下着が見えて、生理の時恥ずかしかった。女性だったら自分の体を知るべきだ。学校で男女別の性教育はあったが不十分。しっかり教えてもらいたい。(30歳代 知的障害) ・養護学校の中学時代、発育測定で担任の独身の男性教員が体重・身長の測定をした。私は胸が膨らみ始めて、ノーブラだったので大変恥ずかしい思いをした。(40歳代 肢体不自由) ・盲学校中学の修学旅行で、男女合わせて10人ぐらいが広い部屋に、男女の間にさかいもなく宿泊させられた。寝た気がせず、嫌な思い出だ。今は改善されたが、私の在学中は更衣室がなく男女とも着替えは教室。中高時代にはとても嫌だった。(60歳代 視覚障害) ・養護学校で、知的障害の同級生のトイレ介助を独身の男性教諭がしていた。見ているだけでも不愉快だった。(40歳代 肢体不自由) 7「商品、役務、不動産」 ――役務として、介助を受ける立場からの問題をあげました。異性介助の問題は、女性が男性から介助される場合に、より深刻です。 ――「役務」を広くとらえるなら、伝統的、社会的に女性の役割と見なされてきた家事や育児などができない、または手助けを必要とする場合、それを“欠如”と見るのではなく、他の人に仕事として託せることを可能にする社会的サービスの必要も、言えるでしょう。 ・施設で入浴の際、男性職員に体を洗われた。(70歳代 肢体不自由) ・以前は、姉妹二人分の公的介助を使っても、介助者がいない時間が1日に2時間あった。 その間に呼吸器が外れたら命に危険があり、時間を増やすよう市に交渉したが「お母さんに来てもらったら」と言われた。その後も交渉して今は一人に12時間ずつ、合わせて24時間カバーできるようになった。(50歳代 難病) ・家族と暮らしていた子どもの頃、私の介助を日常的に父親がしていた。高校生の頃から、 自立生活センターの存在や「同性介助」の理念を理解し、早くひとり暮ししたかった。自立生活後も実家へ戻れば介助は父親なので、戻らないようにした。(20歳代 肢体不自由) ・中学生の頃にいた施設で、生理時の入浴を希望しても断られ、保護者から要望したら聞き入れられた。だが、下着をつけたままのシャワー浴だった。(20歳代 肢体不自由) ・施設で障害女性の入浴介助を、当然のように男性職員が行っていた。(20歳代 肢体不自由) ・ヘルパーさんを入れて生活している。最近その時間を減らされ、私の仕事が増えた。来る時間も早めの午後で夕食の支度に早すぎ、ゆでた素麺がのびるなど不便がある。料理の手助けがもっと欲しいが、ヘルパーさんから「女なんだから、貴女がしなさい」と言われる。夫にはそんなことは言われない。(50歳代 知的障害) ・通所授産施設に通う送迎バスで、「乗り降りは自分で出来ます」と断っているのに、男性スタッフが毎日身体に触って介助を行った。(40歳代 精神・知的障害) ・施設で男性職員に胸を触られた。(70歳代 肢体不自由) ・ガイド中の駅員から、両脇に腕を差し込んで抱き上げられるなど、不快かつ危険な行為をされた。(50歳代 視覚障害) 8「医療」 ――医療においても、異性介助、看護の問題で多くの訴えがありました。障害の有無にかかわらず患者側の立場が弱くなりがちな医療の場で、医療者は障害と障害女性に対する、正しい情報と理解をもってもらいたいと思います。 ・かつて国立病院に入院中、女性の風呂とトイレの介助、生理パッドの取り替えを男性が行っていた。女性患者は皆いやがって同性介助を求めたが、体力的に女性では無理だといわれた。トイレの時間も決まっていて、それ以外は行かれない。トイレを仕切るカーテンも開けたままで、廊下から見えた。今も同様だと聞く。(50歳代 難病) ・施設では女性職員が介助をするが、病院では異性介助が行われ半ば規則化している。女性のトイレ介助も男性がする。物として扱われているようでとても嫌だが、次第に麻痺してしまう自分が辛い。女性看護師の負担と男性職員の増加が、異性介助の理由とされた。患者自治会のある病棟では異性介助をくい止めている。(50歳代 難病) ・妊娠中の検診で、内診台のカーテンを閉めてもらえなかった。閉めて欲しいと告げると、 「見えないんだからいいじゃないの?」と言われ、激怒した。(30歳代 視覚障害) ・病院で乳がん検診触診の際、男性医師が「子供をつくらなかったの?できなかったの?」と聞いた。問診としても不愉快な言葉だ。子宮がん検診では「検査後出血があるかも知れないのでご主人に確認してもらいなさい」と。「確認しなさい」だけで良いのに。(40歳代 視覚障害) ・入院中、男性患者からセクハラを受けた。看護師に訴えたが、「忙しいから」と取り合ってくれなかった。(20歳代 精神障害) ・歯科で治療中、手も悪いの?と手を握られた。(60歳代 肢体不自由) ・胃の検査で姿勢の説明を受ける時、男性の医師が身体にさわりながら指導したので抵抗を感じた。分かりやすくと考えたのだろうが、手振りか紙に書いて欲しい。(30歳代 聴覚障害) ・最初にかかった精神科で主治医に、「女性で良かったね。障害者になっても家族や配偶者に養ってもらえる」と言われた。女は働かない、家族が面倒を見るという考えは許せない。(20歳代 精神障害) ・視覚障害とくに全盲の人は、料理もできないと誤解する人が多い。人間ドックの食事に関する問診で「できるの?どうやって?」などと聞かれる。(40歳代 視覚障害) ・私の夫は深刻なハウスダストアレルギー。主治医は私がうつ病で家事が辛いと知っているのに、掃除をするようにと私に言う。(50歳代 精神障害) ・てんかん専門病院に入院中、風呂場で痙攣を起こした。自分に記憶はなく気づいたらタオル一枚ない全身裸で病室のベッドに居た。男性看護師2人が運んだらしい。(40歳代 精神障害 知的障害) ・インスリンの注射は、しなければ生命の危険が有るのに[自己注射]に理解がない。また、 T型糖尿病の遺伝はごくまれなことが理解されない。妊娠・出産も例が少ないせいか、医師ですら知識が乏しい。医療のQOLは高くなって来たが、人の意識は早々には変化しないのか。(40歳代 難病) ・15歳のころ、家出をして働きながら治療を続けたが、小児慢性疾患医療費助成の手続きができるまで医療費を自己負担できず、給料日まで注射を減らして高血糖昏睡で死にかけた。(40歳代 難病) ・骨折で入院したとき、視覚障害ということで、ナースセンター横の病室に入れられた。見舞の友人からもう一人の患者は70代の男性と聞き、驚いた。必要があってだろうが、60歳を越えても私も女性。男性患者と同室はいやだ。(60歳代 視覚障害 精神障害) ・生理痛で婦人科を受診した時、診察台に座らされ「こんな状態でどうやって行為(SEX)をするの?できるの?」と言われ、怒りを感じた。(30歳代 肢体不自由) ・初めてのお産で病院の助産師が、座薬を入れた私をトイレに引っ張って行き「鍵は締めないでね!」と言って去って行った。誰もいなくても個室を開け放しにはできず、陣痛に耐えながら扉を閉め鍵をかけて用を足した。(50歳代 視覚障害) ・義足の技術者はほとんどが男性。作るとき、男性技術者の側にも遠慮があり必要な相談をしにくい。身体介助と同様、同性の技術者あるいは同席者が必要だ。(20歳代 肢体不自由) ※「性と生殖」 ――8つの論点にはありませんが、障害女性に「性と生殖の健康/権利」を保障することは、たいへん重要です。 ――性と生殖にかかわる教育・情報が、全ての年代の障害女性に対して保障されること。いつ何人子どもをもつかもたないか、障害女性本人が選択できること。子どもをもたない選択をする人に、障害に応じて使うことができる避妊の方法が開発され、提供されること。障害女性の妊娠、出産について、医療の場においても社会においても、充分な理解と支援があること。出産に続く育児でも、それが女性の役割として固定されることなく、父となる男性の参加、子育てに対する介助などの充実が必要です。 ・生理が始まった中学生のころ、母親から「生理はなくてもいいんじゃないの」と言われた。子宮を取るという意味だった。子どもを産めない結婚できないと思い同意しなかったが、言われただけで嫌だった。自分より年上の人にはよくあったことらしい。(40歳代 肢体不自由) ・子どもの頃、母が主治医から「子どもは産めない。妊娠したら流産させる」と指導された。産んだ女性がいると後で知った。十代で別な医師に私が子どもを産めるかを聞くと「子どもねー」とだけ言われ、私は妊娠もできないのだと未来が描けなくなった。(40歳代 難病) ・十歳代だった1963年頃優生手術(不妊手術)を受けさせられ、生理時の激痛やだるさなど不調が出た。20歳の頃結婚したが離婚。再婚の夫も家を出た。原因は私が子どもを産めないから。(60歳代 精神障害) ・子宮筋腫がわかったとき、ドクターは子宮を取れば治ると言った。私が「赤ちゃんが産みたい」というと「えっ!!」と驚かれ、それを聞いて私は大泣きした。女である自分を否定された気がした。両親にも同じ反応をされたらと怖くて、言えなかった。(40歳代 肢体不自由) ・私は遺伝性難聴。難聴の子は生まれてほしくないと言っていた夫は、話し合って今は理解してくれるが、障害児が生まれたら女性に責任が問われるような気がする。(30歳代 聴覚障害) ・妊娠した時、障害児を産むのではないか?子供を育てられるのか?といった理由で、医者と母親から堕胎を進められた。(40歳代 視覚障害) ・高齢出産だからと出生前診断を勧められた。自分も障害者なのに障害児を産まないように勧められるのは、自分の存在も否定されたような気がする。(40歳代 視覚障害) ※「その他」 ・児童扶養手当で、夫が重度障害で妻が健常の場合「母子家庭に準ずる」として、妻の年収により手当が受けられた。最近、妻が重度障害者で夫が健常者の場合も「父子家庭に準ずる」として手当が受けられるようになった。これはよいと思うが、今の日本社会では多くの場合男性の賃金の方が高く、そのため手当が受けられない場合が多い。夫婦の収入の合計が同じでも「母子家庭に準ずる」と受給できて「父子家庭に準ずる」と受けられない。本人の収入ではなく、配偶者の収入で受給が判断されるのはおかしい。(40歳代 視覚障害) ・大震災に遭い避難した先の旅館で人手が足りなくなり、避難している人も食事を配るなどするようになったが、自分は具合が悪くて手伝いができず、非難された。(40歳代 難病) ・母子自立支援施設に居たとき、私の白杖で他人の子がけがをする事故があった。私は施設を退所するまでの1年間、職員から白杖を取り上げられた。(50歳代 盲ろう) ・子どもはいない。自分の生活にも不足な介助を受けての子育てに不安があった。子どもへの介助があれば、もてたかも知れない。(40歳代 肢体不自由) ・人として当たり前の暮らしを送りたいだけなのに、障害があるせいでなかなかうまくいかない。障害そのものよりも、社会の偏見がひどいと常に感じる。(20歳代 精神障害) ・福祉の職員は若い男性が多く、女性としての悩み――とくに、生理にかかわる症状は話せない。職員がしばしば入れ替わり、そのたびに病気の説明をしなければならない。(40歳代 難病) *配偶者暴力相談支援センターは、施設のバリアフリー化の不備、介助の職員の不在を理由に、保護を断っているのが現状。あるいは他法、他施策でと、障害福祉課などの相談を勧められ、DV防止法の保護の対象者としての支援に結びつかないことが多い。民間シェルターでの障害女性の支援は、支援のノウハウを持っている場合のみ、限定的に受け入れられている。障害特性などにより、支援の方法が様々で、保護した後の生活の場や支援者の確保が困難である。DVから逃れる機会が制限されている。 ――以上に加え、次のことが言えます。 *経済的自立の困難は、障害女性にとっては貧困の問題にとどまらず、性的被害など他の問題に結びつきます。教育をとおして障害女性の自己評価を高め、就業率を高め、経済と生活の自立を可能にすることが必要です。 *家事や子育ても、男女が分かち合うものであるはずですが、女性の仕事と見なされてきたために、その分野の社会的サービスが不足すると、障害女性の負担が増えます。そのために、結婚や子どもをもつことを諦めるなど、家族を形成する権利が脅かされ、また、健康が脅かされます。 *障害女性の困難は、障害者差別と性差別が複合していることが明らかで、これを差別と認識し、対処する施策を求めます。 *そのために、以下のことが必要と考えます。 ・障害者について行う調査は、性の違いによる格差に着目して、性別の集計を行う。 ・法、制度、施策の決定過程に、障害女性当事者が参画する。 ・差別を受けたとき、訴えられる窓口の充実。とくに性的被害については、公的な窓口で全ての障害に対して、また成人に限らず子どもにも対応するサービスが必要。性的被害の被害者にならないために、性と身体を知り、自分の意志を表明できる教育と情報の提供。 <資料2:韓国障害差別禁止法第33条、第34条(崔栄繁仮訳2008年4月22日版)> 第33条(障害女性に対する差別禁止) 1) 国家及び地方自治体は、障害をもつ女性であることを理由にすべての生活領域で差別をしてはならない。 2) 何人も、障害女性に対し、妊娠・出産・養育・家事等において、障害を理由にその役割を強制又は剥奪してはならない。 3) 使用者は、男性労働者又は障害者ではない女性労働者に比べ、障害女性労働者を不利に遇してはならず、職場保育サービスの利用等において、次の各号の正当な便宜供与を拒否してはならない。  障害の種別及び程度に伴う円滑な授乳支援  子女の状態を確認することができるような疎通方法の支援  その他に、職場保育サービスの利用等において必要な事項 4) 教育機関、事業所、福祉施設等の性暴力予防教育責任者は、性暴力予防教育を実施するに当たり、障害女性に対する性認識及び性暴力予防に関する内容を含めなければならず、その内容が障害女性を歪曲してはならない。 5) 教育機関及び職業訓練を主管する機関は、障害女性に対し、次の各号の差別をしてはならない。但し、次の各号の行為が障害女性の特性を考慮し適切な教育及び訓練を提供することを目的にすることが明白な場合にはこれを差別とはみなさない。  学習活動の機会制限及び活動の内容を区分する場合  就職教育及び進路選択の範囲等を制限する場合  教育と関連する計画及び情報提供の範囲を制限する場合  その他に教育において正当な事由無しに障害女性を不利に遇する場合 6) 第3項を適用するに当たり、その適用対象の事業所の段階的範囲と第3項第3号のそのほかに必要な事項の具体的内容等は大統領令で定める。 第34条(障害女性に対する差別禁止のための国家および地方自治体の義務) 1) 国家及び地方自治体は、障害女性に対する差別要因が除去されることができるよう、認識改善及び支援策等の政策及び制度を準備する等、積極的措置を講じなければならず、統計及び調査研究等においても障害女性を考慮しなければならない。 2) 国家及び地方自治体は、政策の決定と執行過程において、障害女性であることを理由に参加の機会を制限したり排除してはならない。 <資料3 第三次男女共同参画社会基本計画(抜粋)> 第8分野 高齢者、障害者、外国人等が安心して暮らせる環境の整備 1 高齢者が安心して暮らせる環境の整備 (略) 2 障害者が安心して暮らせる環境の整備 (略) 3 外国人が安心して暮らせる環境の整備 (略) 4 女性であることで複合的に困難な状況に置かれている人々等への対応 ○施策の基本的方向  人々が安心して暮らせる環境の整備を進めるためには、障害があること、日本で働き生活する外国人であること、アイヌの人々であること、同和問題等に加え、女性であることで更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する必要がある。また、男女を問わず性的指向を理由として困難な状況に置かれている場合や性同一性障害などを有する人々に対し、人権尊重の観点からの配慮が必要である。このため、人権教育・啓発等を進める。 ○具体的施策 ・女性であることで更に複合的に困難な状況に置かれている場合や男女を問わず性的指向を理由として困難な状況に置かれている場合などについて、可能なものについては実態の把握に努め、人権教育・啓発や人権侵害の被害者の救済を進める。その他、女性であることで複合的に困難な状況に置かれている人々等について、男女共同参画の視点に立って、必要な取組を進める。 (以下略) 第10分野 生涯を通じた女性の健康支援 <基本的考え方>  男女が互いの身体的性差を十分に理解し合い、人権を尊重しつつ、相手に対する思いやりをもって生きていくことは、男女共同参画社会の形成に当たっての前提と言える。心身およびその健康について正確な知識・情報を入手することは、主体的に行動し、健康を享受できるようにしていくために必要である。特に、女性は妊娠や出産をする可能性もあるなど、生涯を通じて男女は異なる健康上の問題に直面することに男女とも留意する必要があり、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要である。  こうした観点から、子どもを産む・産まないに関わらず、また、年齢に関わらず、全ての女性の生涯を通じた健康のための総合的な政策展開を推進するとともに、男女の性差に応じた健康を支援するための総合的な取組を推進する。 1 生涯を通じた男女の健康の保持増進 (略) 2 妊娠・出産等に関する健康支援 (略) 3 健康をおびやかす問題についての対策の推進 (略) 4 性差に応じた健康支援の推進 (略) 5 医療分野における女性の参画の拡大 (略) 6 生涯にわたるスポーツ活動の推進 (略)